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早期パーキンソン病へのGLP-1受容体作動薬、進行抑制効果を確認/NEJM

 診断後3年未満のパーキンソン病患者を対象とした糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬リキシセナチド療法について、第II相のプラセボ対照無作為化二重盲検試験で、プラセボと比較して12ヵ月時点での運動障害の進行を抑制したことが示された。ただし、消化器系の副作用を伴った。フランス・トゥールーズ大学病院のWassilios G. Meissner氏らLIXIPARK Study Groupによる検討結果で、NEJM誌2024年4月4日号で発表された。リキシセナチドは、パーキンソン病のマウスモデルで神経保護特性を示すことが報告されていた。今回の結果を踏まえて著者は、「より長期かつ大規模な試験により、パーキンソン病患者に対するリキシセナチドの有効性および安全性を確認することが必要である」とまとめている。リキシセナチドを1日1回皮下投与、1年後のMDS-UPDRSパートIIIスコア変化を評価 試験は、パーキンソン病患者の運動障害進行に対するリキシセナチドの有効性を評価するため、パーキンソン病診断後3年未満で、対症薬の服用量が安定しており、運動合併症のない患者を無作為に2群に割り付け、一方にはリキシセナチドを1日1回皮下投与(当初14日間は10μg/日、その後は20μg/日)、もう一方にはプラセボを、それぞれ12ヵ月投与し、2ヵ月休薬した。 主要エンドポイントは、運動障害疾患学会・改訂版パーキンソン病統一スケール(MDS-UPDRS)のパートIIIスコア(範囲:0~132点、スコアが高いほど運動障害が大きい)のベースラインからの変化量で、12ヵ月時点で試験薬服薬中の患者を対象に評価した。 副次エンドポイントは、6ヵ月、12ヵ月、14ヵ月時点のMDS-UPDRSのその他のサブスコアや、レボドパ換算投与量などだった。スコア変化の群間差は3.08ポイントで有意な差 試験登録のスクリーニングは2018年2月~2020年3月に行われ、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、計156例(各群78例)が登録された時点で組み入れ中止となった。ベースラインの両群の人口統計学的および臨床的特性は類似しており、典型的な早期パーキンソン病の被験者像であった。平均年齢はリキシセナチド群59.5±8.1歳、プラセボ群59.9±8.4歳、男性被験者は同56%、62%、平均診断後期間は1.4±0.8年、1.4±0.7年で、MDS-UPDRSパートIIIスコアは両群とも約15点(14.8±7.3点、15.5±7.8点)だった。 12ヵ月時点で、MDS-UPDRSパートIIIスコアの変化量は、リキシセナチド群では-0.04ポイント(障害の改善を示す)、プラセボ群では3.04ポイント(障害の悪化を示す)だった(群間差:3.08、95%信頼区間[CI]:0.86~5.30、p=0.007)。 2ヵ月の休薬期間後14ヵ月時点で、非服薬状態でのMDS-UPDRSパートIIIスコアの平均値は、リキシセナチド群17.7点(95%CI:15.7~19.7)、プラセボ群20.6(18.5~22.8)だった。 副次エンドポイントに関するその他の結果は、両群で大きな差は認められなかった。 リキシセナチド群の46%で悪心が、13%で嘔吐が報告された。

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2型糖尿病患者に対する肥満外科手術bariatric surgeryの長期有効性が示された(解説:住谷哲氏)

 2型糖尿病の寛解diabetes remissionは、これまで夢物語であったが、近年は現実のものとなっている。寛解の定義は疾患により異なるが、2型糖尿病においては血糖降下薬を使用せずにHbA1c<6.5%が3ヵ月以上維持できた状態を寛解と定義している1)。契機となったのはDiRECT(Diabetes Remission Clinical Trial)研究で、15kg以上の減量により肥満2型糖尿病患者の86%が寛解したと報告されたことである2)。この報告はかなりの衝撃であり、付属論評のタイトルも”Remission of type 2 diabetes: mission not impossible”であった3)。 DiRECT研究は、超低カロリー食very low calorie diet VLCDを基本とした生活習慣改善プログラムを使用していた。カロリー制限が減量において最重要であるのは当然であるが、現実的にはなかなか難しい。そこで従来から減量目的で実施されていたのが肥満外科手術bariatric surgeryである。2型糖尿病患者における肥満外科手術の有効性を検討したRCTは複数あるが、すべて単施設からの報告であり、症例数、観察期間も限られていた。そこで本研究グループは、Alliance of Randomized Trials of Medicine versus Metabolic Surgery in Type 2 Diabetes (ARMMS-T2D) consortiumを立ち上げ、統合解析を実施した。追跡開始3年後の解析結果は、すでに報告されており4)、本論文はその7年または12年後の追跡結果である。主要評価項目であるベースラインからのHbA1cの変化量は薬物療法・生活習慣改善群に比較して肥満外科手術群で有意に大であった。さらに副次評価項目である2型糖尿病の寛解率も、薬物療法・生活習慣改善群vs.肥満外科手術群で、7年後で6.2% vs.18.2%(p=0.02)、12年後で0.0% vs.12.7%(p<0.001)であり肥満外科手術群で有意に大であった。 本統合解析に含まれた4つのRCTが実施されたのは2007年から2013年にかけてであり、当時はGLP-1受容体作動薬のセマグルチドもチルゼパチドも市場に登場していなかった。両薬剤の体重減少効果は肥満外科手術に匹敵するものがあり、仮りに同様のRCTを現時点で実施すれば結果は異なったかもしれない。しかし両薬剤共に薬剤中止後ほぼ1年で体重が元に戻ることが明らかにされており5,6)、体重減少を維持するためには継続使用が必要である。一部の患者ではあるが、肥満外科手術後10年以上にわたり2型糖尿病の寛解が維持できることが示されたのは大きな一歩といえるだろう。■参考文献1)Riddle MC, et al. Diabetes Care. 2021;44:2438-2444.2)Lean ME, et al. Lancet. 2018;391:541-551.3)Uusitupa M. Lancet. 2018;391:515-516.4)Kirwan JP, et al. Diabetes Care. 2022;45:1574-1583.5)Rubino D, et al. JAMA. 2021;325:1414-1425.6)Aronne LJ, et al. JAMA. 2024;331:38-48.

