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ESC心不全GL改訂、HFmrEF廃止・「急性心不全」は「非代償性心不全」へ/ESC2026

 欧州心臓病学会(ESC)による新たな心不全診療ガイドライン「2026 ESC Guidelines for the management of heart failure」がEuropean Heart Journal誌オンライン版2026年8月28日号でオンライン公開され1)、8月28~31日にドイツ・ミュンヘンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2026(ESC2026、欧州心臓病学会)において改訂の要点が解説された2)。今回の改訂では、疾患の予防と早期治療の徹底、左室駆出率(LVEF)に基づく分類の簡素化、「急性心不全」から「非代償性心不全」へ名称変更、新たな治療分類(FMT・AMT・GDIT)の導入など、時代に即した大幅な再定義が行われている。 本ガイドラインにおける主な改訂のポイントは以下のとおり。【心不全の分類・定義の刷新】LVEFに基づく分類の簡素化(HFmrEFの廃止) 従来、LVEF 41~49%の病態は「軽度低下した心不全(HFmrEF)」と定義されていたが、今回の改訂でこの分類が廃止された。HFmrEF患者は、LVEF低下例(HFrEF)と同様の病態生理を共有し、同様の治療から恩恵を受けることが明らかになったためである。これにより、心不全のフェノタイプは以下の2つにシンプル化された。新LVEF分類・LVEFが低下した心不全(HFrEF):LVEF 50%未満で、心不全の症状・徴候を有する病態。・LVEFが保たれた心不全(HFpEF):LVEF 50%以上で、心不全の症状・徴候に加え、構造的・機能的異常やナトリウム利尿ペプチドの上昇を認める病態。予防・早期介入のためのステージ分類導入 発症予防と早期治療の徹底を目的として、心不全リスク段階(ステージA)から、前心不全(ステージB)、症候性心不全(ステージC)、重症/進行性心不全(ステージD)に至る段階的なステージ分類が採用された。また、高血圧またはステージBの心不全患者において、心不全発症リスクを低減するため、収縮期血圧130mmHg未満を目指す厳格な血圧管理がクラスI(エビデンスレベルA)で推奨された。「急性心不全」から「非代償性心不全」への名称変更 従来「急性心不全(Acute HF)」と呼ばれていた病態は、心機能の徐々の低下に伴い代償機構が破綻した状態を正確に表現するため、「非代償性心不全(Decompensated HF:DHF)」へ名称が変更された。DHFの初期管理においては、尿中ナトリウムモニタリングに基づく利尿薬調整(クラスIIb)や、初期安定化後のSGLT2阻害薬の院内早期導入(クラスI)が盛り込まれている。【治療分類の刷新と薬物治療のアップデート】「GDMT」から動的な3分類(FMT・AMT・GDIT)への移行 長年使用されてきた「ガイドラインに基づく薬物治療(GDMT)」という用語が見直された。新規薬剤や医療デバイスの承認に合わせて動的(dynamic)に対応し、常に最新の管理を行えるよう、治療法が以下の3クラスに再定義された。治療クラスの新たな3分類・基礎的薬物治療(FMT:Foundational medical therapy):対象を限定しない心不全患者全体に対して、罹患率や死亡率の低減に関する最も強いエビデンスを持つクラスI推奨の薬物治療。 ―HFrEFのFMT:β遮断薬、ACE阻害薬/ARNI/ARB、MRA、SGLT2阻害薬の4薬剤。  ―HFpEFのFMT:MRA、SGLT2阻害薬の2薬剤。・追加的薬物治療(AMT:Additional medical therapy):特定サブ集団における転帰改善、または症状・QOL改善に特化したエビデンスを持つ薬物治療(クラスIIa/IIb推奨、または特定の症状改善目的のクラスI推奨)。・ガイドラインに基づく介入治療(GDIT:Guideline-directed interventional therapy):推奨されるすべての心臓植え込み型電子デバイス(CIED)や経カテーテル治療などのインターベンション治療。FMTの主な推奨事項・全LVEF領域におけるSGLT2阻害薬とMRAの推奨 SGLT2阻害薬およびミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、LVEFを問わずすべての有症候性心不全患者に対し、心不全入院または心血管死のリスク低減を目的としてクラスI(エビデンスレベルA)で推奨された。具体的な対象薬剤は以下のとおり。・SGLT2阻害薬:ダパグリフロジン、エンパグリフロジン・MRA ―HFrEF:ステロイド性MRA(スピロノラクトン、エプレレノン) ―HFpEF:ステロイド性MRA(スピロノラクトン)、非ステロイド性MRA(フィネレノン) なお、慢性心不全の管理において、FMTは症状やバイタルサイン、血液検査を参考に少なくとも1~2週間ごとに漸増し、目標用量に達することがクラスIで推奨された。また、無症状化やLVEF改善が得られた場合であっても、原則として最高耐容用量でのFMT継続がクラスIで推奨されている。AMTの主な推奨事項・肥満を伴うLVEF 45%以上の心不全に対するGLP-1受容体作動薬 BMI 30kg/m2以上かつLVEF 45%以上の肥満を伴う有症候性心不全患者(糖尿病の有無を問わない)に対し、体重減少、運動耐容能・QOLの改善を目的としてセマグルチドまたはチルゼパチドの投与がクラスIIa(エビデンスレベルB1)で推奨された。・慢性心不全へのAMT 最適なFMTを実施しても有症候性のHFrEF(LVEF 40%以下)患者に対し、心不全入院リスク低減目的で強心配糖体(ジゴキシンまたはジギトキシン)の追加がクラスIIaで推奨された。また同様に、FMT 治療後のHFrEF(LVEF 45%未満)患者に対してはベリシグアトの追加もクラスIIbで考慮される。GDITの主な推奨事項・経カテーテル的Edge-to-Edge修復術(TEER) 最適なFMTや適応のある心臓再同期療法(CRT)を実施しても持続する、血行動態が安定した重症二次性僧帽弁閉鎖不全症を伴う有症候性HFrEF患者に対し、心不全入院リスク低減およびQOL改善を目的としたTEERがクラスI(エビデンスレベルB1)で推奨された。【早期介入の重要性と患者参加型医療への展望】 ガイドライン作成タスクフォースの共同委員長を務めたLars Kober氏(デンマーク・コペンハーゲン大学病院)は、「高齢化や肥満などのリスク因子の増加に伴い、心不全の全体的な疾病負担は高まると予想される。今回のガイドラインで特に強調したかったのは、予防と可能な限り早期からの治療開始の重要性である」とプレスリリースで述べている。さらに新たな治療用語の導入について、「10年以上前に導入された『GDMT』という用語は治療の進歩に伴い、今日において何を指すのか曖昧になっていた。新用語(FMT・AMT・GDIT)は、今後新たな薬剤やデバイスが承認された際にも柔軟に対応し、常に時代に即した概念であり続けられるよう設計されている」と解説している。 同じく共同委員長を務めたMarianna Adamo氏(イタリア・ブレシア大学)は、LVEF分類の簡素化について「軽度低下(HFmrEF)という分類は、従来臨床試験に含まれにくかった患者に光を当てるため導入されたが、これらの患者がHFrEFと同様の病態生理を共有し、同様の治療恩恵を受けることが判明したためシンプル化した」と説明している。また、「急性」から「非代償性」への変更点については「突然悪化するのではなく、心臓が欠陥を補いきれなくなるまで徐々に機能低下していく病態を明確にするための改訂である」と付言した。 本ガイドラインには患者教育とセルフケアに関するセクションが含まれている。Adamo氏は「患者教育とライフスタイルのアドバイスは、患者自身が心不全を管理し、医療者と意思決定を共有する力を与える。患者が自身のケアのパートナーとなることを目指し、患者向けバージョンのガイドラインも公開されている3)」と結んでおり、医療者と患者が一体となった包括的な心不全管理の重要性がさらに高まると期待される。

2.

セマグルチド使用後に食欲が戻ったと感じても摂取量は抑制される

 肥満症に対してGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)であるセマグルチドによる治療を開始後、しばらくすると食欲が元に戻ったように感じることがあるが、少なくとも60週間は、実際の摂取エネルギー量が有意に少ない状態が維持されることが分かった。米ペンシルベニア大学のJena Tronieri氏らが行ったプラセボ対照二重盲検比較試験(RCT)の結果であり、詳細は「The American Journal of Clinical Nutrition」8月号に掲載された。 セマグルチドによる食欲抑制、摂取エネルギー量低下、体重減少効果は、主として介入期間が20週間ほどの研究で示されてきており、より長期間介入した場合のそれらの変化については不明点が残されている。食欲については、いったん低下した後、長期投与で再び増加する可能性を示唆する報告も見られる。これらを背景にTronieri氏らは、介入期間が60週間に及ぶRCTを実施した。 BMI30以上で18~70歳の成人、またはBMI27以上で肥満関連疾患を有する成人、計120人(平均年齢45.7±12.0歳、女性78.3%、BMI37.5±5.9)を3:2の割合で無作為に割り付け、72人にはセマグルチド2.4 mg、48人にはプラセボを投与。ベースライン(0週)、20週、40週、60週の時点で食欲や、食べ物に対する反応性などを評価した。食欲については、前夜から12時間絶食した空腹時にビジュアルアナログスケールを用いて計測した。その計測後、550 kcalの標準化された朝食を摂取してもらい、その4時間後に昼食を支給。昼食は本人が満足するまで自由に摂食可とし、摂取エネルギー量を測定した。 解析の結果、空腹時の食欲は、20週時点においてはセマグルチド群の方がプラセボ群より有意に低かったが(P=0.0044)、40週および60週時点では有意差が消失していた。また、食べ物への反応性も、20週時点(P=0.0203)と40週時点(P=0.0060)においては、セマグルチド群の方が低く有意差が認められたが、60週時点では有意差が消失していた。 一方、昼食の摂取エネルギー量に関しては、介入後のいずれの時点でもセマグルチド群の方が有意に低く、20週では291.9±64.4 kcal(P=0.0004)、40週では240.2±87.8 kcal(P=0.0235)、60週では269.5±83.6 kcal(P=0.0076)の差があり、セマグルチド群が24~30%少なかった。体重の変化についても全ての時点で有意差が認められ、60週時点ではセマグルチド群がベースラインから-15.1±1.3%、プラセボ群は-3.4±1.8%の変化だった(P<0.0001)。 論文の筆頭著者であるTronieri氏は、「減量目的でセマグルチドの処方を受ける患者の中には、数カ月たつと食欲が戻ってきたことに気づき、薬の効果がなくなったのではないかと心配する。しかしわれわれの研究結果は、たとえ食欲が戻ったと感じたとしても、同薬が引き続き食べる量を抑制していることを示している。この持続的な摂取エネルギー量の抑制が、長期にわたって減量効果が維持される主な理由であると考えられる」と述べている。 なお、本研究の一部は、ノボ ノルディスク社の研究助成による支援を受けて実施された。

3.

