10項目の要点確認で災害高血圧を防ぐ/日本高血圧学会

提供元:ケアネット

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公開日:2024/01/29

 

 日本高血圧学会(理事長:野出 孝一氏[佐賀大学医学部内科学講座 主任教授])は、今般の能登半島地震の発生を受け、避難所での災害関連死を予防する観点から「被災地における高血圧疾患予防」をテーマに、緊急メディアセミナーを開催した。

 セミナーでは、10項目の「寒冷被災地における血圧管理と高血圧合併症予防の要点」を示し、震災の避難所で医療者も一般の人も確認できる高血圧予防指標の紹介と震災地での初動活動について報告が行われた。なお、10項目の要点は、同学会のホームページで公開され、ダウンロードして使用することができる。

140mmHg超の血圧ではまわりの医療者へ相談を

 苅尾 七臣氏(自治医科大学内科学講座循環器内科学部門 教授)は、今回の10項目の要点の制作についてその背景を語った。

 過去の大規模災害を振り返ると災害被災周辺地域では、災害高血圧が発生し、心血管疾患、脳卒中、大動脈解離などの循環器疾患が増加、命を落とす方も多かった。また、今回の能登半島地震のように冬季でしかも寒冷地域のようなところでは、血圧コントロールも難しく、さらなる循環器疾患の増加も懸念されている(とくに心血管死亡は血圧が10/20mmHg上昇するごとに2倍ずつ増えるとされ、90/140mmHgがリスクの目安となる)。

 こうした事態から高血圧の特徴と循環器リスク低減のために要点が制作された。ただ、災害時の血圧管理に関する十分なエビデンスはなく、過去の災害から得られた知見などをもとにレトロスペクティブなエビデンスに基づき本要点は作成されているので、この点を注意していただき、診療での目安として現地で役立ていただきたいと期待を寄せた。

【寒冷被災地における血圧管理と高血圧合併症予防の要点】(抜粋)
※できているものにチェックし、1つでも多くのチェックが付くようにする。
〔A 生活環境の整備〕
1.寒さ対策:保温性の高い衣服を着用し、体を冷やさない。理想の室温は18℃以上
2.睡眠:できるだけ横になる、6時間以上の睡眠を心掛ける

〔B 生活習慣の維持〕
3.生活リズム:できる限り起床・就寝時刻を決め、生活のリズムを作る
4.運動:身体を動かす。1日に20分以上の歩行でも大丈夫
5.食事:なるべく塩分の摂り過ぎに注意し、野菜、果物、乳製品などカリウムの多い食事を心がける(医師からカリウム制限を受けている腎臓病の方は指示通りに)
6.体重の維持:体重計があれば測って、増減を確認
7.感染症予防:できる限りマスク着用、手洗いが大切
8.血栓の予防:こまめに水分を摂り、1時間に1回は足を動かす

〔C 治療の継続〕
9.薬の継続:普段飲んでいる薬は、いつも通り飲み続ける
10.血圧管理:血圧を測定し140mmHg以上なら医師、看護師、保健師に相談
(とくに160mmHg以上は、できるだけ早い時期に医師に相談)

 また、苅尾氏はさらに詳しく災害高血圧について説明。「災害地域に生じる高血圧(≥90/140mmHg)」と定義し、被災直後から発生、生活環境と生活習慣が回復・安定するまで持続し、とくに循環器疾患のリスクが高い早朝高血圧は寒冷の影響を受けやすいと詳しく解説した。

 特徴として以下の項目がある。
・災害後の血圧上昇は一過性で1ヵ月以降低下するが、高齢者、慢性腎臓病、肥満者などの患者では遷延すること
・災害時の血圧140mmHg未満を目標とし、血圧レベルは2週間毎に再評価すること(なお、災害時は白衣効果が増大することから避難所などに自動血圧計の設置が望ましい)
・患者の服薬状況が不明な場合、安全性と効果の高い長時間作用型カルシウム拮抗薬が適切であること

 そのほか、過去の震災などの知見から脳血管疾患の発症について、外部仮設トイレ、早朝(とくに午前5時~午前11時)、70歳以上の高齢者はリスクが高くなることを指摘し、これからの数ヵ月、循環器疾患リスクを可能な限り減らしてもらいたいと述べ、説明を終えた。

 勝谷 友宏氏(勝谷医院 院長)は、同学会の実地医家部会ネットワークを活用した被災地支援について、血圧計と減塩食について、メーカーなどと協議を行い、現地に手配する準備を行っていることを報告した。

 宮川 政昭氏(宮川内科小児科医院 院長)は、日本医師会と連携した被災地支援について説明した。医師会は対策本部を七尾市に置き、日本医師会災害医療チーム(JMAT)の支援を行っている。今回の震災は、過去の震災と違い、現場への派遣に困難を来たし、支援に遅れが生じている。そのため、今までは災害医療派遣チーム(DMAT)からJMATに引き継がれることが多かったが、現在は両チームが並列して活動している。JMATの派遣も約900名となり、今後も能登北部への支援に現地の医師と連携して診療支援を行っていくと展望を語った。

(ケアネット 稲川 進)

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