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肥満症治療薬は手術前の胃残留量増加に関連

 ウゴービやオゼンピックのような肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬)の使用者は、全身麻酔を要する手術前でも胃残留量の多いことが、新たな研究から明らかになった。研究グループは、GLP-1受容体作動薬の使用者の場合、現行のガイドラインで推奨されている手術前の絶食時間では不十分な可能性を示唆する結果だとの見方を示している。米テキサス大学健康科学センターヒューストン校のSudipta Sen氏らによるこの研究結果は、「JAMA Surgery」に3月6日掲載された。 全身麻酔を要する手術では通常、誤嚥性肺炎や窒息のリスクを防ぐために手術前の絶食が求められる。Sen氏らは、全身麻酔下にあったGLP-1受容体作動薬の使用者が、手術中に自分の吐物を誤嚥したとの報告を受けて、GLP-1受容体作動薬の使用と胃残留量の増加との関連を調べることを決めたと話す。 対象は、2023年6月から7月の間に全身麻酔下での待機的手術が予定されていた18歳以上の患者124人(平均年齢56歳、女性60%)で、このうちの62人(50%)はGLP-1受容体作動薬を週に1回使用していたが(曝露群)、残る半数は使用していなかった(対照群)。主要アウトカムは、胃超音波検査で評価した多量の胃残留物で、具体的には、固形物、濃度の高い液体、または1.5mL/kg以上の透明な液体がある場合と定義された。 その結果、多量の胃残留物が確認された対象者の割合は、曝露群で56%(35/62人)であるのに対し、対照群では19%(12/62人)であることが明らかになった。結果に影響を及ぼす因子を調整して解析した結果、GLP-1受容体作動薬の使用により多量の胃残留物が認められる可能性が30.5%上昇することが示された。 Sen氏は、「GLP-1受容体作動薬を使用している患者では、手術前に絶食していたにもかかわらず、その半数以上に手術前の胃超音波検査で多量の胃残留が認められた」と振り返る。研究グループは、「これらの結果は、米国麻酔科学会が2023年に発表した、手術前のGLP-1受容体作動薬の使用の有無をスクリーニングし、その使用に付随するリスクを患者に知らせることを求める推奨内容と一致する」と述べる。 ガイドラインではまた、医師が、手術前にはGLP-1受容体作動薬の使用を控えることを検討すべきことも推奨されている。Sen氏は、「患者は、外科医や麻酔科医にこの薬の使用の有無を正直に伝える必要がある。この情報は、選択的手術の前に薬物の投与を調整したり、長期絶食を勧めたり、必要であれば選択的手術を再スケジュールするなど、適切な推奨を提供するために極めて重要だからだ」と主張する。また同氏は、「GLP-1受容体作動薬使用者の手術前の絶食時間を延長する新たな治療ガイドラインが必要かもしれない」と話している。

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第189回 紅麹サプリメント問題、無症状でも保険診療可能に/厚労省

