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高齢の糖尿病を有する人の薬物治療の限界はどこか/日本糖尿病学会

 第69回日本糖尿病学会年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 高齢の糖尿病を有する人では、糖尿病本態だけでなく、心血管障害や認知障害、運動器障害などさまざまな疾患を併存しているケースが多く、治療薬の選択やアドヒアランスのフォローなど考慮することが多岐にわたる。実臨床ではどのように診療を進めるべきであろうか。そこで本稿では、シンポジウム34「超高齢時代のダイアベティス治療はいかにあるべきか」(日本糖尿病学会・日本糖尿病協会合同シンポジウム)より清野 祐介氏(藤田医科大学医学部内分泌・代謝・糖尿病内科学/関西電力医学研究所糖尿病研究センター)の「超高齢2型糖尿病の至適な薬物治療の限界」の講演概要をお届けする。治療薬の工夫が重要な高齢の糖尿病を有する人 高齢の糖尿病を有する人では、糖尿病は高血糖、低血糖、フレイル、サルコペニア、認知機能低下の危険因子となる。また、加齢による肝機能、腎機能の低下がみられることから治療薬の選択では、バランス調整が必要になる。『糖尿病治療ガイド2024』(編集:日本糖尿病学会)では、高齢の糖尿病を有する人の治療の留意点を示しており、「低血糖を避けながら、高血糖をおだやかに是正することが必要」としている。また、糖尿病合併症や他の疾患との併存が多く、服薬数が多くなるのも特徴である。 このような多剤併用はアドヒアランスの低下を来し、高血糖や重症低血糖など致死的なリスクが高くなる。そのために服薬回数の減少や服薬タイミングの統一、一包化、配合薬の選択などが行われているが、緊急時の対応への準備も必要となる。日本糖尿病学会と日本老年医学会が共同制作した『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』(編集:日本老年医学会)では、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」が示されており、3つのカテゴリー別と重症低血糖が危惧される薬剤(インスリンやスルホニル尿素薬[SU薬]など)の使用の有無で、HbA1cの目標値と下限値が示されている。現段階で、超高齢の糖尿病を有する人にこのHbA1cの目標値があてはまるかどうかは不明である。よく理解しておきたい糖尿病治療薬の高齢の患者への影響 糖尿病の治療において、体重を減らすことは、インスリン感受性や糖代謝を改善するのに効果的とされているが、高齢の糖尿病を有する人では、筋肉量や骨量の低下があり、配慮する必要があるとされる。また、高齢の糖尿病を有する人に糖尿病治療薬を使用する際の懸念点としては、たとえばα-グルコシダーゼ阻害薬では服用回数が多い、SGLT2阻害薬では体重減少、チアゾリジン薬では心不全の増悪や女性では骨折リスクの増加、ビグアナイド薬では腎機能低下時に乳酸アシドーシスのリスクの出現、GLP-1受容体作動薬では体重減少、SU薬やグリニド薬では単独で低血糖のリスクが高くなるなどが挙げられる。そのほか、高齢の糖尿病を有する人に頻用されているDPP-4阻害薬では、演者の経験としては便秘など消化器症状の頻度も高く、重症例では腸閉塞を来す例もみられたという。とくに高齢の糖尿病を有する人は、在宅で診療をされている患者が多く、主治医が適切なタイミングでこうしたリスクを防ぐことができるか課題であると指摘する。高齢の糖尿病を有する人にはSU薬とDPP-4阻害薬の使用が多い 糖尿病治療薬の使用などについて、清野氏らが行った多施設共同研究の一端に触れた。この研究では、65歳以上の糖尿病、慢性腎疾患、そのいずれかまたは両方の疾患の患者を対象としたもので、参加施設は糖尿病、腎臓病の専門医を中心とした多職種連携が行われている施設。参加者は1,355例で、65~74歳は767例、75~84歳が523例、85歳以上が65例。これらの参加者のBMI、骨格筋量(SMI)、HbA1c、eGFRなどの数値を計測した。 その結果、85歳を区切りとしてみると、85歳以上では握力、筋力が65~84歳群との比較で顕著に低下していた。使用されている治療薬について85歳以上では体重減少に働くようなSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の使用頻度が低くなっていた。また、乳酸アシドーシスのリスクからビグアナイド薬、心不全のリスクからチアゾリジン薬の使用頻度も低い一方で、SU薬とDPP-4阻害薬は高頻度で使用されていた。また、予想に反してグリニド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬の使用が多く、その理由として「参加者の自己管理能力が高かったことが推定される」と述べた。 本研究では、糖尿病診療支援が整った医療施設で食事療法も薬物療法もしっかりでき、通院や歩行にも問題がない参加者を対象としていることから、このような結果につながったと推察している。しかし、実臨床の現場では、通院ができずに糖尿病非専門医による在宅医療を受けているケースが多く、治療薬剤の選択、血糖マネジメントの目標をどこにおくのかなど糖尿病学会の推奨があまり知られていないこと、あるいは超高齢の糖尿病を有する人の治療に関するガイドラインがないことが現状の問題点となっていると述べた。さらに90歳以上の2型糖尿病を有する人を対象とした大規模臨床試験は皆無であり、複雑な背景をもつ症例への的確なアプローチをいかに構築するかが課題であると指摘した。高齢の糖尿病を有する人の治療最適化には多職種・在宅医療連携が重要 高齢の糖尿病を有する人の症例を1つ挙げ、介護施設などでの診療の難しさを説明した。症例は施設入所している91歳女性(要介護3)で認知症があり、車いすを使用、BMIは15.7でやせ型。インフルエンザで突然の意識障害があり、救急搬送された。来院時の血糖値は35mg/dLで急性低血糖にてブドウ糖静脈投与で意識回復をした。普段は、DPP-4阻害薬と少量のSU薬を服用している。腎機能は保たれているがHbA1cは5.4%であり、高齢者にとっては過度な管理で、低血糖のリスクが予想される症例だったという。日常から糖尿病をきちんと診療できる環境ではないことが予想され、治療目標、とくに下限目標の情報が診療する人、介護する人にきちんと行き届いていないのではないかと警鐘を鳴らす。また、在宅医療など超高齢糖尿病を有する人の診療現場では糖尿病専門医が予想していないような治療上の悩みも多々見受けられる。そこで、日本糖尿病協会(JADEC)では、「JADEC在宅医療・介護支援Q&A集」を作成するとともに、在宅・介護の診療現場からの質問を募っている。清野氏は、今後、こうした診療現場の情報を集積し、在宅・介護の診療現場用のJADECカードシステムによる糖尿病支援ツールセットを作成していく必要があると提言を行った。 高齢の糖尿病を有する人の治療では、『高齢者糖尿病診療ガイドライン』があるものの、90歳以上の超高齢者を対象としたエビデンスは乏しい。実臨床では認知機能、ADL、介護力が治療を規定するが、高齢者では厳格な血糖管理より低血糖回避と何よりも患者の生活維持が重要だと考える。 おわりに清野氏は、「今後の高齢の糖尿病を有する人の診療では、患者の体重や握力測定など定期的な確認も大切であり、治療の最適化には多職種・在宅医療連携が重要になる」と語り、講演を終えた。

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基礎インスリン治療中の2型DM、CagriSemaがHbA1cと体重を改善/Lancet

 2型糖尿病の基礎インスリン療法は、血糖コントロールが不十分になることが多く、これが体重増加や低血糖リスクの増大と関連するとされる。CagriSemaは、cagrilintide(長時間作用型アミリン受容体作動薬)とセマグルチド(GLP-1受容体作動薬)の固定用量配合薬で、相互補完的な異なる機序を介して血糖コントロールに有益な効果をもたらす可能性が示唆され、両薬とも低血糖のリスクを増大させずに体重減少効果を示し、セマグルチドは心腎への有益な効果も確認されている。米国・テキサス大学サウスウェスタン医療センターのJulio Rosenstock氏らは「REIMAGINE 3試験」において、基礎インスリン療法で血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者において、プラセボと比較してcagrilintide/セマグルチド配合薬の追加が、臨床的に意義のある糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の低下とともに、顕著な体重減少をもたらし、低血糖リスクは増加しないことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2026年6月7日号で報告された。2種の用量を評価する無作為化第III相試験 REIMAGINE 3試験は、日本を含む6ヵ国46施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験(Novo Nordiskの助成を受けた)。2024年3~11月に、年齢18歳以上、スクリーニングの180日以上前に2型糖尿病と診断され、メトホルミンの有無を問わず、安定した1日1回の基礎インスリン療法を受けており、HbA1c値が7.0~10.5%、BMI値25以上の参加者を登録した。 被験者(274例、平均年齢59.0[SD 10.2]歳、女性115例[42%]、アジア人125例[46%])を、cagrilintide/セマグルチド(各2.4mg)配合薬(90例、各2.4mg配合薬群)、cagrilintide/セマグルチド(各1.0mg)配合薬(93例、各1.0mg配合薬群)、各用量の適合プラセボ(91例)の皮下投与を週1回受ける3つの群に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ベースラインから40週までのHbA1c値の変化量とした。2つの用量とも平均HbA1c値<7.0%を達成 ベースラインの全体の2型糖尿病の平均罹患期間は14.9(SD 7.6)年、平均体重は88.2(SD 17.9)kg、平均BMI値は31.6(SD 5.9)、平均HbA1c値は8.8(SD 1.0)%であった。234例(85%)がメトホルミンの投与を受けていた。 40週時のHbA1c値の平均変化量は、プラセボ群が-0.66%(SE 0.11)であったのに対し、cagrilintide/セマグルチドの各2.4mg配合薬群は-2.33%(SE 0.08)、各1.0mg配合薬群は-2.10%(SE 0.08)であり、プラセボ群との推定群間差は各2.4mg配合薬群が-1.68%ポイント(95%信頼区間[CI]:-1.95~-1.41、p<0.0001)、各1.0mg配合薬群は-1.44%ポイント(95%CI:-1.71~-1.17、p<0.0001)と、いずれも低下幅が有意に大きかった。40週時の平均HbA1c値は、各2.4mg配合薬群が6.45%、各1.0mg配合薬群が6.68%といずれも7.0%未満を達成した(プラセボ群は8.13%)。 また、プラセボ群に比べ2つの用量のcagrilintide/セマグルチド群はいずれも、40週時の平均HbA1c値<7.0%の達成率(各2.4mg配合薬群59.2%[95%CI:51.8~66.6]、p<0.0001、各1.0mg配合薬群53.7%[95%CI:46.0~61.4]、p<0.0001)、同平均HbA1c値<6.5%の達成率(54.2%[95%CI:47.4~61.0]、p<0.0001、42.2%[95%CI:35.1~49.3]、p<0.0001)、40週時の空腹時血糖値の変化量(-1.6mmol/L[95%CI:-2.2~-1.0]、p<0.0001、-1.2mmol/L[95%CI:-1.9~-0.5]、p=0.0013)、同基礎インスリンの1日用量の変化量(-20U[95%CI:-24~-16]、p<0.0001、-20U[95%CI:-24~-16]、p<0.0001)が有意に良好であった。体重が10~12%減少、重度低血糖の報告はない ベースラインから40週までの体重の変化量は、プラセボ群が+1.1%(SE 0.4)であったのに対し、各2.4mg配合薬群は-12.0%(SE 0.7)、各1.0mg配合薬群は-10.4%(SE 0.7)であり、プラセボ群との推定群間差は各2.4mg配合薬群が-13.1%(95%CI:-14.7~-11.5、p<0.0001)、各1.0mg配合薬群は-11.6%(95%CI:-13.2~-9.9、p<0.0001)と、いずれも大きな差を認めた。 安全性プロファイルは、GLP-1受容体作動薬の薬剤クラスおよびcagrilintideのこれまでの安全性データと一致していた。有害事象は、各2.4mg配合薬群の80%(72/90例)、各1.0mg配合薬群の71%(66/93例)、プラセボ群の71%(65/91例)で報告された。そのほとんどが軽度または中等度の胃腸障害であった。 また、重度の低血糖の報告はなかった。各1.0mg配合薬群で、治療とは関連のない死亡を1例(悪性腫瘍)認めた。 著者は、これらの知見は、「1日1回の基礎インスリン療法への追加療法としてcagrilintide/セマグルチド配合薬を使用すると、血糖コントロールを有意に改善できることを裏付けるもの」「基礎インスリンに加えてさらなる治療強化を行う場合に、体重増加や低血糖のリスク、治療の複雑化による制限を受けやすい患者集団において、とくに臨床的に意義深いものである」としている。

3.

CKD合併糖尿病へのセマグルチド、心血管疾患の既往を問わず腎予後を改善(FLOW)

 2型糖尿病と慢性腎臓病(CKD)を併発している患者を対象に、GLP-1受容体作動薬セマグルチドの腎機能への影響を評価したFLOW試験のサブグループ解析の結果、セマグルチドは既往の心血管疾患や将来的なリスクにかかわらず、腎予後および生存を一貫して改善したことが、米国・University of Washington School of MedicineのKatherine R. Tuttle氏らによって示された。Journal of the American College of Cardiology誌2026年6月2日号掲載の報告。 FLOW試験は、2型糖尿病とCKDを有する患者集団において、セマグルチドの腎機能障害進行への影響を検討した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験。参加者をSGLT2阻害薬などを含む標準治療に加えて、セマグルチド1.0mgを週1回皮下投与する群またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けた。主要評価項目は、主要腎疾患イベント(透析、移植、eGFR<15mL/分/1.73m2の発生、eGFRのベースラインから50%以上の低下、腎臓関連または心血管関連の死亡の複合)とした。全死因死亡は副次的評価項目の1つであった。 主な結果は以下のとおり。・合計3,533例を中央値3.4年間追跡した。ベースライン時の平均年齢は66.6±9.0歳、女性が30.3%、平均eGFRは47.0±15.1mL/分/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン比の中央値は567.6mg/gであった。・ベースライン時点で、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)を有していた患者が33.9%、心不全を有していた患者が19.2%、ASCVDや心不全の既往がない患者のうち10年間の心血管疾患発症リスクが高い(PREVENT予測式≧20%)患者が66.5%であった。・セマグルチド群では、プラセボ群と比較して、全体集団において主要評価項目である主要腎疾患イベントのリスクが24%低かった(1,767例中331例vs.1,766例中410例、ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.66~0.88、p=0.0003)。・セマグルチド群では、ASCVDの有無、心不全の有無、心血管疾患発症リスクの高低にかかわらず、一貫して主要腎疾患イベントのリスクが低かった。各サブグループにおけるセマグルチド群vs.プラセボ群のHRは以下のとおり。 -ASCVDあり群0.80 vs.なし群0.74(交互作用のp=0.62) -心不全あり群0.67 vs.なし群0.79(交互作用のp=0.40) -心血管疾患高リスク群0.73 vs.低リスク群0.73(交互作用のp=0.99)・3年間で1件の主要腎疾患イベントを予防するための治療必要数(NNT)は、ASCVD群で22、心不全群で13、心血管疾患発症高リスク群で17であった。・セマグルチドは、全死因死亡のリスクについても同様に一貫した低下をもたらした。 -ASCVDあり群0.82 vs.なし群0.78(交互作用のp=0.79) -心不全あり群0.75 vs.なし群0.81(交互作用のp=0.74) -心血管疾患高リスク群0.71 vs.低リスク群0.82(交互作用のp=0.63)・いずれのサブグループにおいても、セマグルチド群はプラセボ群に比べ、eGFRの年間低下速度を有意に抑制し、高感度C反応性蛋白(hsCRP)を約30%低下させた。 これらの結果より、研究グループは「セマグルチドは、2型糖尿病およびCKDを有する患者にとって、腎機能・心血管機能・生存の総合的なベネフィットをもたらすため、重要な治療戦略となりうる」とまとめた。

4.