視覚障害につながるまれな眼疾患とGLP-1受容体作動薬の関連性

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の使用が、視覚障害につながるまれな眼疾患の発症リスク上昇と関連する可能性があるとする研究結果が報告された。米ラトガース大学のChintan Dave氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に7月14日付で掲載された。ただし、この病気を発症する絶対リスクは非常に低いという。 この研究では、虚血性視神経症(ION)という眼の病気に焦点が当てられた。IONは、網膜で受け取った情報を脳へ送る「視神経」に虚血(血流の不足)が生じる病気で、視野が欠けたり視力が低下したりすることがある。近年、GLP-1RAとIONとの関連について関心が高まっているが、これまで十分なデータは得られていなかった。Dave氏らは、米国の大規模医療保険請求データベースを用い、実際の臨床試験に近い条件を再現する解析手法(標的試験エミュレーション)で検討した。 18~65歳までの2型糖尿病患者のうち、GLP-1RAまたはSGLT2阻害薬(SGLT2i)、DPP4阻害薬(DPP-4i)の処方が開始された患者を解析対象とした。結果に影響を及ぼし得る80項目以上の交絡因子を統計学的に調整して、処方開始から18カ月間のIONの発症リスクを比較した。 SGLT2iとの比較では、1万人当たりのION発症率がGLP-1RA群では8.5、SGLT2i群では5.5だった(リスク差〔RD〕3.0〔95%信頼区間0.4~5.7〕)。DPP-4iとの比較では、GLP-1RA群7.8、DPP-4i群4.2だった(RD3.6〔同1.1~6.1〕)。つまり、GLP-1RAの処方が、わずかなION発症リスク上昇に関連している可能性が見られた。とはいえ、1万人当たりわずか数人のリスク差であった。 この報告は医療界の関心を集めているが、研究者らは、「患者個々の実際のリスクは非常に低い」と強調。また、「リスクは薬剤の直接的な影響というよりも、解析対象者(全員が2型糖尿病患者)の特徴を反映している可能性もある」とし、因果関係の究明にさらなる研究が必要としている。 論文の筆頭著者であるDave氏は、「IONはまれな病気ではあるが突然の視力喪失を引き起こすことがあるため臨床的に重要だ。リスクの上昇はわずかだが、この潜在的な関連性について、医師は患者とともに認識しておくべき」と述べている。 IONの症状は通常、完全な失明ではなく、片方の眼の視野がぼやけたり欠けたりするといった症状が多い。発症後数カ月たつとわずかに改善する患者もいるが、多くの場合、視力や視野の障害は永続的なものになる。本研究では、男性、50歳以上、心血管疾患や眼疾患がある人で、GLP-1RA使用者と比較薬使用者とのIONリスク差が大きい傾向がみられた。Dave氏はGLP-1RAの使用に関して、「IONのリスクが高い患者の症状の早期発見と迅速な眼科的評価が、特に重要ではないか」と語っている。

4.

フィネレノンは非糖尿病CKDのeGFR低下を抑制する(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しい? 非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(non-steroidal mineralocorticoid receptor antagonist:nsMRA)であるフィネレノン(商品名:ケレンディア)の非糖尿病慢性腎臓病(CKD)の腎機能低下抑制効果について、最近、二重盲検無作為化比較試験(RCT)のFIND-CKD研究の2報が報告された。1報は非糖尿病CKD患者全体を対象とした解析(Heerspink HJL, et al. N Engl J Med. 2026;395:533-545.)であり、もう1報は、そのうち糸球体疾患を有する患者に限定した探索的サブ解析(CLEAR!ジャーナル四天王「フィネレノンは糸球体疾患由来のCKDに対しても腎保護的である可能性がある」)である。これらの解析から、フィネレノンには、非糖尿病CKD患者全体でeGFRスロープの低下を遅延化させる腎保護効果があることが示された。CKD腎保護薬としてのフィネレノンの位置付け 糖尿病を合併するCKDに対する腎保護療法としては、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)、およびGLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)の4剤が推奨されている。このうち、RAS阻害薬とSGLT2阻害薬は第1選択薬として推奨されている。一方、nsMRAおよびGLP-1 RAは、これらの薬剤に上乗せして使用する薬剤として推奨されている(KDIGOガイドライン:Levin A, et al. Kidney Int. 2024;105:684-701.)。これらの推奨の根拠となったエビデンスは、糖尿病CKD患者を対象としたFIGARO-DKD試験およびFIDELIO-DKD試験、ならびに両試験の統合解析であるFIDELITYの成績である。一方、非糖尿病CKDではフィネレノンに関するRCTは実施されていなかった。今回のFIND-CKD研究で得られた非糖尿病CKDにおける肯定的な結果と、これまでに蓄積されてきた糖尿病CKDにおけるエビデンスを合わせて考えると、フィネレノンの腎保護作用は糖尿病の有無にかかわらずCKD全般で期待される可能性が示唆された。本研究の主要結果 FIND-CKD研究は、世界24ヵ国で実施された国際共同第III相二重盲検RCTである。糖尿病を合併しないCKD患者1,584例を対象とし、フィネレノン群793例とプラセボ群791例を比較した。対象患者の腎機能はCKD G3bが中心で、UACRは大部分がA3に相当する中等度~高度アルブミン尿を呈していた。また、57.0%は糸球体疾患を原疾患とするCKDであり、99.8%が最大耐用量のRAS阻害薬による治療を受けていた。 主要評価項目は、ベースラインから32ヵ月時点までのeGFRの平均年間変化率である総eGFRスロープ。その結果、eGFRの平均年間変化率は、フィネレノン群で-3.3mL/分/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:-3.6~-3.1)、プラセボ群で-4.0mL/分/1.73m2/年(95%CI:-4.3~-3.8)であり、群間差は0.7mL/分/1.73m2/年(95%CI:0.3~1.1、p<0.001)であった。 副次評価項目には、腎・心血管複合イベント、腎複合イベント、心血管複合イベントなど。腎・心血管複合イベントの発生リスクは、フィネレノン群でプラセボ群と比較して有意に低かった(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.60~0.99、p=0.04)。腎複合イベントのHRは0.78(95%CI:0.60~1.01)、心血管複合イベントのHRは0.60(95%CI:0.27~1.33)であった。 高カリウム血症の発現率は、フィネレノン群で17.0%(135例)、プラセボ群で13.3%(105例)であった。今後のCKD治療にどう影響する? CKDにおける腎保護の基本は、蛋白尿を減少させ、適切に降圧することである。加えて、糖尿病では血糖管理が重要であり、慢性糸球体腎炎・IgA腎症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎などでは、ステロイド、扁桃摘出術、免疫抑制薬などが病態に応じて選択される。フィネレノンによるCKDの腎保護作用は、「MRの過剰活性化→炎症・線維化」という共通の経路を抑制することによる。FIND-CKDは、非糖尿病CKDにおいても同剤が腎保護作用を有するという仮説を検証したRCTである。本研究の意義と展望については、Dr. Robert TotoのEditorial(Toto R. N Engl J Med. 2026;395:600-601.)のコメントは参考になる。Totoは、「フィネレノンは、CKDや高血圧の病態の根底にあるMRの過剰活性化を抑制する可能性がある。FIND-CKD研究の成果は、フィネレノンを『糖尿病CKDの腎保護薬』から、非糖尿病CKDにおいても『MRの過剰活性化による残余リスクを抑制する薬剤』へと位置付ける可能性がある」と展望している。言い換えると、FIND-CKDはフィネレノンを、「糖尿病CKDの薬」から「CKD全般の腎保護薬」へと適応を拡大する根拠を提供した初めての研究ともいえる。もっとも、eGFR低下の遅延抑制に加えて、腎ハードエンドポイント(腎不全や透析開始など)への効果、CKD疾患別の効果、SGLT2阻害薬との併用効果など、今後検討すべき課題は残されている。 現在、国内外のガイドラインにおいて、非糖尿病CKDに対するフィネレノンの使用についての言及はない。しかし、本研究により、今後のガイドライン改訂において、同剤がCKD全般で新たな腎保護の治療選択肢として位置付けられる可能性が高い。実臨床で非糖尿病CKD患者において、フィネレノン投与を考慮すべき患者として、(1)UACRが中等度から高度、(2)eGFRが25mL/分/1.73m2以上、(3)ARBやSGLT2阻害薬による先行治療を行ってもなお残余リスクがある患者、が想定される。また、フィネレノン投与時には、高カリウム血症のリスクを念頭に入れ、血清カリウム濃度を適切にモニターすべきである。

5.

チルゼパチド、2型糖尿病治療の負担軽減に寄与か――実臨床研究で示唆

 2型糖尿病では、複数の糖尿病治療薬の併用や複雑なインスリン療法が必要となり、患者の治療負担が増すことがある。こうした中、2型糖尿病患者を対象としたリアルワールド研究で、チルゼパチドは従来のGLP-1受容体作動薬と比べ、血糖コントロールや体重を改善しながら、糖尿病治療の負担軽減につながる可能性が示された。研究は、浅ノ川総合病院内科/金沢大学大学院未来型健康増進医学分野の澤村俊孝氏らによるもので、詳細は6月30日付の「Endocrine Practice」に掲載された。 複数の薬を服用する「ポリファーマシー(多剤併用)」や複雑なインスリン療法は、2型糖尿病患者の治療負担を増大させるだけでなく、低血糖や転倒、入院などのリスクとも関連する。このため、十分な血糖コントロールを維持しつつ、治療を簡略化することが重要な課題となっている。チルゼパチドはGIPとGLP-1という2つの消化管ホルモンの受容体に作用する2型糖尿病治療薬で、優れた血糖降下作用や体重減少作用を示すことが報告されているが、これまでの研究はHbA1cや体重への効果に焦点を当てたものが中心で、治療薬やインスリンの減量といった「治療簡略化」を評価した報告は限られていた。こうした背景から著者らは、2型糖尿病患者を対象に、チルゼパチドとGLP-1受容体作動薬の治療簡略化効果をリアルワールドデータで比較検討した。 著者らは、日本の2施設で2023年4月~2025年3月にチルゼパチドまたはGLP-1受容体作動薬を開始した2型糖尿病患者318人(チルゼパチド群153人、GLP-1受容体作動薬群165人)を対象に、後ろ向きのリアルワールド研究を実施した。患者を最大12カ月追跡し、糖尿病治療薬が1剤以上減少した場合、インスリン注射回数が減少した場合、または1日当たりの総インスリン投与量が50%以上減少した場合のいずれかを満たし、その状態が維持されていることを「治療簡略化」と定義して評価した。解析では患者背景の違いを考慮し、傾向スコアを用いた統計学的手法で調整した。 解析の結果、チルゼパチド群では55%が治療簡略化を達成したのに対し、GLP-1受容体作動薬群では25%で、チルゼパチド群の方が有意に高かった(オッズ比〔OR〕 3.69、95%信頼区間〔CI〕 2.21~6.16、P<0.001)。絶対リスク差は30%だった。 治療簡略化は主に糖尿病治療薬数の減少によるもので、その割合はチルゼパチド群で47%、GLP-1受容体作動薬群では10%だった(OR 7.96、95%CI 4.06~15.6、P<0.001)。インスリン注射回数や総インスリン投与量もチルゼパチド群で減少する傾向がみられたが、全体では有意差はなかった。 また、HbA1cと体重はいずれの群でも改善したが、その改善幅はチルゼパチド群でより大きかった。12カ月後のHbA1cはチルゼパチド群で1.34%、GLP-1受容体作動薬群で0.78%低下し、体重はそれぞれ4.75kg、2.86kg減少した。 本研究ではチルゼパチド使用患者の56%がGLP-1受容体作動薬からチルゼパチドへ切り替えられた患者であったが、GLP-1受容体作動薬からの切り替え患者を除外したサブグループ解析では、薬剤数に加えインスリン注射回数や総インスリン投与量をアウトカムとした解析でも、有意な減少が認められた。 著者らは、「チルゼパチドは、実臨床において血糖コントロールや体重減少効果を維持しながら、2型糖尿病治療の簡略化に寄与する可能性が示された」と結論付けている。また、治療レジメンの簡略化は服薬アドヒアランスや患者負担の軽減につながる可能性があり、チルゼパチドは日常診療における治療負担を軽減する新たな選択肢となり得るとしている。 一方で著者らは、本研究が後ろ向き観察研究であることや、患者のQOLや治療満足度を評価していないことなどを限界として挙げ、前向き研究による検証が必要としている。

6.

