左心室収縮能低下を伴う多枝病変、PCIかCABGか

提供元:ケアネット

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公開日:2016/06/07

 

 左心室の収縮機能低下を伴う多枝冠動脈病変について、ガイドラインは経皮的冠動脈インターベンション(PCI)よりも冠動脈バイパス術(CABG)を推奨しているが、両者を比較した無作為化試験はこれまで行われていない。今回、レジストリに登録された患者から傾向スコアを用いて一致させた患者を抽出し、両者を比較した結果がCirculation誌2016年5月31日号(オンライン版2016年5月5日号)に発表された。

傾向スコアを用いてPCI群とCABG群を比較

 American College of Cardiology Foundation(ACCF)/American Heart Association(AHA)の安定虚血性疾患に対するガイドラインでは、左室駆出率(LVEF)35%以下の患者の生存率の改善に対してCABGがクラスII bの推奨度で推奨されている一方で、PCIは推奨されておらず、再灌流療法の選択に関しては付随する臨床情報を基に判断することになっている。

 本試験のデータは、ニューヨーク州の非連邦病院で登録が義務付けられているレジストリ[New York State Percutaneous Coronary Intervention Reporting System(PCIRS)とthe Cardiac Surgery Reporting System(CSRS)]から抽出した。2008~11年にLVEF≦35%で多枝冠動脈病変を有し、エベロリムス溶出ステント(EES)を使用したPCIもしくはCABGを受けた患者が対象となった。なお、以下に当てはまる患者は除外された:1)50%以上の左主冠動脈病変を有する患者(CABGを優先的に施行するため)、2)CABGもしくは心臓弁の手術を受けた患者(再度開心術を受ける可能性が低いため)、3)PCIもしくはCABG前、24時間以内に心筋梗塞を起こした患者(PCIを優先的に施行するため)、4)PCI施行時にEES以外のステントを使用した患者、5)過去1年以内に再灌流療法の既往がある患者、6)血行動態が不安定もしくは心原性ショックの患者。

 傾向スコアを用いてマッチングさせたPCIを受けた患者(PCI群)とCABGを受けた患者(CABG群)、各1,063例を比較した。1次評価項目は長期フォローアップ中の全死亡。2次評価項目は心筋梗塞、脳卒中、および冠動脈に対する再灌流療法の施行。フォローアップ期間の中央値は2.9年であった。

死亡率は同等、2次評価項目に有意差あり

 短期間(30日以内)のフォローアップでは、両群の死亡率に差は認められなかった(HR:0.62、95% CI:0.31~1.24、p=0.17)が、PCI群はCABG群に比べて脳卒中のリスクが95%も低かった(0.1% vs. 1.8%、HR:0.05、95% CI:0.01~0.39、p=0.004)。長期間のフォローアップでも両群の死亡率は同等であった(HR:1.01、95% CI:0.81~1.28、p=0.91)。PCI群は、脳卒中の発生率が有意に低かったが(HR:0.57、95% CI:0.33~0.97、p=0.04)、心筋梗塞(HR:2.16、95% CI:1.42~3.28、p=0.0003)および冠動脈再灌流の発生率(HR:2.54、95% CI:1.88~3.44、p<0.0001)は有意に高かった。

 著者らは、日本でも使用が始まったエベロリムス溶出ステントなどの新世代のステントを使用したPCIがCABGの代替オプションになりうると結論付けている。しかし、傾向スコアを用いても測定されない交絡因子の可能性が否定できないこと、冠動脈病変の複雑性を評価するSYNTAXスコアやCABGリスクを評価するSTS、EuroSCOREなどを用いていないことを本試験の欠点に挙げている。

(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)