<先週の動き>1.紅麹サプリメント問題、無症状でも保険診療可能に/厚労省2.オンライン初診での麻薬、向精神薬の処方制限強化へ/厚労省3.医療広告をさらに規制強化、事例解説書を更新/厚労省4.当直明けの手術を7割が実施、遅れる消化器外科医の働き方改革/消化器外科学会5.看護師の離職率は依然として高水準、タスクシフトや業務効率化を進めよ/看護協会6.未成年への経頭蓋磁気刺激治療(TMS)、専門家から倫理性に疑問/児童青年精神医学会1.紅麹サプリメント問題、無症状でも保険診療可能に/厚労省厚生労働省は、小林製薬の紅麹原料を含む機能性表示食品に関連する健康被害について、入院者数が延べ196人、受診者数が1,120人を超えたと発表した。この問題は国内で広がりをみせており、相談件数は約4万5,000件に上っている。厚労省は、無症状の人でも医師が必要と判断すれば、保険診療での診察や検査を許可する措置を講じた。立憲民主党は、このような健康被害があった場合に迅速な報告義務を課す制度改正を政府に要請する方針を明らかにした。また、小林製薬は、製品が安全に摂取できると言えないとの見解を示し、紅麹原料の製造過程で温水が混入するトラブルがあったことも公表したが、健康被害との直接的な関連は不明としている。この一連の問題に対し、消費者庁や厚労省は、紅麹を含む製品による健康被害の原因究明と、被害拡大防止のための対策を強化している。参考1)健康被害の状況等について[令和6年4月4日時点](厚労省)2)疑義解釈資料の送付について[その65](同)3)「紅麹を含む健康食品等を喫食した者」、無症状でも、医師が喫食歴等から必要と判断した場合には、保険診療で検査等実施可-厚労省(Gem Med)4)小林製薬「紅麹」、受診1,100人超 健康被害どこまで(日経新聞)5)健康被害で報告義務を=機能性食品、政府に要請へ-立民(時事通信)6)報告義務の法制化「必要あれば迅速に」 紅麹サプリ問題で武見厚労相(朝日新聞)7)紅麹製造タンクで温水混入トラブル、小林製薬「健康被害との関係不明」…公表2週間で受診1,100人超(読売新聞)2.オンライン初診での麻薬、向精神薬の処方制限強化へ/厚労省厚生労働省は、オンライン診療の適切な実施に関する新たな指針を公表し、特定の医薬品の処方に関する制限を明確にした。これにより、オンライン診療の初診では麻薬・向精神薬、抗がん剤、糖尿病治療薬などの特定薬剤の処方が禁止され、これらの情報を過去の診療情報として扱うこともできなくなる。この措置は、患者の基礎疾患や医薬品の適切な管理を確保するため、および不適切な処方を防ぐために導入された。オンライン診療では、患者から十分な情報を得ることが困難であり、医師と患者の本人確認が難しいため、安全性や有効性を保証するための規制が設けられている。厚労省は、新たな課題や医療・情報通信技術の進展に伴い、オンライン診療指針およびその解釈のQ&Aを更新し続けている。また、オンライン診療で糖尿病治療薬をダイエット薬として処方するなどの不適切な事例にも対処。これにより、医療機関はオンライン診療の際に、医師法や刑事訴訟法に基づく適切な手続きを踏むことが強く求められる。とくに、医師のなりすましや患者情報の誤りが疑われる場合は、警察との連携を含む厳格な対応が促されている。さらにオンライン診療では、基礎疾患の情報が不明な患者に対しては、薬剤管理指導料の「1」の対象となる薬剤の処方を避け、8日分以上の薬剤処方を行わないことで、一定の診察頻度を確保し、患者観察を徹底することを求めている。参考1)「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に関するQ&A[令和6年4月改訂](厚労省)2)オンライン初診では麻薬や抗がん剤、糖尿病薬などの処方不可、オンライン診療の情報を「過去の診療情報」と扱うことも不可-厚労省(Gem Med)3.医療広告をさらに規制強化、事例解説書を更新/厚労省厚生労働省は、医療広告に関する規制をさらに強化を図るため、事例解説書の第4版を公表した。今回の改定では、誤解を招く誇大広告や、いかなる場合でも特定の処方箋医薬品を必ず受け取れるとする広告など、不適切な医療広告に対処する内容の改定となった。新たに追加された内容では、GLP-1受容体作動薬の美容・ダイエットを目的とした適応外使用に関する違反事例が散見されることに対応し、特定の処方箋医薬品を必ず受け取れる旨を広告することを禁止するほか、SNSや動画を含むデジタルメディア上での広告事例が含まれ、ビフォーアフター写真の説明が一切ないままの使用、治療内容やリスクに関する不十分な説明が禁止される事例が明確にされた。また、自院を最適または最先端の医療提供者と宣伝することも禁じられている。これらの更新は、患者が正確な情報に基づいて医療サービスを選択できるようにすることを目的とし、今後ガイドラインの遵守を求めていく。参考1)医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書[第4版](厚労省)2)医療広告「自院が最適な医療提供」はNG 厚労省が事例解説書・第4版(CB news)3)「必ず処方薬が受け取れる」はNG、オンライン診療広告 厚労省、解説書に事例追加(PNB)4)2024年3月 医療広告ガイドラインの変更点まとめ(ITreat)4.