コントロール不良な2型DM、orforglipron vs.ダパグリフロジン/Lancet

 メトホルミンでコントロール不十分な2型糖尿病患者において、orforglipron 3mg、12mgおよび36mgは、ダパグリフロジン10mgに対して、ベースラインから40週時のHbA1cの平均変化量に関して非劣性および優越性を示した。米国・Consano Clinical ResearchのMichelle Welch氏らACHIEVE-2 Trial Investigatorsが行った第III相多施設共同非盲検(部分盲検)無作為化試験「ACHIEVE-2試験」の結果で示された。安全性プロファイルは、有害事象による試験中止率の高さを含め、GLP-1受容体作動薬クラスの既知の報告と一致していた。著者は、「orforglipronは2型糖尿病の有効な経口治療薬として、選択肢の1つとなりうることが裏付けられた」とまとめている。Lancet誌オンライン版2026年6月8日号掲載の報告。6ヵ国で試験、40週時点の非劣性を評価 ACHIEVE-2試験は、6ヵ国(中国、ドイツ、メキシコ、ポーランド、台湾、米国)の73施設で実施された。対象は、メトホルミン(1,500mg/日以上)で血糖コントロール不十分(HbA1c:7.0~10.5%)、かつBMI値23.0以上で体重が安定している(±5%)2型糖尿病成人患者であった。 研究グループは適格患者をorforglipron 3mg群、12mg群、36mg群、またはダパグリフロジン10mg群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付け、1日1回40週間経口投与した。orforglipron群は、全例1mgより投与を開始し、4週時に3mgへ増量した後、割り付けられた用量に達するまで4週ごとに最大2倍増量した。なお、orforglipron群における投与量については盲検化されたが、ダパグリフロジン群への割り当てについては盲検化されなかった。 主要エンドポイントは、ベースラインから40週時のHbA1cの変化量で、orforglipron各用量のダパグリフロジンに対する非劣性(非劣性マージン0.3%)について評価した。 有効性の解析は無作為化されたすべての患者を対象とし、治療レジメン推定値(試験治療の中断や追加の血糖降下薬の開始有無にかかわらず、治療期間中に得られたすべてのデータ)に基づき、これを主要推定値とした。 安全性は、試験薬を少なくとも1回投与されたすべての患者を対象に評価した。orforglipron全用量群のダパグリフロジン10mg群に対する非劣性および優越性を検証 2024年1月10日~2025年9月26日に、1,404例がスクリーニングを受け、962例が無作為化された(orforglipron 3mg群240例、12mg群241例、36mg群241例、ダパグリフロジン10mg群240例)。 ベースラインの患者背景は、女性474例(49%)、平均年齢56.1歳(SD 11.5)、HbA1cは8.14%(1.04)、2型糖尿病の罹病期間8.0年(6.7)、BMI値32.6(6.6)であった。 ベースラインから40週時のHbA1cの変化量の治療レジメン推定値について、orforglipron全用量群でダパグリフロジン10mg群に対する非劣性が認められた。同変化量は、orforglipron 3mg群-1.23%(SE:0.08)、12mg群-1.50%(0.08)、36mg群-1.56%(0.09)であり、ダパグリフロジン10mg群は-0.81%(0.07)であった。 ダパグリフロジン10mg群に対する推定治療群間差は、orforglipron 3mg群-0.42%(95%信頼区間[CI]:-0.62~-0.23)、12mg群-0.70%(95%CI:-0.90~-0.49)、36mg群-0.75%(95%CI:-0.96~-0.55)であり、orforglipron全用量群のダパグリフロジン10mg群に対する非劣性および優越性が認められた(すべてのp<0.0001)。 最も発現割合が高い有害事象は、軽度~中等度の消化器系イベント(悪心、下痢、嘔吐、便秘など)で、orforglipron 3mg群47%(112/240例)、12mg群46%(112/241例)、36mg群54%(130/241例)に認められたのに対し、ダパグリフロジン10mg群は12%(29/240例)であった。重症低血糖は報告されなかった。 試験薬投与中止は、orforglipron 3mg群15%(35/240例)、12mg群18%(44/241例)、36mg群20%(47/241例)、ダパグリフロジン10mg群6%(14/240例)であり、orforglipron群でより多く認められた。

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GLP-1受容体作動薬が乳がんの治療成績を改善する可能性

 血糖コントロールや肥満症の治療のために用いられているGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)が、一部の乳がん患者の予後改善につながる可能性を示唆するデータが報告された。肥満または糖尿病のある乳がん患者では、同薬の使用の有無によって全死亡や再発のリスクに有意差が見られるという。米VCUマッセイ総合がんセンターのBernard Fuemmeler氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に5月11日掲載された。 これまでの研究から、肥満や2型糖尿病を有する乳がん患者は、生存率が低い傾向にあることが示されている。また、エビデンスは十分ではないものの、肥満と乳がんが併存する場合には、減量が乳がんの予後を改善させる可能性が示唆されている。他方で近年では、2型糖尿病や肥満症に対してGLP-1RAが処方される機会が増えている。ただし、GLP-1RAの使用と乳がん患者の予後との関連は明らかにされていない。以上を背景としてFuemmeler氏らは、米国内の医療機関68施設の電子医療記録が統合されたリアルワールドデータベース(TriNetX US Collaborative Network)を用いた検討を行った。 2006年4月1日~2023年4月1日に乳がんと診断された18歳以上の女性84万1,831人(平均年齢69.1±12.2歳)を対象に、傾向スコアマッチングにより、年齢、人種・民族、肥満有病率などの背景因子が調整されたコホートが3つ作成された。1つ目はBMI30以上の肥満患者を対象にGLP-1RA処方の有無で比較するコホート(各群1,610人)、2つ目は2型糖尿病のある患者を対象にGLP-1RA処方群とインスリンまたはメトホルミン処方群を比較するコホート(各群2,323人)、3つ目は2型糖尿病のある患者を対象にGLP-1RA処方群とSGLT2阻害薬(SGLT2i)処方群を比較するコホート(各群4,052人)。追跡期間を10年とし、主要評価項目は全死因死亡、副次評価項目は無再発生存期間(RFS)とした。 解析の結果、1つ目のコホートにおいてGLP-1RAの処方は、全死因死亡(ハザード比〔HR〕 0.35〔95%信頼区間0.21~0.58〕)、およびRFSのリスク低下(HR 0.44〔同0.30~0.64〕)と関連していた。また、2つ目のコホートにおいてGLP-1RAの処方は、全死因死亡(HR 0.09〔0.06~0.15〕)、およびRFSのリスク低下(HR 0.33〔0.21~0.50〕)と関連していた。3つ目のコホートでのSGLT2iとの比較では有意差が認められなかった(全死因死亡はHR 0.97〔0.82~1.14〕、RFSはHR 0.91〔0.71~1.18〕)。 この結果をFuemmeler氏は、「われわれの研究はGLP-1RAが一部の乳がん患者に対して、生存率の改善および再発リスク低下と関連する可能性を示している」と総括。ただし、「この影響が、GLP-1RAが有する減量効果や心肺機能改善効果、あるいはその他の生物学的な要因と関連したものかどうかを判断するには、さらなる研究が必要だ」と同氏は付け加えている。なお、研究者らは今後、ランダム化比較試験の実施を予定している。

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非DM肥満/過体重への経口GLP-1薬elecoglipron、最大10.5%の減量効果/Lancet

 非糖尿病の肥満/過体重の成人において、elecoglipron(AZD5004)の1日1回経口投与は臨床的に意義のある体重減少を示し、安全性プロファイルはGLP-1受容体作動薬クラスの既知の報告に合致することが確認された。英国・レスター大学のMelanie J. Davies氏らが、日本を含む7ヵ国で実施された第II相の多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照用量設定試験「VISTA試験」の結果を報告した。elecoglipronは、食事や水分摂取の制限なしに1日1回経口投与可能な低分子GLP-1受容体作動薬で、これまで2型糖尿病を有する肥満/過体重の患者の体重管理を目的として開発が進められてもいる。今回の結果を踏まえて著者は、「非糖尿病の肥満/過体重成人を対象とする第III相試験でさらなる開発を進めることが支持された」とまとめている。Lancet誌2026年6月20日号掲載の報告。5~75mg、1日1回経口投与の有効性と安全性を評価 VISTA試験は、オーストラリア、カナダ、ドイツ、日本、台湾、英国、米国で実施された。対象は、18歳以上で、肥満(BMI値30以上)、または過体重(BMI値27以上)で未治療/治療中の体重関連疾患(高血圧症、脂質異常症、心血管疾患、閉塞性睡眠時無呼吸症候群)を少なくとも1つ有する患者であった。1型または2型糖尿病の既往あり、またはスクリーニング時のHbA1cが6.5%以上などの患者は除外した。 適格患者を、elecoglipronの5mg群(用量漸増なし)、15mg群(用量漸増なし)、50mg群(4週ごとの用量漸増あり)、75mg群(週1回の用量漸増あり)、75mg群(2週ごとの用量漸増あり)、または対応するプラセボ群に、2対3対3対3対3対5の割合で無作為に割り付け、1日1回経口投与した。 試験期間は最大42週間で、スクリーニング期最大4週間、投与期最大36週間を含み、最終追跡調査は投与期の最後の受診から約2週間後に予定された。 主要エンドポイントは2つで、26週時点におけるベースラインからの体重変化率、および26週時点で体重が5%以上減少した患者の割合であった。安全性および忍容性についても評価した。elecoglipron群で体重減少は2.6~10.5%、5%以上の体重減少の達成割合は約4~9割 2024年10月8日~2025年2月18日に472例がスクリーニングを受け、162例が適格基準を満たさず、310例が無作為化された。288例(93%)が試験を完了し、231例(75%)が割り付け治療を完遂した。 ベースラインの被験者特性は、平均年齢48.4歳(SD 13.7)、女性225例(73%)、男性85例(27%)、平均体重は106.9kg(SD 24.1)、平均BMI値38.2(SD 7.2)であった。 elecoglipronの投与により、用量依存的な体重減少が認められた。26週時におけるベースラインからの体重変化率(最小二乗平均値)は、プラセボ群-0.6%に対し、elecoglipron 5mg群で-2.6%、15mg群-5.6%、50mg群-8.1%、75mg(週1回漸増)群-10.5%、75mg(2週ごと漸増)群-10.0%であった(いずれも有効性推定による評価)。 また、26週時点で体重が5%以上減少した患者の割合は、プラセボ群15.6%に対し、elecoglipron群ではそれぞれ40.4%、51.3%、72.5%、86.1%、88.8%であった。 有害事象は、elecoglipron 5mg群で84%(27/32例)、15mg群88%(43/49例)、50mg群88%(44/50例)、75mg(週1回漸増)群98%(48/49例)、75mg(2週ごと漸増)群92%(45/49例)、プラセボ群84%(68/81例)に認められた。 elecoglipron群の主な有害事象は、悪心、便秘、下痢、頭痛および嘔吐で、これらはプラセボ群より発現割合が高かった。

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第67回 「長生き」を買おうとする富豪たち、その方法に科学はあるのか

「死なない男」として知られる起業家ブライアン・ジョンソン氏は、2019年から、寿命を延ばす目的で、ある薬を毎日のように自分に注射し続けてきました。本来は臓器移植の拒絶反応を防ぐために使う免疫抑制薬「ラパマイシン」です。ところが2024年9月、彼はこの「実験」をやめます。皮膚の感染症や血糖値の上昇、脂質の異常などが現れ、利益よりも害が上回ると判断したからでした。彼のように、自分の体を「ハッキング(改造)」して数年でも長く生きようとするIT長者たちが増えています。そして、その試みをSNSなどで世界中に発信しています。今回は、こうした「バイオハッキング」ブームの実態を伝えたNature誌の記事1)をもとに、ご紹介します。富豪たちが試す、さまざまな「若返り術」ジョンソン氏は「ブループリント」と名づけた自己流の健康法を公開し、多くの追随者を生んでいます。彼が取り入れている方法の1つが、若い人から血液をもらう「若年血漿(けっしょう)輸血」です。これは米国食品医薬品局(FDA)が2019年と2024年に「効果の根拠がなく危険」と警告したものでした。ほかにも、別の富豪が「120歳まで生きたい」と成長ホルモンを使っていることを公言したり(医療機関は健康な大人への効果を疑問視しています)、集中力を高めるとして染料由来の物質やニコチン製品を勧めたりと、その種類はさまざまです。これらに共通するのは、効果や安全性がはっきりしないまま広まっている点です。科学的な裏づけは、どこまであるのかもちろん研究者たちは慎重です。老化そのものに働きかけて人の寿命を延ばすと明確に証明された方法は、いまのところ1つもないからです。ある専門家は、わずかなデータの中に「期待できそうな兆し」と「雑音」が入り交じり、一般の人にはその区別が難しいと指摘します。たとえば話題のラパマイシンは、マウスの寿命を23~60%延ばしたという研究があります2)。しかし、ヒトで同じことを示すのは簡単ではありません。ヒトでの研究はごくわずかで、65歳以上の200人余りでワクチンの効きがよくなったという2014年の報告3)や、高齢者の呼吸器感染症が減ったという2018年の報告4)がある程度です。研究者が333人の使用者を調べた2023年の調査では「生活の質が上がった」との声が多かったものの、本人の自己申告に頼っており、悪い経験をしてやめた人が含まれていない可能性が高いと、研究チーム自身が限界を認めています5)。一方で、糖尿病薬のメトホルミンや、肥満症で使われるGLP-1受容体作動薬(セマグルチドなど)のように、加齢に伴う病気を遅らせる可能性が期待され、臨床試験が進んでいる薬もあります。「自分1人のデータ」という落とし穴最大の問題は、富豪たちが自分1人の体で試した結果が、そのまま一般の人へと「正しい基準」のように広まってしまうことです。本来、薬の効果を確かめるには、数千人規模で慎重に比較する臨床試験が欠かせません。「科学は『1人(n=1)』では成り立たない」のです。しかし、健康長寿を支援するクリニックには「ブループリントをやりたい」「あの成分が欲しい」と、検査も受けないうちに名指しで求める人が増えているそうです。また、影響力のあるインフルエンサーの中には、自分のブランドのサプリメントを売る人もいますが、商売上の利害がからんでいることが、見ている側には伝わりにくい構造もあります。きちんとした臨床試験には大規模な費用がかかりますが、それは富豪たちの資産からすればごく一部にすぎません。しかし、その熱意と資金は本物の科学に向けられているとは言えない実情があります。日本でも、海外の健康トレンドはSNSを通じてすぐに入ってきます。「海外の有名人がやっているから」は、効果や安全の証拠にはまったくならない。そんな冷静な視点を、私たち一人ひとりが持っておきたいものです。1)Stokel-Walker C. Tech tycoons are biohacking for a longer life: is there science behind their methods? Nature. 2026;654:589-591.2)Miller RA, et al. Rapamycin-mediated lifespan increase in mice is dose and sex dependent and metabolically distinct from dietary restriction. Aging Cell. 2014;13:468-477.3)Mannick JB, et al. mTOR inhibition improves immune function in the elderly. Sci Transl Med. 2014;6:268ra179.4)Mannick JB, Morris M, Hockey HP, et al. TORC1 inhibition enhances immune function and reduces infections in the elderly. Sci Transl Med. 2018;10:eaaq1564.5)Kaeberlein TL, Green AS, Haddad G, et al. Evaluation of off-label rapamycin use to promote healthspan in 333 adults. GeroScience. 2023;45:2757-2768.

