「命を絶つ行為は医療ではない」ALS嘱託殺人に会長が言及/日医

提供元:ケアネット

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公開日:2020/07/31

 

 29日、日本医師会の記者会見で、中川 俊男会長が医師による筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者嘱託殺人に関する日医の見解について言及した。

中川会長「医の倫理以前に、一般的な社会規範を大きく逸脱」

 この事件では、京都府のALS患者とSNSで知り合い、依頼を受けた医師2人が、バルビツール酸系の薬物を投与し患者を殺害したとして、嘱託殺人の疑いで逮捕された。報道によると、医師らが事件前に患者から金銭を受け取ったことなどが明らかになっている。

 中川氏は「今回の事件のように、たとえ患者さんから『死なせてほしい』と言われたとしても、生命を終わらせるような行為は医療ではない。そのような要望があった場合は、患者さんがなぜそう思ったのか、その苦痛に寄り添い、共に考えることが医師の役割である」と述べた。

 容疑に問われている医師らは、死亡した患者の主治医でもなければ、診療の事実もない。同氏は、「医療の本質は、医師が自らの利益のために行うことではない。医の倫理以前に、一般的な社会規範を大きく逸脱しており、決して看過できるものではない」と強く批判した。

ALS発症でただちに人生の最終段階になる訳ではない

 日本医師会では、『医師の職業倫理指針』を策定し、医の倫理の向上に努めている。人生の最終段階の医療ケアに関しては、これまで生命倫理懇談会で検討してきており、「ALSを発症することで、ただちに人生の最終段階になる訳ではないことを確認している」と中川氏は説明した。そのうえで、終末期医療における課題として、本人の意思決定支援の仕組みとプロセス、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)、医療の質向上の重要性を掲げた。

 同氏は、「長期にわたる闘病生活の中で、患者さんが死への道を探し求めたのは非常に悲しいこと。死を選ばなければならない社会ではなく、生きることを支える社会を作りたい。医師会がやるべきことは何か、あらためて追求していきたい」と語った。

 日本医師会では、今後も適切な医療倫理の下で、患者ニーズに応じたさまざまな治療や支援が行われるよう、必要な推進をしていくとともに、このような事件が二度と起こらないよう、患者さんに寄り添い、尊厳を保つ生き方ができる社会を目指したいとしている。

(ケアネット 堀間 莉穂)