当直明けの手術を7割が実施、遅れる消化器外科医の働き方改革/消化器外科学会日本消化器外科学会が、昨年学会員に対して行った調査で、消化器外科医が直面している厳しい労働環境が明らかになった。2023年8月~9月にかけて65歳以下で、メールアドレスの登録がある会員1万5,723名(男性1万4,267名[90.7%]、女性1,456名[9.3%])を対象にアンケート調査を行ったところ、2,923人(18.6%)から回答を得た。その結果、月に80時間以上の時間外労働を報告した医師が全体の16.7%に上り、さらに100時間以上と回答する医師が7.6%と、「医師の働き方改革」で定められた年間960時間の上限を超える勤務をしていることがわかった。また、当直明けに手術を行う医師が7割以上を占め、「まれに手術の質が低下する」と回答した医師が63.3%に達した。この結果は、過酷な勤務条件が医療の質に潜在的なリスクをもたらしていることを示唆している。さらに、医師の働き方改革が導入される直前の調査では、労働環境の改善がみられるものの、賃金の改善が最も求められていることが明らかになった。医師は、兼業が収入の大きな部分を占め、とくに手術技術料としてのインセンティブの導入を望んでいる。また、次世代の医師に消化器外科を勧める会員は少数で、これは消化器外科医を取り巻く環境に対する懸念を反映したものとなった。同学会では、労働環境の改善、とくに賃金体系の見直しは、消化器外科医の減少に歯止めをかけ、消化器外科の将来を守るために積極的に取り組む必要があり、今後も高い品質の外科医療を提供し続けるために不可欠であると結論付けている。参考1)医師の働き方改革を目前にした消化器外科医の現状(日本消化器外科学会)2)消化器外科医の当直明け手術、「いつも」「しばしば」7割超…「まれに手術の質低下」は63%(読売新聞)5.看護師の離職率は依然として高水準、タスクシフトや業務効率化を進めよ/看護協会2022年度の看護職員の離職率が11.8%と高い水準で推移していることが、日本看護協会による病院看護実態調査で明らかになった。正規雇用の離職率は11.8%、新卒は10.2%、既卒は16.6%と報告されている。医療・介護ニーズの増加と現役世代数の減少が見込まれる中、医療機関における看護職員の離職防止が一層重要な課題となっている。また、看護職員の給与に関しては、勤続10年での税込平均給与が32万6,675円となっており、処遇改善評価料を取得した病院では、看護職員の給与アップ幅が大きくなっている。この調査結果は、看護職員の離職率が高い状況を背景に、看護職員のサポートと業務効率化が急務であることを示しており、看護職員から他職種へのタスク・シフトを進めることの重要性を強調している。これにより、医療現場での働きやすさの向上と医療提供体制の確保が求められている。同協会は、看護師の離職防止のために看護業務効率化ガイドを公表し、医療現場での業務効率化の事例を紹介している。この中で、業務効率化のプロセスやノウハウを示し、医師の働き方改革を支える看護職員の業務効率化に焦点を当てている。具体的な業務効率化の取り組みとしては、記録業務のセット化や音声入力機器の導入などが示されている。参考1)「2023年 病院看護実態調査」結果 新卒看護職員の離職率が10.2%と高止まり(日本看護協会)2)「看護業務効率化先進事例収集・周知事業」報告書(同)3)新卒の看護職員10人に1人が離職 23年病院看護実態調査 日看協(CB news)4)看護業務を効率化するガイドを公表、日看協 ホームページなどに掲載(同)5)コロナ感染症の影響もあり、2021年度・22年度の看護職員離職率は、正規雇用11.8%、新卒10.2%、既卒16.6%と高い水準-日看協(Gem Med)6.未成年への経頭蓋磁気刺激治療(TMS)、専門家から倫理性に疑問/児童青年精神医学会日本児童青年精神医学会は、18歳未満の子供や若年層への経頭蓋磁気刺激治療(TMS)の使用に対し、「非倫理的で危険性を伴う」との声明を発表し、この治療法の適用に強い倫理的懸念を示した。とくに発達障害を扱う精神科クリニックが、適応外でありながら、専門家の適正使用指針に反して、未成年者への施術を勧めるケースが問題視されている。TMSは、頭痛やけいれん発作などの副作用が報告されており、子供への有効性と安全性については現時点でエビデンスが不十分とされている。日本国内では2017年9月に厚生労働省が医療機器として薬事承認し、治療抵抗性うつ病への対応として帝人のNeuroStarによるrTMSを承認したが、日本精神神経学会は、とくに未成年者への施術にはさらなる臨床研究が必要としている。今回、同学会が指摘した倫理的な問題としては、一部のクリニックが患者の不安を利用し、高額な治療費用のためにローンを組ませる事例がある。今回の声明は、未成年者へのTMS治療の実施に当たっては慎重な検討を求めている。参考1)子どもに対する反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法に関する声明(日本児童青年精神医学会)2)反復経頭蓋磁気刺激装置適正使用指針(改訂版)(日本精神神経学会)3)「非倫理的で危険」と学会声明 子どもへの頭部磁気治療で(東京新聞)