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セマグルチドがMASH適応を取得、国内初の治療薬に/ノボ

 2026年6月19日、ノボ ノルディスク ファーマは同社のGLP-1受容体作動薬セマグルチド(ウゴービ)が、肝硬変を伴わない代謝機能障害関連脂肪肝炎(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis:MASH)のうち、中等度または高度の肝線維化を有する患者を対象とした効能・効果の追加承認を取得したことを発表した。これにより同薬は日本で初めて承認されたMASH治療薬となる。 MASHは、従来「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」として知られていた疾患概念を発展させたもので、代謝異常を背景として肝細胞障害や炎症、線維化が進行する慢性肝疾患である。初期には自覚症状に乏しい一方で、病態が進行すると肝硬変や肝不全、肝細胞がんに至る可能性があり、近年その疾病負荷が大きな課題となっている。 今回の承認は、ステージF2またはF3の肝線維化を有するMASH患者を対象に実施された第III相ESSENCE試験パート1の結果に基づくもの。同試験では、セマグルチド2.4mg週1回皮下投与群とプラセボ群を比較し、72週時点での肝組織学的改善を評価した。 主要評価項目の1つである「MASHの悪化を伴わない肝線維化の改善」は、セマグルチド群で36.8%、プラセボ群で22.4%に認められ、統計学的に有意な改善が示された。また、もう1つの主要評価項目である「肝線維化の悪化を伴わないMASHの消失」は、セマグルチド群で62.9%、プラセボ群で34.3%となり、セマグルチド群が有意に高い達成率を示した。安全性については、これまでの肥満症治療や糖尿病治療で蓄積されたデータと概ね一致しており、新たな安全性シグナルは確認されなかった。 ESSENCE試験は総計約1,200例を対象とし、セマグルチドを240週間投与する設計となっている。今回の承認申請は、約800例を対象とした72週時点の中間解析結果に基づいて行われた。現在進行中のパート2では、240週時点における肝関連イベント発症リスクの低減効果を検証しており、試験完了は2029年を予定している。 日本におけるMASHの有病率は約3%と推計されている。肥満症や2型糖尿病との関連が強く、心血管疾患リスクの上昇に加え、大腸がんや乳がんなど肝外悪性腫瘍との関連も指摘されている。さらに、肝がんへ進展した場合には予後不良であり、早期介入と進行抑制が重要視されている。 これまでMASHに対しては体重減少を目的とした生活習慣改善が治療の中心であり、承認薬が存在しなかった。今回の承認により、疾患そのものに対する薬物治療の選択肢が初めて提供されることになる。 肥満症治療薬として広く使用されているGLP-1受容体作動薬が、MASHに対しても有効性を示したことで、代謝性疾患と慢性肝疾患を横断した包括的な治療戦略への期待が高まる。今後は実臨床における長期予後改善効果や肝関連イベント抑制効果に関するエビデンスの蓄積が注目される。【製品概要】一般名:セマグルチド(遺伝子組換え)商品名:ウゴービ効能または効果:◯肥満症ただし、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。・BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する・BMIが35kg/m2以上◯肝硬変を伴わない代謝機能障害関連脂肪肝炎ただし、中等度又は高度の線維化を有する場合に限る。

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飲食制限のない経口GLP-1薬elecoglipron、2型DM患者のHbA1cを有意に改善/Lancet

 2型糖尿病治療薬として開発中の1日1回経口投与の低分子GLP-1受容体作動薬elecoglipronは、プラセボと比較して、より優れた血糖降下作用を示し、安全性および忍容性プロファイルは他のGLP-1受容体作動薬と同様であった。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のVanita R. Aroda氏らが、日本を含む9ヵ国で行われた第IIb相の多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SOLSTICE試験」の結果を報告した。elecoglipronは、食事や水分制限なしに投与ができる。著者は、「2型糖尿病患者を対象とする第III相試験でさらなる開発を進めることが支持された」とまとめている。Lancet誌2026年6月20日号掲載の報告。 第IIb相試験、5~75mgを1日1回26週間にわたり経口投与 第IIb相試験は、9ヵ国(カナダ、ドイツ、ハンガリー、日本、ポーランド、スロバキア、スペイン、英国、米国)の医学研究センターおよび病院で実施された。食事・運動療法のみ、あるいはメトホルミンまたはSGLT2阻害薬の単剤療法を受けている2型糖尿病患者を対象に、elecoglipron治療についてさらなる評価を行うよう設計され、5~75mgを1日1回26週間にわたり経口投与するレジメンについて評価が行われた。試験施設は、試験実施要件(規制当局および倫理委員会による承認、適切な施設設備および人員確保、対象患者集団へのアクセスほかを含む)を満たす能力に基づき選定された。 主な適格基準は、18歳以上、BMI値23以上、2型糖尿病(HbA1cが7.0%以上10.5%以下[米国は6.5%以上10.5%以下])、食事・運動療法単独あるいは安定用量のメトホルミンまたはSGLT2阻害薬の単剤療法を受けていることとした。双方向ウェブ応答システムを用いて、elecoglipronの固定用量群(5mg/日群、15mg/日群、25mg/日群)、または目標用量を50mgまたは75mgとする用量漸増群(2週間隔で50mg/日に漸増する群、2週間隔で75mg/日に漸増する群、4週間隔で75mg/日に漸増する群)、これらレジメンの適合プラセボ群、あるいは非盲検下で経口投与するセマグルチド14mg/日(4週間隔で漸増)群に、3対5対3対5対3対3対6対4の割合で無作為に割り付けられた。参加者、治療担当医、試験スポンサーは、elecoglipron群およびプラセボ群について盲検化され、セマグルチド群については盲検化されなかった。 主要エンドポイントは、26週時におけるHbA1cのベースラインからの変化量であった。プラセボと比較しHbA1cが大きく改善 2024年10月8日~2025年6月6日に、863例が試験の適格性についてスクリーニングされた。適格基準を満たしていない、または除外基準に該当した457例を除外。406例が登録され、8つの治療群のいずれか1つを受けるよう無作為化され、404例が少なくとも1回の試験治療を受けた。 404例のベースライン特性(平均[SD])は、年齢58.4歳(10.7)、HbA1cが7.9%(0.9)、体重99.8kg(22.1)、BMI値34.9(7.5)で、168例(42%)が女性、また280例(69%)が白人であった。 26週時点におけるHbA1cのベースラインからの変化量は、プラセボ群-0.15%(95%信頼区間[CI]:-0.42~0.12)に対し、elecoglipron投与群は5mg群の-0.91%(95%CI:-1.25~-0.58)から2週間隔で目標用量75mg/日に漸増する群の-1.88%(95%CI:-2.23~-1.53)の範囲にわたった。 有害事象の発現割合は、プラセボ群63%(45/71例)に対し、elecoglipron投与群は5mg群の63%(24/38例)から4週間隔で75mg/日に漸増する群の87%(33/38例)の範囲にわたった。最も多くみられたのは消化器系有害事象で、悪心、便秘、下痢、嘔吐などであった。

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脂肪肝は心血管イベントリスクの上昇と関連

 脂肪性肝疾患(脂肪肝)は、肝臓だけでなく心臓にも悪影響を及ぼす可能性があるようだ。新たな研究で、脂肪肝を有する人では有していない人に比べて、非石灰化冠動脈プラークの量が多く、全死因死亡や心筋梗塞などを含む主要イベントの発生率が約2倍に上昇していることが明らかになった。非石灰化プラークは、石灰化していないため破裂しやすく、血栓形成を通じて心血管イベントを引き起こすリスクが高いとされている。米マス・ジェネラル・ブリガム心臓血管研究所のJan Brendel氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に5月20日掲載された。Brendel氏は、「われわれの研究結果は、脂肪肝が単なる肝臓の疾患ではなく、心血管疾患リスクの重要な指標でもあることを示している」とニュースリリースで述べている。 研究グループによれば、米国成人の最大40%が脂肪肝を有している。肝臓への脂肪蓄積は、肝線維化および肝がんのリスクを高めるが、専門家の間では、その影響がより広範な健康問題に及ぶ可能性が指摘されている。 今回の研究では、胸痛治療のために受診した患者を対象とする大規模研究(PROMISE試験)参加者のうち、3,637人(平均年齢60.6歳、女性51.4%)を対象に、脂肪肝、冠動脈プラークの定量的構成、および主要心血管イベント(MACE)との関連を検討した。MACEは全死因死亡、非致死的心筋梗塞、不安定狭心症による入院が対象とされた。脂肪肝はCT画像で肝臓と脾臓の濃度差を比較する方法により判定した。一方、冠動脈はCT血管造影を用い、プラーク、石灰化プラーク、非石灰化プラーク、低濃度プラークの容積およびプラーク負荷(プラークが血管容積に占める比率)を測定して評価した。 対象者の25.5%が脂肪肝を有していた。全体として、脂肪肝患者は非脂肪肝患者と比較して、わずかに若年で、男性が多く、心血管リスク因子をより多く有しており、MACE発生率も高かった(4.1%対2.5%)。臨床的なリスク因子を調整して解析した結果、脂肪肝患者では、総プラークおよび非石灰化プラーク容積がいずれも24%大きく、低濃度プラーク容積が11%大きかった。また、総プラークおよび非石灰化プラーク負荷が15%、低濃度プラーク負荷が6%高かった。さらに、肥満や動脈硬化性心血管疾患リスクスコアなどで調整した後も、脂肪肝は心血管イベントリスクの69%の上昇と関連していた(調整ハザード比1.69)。媒介分析の結果、脂肪肝とMACEとの関連の10.9%は非石灰化プラーク負荷により説明されることが示された。 研究グループは、脂質低下作用を持つスタチンや減量効果を有するGLP-1受容体作動薬が、脂肪肝患者における心血管リスクを低減できるかどうかを今後の研究で検討すべきだと述べている。

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第318回 マンジャロ問題、なぜ厚労省は“名指し”で呼びかけた?

INDEX厚労省よ、やっと本腰入れたかSNSに商品名で言及、なぜ?本当に恐ろしい副作用は…厚労省よ、やっと本腰入れたか【マンジャロは糖尿病のお薬です】マンジャロは「糖尿病」の治療を目的に承認された薬です。ダイエットなど、本来の目的以外で使用した場合、思わぬ健康被害が生じるおそれがあり危険です。医療者から薬のリスクについて十分な説明を受け、薬について正しく理解することが重要です。上記は厚生労働省(以下、厚労省)のX(旧Twitter)アカウントが6月16日に行ったポストである。同アカウントのフォロワー数は101万3,000アカウント超だが、このポストに関しては、19日午前の表示件数は1,970万1,000件以上である。同アカウントのポストの表示件数が万単位なことはごく普通だが、これだけの表示件数はきわめてまれだ。正確な分析ツールは使用していないが、同アカウントのなかでも間違いなくトップ10に入るポストだろう。この日、厚労相の上野 賢一郎氏は閣議後の記者会見冒頭で以下のように語った。「私から冒頭1点申し上げます。マンジャロ等の適正使用についてです。マンジャロは、2型糖尿病のみを効能・効果として承認されており、臨床試験ではダイエットなどの効果は証明されておらず、本来の目的以外で使用した場合、思わぬ健康被害が生じる可能性があります。お使いになる方には正しく理解して適正に使用いただくことが必要ですので、医療者の方からのリスクについての十分な説明を改めてお願いしたいと考えています。このため、本日、XなどのSNSを通じて国民の皆様向けにも改めて注意喚起を行うとともに、マンジャロ等の治療薬の適正使用を徹底するために、改めて医療機関等に通知を発出します」実際、この日、同省は都道府県・保健所設置市・特別区の衛生主管部(局)長宛の「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について」と各製造販売業者代表取締役社長宛の「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に係る対応の徹底について」という2件の通知を発出した。要は2型糖尿病や肥満症の治療目的ではなく、自由診療を通じた適応外の美容、痩身目的のGLP-1受容体作動薬関連製品の使用に対して注意喚起をした通知である。そして、この日の夜の民放のニュースではやたらと「マンジャロ」という個別商品名が飛び交う、やや異常な状態となった。SNSに商品名で言及、なぜ?もはや言うまでもないが、GLP-1受容体作動薬関連薬(以下、GLP-1製剤)では、2型糖尿病治療薬として発売された当初から美容目的の適応外使用が問題視されてきた。これまで厚労省がこの問題に関連して発出した通知は、美容目的の使用が原因の1つとみられる在庫ひっ迫や自由診療での広告規制をフックにしたもので、適正使用だけにフォーカスした通知は今回が初である。この件の適応外使用について苦々しく思っていた医療者にとっては、遅きに失した対応と受け止められていることだろう(私個人も同様である)。改めて整理すると、国内で承認されている主なGLP-1製剤は以下の表のようになる。ご存じのように体重減少に重きを置いた肥満症の適応症があるのは現在2種類のみ。成分として体重減少効果が顕著とされているのは表の上位5製品だが、美容・痩身目的の自由診療では、表にあるそれ以外のGLP-1製剤も使われている。(表)国内で承認されているGLP-1製剤画像を拡大するはっきり言って、どの製剤であっても自由診療での美容・痩身目的での使用は適応外、あえて言えば「不適切使用」である。ただ今回、厚労省がわざわざマンジャロという商品名を挙げた理由は、肥満症の適応を有する同一成分のゼップバウンドが、同じく肥満症の適応を有するウゴービより体重減少効果が高いとされ、美容・痩身目的の人たちの間では人気があり、かつマンジャロは2型糖尿病のみが適応症であることを踏まえたからと考えられる。本当に恐ろしい副作用は…さて、これらの適応外使用が問題となるのは、何よりも副作用の観点からだろう。これまた周知の通り、GLP-1製剤では悪心・嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状の副作用発現率は大まかに言えば20~40%ほどとかなり高頻度である。多くの場合、これ自体が生命の危険には直結しないものの、実際私の周囲で使用している人(適応症に対して使用)のSNS投稿を見ても、相当苦しそうなことだけはよくわかる。そして副作用の中でもとくに問題なのは、実は頻度の低い重篤な副作用である。世界的に美容・痩身目的の使用がかなり広まっている現実を考えれば、ごくわずかな頻度の副作用でもそれ相応の発生件数を記録することになる。例を挙げると、GLP-1製剤による低血糖、膵炎が該当する。ゼップバウンド、ウゴービともに過去の臨床試験結果を見ると、軽症も含めた低血糖の発生頻度は5%未満であり、重度低血糖になると1%未満といわれている。もちろんこの数字は、2型糖尿病患者の場合には併用薬もある前提でのものなので、美容・痩身目的ならば理論上の発生頻度は相当低いはずである。ただ、保険診療下で定期的な受診をし、医師の管理下に置かれている人と自由診療で処方されてフォローアップがほぼなしという人では、この理論上の発生頻度も大きく異なってくるだろう。前者の場合は主治医が低血糖への最大限の警戒を行っているのに対し、後者はよほど危険な兆候を本人が自覚しない限り事実上野放しである。さらに言えば、美容・痩身目的の人の場合、自己判断による過度な食事制限をしている場合もあるだろう。となると、こうした人での真の低血糖発生頻度は掴めないということになる。発生頻度が1%に満たない急性膵炎でも、美容・痩身目的の人では膵臓機能自体が2型糖尿病や肥満症の人に比べ、より健康に近いと考えられるため、本来であれば、この発生頻度はほぼ無視できるかもしれない。とはいえ、肥満かつ2型糖尿病での事例ではあるが、米国ではGLP-1製剤の関与が否定できない重症急性膵炎による死亡例の報告1)もある。そして何よりも恐ろしいのは、まだ既知とはいえない副作用のリスクである。実際、そうした事例は報告されている。これも米国での報告で、2型糖尿病がない高度肥満患者に横紋筋融解症が出現した事例2)である。GLP-1製剤の中止で改善し、投与再開で症状が再出現したというもの。このため、GLP-1製剤の使用が因果関係の可能性として示唆されている。このようにしてみると、改めて美容・痩身目的の自由診療における安全管理の甘さに強い危機感を抱かざるを得ない。今回、厚労省は今までよりは一歩踏み込んだが、どれだけ注意喚起の通知を出したところで、現状では自由診療で処方する一部の医師による不適切な処方の横行を止める有効な手立てにはなっていない。「約2,000万回以上表示のポスト」というSNS上の数字の裏で、いつ深刻な健康被害が顕在化してもおかしくない薄氷の状況が続いている。今求められているのは、単なるアナウンスメントではなく、不適切な自由診療に対する実効性のある規制ではないか?厚生労働省:GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用に係る 対応の徹底について1)Dagher C, et al. Cureus. 2024;16:e69704.2)Billings SA, et al. Cureus. 2023;15:e50227.

