子宮頸がんは最も予防の可能性が高いがんの1つだが、世界中で毎年60万例以上の女性が子宮頸がんがんと診断される。また、低・低中所得国(LMIC)における子宮頸がんの年齢調整罹患率は高所得国(HIC)の3倍、同死亡率は6倍に達し、大きな不均衡が存在する。2020年11月、世界保健機関(WHO)は、この不均衡を是正し、最終的に子宮頸がんの排除を目指す世界的な戦略を立ち上げた。カナダ・Universite LavalのMarc Brisson氏らは、排除戦略立ち上げから5年が経過した時点での世界的な現況を、数理モデルを用いて分析した。研究の成果がLancet誌2026年5月2日号に掲載された。
WHOの戦略目標:罹患率<4例/10万人年
LMICとHICにおける子宮頸がんリスクの不均衡の主な要因は、子宮頸がん検診へのアクセスの大きな差(検診を受けたことがある女性の割合:10%vs.84%)とされる。さらに、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの配分の世界的な不平等がこの不均衡を助長していると考えられ、2023年の主要な対象年齢層の女子への接種率はHICの57%に対しLMICは23%であり、2022年にはHICの大部分で男子への接種が行われたのに対しLMICでは1%だった。
WHOの排除戦略は、女子の90%へのHPVワクチン接種、女性の70%への子宮頸がん検診、前がん病変およびがんを有する患者の90%に治療を行うことを目標とし、すべての国で年齢調整子宮頸がん罹患率を女性10万人年当たり4例未満に低減することを目指すとしている。
67のLMICと42のHICで、シナリオに基づく罹患率を比較
研究グループは、HPV-ADVISEモデルを用い、67のLMICと42のHICにおいて、HPVワクチン接種と子宮頸がん検診に関する種々のシナリオに基づき、年齢調整子宮頸がん罹患率を推計した(Canada Research Chairs Programなどの助成を受けた)。
LMICとHICの格差は、年齢調整子宮頸がん罹患率(ASR)の比率(RR
LMIC/HIC=ASR
LMIC/ASR
HIC)として評価した。
現状維持で、HICでは2048年に排除
ワクチン接種と検診が現状維持の場合、LMICの子宮頸がん罹患率は2105年までに23%しか減少しない一方で、HICでは2048年までに排除(年齢調整子宮頸がん罹患率<4例/10万人年)を達成すると予測された。その結果として、2105年までに格差が4倍に拡大すると考えられた(2022年のRR
LMIC/HIC=3、2105年のRR
LMIC/HIC=12)。
また、すべてのLMICが9価ワクチンに切り替えると、対象集団やワクチン接種・検診に関して現状を維持した場合でも、罹患率およびLMICとHICの格差への影響は最小限にとどまると予測された。
WHO排除目標に加え、男子・MAC接種導入が重要
LMICの女子で接種率90%を達成した場合、今世紀末までに罹患率が大幅に低減し(87%の減少)、2094年に排除を達成(HICに遅れること約45年)、格差はわずかに縮小する(2105年のRR
LMIC/HIC=2)と考えられた。
また、男子も加えた全国民的な定期接種および多年齢層コホート(MAC)への接種を追加すると、LMICにおける長期的な年齢調整罹患率がさらに低下する(93%の減少、2105年に2例/10万人年)。この戦略は、子宮頸がんの排除を加速し(2080年に達成[HICより約30年遅れ])、今世紀末までにLMICとHICの格差をほぼ解消することになる(RR
LMIC/HIC≒1)。
さらに、今世紀末までにLMICとHICの格差解消を達成し、今後数十年間における格差の拡大を抑制するには、LMICがWHOの排除目標を達成し、全国民的な定期接種およびMACワクチン接種を導入する必要がある。この複合戦略により、HICから約20年遅れの2070年には子宮頸がんの排除を達成すると予測された。
接種拡大に向けた状況が大きく変化
著者は、「WHOの世界戦略の開始から5年が経過したが、多くのLMICは排除目標の達成にはほど遠い状況にある」「LMICとHICの格差を解消し、すべてのLMICで子宮頸がんを排除するには、LMICがWHOの排除目標を達成し、全国民的なHPVワクチン接種およびMAC接種を導入する必要があるだろう」としている。
また、「(1)WHOの事前認証を受けたワクチンが低価格で入手可能になった、(2)ワクチンの供給制約が解消された、(3)1回接種の選択肢が加わったことにより、HPVワクチン接種の拡大に向けた状況が大きく変化している」「本研究の結果を各国の具体的な状況に適応させるための実装研究とともに、WHO戦略を含む施策を進めるための政治的意志が緊急に必要とされている」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)