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血糖値や体重のコントロールに最も有効なGLP-1受容体作動薬は? (解説:小川大輔氏)

 GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病に対して血糖降下作用や体重減少効果のある優れた治療薬である。セマグルチドやチルゼパチドのほか、日本では発売されていないGLP-1受容体作動薬も含めて、数多くあるGLP-1受容体作動薬の中で血糖コントロールや体重減少効果に対して、最も有効な製剤は何か? その問いに答える論文がBMJ誌に発表された1)。 著者らは成人2型糖尿病患者を対象とし、12週間以上プラセボあるいは他のGLP-1受容体作動薬と比較した無作為化対照試験を抽出した。そのうちクロスオーバー試験、非劣性試験、現在使用されていない薬剤との比較試験などは除外し、基準を満たした76試験のネットワークメタ解析を行った。 血糖コントロールに関しては、15種類のGLP-1受容体作動薬の中でHbA1c、空腹時血糖値の低下はチルゼパチドが最も大きく、最も有効なGLP-1受容体作動薬であると述べている。ただし、日本ではチルゼパチド2.5~5mgを使用しているのに対し、この論文ではチルゼパチド5~15mgを使用した試験の解析を行っている。そのため私たちのチルゼパチドに対する印象とは、やや異なる結果となっており、その解釈には注意が必要である。 体重管理に関しては、いずれのGLP-1受容体作動薬も効果があるが、なかでもCagriSema(セマグルチドとcagrilintideの合剤)が最も体重減少が大きかったと報告している。しかし以前に本コラムでコメントしたが2)、CagriSemaは日本では発売されていないので、日本で現在使用できるGLP-1受容体作動薬の中では、チルゼパチドやセマグルチドが効果の高い製剤となる。 GLP-1受容体作動薬の脂質に対する効果については、これまでにあまり報告がない。この論文で、LDLコレステロール値と総コレステロール値にセマグルチドが唯一有効なGLP-1受容体作動薬であった、と述べている点は興味深い。また中性脂肪の低下に対しては、ITCA 650(日本未発売)とチルゼパチドが有効であった。 今回の解析で、有害事象についてはいずれのGLP-1受容体作動薬においても悪心、嘔吐や下痢などの消化器系の有害事象が認められた。予想通りの結果ではあるが、血糖値や体重の減少を期待して高用量のGLP-1受容体作動薬を投与する際には、消化器症状の発現に注意する必要があると言えよう。

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週1回投与の肥満症治療薬「ウゴービ」を発売/ノボ ノルディスク

 ノボ ノルディスク ファーマは、肥満症を適応症としたヒトグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体作動薬セマグルチド(商品名:ウゴービ皮下注)を2024年2月22日に発売した。 セマグルチドは、週1回皮下投与のGLP-1受容体作動薬で、空腹感を軽減し、満腹感を高めることで、食事量を減らし、カロリー摂取量を抑え、体重減少を促す。 本剤は約4,700例の過体重または肥満の成人が参加した「STEP臨床試験プログラム」の結果に基づき、2023年3月27日に製造販売承認を取得した。 STEP臨床試験プログラムは、肥満の成人を対象としたセマグルチド皮下注2.4mgSDの週1回皮下投与による第III相臨床開発プログラム。過体重または肥満の成人約4,700例を登録した4つの試験で構成される第IIIa相グローバル臨床プログラムに加え、肥満症の成人を登録した東アジア試験(STEP6試験)などが実施された。 とくに日本人585例が参加したSTEP6試験では、生活習慣の改善(食事療法および運動療法)だけでは十分な減量効果が得られない過体重または肥満の成人において、投与68週時に13%以上の体重減少を達成した。また、肥満に関連する合併症(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症)についても、セマグルチド皮下注2.4mgSDの投与による血糖、血圧および脂質パラメータの改善が認められた。 現在、わが国には約1,600万例の肥満症患者が推定される一方、医師により肥満症と診断されている人は、そのうちの2.1%(33万例)に止まっており、今後の医療現場での活用が期待されている。 そのほか、同社は、糖尿病の治療で使用されているGLP-1製剤が、近年、美容目的で不適正使用されていることに関し、注意を喚起するとともに、本剤は厚生労働省の最適使用推進ガイドラインに従い、確実な適正使用の推進を目指し、活動するとしている。【製品概要】一般名:セマグルチド(遺伝子組換え)販売名:ウゴービ効能または効果:肥満症ただし、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。・BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する・BMIが35kg/m2以上用法および用量:通常、成人には、セマグルチド(遺伝子組換え)として0.25mgから投与を開始し、週1回皮下注射する。その後は4週間の間隔で、週1回0.5mg、1.0mg、1.7mgおよび2.4mgの順に増量し、以降は2.4mgを週1回皮下注射する。なお、患者の状態に応じて適宜減量する。薬価:ウゴービ皮下注0.25mg:1,876円/キットウゴービ皮下注0.5mg:3,201円/キットウゴービ皮下注1.0mg:5,912円/キットウゴービ皮下注1.7mg:7,903円/キットウゴービ皮下注2.4mg:1万740円/キット薬価収載日:2023年11月22日発売日:2024年2月22日製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ株式会社