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第66回 SNSが広げる「合成ペプチド」ブーム。米国で何が起きているのか

筋肉を付けたい、けがを早く治したい、若さを保ちたい。そうした願いに応える「特効薬」として、いま米国で急速に広がっているのが、注射で使う「合成ペプチド」です。BPC-157やipamorelinといった成分が、SNSを通じて若者を中心に人気を集めています。2026年5月時点で、ペプチド関連の投稿はInstagramで13万件を超え、TikTokでは2億3,000万回も再生されているといいます1)。しかし、その大半は有効性も安全性も十分に確かめられていません。2026年6月、JAMA誌に掲載された論考は、この現象の裏にある「規制の穴」を指摘しています1)。今回は、その内容をかみ砕いてご紹介します。揺れ動く規制が、かえって混乱を生んでいるまず押さえておきたいのは、これらのペプチドの多くが、効果のはっきりした根拠を欠いているという点です。逆に、動物実験などからは、異常な血管新生(本来できるべきでない血管がつくられること)や、毒性をもつ代謝産物の発生といったリスクも指摘されており、ヒトでの安全性データはほとんどないのが現状です2)。それにもかかわらず、米国の規制は一貫していません。米国食品医薬品局(FDA)は安全性への懸念からBPC-157などを「調剤」の対象から外す動きを見せる一方3)、政界からは規制を緩めようという声も上がっています。ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏の掲げる「Make America Healthy Again」には、ペプチドへのアクセスを広げる提案も含まれているのです4)。こうした「締めては緩める」の繰り返しが、医師にも消費者にも混乱をもたらしています。そして規制が厳しくなっても需要そのものは消えず、むしろ管理の及ばない闇ルートへと利用者を押しやってしまう。これが大きな問題だと論考の著者は警鐘を鳴らします1)。「薬」と「サプリ」の境界が溶けているペプチドのやっかいさは、その立ち位置の曖昧さにあります。たとえば肥満症治療で広く使われるセマグルチドやチルゼパチド(GLP-1受容体作動薬)のように、正式に承認された医薬品もペプチドの1種です。その一方で、まったく同じ「ペプチド」という言葉のもとに、オンライン専門のクリニックや「研究用試薬」を称する業者が、未承認の製品を売りさばいています。つまり、承認薬・調剤品・健康増進グッズ・違法な増強薬が、すべて「ペプチド」として地続きにつながってしまっているのです。販売サイトは「高純度」「即日発送」「まとめ買い割引」といった宣伝文句を並べ、用途別に商品を並べています。これでは、どこからが医療でどこからが違法なのか、その線引きがきわめて難しくなります。とりわけ心配なのが若い世代です。SNSで理想の体型をあおられた10代の男の子や若い男性が、リスクを軽く見たまま、こうした商品に出会ってしまう。従来の規制は製造や流通の一点を狙い撃ちするだけで、需要を生み出すデジタル空間そのものには手が届いていないのです。いま求められる「しなやかな」対策禁止や輸入規制といった従来型の手法だけでは不十分でしょう。必要なのは、システム全体を見据えた柔軟な対応です。具体的には、FDAによる承認前の評価基準の強化、根拠の乏しい成分の調剤制限、違法な業者への警告や輸入差し止め、そしてインフルエンサーの誇大広告への取り締まりなどが挙げられています。販売後の副作用を追う監視体制の拡充も欠かせません。加えて見過ごせないのが、研究の不足です。これらの物質は比較的調べやすいにもかかわらず、利用実態や健康被害についてのデータがほとんどありません1)。この問題は米国だけのものではありません。オーストラリア5)やカナダ6)でも、オンラインで購入した未承認ペプチドへの安全性勧告がすでに出されています。日本でも、SNS発の健康情報が国境を越えて入ってくる時代です。「みんなが使っているから安全」とは限らない。この視点は、私たち一人ひとりが持っておきたいものです。1)Piatkowski T, et al. Illicit injectable peptides and regulatory gaps. JAMA. 2026 Jun 15. [Epub ahead of print]2)McGuire FP, et al. Regeneration or risk? a narrative review of BPC-157 for musculoskeletal healing. Curr Rev Musculoskelet Med. 2025;18:611-619.3)US Food and Drug Administration. Certain bulk drug substances for use in compounding that may present significant safety risks. 2026 Apr 22.4)Jewett C, Blum D. Heeding Kennedy's wishes, FDA is expected to lift restriction on peptides. New York Times. 2026 Mar 31.5)Australian Government Therapeutic Goods Administration. Understanding your responsibilities when importing, compounding and supplying unapproved peptide products. 2026 Apr 13.6)Government of Canada. Think twice before injecting peptides bought online: unauthorized products can seriously harm you. 2026 Apr 9.

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糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント改訂版の概要/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第69回年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 糖尿病患者の生命予後を左右するリスクに心血管障害がある。そこで、日本糖尿病学会(JDS)と日本循環器学会(JCS)は、2017年より合同委員会を立ち上げ、臨床知見の情報交換などを行ってきた。また、2020年にはこれらを成書化した『糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント』が刊行された。今回、6年ぶりにその内容が更新されたことから、本稿ではシンポジウム14より「JDS・JCSコンセンサスステートメントについて」の概要をお届けする。前心不全の早期からの治療介入を記載 「JDS・JCS合同コンセンサスステートメント改訂のオーバービュー」をテーマにJCS側を代表し田中 敦史氏(佐賀大学医学部循環器内科)が今回の改訂のポイントを説明した。 全体の改訂としては、循環器疾患、高血圧に関連する最新の診療ガイドラインの内容を盛り込んだほか、慢性腎臓病(CKD)のセクションを新たに設け、口腔管理についても記載した。また、専門医への紹介基準や両科の連携についてもより内容を充実させている。 今回の改訂では目次は2020年の前版と変更なく、1章では「診断」、2章では「予防・治療」、3章では「紹介(連携)基準」を踏襲している。診断対象は糖代謝異常と循環器疾患(アテローム性動脈硬化性心血管疾患、心不全、不整脈)であり、循環器疾患は3つの軸で記載されている。 2章では、糖代謝異常患者の大血管障害の予防・治療に対応する非薬物療法について、ライフスタイル介入として運動療法や食事療法、禁煙指導などのほかに、今回は口腔(歯)衛生についても記載された。 同じく薬物療法では、血圧、脂質のほかに、近年エビデンスが集積してきたCKDについても1つのセクションとして取り上げた。また、糖尿病治療薬が、心血管疾患の治療や予防にどの程度寄与するのか、内容をアップデートした。そのほか、糖尿病患者の経皮的冠動脈形成術(PCI)について、どのような患者を対象にするかを記載している。 糖代謝異常患者の心不全の予防・治療、心房細動の治療についても同様に記載し、エビデンスなどアップデートしている。 3章では「紹介(連携)基準」として、今改訂ではあえて「専門医」という言葉を使わずに「診療する医師」と幅広くとらえる変更を行った。対象を広げて糖尿病、循環器疾患、それぞれを診療する医師からの紹介とした。 心不全のフローチャートについて、今回は早期に心不全のリスクを検出する目的で、BNP(35pg/mL以上)/NT-proBNP(125pg/mL以上)の数値基準を記載し、ステージA・B・C・Dで分類。とくにステージBは前心不全ということで早期介入での進行予防を、ステージCとDでは循環器専門医へ紹介するように示している。また、糖代謝異常者に対する心不全の予防および治療については、『心不全診療ガイドライン2025』(日本循環器学会/日本心不全学会)に準拠した記載に改訂されている。 高血圧では『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(日本高血圧学会)を反映し、糖尿病患者の目標値も診察室で130/80mmHg未満、家庭(自宅)で125/75mmHg未満で新たに記載し、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、MR拮抗薬が第2段階では同列などの記載がされている。 脂質異常症へのアプローチは、基本的には糖尿病患者の高LDL-C血症、低HDL-C血症、高TG血症などの1・2次予防として薬物治療やそのエビデンスなどについて『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』(日本動脈硬化学会)から引用している。 大血管障害に対する糖尿病治療については、特定の薬剤推奨は前回版では見送りとなっていたが、その後、薬剤の個別化が欧米を中心に普及しエビデンスも蓄積されてきたことを受け、とくに2次予防のためにGLP-1受容体作動薬もしくはGIP/GLP-1受容体作動薬、ならびにSGLT2阻害薬の推奨がされている。 本ステートメントの目次は次のとおり。【I 診断】1 糖代謝異常2 循環器疾患  2-1 アテローム性動脈硬化性心血管疾患(とくに冠動脈疾患)  2-2 心不全  2-3 不整脈(心房細動と心臓突然死)【II 予防・治療】 1 糖代謝異常者における大血管障害(冠動脈疾患・末梢動脈疾患)の予防・治療  1-1 Lifestyle介入  1-2 薬物療法  1-3 糖尿病患者における冠血行再建術 2 糖代謝異常者における心不全の予防・治療  2-1 Lifestyle介入  2-2 薬物療法 3 糖代謝異常者における心房細動の治療【III 紹介(連携)基準】 1 糖尿病を診療する医師から循環器疾患を診療する医師(とくに専門医)への紹介(連携)基準 2 循環器疾患を診療する医師から糖尿病を診療する医師(とくに専門医)への紹介(連携)基準 3 循環器疾患・糖尿病を診療する両医師間で糖尿病治療について連携する場面での留意点

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J-CLEAR特別座談会(9)「GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬―その適正使用を巡って」

J-CLEAR特別座談会(9)「GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬―その適正使用を巡って」GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬といったインクレチン関連薬をめぐり、肥満症治療における副作用などの安全性を軽視した自由診療や個人売買が多発し、厚生労働省も注意喚起を強める事態になっています。そのため、医療者は処方が適切とされる患者像や、論文で報告されている有効性・安全性などを改めて理解・整理することが求められています。今回のJ-CLEAR特別座談会では、糖尿病専門医4名がインクレチン製剤の歴史的背景、現時点での適正使用と実処方における課題など、さまざまな問題に踏み込んだディスカッションを展開します。なお、この番組は2026年5月19日に収録したもので、当時の情報に基づく内容であることをご留意ください。GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬―その適正使用を巡って出演    吉岡 成人 氏NTT東日本札幌病院 院長住谷 哲 氏大阪府済生会泉尾病院 糖尿病・内分泌内科 部長小川 大輔 氏おかやま内科 糖尿病・健康長寿クリニック 院長永井 聡 氏NTT東日本札幌病院 糖尿病内分泌内科 部長オブザーバー桑島 巌 氏臨床研究適正評価教育機構 理事長

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第299回 子供の軽症時、保護者の7割が「まず医療機関」 医療費構造の認知に課題/健保連

