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<先週の動き> 1.75歳以上の医療費負担が10月から増加 300万人に影響/厚労省 2.新型コロナワクチン、接種費用は最大1万5千円で定期接種10月開始へ/厚労省 3.「睡眠障害内科」の標榜科を新設へ議論開始/厚労省 4.美容医療広告に違反横行 GLP-1ダイエット拡大で健康被害の懸念/厚労省 5.江別谷藤病院の給与未払い、釧路にも波及 職員無給で診療継続/北海道 6.県立こども病院で電子カルテ撮影・送信 20代看護師を停職処分/長野県 1.75歳以上の医療費負担が10月から増加 300万人に影響/厚労省10月1日から、75歳以上の後期高齢者の一部で外来医療費の自己負担が実質的に増える。2022年10月以降、「一定以上の所得」がある高齢者は負担割合が1割から2割に引き上げられていたが、急な負担増を抑えるために導入された「配慮措置」(外来での負担増を月3,000円までに抑制)が9月末で終了する。これにより、たとえば5万円の医療費の場合、これまで窓口支払いは8,000円で済んでいたものが、10月からは1万円の2割負担を全額支払うことになる。対象は後期高齢者の約20%、全国で380~390万人とされ、その大半が今回の影響を受ける。財政背景として、後期高齢者医療制度は患者負担以外に公費が5割、現役世代からの支援金が4割を占め、医療費の膨張に伴い現役世代の負担が重くなっている。2023年度の支援金は7兆1,059億円と過去最高を記録し、制度の持続には高齢者の応分負担が避けられない状況。今後、政府は、3割負担の対象拡大や介護保険での負担増も検討しており、今回の配慮措置終了は「改革の試金石」と位置付けられている。医療現場にとっては、患者からの負担増に関する問い合わせが急増することが予想される。厚労省は医療機関に対し、診療報酬請求の円滑化に向けたレセプトコンピュータ改修を呼びかけるとともに、疑問が生じた場合には2026年3月末まで設置される専用コールセンターに問い合わせるよう要請している。とくに高齢患者では、治療継続への不安や通院控えが生じる可能性もあり、疾患の悪化を防ぐためにも医師主導の情報提供と適切なフォローアップが欠かせない。制度改正を背景に、診療現場には医療の質を保ちながら患者の生活を支える視点がいっそう求められている。 参考 1) 75歳以上、来月から医療費負担増 窓口2割の300万人 現役負荷抑制 改革の試金石に(日経新聞) 2) 高齢者の医療費、2割全額負担 10月から軽減措置撤廃(同) 3) 後期2割負担の配慮措置終了で「レセコン改修を」厚労省が呼び掛け 診療報酬請求の円滑化で(CB news) 2.新型コロナワクチン、接種費用は最大1万5千円で定期接種10月開始へ/厚労省厚生労働省は9月5日、新型コロナウイルスワクチンの定期接種に用いる製品を5種類に決定した。対象は65歳以上の高齢者と基礎疾患を有する60~64歳で、実施期間は2025年10月1日~2026年3月末まで。今回使用されるのは、米国ファイザー・米国モデルナ・第一三共のmRNAワクチン、武田薬品工業の組み換えタンパクワクチン、Meiji Seikaファルマの「レプリコン」ワクチン(細胞内でmRNAが複製される新型製剤)の計5製品で、いずれも昨年度に使用実績があるもの。標的はオミクロン株の「LP・8・1」と「XEC」だが、国内流行中の変異株「ニンバス」に対しても効果が期待されるとしている。接種費用は1回当たり約1万5,000円が見込まれているが、国による助成(8,300円/回)は昨年度で終了した。本年度は自治体独自の補助に限られ、自治体によっては自己負担額が増える可能性もある。定期接種の対象外となる人は、原則全額自己負担となる点も留意が必要である。医療現場にとっては、(1)対象者の確認(年齢・基礎疾患の有無)、(2)ワクチンの種類ごとの特徴や接種スケジュールの説明、(3)自己負担に関する事前の情報提供、が求められる。とくに高齢患者からは「どのワクチンを選べばよいか」「費用はいくらかかるか」といった質問が想定されるため、最新情報を把握し、自治体の補助制度と合わせてわかりやすく伝えることが重要である。また、定期接種対象外であっても希望する患者に対しては、全額自己負担となるため、感染リスクや効果・副反応を踏まえた意思決定支援が必要になる。