低用量(25mg)の経口セマグルチド(GLP-1受容体作動薬)は、高用量(50mg)や皮下注射薬(2.4mg)に代わる肥満者の新たな治療選択肢となる可能性が指摘されている。カナダ・トロント大学のSean Wharton氏らOASIS 4 Study Groupは、過体重または肥満者では、プラセボと比較して低用量セマグルチドの1日1回経口投与は、減量効果が有意に優れ、体重が生活の質(QOL)に及ぼす影響も有意に改善することを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年9月18日号に掲載された。
4ヵ国の無作為化プラセボ対照比較試験
OASIS 4試験は、4ヵ国(カナダ、ドイツ、ポーランド、米国)の22施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(Novo Nordiskの助成を受けた)。2022年10月~2024年5月に、年齢18歳以上で、BMI値30以上、またはBMI値27以上で少なくとも1つの肥満関連合併症(高血圧、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、心血管疾患)を有し、減量を目指した食事療法に失敗した経験が1回以上あると自己報告した患者を対象とした。
被験者307例を無作為に2対1の割合で、生活様式への介入に加えて、セマグルチド25mgを1日1回経口投与する群(205例:平均[±SD]年齢48[±13]歳、女性155例[75.6%])、またはプラセボ群(102例:47[±13]歳、87例[85.3%])に割り付けた。ベースラインの全体の体重は105.9kg、BMI値は37.6、ウエスト周囲長は113.9cm、糖化ヘモグロビン値(HbA1c)は5.7%だった(すべて平均値)。
主要エンドポイントは、ベースラインから64週目までの体重の変化量と5%以上の体重減少の2つとした。
13.6%の体重減少、約3割で20%以上の体重減少を達成
ベースラインから64週目までの体重の推定平均変化量は、プラセボ群が-2.2%であったのに対し、経口セマグルチド群は-13.6%と、減量効果が有意に優れた(推定群間差:-11.4%ポイント、95%信頼区間[CI]:-13.9~-9.0、p<0.001)。
64週の時点で5%以上の体重減少を達成した患者の割合は、プラセボ群の31.1%(28/90例)に比べ、経口セマグルチド群は79.2%(152/192例)であり、有意に良好であった(p<0.001)。
64週時の10%以上(63.0%vs.14.4%)、15%以上(50.0%vs.5.6%)、20%以上(29.7%vs.3.3%)の体重減少の達成割合は、いずれも経口セマグルチド群で有意に高かった(すべてp<0.001)。
体重がQOLに及ぼす影響、55%で臨床的に意義のある改善
ベースラインから64週目までのImpact of Weight on Quality of Life-Lite Clinical Trials Version(IWQOL-Lite-CT)の身体機能スコア(0~100点、高点数ほど機能水準が良好)の変化量も、経口セマグルチド群で有意に改善し(16.2点vs.8.4点、p<0.001)、体重のQOLに及ぼす影響が良好であることが示された。
また、64週時にIWQOL-Lite-CTの身体機能スコアが臨床的に意義のある改善(14.6点以上の上昇)を達成した患者の割合も経口セマグルチド群で良好であった(55.3%vs.34.8%、オッズ比:2.4[95%CI:1.4~4.1])。
経口セマグルチド群では、ベースライン時に前糖尿病(HbA1c値≧5.7~<6.5%)であった患者のうち71.1%が、64週時に正常血糖値(同<5.7%)に移行していた。
安全性プロファイルは予想どおり
最も頻度が高い有害事象は消化器系の障害で、経口セマグルチド群の74.0%、プラセボ群の42.2%にみられた。悪心(46.6%vs.18.6%)と嘔吐(30.9%vs.5.9%)が経口セマグルチド群で多くみられたが、ほとんどが軽度~中等度で、一過性であった。
重篤な有害事象は、経口セマグルチド群で8例(3.9%)に17件、プラセボ群で9例(8.8%)に13件発現した。試験薬の恒久的な投与中止に至った有害事象は、それぞれ14例(6.9%)および6例(5.9%)に認め、このうち消化器系の障害は7例(3.4%)および2例(2.0%)だった。死亡例の報告はなかった。
著者は、「経口セマグルチド25mgの1日1回投与は、13.6%という臨床的に意義のある体重減少をもたらし、安全性プロファイルと有害事象の発現状況は予想どおりで、GLP-1受容体作動薬クラスと一致した」「これらのデータは、経口セマグルチド25mgが肥満に対する有効な治療選択肢であるとの見解を支持するもので、高用量経口投与や皮下投与の代替法として、過体重および肥満の治療戦略の柔軟性を高める可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)