<先週の動き> 1.子供の軽症時、保護者の7割が「まず医療機関」 医療費構造の認知に課題/健保連 2.令和5年度病院立入検査、医師・看護師・薬剤師の人員適合率が低下/厚労省 3.高額療養費見直しでパブコメ開始、2026年8月から月額上限引き上げへ/厚労省 4.病院の情報管理に警鐘、研究用PC端末と廃棄媒体から患者データ流出か/九大ほか 5.チルゼパチド製剤の不適切使用に注意喚起、違法流通にも警鐘/リリー 6.髄腔内注射後に死亡、事故調が報告書概要 混入経路は特定できず/埼玉県 1.子供の軽症時、保護者の7割が「まず医療機関」 医療費構造の認知に課題/健保連健康保険組合連合会は6月3日、全国の20~80代3,000人を対象に2026年1月に実施した「医療・介護に関する国民意識調査」の速報版を公表した。医療費・介護費の増加と支え手の減少が進む中、保険料負担を「非常に重い」「やや重い」と感じる人は62.7%に上り、健保連は保険料のさらなる引き上げには限界感があるとみている。医療保険の給付と負担のあり方では、「給付を大幅に絞り込み、負担を軽減」が15.0%、「給付を絞り込み、負担の水準を維持」が25.0%で、給付範囲の見直しを求める回答が計40.0%となった。増加する医療費を賄う方法としては、「自己負担の増加(患者本人の窓口負担)」を選んだ人が30.2%に上り、税金の引き上げまたは新設(12.0%)や保険料の引き上げ(10.8%)を上回った。ただし「わからない」が44.1%と最多で、制度や財源構造への理解不足も示された。世代間負担では、「高齢者の負担増はやむを得ない」が37.1%で、「高齢者負担増は難しく、現役世代の負担増はやむを得ない」の18.1%を大きく上回った。75歳以上でも40.0%が高齢者自身の負担増を容認していた。高齢者医療では、70~74歳の原則2割負担の対象年齢を5歳引き上げる案に賛成35.7%、反対22.5%。将来的に高齢者の窓口負担を原則3割に見直す案も賛成34.2%が反対29.9%を上回ったが、60代以上では慎重姿勢が目立った。その一方で、軽度の体調不良時の受診行動では、大人で「まず医療機関を受診する」は30.6%にとどまるのに対し、18歳未満の子どもでは69.2%に達した。自治体の子供医療費助成について、自己負担が無料でも残りの多くは保険料で賄われることを「知らない」は全体で67.1%、子育て世帯でも54.4%だった。小児の軽症受診には不安軽減という側面がある一方で、時間外受診や小児科・救急外来の負荷にもつながる。健保連は、「無償化の下でも必要性に応じた適切な受診を考えて欲しい」としている。2026年度の健保組合収支は2,890億円の赤字見通しで、約7割の組合が赤字とされる。現役世代の保険料負担、高齢者医療への拠出、子供・子育て支援金の上乗せが重なる中、制度改革には国民への丁寧な説明が欠かせない。医療現場には、単なる受診抑制ではなく、救急性の見極め、家庭での観察、市販薬の活用、適正受診を患者・家族に伝える役割が一段と求められる。 参考 1) 医療・介護に関する国民意識調査-速報版-(健保連) 2) 医療費が増加する中で「患者の窓口負担増で対応すべき」「高齢者の負担増もやむなし」と考える国民が比較的多い-健保連(Gem Med) 3) 体調不良、子ども7割すぐ受診 「無償でも適切利用を」-健保連(時事通信) 4) 健康保険組合 2026年度は「2,890億円赤字」の見通し 加盟組合の約7割が赤字 高齢者医療費への拠出増などで 健保連が集計(TBSテレビ) 2.令和5年度病院立入検査、医師・看護師・薬剤師の人員適合率が低下/厚労省厚生労働省は、2023年度の「医療法第25条に基づく病院に対する立入検査結果」を公表した。対象は全国8,138病院で、7,587病院に検査を実施。実施率は93.2%と前年度から5.4ポイント上昇し、コロナ禍前に近い水準まで回復した。検査は、病院が医療法上の人員、構造設備、管理体制を満たしているかを確認するものだ。その一方で、医療法に基づく医療従事者の標準数への適合率は、主要職種でそろって低下した。医師数は97.9%で前年度比0.4ポイント減、看護師・准看護師数は99.4%で0.1ポイント減、薬剤師数は97.7%で0.4ポイント減だった。医師数では、北海道・東北が94.2%、北陸・甲信越が97.1%と低く、東海99.0%、近畿99.6%との差が目立った。病床規模別では、20~49床の一般病院で医師95.3%、看護師など98.1%、薬剤師93.9%と、小規模病院ほど人材確保の厳しさが示された。医師と看護師などの双方が標準数を満たした病院は全体の97.0%で、前年度の97.5%から低下。医師のみ不足する病院は155施設、看護師などのみ不足する病院は65施設、双方不足は5施設だった。薬剤師は中国地方95.2%、九州96.2%などで低く、病院薬剤師不足の地域差も浮き彫りとなった。管理面では、最も適合率が低かった項目が「サイバーセキュリティの確保」の91.1%だった。次いで職員の健康管理92.1%、医療法許可事項の変更92.7%が低かった。医療情報システムへの攻撃が診療継続を脅かす中、サイバー対策は医療安全上の重要課題として、立入検査でも確認が強まっている。人員不足と情報セキュリティの遅れは、地域医療提供体制と病院運営の持続性に直結する論点となる。人員適合率は医師の働き方改革、地域医療構想、薬剤師確保計画とも重なる課題として、各病院には自院だけでなく地域単位での人材配置と安全管理の再点検が求められる。 参考 1) 医療法第25条に基づく病院に対する立入検査結果について[令和5年度](厚労省) 2) 医療法に基づく人員の適合率、医師、看護職員、薬剤師とも低下-23年度病院立入検査(日本医事新報) 3) 病院の医師配置適合率は97.9%、看護師等は99.4%に低下、サイバーセキュリティ確保が遅れている-2023年度立入検査結果(Gem Med) 3.高額療養費見直しでパブコメ開始、2026年8月から月額上限引き上げへ/厚労省厚生労働省は6月6日、高額療養費制度の見直しに伴う健康保険法施行令等の改正案について、パブリック・コメントの募集を開始した。意見提出の期限は7月6日で、政令案と省令案の双方が対象となる。改正案は、2026年8月から月額負担上限額を1人当たり医療費の伸びに応じて見直し、2027年8月からは応能負担の観点で所得区分を細分化する内容で、公布は2026年7月、施行は同年8月1日を予定している。高額療養費制度は、重い疾病や高額な治療を受ける患者にとって、医療費負担を一定範囲に抑える公的医療保険の中核的なセーフティネットである。今回の見直しでは、低所得者や長期療養者への配慮として、多数回該当の限度額は原則維持し、年収約200万円未満の課税世帯では2027年8月から引き下げる。また、2026年8月から新たに年間上限を設け、長期にわたり継続治療を受ける患者への負担軽減を図るとしている。見直しを巡っては、2025年3月に当時の石破 茂首相がいったん実施見合わせを表明し、その後、社会保障審議会医療保険部会の専門委員会で患者団体、保険者、医療者、有識者へのヒアリングを重ねてきた経緯がある。その一方で、患者団体や保険医協会からは、月額上限の引き上げが治療継続や生活に与える影響を懸念する声が出ている。全国がん患者団体連合会と日本難病・疾病団体協議会の共同声明は、制度の一定の見直し自体には理解を示しつつ、月ごとの限度額については十分に抑制されていないと指摘している。例として、70歳未満で年収約650~770万円の区分では、現行の月額8万100円に医療費超過分の1%を加える水準から、見直し案では11万400円となり、37%増になるとしている。医療現場では、高額薬剤、がん治療、難病治療、透析、免疫疾患治療など、継続的に高額医療を必要とする患者への説明が重要になる。制度変更は、単なる「上限額の引き上げ」にとどまらず、月額負担、多数回該当、年間上限、所得区分の変更を組み合わせて患者ごとの実負担が変わる点に注意が必要となる。受診抑制や治療中断を避けるため、医療機関には、医療ソーシャルワーカーや医事課と連携し、限度額適用認定証、付加給付、自治体制度、分割払い相談などを含めた支援体制の再確認が求められる。 参考 1) 健康保険法施行令等の一部を改正する政令案に関するご意見の募集について(厚労省) 2) 健康保険法施行規則等の一部を改正する省令案に関するご意見の募集について(同) 3) 高額療養費見直し、厚労省が意見募集 7月5日まで(CB news) 4) 今年8月からの高額療養費「値上げ」 厚労省が意見募集開始(保団連) 5) 【募集】高額療養費制度の見直しについてのパブリック・コメント(日本難病・疾病団体協議会) 4.病院の情報管理に警鐘、研究用PC端末と廃棄媒体から患者データ流出か/九大ほか九州大学は6月10日、九州大学病院の患者43人分の氏名と手術動画データが外部に流出した可能性が否定できないと発表した。病院キャンパス内の研究室が管理する研究用端末1台が5月25日に不正アクセスを受け、ランサムウェアに感染したとみられる。教員が端末を起動した際、金銭を求める脅迫文が表示され、大学は直ちにネットワークから遮断した。端末は診療用ネットワークとは分離されており、電子カルテや診療業務への影響は確認されていない。情報の公開や悪用も現時点では確認されておらず、対象患者には個別に連絡し、謝罪している。大学では福岡県警とも連携し、侵入経路や被害範囲を調査する。その一方で、国立病院機構は6月8日、北海道医療センターと北海道がんセンターで廃棄処理を委託したハードディスクがインターネットオークションに転売され、患者や職員の個人情報が流出した可能性があると発表した。回収した90点のうち、31点が北海道医療センター、2点が北海道がんセンターで電子カルテシステムなどに使われていた。少なくとも約18万6,900人分、最大で約51万人分の氏名、住所、疾患名などが含まれる可能性がある。現時点で不正利用は確認されていないが、同機構は処分を受託した石狩市の産業廃棄物処理業者を廃棄物処理法違反の疑いで刑事告発した。2つの事案は、医療情報の漏えいリスクが電子カルテ本体へのサイバー攻撃だけではないことを示す。研究室端末に保存された手術動画、廃棄予定媒体に残った電子カルテ情報のいずれも、診療・研究・教育・廃棄の周辺工程で発生した。医療機関には、端末のアクセス管理、研究データの匿名化、ネットワーク分離、外部記録媒体の暗号化、廃棄時の物理破壊確認、委託先監査まで含めた情報管理体制の再点検が求められる。 参考 1) 九州大学 病院の患者データ 外部流出の可能性否定できない(NHK) 2) 手術動画流出の可能性、九大病院患者43人分 ランサムウェア感染か(朝日新聞) 3) 不正アクセスで手術動画データなど流出か 九州大病院 診療業務は通常通り(CB news) 4) 北海道がんセンターなどの患者情報が流出、最大51万人分…処分予定のHDDがネットオークションに転売(読売新聞) 5.チルゼパチド製剤の不適切使用に注意喚起、違法流通にも警鐘/リリー日本イーライリリーは6月10日、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)の不適切使用に関する声明を公表した。SNSや広告で、美容・痩身・ダイエット目的の使用を推奨していると受け取れる情報が拡散し、さらに許可なく同薬を売買した疑いで男女3人が書類送検されたことを受けた対応。上野 賢一郎厚生労働大臣も、個人間売買は違法であり、適応外使用では思わぬ副作用につながる可能性があるとして、適正使用を呼びかけている。同社は、「国内で承認されているチルゼパチドの効能・効果は『2型糖尿病』のみであり、医師の診断、管理、指導のもと、電子添付文書に則って使用される処方箋医薬品だ」と強調した。2型糖尿病以外の人が美容目的などで使用した場合の有効性・安全性は医学的に確認されていない。また、医薬品を許可なく個人間で売買・転売する行為は薬機法違反であり、管理されていない流通経路で入手した製品は品質や安全性が担保されず、本来の効果が得られないだけでなく、重篤な健康被害を招くリスクがあると警告した。その一方で、同一成分のチルゼパチド製剤には、肥満症治療薬「ゼップバウンド」もある。ただし、対象は高血圧、脂質異常症、耐糖能障害などを伴い、食事療法・運動療法で十分な効果が得られない肥満症患者などに限られ、単なる美容目的の減量とは異なる。医師による客観的診断と適切な処方プロセスが前提となる。報道では、使用済み注射針の不適切廃棄も問題化している。公共トイレなどへの投棄は清掃員らの針刺し事故や血液媒介感染のリスクにつながる。医療機関には、適応、禁忌、副作用説明に加え、入手経路や廃棄方法まで含めた患者教育が求められる。GIP/GLP-1受容体作動薬の需要が急拡大する中、適正使用、違法流通対策、供給管理は、糖尿病診療と肥満症治療の信頼性を守る医療安全上の課題となっている。 参考 1) 当社製品の適正使用に関する取り組み(日本イーライリリー) 2) 美容目的「マンジャロ」使用、製造元日本法人が警告 不適切使用や違法売買「容認できず」(J-CASTニュース) 3) 2型糖尿病治療薬「マンジャロ」の適正使用を推進 日本イーライリリーが不適切使用や違法転売に注意喚起(糖尿病ネットワーク) 4) 「マンジャロ注射針」不法投棄が横行で感染リスクへの懸念も…東京メトロが明かした“針刺し事故”の実例(女性自身) 6.髄腔内注射後に死亡、事故調が報告書概要 混入経路は特定できず/埼玉県埼玉県立小児医療センターは6月12日、白血病患者が抗がん剤の髄腔内注射後に神経症状を発症し、1人が死亡、2人が重体となった問題で、医療事故調査委員会の報告書概要を公表した。センターでは2025年1~10月、髄腔内化学療法を受けた患者5人に発熱、四肢疼痛、意識障害、呼吸障害などの神経症状が出現。死亡した10代男性を含む一部症例の保存髄液から、髄腔内に投与されるはずのない抗がん剤ビンクリスチンが検出された。委員会は、ビンクリスチンが通常の静脈内投与で中枢神経系へ移行する可能性は限定的であることなどから、「髄注薬に混入した状態で投与された可能性が極めて高い」と判断した。その一方で、混入経路を直接示す客観的証拠は確認されず、具体的な工程の特定には至らなかった。搬送、病棟保管、投与の各工程では、専用接続部品が注射筒に装着されていたことなどから、混入は極めて考えにくいと評価した。焦点となったのは無菌調製室での薬剤調製工程だ。報告書は、髄注薬とビンクリスチンが同じ空間に存在し得る運用で、空間的・時間的分離が十分とは言えなかったと指摘。調製完了時刻を客観的に確認できる記録や映像記録がなく、複数名によるリアルタイムの相互確認体制も整備されていなかったため、「調製時に混入した可能性を否定できない」と結論付けた。再発防止策として、髄注薬とビンカアルカロイド系抗がん剤の空間的・時間的分離、薬剤師2人によるダブルチェック、在庫・廃棄管理の強化、監視カメラ設置、マニュアル改定、投与前確認や廃棄工程の標準化、シリンジ払い出し廃止とミニバッグ化、定期監査、継続的な安全教育の9項目を提言した。センターは現在、髄腔内化学療法を中止しており、岡 明病院長は「まずは再発防止策を徹底して安全確保を図る」と述べ、再開時期は県や保健所と協議して検討する考えを示している。 参考 1) 使われるはずない薬「調製時混入の可能性」 埼玉・小児医療センター(朝日新聞) 2) 劇薬管理強化へ9項目 事故調報告書 小児医療センター(毎日新聞) 3) 埼玉の病院の医療死亡事故、調査報告「調剤時の混入否定できず」(日経新聞)

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第298回 医学部地域枠「9年勤務」の運用緩和へ、留学・子育てに配慮/厚労省

