日本語でわかる最新の海外医学論文|page:5

「高齢者の安全な薬物療法GL」が10年ぶり改訂、実臨床でどう生かす?

 高齢者の薬物療法に関するエビデンスは乏しく、薬物動態と薬力学の加齢変化のため標準的な治療法が最適ではないこともある。こうした背景を踏まえ、高齢者の薬物療法の安全性を高めることを目的に作成された『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』が2025年7月に10年ぶりに改訂された。今回、ガイドライン作成委員会のメンバーである小島 太郎氏(国際医療福祉大学医学部 老年病学)に、改訂のポイントや実臨床での活用法について話を聞いた。  前版である2015年版では、高齢者の処方適正化を目的に「特に慎重な投与を要する薬物」「開始を考慮するべき薬物」のリストが掲載され、大きな反響を呼んだ。2025年版では対象領域を、1.精神疾患(BPSD、不眠、うつ)、2.神経疾患(認知症、パーキンソン病)、3.呼吸器疾患(肺炎、COPD)、4.循環器疾患(冠動脈疾患、不整脈、心不全)、5.高血圧、6.腎疾患、7.消化器疾患(GERD、便秘)、8.糖尿病、9.泌尿器疾患(前立腺肥大症、過活動膀胱)、10.骨粗鬆症、11.薬剤師の役割 に絞った。評価は2014~23年発表の論文のレビューに基づくが、最新のエビデンスやガイドラインの内容も反映している。新薬の発売が少なかった関節リウマチと漢方薬、研究数が少なかった在宅医療と介護施設の医療は削除となった。

片頭痛予防に有効な食事パターンは?

 片頭痛は、患者の生活の質に重大な影響を及ぼす一般的な神経疾患である。食事パターンは、片頭痛の予防とマネジメントにおいて、潜在的に重要な因子として認識されている。イラン・Kerman University of Medical SciencesのVahideh Behrouz氏らは、地中海式ダイエット、高血圧予防のための食事療法DASH食、神経発生遅延のための地中海-DASH食介入(MIND)、ケトジェニックダイエット、低脂肪食、低血糖食、グルテンフリーダイエット、断食ダイエットなど、さまざまな食事パターンを比較分析し、片頭痛の予防とマネジメントにおける有効性を評価し、その根底にあるメカニズムを明らかにするため、システマティックビューを実施した。Brain and Behavior誌2025年7月号の報告。

胎児超音波検査での医療者の言葉が親子関係に影響か

 もうすぐ親になるという人たちにとって、初めてわが子の姿を目にする機会は超音波検査であることが多い。こうした超音波検査で病院のスタッフがお腹の中の子どもについて発した言葉が、その後の育児に良い影響を与えたり、逆に悪い影響を与えたりする可能性のあることが、新たな研究で示唆された。米ノートルダム大学心理学分野のKaylin Hill氏らによるこの研究の詳細は、「Communications Psychology」に5月5日掲載された。  Hill氏らはまず、妊娠11~38週の妊婦320人を対象に聞き取り調査を実施し、その時点でお腹の赤ちゃんがどんな子であると感じているかを尋ねた。その後、生後18カ月の時点で、子どもの行動面や情緒面の問題について評価してもらった。173人が生後18カ月の追跡調査を完了した。

がん免疫療法の効果に自己抗体が影響か

 がんに対する免疫チェックポイント阻害薬(CPI)を用いた治療は、一部の患者では非常に高い効果を示す一方でほとんど効果が得られない患者もおり、その理由は不明である。しかし、その解明につながる可能性のある知見が得られたとする研究結果が報告された。患者自身の自己抗体(自分の細胞や組織の成分を標的として産生される抗体)が、CPIに対する反応に極めて大きな影響を及ぼしている可能性のあることが示されたという。米フレッド・ハッチンソンがんセンターの免疫療法学科長であるAaron Ring氏らによるこの研究結果は、「Nature」に7月23日掲載された。

45~49歳の大腸がん検診、受診率を上げるには/JAMA

 米国の45~49歳の大腸がん検診において、既定の郵送型免疫化学的便潜血検査(FIT)と比較して参加者自身の能動的選択(FITまたは大腸内視鏡検査を3種類のアウトリーチ戦略で選ぶ)に基づく検査はいずれも、6ヵ月後の検診の受診率が劣ることが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のArtin Galoosian氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年8月4日号に掲載された。  米国では、2021年、大腸がんの検診開始年齢が45歳に引き下げられたが、この年齢層における最適な受診促進法は明らかでない。研究グループは、45~49歳の年齢層における大腸がん検診の受診を促進するための、集団健康施策(population health)上の最も効果的なアウトリーチ戦略を決定する目的で、研究者主導の無作為化臨床試験を行った(UCLA Melvin and Bren Simon Gastroenterology Quality Improvement Programなどの助成を受けた)。