体重の増減を繰り返すと太ももの筋肉が減る?

 中高年を対象とした研究で、48カ月間の追跡期間中に体重の増減を繰り返した人では、最終的な体重の変化が小さくても、大腿部(太もも)の筋肉体積の減少率が増減を繰り返さなかった人の4倍近くに上ったことが示された。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)放射線科教授のThomas Link氏らによるこの研究結果は、7月21日付で「Radiology」に掲載された。Link氏は、「体重の増減を繰り返した人では、脂肪とともに多くの筋肉が失われ、その筋肉を取り戻すことはなかった。これは、減量中に筋肉体積を維持する方法を明らかにすることが、全身の健康にとって重要であることを示している」とニュースリリースで述べている。 研究グループによると、近年の研究では、GLP-1受容体作動薬による減量治療を中止すると、減少した体重のおよそ3分の2が再び増加する傾向が報告されている。また、GLP-1受容体作動薬による減量治療では、体脂肪だけでなく筋肉量も減少する傾向があることが懸念されているという。Link氏は、「脂肪が減ることは、減量が関節炎や筋肉、骨などに及ぼす影響を考える上での一側面に過ぎない。有効な減量法を利用する人が増える中、それらの要素がどのように関係し合っているのかを考える必要がある」と指摘している。 こうした点を検討するために、研究グループは、変形性膝関節症(OA)に関する長期研究への参加者1,433人(平均年齢60.9歳、女性750人)を対象に、MRI画像と健康データを解析した。対象者は、ベースラインから48カ月後までの間の体重の累積変化が5%未満の者とし、その間の体重変化パターンに基づき、体重の増減を繰り返した群と増減を繰り返さなかった群(1,356人)に分類された。MRIでは、右大腿の筋肉体積、筋肉間脂肪組織(IMAT)の割合、膝周囲の皮下脂肪(KaSAT)の厚さを測定した。 その結果、体重の増減を繰り返した群では増減を繰り返さなかった群と比べて、大腿の筋肉体積の減少率が有意に大きかった(−3.71%対−1.03%)。一方、IMATの割合の変化とKaSATの厚さの変化については、両群間で有意差は認められなかった。 研究グループは、「これらの結果は、食事療法やGLP-1受容体作動薬により急速に体重が減っている人では、脂肪に加え筋肉まで失われる可能性に注意する必要があることを示唆している」との見解を示している。Link氏は、「体重計の数字だけでは分からない減量が身体に及ぼす影響について、より深く理解する必要がある」と述べている。

7.

日本人2型糖尿病へのGLP-1薬、MACE・死亡リスクへの影響は?

 日本の大規模レセプトデータベースを用いたリアルワールド研究において、2型糖尿病患者に対するGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)の使用は、心血管イベントにおいてほかの血糖降下薬との有意差は認められなかったが、全死因死亡率はGLP-1薬群で有意に低く、これらの知見は残余交絡を反映している可能性があることを、千葉大学の越坂 理也氏らが示した。研究成果はDiabetes, Obesity and Metabolism誌オンライン版2026年8月11日号で発表された。日本の大規模レセプトデータベースを用いたリアルワールド研究 本研究は、約190万人規模の日本の大規模レセプトデータベースを用いたリアルワールド研究である。2型糖尿病患者のうち、2014~21年にGLP-1薬を新規処方された患者をGLP-1薬群、ほかの血糖降下薬を新規開始した患者を対照群とした。評価項目は心血管・脳血管イベント、全死因死亡などとした。解析には説明変数を用いたロジスティック回帰分析を実施し、群間で最近傍法による傾向スコアマッチングを行った。新規薬剤開始からイベント発生までの期間をCox比例ハザードモデルで解析した。全死因死亡率はGLP-1薬群が有意に低い 適格患者46万9,461例のうち、GLP-1薬群2,401例、対照群5万3,946例が抽出された。傾向スコアマッチング後、各群2,147例が解析対象となり、追跡期間の中央値は12ヵ月であった。複合心血管イベント(3-point MACE)の発生率はGLP-1薬群7.08%(152例)、対照群8.20%(176例)であり、有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.920、95%信頼区間[CI]:0.740~1.143、p=0.450)。一方、全死因死亡率はGLP-1薬群5.36%(115例)、対照群7.36%(158例)であり、GLP-1薬群で有意に低かった(HR:0.776、95%CI:0.610~0.987、p=0.039)。 これらの結果より、研究グループは「GLP-1薬は3-point MACEとの関連性は認められなかったが、全死因死亡率の低下を示した。これらの結果は、残余交絡の影響を反映している可能性がある」とまとめた。

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GLORY-2:肥満症に対するmazdutideの減量効果と真の治療ゴール(解説:永井聡氏)

 mazdutideはEli Lilly社によって創製されたオキシントモジュリン由来のペプチドアナログであり、グルカゴン(GCG)/GLP-1受容体デュアルアゴニストである。GLP-1受容体介在性の食欲抑制効果に加え、GCG受容体を介した脂肪分解および肝臓でのエネルギー消費亢進による減量効果が期待されており、現在、中国の製薬企業が同国内での治験を進めている。 GLORY-2試験は、BMI30以上の肥満を有する中国人患者を対象とした第III相試験である。60週間にわたるmazdutide 9mgの週1回皮下投与により、プラセボ群と比較して−15.15%の体重減少を達成した。直接比較試験ではないものの、チルゼパチドに迫る強力な減量効果を示している。安全性に関しては、GLP-1関連薬に共通する嘔気・嘔吐などの消化器症状が高頻度に認められたが、本薬特異的な重篤な有害事象は報告されていない。 現時点において、mazdutideは中国以外での開発予定はない。しかし、同クラスのGCG/GLP-1受容体デュアルアゴニストとしては、survodutideが日本や欧米を含めてグローバルで開発中である。すでに強力な減量効果を持つチルゼパチドが上市されている中、「経口薬でもなく、減量率も同等レベルの新規注射薬」には、それほどのインパクトがないと感じられるかもしれない。 ここで改めて強調したいのは、「肥満」と「肥満症」の違いである。単なる美容目的や「減量のみ」を目的としたGLP-1関連薬の不適切使用は社会的な問題となっており、メディアでも多く取り上げられている。過度な減量の裏には、消化器症状などの副作用や、るい痩(筋肉量減少)のリスクが潜んでいる。しかし、われわれの日常的な「適正な肥満症治療」の現場においても、無意識のうちに「体重が何キロ減ったか」という成果ばかりを強調してしまってはいないだろうか。日進月歩で新薬の開発が進むGLP-1関連薬の領域は、ともすれば「減量率の競争」に陥りつつあるのが現実である。 体重減少のみを目的とするならば、極端に言えば「たまたま血圧が高い肥満者に、単なる減量目的で薬剤を投与している」ことと大差なくなってしまう。肥満症治療において真に求められるのは、高血圧、脂質異常症、MASLD/MASHといった肥満関連合併症の改善であり、さらにその先にある長期的な心血管イベントの抑制、生命予後の改善、そしてQOLの向上であるはずだ1)。 この点において、mazdutideは単なるGLP-1受容体作動薬とは異なり、GCG受容体を介して肝臓でのエネルギー消費亢進と脂肪の分解・酸化を直接的に促すという強みを持つ。本試験でも肝内脂肪の著明な低下が示されており、MASLD/MASHを合併する肥満症への効果が強く期待される。興味深いことに、最近、GLP-1受容体作動薬であるセマグルチドがアルコール使用障害に対しても臨床的有用性を示すことが報告され、注目を集めている2)。mazdutideのようなデュアルアゴニストは、その特長を生かし、「アルコール使用障害」と「肝内脂肪の改善・線維化抑制」に対する同時治療を可能にするポテンシャルを秘めているかもしれない。 これからの肥満症治療は、単一の減量指標にとらわれず、患者個々の病態に沿った薬剤の「使い分け」が求められる時代となるだろう。そのためにも、日常診療においては単なる「減量率の競争」から脱却し、患者さんの声にしっかりと耳を傾けながら、その人にとっての「真の治療ゴール」は何かを共に考え、対話を重ねて治療を進めていただきたい。もちろん、現時点ではmazdutideが長期的な生命予後やQOLを改善するという直接的なエビデンスは確立されておらず、今後のさらなるデータ蓄積が待たれる。

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OSASの根本的要因の「肥満」への治療に期待/リリー・田辺ファーマ