<先週の動き> 1.医学部地域枠「9年勤務」の運用緩和へ、留学・子育てに配慮/厚労省 2.「やせ薬」目的で拡散するマンジャロ、個人売買の監視強化/厚労省 3.外来医師過多区域で新規開業対応を強化、9医療圏を候補に提示/厚労省 4.出生率1.14で過去最低、周産期・小児医療の集約化議論へ/厚労省 5.外科医への退職強要で大津市民病院側に100万円支払い命令/大津地裁 6.私物PCとクラウド利用に警鐘、患者情報1,365件漏えいの可能性/藤田医大 1.医学部地域枠「9年勤務」の運用緩和へ、留学・子育てに配慮/厚労省厚生労働省は、医学部入試の「地域枠」について、卒業後に特定地域で原則9年以上勤務する現在の運用を見直す検討に入った。地域枠は、一般入試とは別に定員を設け、奨学金の貸与と引き換えに、卒後一定期間、都道府県知事が指定する医療機関などで勤務する仕組み。2025年度は医学部定員9,393人のうち1,847人と約2割をこの地域枠の学生が占めた。医師偏在対策の柱の1つだが、若手医師の20~30歳代は、専門医取得、海外留学、結婚・出産・育児、家族介護などの時期と重なる。10~18年度に地域枠で入学した4,917人のうち、入学時の条件を満たさなかった人は301人。その理由としては「個人的な理由」が最多だった。厚労省は有識者検討会で議論を進め、留学や専門医資格取得のための猶予期間、一時中断の柔軟化などを検討し、年内の取りまとめを目指す。地域枠をめぐっては、都道府県ごとの運用差も課題となっている。育児休業による中断は全都道府県で認められている一方で、留学は35、介護は31都道府県にとどまる。高知大学のように、臨床研修後の残り7年間を15年間のうちに終えればよいとする柔軟な制度や、自治医科大学のように卒業生同士の結婚に配慮し、一定条件で配偶者の出身都道府県勤務を認める例もある。山梨県では、県内勤務を条件に修学資金返還を免除する制度について、条件を満たさない場合に最大約842万円を求める違約金条項を廃止する方針が示された。同条項をめぐっては、消費者機構日本が差し止めを求め、甲府地裁が今年1月に「平均的な損害を超え不当」として差し止めを命じていた。県は控訴していたが、制度を見直し、県による面接、在学中の地域医療実習、勤務年数に応じた段階的な返還免除、貸与額の引き上げなどを導入する。地域医療を支える制度の実効性を保ちつつ、18歳時点の選択で30代までのキャリアを過度に拘束しない制度設計が問われている。 参考 1) 医師の「地域枠9年」緩和 厚労省検討 医学部入試 留学・子育てに配慮(日経新聞) 2) 山梨県 医師確保のための「地域枠」制度 違約金条項を廃止へ(NHK) 3) 山梨県が医学部の修学資金制度を見直し、「違約金」を廃止(朝日新聞) 4) 山梨、医師修学資金貸与の違約金を廃止 裁判踏まえ見直し(毎日新聞) 2.「やせ薬」目的で拡散するマンジャロ、個人売買の監視強化/厚労省糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)をダイエット目的で使用したり、SNSで個人間売買したりする動きが広がっているとして、厚生労働省が注意喚起と監視を強化する。上野 賢一郎厚生労働大臣は6月5日の閣議後の会見で、「マンジャロを個人間で売買することは違法」と明言。都道府県など関係機関と連携し、SNSを含むネットパトロールを強化し、法違反には厳正に対処する考えを示した。マンジャロは米・イーライリリーが開発したGIP/GLP-1受容体作動薬で、国内では2型糖尿病において効能・効果で承認され、医師の処方のもとで使用されている。その一方で、食欲を抑える作用が注目され、美容・ダイエット目的での使用を勧めるSNS投稿や美容クリニックの広告が拡散している。上野厚労相は「糖尿病治療以外で使用した場合の安全性、有効性は確認されていない。思わぬ副作用につながる可能性も否定できない」と述べ、適正使用を呼びかけた。6月2日には、大阪府警がマンジャロをSNS経由で無許可販売したなどとして、大阪府・奈良県の20~30代の男女3人を医薬品医療機器法(薬機法)違反の疑いで書類送検した。薬機法は、許可を受けていない者が業として医薬品を販売することを禁じており、違反すれば3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金の対象となる。処方箋医薬品であるマンジャロは、許可業者であっても処方箋なしには販売できない。また、販売目的で保管する「貯蔵」も処罰対象となり得る。購入しただけの人を直接処罰する規定はないとされるが、余った薬を友人に有償で譲ったり、SNSで転売したりすれば無許可販売に問われる可能性がある。さらに、正規ルート外で入手した医薬品は偽造品や不適切な温度管理のリスクがあり、重い副作用が出ても医薬品副作用被害救済制度の対象外となる。医療者には、マンジャロが単なる「やせ薬」ではなく糖尿病治療薬であることを患者に説明し、安易な個人売買や自己判断での使用を避けるよう啓発する姿勢が求められる。 参考 1) マンジャロ個人間売買、厚労相「法違反は厳正に対処」 注意喚起強化(朝日新聞) 2) 糖尿病治療薬「マンジャロ」上野厚労相が適正な使用を呼びかけ(NHK) 3) 厚労相「法違反、厳正に対処」 マンジャロ個人売買の横行受け(毎日新聞) 4) 「やせ薬」危険な個人売買 糖尿病薬「マンジャロ」取引横行 許可なくSNSで販売疑い異例の立件(同) 5) マンジャロ無許可販売で書類送検、買う側には「罰則なし」? それでも弁護士が購入を勧めないワケ(弁護士ドットコム) 3.外来医師過多区域で新規開業対応を強化、9医療圏を候補に提示/厚労省厚生労働省は、2027年度から始まる第8次医療計画後期に向け、「外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン」を都道府県に通知した。今回の見直しは、都市部など診療所医師が集中する地域で新規開業への対応を強める一方で、医師不足地域では診療所の承継・開業支援を進めるもので、外来医療における偏在策が具体化しつつある。ガイドラインでは、外来医師偏在指標と可住地面積当たり診療所数を基に、とくに外来医師が多い「外来医師過多区域」の候補として、東京・区中央部、区西部、区西南部、区南部、区西北部、京都・乙訓、大阪市、福岡・糸島、神戸の9つの2次医療圏を提示した。外来医師過多区域では、無床診療所の新規開設希望者に対し、原則として開設6ヵ月前までの事前届出を求める。届出では、夜間・休日の初期救急、在宅医療、発熱外来、学校医・予防接種、警察医会への協力など、地域で不足する医療機能を担う意向の有無や内容を示す必要がある。要請や勧告に従わない場合には、内容の公表に加え、保険医療機関の指定期間を通常より短縮する対応も想定される。その一方で、制度は一律の開業抑制ではない。親の死亡に伴う急な診療所承継や、自治体の求めに応じて地域外来医療を担う場合などは、事前届出の猶予・免除の対象となり得る。また、診療所の全医師が育児や介護で夜間・休日対応ができない場合など、地域で不足する医療機能を担えない「やむを得ない事情」も例示された。医師不足地域では、国と都道府県による診療所の承継・開業支援が始まっている。2024年度補正予算で102億円、2026年度当初予算で20億円が措置され、施設整備、医療機器購入、職員給与や材料費などの運営経費を支援する。青森県では県内全6つの2次医療圏を重点医師偏在対策支援区域に定め、2025年度に19診療所が交付対象となった。承継10施設、新規開業9施設で、内科に加え産科や小児科の開業も含まれた。県内診療所数の減少幅は緩やかになっており、県や医師会からは支援事業を評価する声が出ている。外来医療の偏在対策は、開業の自由と地域に必要な医療機能の確保をどう両立させるかが焦点となる。都市部では新規開業医に地域で不足する医療機能への協力を求め、医師不足地域では経済的支援で承継・開業を後押しする「要請と支援」の両輪が動き出した。今後は、地域医療構想、かかりつけ医機能報告、外来機能報告のデータを活用しつつ、長期的な財源確保と、地域ごとの実効性ある協議が問われる。 参考 1) 外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン~第8次(後期)~」について(厚労省) 2) 開業規制の医師過多区域、5都府県の9圏域候補 国がガイドラインで示す(CB news) 3) 第8次後期外来医療計画のGLを通知、外来医師過多区域の取り組みを記載-厚労省(日本医事新報) 4) 第8次後期の外来計画でGL 過多区域の「特例」示す(MEDIFAX) 5) 重点区域の診療所支援、偏在是正に一定の効果 「長期的な財源確保」を(同) 4.出生率1.14で過去最低、周産期・小児医療の集約化議論へ/厚労省厚生労働省が公表した2025年人口動態統計(概数)で、わが国の出生数は前年比1万4,937人減の67万1,236人となり、10年連続で過去最少を更新した。合計特殊出生率は1.14で、3年連続の過去最低となった。出生数の減少率は2.2%と、近年の5%台からは縮小したが、死亡数158万9,489人との差である自然減は91万8,253人に達し、19年連続の人口減少となった。婚姻件数は48万9,119組で2年連続増加したが、この10年では14万組余り減っており、少子化の基調は変わっていない。都道府県別の出生率は、沖縄1.52、宮崎1.46、福井1.45が高く、東京0.96、北海道・宮城1.00と低かった。関東以北で低く、西日本で高い「西高東低」の傾向がみられた。この背景には、所得・雇用の不安定さ、出会いの少なさ、子育て費用、仕事と育児の両立困難、固定的な性別役割分担意識の地域差など、複数の要因が絡むとされる。政府は児童手当の拡充、子供誰でも通園制度、育児休業給付の充実、出産費用無償化などを進めるが、尾崎 正直官房副長官は「少子化に歯止めがかかっていない」との認識を示している。医療現場への影響はすでに顕在化している。国内の分娩取扱施設は2006年の3,098施設から2025年には1,856施設へ約4割減少し、診療所は初めて1,000施設を下回った。埼玉県本庄市では地域最後の分娩施設が少子化による経営難などを理由に分娩を休止し、妊婦健診は地域診療所、分娩は近隣施設で担うセミオープン型へ移行した。小児医療でも、低出生体重児や小児外科症例の減少により、NICU・GCUの空床、専門医・指導医育成の症例確保、こども病院の赤字が課題となっている。NICUは出生1万人当たり46.2床と、かつての整備目標を大きく上回る一方で、GCUの病床利用率が50%未満の地域周産期母子医療センターも多い。第9次医療計画に向けて、国は周産期・小児医療の病床数見直し、集約化、都道府県を越えた広域連携の検討を始める。少子化は単なる人口政策ではなく、分娩、小児救急、NICU、小児外科、思春期医療まで含む医療提供体制の再編問題である。安全性を維持しながら、患者・家族の移動負担や地域アクセスをどう支えるかが、今後の医療政策の焦点となる。 参考 1) 人口動態統計月報(概数)(令和7(2025)年12月分(年計を含む))(厚労省) 2) 13県で出生率上昇も…少子化に歯止めかからず 対策の拡充不可避 令和7年人口動態統計(産経新聞) 3) 出生率1・14、過去最低を更新 出生数は最少の67万人 令和7年人口動態統計(同) 4) 閉じる分娩施設、減る小児の症例数 世界最高水準を誇る医療の未来は(朝日新聞) 5) 少子化で経営成り立たず 地域最後のお産休止、空床増えるこども病院(同) 6) 去年の出生数67万人 過去最少 少子化対策ポイントは(NHK) 5.外科医への退職強要で大津市民病院側に100万円支払い命令/大津地裁大津市立大津市民病院に勤務していた外科医3人が、業績不振を理由に退職を強要され、パワーハラスメントを受けたとして、病院を運営する地方独立行政法人や前理事長、前院長に慰謝料や未払い退職金など計約2,900万円の支払いを求めた訴訟で、大津地裁は6月5日、原告のうち1人に対する退職強要を認め、病院側に慰謝料100万円の支払いを命じた。パワハラについては3人とも認めず、残る2人への退職強要も否定した。判決によると、前理事長らは2021年4~9月、外科などの業績不振を理由に「改善の兆しが見えないということで決断せざるを得ない」などと発言。同年9月の面談では、元副院長に対し、「外科の医師には退職してもらい、別の大学のチームに来てもらうよう頼む」趣旨の発言をした。田野倉 真也裁判官は、外科の経営低迷が元副院長らの責任とは認められないにもかかわらず、退職を求めた言動は「社会通念上相当と認められる退職勧奨の範囲を超えた」と判断。自由な退職意思の形成を妨げる退職強要に当たるとして、精神的苦痛と退職を余儀なくされたことへの慰謝料を認めた。その一方で、残る2人の医師については、問題となった面談に出席しておらず、前理事長らの意向を元副院長から伝えられたに過ぎないとして、退職を強要されたとは評価できないとした。また、原告側が主張したパワハラについても、3人いずれについても認定しなかった。前理事長が元副院長に対して名誉毀損を理由に550万円を求めた反訴も棄却された。今回の判決は、病院経営の改善や診療科再編を理由とする人事対応であっても、特定医師に退職を既定方針として繰り返し伝える行為は、適法な退職勧奨の範囲を超え得ることを示した。医師不足や経営悪化を背景に診療体制の見直しを迫られる医療機関では、業績評価の根拠、面談記録、本人の自由意思の確保、配置転換や業務改善の選択肢提示など、手続きの透明性が一層問われる。 参考 1) 大津市民病院の損賠訴訟 退職強要認め100万円支払命令 地裁判決(産経新聞) 2) 「退職の決定」何度も通知するパワハラ…市立病院側に医師1人に100万円の支払い命じる判決(読売新聞) 3) 大津市民病院の前理事長ら、医師に退職強要 100万円の損害賠償支払い命令、大津地裁(中日新聞) 6.私物PCとクラウド利用に警鐘、患者情報1,365件漏えいの可能性/藤田医大藤田医科大学病院は、6月3日に看護師の私物パソコン(PC)に保存されていた患者情報1,365件が外部に漏えいした可能性があると発表した。対象は、末期腎不全、腹膜透析、腎代替療法指導を受けた一部患者で、氏名、性別、生年月日、患者ID、病名、転帰、入退院日、検査データなどが含まれる。現時点で不正利用は確認されていないが、病院は対象患者への謝罪と経過報告、相談窓口の設置、全職員研修、個人情報の取扱実態調査を進める。今回の事案で注目すべきは、病院本体の電子カルテが直接侵害されたのではなく、職員が規定に反して患者情報を私物PCに保存し、自宅でサポート詐欺型の不正侵入を受けた点である。看護師は学会発表資料の作成などを目的に、2020年ごろからクラウドを介して患者情報を私物PCと共有していた。5月25日、自宅でウェブサイトを閲覧中に偽の警告画面が表示され、表示された連絡先やURLに応じた結果、第三者による遠隔操作を受けたとみられる。その後、ウイルス駆除名目の金銭請求、身に覚えのないクレジット請求、携帯電話アカウント変更通知などがあり、専門業者からサポート詐欺と情報漏えいの可能性を指摘された。医療機関のサイバー対策は、ランサムウェア対策のみを想定すれば足りる段階ではなくなっている。偽警告、遠隔操作、クラウド同期、私物端末、学会・研究用データの持ち出しが組み合わされば、重大な個人情報漏えいにつながる。とくに、匿名化が不十分な症例リストや検査データ、紹介状、退院サマリーを、発表準備や在宅作業のために個人端末へ移す運用は、診療所でも起こり得る。厚生労働省は5月29日に開かれた「医療等情報利活用ワーキンググループ」で示した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版(案)」は、病院だけでなく、一般診療所、歯科診療所、薬局、訪問看護ステーション、介護事業者も対象とする。医療情報を保存するシステムに限らず、医療情報を扱う情報システム全般が対象であり、私物PCやクラウド利用も管理外ではなくなっている。さらに令和8年度版チェックリスト案では、二要素認証、パスワード要件、端末・サーバ・ネットワーク機器の台帳管理、アクセス権限管理、USBなど外部記録媒体の制限、不要ソフトの停止、インシデント時の連絡体制、サイバー攻撃を想定した事業継続計画(BCP)の策定が重視されている。まず、クリニックなどでも「患者情報をどの端末、クラウド、USB、メールに置いているか」を確認し、私物PC端末への保存禁止、学会・研究用データの匿名化手順、クラウド共有の承認制、偽警告が出た際に電話しない・URLを開かないなどのセキュリティ教育が必要となる。サイバー対策はもはや医療情報システム部門だけの課題ではなく、診療情報の持ち出しルールと緊急時対応を明文化するなど、医療機関の経営者にとって重要な課題になっている。 参考 1) 個人情報漏洩に関するご報告とお詫び(藤田医科大病院) 2) 第32回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ(厚労省) 3) 患者情報1,365件漏えいか 藤田医科大病院 相談窓口設置へ(読売新聞) 4) 藤田医科大病院で1,300件超の患者情報漏えい 私物PCでサポート詐欺被害(CB news) 5) 藤田医大病院 私用パソコンに保存 患者の個人情報流出か(NHK)

