日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、8月6日に定例の記者会見を開催した。会見では、「2026年度予算要求の要望事項」、「紙カルテ利用診療所の電子化対応可能性に関する調査」、「マイナ保険証のスマートフォン搭載対応」、「OTC類似薬に係る最近の状況」について説明が行われた。
医療機関の経営が危機の中で要望する3項目
はじめに松本氏が、「2026(令和8)年度予算要求要望」について内容の説明を行った。今回、概算要求事項として「(1)地域医療への予算確保、(2)医療DXの適切な推進のための予算確保、(3)医薬品の安定供給」の3つを要望していると述べた。具体的な要望内容は以下のとおりである。
(1)地域医療への予算確保
地域医療を担う人材の確保、医療提供体制の整備、小児・周産期医療体制の強力な方策の検討、救急災害医療など。
(2)医療DXの適切な推進のための予算確保
サイバーセキュリティ対策費用の支援、オンライン資格確認や標準型電子カルテなどの導入・維持支援など。
(3)医薬品の安定供給
安定供給に向けた製造能力の強化、後発医薬品産業の構造改革の要望
また、令和8年度診療報酬改定への対応については、高齢化社会への対応だけでなく、人件費・材料費の高騰分、さまざまな医療DXなどへの補助など大幅なプラス改定を要望していること、緊急の支援だけでなく、期中の改定も検討していただき、先般発表された政府の「骨太の方針」に合わせた形での改定を望むと説明した。
紙カルテの廃止は地域医療の崩壊につながる
次に「紙カルテ利用診療所の電子化対応可能性に関する調査」、「マイナ保険証のスマートフォン搭載対応」の2つのテーマについて、担当常任理事の長島 公之氏(長島整形外科 院長)が調査の内容などを説明した。
「紙カルテ利用の診療所の電子化対応可能性に関する調査」は、2025年4~6月に全国の紙カルテ利用中の診療所に対して行われたもの(n=5,466)。
電子カルテの導入可能性では、「紙カルテが必要」と回答した診療所は77.0%に上り、医師の年齢が高いほど電子カルテの導入に消極的だった。また、診療所のスタッフ数、外来患者数が少ない診療所ほど導入が不可能と回答した。導入できない理由としては、「操作不得手で診療が十分でなくなる」、「導入してもあと数年しか使わない」、「電子カルテの操作ができない」などの理由だった。
医師会では、これらの調査から「すべての医師が現状のままでも医療が継続できる」ことが大前提であることから、地域医療を崩壊させないためにも、電子処方箋や電子カルテの義務化はするべきではないこと、ただ電子化を希望する医師などには導入・維持がしやすい環境整備が必要であること、医師会としても医療現場の声を聴き、施策に反映させながら、国や関係機関と取り組んでいきたいと説明した。
引き続いて、「マイナ保険証のスマートフォン搭載対応について」に関し、本年9月以降に対応機能を全医療機関に開放するものであり、その対応は個々の医療機関によって異なること、そして、9月以降にすぐに対応できるものではないこともあり、「患者さんをはじめ受診される方はマイナ保険証も持参してもらいたい」と強く希望を述べた。また、「医師会では現場で混乱が起きないように掲示用素材を作成しているので、それらを利活用して啓発していただきたい」と語り、説明を終えた。
最後に「OTC類似薬に係る最近の状況について」をテーマに担当常任理事の江澤 和彦氏(医療法人和香会 理事長)が、昨今の議論について、難病や障害者の経済的負担の増加や患者の臨床的リスクなどに多大な懸念があり、医師会としては「国民の健康リスクに与える影響も大きく、慎重な対応が求められる」と警鐘を鳴らした。
(ケアネット 稲川 進)