 日本イーライリリーと田辺ファーマは、2026年5月に持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド)が「中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(以下"OSAS")」における効能・効果追加の承認を取得したことに寄せて、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の実態と新たな治療選択肢」をテーマに都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、OSASの病態やリスク、チルゼパチドの概要、診療でのアンメットニーズなどが説明された。 両社では今回の追加承認により、OSASの根本的な要因である肥満へアプローチできる治療として期待を寄せるとともに、適正使用の推進に取り組むとしている。わが国のOSAS患者数は約943万人 「閉塞性睡眠時無呼吸症候群の実態と課題 新たな治療選択肢の登場」をテーマに葛西 隆敏氏(順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学 先任准教授)が、OSASの診療、チルゼパチドの臨床試験結果などを説明した。 OSASは、睡眠中に気道が閉塞することにより、無呼吸や低呼吸が発生する疾患であり、主な症状として「いびき」「無呼吸」「日中の眠気」「起床時の頭痛」などがある。わが国のOSAS患者数は約943万人と推定され、東アジア人では顔面形態の影響からOSASになりやすいといわれている。 発症の機序としては、上気道周囲の軟部組織の脂肪沈着などを介し、舌容積増大に伴う上気道の虚脱と上気道の閉塞が起こるとされる。そして、OSAS患者の80%以上は高度または中等度の上気道虚脱を有しており、そのほとんどは肥満と関連している。 OSASの定義としては、睡眠1時間当たり5回以上の無呼吸または低呼吸イベント(AHI≧5回/時間)がみられる疾患であり、OSASの重症度は無呼吸低呼吸指数(AHI)を用いて、軽症(5≦AHI<15回/時間)、中等症(15≦AHI<30回/時間)、重症(AHI≧30回/時間)で判定される。 OSASでは、高血圧、2型糖尿病、心房細動、心不全、冠動脈疾患、脳卒中、死亡などの心血管系および代謝系の併存疾患のリスク増加にも関与しており、とくに心・脳の血管疾患1)や高血圧と深く関与すると指摘されている。 また、重症OSAS患者では、致死的・非致死的CVDリスクが高くなることが報告されている2)。OSASの最大の危険因子は「肥満」である。肥満が気道閉塞や肺容積減少によりOSASを引き起こす一方で、OSASが睡眠の断片化やホルモン分泌を乱すことで肥満を引き起こすという悪循環が見られる。そのため体重が10%増加すると、中等症以上のOSASを発症するリスクが6倍に増大するとされる一方で、10%の減量によりAHIが26%改善したという報告もある3)。肥満治療がOSASの治療の鍵となるが、生活習慣への介入だけでは、体重減少と維持が不十分な場合があり、他の治療法を検討する必要もある4,5)。チルゼパチドの使用は最適使用推進ガイドラインに沿って 睡眠時無呼吸症候群の診療アルゴリズムによれば、現在中等症以上のOSASの標準治療は持続陽圧呼吸療法(CPAP)となる。また、肥満を併発しているOSASでは、CPAP療法以外の治療法もあわせて検討される。 OSASの治療法には、「OA(マウスピース)療法」「CPAP療法」「手術」「減量」があるが、各々の治療法で利点と課題がある。たとえばCPAP療法では、上気道の開存性の維持やAHIの低下(OSAS症状の改善)という利点がある一方で、アドヒアランス不良などの影響でOSASに対する治療効果が維持できない、CPAP療法に対する忍容性が悪い患者の存在などの課題もある。その他、CPAP療法での治療患者は年々増加している(2022年時点で73万人)、その一方で、未診断・未治療の患者も多数存在する(約943万人)と葛西氏は指摘する。 こうした診療環境の中でGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドがOSAS治療にも適応となった。チルゼパチドは、中枢神経系における食欲調節と脂肪細胞における脂質などの代謝亢進を通じて体重減少に寄与する。この体重減少作用が、「OSASの病態の根本原因の1つにアプローチする治療となる可能性がある」と葛西氏は期待を寄せる。 チルゼパチドによる治療対象は、中等症以上のOSASでBMIが27以上の患者であり、その使用では「最適使用推進ガイドライン」に沿ってさまざまな要件が必要とされる。処方に際しては2つの要件があり、施設要件として循環器内科、呼吸器内科などの標榜診療科、学会認定教育研修施設、専門医の常勤などがある。また、医師要件としては、OSASの診療に5年以上の臨床経験を有していることや日本循環器学会や日本呼吸器学会などの学会の専門医であることが要件とされている。とくに前者の要件のハードルが高く、教育研修施設など大きな医療機関での使用に限定されている。チルゼパチドは無呼吸低呼吸指数の改善と変化率、体重などを有意に低下 次に中等症から重症のOSASを有する日本人を含む国際共同第III相臨床試験(SURMOUNT-OSA試験)について説明した。この試験は、AHIが15以上のOSASを有するBMI30以上(わが国の実施医療機関ではBMI27以上)の患者を対象とし、多施設共同、無作為化、並行群間、プラセボ対照、二重盲検比較試験で行われた。 それぞれ最大耐用量(MTD)のチルゼパチド(10または15mg)を週1回投与したときのプラセボ投与に対する優越性を検討し、投与52週時点のベースラインからのAHIの低下を指標とすることを目的に、次の2つの試験を実施した。 ・GPI1試験は、気道陽圧(positive airway pressure:PAP)療法を使用できないまたは望まない患者234例(うち日本人7例)。 ・GPI2試験は、スクリーニング前に少なくとも3ヵ月連続してPAP療法を実施中であり、試験期間中にPAP療法を継続する予定の患者235例(うち日本人13例)。 方法として二重盲検下でGPI1およびGPI2試験それぞれについて1:1でチルゼパチド(10または15mg)、プラセボ群に対象を無作為に割り付けた。また、チルゼパチドの開始用量を2.5mgとして週1回4週間投与後、MTD(10または15mg)に到達するまで4週間隔で2.5mgずつ増量し52週間投与した。 主要評価項目は、AHIのベースラインから投与52週時点の変化量(件/時)を評価した。その結果、投与52週時点のAHIのベースラインからの変化量について、GPI1試験ではチルゼパチド群(114例)で-25.3、プラセボ群(120例)で-5.3、GPI2試験ではチルゼパチド群(119例)で-29.3、プラセボ群(114例)で-5.5であり、プラセボ群に対し有意に減少した。また、主な副次評価項目である投与52週時点のAHIのベースラインからの変化率について、GPI1試験ではチルゼパチド群で-50.7、プラセボ群で-3.0であり、GPI2試験ではチルゼパチド群で-58.7、プラセボ群で-2.5と、プラセボ群に対し有意に低下した。同じく投与52週時点の体重のベースラインからの変化率について、GPI1試験ではチルゼパチド群で-17.7、プラセボ群で-1.6となり、GPI2試験ではチルゼパチド群で-19.6、プラセボ群で-2.3と、プラセボ群に対し有意に低下した。 安全性については、他のSURMOUNT試験と同等の安全性が示唆され、死亡などの重篤な有害事象はなかった。主な有害事象は下痢、悪心、嘔吐の順で多く、消化器症状が多く報告されていた。 最後に葛西氏は「OSASは、心不全や脳卒中などの重篤な合併症リスクが高く、生命にかかわる治療すべき疾患であり、肥満がOSASの最大の危険因子となる。肥満を合併したOSASでは減量が重要な治療法の1つであり、チルゼパチドは、OSAS治療で重要な治療選択肢として期待できる」と展望を述べ、講演を終えた。

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GLP-1受容体作動薬、自己免疫疾患患者の死亡・血栓リスク低下と関連

 肥満を伴う関節リウマチ、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患などの自己免疫疾患の患者の中で、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)が処方されている人は、死亡リスクや血栓症のリスクが低いという研究結果が報告された。米フロリダ大学のAmy Sheer氏らが、フロリダ州などの3州にある14の医療機関の電子カルテ情報を用いて検討したもので、詳細は6月6日付で「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に掲載された。 GLP-1RAは、2型糖尿病の血糖管理のほかに減量目的でも用いられている。肥満では、全身性の慢性炎症や血管内皮機能の低下により血栓が形成されやすいことが知られていて、また自己免疫疾患も炎症反応を強めるために、肥満を伴う自己免疫疾患患者では、心血管イベントや血栓イベントのリスクが高いと考えられている。Sheer氏らは、2014~2024年の電子カルテデータから、自己免疫疾患と肥満のある18歳以上の成人患者を抽出。背景因子を傾向スコアでマッチングさせ、GLP-1RAが処方されていた患者と処方されていない患者、各群1万3,204人のデータセットを作成し、全死亡や心血管・血栓イベントのリスクを比較した。解析対象者全体の平均年齢は54.7±14.5歳、女性73.4%で、BMIは37だった。 解析の結果、GLP-1RAの処方は、全死亡リスクが44%低いことと関連していた(ハザード比〔HR〕0.56〔95%信頼区間0.47~0.66〕)。また、脳卒中・一過性脳虚血発作(HR0.87〔同0.76~0.99〕)、肺塞栓症(HR0.69〔0.56~0.86〕)、静脈血栓塞栓症(HR0.83〔0.72~0.95〕)、救急外来受診(HR0.79〔0.75~0.83〕)のリスクも有意に低かった。一方、心筋梗塞リスクについては有意な低下は認められなかった。 この結果について、米マサチューセッツ総合病院のFatima Cody Stanford氏は、「肥満と自己免疫疾患を併発している患者において、全死因リスクが44%減少したという結果は注目すべき発見だ」と述べている。米国心臓協会(AHA)ライフスタイル・心血管代謝評議会の一員でもある同氏は、「肥満の専門医・研究者として普段から複雑な炎症性疾患を抱える患者を診察している立場からすると、今回の研究結果はわれわれが抱いていた臨床疑問と期待に答えるものだ。つまり、GLP-1RAのメリットは血糖コントロールや体重減少にとどまらず、最もリスクの高い自己免疫疾患患者の一部において、疾患の経過そのものを変える可能性があるということだ」と話している。 研究者らは、この結果について、「GLP-1RAは免疫系を調節し、血液凝固能を抑制することが知られている。今回の研究結果はそのような作用によって説明できるのではないか」と述べている。またSheer氏は、「既存の自己免疫疾患治療薬とGLP-1RAの併用効果に期待される。過体重や肥満を伴う自己免疫疾患患者にとって本研究は、処方薬が心血管疾患のリスク軽減にもつながっている可能性を示す、希望の兆しとも言えるのではないか」としている。

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第308回 手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS

