フレイル施策を掲げる、国の本当の狙いとは/日本医師会

提供元:ケアネット

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公開日:2020/01/24

 

 2020年度から75歳以上の健康診査にフレイルが追加される。高齢者の低栄養に医師の介入が求められることから、国からのプライマリケア医に対する期待は大きいであろう。2019年11月28日、「人生100年時代の健康と栄養を考える-フレイル予防対策における日本型食生活の役割-」が開催(日本医師会、米穀安定供給確保支援機構主催)。本稿では飯島 勝矢氏(東京大学高齢社会総合研究機構 教授)による基調講演の内容についてお届けする。

フレイルは疾患から派生するだけではない
 基調講演において、『健康長寿 鍵は“食”-人生100年時代を元気で乗り切るためのフレイル予防-』について講演した飯島氏は、少子高齢化問題が沸騰していた2014年、日本老年医学会の一員として『フレイル』を提唱し、この言葉の定着に貢献した。

 フレイルとは、サルコペニアやロコモティブシンドロームなど、病気依存性のものと考えられがちであるが、実は、社会的、心理的、認知的と非常に多面的な事象が相絡み合うことによって生じる概念である。同氏は「とくに、社会的フレイル(孤食、経済的困窮など)の側面から負のスパイラルが生じ、心理的、認知的フレイルに影響が及んでいるケースが散見される」とし、「フレイルの状態は十人十色。複合的に読み解いていかなければならず、フレイル健診では単に筋肉量を測定しているだけではいけない」と、診察時の姿勢について呼びかけた。また、近年では、口の働きの衰えを示すオーラルフレイルにも注目が寄せられており、オーラルフレイル群では正常群と比して総死亡リスクが2.09倍にもなることが報告されている。

 今では、国をはじめ多くの自治体がフレイルについて注目しているわけだが、その理由について、同氏は「国の施策であるのはもちろんのこと、フレイルは可逆性であり“頑張れば健康に近い状態に戻れる”ため、心に響きやすい」と、説明した。

高齢者が高齢者を支える時代
 ところが、フレイルを含む介護予防への事業者の参加率や継続率の低さが問題視されている。それでも、これからフレイル・認知症予防についてしっかり策を講じた場合、2034年までに介護費用の伸びを抑制する効果は、対策を行わなかった場合と比較して“約3兆円”にのぼることが経済産業省の試算で示されている。このことから、少子高齢化で互いを支え合うためには、「高齢者のなかでも元気な方の場合、支えられる側ではなく、支える側になることが求められる」とし、「フレイル予防を通じて、支える側の高齢者を増やすことが、国の目指す方向性の一つ」と解説した。

高齢者のやる気を奮い立たせるには?
 支える側の高齢者を増やしていくには、食事指導をはじめ、医師による患者指導が肝心である。しかし、国民はフレイルに関する基本的な情報をすでに収集している。それ踏まえ、「国民は食に関して何の情報を求めているのか。医師は国民が本当に知りたい情報・ソリューションは何かを理解しておかないといけない。でなければ、患者は情報の乱れ打ちにあってしまう」と、同氏は患者の心を動かす指導を推奨している。

 たとえば、フレイル予防として患者に歩行を呼びかけたい場合、『歩かないと歩けなくなりますよ』という説明をしても患者には響かない。この説明を『2週間寝たきりになると、7年分の筋肉が落ちます』のように、科学的根拠を盛り込みつつもわかりやすく言い換えることで、「患者に響く指導になる」と同氏は述べた。

フレイルには人とのつながりと栄養が活力
 同氏はこのような指導を、地域高齢者を対象とした柏スタディ(コホート研究)1)において実践している。このほか、サルコペニアの予後予測に有用な“指輪っかテスト”も発案し、縦断追跡を行っている。また、この研究から、「1人暮らしよりも“孤食”かどうか」「食事内容」などがフレイル予防におけるポイントであることを示し、地域での人とのつながり2)が多い人や日本型食事パターンの人(魚・大豆製品・野菜・果物を多く摂取)、食事炎症性指数(炎症誘導性食事)の低さが、フレイル予防やサルコペニアの有病率低下に影響することも明らかにしている。

 最後に同氏は、健康長寿に向けたフレイル予防のための『3つの柱』(栄養・身体活動・社会参加)を掲げ、これを体現するフレイルサポーターについて紹介。彼らは全国68自治体でフレイルチェック事業を行う団体で、地域の集いの場を“気づきの場”へ、そして真の“活躍の場”としている。「黄緑色のポロシャツが全国共通のユニフォームで、そこにも高齢者と呼ばれる年齢の方が活躍し、フレイルサポーターとして食支援サポーターを兼任するなど、専門職では出せない能力を発揮している」と、彼らのさらなる活躍を期待した。

(ケアネット 土井 舞子)

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2)吉澤裕世ほか. 日本公衆衛生雑誌. 2019;66:306-316.