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セマグルチドの使用は自殺念慮と関連しない

 2型糖尿病や肥満症治療のためにオゼンピックやウゴービなどのGLP-1受容体作動薬のセマグルチドを使用していても、GLP-1受容体作動薬の非使用者に比べて自殺念慮が高まる可能性はないことが、電子健康記録(HER)のデータベースを用いた大規模レビューにより明らかにされた。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部Center for Artificial Intelligence in Drug DiscoveryのRong Xu氏らが米国立衛生研究所(NIH)の資金提供を受けて実施したこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に1月5日掲載された。 Xu氏は、2023年の夏にヨーロッパの規制当局が、セマグルチドに関連して自殺念慮が報告されたことを受けて調査に乗り出したことから、この問題に取り組むことを決めたと説明している。また、米食品医薬品局(FDA)も、最近公開された四半期報告書の中で、オゼンピックやウゴービを含む肥満症治療薬使用者から同様の報告があることを受けて調査中であることを明らかにしている。同氏は、セマグルチドを使用中の人では、アルコールや喫煙などの中毒性のある行動に対する興味が低下するという報告がある一方で、ヨーロッパではセマグルチドと自殺念慮の関連に関する調査が実施されたことに触れ、「一種のパラドックスとも言える状況が生じている」と話している。 Xu氏らは、全米50州、59の医療機関の患者1億人以上の電子健康記録(HER)のデータベースを用いてセマグルチド使用患者を6カ月間追跡し、同薬と自殺念慮との関連を、GLP-1受容体作動薬ではない糖尿病治療薬や肥満症治療薬の使用患者との比較で検討した。データベースには肥満または過体重の患者23万2,771人と2型糖尿病患者157万2,885人が含まれていた。傾向スコアマッチングによりセマグルチド使用者とGLP-1受容体作動薬以外の治療薬使用者として、肥満症では5万2,783人ずつ(平均年齢50.1歳、女性72.6%)、2型糖尿病では2万7,726人ずつ(平均年齢57.5歳、女性49.2%)を対象として解析を行った。肥満または過体重患者のうちの7,847人、2型糖尿病患者のうちの1万6,970人に自殺念慮歴があった。 解析の結果、セマグルチドを使用中の過体重または肥満症患者では、GLP-1受容体作動薬以外の肥満症治療薬を使用中の同患者に比べて、初めて自殺念慮を抱くリスクが有意に低く(0.11%対0.43%、ハザード比0.27、95%信頼区間0.20〜0.36)、また、自殺念慮の再発リスクについても有意に低いことが示された(6.5%対14.1%、同0.44、0.32〜0.60)。さらに、2型糖尿病患者を対象にした解析でも、セマグルチドを使用中の患者では、初めて自殺念慮を抱くリスクと(0.13%対0.36%、同0.36、0.25〜0.53)、自殺念慮の再発リスクが低かった(10.0%対17.9%、同0.51、0.31〜0.83)。 オゼンピックやウゴービは、マンジャロやZepbound(ゼップバウンド)と同様、今や何百万人もの患者に処方されている。これらの薬で生じる最も一般的な副作用は、吐き気、嘔吐、便秘などの胃腸障害だが、胃不全麻痺などより深刻な副作用が生じたとの報告もある。ウゴービもZepboundも、添付文書には自殺行動や自殺念慮のリスクに関する警告が記載されている。CNNによると、これらの薬剤よりも古くからある、同じGLP-1受容体作動薬サクセンダの添付文書でも、抑うつ、自殺念慮や自殺行動について患者を監視することが推奨されているという。研究論文の共著者である、米国立薬物乱用研究所のNora Volkow氏はさらに、「急激な減量が人を脆弱にさせることも考えられる」と指摘している。 Xu氏とVolkow氏は、今回の研究でセマグルチドが自殺念慮リスクの低下と関連することが示されたものの、「この結果は、自殺念慮に対するセマグルチドの適応外処方を正当化するものではない」と注意を促している。ただし、Volkow氏は、「うつ病の潜在的治療薬としてのセマグルチドの効果を検証することに関心が寄せられているのは事実だ」と認めている。実際に、少なくとも1件の臨床試験がまさにその目的で患者を募集しているところだという。

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GLP-1受容体作動薬、血糖値や体重減少効果が高いのは?~76試験メタ解析/BMJ

