うつ病患者の20%は治療抵抗性を示し、いくつかの抗うつ薬単剤療法では治療反応が得られない。このような治療抵抗性うつ病患者には、抗精神病薬による増強療法が治療選択肢の1つとなりうる。しかし、抗精神病薬増強療法のメカニズムは、依然として解明されていない。愛媛大学の近藤 恒平氏らは、遺伝子発現レベルにおけるブレクスピプラゾール増強療法の作用メカニズムを解明するため、本研究を実施した。Journal of Psychopharmacology誌オンライン版2025年5月6日号の報告。
マウス神経紋由来の細胞株Neuro2a細胞に媒体、エスシタロプラム、ブレクスピプラゾール、ブレクスピプラゾール+エスシタロプラムを投与し、RNAシークエンシングを行った。20日間投与後のマウスの前頭前皮質、海馬およびうつ病患者の全血における遺伝子発現を測定した。
主な結果は以下のとおり。
・定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、RNAシークエンシングおよび遺伝子オントロジー解析において、ミトコンドリア(MT)関連遺伝子の発現上昇が確認された。
・これらの発現上昇遺伝子は、Neuro2a細胞およびCaco2細胞の両方で検証された。
・うつ病患者の全血において、MT-ATP8の発現低下が認められた。
・増強療法を行ったマウスでは、前頭前皮質および海馬において、MT-mRNAの発現変化が確認された。
著者らは「in vitroおよびin vivoの両実験において、ブレクスピプラゾール増強療法によるMT-mRNAの発現変化が確認された。これは、うつ病の病態解明および臨床実践を理解するうえで重要な知見となりうる」と結論付けている。
(鷹野 敦夫)