遺伝性血管性浮腫の疾患認知はまだ不十分/CSLベーリング

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2026/06/15

 

 CSLベーリングは、5月16日の「HAE Day」によせて都内でメディアセミナーを開催した。

 遺伝性血管性浮腫(HAE)は、生まれつき血液中にあるタンパク質C1インヒビター(C1-INH)の不足・機能低下が原因で浮腫を生じる疾患。指定難病に認定され、皮膚や腹部(腸)など、全身に浮腫が生じ、とくに咽喉で腫れると呼吸困難に陥り、命に関わるケースもある。わが国には、診断・治療中の患者は430人前後であり、未診療の患者も相当数がいると推定されている。また、海外のデータでは、人口5万人に1人の割合で患者がいるとされる。なお、同社ではHAEの急性発作の発症抑制薬として、ヒト抗活性化第XII因子モノクローナル抗体製剤ガラダシマブ(商品名:アナエブリ)を発売している。

 セミナーでは、専門医によるHAEの病態、診療の現状や医療者と患者のコミュニケーションの在り方、患者・患者家族からの声として社会生活上の課題、患者会の活動などが講演された。

HAEと診断されても続く患者の苦しみ

 「医療者の視点から見た『HAE Dayの意義』と『HAEの現状』」をテーマに秀 道広氏(広島市立病院機構 理事長/広島大学名誉教授)がHAEの病態と診療の概要、患者が抱える課題について講演を行った。

 HAEは限局性に浮腫が突然現れ、一定時間(数時間~数日)後に跡形もなく消失する疾患である。似た病態に蕁麻疹があるが、蕁麻疹は皮膚の表層で起こるのに対し、HAEでは血管が拡張することから皮膚の深部で起こる。一見すると鑑別が難しいが、HAEでは蕁麻疹治療薬が無効なケースがほとんどであるために鑑別診断の一助となる。浮腫は、皮膚、粘膜のさまざまな部位に出現し、部位、時間などの規則性はない(ただ夜間、早朝に多いとされている)。皮膚症状のほかには頭痛や倦怠感、悪心・嘔吐、腹痛などの消化器症状、咽喉の浮腫による呼吸困難など生命の危険もある。また、直接的な誘因は不明であり、時間経過とともに自然消失する。

 HAEの発症はC1-INH(タンパク分解酵素阻害因子)が欠損することで起こり、確定診断ではC1-INHの活性測定、C4の測定などが行われる。しかし、症状が多様な粘膜症状であり、自然消失する疾患のため医師でも見逃しやすく、誤診しやすい疾患である。また、患者自身も診療を放置しているケースもあり、診療への障壁が高いという。そのためにHAEの診断率は20%(欧米では70%)、医師の認知率は45%であり、確定診断までの期間も平均16年と言われている1)

 HAEの治療では、このC1-INHを補う治療薬での治療が主体となり、発作治療(発作出現後)、短期発作抑制治療(発作リスク前)、長期発作抑制治療(継続的)が行われている。しかし、すべての治療薬が保険適用というわけではない。また、HAE発作ではC1-INH以外の分子によるブラジキニン誘導や修飾もあり、どの治療薬の効果が高いのかは病型・病態により異なる。同時に治療薬への反応性も患者ごとに時期により変化するため、個々の治療計画の立案、調整が必要となる。

 秀氏は自験例として33歳・女性の患者を提示。HAE患者では、確定診断後もいつ起こるかわからない発作への不安や頻繁な発作、緊急受診で仕事など社会生活に支障があること、また、専門医療機関以外での診療フォローでも課題があると指摘する。

 現在、HAEの治療目標とコンセンサスステートメントがいくつか公表され、そのいずれにも「患者の生活の健全化」や「疾病負荷のない日常生活」と文言が記載されている。診療もこれらを目指し、「医師・医療者も臨床知見の積み上げやデータの蓄積、患者は日常生活での注意点の確認などを双方で情報交換することが重要」と秀氏は提言する。そのために、現在、医師や患者会、製薬企業も加えたコンソーシアムの設立や研究的な組織を立ち上げて活動しているという。

 最後に秀氏は「HAEは、診断が始まってからが大切であり、5月16日の全国のライトアップなど大きな取り組みを含めて社会に啓発することで、疾患の理解が進むことを望む」と期待を語り、講演を終えた。