 中国・北京中医薬大学のHaiqiang Yao氏らが成人の2型糖尿病患者を対象としたGLP-1受容体作動薬の76試験をネットワークメタ解析した結果、プラセボと比べ、チルゼパチドによるヘモグロビンA1c(HbA1c)と空腹時血糖値の低下が最も大きく、血糖コントロールの有効性が最も高いGLP-1受容体作動薬であることが示された。また、GLP-1受容体作動薬は体重管理も大幅に改善することが示され、なかでも体重減の効果が最も大きかったのはCagriSema(セマグルチドとcagrilintideの合剤)だった。一方で、GLP-1受容体作動薬は、とくに高用量の投与で消化器系の有害事象がみられ、安全性について懸念があることも明らかになったという。BMJ誌2024年1月29日号掲載の報告。2023年8月までの試験をシステマティックレビューとネットワークメタ解析 研究グループは、2型糖尿病成人患者において、GLP-1受容体作動薬による血糖コントロール、体重、脂質プロファイルの有効性と安全性を比較評価することを目的とし、システマティックレビューとネットワークメタ解析を行った。 PubMed、Web of Science、Cochrane CENTRALおよびEmbaseを、データベース発刊から2023年8月19日まで検索し、GLP-1受容体作動薬治療を受けた2型糖尿病成人患者を登録しプラセボまたはほかのGLP-1受容体作動薬と比較した、追跡期間12週間以上の無作為化対照試験を適格とし特定した。クロスオーバーデザインの試験、GLP-1受容体作動薬と他クラスの薬剤をプラセボ群なしで比較した非劣性試験、販売が中止された薬剤を使用したもの、英語以外で記述された試験などは除外した。体重減は対プラセボでCagriSemaが-14kg、チルゼパチドが-8kg 適格基準を満たしたのは76試験で、15種のGLP-1受容体作動薬と被験者総数3万9,246例が、ネットワークメタ解析に組み入れられた。プラセボとの比較において、15種すべてのGLP-1受容体作動薬が、HbA1cと空腹時血糖値を低下させた。 なかでもチルゼパチドは、HbA1c濃度(対プラセボの平均差:-2.10%、95%信頼区間[CI]:-2.47~-1.74、SUCRA:94.2%、信頼性のエビデンス:高)、空腹時血糖値(-3.12mmol/L、95%CI:-3.59~-2.66、97.2%、高)の低下が最も大きく、血糖コントロールについて最も有効なGLP-1受容体作動薬であることが示された。 さらに、GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病成人患者の体重管理に強力なベネフィットを有することが示された。なかでもCagriSemaは体重減少が最も大きく(対プラセボの平均差:-14.03kg、95%CI:-17.05~-11.00、信頼性のエビデンス:高)、チルゼパチド(-8.47kg、-9.68~-7.26、高)がそれに続いた。 セマグルチドは、LDL値の低下(対プラセボの平均差:-0.16mmol/L、95%CI:-0.30~-0.02)と総コレステロール値の低下(-0.48mmol/L、-0.84~-0.11)に有効であった。 また今回の解析では、GLP-1受容体作動薬による消化器系の有害事象、とくに高用量投与の安全性について懸念があることが示唆された。

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GLP-1受容体作動薬、従来薬と比較して大腸がんリスク低下

 グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬は、2型糖尿病の治療薬として日本をはじめ海外でも広く承認されている。GLP-1受容体作動薬には、血糖低下、体重減少、免疫機能調節などの作用があり、肥満・過体重は大腸がんの主要な危険因子である。GLP-1受容体作動薬が大腸がんリスク低下と関連するかどうかを調査した研究がJAMA Oncology誌2023年12月7日号オンライン版Research Letterに掲載された。 米国・ケース・ウェスタン・リザーブ大学のLindsey Wang氏らの研究者は、TriNetXプラットフォームを用い、米国1億120万人の非識別化された電子カルテデータにアクセスした。GLP-1受容体作動薬と、インスリン、メトホルミン、α-グルコシダーゼ阻害薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン系薬剤(ただし、SGLT2阻害薬は2013年、DPP-4阻害薬は2006年が開始年)の7薬剤を比較する、全国規模の後ろ向きコホート研究を実施した。 コホートは、人口統計、社会経済的な健康決定要因、既往症、がんや大腸ポリープの家族歴および個人歴、生活習慣要因などで調整され、ハザード比(HR)および95%信頼区間[CI]を用いた解析を行った。次いで、肥満・過体重、性別で層別化した患者を対象にした解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・2005~2019年に2型糖尿病を理由に医療機関を受診し、それまでに抗糖尿病薬の使用歴がなく、受診後に抗糖尿病薬を処方された、大腸がんの診断歴がない122万1,218例が対象となった。・追跡期間15年時点で、GLP-1受容体作動薬はインスリン(HR:0.56、95%CI:0.44~0.72)、メトホルミン(HR:0.75、95%CI:0.58~0.97)と比較して、大腸がんのリスク低下と有意に関連していた。この有意差は男女でも一貫しており、肥満・過体重の患者ではインスリン(HR:0.50、95%CI:0.33~0.75)、メトホルミン(HR:0.58、95%CI:0.38~0.89)と、さらなるリスク低下が見られた。・SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン系薬剤との比較でもリスク低下は見られたが、インスリン、メトホルミンほどではなかった。α-グルコシダーゼ阻害薬とDPP-4阻害薬との比較では、統計学的有意差は見出されなかった。 研究者らは、本研究の限界として「未測定または未制御の交絡因子、自己選択、逆因果、観察研究に特有のその他のバイアスの可能性があるため、本試験の結果は他のデータや研究集団による検証が必要である。また、抗糖尿病治療歴のある患者における効果、基礎となる機序、GLP-1受容体作動薬がほかの肥満関連がんに及ぼす効果についても、さらなる研究が必要である」としている。