高齢期も自由を失い管理される時代になるのだろうか?(解説:岡村毅氏)

20世紀の人々は、○○を食べると認知症にならない、という夢物語をよく語っていた。例の○○オイルなどだ。その背景には、人々は認知症のこともまだあまり知らず、よくわかんないけど、なりたくないよね、恐ろしいよね、という無垢な認識であったことが挙げられる。大学病院でも、認知症と精神疾患の人はオペ室には入れるべからず、などといわれていた。こういう時代だからこそ「実は○○がよい」みたいな魔法の杖のような話が受ける。何も知らない人同士が無責任に話している世間話にすぎないからだ。これをハイデガーなら頽落と呼ぶかもしれない。

透析前の運動は透析中の運動と同様に心筋スタニングを抑制

 透析中の運動療法が血液透析誘発性心筋スタニングを軽減することが報告されているが、日常診療での実施には設備やスタッフ配置など多くの課題がある。今回、透析前の運動療法でも透析中の運動療法と同等の心保護効果があることが、フランス・Avignon UniversityのMatthieu Josse氏らによって明らかになった。Clinical Journal of the American Society of Nephrology誌オンライン版2025年8月12日号掲載の報告。  本研究は非盲検ランダム化クロスオーバー試験として実施され、末期腎不全患者25例を対象に、(1)運動療法を伴わない標準的な血液透析を実施(標準透析)、(2)血液透析中に運動療法を実施(透析中運動)、(3)運動療法を実施してから血液透析を開始(透析前運動)の3種類の介入をランダムな順序でそれぞれ実施した。2次元心エコー検査と全血粘度の測定は、透析開始直前と透析中負荷ピーク時に実施した。心血管血行動態は30分ごとにモニタリングした。

アルツハイマー病に伴うアジテーションに対するブレクスピプラゾール、最大何週目までの忍容性が確認されているか

 認知症高齢者は、抗精神病薬の副作用に対しとくに脆弱である。非定型抗精神病薬ブレクスピプラゾールは、アルツハイマー病に伴うアジテーションに対する治療薬として、多くの国で承認されている。米国・Otsuka Pharmaceutical Development & CommercializationのAlpesh Shah氏らは、認知症患者に対するブレクスピプラゾールの安全性と忍容性を評価するため、3つのランダム化試験と1つの継続試験の統合解析を行った。CNS Drugs誌オンライン版2025年7月19日号の報告。  アルツハイマー病に伴うアジテーションを有する認知症患者を対象とした、3つの12週間ランダム化二重盲検プラセボ対照第III相試験と、1つの12週間実薬継続第III相試験のデータを統合した。安全性アウトカムには、治療関連有害事象(TEAE)、体重変化、自殺念慮、錐体外路症状、認知機能障害を含めた。検討対象となったデータセットは2つ。1つは、ブレクスピプラゾール0.5〜3mg/日とプラセボを投与した3つのランダム化試験のデータを統合した12週間のデータセット。もう1つは、ブレクスピプラゾール2〜3mg/日の親ランダム化試験と継続試験のデータを統合した24週間のデータセット。

死亡診断のために知っておきたい、死後画像読影ガイドライン改訂

 CT撮影を患者の生前だけではなく死亡時に活用することで、今を生きる人々の疾患リスク回避、ひいては医師の医療訴訟回避にもつながることをご存じだろうか―。2015年に世界で唯一の『死後画像読影ガイドライン』が発刊され、2025年3月に2025年版が発刊された。改訂第3版となる本書では、個人識別や撮影技術に関するClinical Questionや新たな画像の追加を行い、「見るガイドライン」としての利便性が高まった。今回、初版から本ガイドライン作成を担い、世界をリードする兵頭 秀樹氏(福井大学学術研究院医学系部門 国際社会医学講座 法医学分野 教授)に、本書を活用するタイミングやCT撮影の意義などについて話を聞いた。

運動ベースの心臓リハビリは心房細動患者にも有効

 医師は、心筋梗塞や心不全を発症した患者にしばしば運動ベースの心臓リハビリテーション(以下、心臓リハビリ)を処方する。新たな研究で、そのような心臓リハビリプログラムは心房細動(AF)と呼ばれる一般的な不整脈を有する患者にも適しており、症状の改善にも役立つ可能性のあることが示された。英リバプール心臓血管科学センターのBenjamin Buckley氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に7月29日掲載された。  運動ベースの心臓リハビリには、運動トレーニングに加えて、個別化された生活習慣リスクの管理、心理社会的介入、医学的リスク管理、健康行動に関する教育が含まれている。こうしたリハビリは、心筋梗塞を起こした患者や心不全と診断された患者、あるいは冠動脈ステント留置術を受けた患者に用いられるが、AF患者に適しているかどうかは不明なため、国際的なAF治療ガイドラインには含まれていない。