<先週の動き> 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症動向調査によると乳幼児を中心に流行する手足口病が、東北各県で高い水準となっている。青森県では8月3~9日の患者報告数が257人で、6週間ぶりに減少したものの、1定点医療機関当たり7.56人と警報基準の5人を上回った。県内6保健所管内のうち5管内が警報レベルで、青森市・東津軽では10.33人、八戸市・三戸では9.14人だった。その一方で、岩手県では同期間の患者数が415人と前週から69人増加。1定点当たり15.37人で10週連続の増加となり、警報基準の3倍を超えた。一関27.0人、中部26.5人、県央25.0人など、10管内中7管内が警報レベルとなっている。宮城県も1定点当たり10.45人と今季最多を更新し、4週連続で警報基準を超えた。同じく福島県でも9.71人と2週連続で今季最多となり、警報レベルが4週続いている。全国では7月27日~8月2日の定点当たり報告数は6.03人。2週連続で減少したものの、25都道県で警報基準を超えており、依然として広範な流行が続いている。手足口病はエンテロウイルスなどによる感染症で、多くは軽症だが、まれに脳炎などの中枢神経合併症を来す。飛沫や接触のほか便を介して感染し、症状消失後も数週間にわたり便中へウイルスが排泄されることがある。医療現場では乳幼児の発熱、口腔内病変、手足の発疹に加え、意識障害、けいれんなど重症化を示唆する症状に注意が必要である。家庭や保育施設では石けんと流水による手洗い、タオルの共用回避、おむつ交換時の排泄物処理の徹底が求められる。 参考 1) 手足口病の減少続くも、感染性胃腸炎やコロナは増転【感染症動向調査第31週:7月27日~8月2日】(Medical Tribune) 2) 青森「手足口病」感染者数減少も依然5保健所管内で警報レベル(NHK) 3) 岩手県内「手足口病」患者数さらに増加 警報基準の3倍余に(同) 4) 福島県内 「手足口病」今季最多に お盆休みの感染対策徹底を(同) 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省8月13日に千葉県を中心に発生した記録的豪雨で、県内の医療機関にも浸水や停電などの被害が広がっている。厚生労働省によると、14日午前10時時点で大規模病院を含む22医療機関から被害報告があり、千葉市、柏市、八千代市などを中心に影響が確認された。内閣府は多数の住民が生命・身体に危害を受ける、またはその恐れがあるとして、千葉県の21市4町、計25市町に災害救助法を適用した。厚労省は14日、被災者の保険診療や診療報酬に関する特例措置を通知した。避難時にマイナンバーカードや資格確認書を紛失、または自宅に残した場合でも、氏名、生年月日、連絡先に加え、被用者保険では事業所名、国保・後期高齢者医療では住所などを申し立てれば保険診療を受けられる。医療機関は可能な限り保険者を確認した上でレセプト請求するが、特定できない場合も住所や事業所名、連絡先などを記載して請求できる。被災者受け入れに伴う診療報酬上の特例も適用される。許可病床数を超えて患者を受け入れても減額措置を適用せず、DPC病院も従来通り診断群分類点数表による算定が可能となる。患者急増や災害支援への職員派遣によって看護配置や夜勤時間などの施設基準が一時的に満たせなくなった場合も、一定範囲では変更届を不要とする。また、被災医療機関からの転院患者については、平均在院日数や重症度、医療・看護必要度などの算定から除外できる場合があり、ICU・HCUにやむを得ず本来の対象外患者を収容した場合も特例が設けられた。そのほか、避難所で継続的な診療が必要な通院困難患者には、条件を満たせば在宅患者訪問診療料の算定も認められる。その一方で、保団連は医療機関や介護施設、在宅人工呼吸器・酸素療法、人工透析患者への電力・水供給の早期確保、医薬品・医療材料の供給、被災者の医療費窓口負担免除などを政府に要望した。豪雨災害では直接的な外傷だけでなく、停電・断水による透析や在宅医療の継続困難、慢性疾患治療の中断も重要な課題となる。 参考 1) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害に係る災害救助法の適用について(内閣府) 2) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害の被災者に係るマイナ保険証又は資格確認書の提示等について(厚労省) 3) 千葉豪雨 県内の22の医療機関から被害報告 厚労省(テレビ朝日) 4) 千葉の大雨、死者8人に…被災者の“医療費免除”と“最大850万円の支給”を医師団体が国に緊急要望(弁護士JPニュース) 5) 2026年8月13日からの千葉県を中心とする大雨被害、保険診療受診や診療報酬算定に関する特例を適用-厚労省(Gem Med) 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省厚生労働省は、地域ごとに使用を推奨する医薬品を定める「地域フォーミュラリ」の普及を本格化させる。今秋をめどに、医療関係者らを対象とした全国説明会を開き、制度への正確な理解を広げる方針。地域フォーミュラリは、高血圧、脂質異常症、胃潰瘍などの治療薬について、有効性、安全性、費用、供給状況などを踏まえ、地域で推奨する医薬品をリスト化する仕組み。院内フォーミュラリと異なり、病院だけでなく診療所や薬局も含む地域全体で運用する。医師の処方権を制限するものではなく、標準的な薬物療法の共有、後発医薬品の適正使用、医薬品の安定供給を目的とする。日本フォーミュラリ学会によると、2026年2月時点で18都道府県30地域に導入が済んでおり、31地域が準備中。大阪府八尾市ではスタチンなど10薬効群、茨城県つくば地域では14薬効群について策定している。学会も31薬効群の「モデルフォーミュラリ」を公開しており、各地域はこれを参考に独自の事情を加味して策定できる。2026年度診療報酬改定では、医科・調剤の施設基準に、地域の医療機関、薬局、関係団体と医薬品の品目情報を共有し、安定供給に向けた事前の取り決めを行うことが望ましいとの考え方が盛り込まれた。現時点では努力目標だが、国が地域フォーミュラリを政策的に後押しする姿勢が鮮明になった。厚労省は全都道府県に医師会や薬剤師会などが参画する検討会の設置を求める。普及の背景には医療費適正化に加え、後発薬の供給不安や災害対応がある。健保連は2019年、高血圧、脂質異常症、糖尿病で後発薬への切り替えが進めば、全国で年間3,100億円の薬剤費削減につながると試算している。また、地域で使用薬をある程度集約すれば、薬局の在庫負担軽減や供給途絶時の代替、災害時の備蓄・配送にも役立つ。今後は、地域の実情を反映しながら、医師の処方判断とどう両立させるかが普及の鍵となる。 参考 1) 地域フォーミュラリ、厚労省が「全国説明会」今秋、医療関係者ら向けも(MEDIFAX) 2) 高血圧・脂質異常症・胃潰瘍…地域ごとに異なる「使用が推奨される医薬品」、リスト作りを国が推進(読売新聞) 3) 報酬改定も策定を後押し、広がる地域フォーミュラリ(日経メディカル) 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー日本イーライリリーは、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ皮下注)の薬価が8月1日付で25%引き下げられたことを受け、「画期的な医薬品に対する不当に不利益な対応」とする声明を発表した。今回の引き下げは、販売額が想定を上回った医薬品の価格を調整する「持続可能性特例価格調整」の適用によるもの。厚生労働省によると、同薬の保険診療での年間販売額は1,000~1,500億円規模に達している。薬価は2.5mg製剤で1本1,443円、15mg製剤で8,658円となった。リリーは、日本の価格は従来からG7で最も低い水準にあり、今回の引き下げにより同規模の経済圏でも最低水準になるとしている。同社は低価格化により、適応外となる痩身目的での不適正使用、海外からの医療ツーリズム、利益目的の買い占めや海外転売が拡大し、本来治療を必要とする2型糖尿病患者への安定供給に影響する可能性があると警告。政府に海外転売を厳格に規制する措置を求めている。チルゼパチドは週1回投与のGIP/GLP-1受容体作動薬で、食欲を抑制する作用も有する。わが国では2023年に2型糖尿病治療薬として発売されたほか、2025年には肥満症治療薬として別製品が発売されている。その一方で、糖尿病治療用製剤を美容・ダイエット目的で自由診療に使用する例が広がっており、適応外使用に伴う健康被害や、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる可能性も指摘される。リリーは、今回の薬価引き下げについて、研究開発や国内投資の予見可能性を損ない、将来的なドラッグラグ・ドラッグロスにつながる恐れもあると主張している。高額な革新的医薬品による医療費増大への対応と、適正使用、安定供給、創薬イノベーションをどう両立させるか、薬価政策のあり方が改めて問われている。 参考 1) マンジャロの大幅な薬価引き下げに対する声明を発表~国際競争下における日本への長期的投資の持続のために、そして患者さんがイノベーションを享受するためには、予見可能で透明性の高い政策環境が不可欠~(日本イーライリリー) 2) 糖尿病薬マンジャロ「インドより安い」 不適正使用の助長に懸念(日経新聞) 3) 英アストラゼネカCSO 革新医薬への支出「先進国で公平負担を」(同) 4) リリー、マンジャロ薬価引き下げは「不当に不利益な対応」(AnswersNews) 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国米国のトランプ大統領は8月10日、小児のワクチン接種方針を見直す大統領令に署名した。麻しん、おたふく風邪、風しんを予防するMMR混合ワクチンについて、それぞれを別の機会に接種することを推奨するとともに、すべての小児に一律で推奨するワクチンを従来の17種類から11種類に縮小する方針を示した。A型・B型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、インフルエンザ、新型コロナワクチンなどは、医師と保護者による個別判断に移行するとしている。トランプ氏はワクチン接種数の増加と自閉症との関連を示唆しているが、米国小児科学会は「数百万人を対象とした多くの研究で関連がないことが示されている」と反論し、今回の見直しを「危険で誤解を招く」と批判している。WHOも、ワクチンと自閉症との因果関係を示す証拠はなく、MMRを単独接種に分ける医学的利点を裏付ける根拠もないとしている。さらに、麻しん・風しん・おたふく風邪の単独ワクチンは現在米国内では入手ができず、分割接種には製造体制の整備が必要となる。接種回数や受診回数の増加により、接種完遂率が低下するとの懸念も強い。米国では今年、8月6日時点で麻疹患者が2,465人に達しており、専門家はワクチン忌避の拡大がさらなる流行につながる可能性を警告している。なお、接種義務の決定権は各州にあり、大統領令のみでただちに接種スケジュールや保険適用が変更されるわけではない。 参考 1) 米、混合ワクチンを個別接種に 推奨対象も削減(共同通信) 2) 「ワクチンと自閉症が関連」が持論のトランプ氏、混合ワクチンを別々に接種する方針打ち出す…感染リスク拡大の恐れ(読売新聞) 3) 米医師ら、トランプ氏の大統領令に懸念 家庭でのワクチン離れにつながるか(CNN) 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井沢井製薬は、後発医薬品22成分46品目について、在庫がなくなり次第、順次販売を中止すると医療関係者に通知した。大半は安定供給体制の構築と生産効率改善を目的とした製品構成の見直しによるもので、一部は協業する日医工グループ製品などへ統合する。対象にはアテノロール、アマルエット配合錠、アルファカルシドール、エバスチン、クアゼパム、テルミサルタンOD錠、ドネペジル、ニフェジピン、フルボキサミン、ブロナンセリン、メマンチンなど、日常診療で処方される薬剤も多数含まれる。沢井製薬は各品目について代替品・代替候補品を提示している。たとえばアマルエット配合錠はアムロジピンとアトルバスタチンの単剤、セチリジンOD錠は通常錠、ドネペジル錠は同社OD錠への切り替えが候補とされている。在庫消尽時期は品目ごとに異なり、多くは2027年4月だが、プロブコールは2026年10月、ザルトプロフェンやプロピベリン20mgは同年11月、ニフェジピンカプセルは2028年3月とされる。その一方で、アテノロールやアルファカルシドール、クアゼパムなどはすでに供給停止中となっている。経過措置期間の満了は2028年3月の予定。背景には後発薬業界の構造的な供給問題がある。日本製薬団体連合会の調査では、医療上の必要性が高い2,882品目のうち255品目、約9%で将来の供給継続が困難と回答された。主因は薬価低下や製造設備の老朽化であり、なかには全身麻酔薬や注射用抗菌薬など重要薬も含まれている。臨床現場では今後、単なる銘柄変更だけでなく、剤形や規格、配合剤から単剤への変更が必要となるケースもあり、処方時には院内採用品や地域薬局の在庫状況を含めた確認が求められる。 参考 1) 販売中止品目のお知らせ(沢井製薬) 2) 沢井製薬、後発薬46品目を販売中止へ 供給安定へ製品構成見直し(日経新聞) 3) 沢井製薬が46品目、高田製薬が31品目を販売中止に(日経メディカル) 4) 重要度高い薬「供給継続できず」1割 低薬価や老朽化で、日薬連調査(日経新聞) 5) 医療用医薬品供給状況報告(厚労省)

12.