今回の決定は、感染の再拡大が懸念される冬季に向けた備えと位置付けられる。医師には、患者への丁寧な説明と同時に、接種体制やワクチン在庫管理を含む運営面での調整も期待されている。 参考 1) 新型コロナワクチンの接種について(厚労省) 2) コロナ定期接種に5製品 変異株「ニンバス」にも効果期待 10月1日から、厚労省(産経新聞) 3) コロナワクチン定期接種、5製品の使用決定 10月から 厚労省(毎日新聞) 3.「睡眠障害内科」の標榜科を新設へ議論開始/厚労省厚生労働省は9月4日、医道審議会診療科名標榜部会で、医療機関が掲げられる標榜診療科に「睡眠障害」を追加するか検討を開始した。標榜診療科の追加は、2008年の規制緩和以来初めてとなる見通しで、2026年3月ころの取りまとめを予定している。背景には、日本人の睡眠時間が国際的に最短水準であり、5人に1人が十分な休養を取れていないという状況がある。睡眠障害は高血圧、糖尿病、肥満など生活習慣病リスクを高め、事故や労働生産性低下にもつながるとされ、経済損失はGDPの約3%、年15兆円規模との試算もある。現在、睡眠障害の診療は精神科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科など多岐にわたり、患者にとって受診先がわかりにくいことが課題とされてきた。日本睡眠学会は「睡眠障害内科」「睡眠障害精神科」といった標榜を可能にするよう厚労省に要望し、理事長の内村 直尚氏(久留米大学長)は「診療科名が明示されればアクセスが改善し、早期診断・治療を通じて国民の健康増進に寄与できる」と強調した。学会は、標榜追加に必要な「独立性」「国民ニーズ」「わかりやすさ」「知識の普及」の4条件を満たすと説明している。医療側にとっては、新たな標榜が実現すれば患者からの期待が高まり、より明確な診療体制と説明責任が求められる。すでに精神科・内科・耳鼻科などで睡眠障害の診療は行われているが、診療科名として標榜する医療機関の受診者は「専門的な対応」を期待することになる。このため、医師は最新の診断や治療法に関する知識のアップデートが求められる。その一方、地域での診療連携や専門機関との協力体制をどう整えるかが今後の課題となる。 参考 1) 第6回医道審議会医道分科会診療科名標榜部会[資料](厚労省) 2) 診療科名に「睡眠障害」を加えるか検討開始 厚生労働省の医道審議会部会(産経新聞) 3) 「睡眠障害」を診療科追加へ議論 厚労省部会 5人に1人が眠り不十分(毎日新聞) 4) 不眠大国ニッポン ぐっすり眠れてますか? 9月3日は「睡眠の日」(同) 5) 診療科名「睡眠障害内科」可能に、厚労省部会が初の追加を議論(日経新聞) 4.美容医療広告に違反横行 GLP-1ダイエット拡大で健康被害の懸念/厚労省美容医療を巡る広告トラブルが全国で急増している。とくに糖尿病治療薬「GLP-1受容体作動薬」を用いた「GLP-1ダイエット」は、痩せ願望の強い若年女性を中心に広がり、低体重の人がさらに痩せようとする傾向も指摘される。健康被害への懸念が強まるなか、厚生労働省はネット広告の監視を強化している。厚労省によると、2023年度に確認された美容医療関連の広告違反は362サイトで計2,888ヵ所。全体では1,098サイト6,328ヵ所に上り、医療広告分野で最多となった。内容はリスクや副作用の説明が不十分な自由診療の宣伝が目立ち、「必ず痩せる」「満足度99%」など虚偽や誇大表現も横行している。SNSでのビフォーアフター写真や体験談の掲載、有名人利用を強調する手法も規制対象となるが、実際には多くが違反に該当している。実際に都内の30代女性は「痩せる注射」と宣伝された施術を5回受けたが効果はなく、高熱の副作用に苦しんだ。それでも返金は拒否され「だまされた気持ち」と悔しさを語る。国民生活センターへの相談も2023年度は約5,500件に達し、契約トラブルや副作用被害が後を絶たない。厚労省は医療機関に対し、効果には個人差があること、費用や解約条件を丁寧に説明するよう要請。さらにネットパトロールを拡大し、自治体と連携した改善要請や行政指導を強める方針だ。ただ立ち入り検査に消極的な自治体も多く、対応にばらつきが残るのが課題となっている。