週末にまとめて行う運動でも糖尿病患者の死亡リスク低下

 平日は多忙などの理由で運動できず、週末にまとめて運動を行う、いわゆる“週末戦士”と呼ばれる身体活動パターンであっても、糖尿病患者の死亡リスク抑制につながることを示すデータが報告された。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のZhiyuan Wu氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に7月22日掲載された。  糖尿病でない一般集団においては、週末戦士のような身体活動パターンも死亡リスクの低下と関連していることが既に示されている。しかし糖尿病患者でも同様の関連があるのかは、これまで不明だった。そこでWu氏らは、前向きコホート研究により、週末戦士に該当するパターンを含む成人糖尿病患者のさまざまな身体活動パターンと、死亡リスクとの関連を検討した。

ビタミンDはCOVID-19の重症化を予防する?

 血中のビタミンDレベルが低い人では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患時に重症化するリスクが高まるようだ。新たな研究で、ビタミンD欠乏症の人は新型コロナウイルス感染により入院する可能性が36%高くなることが示された。南オーストラリア大学(オーストラリア)のKerri Beckmann氏らによるこの研究結果は、「PLOS One」に7月18日掲載された。  2022年に報告された研究によると、米国人の約5人に1人(22%)はビタミンD欠乏症であるという。この研究では、UKバイオバンク参加者のデータを用いて、血中のビタミンDレベルと新型コロナウイルス感染およびCOVID-19による入院との関連を検討した。対象は、2006年から2010年のベースライン時にビタミンDレベルを1回以上測定し、新型コロナウイルスのPCR検査結果が記録されている15万1,543人である。ビタミンDレベルは、欠乏(0〜<24nmol/L)、不足(25〜50nmol/L)、正常(>50nmol/L)の3群に分類した。

1型糖尿病への同種β細胞移植、拒絶反応なく生着/NEJM

 同種細胞移植では、術後に免疫系の抑制を要するが、これにはさまざまな副作用が伴う。スウェーデン・ウプサラ大学のPer-Ola Carlsson氏らの研究チームは、拒絶反応を回避するよう遺伝子編集されたヒト低免疫化プラットフォーム(hypoimmune platform:HIP)膵島細胞製剤(UP421)を、罹病期間が長期に及ぶ1型糖尿病患者の前腕の筋肉に移植した。免疫抑制薬は投与しなかったが、12週の時点で拒絶反応は発現しなかった。本研究は、Leona M. and Harry B. Helmsley Charitable Trustの助成を受けて行われ、NEJM誌オンライン版2025年8月4日号で報告された。

新たなエビデンス踏まえ薬物療法・ゲノム検査など改訂「膵癌診療ガイドライン」/日本膵臓学会

 2025年7月、「膵癌診療ガイドライン」が改訂された。2022年から3年ぶりの改訂で、第7版となる。Minds診療ガイドライン作成マニュアルに基づいて作成され、Background Question、Clinical Question(CQ)のほか、エビデンスが足りないなどでシステマティック・レビューができない項目はFuture Research Question(FRQ)として新設された。  7月25~26日に行われた第56回日本膵臓学会大会では、「膵癌診療ガイドライン 2025―改訂のポイント」と題したセッションが開催され、外科的治療、薬物療法、放射線治療、支持・緩和療法など、9つの専門グループから改訂点が発表された。同学会の教育セミナー「がん薬物療法・ゲノム医療」において森實 千種氏(国立がん研究センター中央病院)が紹介した内容と合わせ、薬物療法を中心に、本ガイドラインの主な改訂点を紹介する(文中下線は編集部)。

オセルタミビルは小児の神経精神学的イベントを減少させる

 インフルエンザウイルス感染症では、オセルタミビルなどの治療薬による神経精神学的リスクの増大が懸念されている。しかし、インフルエンザ感染や治療薬が小児の神経精神学的イベントとどのように関係するのか不明な点も多い。この課題について、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのJames W. Antoon氏らの研究グループは、インフルエンザ、オセルタミビル、および重篤な神経精神学的イベントとの関連性を検討した。

カフェインは夜より日中の眠気に影響!?

