日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、9月17日に定例記者会見を開催した。会見では2025年6~7月にかけ会員に行われた「診療所の緊急経営調査の結果」について、常任理事の城守 国斗氏(医療法人三幸会 理事長)が、調査結果の概要を報告した。
医療法人の4割が赤字
【調査概要】
目的:令和5(2023)年度と6(2024)年度の2年分の診療所の経営実態を早急に把握し、今後の議論に備える
調査対象:日医A1会員の診療所管理者(院長)7万1,986施設
調査時期:令和7(2025)年6月2日~7月14日
調査手法:Web調査と郵送調査の併用
調査内容:令和5・6年度の2年度分の収支、課題など
回収数:1万3,535施設(回収率18.8%)のうち収支部分が有効な回答は1万1,103施設(うち医療法人6,761、個人立4,180)
【主な結果】
1)利益率の推移
(1)医療法人
・医業利益率は6.7%から3.2%へ悪化
・経常利益率は8.2%から4.2%へ悪化
・令和6年度の医業利益は45%が赤字、経常利益は39%が赤字
(2)個人立
・医業利益率は30.8%から26.4%へ悪化
・経常利益率は31.1%から26.0%へ悪化
※個人立事業所は、医療法人の事業所と収支構造が違うために、利益の意味が異なるので注意
2)医業収益と医業費用の推移
(1)医療法人
・医業収益は2.3%減少し、医業費用は1.4%増加した
・コロナ補助金、診療報酬上の特例措置の廃止が減収に大きく影響していた
(2)個人立
・医業収益は3.7%減少し、医業費用は2.4%増加した
3)令和6年度の医業費用の項目別増減率
(1)医療法人
・全体で1.4%の増加のうち、医薬品・材料費が3.1%、給与費が1.7%、減価償却費が0.6%の増加
(2)個人立
・全体で2.4%の増加のうち、医薬品・材料費が5.2%、給与費が2.4%、委託費など0.8%の増加
4)収益・費用増減率の分布(医療法人/個人立)
・約7割の施設で医業収益が対前年比で減少し、約6割の施設で医業費用が増加
・医療法人で医業収益が減少していたのは65.5%、個人立で71.2%
※個人立事業所は、医療法人の事業所と収支構造が違うために、利益の意味が異なる
5)診療科別の利益率
(1)医療法人では、ほぼすべての診療科で医業利益率、経常利益率が悪化した。とくに、発熱外来など感染症対応を実施してきた内科、小児科、耳鼻咽喉科では、令和6年度のコロナ関連補助金・診療報酬上の特例措置廃止や診療報酬改定の影響が大きく、小児科では呼吸器感染症の変動も影響した。
(2)個人立はすべての診療科で医業利益率、経常利益率が大幅に低下した。
6)決算期別の利益率
・医療法人の決算月は法人によって異なるが、令和7年1月~3月の間に令和6年度の決算を迎えた診療所では、医業利益率が2.8%、経常利益率が3.2%だった。
・決算期が直近に近付くほど利益率が低下していた。令和6年度の4~6月決算以降、前回改定の影響も受けて、経営環境の悪化が顕著に進んでいた。
7)地域別の利益率
・診療所の地域に関わらず経営悪化がみられた。医業利益率、経常利益率は、大都市から町村まで、いずれの地域においても低下していた。
8)経営問題
・「物価高騰・人件費上昇」、「患者単価の減少」、「患者減少・受診率低下」を課題に挙げる診療所が半数以上を占めた。「施設設備の老朽化」が41.3%、「近い将来、廃業」が13.8%を占め、これらはどの地域でも課題とされていた。
以上の調査結果から以下の5点が考察されると結んでいる。
(1)診療所の直近の経営状況は、医療法人、個人立ともに減収減益で、前年度から大幅に悪化した。医療法人の約4割が赤字となり、個人立では経常利益が約2割減少した。
(2)物価高騰・人件費上昇に加え、コロナ補助金・診療報酬上の特例措置を含めた影響の結果であり、診療所の診療科や地域に関わらず、経営が悪化した。
(3)直近の決算期ほど利益率が低く、経営環境の悪化が顕著に進んでいる。
(4)診療所の経営者は厳しい経営に直面しており、この状況が続けば、多くの診療所が地域から撤退・消滅し、病院とともに担っている地域の患者さんへの医療提供を継続できなくなる可能性が高い。
(5)地域の患者さんへの医療を安定的に提供し続けるため、次期診療報酬改定での大幅な手当と、早期の補助金ならびに期中改定による緊急かつ強力な支援が不可欠である。
(ケアネット 稲川 進)