腰痛診療ガイドライン2019発刊、7年ぶりの改訂でのポイントは?

2019年5月13日、日本整形外科学会と日本腰痛学会の監修による『腰痛診療ガイドライン2019』(編集:日本整形外科学会診療ガイドライン委員会、腰痛診療ガイドライン策定委員会)が発刊された。本ガイドラインは改訂第2版で、初版から実に7年ぶりの改訂となる。
いまだに「発展途上」な腰痛診療の道標となるガイドライン
初版の腰痛診療ガイドライン作成から現在に至るまでに、腰痛診療は大きく変遷し、多様化した。また、有症期間によって病態や治療が異なり、腰痛診療は複雑化してきている。そこで、科学的根拠に基づいた診療(evidence-based medicine:EBM)を患者に提供することを理念とし、『Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014』で推奨されるガイドライン策定方法にのっとって腰痛診療ガイドライン2019は作成された。腰痛診療ガイドライン2019は9つのBackground Questionと9つのClinical Question
腰痛診療ガイドライン2019では、疫学的および臨床的特徴についてはBackground Question (BQ)として解説を加え、それ以外の疫学、診断、治療、予防についてはClinical Question (CQ)を設定した。それぞれのCQに対して、推奨度とエビデンスの強さが設定され、益と害のバランスを考慮して評価した。推奨度は、「1.行うことを強く推奨する」、「2.行うことを弱く推奨する(提案する)」、「3.行わないことを弱く推奨する(提案する)」、「4.行わないことを強く推奨する」の4種類で決定する。エビデンスの強さは、「A(強):効果の推定値に強く確信がある」、「B(中):効果の推定値に中程度の確信がある」、「C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である」、「D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない」の4種類で定義される。腰痛診療ガイドライン2019では腰痛の定義がより明確に
腰痛診療ガイドライン2019において、腰痛は「疼痛の部位」、「有症期間」、「原因」の3つの観点から定義された。疼痛の部位からの定義では、「体幹後面に存在し、第12肋骨と殿溝下端の間にある、少なくとも1日以上継続する痛み。片側、または両側の下肢に放散する痛みを伴う場合も、伴わない場合もある」とされた。有症期間からは、発症から4週間未満のものを急性腰痛、発症から4週間以上3ヵ月未満のものを亜急性腰痛、3ヵ月以上継続するものを慢性腰痛と定義した。原因別の定義では、「脊椎由来」、「神経由来」、「内臓由来」、「血管由来」、「心因性」、「その他」に分類される。とくに「悪性腫瘍」、「感染」、「骨折」、「重篤な神経症状を伴う腰椎疾患」といった重要疾患を鑑別する必要がある。腰痛診療ガイドライン2019では運動療法は慢性腰痛に対して強く推奨
腰痛診療ガイドライン2019では、運動療法については「急性腰痛」、「亜急性腰痛」、「慢性腰痛」のそれぞれについて評価され、そのうち「慢性腰痛」に対しては、「運動療法は有用である」として強く推奨(推奨度1、エビデンスの強さB)されている。それに対して、「急性腰痛」、「亜急性腰痛」に対してはエビデンスが不明であるとして推奨度は「なし」とされた。腰痛診療ガイドライン2019では各薬剤の推奨度とエビデンスの強さを評価
腰痛診療ガイドライン2019が初版と大きく異なる点は、推奨薬の評価方法である。まず、腰痛診療ガイドライン2019では、「薬物療法は疼痛軽減や機能改善に有用である」として、強く推奨(推奨度1、エビデンスの強さB)されている。そのうえで、腰痛を「急性腰痛」、「慢性腰痛」、「坐骨神経痛」に区別して、各薬剤についてプラセボとのランダム化比較試験のシステマティックレビューを行うことでエビデンスを検討し、益と害のバランスを評価して推奨薬を決定した。オピオイドについては、過量使用や依存性を考慮して弱オピオイドと強オピオイドに分けられている。腰痛診療ガイドライン2019での各薬剤の推奨度とエビデンスの強さは以下のとおり。
●急性腰痛に対する推奨薬
<非ステロイド性抗炎症薬>
推奨度1、エビデンスの強さA
<筋弛緩薬>
推奨度2、エビデンスの強さC
<アセトアミノフェン>
推奨度2、エビデンスの強さD
<弱オピオイド>
推奨度2、エビデンスの強さC
<ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液>
推奨度2、エビデンスの強さC
●慢性腰痛に対する推奨薬
<セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬>
推奨度2、エビデンスの強さA
<弱オピオイド>
推奨度2、エビデンスの強さA
<ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液>
推奨度2、エビデンスの強さC
<非ステロイド性抗炎症薬>
推奨度2、エビデンスの強さB
<アセトアミノフェン>
推奨度2、エビデンスの強さD
<強オピオイド>(過量使用や依存性の問題があり、その使用には厳重な注意を要する)
推奨度3、エビデンスの強さD
<三環系抗うつ薬>
推奨度なし*、エビデンスの強さC
(*三環系抗うつ薬の推奨度は出席委員の70%以上の同意が得られなかったために「推奨度はつけない」こととなった)
●坐骨神経痛に対する推奨薬
<非ステロイド性抗炎症薬>
推奨度1、エビデンスの強さB
<Caチャネルα2δリガンド>
推奨度2、エビデンスの強さD
<セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬>
推奨度2、エビデンスの強さC
(ケアネット)
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