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第297回 改正健康保険法が成立、出産無償化とOTC類似薬負担増を導入/国会

<先週の動き> 1.改正健康保険法が成立、出産無償化とOTC類似薬負担増を導入/国会 2.診療報酬改定目前、キャンセル料を巡る混乱で厚労相が陳謝/厚労省 3.AIの悪用リスク踏まえ病院のサイバー対策強化を/厚労省 4.直近100日の薬剤情報を表示、ワクチン接種歴も/デジタル庁 5.糖尿病薬の個人間取引に警告 X投稿の7割超がマンジャロ/東京都 6.東京女子医大2歳児死亡事故、ICU責任医に有罪判決/東京地裁 1.改正健康保険法が成立、出産無償化とOTC類似薬負担増を導入/国会改正健康保険法など医療保険制度改革の関連法は5月29日の参議院本会議で、与党自民党や日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決、成立した。柱は、正常分娩の実質無償化と、市販薬と成分や効能が似る「OTC類似薬」を処方された患者への追加負担の導入である。政府は給付と負担を見直し、現役世代の社会保険料負担を軽減すると説明しているが、患者団体や野党からは受診控えや家計圧迫への懸念がされている。出産費用については、現在は正常分娩が公的医療保険の対象外で、出産育児一時金50万円の支給で対応している。しかし、都市部を中心に費用が一時金を上回るケースが目立つため、厚生労働省が全国一律の基本単価を設定し、公的保険から医療機関へ全額給付する仕組みに改める。改正法の公布後2年以内、遅くとも2028年夏ごろまでの施行を目指す。すべての妊婦を対象に定額の現金給付も設ける。帝王切開は、従来通り保険診療で原則3割負担となり、正常分娩でも個室料などは自己負担となる。当面は医療機関の判断で出産育児一時金を継続できる経過措置も置き、産科経営や地域の周産期医療体制への影響に配慮する。OTC類似薬では、保湿薬、抗アレルギー薬、解熱鎮痛薬、胃腸薬など77成分、約1,100品目を対象とする案が示されている。薬剤費の4分の1を公的保険の給付対象から外し、患者の1~3割負担に上乗せする。2027年3月の開始を目指す。政府は市販薬を購入する人との公平性や、必要性の低い受診の抑制を狙う。その一方で、がんや難病の患者、子供、低所得者、医師が通年処方を必要と判断する患者などには追加負担を求めない方針であり、具体的な範囲は今後、専門家の意見を踏まえて定めるとしている。改正法には、75歳以上の後期高齢者の保険料や窓口負担の算定に、上場株式の配当など金融所得を反映させる仕組みの強化も盛り込まれた。さらに高額療養費制度について、将来の見直し時に、長期療養者の家計への影響を考慮することも明記した。参院厚生労働委員会は、OTC類似薬の対象を薬剤以外の診療行為に広げないよう検討することや、必要な受診が抑制されないよう影響を検証し、必要に応じて見直すことなど19項目の付帯決議を採択した。立憲民主党、公明党、共産党、れいわ新選組などは反対し、国民皆保険の維持と患者負担増の線引きが今後の焦点となる。 参考 1) 健康保険法等の一部を改正する法律案について(厚労省) 2) 「OTC類似薬」処方された患者に追加負担求める法律が成立(NHK) 3) 改正健康保険法が成立…OTC類似薬の患者追加負担、出産費用の実質無償化など柱(読売新聞) 4) 出産費用を無償に、改正法成立 厚労省が全国一律価格を設定へ(日経新聞) 5) 健保法等改正案 参院厚労委で賛成多数で可決 29日の参院本会議での採決を経て成立へ(ミクスオンライン) 2.診療報酬改定目前、キャンセル料を巡る混乱で厚労相が陳謝/厚労省厚生労働省は6月1日に診療報酬を改定する。物価高と賃上げへの対応が柱で、外来の初診料本体は2,910円に据え置く一方で、物価上昇分20円と職員の基本給引き上げに充てるベースアップ評価料170円が上乗せされ、初診時の患者負担は少なくとも190円引き上げられる。また、2026年3月以前からベースアップ評価料を算定していた医療機関でも、現行60円から230円へ引き上げられ、これらの上乗せは1年後にさらに拡大する予定となっている。薬局でも調剤基本料が立地や規模に応じて10~20円引き上げられ、3ヵ月に1回、物価上昇対応分として10円が加算できる。薬局版のベースアップ評価料も新設され、処方箋1回につき40円が上乗せされる。また、後発医薬品がある先発品を患者が希望する場合に、保険の窓口負担とは別に支払う選定療養費は、先発品と後発品の価格差の4分の1から2分の1へ引き上げられる。その一方で、注目された診察予約のキャンセル料について、厚労省は5月29日、「対象は『予約料』を設定し、選定療養として地方厚生局に届け出ている医療機関に限られる」と通知を訂正した。予約を受け付けていても予約料を徴収していない通常診療では、キャンセル料は取れない。対象は2024年8月時点で全国928施設にとどまる。徴収できるのは、患者都合による診察直前のキャンセルに限られ、窓口やウェブサイトなどで事前に説明し、患者の同意を得る必要がある。3月の通知では対象が選定療養に限られることが明確でなく、すべての医療機関でキャンセル料を取れるとの誤解が広がった。上野 賢一郎厚労相は「現場に混乱を生じさせた」と陳謝した。医療機関には、価格改定や人件費対応の一方で、患者説明と同意、掲示、届出の適正な運用が求められる。 参考 1) 診察予約キャンセル料 一定条件で請求可能に 厚労省が周知へ(NHK) 2) 診察キャンセル料めぐり厚労相謝罪 6月から一部医療機関で徴収可へ(朝日新聞) 3) 診察キャンセル料は一部病院のみ 厚労省が通知訂正、周知不足陳謝(共同通信) 4) 診療報酬、来月1日に改定 キャンセル料徴収可に 初診190円上げ(日経新聞) 3.AIの悪用リスク踏まえ病院のサイバー対策強化を/厚労省厚生労働省は5月27日、都道府県を通じ、医療機関に高性能AIの悪用リスクを踏まえたサイバーセキュリティ対策の再確認を求める事務連絡を発出した。AI技術の急速な進展により、脆弱性探索や攻撃手法の自動化が進み、攻撃のスピードや規模が拡大する恐れがあるための措置。医療分野は国民の生命・健康を支える重要インフラであり、電子カルテや医療機器、院内ネットワークが停止すれば診療継続に重大な支障が生じるとして、厚労省は経営層のリーダーシップによる対策強化を求めている。通知では、米Anthropic社が4月に公表した「Claude Mythos Preview」など、脆弱性の発見・修正能力を高めたフロンティアAIモデルの登場を例示。内閣官房国家サイバー統括室などが5月18日に発出した重要インフラ向け注意喚起を踏まえ、医療情報システムの安全管理ガイドラインを要約し、医療機関が優先的に確認すべき事項を整理した。重点項目では、サイバーセキュリティを経営課題に位置付け、責任者や意思決定体制、連絡系統を明確にすることを求めている。さらに、電子カルテ、医療機器、院内ネットワークなど重要システムの把握とリスク評価、ネットワーク分離やアクセス制御、外部委託・クラウド利用時の責任分担の明確化を要請するほか、機器の棚卸し、セキュリティパッチの迅速な適用、サポート終了機器の見直しも明記した。ランサムウェア対策では、オフラインを含むバックアップの取得・保管と復旧訓練、不審メール対応、感染兆候の早期検知体制を挙げた。インシデント発生時には、初動対応、影響範囲の確認、厚労省やベンダーとの連携、原因分析と再発防止策が必要とした。全職員への定期的な教育、標的型攻撃訓練、医療機器メーカーとの情報共有、調達段階からのセキュリティ要件確認も求めている。厚労省は、サイバー攻撃を想定したBCP(事業継続計画)の策定・見直しや、システム停止時の紙運用など代替手段の確保も促し、チェックリストを用いた点検を呼びかけている。 参考 1) 「高性能AIの悪用リスクを踏まえたサイバーセキュリティ対策の強化について(医療機関等向け注意喚起)」(厚労省) 2) 最新AI攻撃の対策確認を要請 医療機関に厚労省(毎日新聞) 3) 医療機関は最新AI対策の確認を サイバー攻撃悪用で厚労省(東京新聞) 4.直近100日の薬剤情報を表示、ワクチン接種歴も/デジタル庁デジタル庁は、マイナポータルの「薬」のページをリニューアルし、直近100日以内に受け取った薬の情報を確認できるようにした。従来は診療報酬明細書、いわゆるレセプト情報を基にしていたため、反映は前月分までに限られ、実臨床で使うにはタイムラグが大きかった。今回の改善により、電子処方箋に対応する薬局や医療機関で薬を受け取った場合、原則として当日中に情報が表示される。画面には「最近の薬」「最近の処方箋」が新設され、受け取った日付、薬局名、薬剤名、用法・用量が確認できる。政府によると、現在は薬局の89%が電子処方箋に対応している。その一方で、厚生労働省は6月から、ワクチン接種歴や副反応疑い事例を集約する新たな予防接種データベースの運用を始める。対象は公費助成を受けられる定期接種ワクチンで、接種したワクチンの種類や接種日などを市区町村から収集し、2028年春までに全国民の情報を集める計画である。国民はマイナポータルなどを通じて、自身の接種歴を確認できるようになる。6月以降の情報が中心で、5月以前の接種分の提供は任意となる。新データベースは、接種情報に加えて死亡情報、副反応疑い事例、レセプト情報とも連結される予定であり、2028年度から研究者らがワクチンの有効性や安全性、副反応疑い事例の発生頻度を活用し、分析しやすくする。今後、麻しん、風しんなどの流行時には、本人が接種歴を確認し、未接種であれば接種行動につながることも期待されている。医療者にとっては、問診時の服薬歴・接種歴確認の精度向上が見込まれる。救急外来、入院時、周術期、ポリファーマシー対策、ワクチン接種相談などで活用の余地は大きい。ただし、情報の反映範囲や過去接種歴の欠落、患者本人の閲覧・提示への依存といった限界もある。マイナポータル情報を補助線として使いつつ、従来の問診、お薬手帳、紹介状、薬剤師との連携を組み合わせる運用が求められる。 参考 1) 薬の画面で最近の薬や処方せんの情報を確認できるようになりました(デジタル庁) 2) 100日以内に受け取った薬の情報確認 マイナポータル改善、電子処方箋対応なら当日表示(産経新聞) 3) ワクチン接種歴、マイナポータルなどで確認可能に…新DB6月に運用開始・「効果」「副反応」分析にも活用へ(読売新聞) 5.糖尿病薬の個人間取引に警告 X投稿の7割超がマンジャロ/東京都東京都が2025年度、X(旧ツイッター)上で医薬品の不正販売が疑われる投稿に警告した497件のうち、約75%に当たる375件が、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)など糖尿病薬の取引に関するものだったことがわかった。都は公式アカウント「東京都庁薬務課」から、販売をうたう投稿に対し「医薬品であるマンジャロを許可等なく販売等することは医薬品医療機器等法に違反します。直ちに販売を中止して下さい」とリプライで警告している。マンジャロは2型糖尿病治療薬として承認されている一方で、近年は体重減少効果への関心から、ダイエットや美容目的での使用が広がっている。医療用医薬品を入手するには原則として医師の診察と処方が必要で、個人が許可なく販売する行為は、たとえ1回であっても医薬品医療機器等法に違反する恐れがある。東京都は、フリマサイトやオークションサイト、SNSでの医薬品販売に注意を呼びかけており、改善がない場合はX側に投稿削除を要請している。糖尿病薬をめぐっては、適応外使用や自己判断での使用による健康被害も懸念される。厚生労働省も、添付文書に基づく適切な使用がなされない場合、思わぬ健康被害につながる可能性があるとして注意喚起している。とくにGLP-1受容体作動薬などの使用では、消化器症状、低血糖リスク、既往歴や併用薬への配慮が必要であり、医師の管理を離れた流通は安全性の面で大きな問題となる。都による警告件数は、2023年度は62件、2024年度は78件だったが、2025年度は検索業務を外部委託したことで大幅に増えた。糖尿病薬関連に関して2023・24年度はいずれも2件にとどまっており、今回の急増はマンジャロ人気とSNS上の流通拡大を映している。Xから秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」に誘導するケースも確認されており、都は2026年度からテレグラム上でも警告を始める方針。医療者には、処方時の適正使用説明に加え、患者がSNS経由で医薬品を入手しないよう啓発する役割も求められる。 参考 1) 薬の不正販売疑い投稿、糖尿病薬が7割超 昨年度 都が「X」で確認・警告(日経新聞) 2) 「直ちに販売を中止して下さい」東京都庁薬務課、「マンジャロ」めぐりXで警告 歓迎の声相次ぐ(J-CASTニュース) 6.東京女子医大2歳児死亡事故、ICU責任医に有罪判決/東京地裁東京女子医科大学病院で2014年、手術後の2歳男児に鎮静剤プロポフォールが長時間・高用量で投与され死亡した医療事故を巡り、東京地裁は5月29日、業務上過失致死罪に問われた当時ICUの現場責任者の麻酔科医に禁錮1年6月、執行猶予3年を言い渡した。その一方で、当時後期研修医だった医師については無罪とした。プロポフォールは手術麻酔や鎮静に広く使われるが、添付文書では集中治療における人工呼吸中の小児への投与が禁忌とされている。裁判では、投与と死亡の因果関係、当時の医療水準からみた注意義務違反の有無が争点となった。判決では、医師の裁量で禁忌薬を使用する余地はあり得るとしつつ、本件では「投与量・投与時間が目安を大きく超え、心電図異常も継続していたことから、副作用リスクが高まった段階で投与を中止すべきだった」と認定。「通常の専門医であれば到底行わない高用量、長時間投与」として、責任者の過失を重くみた。その一方で、後期研修医については、当時は専門医資格を持たず、鎮静薬選択を日常的に担う立場ではなかったとして、死亡を具体的に予見できたとは認められないと判断した。判決は、チーム医療において職位、専門性、権限に応じて刑事責任を分けた点でも注目される。医療現場への示唆は大きい。禁忌薬や安全性が十分確認されていない医療行為を行う場合、医学的合理性、家族への説明と同意、リスク監視、投与量・時間の記録、異常時の中止基準を組織として明確化する必要がある。女子医大は事故後、特定機能病院の承認を取り消されており、厚生労働省は2016年、特定機能病院に対し安全性未確立の薬剤使用時の院内審査体制を義務付けた。今回の判決は、個人の裁量に依存せず、病院全体で高リスク医療を管理する体制整備の重要性を改めて示したものといえる。 参考 1) 2歳児死亡、麻酔科医に有罪 元研修医は無罪、東京女子医大(東京新聞) 2) 東京女子医大病院で2歳児死亡 医師1人に無罪判決、もう1人は有罪(朝日新聞) 3) 東京女子医大の2歳児死亡、元准教授に有罪判決 元研修医は無罪(日経新聞) 4) 東京女子医大 鎮静剤投与で2歳児死亡 責任者の医師に有罪判決(NHK)