1日1回経口投与のzenagamtide、2型糖尿病の血糖改善効果は?/Lancet

 2型糖尿病患者において、1日1回経口投与のzenagamtide(6、25、50mgの3用量ともに)はプラセボと比較して、ベースラインから36週までのHbA1c変化量において、臨床的に意義のある改善がみられ、その差は統計学的にも有意であった。安全性および忍容性プロファイルは、他のGLP-1受容体作動薬およびアミリン受容体作動薬と同程度であった。米国・テキサス大学サウスウェスタン医療センターのPablo Mora氏らが、36週の第II相多施設共同無作為化並行群間二重盲検プラセボ対照用量設定試験の結果を報告した。zenagamtide(旧称amycretin)は、GLP-1受容体、アミリン受容体、カルシトニン受容体に作用する単分子ペプチド作動薬である。2型糖尿病を伴わない過体重または肥満者を対象とした初期の臨床試験では、皮下投与および経口投与の両製剤について評価が行われ、いずれも2型糖尿病患者を対象とした第II相の用量反応試験における検討を支持する知見が示されていた。Lancet誌2026年8月15日号掲載の報告。1日1回経口投与の有効性と安全性に関する用量反応試験(6、25、50mg) 2型糖尿病の成人患者を対象に、プラセボと比較したzenagamtideの1日1回経口投与の有効性と安全性に関する用量反応関係を検討する試験は、11ヵ国(ブルガリア、クロアチア、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、日本、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スペイン、米国)の83の病院およびクリニックで行われ、3週のスクリーニング期間、36週の投与期間、4週のフォローアップ期間で構成された。 対象は、2型糖尿病(HbA1c値7.0~10.0%[53~86mmol/mol])の成人(18~75歳)で、SGLT2阻害薬投与の有無を問わずメトホルミン安定用量で治療を受けている患者とした。BMI値は23.0以上50.0未満を適格とした。 被験者は、無作為化・治験薬管理システムを用いて、1日1回経口投与のzenagamtide群またはプラセボ群に5対1の割合で割り付けられ、さらに3つの用量群(6、25、または50mg)のいずれかに1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。プラセボ群に割り付けられた被験者も同様に、各投与スケジュールに対応する適合プラセボ投与群に割り付けられた。無作為化では、スクリーニング時のHbA1c値(8.5%未満または8.5%以上)、居住国(日本またはその他)で層別化も行われた。 zenagamtide経口投与は1.5mgで開始し、維持用量(6、25、50mg)に到達するまで4週ごとに漸増した。被験者および試験スタッフは、各用量群においてプラセボまたはzenagamtideの割り付けを盲検化された。 主要評価項目は、ベースラインから36週までのHbA1c変化量とした。主要評価項目は、無作為化された全被験者を対象とし、レスキュー薬を投与することなく治験薬の投与を継続している間に収集されたデータに基づくefficacy estimandを用いて評価された。安全性は、無作為化された全被験者を対象に評価された。36週時点のHbA1c推定変化量は-0.9%~-1.4% 2024年8月7日~12月27日に、スクリーニングされた915例のうち186例(20%)が、経口zenagamtide群(6mg群54例、25mg群51例、50mg群51例)またはプラセボ群(30例)に無作為化され、全例が解析対象集団に組み入れられた。 ベースライン特性は治療群間で類似しており、平均年齢は55.6歳(SD 9.7)、平均HbA1c値は8.0%(SD 0.8、各群平均値の範囲:7.9~8.1%)、平均BMI値は34.8(SD 6.3)であり、平均糖尿病罹病期間は8年(SD 6)であった。113/186例(61%)が男性であった。 36週時点のベースラインからのHbA1c推定変化量は、zenagamtide 6mg群が-0.9%(対プラセボの推定治療群間差[ETD]:-0.54%、95%信頼区間[CI]:-1.04~-0.04、p=0.033)、zenagamtide 25mg群が-1.3%(ETD:-0.99%、95%CI:-1.49~-0.49、p=0.0001)、zenagamtide 50mg群が-1.4%(ETD:-1.09%、95%CI:-1.59~-0.59、p<0.0001)であった。 有害事象の大部分は消化器系の事象で、zenagamtide 6mg群14/54例(26%)、zenagamtide 25mg群21/51例(41%)、zenagamtide 50mg群24/51例(47%)、およびプラセボ群7/30例(23%)に発現した。 重篤な有害事象は、zenagamtide全投与群の7/186例(4%)で報告された(6mg群2例、25mg群2例、50mg群3例)。プラセボ群において重篤な有害事象は報告されなかった。試験期間中に死亡は認められなかった。 著者は、「全体として、試験で報告された知見は臨床的に意義のあるものであり、第III相試験におけるzenagamtideの1日1回経口投与に関する検討を支持するものであった」とまとめている。

13.

肥満症治療薬単独では血管の健康改善効果は限定的

 GLP-1受容体作動薬などの肥満症治療薬は、肥満治療を大きく変えつつある。しかし、血管の健康の維持には、運動が依然として決定的な役割を果たす可能性を示した研究が、6月24日付で「Nature Metabolism」に掲載された。論文の上席著者であるコペンハーゲン大学(デンマーク)生物医学分野教授のSigne Torekov氏は、「本研究は、薬物療法は体重維持を支える一方で、血管の健康を改善するのは、薬物療法の有無にかかわらず運動であることを示している」と述べている。 肥満と身体活動不足は、血管内皮機能の低下や動脈硬化と関連付けられている。この研究では、8週間の低カロリー食による減量プログラムにより平均約13.7 kgの減量に成功した肥満の成人130人を対象に、運動とGLP-1受容体作動薬のリラグルチドが、減量後の血管の健康に与える影響が検討された。対象者は52週間にわたる体重維持のための介入として、1)運動を行う群、2)リラグルチドを使用する群、3)運動とリラグルチド使用を併用する群、4)プラセボを使用する群のいずれかにランダムに割り付けられた。 その結果、52週間の介入後に、心疾患や脳卒中リスクの指標とされる頸動脈の内膜中膜複合体厚(cIMT)は、運動群で7%、併用群で6%減少した。また、運動群では炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)-6とインターフェロン(IFN)-γが低下し、併用群では対象とした4種類の血管内皮機能マーカーのうちの3種類(sICAM-1、sVCAM-1、tPA)も改善した。一方、リラグルチド単独群では、cIMTの変化や血管内皮機能マーカーの改善は認められなかった。 Torekov氏は、「肥満症治療薬は重要な治療手段であるが、本研究の結果は、それが運動の代わりにはならないことを示している。心臓や血管を守るためには、身体活動が依然として不可欠である」と述べている。 では、どの程度の運動が必要なのだろうか。世界保健機関(WHO)は、中強度の運動を週に150分以上、または高強度の運動を週に75分以上行うことを推奨している。本研究の参加者が実施した運動プログラムは、この推奨内容に一致するよう設計されていた。

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2型糖尿病に対するトリプルアゴニストretatrutideの効果(解説:小川大輔氏)

 2型糖尿病の治療薬としてGLP-1受容体作動薬が登場し、その後GIP受容体に対する作用を併せ持つGIP/GLP-1受容体作動薬が使用されるようになった。そしてGIP受容体、GLP-1受容体に加え、グルカゴン受容体を同時に刺激するGIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬、いわゆる「トリプルアゴニスト」が開発されている。今回2型糖尿病に対するトリプルアゴニストretatrutideの第III相試験の結果が報告された1)。 食事療法と運動療法で血糖コントロール不良(HbA1c 7.0~9.5%)の2型糖尿病患者を対象に、retatrutide群(4mg、9mg、12mg)とプラセボ群に無作為に割り付け、40週間投与した。retatrutideはGLP-1受容体作動薬セマグルチドやGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドと同じく週1回投与の注射製剤である。主要エンドポイントであるベースラインから40週時のHbA1cの変化量は、プラセボ群と比較しretatrutide群で有意差を認めた(retatrutide 4mg群-0.88%、9mg群-1.04%、12mg群-1.12%)。 グルカゴンは膵臓のα細胞から分泌されるホルモンで、肝臓でのグリコーゲン分解促進、糖新生の促進、脂肪組織での脂肪分解の促進などの作用により血糖値を上げる働きをする。retatrutideのグルカゴン受容体刺激により血糖値上昇が懸念されるが、グルカゴン受容体への作用が低親和性に調整されていること、またGLP-1およびGIPによるインスリン分泌作用、食欲抑制作用および胃排泄遅延作用により実際には血糖値は上昇しない2)。またretatrutideのグルカゴン受容体への作用により、エネルギー消費量の増加、肝臓の脂肪代謝改善、中枢性の食欲抑制などにより血糖値はむしろ低下し、さらに体重減少効果もあると考えられている3)。 GLP-1とGIPの受容体に働くデュアルアゴニストのチルゼパチドは、血糖降下作用に加えて体重減少効果もあり、現在実臨床でよく使用されている。そしてGLP-1、GIPに加え、グルカゴン受容体にも働くトリプルアゴニストのretatrutideは、グルカゴン受容体の刺激が加わることで、食欲抑制やインスリン分泌だけでなく、エネルギー消費や脂肪燃焼の効果がさらに高まると考えられ、チルゼパチドよりも強力なのではないかと期待されている。現在、retatrutideをシングルアゴニストのセマグルチドと比較する試験や、腎障害のある糖尿病患者を対象とした試験が行われており、今後の報告に注目したい。

15.

