2月4日は「風疹の日」、風疹排除のために医療者ができること

提供元:ケアネット

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公開日:2020/01/27

 

 2月4日は日本産婦人科医会などが定めた「風疹(予防)の日」。長年、感染症対策に取り組んでいる多屋 馨子氏(国立感染症研究所 感染症疫学センター[感染研]第三室 室長)に「風疹排除のために医療者ができること」をテーマに話を聞いた。

子供の風疹はワクチン接種により激減
――風疹の流行は、国のワクチン接種戦略と密接に関わりあっています。風疹の定期接種が始まったのは1977年のことで、対象は女子中学生でした。妊娠中の胎児への影響、いわゆる先天性風疹症候群(CRS)予防を最大の目的としたためです。しかし、女性限定の接種では流行をコントールできず、定期接種の開始後も数年ごとに大きな流行を繰り返しました。このため、1995年4月からは1~7歳半の男女を対象にワクチン接種が行われるようになり、接種歴のない中学生男女への経過措置もとられました。こうした施策によって、長く風疹患者の多数を占めていた小児の感染は激減したのです。

今では風疹患者の95%が成人
――ここ20年ほどのあいだ、小児に代わって風疹患者の大半を占めているのは成人です。中でも、ワクチン接種制度の狭間となり、1回もワクチンを接種したことのない「1962年(昭和37年)4月2日~1979年(昭和54年)4月1日生まれの男性」が新規罹患者の大きな割合を占めています。この世代の男性は、自身がワクチンを受ける機会がなかったうえ、同世代の女性はワクチンを受けているために、上の世代に比べ風疹の罹患を免れた人が多く、十分な抗体価を有しないままの人がほかの年代よりも多いのです。具体的には、この世代の男性の約20%、5人に1人が十分な抗体価を持ちません。女性の6%と比べるとその比率の高さがわかります

いったん減少も2018年から再度増加
――抗体価の低い成人が中心となった風疹の流行は繰り返し起こっています。とくに2012~2013年は計1万6,730人の患者を出す大流行となり、45人のCRSが報告される事態になりました。厚労省と感染研は「次の流行はなんとしても食い止めたい」と対策を講じ、2014年以降の患者数は減少を続けました。しかし、2018年に再び増加に転じ、2019年も約3,000人と再び増加の傾向にあり、この事態を憂慮しています。患者の内訳を見ると95%が成人、男性が女性の4倍近くと2013年の大流行時から状況は何ら変わっていないことを歯がゆく感じます。

 こうした状況を受け、2019年に厚労省は「風しんの追加的対策」を発表しました。これまで「抗体検査のみ無料」としていたターゲット世代に対し、ワクチン接種まで公費で賄う、という内容です。

 以下、今回の対策の具体的な内容です。

・対象:1962年(昭和37年)4月2日~1979年(昭和54年)4月1日生まれの男性
・期間:2019年~2022年3月末
・方法:居住自治体から、抗体検査とワクチン接種が無料で受けられるクーポン券を郵送。医療機関の混雑を避けるため、クーポン発送は年齢別に2回に分けて実施。但し、クーポンが届かなくても自治体に請求することで入手可。

2019年度/1972年(昭和47年)4月2日~1979年(昭和54年)4月1日生まれ
2020年度/1962年(昭和37年)4月2日~1972年(昭和47年)4月1日生まれ

「全額無料」でも伸びない受診率
――数千円の抗体検査と1万円程度のMRワクチンを全額無料にするのですから、「今度こそ受診率が一気に伸びるだろう」と期待していたのですが、残念ながらまだそこまでの成果は出ていません。

 2019 年度内にクーポン券を発送予定の約 646 万人のうち、2019年4~11月に抗体検査を受けた人は 97万8,422 人(対象者の約 15.1%)、ワクチン接種を受けた人は 19万7,572 人(同約 3.1%)でした。厚労省は東京オリンピック・パラリンピックが行われる2020年7月までに現状79%程度のターゲット世代の抗体保有率を85%に、2022年3月までに90%程度に引き上げることを目標としていますが、このままの受診ペースでは難しいのが現状です。

患者に「クーポン来るから受けてね」と伝えてください
――この状況を踏まえ、医療者の皆様にお願いです。診療した男性患者さんの生年月日を見て、対象世代の男性であれば「風疹のクーポンは来ましたか? ぜひ抗体検査を受けてくださいね」と一言伝えていただきたいのです。もちろん、医療者の皆さん自身も率先して抗体検査とワクチン接種をお願いします。私は仕事でもプライベートでも、男性と会うたびクーポン券の紹介をしています。受診率が低い理由は、ひとえに風疹の怖さと今回の対策が知られていないことに尽きるかと思います。信頼する医療者から聞いた情報であれば、患者さんも「それなら行ってみようか」と考えることでしょう。国の予算を割いて実施された今回の対策が成果に結びつくよう、ぜひともご協力をお願い致します。

成人男性に多い誤解について
――成人男性の皆さんと風疹について話していると、よく出てくる誤解があります。

誤解1)風疹は子供のときにかかったから大丈夫だよ
 すでに風疹にかかったとの記憶のある人達に血液検査を行ったところ、約半分は抗体陰性で、風疹は記憶違い、または風疹に似た他の病気にかかっていたという調査結果があります。風疹はよく似た症状の病気が非常に多いです。「かかったから」と言う方にこそ、「過去の記憶に頼らず、しっかり抗体検査を受けて」とアドバイスしてください。

誤解2)風疹って死ぬような病気じゃないからいいんじゃない?
 風疹は通常あまり重くない病気ですが、まれに脳炎、血小板減少性紫斑病などの軽視できない合併症を起こすことがあり、実際、毎年入院する人も出ています。そして、もっとも怖いのがCRSです。感染者が免疫の不十分な妊娠初期の女性と飛沫が飛ぶ範囲(1~2m以内)で接触することで感染が生じ、高確率でお腹の赤ちゃんに障害を負わせてしまいます。この「自分が加害者になる怖さ」をしっかり説明することで、納得して受診くださる方が多くいます。

誤解3)風疹になったら家にいるから他人には伝染させないよ
 風疹は発症する1週間前から他人に感染します。自覚症状のないまま職場や公共の場に出ることがどれだけ危険なことか、これも直接伝えると理解していただけます。

 最近は、企業単位で風疹対策取り組む例も出ています。先日、ある企業で全社員対象に風疹の講演をしてきました。こうした企業からの発信もぜひ広げていただきたいと思います。ターゲット世代の男性が多く集まる場所、たとえば献血ルームなどの場所での情報提供や予防啓発にも力を入れていきたいと考えています。志を同じくする医療者の方のご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

(ケアネット 杉崎 真名)