ワクチン接種の経済価値は10年間で50兆円―英国調査

提供元:ケアネット

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公開日:2021/04/07

 

 COVID-19ワクチン接種による集団免疫獲得は経済にどのような影響をもたらすのか。英国において年齢構造化感染モデルと経済モデルを使った試算が行われた。The Lancet Infectious Diseasesオンライン版3月18日号掲載の報告。

 研究者らは、今後10年間に渡る英国のワクチン接種プログラムについて、さまざまなシナリオを検討した。

【ワクチン接種率】15歳以上の75%にワクチンを接種(および15〜64歳の50%と65歳以上の75%に毎年再接種)と、ワクチン接種なしを比較。

【ワクチンの有効性】ワクチンの有効性50%もしくは45週間の感染防止効果(最悪のシナリオ)と、ワクチンの有効性95%と3年間の感染防止効果(最良のシナリオ)を比較。自然免疫は45週間以内に消失すると仮定した。

【フィジカルディスタンス】ワクチン接種がフィジカルディスタンスへ与える影響についても検討し、最初のロックダウン後に自発的にフィジカルディスタンスをとる、あるいは感染者増による最初のロックダウン後にフィジカルディスタンスが義務付けられる、と想定した。

 QALYs(Quality-Adjusted Life-years:質調整生存年)による利益と、医療費負担者と国民経済の両方に対するコストを考慮した。将来のコストとQALYsを毎年3~5%で割り引き、QALYあたりの金銭的価値を2万ポンド(約300万円)、ワクチン接種1回あたりの長期的なコストを15ポンド(約2,300円)と想定した。

 初期ロックダウン、ワクチン接種、およびフィジカルディスタンス増加がないシナリオでは、今後10年間で1億4,800万(95%信頼区間:4,850万~1億9,880万)人が感染し、310万(84万~450万)人が死亡する、という推計だった(英国の人口は約6,800万人)。

 最良のシナリオでは、将来のフィジカルディスタンスの増加がなくても、ワクチン接種によって感染数は最小限に抑えられたが、最悪のシナリオでは、COVID-19は年2回定期的に流行する感染症となった。

 最良のシナリオでは、ワクチン接種プログラムによって、今後10年間に120億~3,347億ポンド(約1兆8,200億~50兆8,700億円)、最悪のシナリオでも11億~569億ポンド(約1,670億~約8兆6,400億円)の正味貨幣価値が増加する、との試算だった。ただし、フィジカルディスタンスの増加による正味貨幣価値の増分は、国民経済の損失が持続的で大きい場合には、社会的観点からはマイナスとなる可能性がある。

 研究者らは、この調査結果は、ワクチン接種プログラムの健康上および経済上の大きな価値を裏付けるものだとしている。

(ケアネット 杉崎 真名)