週1回皮下投与のzenagamtide、2型糖尿病に対する有効性は?/Lancet

 2型糖尿病患者において、zenagamtide 0.4~40mgの週1回皮下投与はプラセボと比較して、ベースラインから36週までのHbA1c変化量において、臨床的に意義のある改善がみられ、その差は統計学的にも有意であった。安全性および忍容性プロファイルは、他のGLP-1受容体作動薬およびアミリン受容体作動薬と同程度であった。米国・テキサス大学サウスウェスタン医療センターのPablo Mora氏らが、36週の第II相多施設共同無作為化並行群間二重盲検プラセボ対照用量設定試験の結果を報告した。zenagamtide(旧称amycretin)は、GLP-1受容体、アミリン受容体、カルシトニン受容体に作用する単分子ペプチド作動薬で、2型糖尿病を伴わない過体重または肥満者を対象に評価が行われた初期の臨床試験において、2型糖尿病患者を対象としたさらなる検討を支持する知見が示されていた。Lancet誌オンライン版2026年7月30日号掲載の報告。週1回皮下投与の有効性と安全性に関する用量反応試験 2型糖尿病の成人患者を対象に、プラセボと比較したzenagamtideの週1回皮下投与の有効性と安全性に関する用量反応関係を検討する試験は、11ヵ国の83の病院およびクリニックで行われ、3週のスクリーニング期間、36週の投与期間、4週のフォローアップ期間で構成された。 対象は、2型糖尿病(HbA1c値7.0~10.0%[53~86mmol/mol])の成人(18~75歳)で、SGLT2阻害薬投与の有無を問わずメトホルミン安定用量で治療を受けている患者とした。BMI値は23.0以上50.0未満を適格とした。 被験者は、無作為化・治験薬管理システムを用いて、週1回皮下投与のzenagamtide群またはプラセボ群に6対1の割合で割り付けられ、さらに6つの用量群(0.4、1.5、5、10、20、または40mg)のいずれかに1対1対1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。プラセボ群に割り付けられた被験者も同様に、各投与スケジュールに対応する適合プラセボ投与群に割り付けられた。無作為化では、スクリーニング時のHbA1c値(8.5%未満または8.5%以上)、居住国(日本またはその他)で層別化も行われた。 zenagamtide皮下投与は0.2mgで開始し、維持用量(0.4~40mg)に到達するまで4週ごとに漸増した。被験者および試験スタッフは、各用量群においてプラセボまたはzenagamtideの割り付けを盲検化された。 主要評価項目は、ベースラインから36週までのHbA1c変化量とした。主要評価項目は、無作為化された全被験者を対象とし、レスキュー薬を投与することなく治験薬の投与を継続している間に収集されたデータに基づくefficacy estimandを用いて評価された。安全性は、治験薬の投与を受けた無作為化された全被験者を対象に評価された。36週時点のHbA1c推定変化量、6用量群で-0.9%~-1.7% 2024年8月7日~12月27日に、スクリーニングされた915例のうち262例(29%)が、zenagamtide群(225例)またはプラセボ群(37例)に無作為化された。被験者はさらに、6用量群のいずれか1用量群(0.4mg群38例、1.5mg群36例、5mg群37例、10mg群38例、20mg群38例、40mg群38例)またはプラセボ群(37例)に無作為化され、261例が治験薬の投与を受けた。 ベースラインにおける全群のHbA1c平均値は7.8%(SD 0.8)であった。36週時点で、HbA1c推定変化量は、zenagamtide 0.4mg群の-0.9%(対プラセボの推定治療群間差:-0.77%、95%信頼区間[CI]:-1.26~-0.28、p=0.0021)からzenagamtide 40mg群の-1.7%(同:-1.56、95%CI:-2.05~-1.07、p<0.0001)の範囲にわたっていた。 有害事象の大部分は消化器系のもので、重症度は軽度~中等度であった。重篤な有害事象は、21/261例(8%)で報告された(0.4mg群4例、1.5mg群3例、5mg群2例、10mg群5例、20mg群3例、40mg群1例、プラセボ群3例)。死亡は報告されなかった。

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第331回 ポストバイオティックがGLP-1を増やして体重を減らす

小規模ながら二重盲検のプラセボ対照無作為化試験で、経口服用の不活化細菌サプリメント(ポストバイオティック)が肥満/過体重成人の体重を有意に減らしました1,2)。GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)が肥満治療の主役に一気に躍り出たものの、治療が長続きしないことは少なくないようです。たとえば米国成人の4~5割ほどが開始から1年と経たずにGLP-1薬の使用を止めてしまっており、胃腸の有害事象を生じた患者はとくにそうでした3,4)。それゆえ、GLP-1薬のような生理作用をGLP-1薬が強いる負担なしでもたらす治療選択肢を必要とする患者は多いようです。有益作用をもたらす不活化微生物やその成分であるポストバイオティックがその需要に応えられるかもしれません。たとえばオリーブやキムチなどの発酵食品を介して口に入る細菌のラクチプランチバチルス プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum[L. plantarum])にその可能性があります。熱で不活化したL. plantarumが短鎖脂肪酸(SCFA)を作る乳酸菌などの細菌を増やし5)、SCFAが豊富だと腸細胞からのGLP-1分泌が促進すること6)が先立つ研究で示されています。ゆえに不活化L. plantarumはGLP-1伝達を介して体重管理を助ける働きがあるかもしれません。そこでアラバマ大学のCharitharth Vivek Lal氏らは、不活化L. plantarumを含むポストバイオティック製品の体重への効果などを米国の過体重/肥満成人80人を募って試みました。使われた製品はResMと呼ばれ、不活化L. plantarumに加えてビタミンなどの微量栄養素と植物抽出物を含みます。被験者は1対1の割合で1日1回ResM服用群かプラセボ服用群に割り振られました。2ヵ月後、ResM群に割り振られた被験者の体重は、ベースライン時に比べて平均3%(2.6kg)減っていました。一方、プラセボ群の体重は減らず、ベースライン時より0.5kg増えていました。また、ResM群の血中のGLP-1活性はベースライン時に比べて2倍ほどに上昇していました。一方、プラセボ群ではほとんど変化がみられませんでした。GLP-1薬につきものの胃腸症状の心配はResMでは比較的少ないらしく、今回の試験で胃腸症状はむしろプラセボ群により多く生じました。深刻な有害事象はResM群とプラセボ群のどちらでもみられませんでした。GLP-1薬がすでに経ているような大規模試験で長期投与の効果持続のほどなどを今後調べる必要があります。それに、ResMの種々の成分の体重低下への寄与のほどもはっきりさせなければなりません。それらのさらなる検討で確かな裏付けが晴れて確立すれば、ResMはGLP-1薬に比べて副作用がより少なくて安上がりな体重減量や減った体重の維持手段を担うようになるかもしれません。参考(1)Pala OSK, et al. medRxiv. 2026 Jul 27. [Epub ahead of print](2)Postbiotic supplement boosts body’s own GLP-1 and weight loss / NewScientist(3)Do D, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e2413172.(4)Rodriguez PJ, et al. JAMA Netw Open. 2025;8:e2457349.(5)Huang Y, et al. Foods. 2025;14:2799.(6)Tolhurst G, et al. Diabetes. 2012;61:364-371.

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GLP-1薬は骨折リスクを上げる?下げる?

 GLP-1受容体作動薬(以下「GLP-1薬」)の投与開始は、DPP-4阻害薬の投与開始と比較して、2型糖尿病患者における脆弱性骨折リスクの低下と関連することが、米国・カリフォルニア大学のChristopher D. Hamad氏らの研究で示された。一方、GLP-1薬開始群と非開始群を比較した糖尿病の有無別の感度分析では、非2型糖尿病患者においてGLP-1薬使用は骨折リスク増加と関連していた。JAMA Network Open誌オンライン版2026年7月24日号掲載の報告。 これまでの研究では、BMIと脆弱性骨折リスクとの間にはU字型の関連があり、低体重や肥満では骨折リスクが高くなること、急速または大幅な体重減少でも骨折リスクが高くなることが報告されている。GLP-1薬は臨床試験で有意な体重減少をもたらしているため、骨への影響が懸念されているものの、その影響については十分なエビデンスが得られていない。そこで研究グループは、2型糖尿病患者におけるGLP-1薬開始と脆弱性骨折リスクとの関連について、DPP-4阻害薬開始を比較対照として検討する標的試験エミュレーションを実施した。 米国の電子カルテデータベースTriNetXを用いて、2015年1月1日~2022年12月31日に新たにGLP-1薬またはDPP-4阻害薬を開始した50~90歳の2型糖尿病患者を対象とした。患者は骨折、死亡、365日を超える医療受診の中断、または3年間の追跡終了まで追跡された。主要評価項目は、立位からの転倒など低エネルギー外傷による脆弱性骨折の発生とした。糖尿病の有無による違いを検討するため、GLP-1薬開始群と非開始群を比較する感度分析を実施したほか、BMIおよびHbA1cの変化が骨折リスクとの関連を媒介するかどうかについても解析した。 主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後、13万3,606例(各群6万6,803例)の患者が解析に含まれた。GLP-1薬開始群およびDPP-4阻害薬開始群の平均年齢は63.2歳vs.63.8歳、男性が52.7%vs.54.0%、平均BMIは33.0 vs.32.9、平均HbA1cは8.48 vs.8.40であった。・3年間の追跡調査期間中、GLP-1薬開始群2,030例とDPP-4阻害薬開始群2,484例に脆弱性骨折が発生した。・GLP-1薬の開始は、DPP-4阻害薬の開始と比較して脆弱性骨折リスクの低下と関連していた。 -ハザード比(HR):0.79(95%信頼区間[CI]:0.76~0.83) -絶対リスク減少:0.79%(95%CI:0.60~0.99) -治療必要数:126(95%CI:101~168)・骨折リスク低下との関連は1年目と2年目で有意に認められたが、3年目には有意ではなくなった。 -1年目 HR:0.72(95%CI:0.67~0.78) -2年目 HR:0.77(95%CI:0.71~0.83) -3年目 HR:0.94(95%CI:0.86~1.02)・骨折リスク低下との関連は年齢、性別、フレイルの程度にかかわらず一貫して認められた。最も大きなリスク低下は、椎骨骨折および股関節・大腿骨骨折であった。・媒介分析では、GLP-1薬使用による骨折リスク低下の大部分は、BMIやHbA1cの低下を介さない直接効果によることが示唆された(HR:0.81[95%CI:0.76~0.86])。・糖尿病の有無別にGLP-1薬開始群と非開始群を比較した感度分析では、GLP-1薬使用は2型糖尿病患者では骨折リスク低下と関連した一方、非2型糖尿病患者では骨折リスク増加と関連していた(交互作用のp<0.001)。 -2型糖尿病患者 HR:0.91(95%CI:0.88~0.95) -非2型糖尿病患者 HR:1.13(95%CI:1.04~1.23) これらの結果より、研究グループは「2型糖尿病患者へのGLP-1薬の投与開始は、DPP-4阻害薬の投与開始と比較して、BMIおよびHbA1cの変化では説明されない形で3年間の脆弱性骨折リスク低下と関連していた。因果関係を確立し、骨への長期的な影響を明らかにするためには前向き研究が必要である」とまとめた。

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orforglipronはSGLT2阻害薬を超えた存在になるか?:ACHIEVE-2試験から(解説:永井聡氏)

 orforglipronは、空腹時の服用や飲水制限といった条件が不要で、食後投与が可能な経口GLP-1受容体作動薬である。本剤の2型糖尿病に対する実薬対照RCTとしてはすでにACHIEVE-3試験が発表されており、低用量(12mg)でも経口セマグルチド14mgに対して有意なHbA1c低下を示し「勝利」を収めている1)。 今回取り上げるACHIEVE-2試験は、メトホルミンでコントロール不十分な2型糖尿病患者を対象に、orforglipron(3/12/36mgカプセル)とSGLT2阻害薬ダパグリフロジン10mgを比較した国際多施設共同試験である。結果は、orforglipronが全用量においてダパグリフロジンに対し血糖降下作用の非劣性および優越性を示し、再び「完全勝利」となった。PIONEER 2試験において経口セマグルチド14mgがエンパグリフロジン25mgを凌駕したことを踏まえれば2)、この結果は想定内とも言えるが、実臨床に与える影響は小さくない。 本邦の2型糖尿病の薬物治療アルゴリズム3)では、病態に応じた薬剤選択(肥満)の推奨薬として、メトホルミン、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の順に記載されている。SGLT2阻害薬が優先される理由は、豊富な心血管・腎臓への保護効果のエビデンスに加え、既存の経口GLP-1受容体作動薬が服用条件に制約があるのに対し、処方や内服が容易であるためである。しかし、他の降圧薬等と一包化も可能で服薬条件に縛られないorforglipronの登場は、血糖降下作用と利便性の両面でSGLT2阻害薬を上回る存在になりうる。現在実施中の心血管アウトカム試験(ACHIEVE-4)の結果次第では、将来的に推奨順位が逆転する可能性もある。 一方で、試験結果の解釈は慎重にすべき点もある。第一に、orforglipron群は盲検化されたがダパグリフロジン群は非盲検であったため、新薬への「期待バイアス」が生じた可能性は否めず、orforglipronの臨床効果は過大評価となった可能性である。第二に、消化器症状による脱落率の高さである。本試験では、ダパグリフロジン群の6%に対し、orforglipron群では15%以上と高率であった。継続できなければ期待される恩恵にあやかれない。第三に、DECLARE-TIMI 58やDAPA-CKDなどで確立された長期安全性や心腎保護、二次予防の観点では、依然としてダパグリフロジンに軍配が上がることである。新薬への「期待バイアス」は患者だけではなく処方する医師にも起こりうる。さらに盲点となるのが薬物相互作用である。CYP3A4に関連する薬剤(クラリスロマイシンやイトラコナゾール)などではorforglipronとの併用注意・併用回避が必要な場合があり、多剤併用中の高齢者への処方はとくに注意が必要である。 ともあれ、かつて脂質異常症の治療は食事療法が主体であったが、ストロングスタチンの登場により、厳格な食事指導が緩和された歴史がある。糖尿病においても食事療法が基本であることに変わりはないが、強力な食事制限なしに血糖値と体重の改善をもたらすorforglipronは、まさに糖尿病領域における「ストロングスタチン」となる可能性がある。日進月歩でGLP-1関連薬は次々と新薬開発が進むが、個々のライフスタイルに合わせた処方や早期介入が進むことで、糖尿病寛解が夢物語でなくなることを願うばかりである。