 カフェイン含有飲料の摂取が増加すると睡眠パターンが乱れることが知られている。英国・ブリストル大学のNilabhra R. Das氏らは、カフェイン摂取量、カフェイン代謝、睡眠特性の指標として遺伝子変異を用いて、睡眠に対するカフェインの直接的な影響を検証した。Journal of Sleep Research誌オンライン版2025年7月14日号の報告。  対象は、英国バイオバンクを含む複数の研究から特定されたカフェイン摂取量(40万7,072人)、カフェイン代謝(9,876人)、クロノタイプ(44万9,734人)、日中の昼寝(45万2,633人)、日中の眠気(45万2,071人)、朝の起床(38万5,949人)、不眠症(45万3,379人)、睡眠時間(44万6,118人)。これらに関連する遺伝子変異を用いて、一連の単変量メンデルランダム化解析により、カフェインと睡眠の双方向の因果関係を調査した。カフェイン摂取が睡眠行動に直接的に及ぼす影響を、代謝と睡眠行動をそれぞれ調整しながら探索するため、多変量メンデルランダム化解析を用いた。

心不全患者で不足しがちな微量元素は?

 亜鉛、銅、セレンなどの微量元素は、ミトコンドリア機能へ影響を及ぼすこともあり、亜鉛不足が心不全の予後に関連するなど単一元素の不足については報告されている。しかし、微量元素の複合的な影響については十分に解明されていない。今回、名古屋大学のNagai Shin氏らは、急性心不全患者における微量元素の異常と臨床転帰への関連について明らかにし、微量元素異常の是正が心不全管理における新たな目標となる可能性を示唆した。Journal of Cardiology誌2025年7月25日号掲載の報告。

インスリン点鼻スプレー、アルツハイマー治療に新アプローチ

 点鼻スプレーによるインスリンの投与が、アルツハイマー病の治療法の一つになる可能性のあることが、新たな研究で示された。小規模な高齢者の集団において、点鼻スプレーで投与されたインスリンが、脳内の記憶に関わる重要な領域に到達したことが確認されたという。米ウェイクフォレスト大学医学部老年医学教授のSuzanne Craft氏らによるこの研究の詳細は、「Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」に7月23日掲載された。  ホルモンの一種であるインスリンは脳の働きを増強する可能性があることから、アルツハイマー病の新たな治療法として使える可能性が注目されている。Craft氏らによると、インスリン抵抗性はアルツハイマー病の既知のリスク因子でもあるという。しかしこれまでの研究では、鼻から投与されたインスリンが本当に脳の標的領域に到達しているのか確認できていなかった。

終末期介護施設入居者の救急搬送や入院、多くは回避可能

 入院や救急外来(ED)受診は、介護施設入居者、特に重度の障害を抱えているか終末期にある人にとっては大きな負担となり費用もかさむ。しかし、介護施設入居者が病院へ搬送されることは少なくない。このほど新たな研究で、このような脆弱な状態にある介護施設入居者によるED受診の70〜80%、また入院の約3分の1は回避可能であった可能性のあることが示された。米フロリダ・アトランティック大学シュミット医科大学老年医学教授のJoseph Ouslander氏らによるこの研究結果は、「The Journal of the American Medical Directors Association(JAMDA)」7月7日号に掲載された。  Ouslander氏らは、終末期の介護施設入居者が入院に至った原因として多かったのは、肺炎、尿路感染症、敗血症であったが、介護施設での医療と管理の質がもっと良ければ、それらの入院は必要なかったはずだと主張している。同氏は、「これらの健康問題は、施設でのケアを改善するために実行可能な手段があることを明示している。既存のガイドライン、ケアパス、予防戦略を用いれば、これらの問題は適切に管理できる。適切なツールと人員を整えることでED受診や入院の多くは回避可能であり、入居者の苦痛と不必要な医療費の両方を減らすことができる」と述べている。

ペスト治療、経口治療は注射+経口治療に非劣性/NEJM

 ペストの症例数は過去100年にわたり着実に減少し、2018年にWHOに報告された症例数は248件である(うち98%はマダガスカルとコンゴ)。しかし、ペストは広範囲に分布するげっ歯類を媒介としてエピデミックとなる可能性やバイオテロに利用される可能性があり、頻度は低いが重大な被害を引き起こす感染症である。マダガスカル・パスツール研究所のRindra Vatosoa Randremanana氏らIMASOY Study Groupは、現行の治療ガイドラインでは複数の治療レジメンが推奨されているが、裏付けとなるエビデンスは弱く、成功裏に完了した重要な(pivotal)無作為化対照試験はないことから、2つの治療選択肢を比較する無作為化対照試験を実施した。NEJM誌2025年8月7日号掲載の報告。