医療者と患者がお互いの視点をすり合わせる対話の重要性

 「医療社会学者の視点から見た『社会生活における医療者を含めた関係者と患者さんのコミュニケーションの課題とあり方』」をテーマに松繁 卓哉氏(追手門学院大学社会学部 教授)が、医師と患者の対話の重要性や不安の言語化の大切さなどを講演した。松繁氏は、主に医療におけるコミュニケーションを研究し、医療社会学の視点から講演を進めた。

 医療社会学における「患者の仕事」は、「病と向き合う仕事」「日常生活の仕事」「自分史の仕事」の3つがあり、これらの仕事は医療者にあまり理解されてこなかったという。

 患者は、病により「生きづらさ」や「不安」を抱えているが、これらは容易に言語化することが難しく、医療者や周囲に伝えることができなかった。そこで、「問題解決型」と「対話」でのアプローチが重要となる。

 「問題解決型アプローチ」は、患者の問題を特定し、解決へ導く、科学的根拠に基づいた医療の提供によるアプローチである。「対話アプローチ」は、対話そのものが目的であり、一定の結論を導き出すものではない。対話を持続することで多様な声に耳を傾け続けることを目指すものである。患者は対話で語ることで、不安感などの内面の感情などが整理され、医療者と内面の感情を共有することができる。

 患者と医療従事者の対話では、着眼点が異なる。医療者は「治癒」「寛解」などに着眼するのに対し、患者は「日々の生活」「仕事」などに着眼する。両者の視点にはずれが生じているため、このずれを融合させるため、対話を行う際に患者は4つのプロセスが必要と松繁氏は提言する。
(1)心に余裕のある状態で臨む
(2)そのうえで医師の説明を聞く
(3)自分が理解したかどうかを確かめる
(4)ちゃんと迷って、決断する

 最後に松繁氏は、「自己理解とコミュニケーションは、言語化してみることから」と述べ、患者への勧めとして「『わからないこと』『不安なこと』『知りたいこと』『したくないこと』をメモにして、医療者と対話してみることを提案する」とまとめ、講演を終えた。

疾患啓発活動で疾患の認知を拡大

 「当事者と家族の視点:日々の現状、課題と解決策」をテーマにHAE患者会の代表である松山 真樹子氏(NPO法人HAEJ 理事長)が、自身の経験と患者の状況、患者会の活動を講演した。松山氏自身は、夫をHAEの急性発作による気道閉塞で亡くし、また、子供も同じ疾患だという。

 先の講演でもあったようにHAEは確定診断まで時間がかかり、最悪の場合、誤診され不要な手術を受けるケースもあるという。患者会に参加することで、患者や患者家族の孤独感の解消や治療改善への寄与などのメリットがある。患者会の主な活動としては、疾患について社会や医療者への認知拡大に向けた活動、診療率向上に向けた取り組み、国際連携などの活動が行われている。

 近年は治療環境が変化し、HAE発作への予防的な治療薬も自宅で投与できるようになり、患者の治療環境が変わる一方で、現在も患者や疾患への偏見などが存在するという。また、疾患への正確な知識の欠如、確定診断までの時間、多面的な疾患情報提供などの課題もあり、今後の対応が急がれている。こうした課題の中で「製薬企業の資材である疾患のハンドブックなどは有用であり、医師とのコミュニケーション不足や診療での地域差解消、正確な疾患知識の啓発に利用できるものとして活用していきたい」と語る。

 最後に松山氏は「患者がポジティブな気持ちを持ってしっかりと病気を受け入れ、病気は自分の個性だというふうに思えるように活動していきたい」と抱負を述べ、講演を終えた。

 まとめとして同社代表取締役社長の吉田 いづみ氏が「CSLベーリングの取り組み」をテーマに今後の展望を説明した。同社は45年以上HAEに取り組み、ハンドブックなどの作成で疾患啓発と患者の診療利便性向上に貢献してきた。「今後も『HAE Day』などで疾患啓発を社会に行うとともに、患者さんの声や思いを届ける活動を実施することで、孤独な患者さん、ご家族、医療関係者をつなぎ、希少疾患を巡る環境改善に貢献していきたい」と抱負を語った。

(ケアネット 稲川 進)

参考文献・参考サイトはこちら