社会的貧困と死亡率との関連は100年経っても変わっていない

提供元:ケアネット

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公開日:2009/10/09

 



英国ランカスター大学人文社会科学学部のIan N Gregory氏は、イギリスおよびウェールズの中で、社会的に貧困状態にある人々に焦点をあてた死亡率の、20世紀初頭と21世紀初頭における変化を調査した。イギリスおよびウェールズは、20世紀において死亡率パターンに劇的な改善が見られた。乳幼児死亡率が激減し、男女とも寿命は30歳以上延び、死因についてもかつては約2割を感染症や寄生虫症が占めていたが、現在は替わって、がん・虚血性心疾患・脳卒中が主因を占める。一方でこの1世紀の間に、貧困は一部地域(行政区)に住まう人々だけのものとなった。そうした人々に焦点をあてた死亡率の変化を見たような国家的研究はほとんどないという。BMJ誌2009年9月19日号(オンライン版2009年9月10日号)より。

1世紀の間に、貧困が死亡率に与える影響は変化したのかを調査




同様の研究として、ロンドンを対象とした1890年代と1990年代との死亡率を比較した調査があり、一部エリアの結果で貧困状態と死亡率との関連を示す報告があるという。

今回のGregory氏の調査も、貧困状態と死亡率との地域的関連を調べることを目的に行われた。1世紀の間に、その関連の度合いが強まったのか弱まったのか、前世紀と現在の、死亡率と貧困状態とを行政区単位で、国勢調査のデータをもとに調べ検討した。

貧困は、現代の死因にも主要な影響を与えている




各地区の貧困度合いは、Carstairs scoresによって割り出された。1900年代と2001年の貧困指数と死亡率のデータが揃ったのは、614の行政区分だった。

分析の結果、20世紀初頭と終わりでは、貧困状態と死亡率との関連の強さに有意な変化があったことが証明された。前世紀に貧困状態および死亡率が最も高かったのはロンドン中心部、南ウェールズなど工業都市だった。一方で、国全体としては豊かではなく貧困状態だったが、イギリス南東部を中心とする地方で死亡率が低い傾向が見て取れた。

そして貧困状態と死亡率のパターンは、現代においても1世紀前のパターンと変わっていなかった。現代における社会的貧困要因で補正後も、死亡率と死亡要因との関連は1900年代の標準的な死亡率パターンと有意に変わらなかった。工業都市での死亡率は高く、一方で大きく変わっていたのは高い死亡率を有する農村部が見られるようになったこと、イギリス南東部地方に見られた死亡率が低い傾向は見られなくなっていた。

Gregory氏は、「医療、公衆衛生、社会・経済・政治的な変化にもかかわらず、貧困状態と死亡率との関連は、世紀が変わっても根強く残ったままである。そして貧困がなお現代の死因の主要な要因を占めていることを示している」と結論している。