胃がん術後の早期経口摂取、ガイドライン記載も実施は2割/日本胃癌学会

提供元:ケアネット

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公開日:2026/03/13

 

 胃がん術後の早期経口摂取は、ガイドラインで提唱されているにもかかわらず、実際に導入している施設は約2割に留まることがわかった。水戸済生会総合病院の丸山 常彦氏らはDPCデータを用いて全国472施設・2万6,097例を解析し、早期経口摂取の実施状況と臨床的意義を検討した。本研究「本邦における胃癌手術後の早期経口摂取の現状と臨床的意義―全国DPCデータ26,097例の解析」は、2026年3月4~6日に行われた第98回日本胃癌学会総会で発表され最優秀演題に選ばれるとともに、Surgical Oncology誌2026年2月号に掲載された。

 丸山氏らは2017年8月~2022年7月の全国472施設のDPCデータベースより、ICD-10コードC16(胃の悪性腫瘍)に該当し、胃がん手術を施行された患者2万6,097例を抽出し、解析対象とした。術後2日までに1食でも食事のレセプトコードがある症例を「早期経口開始群」と定義し、それ以外を「非早期経口開始群」とした。両群の背景因子および術後入院期間を比較検討した。

 主な結果は以下のとおり。

・早期経口開始群は5,422例(20.8%)、非早期経口開始群は2万675例(79.2%)であった。
・術式別の検討では、早期経口開始群には腹腔鏡下手術の症例が有意に多く含まれていた。幽門側胃切除では、腹腔鏡下手術の場合は開腹手術と比較して早期経口症例が有意に多かった(開腹:19.0%、腹腔鏡:24.7%)。しかし、胃全摘および噴門側胃切除においては、腹腔鏡下と開腹で有意差はなかった。
・がん診療連携拠点病院、大規模病院において有意に早期経口症例が多く、術後経口開始時期は施設の運用方針に強く依存していると考えられた。
・術後在院日数は早期経口開始群で有意に短縮した(9日vs.12日)。

 本研究を主導した丸山氏に話を聞いた。

――今回の研究に取り組んだきっかけや問題意識は?
 まずは、「ビッグデータ」が必要だと考えたことだ。「術後回復強化(Enhanced Recovery After Surgery:ERAS)」の概念は、消化器外科領域における周術期管理において広く普及してきているが、日本全体における現状や実態については十分に明らかにされていない。これまでの類似研究は単施設や多施設共同研究で症例数が限られており、実臨床とかけ離れてしまうリスクがあった。

 DPCデータは全国の急性期病院をカバーしており、今回データを提供してもらったメディカル・データ・ビジョンはその約4割を保有しているため、全国472施設、2万6,000例という大規模データを解析することができた。加えてDPCデータには患者背景、既往歴や入院後の合併症、入院中に行われた医療行為すべてがレセプトコードとして残っており、医療行為に関してさまざまな解析が可能となった。

――早期経口摂取を実施していた施設は2割に留まったが、この結果をどうみるか?
 解析前は、全国の施設でそれほどばらつきはないと考えていた。私の施設ではほぼ100%の実施率であり、『胃癌治療ガイドライン2025年版』でも「2日目から経口摂取が可能」と明記されている。それにもかかわらず実施率2割というのは驚きだった。

 早期経口摂取が広まっていない理由はいくつか考えられる。ガイドラインの記載には「特に離床に問題ない場合、第1日目からの飲水、第2病日からのsoft dietの開始、第7病日から第10病日の退院が可能と考えられる」とされているが、その前には「ただし、経口摂取時期を早めることにより合併症が増加するとの報告もあり、各施設において実施の是非に関して検討が必要である」という一文がある。この「各施設の検討」部分を重視しているケースがあるのだろう。

――施設ごと、術式ごとの実施率の差をどうみるか?
 そもそも、早期経口摂取の大本となるERASプロトコルは、消化器分野では大腸がんで先行して広がった。一方で、胃の縫合部を伴う胃がん手術では、術後感染症などの懸念から早期経口摂取に慎重になる医師が多かった経緯がある。しかし、最近では、ランダム化比較試験でも早期経口摂取が腸管機能の回復に有利で、かつ安全に行えるとの報告があり1)、今回の研究も含め、早期経口摂取の利点がエビデンスとして蓄積しつつある。症例数の多い大規模施設では、こうしたエビデンスをクリニカルパスに取り入れ、実施していると考えられる。

 腹腔鏡下手術において、幽門側胃切除術では実施率に有意差があったが、全摘術や噴門側胃切除術では差がなかった。これは全摘術や噴門側胃切除の場合には、吻合部の合併症が若干多いため、外科医が安全性を考慮して実施を控えていると考えられる。

――今後、早期経口摂取の実施率を高めるために何が必要か?
 今回の研究では、早期経口摂取と入院期間短縮に関連がみられたが、患者背景を適切に調整できていないという制限がある。大規模前向き試験の実施が難しい分野なので、DPCデータからどこまで患者背景をそろえられるかについて、現在取り組んでいる状況だ。エビデンスの質を高め、周知していくことが必要だろう。

――学会発表の反応や質疑応答は?
 どの医師も自施設のデータしか知らないため、全国のデータは驚きをもって受け止められたようだ。座長からも「実施率2割は少ないですね」とのコメントが寄せられた。術式によって実施率が大きく違うこと、全摘術では腹腔鏡であっても早期経口摂取の実施率が低い点も関心を呼んだ。

 質疑応答では、海外の医師から「早期経口開始によって肺炎などの合併症が増えないか?」という質問を受けた。今回は早期経口摂取と合併症発症との関連を解析できていない。DPCデータから合併症を抽出するのがやや煩雑になることが理由だが、ここは重要なポイントなので、今後の課題として取り組んでいく予定だ。

(ケアネット 杉崎 真名)