内視鏡検査・治療法の選択肢広がる―『大腸ポリープ診療ガイドライン2020』

提供元:ケアネット

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公開日:2020/11/17

 

 日本人のがん死亡数を部位別にみると、大腸がんは女性で1位、男性で3位となっている(男女合わせると第2位)。 早期発見・早期の適切な治療により完治を目指せるが、欧米諸国と比較すると検診受診率が大幅に低く、死亡数は増加が続いている。今年6月に6年ぶりに改訂された日本消化器病学会編『大腸ポリープ診療ガイドライン2020』(改訂第2版)では、新たなスクリーニング手法として大腸カプセル内視鏡検査、内視鏡治療法としてcold snare polypectomy(CSP)が加わり、検査・治療における選択肢が広がっている。ガイドライン作成委員長を務めた田中 信治氏(広島大学病院内視鏡診療科 教授)に、大腸ポリープ診療ガイドライン2020の改訂のポイントについてインタビューを行った(zoomによるリモート取材)。

 今回の大腸ポリープ診療ガイドライン2020の改訂ではCQ(clinical question)として推奨文を明記するのは「診療において複数の選択肢がある」18項目に絞り、すでに結論が明らかなものはBQ(background question)として整理された(57項目)。また、エビデンスが存在せず、今後の研究課題であるものとして3項目のFRQ(future research question)が設定されている。

大腸ポリープ診療ガイドライン2020に大腸カプセル内視鏡検査が掲載

 大腸カプセル内視鏡検査が2014年1月に保険収載され、今回の大腸ポリープ診療ガイドライン2020にも掲載されている。検査に伴う苦痛がなく、病変発見の感度・特異度も高く非常に有用だが、カプセル自体が高額であり、保険適用の範囲は限定的となっていた。しかし、ガイドライン投稿後の2020年4月には適用が拡大され、高血圧症や慢性閉塞性肺疾患、高度肥満症等を有し、身体的負担により大腸内視鏡が実施困難であると判断された患者が新たに対象となり適応がやや拡大された1)

 田中氏は「検診を受診しない理由として、身体的な負担感の大きさや恥ずかしさを挙げる人も多い」と話し、腸内を空にするための前処置は必要なもののカプセルを飲むだけで簡便であり、手術や薬物療法なども含めたがん診療全体の医療経済学的バランスを評価した上で、便潜血で異常が出た場合の精査には活用可能にしていくべきではないかと考えていると展望を示した。

ポリープ型腺腫は5mm以下でも切除を弱く推奨、新たな手技としてCSPを追加

 ポリープ型腺腫の内視鏡切除に関して、旧版の大腸ポリープ診療ガイドラインでは6mm以上の病変は切除を推奨するものの5mm以下については原則経過観察とされていた。しかし改訂版では、5mm以下の場合も切除を弱く推奨、と変更されている。なお、陥凹型腫瘍では大きさにかかわらず切除が強く推奨される。

 欧米ではポリープ型腺腫でも大きさによらない内視鏡切除が標準的だが、日本の場合は診断がしっかりなされており、良性の判断も高い精度で行われていることが背景にある。田中氏は、「腺腫の数が多すぎて一度にとりきれない、あるいは検診施設の状況などでとりきれないといったケースもありえる」とし、5mm以下の病変では経過観察も容認されるという位置づけで、ケースバイケースの判断をして欲しいと話した。

 また、大腸ポリープ診療ガイドライン2020の変更点として、内視鏡治療の新しい手技としてcold foceps/snare polypectomyが加わったことがある。後出血や合併症が少なく、穿孔リスクが低く、手技としても非常に簡便なため、広く使われるようになってきている。cold snare polypectomyは10mm未満の非有茎性腺腫に適応となるが、粘膜下層は切除できないためがん(と陥凹型病変)に対しては禁忌となる。同氏は「CSPの適応を決めるためには、術前の内視鏡診断が非常に重要」とし、画像強調拡大観察やpit pattern診断はほぼ必須の時代となってきていると話した。

診断や治療後サーベイランスに有用な指標の活用を

 画像強調観察併用拡大内視鏡検査について、診断における有用性を示すエビデンスが蓄積されてきている。今回の大腸ポリープ診療ガイドライン2020ではNBI拡大観察における統一的な診断指標として、日本発のJNET分類が掲載された。この分類はBLI併用拡大観察でも使用が可能で、治療法選択のための指針とすることができる。

 内視鏡切除後のサーベイランスの考え方については、3年以内のサーベイランスが弱く推奨されているが、日本発のエビデンスはまだ十分ではなく、Japan Polyp Studyの長期データが待たれる。しかし海外のデータではあるが、初回の治療病変の臨床病理学的所見に基づくadvanced neoplasiaの累積発生率がオッズ比として報告されており、大腸ポリープ診療ガイドライン2020改訂版ではこの結果も掲載されている。田中氏は「初回の治療病変の臨床病理学的所見に基づくリスク評価にぜひ活用してほしい」と話し、内視鏡・臨床病理学的所見のほか、家族歴や炎症性腸疾患等の既往歴、治療歴といった1人1人の背景に基づく判断が重要とした。

 内視鏡的粘膜切除術 (EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)、hot polypectomyに今回のcold polypectomyが加わり、治療の選択肢が増えたことで、より術前診断の重要性が増していると同氏。不要な手術や、再発への必要以上の不安をなくすために、まずは術前精査をしっかり行って、正しい診断・それに基づいた適切な治療につなげていってほしいと話した。

(ケアネット 遊佐 なつみ)