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経口GLP-1受容体作動薬elecoglipronは新たな肥満症治療薬として有効である(解説:住谷哲氏)

 elecoglipronはAstraZeneca社が開発中の経口GLP-1受容体作動薬である。先行するEli Lilly社のorforglipronと同じく絶食時の服用などの制限がなく、新たな肥満症治療薬として期待されている。本試験VISTAはelecoglipronの第IIb相の用量設定試験である。用量は5mgから75mgに設定された。対象は2型糖尿病を合併していない肥満/過体重患者である。主要評価項目は2つ設定され(dual primary endpoints)、26週後の体重減少率と26週後に5%以上の体重減少を来した患者の割合とされた。 主要評価項目の1つである26週後の体重減少率は、プラセボ群、5mg投与群、75mg投与群でそれぞれ-0.6%、-2.6%および-10.5%であり、すべての投与群でプラセボ群と比較して有意に減少していた。26週後に5%以上の体重減少を来した患者の割合は、プラセボ群、5mg投与群、75mg投与群でそれぞれ15.6%、40.4%および88.8%であった。さらに、副次評価項目である36週後の体重減少率は75mg投与群で-11.8%であり、26週時点では体重減少がプラトーに達していないことが示された。安全性についても、これまでのGLP-1受容体作動薬と同様に消化器系有害事象が多く認められた。 肥満症治療薬としての経口GLP-1受容体作動薬については、経口セマグルチド(商品名:Wegovy錠25mg)がすでに欧米で承認されており、米国ではorforglipron(商品名:Foundayo)も承認されている。第IIb相である本試験の結果を受けて、AstraZeneca社は第III相臨床開発プログラムであるEMBOLD試験をすでに開始している。さらに、他のglipron薬と同じく血糖降下薬としての承認を目指したSOLSTICE試験の結果もLancetの同日号に報告された1)。わが国でも経口薬による肥満症治療が可能になる日が近づいている。

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フィネレノンは糸球体疾患由来のCKDに対しても腎保護的である可能性がある(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しい? フィネレノン(商品名:ケレンディア)は、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(mineralocorticoid receptor antagonist:MRA)であり、ミネラルコルチコイド受容体(MR)の活性を抑制する。従来、本剤は糖尿病性慢性腎臓病(CKD)を適応とし、心・腎保護を目的に使用されてきた。 今回のFIND-CKD試験では、新たに非糖尿病性CKD患者を対象として、フィネレノンの腎保護効果が評価された。FIND-CKD試験の結果は、非糖尿病性CKD患者全体を対象とした主要解析を報告したNEJM論文(Heerspink HJL, et al. N Engl J Med. 2026 Jun 4. [Epub ahead of print])と、糸球体疾患を有するCKD患者を対象に事前規定された探索的サブグループ解析を報告したJAMA論文(本論文)の2報として公表されている。 NEJM論文では、主要アウトカムとしてフィネレノンによるeGFRスロープの有意な改善が示された。一方、本JAMA論文では、糸球体疾患を有するCKD患者においても、先行するNEJM論文の結果を支持する腎保護効果が示された。MRAによる腎保護療法の流れ 現在、糖尿病性CKDに対する腎保護を目的とした薬物療法として推奨されているのは、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nonsteroidal mineralocorticoid receptor antagonist:nsMRA)、およびGLP-1受容体作動薬である。このうち、RAS阻害薬とSGLT2阻害薬は第1選択薬として推奨されている一方、nsMRAはこれら2剤に追加して使用する薬剤として位置付けられており、推奨度はやや低い(Levin A, et al. Kidney Int. 2024;105:684-701.)。 nsMRAであるフィネレノンは、糖尿病性CKD患者を対象としたFIGARO-DKD試験、FIDELIO-DKD試験、および両試験の統合解析であるFIDELITYにおいて、心血管アウトカムおよび腎複合アウトカムの改善効果が示されている。これらのエビデンスを踏まえ、2024年KDIGOガイドラインでは、RAS阻害薬およびSGLT2阻害薬に追加する治療薬として、糖尿病性CKDの早期から心・腎保護を目的に使用することが推奨されている。 今回報告されたFIND-CKD試験は2報から構成されており、NEJM論文では非糖尿病性CKD患者全体を対象としてフィネレノンの腎保護効果が検証された。一方、JAMA論文(本論文)では、その対象集団のうち糸球体疾患を有するCKD患者に限定した事前規定の探索的サブグループ解析が報告された。FIND-CKD試験(JAMA論文)の結果の概要 FIND-CKD試験は、24の国・地域で実施された第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験であり、非糖尿病性CKD患者を対象とした。本試験の結果は2報として報告されており、NEJM論文では登録された全1,584例を対象とした主要解析が、一方、本JAMA論文では、そのうち糸球体疾患由来のCKDと診断された903例を対象とした事前規定の探索的サブグループ解析が報告された。 対象患者の平均年齢は51.1歳、女性は40.1%、アジア人は61.9%を占め、平均eGFRは48.8mL/min/1.73m2であった。また、尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)も評価された。約80%の患者では腎生検により組織学的診断が確定しており、その内訳はIgA腎症46.1%、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)23.8%、膜性腎症10.0%、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)1.8~3.9%で、一部は高血圧性腎硬化症であった。 全例で試験開始前に最大忍容量のRAS阻害薬が4週間以上投与されており、その上乗せ治療としてフィネレノンの有効性が検討された。その結果、ベースラインから32ヵ月までのeGFRスロープは、フィネレノン群で−3.50mL/min/1.73m2/年、プラセボ群で−4.23mL/min/1.73m2/年となり、群間差は0.73mL/min/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:0.22~1.24)であった。また、フィネレノン群ではベースラインから12ヵ月までのUPCRが42%(95%CI:35~48)低下した。さらに、腎不全への進行またはeGFRが40%以上低下する複合腎アウトカムの発生リスクは、プラセボ群と比較して26%低下した(100患者年当たり7.42件vs.9.60件、ハザード比:0.74、95%CI:0.57~0.97)。 以上より、フィネレノンは糸球体疾患を有する非糖尿病性CKD患者において、腎機能低下の抑制、蛋白尿の減少、および腎アウトカムの改善を示し、腎保護作用を有する可能性が示唆された。FIND-CKDから学ぶこと 本研究の最大のポイントは、非糖尿病性CKD患者を対象としたFIND-CKD試験において、糸球体疾患サブグループでもフィネレノンの腎保護効果を支持する結果が得られた点である。 まず留意すべき点は、既報のFIGARO-DKD試験およびFIDELIO-DKD試験と同様に、FIND-CKD試験もRAS阻害薬による標準治療にフィネレノンを上乗せした治療の有効性を検証した試験であり、フィネレノン単独の効果を評価したものではないことである。また、NEJM論文は、非糖尿病性CKD患者全体を対象としてフィネレノンの有効性を検証するために計画された確証的試験である。一方、本JAMA論文は、試験計画時から糸球体疾患患者を対象とした事前規定の探索的サブグループ解析として実施されたものである。したがって、その結果は仮説的・補足的な位置付けであり、統計学的な確証的結論を導くものではないことを明記しておく必要がある。 そのような制約があるにもかかわらず、本JAMA論文では、主要評価項目であるeGFRスロープの改善に加え、事前に設定された腎複合エンドポイントおよび心血管エンドポイントについても、一貫してフィネレノンに有利な傾向が認められた。したがって、IgA腎症をはじめとする糸球体疾患由来の非糖尿病性CKD患者においても、フィネレノンの腎保護作用を支持する結果が得られたと解釈することは妥当と思われる。ただし、その有効性が確立されたと結論付けるには、今後の独立した確証試験による検証が必要である。 MRA投与時の高カリウム血症について、糖尿病性CKDと非糖尿病性CKDで差異があるかどうかも興味深い点である。高カリウム血症の発現率は、糖尿病性CKDを対象としたFIGARO-DKD試験では10.8%(プラセボ群5.3%、群間差5.5%)、FIDELIO-DKD試験では18.3%(同9.0%、群間差9.3%)であった。一方、非糖尿病性CKDを対象としたFIND-CKD試験では17.0%(同13.3%、群間差3.7%)であり、プラセボ群との差は3試験中で最も小さかった。各試験の平均eGFRは、FIGARO-DKD試験で約68、FIDELIO-DKD試験で約44、FIND-CKD試験で約49mL/min/1.73m2であった。これらの試験間比較からは、(1)高カリウム血症の発現頻度は腎機能低下の程度と関連する可能性、(2)非糖尿病性CKDでは糖尿病性CKDと比べてフィネレノン投与に伴う高カリウム血症の増加幅が小さい可能性、の2点が示唆される。ただし、これらは異なる試験間の比較から得られた知見であり、患者背景や試験デザインの違いによる影響を受ける可能性があるため、これには慎重な解釈が必要である。一般に、糖尿病性CKDでは低レニン性低アルドステロン症(hyporeninemic hypoaldosteronism:HRHA)、インスリン作用不足、代謝性アシドーシスなどが高カリウム血症の誘因となりやすいことが知られている。今回のFIND-CKD試験の結果は、糸球体疾患を主体とする非糖尿病性CKDでは、nsMRA投与に伴う高カリウム血症の頻度が少ない可能性を示唆しており、副作用の観点からも注目される。 今後は、IgA腎症をはじめとする糸球体疾患由来の非糖尿病性CKD患者に対し、フィネレノンが真に腎保護作用を有するかどうかを検証する独立した確証試験の実施が期待される。

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