いざという時に、がん治療時の血管外漏出対策-ガイドライン改訂

提供元:ケアネット

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公開日:2023/02/17

 

 がん薬物療法を行ううえで、点滴の血管外漏出の予防、早期発見、対処・管理は重要な課題である。2022年12月、日本がん看護学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床腫瘍薬学会(3学会合同)が『がん薬物療法に伴う血管外漏出に関する合同ガイドライン2023年版(改訂3版)』を発刊した。血管外漏出の対策を日常的に実施するも、実は推奨されていなかった…ということも無きにしもあらず。ぜひこの機会に抗がん剤をオーダーする医師にも薬剤の血管漏出時対応の最新知見を確認いただきたい。

 本改訂では、血管外漏出(EV:extravasation)が問題となる抗がん剤のリストに大きな変化はないが、それらをマネジメントするための新たな医療機器(PICCカテーテル)や薬剤(デクスラゾキサン)の登場が色濃く反映されている。また、がん薬物療法時の制吐薬に用いられるホスアプレピタントは注射部位反応の増加が報告されているが、それとEVとの関連についても触れられている。

 押さえておきたい改訂点は以下のとおり。

CQ3「がん患者に対して中心静脈デバイスを留置する際、CVとPICCどちらが推奨されるか」-CQ2で「中心静脈デバイスを留置するかしないか」を検討し、ここではデバイスの選択について検討されている。各論文ではデバイス3種の比較がなされていたことから、CQ3a(CV vs. PICC、推奨の強さ:弱い・方向:行うこと)、CQ3b(CV vs.ポート、同:弱い・同:行うこと)、CQ3c(PICC vs.ポート、同:強い・同:行うこと)とそれぞれのCQが設けられている。なお、検討に対して最も重要なアウトカムとしてデバイスfailure(閉塞、感染、血栓、抜去など)を設定して可能な場合にメタアナリシスを行っている。

CQ7「EVリスクを考慮した場合、ホスアプレピタント投与を行うことは推奨されるか」(同:弱い・同:行うこと)
 ホスアプレピタントの投与はアプレピタントの内服困難症例などに限定し、注射部位反応に注意しながら使用することを弱く推奨する。ホスアプレピタントによりEVリスクが高まるエビデンスはないが、併用したがん薬物療法の種類によってはそのリスクが増加するという報告があるため、併用時には注意が必要となる可能性がある。

CQ9「皮膚障害の悪化予防としてEVが起こったときに残留薬液または血液の吸引は推奨されるか」(推奨なし)
 実際に吸引を行っても残留薬液または血液を吸引できることはまれであり、この有用性を検討する必要があると判断された。

CQ10「EVによる皮膚障害・炎症の悪化・進行を防ぐために局所療法として冷罨法(冷却)は推奨されるか」(同:弱い・同:行うこと)
 冷罨法を用いることで痛みの軽減、安心感や満足感が得られる面から優先される対応であるが、施行時期や期間、温度については定まっておらず、悪化の抑制などに有効であるかは不確かである。

CQ11「アントラサイクリン系がん薬物療法薬のEVにデクスラゾキサンの使用は推奨されるか」(同:弱い・同:行うこと)
 デクスラゾキサン(商品名:サビーン)は2014年に“アントラサイクリン系抗悪性腫瘍剤のEV”を効能効果として承認された薬剤であり、医療ニーズの高い医薬品である。しかし、費用対効果(薬価:4万6,437円/瓶)や投与日数(3日間連続投与)などから患者の不利益になる可能性もあるため、本CQで明らかにすることとした。※2023年2月時点

(ケアネット 土井 舞子)