2025年10月10~12日に第87回日本血液学会学術集会が兵庫県にて開催された。10月10日、植田 康敬氏(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学)、小原 直氏(筑波大学 血液内科)を座長に、シンポジウム3「血液学における補体系の探求:生物学的洞察と新たな治療の展望」が行われた。登壇者は、井上 徳光氏(和歌山県立医科大学 分子遺伝学講座)、Dimitrios Mastellos氏(ギリシャ・Division of Biodiagnostic Sciences and Technologies, INRASTES National Center for Scientific Research "Demokritos")、Christoph Schmidt氏(ドイツ・University of Ulm Medical Center)、宮田 敏行氏(国立循環器病研究センター 脳血管内科)。
さまざまな血液疾患における補体マーカーの可能性
最初の発表で、井上氏は「補体マーカーを開発することで、さまざまな血液疾患に対する補体阻害薬の適切な使用が可能になるのではないか」と述べた。
補体系は、病原体や宿主の老廃物の除去を担う重要な自然免疫系の1つであり、3つの経路(古典経路、レクチン経路、代替経路)により活性化されることが知られている。古典経路とレクチン経路は、それぞれ免疫複合体と異常な糖鎖構造を認識することで活性化される。一方、代替経路は、低い活性化レベルを維持し、古典経路とレクチン経路により活性化された作用を増幅する働きを有している。補体系の不適切な過剰活性化は、補体経路のさまざまな段階で、液相および膜結合型の調節タンパク質によって制御されており、これらの調節タンパク質の遺伝的または後天的な機能不全が制御不能な補体活性化につながり、組織損傷や炎症を引き起こす可能性があるといわれている。
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、寒冷凝集素症などの補体介在性血液疾患は、それぞれ異なる分子メカニズムにより溶血性貧血や血栓症を引き起こすことが知られている。aHUSは補体介在性血栓性微小血管症(TMA)であるが、他の二次性TMAとの鑑別が困難なケースもある。そのため、補体活性化の程度や経路を正確かつ迅速に判定できる補体マーカーの開発はきわめて重要であると考えられる。井上氏らは、二次性TMAの1つである移植関連TMAにおいて、補体活性マーカーBaが優れた予測マーカーである可能性を報告した。
補体標的療法の拡大における今後の課題
これまで補体は、侵入病原体に対する宿主防御と、アポトーシス細胞の残骸除去による組織恒常性維持という2つのメカニズムを担う、自然免疫の重要な体液性エフェクターであると考えられてきた。しかし近年、補体には自然免疫で知られていた従来の役割を超える機能があることを示唆するエビデンスが増えている。
補体は、細胞内外のさまざまなパターン認識システムやシグナル伝達経路により制御され、これらが相互作用することで自然免疫や獲得免疫を調整している。しかし、このように厳密な恒常性維持制御が働いているにもかかわらず、補体の活性化が制御不全に陥ると、組織損傷や宿主炎症の一因となることがあり、注意が必要である。
近年、補体のエフェクター機能への関心が再び高まっている。補体エフェクターは、疾患や病態に広く影響を及ぼすことから、補体標的療法の臨床応用が進められてきた。その結果、補体特異的薬剤の承認件数はさまざまな適応症で増加しており、今後さらに拡大していくことが期待されている。
しかし、補体標的療法の拡大にはいくつかの課題が残されている。今後の課題として、Mastellos氏は「個別化医療へのアプローチ」「薬物投与経路の最適化」「治療アルゴリズムに反映できる、信頼性の高いPK/PDモニタリング」「介入期間」「中枢神経系疾患に対応したBBB透過性治療法」などを挙げ、講演を締めくくった。
PNH治療における近位補体阻害薬への期待
補体標的療法は、2007年にC5阻害薬がPNH治療薬として承認されたことで幕を開けた。それ以来、11の疾患に対して12種類の補体阻害薬が承認されている。C5阻害薬は、PNHにおける血栓性合併症を抑制し、平均余命の改善を示した。しかし、aHUSとは異なり、PNH患者の中にはC5阻害薬による十分な治療を行っているにもかかわらずPNH症状が持続する場合がある。また、ブレイクスルー溶血や血管外溶血は、完全奏効が得られない要因の1つとなっており、依然としてPNH治療における重要な課題となっていた。
近年のメカニズム研究により、C5阻害薬での治療における予期せぬブレイクスルー溶血の要因となる補体経路が特定され、その対処方法も明らかになってきた。その結果、近位補体を標的とした薬剤開発が加速し、現在では、近位補体阻害薬であるペグセタコプランなどのC3阻害薬や補体B因子阻害薬、C5阻害薬と補体D因子阻害薬の併用療法によってブレイクスルー溶血の一部は改善可能となった。
最後にSchmidt氏は「これからのPNH治療の精度向上を目指すためにも、臨床医はPNH治療における補体の役割および新たな近位補体阻害薬についてより深く理解することが重要である」と述べた。
補体活性化、4つ目の新たな活性化経路
補体系は自然免疫の重要な構成要素であり、主に3つの経路が知られている。最近、新たに報告された4つ目の補体活性化経路について、宮田氏が解説を行った。
主な活性化経路は次のとおりである。
・グランザイムKがC4とC2を切断し、C3コンバターゼC4b2bを生成する。
・このC3コンバターゼは、C3をC3bに切断し、C5コンバターゼを形成する。
・最終的に、アナフィラトキシンC3aとC5a、オプソニンC3b/iC3b、膜侵襲複合体(MAC)C5b-9を生成する。
また、補体活性化が凝固に及ぼす影響の違いについても解説を行った。
・C3aは、C3a受容体を介して血小板を活性化する。
・C5aは、組織因子の発現と白血球上のホスファチジルセリンを誘導し、凝固を促進する。
・MAC、C5b-9は、細胞内Ca
2+を増加させる膜貫通孔を形成する。これにより、Ca
2+が流入し、TMEM16リン脂質スクランブラーゼが活性化され、血小板および内皮細胞上の陰イオン性ホスファチジルセリンを細胞外に露出させる。ホスファチジルセリンの露出により、さらに凝固カスケードやフィブリン沈着を促進する。
これら補体活性化のさまざまな経路や凝固反応メカニズムの違いを理解することは、補体介在性血液疾患の治療や補体標的薬の選択に役立つと考えられる。
(ケアネット)