専門家は「SNSを通じた、偏った情報が女性の健康観に影響を与えている」と警鐘を鳴らし、国には具体的な指導事例の集約と実効性ある取り締まりが求められる。一方で、患者自身も広告を見極める「ヘルスリテラシー」を高めることが不可欠とされ、社会全体での啓発が急務となっている。 参考 1) 美容医療広告のトラブル多発 低体重でも「痩せ願望」強い女性に糖尿病薬のリスク説明不足(産経新聞) 2) 「必ず手術成功」「満足度99%」など違法な医療広告が横行…「違反」1,000サイト超、厚労省確認(読売新聞) 3) “ビフォーアフター写真の加工”“体験談の掲載”はNG!「美容医療広告のルール」を専門家が解説(TOKYO FM) 4) 医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書[第5版](厚労省) 5.江別谷藤病院の給与未払い、釧路にも波及 職員無給で診療継続/北海道北海道江別市と釧路市で医療法人社団「藤花会」が運営する江別谷藤病院、釧路谷藤病院など複数の病院で、医師や職員約300人分の給与が7月から2ヵ月連続で支払われていないことが明らかになった。経営悪化が背景にあり、資材や人件費の高騰が要因とされる。未払いは非常勤を除くほぼ全職員に及び、江別谷藤病院ではすでに10人以上が退職届を提出。9月5日からは患者の受け入れを縮小する事態となっている。江別谷藤病院は1969年開設、病床数122床の中核病院で、夜間・休日の当番病院も担う。しかし、給与未払いが続く中、職員は「患者や仲間のため」と無給で診療を継続している。理事長の谷藤 方俊氏は「経営的な問題が原因」と説明し、「できる限り早期に未払い分を全額支給し、法人の再建に取り組む」とコメントした。地元医師会も「説明がないまま混乱している」と困惑を示し、弁護士は「職員は職業倫理から働き続けているが、地域社会全体で解決に踏み込む必要がある」と指摘する。江別市民からも「将来の診療体制が心配」と不安の声が広がる。当初は江別谷藤病院の問題として報じられたが、同法人が運営する釧路谷藤病院にも同様の給与未払いが波及。法人全体の経営危機が浮き彫りとなった。今後、さらなる退職者増や医療体制の縮小が懸念されており、地域医療の持続性が問われている。 参考 1) 北海道の病院で給料2ヵ月未払い 医師や職員など300人分(共同通信) 2) 「無給でも患者のため」給与未払い2カ月連続 江別谷藤病院で異例事態「地域社会全体で踏み込まなくては」(HTBニュース) 3) 江別谷藤病院、釧路谷藤病院などで2か月分の給与未払い 資材や人件費高騰で経営悪化 江別では5日から患者の受け入れ縮小(北海道新聞) 6.県立こども病院で電子カルテ撮影・送信 20代看護師を停職処分/長野県長野県安曇野市の県立こども病院に勤務する20代の女性看護師が、患者の電子カルテ画面をスマートフォンで撮影し、通信アプリ「LINE」で知人に送信していたことが明らかとなり、県立病院機構は9月4日付で停職1ヵ月の懲戒処分を科した。看護師は2025年4月、勤務先についての会話の中で患者一覧画面を撮影。画面には診療科や氏名を含む24人分の情報が表示されていたが、氏名や病棟名は黒塗りにして送信していた。現時点で患者個人が特定される情報漏洩は確認されていない。7月に県へ通報があり、病院側が調査を実施し、8月に本件事実を公表した。本人は「職場の実情を知ってもらい、看護師としての苦労を理解してほしかった」と説明し、深く反省している。この事案を受け、病院機構は監督責任として院長と看護部長を厳重注意処分とした。機構は「再発防止に努め、研修や教育を強化する」と表明し、個人情報保護の徹底を改めて職員に求めている。今回のケースでは患者特定に至る被害は確認されていないものの、電子カルテを私的に撮影し、外部へ送信する行為は重大なリスクを伴い、医療現場全体の信頼を損ねかねない。情報セキュリティの観点からも、スタッフ教育と組織的な管理体制の強化が改めて課題として浮き彫りとなった。 参考 1) 職員による情報漏えい事故が発生しました(長野県立こども病院) 2) 電子カルテの一部を外部に漏洩 県立こども病院の20代看護師を懲戒処分(長野朝日放送) 3) 「看護師としての苦労を分かってもらいたかった」 長野県立こども病院の20代女性看護師が電子カルテを撮影し通信アプリで知人に送信 停職1カ月の処分(長野放送)