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「MASLD診療ガイドライン」改訂、脂肪肝を全身疾患として再定義/日本消化器病学会

 2026年4月、「MASLD診療ガイドライン」が改訂された1)。2020年に発刊した前版の「NAFLD/NASH診療ガイドライン」から6年ぶりの改訂で、第3版となる。2026年4月16~18日に開催された第112回日本消化器病学会総会では、改訂ポイントを解説するパネルディスカッションが開催された。 今改訂の最大のトピックスは、疾患名の変更とその定義だ。従来、脂肪性肝疾患に用いられてきた「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」の疾患名は国際的コンセンサスに基づき、2023年に「MASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)」「MASH(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)」に変更された。日本でも日本消化器病学会・日本肝臓学会がこれに賛同し、2024年8月に「MASLD:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」「MASH:代謝機能障害関連脂肪肝炎」との日本語名を発表している。改訂版ガイドラインでは、これらの新たな疾患名・定義を踏まえた診断・診療体系が提唱された。疾患定義:世界的な名称変更 NAFLDという名称は1980年代に提唱され、その後40年以上にわたり使用されてきた。しかし「non-alcoholic(非アルコール性)」という否定形表現や、「fatty」という言葉が患者へのスティグマにつながるとの指摘が国際的に強まっていた。これを受け、脂肪性肝疾患を「SLD(steatotic liver disease)」という1つの大きな疾患群として捉え直し、そのなかで心代謝系危険因子(CMRF)の有無、飲酒量、その他(薬物、ウイルス、遺伝子など)の要因に応じて疾患を再分類したうえで、その中心的な病態としてMASLDが位置付けられた。従来のNAFLD/NASHとMASLD/MASHの臨床像や診断アルゴリズムはおおむね一致しており、従来のエビデンスは引き続き活用される。診断フローチャート:新たに「MetALD」を設定 新たな疾患分類では、SLDを認めた患者に対し、まず、CMRFの有無を評価する。ガイドラインではCMRFとして 1)肥満:BMI≧23kg/m2 or 腹囲男性>94cm・女性>80cm 2)血糖:空腹時≧100mg/dL or 食後2時間≧140mg/dL or HbA1c≧5.7% or 2型糖尿病 or その治療 3)血圧:収縮期≧130mmHg or 拡張期≧85mmHg or 降圧薬内服 4)中性脂肪:≧150mg/dL or 脂質異常症治療薬内服 5)HDL:男性≦40mg/dL、女性≦50mg/dL or 脂質異常症治療薬内服の5項目を採用している。これらのリスク因子が1つ以上あり、かつ飲酒量が基準未満(純エタノール量:男性30g/日未満・女性20g/日未満)であればMASLDと診断される。 今回のガイドラインでは、新たな疾患カテゴリとして、CMRFが1つ以上の中等量飲酒例(男性30~60g/日・女性20~50g/日)を「MetALD(代謝機能障害アルコール関連肝疾患)」として独立して規定した。これを超える飲酒量であれば「ALD(アルコール関連肝疾患)」となる。MetALDは従来ではNAFLDから除外されていた群だが、近年、代謝異常とアルコール双方が病態進展に関与すると示されたことを背景に設定され、MASLDよりも肝関連イベントリスクが高いことが報告されている。さらに心血管イベントも増加するとの報告もあることがFRQで示され(FRQ1-1)、今後はこれらの病態に応じた治療法やサーベイランス法の開発が重要となる。診断:肝生検が「必須」から外れる BQ4-1 MASLDの診断に肝生検は必須か? MASLDの診断に肝生検は必須ではない。 今回の改訂で大きな変更点が、確定診断にあたって「肝生検は必須ではない」とされた点だ。これは近年のNIT(非侵襲的検査)の発達によるもので、NITには血液検査による肝線維化マーカー、年齢と検査値を組み合わせたスコアリングシステム(FIB-4 indexなど)、画像検査、そしてこれらの組み合わせがあり、非侵襲的かつ繰り返し評価できることが大きなメリットとなる。とくに複数の線維化マーカーが保険収載されているのは世界中で日本だけであり、この点に関するエビデンスを蓄積することも求められている。一方、肝生検を必要とするケースも依然として存在しており、高リスクMASHの確定診断、炎症の程度の把握が必要なケース、複数のNITの不一致例などが挙げられている。 今回、診断フローチャートのほかに「肝疾患高リスク症例の絞り込み・フォローアップのフローチャート」が作成された。これはNITと肝生検を組み合わせて高リスク症例を絞り込む手順と、その検査や重症度別の患者のフォローアップをかかりつけ医と専門医でどう分担すべきか、という2軸のマトリクスからなる。NITを使った2段階のハイリスク症例の絞り込み、2次リスク評価で使用できるNITのリストアップ、肝生検・超音波エラストグラフィ・MRエラストグラフィによる最終評価と治療方針の決定、その後のリスクに応じたフォローアップ体制など、診断の全体像と医師の役割分担の提唱が可視化されている。非専門医が押さえるべきポイント・従来、「飲酒歴を確認し、ウイルス性肝炎、アルコール性肝障害を除外した残り」としてNAFLDを診断していたが、MASLDにおいてはBMI、糖代謝異常、高血圧、脂質異常症などのCMRFの確認が診断プロセスの中心となる。・飲酒評価の重要性も増した。とくにMetALD概念の導入により、「少量飲酒であれば問題ない」と一律に扱うことは難しくなった。ガイドラインではMASLDを男性30g/日未満、女性20g/日未満、MetALDを男性30~60g/日、女性20~50g/日の飲酒群として整理しているが、実際にはMASLD基準内の少量飲酒でも線維化リスク上昇が報告されており、診療現場では飲酒量を細かく聴取することが重要になる。・「MASLD患者の消化器科へのコンサルテーション基準は?」という設問(BQ4-2)に対しては、「FIB-4 index>2.67(65歳以下の場合)」の高リスク群を紹介基準とし、同1.3~2.67の中間リスク群でも「血小板数<20万/μL」「AST値・ALT値が持続高値」「画像検査で肝硬変の所見を認める」場合には紹介が望ましいとされている。全身疾患としてのMASLD MASLDは多くの疾患と関連するが、診断基準となるCMRF関連4疾患である「2型糖尿病、脂質異常症、肥満、高血圧」についてはBQが設定され、相互補完関係にあることが示されている(BQ3-1~3-4)。さらに、慢性腎障害、内分泌異常、睡眠時無呼吸症候群など、多様な合併症との関連も整理された(BQ3-5、3-6)。また、肝臓以外の悪性腫瘍リスク上昇についても大腸がんを中心に、胃がん、食道がん、婦人科がんとの関連が解説された(BQ3-7)。中でも心血管疾患はMASLD患者の主要死因の1つであり、大規模メタ解析では、MASLD患者の心不全新規発症リスクは一般人口の約1.5倍と報告されている。一方で、肝線維化が心血管リスクを上昇させる独立した因子であるかについては現時点ではまだ明確ではなく、今後探索していくべき課題とされた(FRQ3-1、3-2)。 治療面では、生活習慣介入が中心である点は従来と変わらないが、「単純性脂肪肝だから経過観察のみ」という従来型対応は見直されつつある。肥満、糖尿病の合併例、線維化進展を伴う例では、早期から積極的介入を行う方向性がより明確になっている。GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬など代謝改善薬への期待も高まっており、今後の承認に向けての動きやエビデンス蓄積が注目される。

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肥満のアルコール使用障害、セマグルチドvs.プラセボ/Lancet

 肥満を有する中等度~重度のアルコール使用障害(AUD)患者において、セマグルチド週1回投与により、プラセボと比較してAUDに対する有意な治療効果が認められた。デンマーク・Copenhagen University Hospital-Bispebjerg and FrederiksbergのMette Kruse Klausen氏らが、コペンハーゲンの単施設で実施した26週間の無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果を報告した。AUDは、世界の年間死亡者の5%を占めており、新たな治療法の開発が急務となっている。GLP-1受容体作動薬であるセマグルチドは前臨床試験および初期の臨床試験において、飲酒量を減少させる可能性が示唆されていた。結果を踏まえて著者は、「今回の結果は、GLP-1受容体作動薬がAUDの新たな治療選択肢となりうることを示唆するこれまでの知見を裏付けるものである」とまとめている。Lancet誌2026年5月2日号掲載の報告。主要エンドポイントは、26週時までの大量飲酒日数の変化 研究グループは、年齢が18~70歳で、『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)』に基づきAUDと診断され、かつ国際疾病分類第10版(ICD-10)に従ってアルコール依存症と診断された、アルコール使用障害同定テスト(AUDIT)スコアが15超、BMI値30以上の患者を対象とした。AUDに対する治療を希望する被験者を、セマグルチド群(0.25mgから開始し4週ごとに増量して2.4mgを週1回皮下投与)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、標準的な認知行動療法とともに26週間投与した。 主要エンドポイントは、飲酒量振り返りカレンダー(TLFB)法で推定されたベースラインから26週時までの大量飲酒日の割合の変化であった。ITT集団を対象として、欠測値を多重代入法により補完した反復測定共分散分析(ANCOVA)モデルを用いて評価した。副次エンドポイントは、ベースラインから26週時までの総アルコール摂取量(g)の変化、飲酒をしなかった日数、飲酒日当たりの飲酒量、AUDITスコアなどで、安全性についても評価した。認知行動療法+セマグルチドで大量飲酒が改善 2023年6月10日~2025年2月4日に302例が予備スクリーニングを受け、スクリーニング対象となった135例中108例が登録された(女性53例、男性55例)。全例、1回以上の治療を受け、最終解析に組み込まれた。108例中88例(81%)が試験を完遂した。 主要エンドポイントである大量飲酒日の割合の変化量は、セマグルチド群で平均-41.1%ポイント(95%信頼区間[CI]:-48.7~-33.5)、プラセボ群で-26.4%ポイント(95%CI:-34.1~-18.6)とセマグルチド群で有意に減少した(平均群間差:-13.7%ポイント、95%CI:-22.0~-5.4、p=0.0015)。 副次エンドポイントについても、総アルコール摂取量、飲酒日当たりの飲酒量、AUDITスコアなど複数の項目で、プラセボ群に対するセマグルチド群の有意な効果が示された。 最も多く発現した有害事象は胃腸障害で、悪心の発現割合はプラセボ群の7%に対しセマグルチド群では57%であった。多くの胃腸障害は軽度~中等度で、一過性であった。

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GLP-1受容体作動薬、減量後は注射頻度減でも体重維持の可能性

 肥満症治療のためにGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)を使用している患者が同薬の使用を中止すると、体重が元に戻ってしまうことが多いが、中止ではなく注射の頻度を減らした場合は減量効果が維持できる可能性があるとする米スクリップスクリニックのMitch Biermann氏らによる研究が、「Obesity」に2月24日掲載された。 GLP-1RAの注射頻度を減らすという試みは、Biermann氏が同院の患者たちの間に共通するパターンがあることに気付いたことから始まった。何人かの患者が当初は毎週注射していたが、途中から間隔を空けて注射するようにしたところ、それでも体重の減少を維持できたと話していたという。同氏は「3人目の患者が『2~3週間に1回の注射でも体重を維持できている』と教えてくれた時点で、私はほかの患者にもこの方法を勧めるようになった」とニューヨーク・タイムズ紙に語っている。 Biermann氏は、GLP-1RAによる減量に成功した後、注射スケジュールを変更していた34人の患者の医療記録を調査した。結果は有望なものだった。多くの患者は体重を維持できており、血糖値や血圧は依然として良好であった。また、追加の体重減少は筋肉ではなく主に脂肪の減少によるものであった。注射の間隔を広げた後に体重が増加していたのはわずか4人であり、その患者らは最終的に元の週1回注射に戻していた。 注射回数を減らした状態を維持していた30人のBMIの推移を見ると、GLP-1RA治療開始前が30.0±0.7と肥満であり、注射回数を減らした時点では25.2±0.5と過体重の範囲に低下していた(日本ではBMI25以上が肥満とされるが、米国ではBMI25~30未満は過体重とされる)。そして注射頻度を減らした後もさらにBMIが低下し続け、平均36.3週間経過後には24.6±0.5と、普通体重の範囲に収まっていた。なお、この30人のうち6人は注射頻度を10~14日に1回、17人は2週間に1回へと減らし、さらに残りの7人は2週間超の間隔で注射していた。 ただし本研究は小規模なものであり、対象者の大半は民間医療保険に加入している白人であることから、この結果が全ての人に当てはまるわけではないことに留意が必要である。また、本研究は医療記録を用いた後ろ向き研究であり比較対照群も設けられておらず、「ゴールドスタンダード」とされるランダム化臨床試験として行われたものではない。加えて、研究対象者が減量目標を達成した後の患者であって、さらにGLP-1RAの注射頻度を減らしたものの同薬の投与そのものを完全に中止したわけではないことを専門家らは指摘している。 米ハーバード大学医学部の肥満治療の専門医であるFatima Stanford氏はニューヨーク・タイムズ紙の取材に対して、「注射頻度を減らすことに同意した人は、もともと治療順守度が高く自分の行動に自信があり、代謝の反応が良好な人であった可能性がある」と語り、対象患者の約12%は元の週1回投与に戻す必要があったことを指摘。ただし同氏は一方で、「この研究はこれまでの議論の枠組みを変えるものだ。肥満症が慢性治療だからといって、必ずしも規定通りの投与方法で永続的に注射を続ける必要はない。個々の患者に合わせて注射スケジュールを設定した方が効果的なのかもしれない」とも述べている。

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