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第180回 ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省

<先週の動き>1.ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省2.救急出動件数増加、コロナ感染拡大で救急医療体制に余波/消防庁3.製薬会社の医師への接待費の公表を義務化、今年4月から/厚労省4.糖尿病薬ダイエット乱用問題、医療広告の厳格化で対応/厚労省5.利用率の低迷するマイナ保険証、現場の懸念の中、利用促進のため支援金を交付/厚労省6.県立病院で医師の高圧的な指導が問題に、救命士へのパワハラが発覚/鳥取1.ダブル改定、病床機能分化で急性期病院の在院日数16日に短縮/厚労省厚生労働省は、1月31日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開催し、2024年度の診療報酬改定で急性期一般入院料1の平均在院日数を現行の18日から16日に短縮することを決定した。この決定は診療側と支払側の意見は大きく分かれていたため、公益裁定により行われた。これまで厚労省が進めてきた病床機能分化推進を目的としている。また、重症度や医療・看護必要度の基準も見直され、とくにB項目は廃止される方向で固まった。今回の改定では、急性期入院治療が必要な患者の集約化を進め、医療資源の適切な配分を促すために行われる。公益委員は、地域包括医療病棟の新設や入院基本料の見直しを踏まえ、該当患者割合の基準を高く設定することが将来の医療ニーズに応える上で重要だと指摘した。一方、診療側は、新型コロナウイルス感染症の特例終了後の経営の厳しさを理由に、平均在院日数の基準変更に反対し、影響の小さい見直しを求めた。また、支払側は、急性期病床の適切な集約を進めるために、より厳しい基準の採用と該当患者割合の引き上げを主張した。最終的に、公益裁定により平均在院日数の「16日以内」への短縮と、重症度・医療看護必要度の基準見直しが決定された。今回の改定により、地域医療の質の向上と効率化を目指し、急性期病床の機能分化と連携強化を推進することが望まれている。参考1)中医協 個別改定項目(その2)について(厚労省)2)1月31日の中医協の公益裁定で決定 急性期一般入院料1の平均在院日数は「16日」に短縮(日経ヘルスケア)3)24年度診療報酬改定 急性期の機能分化推進へ 急性期一般入院料1の平均在院日数「16日」に短縮(ミクスオンライン)2.救急出動件数増加、コロナ感染拡大で救急医療体制に余波/消防庁新型コロナウイルス感染症の長期化により、わが国の救急医療体制が逼迫していることが総務省消防庁の2023年版「救急・救助の現況」から明らかになった。救急出動件数と搬送人数は共に増加傾向にあり、救急車の要請から病院受け入れまでの時間が延長し、搬送先病院をみつけるまでの照会件数も増加している。この状況は、救急現場の負担増加とともに、国民の健康や生命に重大な影響を及ぼす可能性がある。2022年中の救急出動件数は723万2,118件で前年比16.7%の増加、搬送人員は621万9,299人で13.2%増加した。搬送は救急自動車が大部分を占め、消防防災ヘリによる搬送もわずかに増加していた。救急出動の主な原因は急病で、とりわけ呼吸器系、消化器系、心疾患、脳疾患のケースが多くみられた。また、軽症者の割合も増加しており、救急搬送の要請が重症患者や重篤患者に限定されるべきであるとの国民意識のシフトが必要とされている。救急搬送の過程で、119番通報から救急自動車が現場に到着するまでの時間は全国平均で10.3分、病院に収容されるまでの時間は47.2分となり、コロナ禍の影響で時間が延伸している。医療機関への受け入れ照会回数の増加や、搬送先病院のみつけにくさは、コロナ禍における救急医療提供体制の逼迫を示している。この状況に対応するため、厚生労働省は発熱外来や相談体制の強化、かかりつけ医を持つことの重要性を自治体に要請している。また、救急隊による応急処置の重要性が高まっており、医師の現場出動も広がっている。さらに、救急救命士が、病院前で重度傷病者に対して実施可能な救急救命処置を救急外来でも実施できるよう法律改正が行われている。参考1)新型コロナ感染症の影響で救急医療体制が逼迫、搬送件数増・病院受け入れまでの時間延伸・照会件数増などが顕著―総務省消防庁(Gem Med)2)「令和5年版 救急・救助の現況」(総務省消防庁)3.製薬会社の医師への接待費の公表を義務化、今年4月から/厚労省厚生労働省は、2024年4月より製薬会社による医師への研究資金提供に関する規制を強化する。製薬会社が、自社製品の臨床研究を大学病院などで行う医師に対して提供する資金の公表を義務付ける臨床研究法の施行規則を改正することにより、透明性を高めることを目的としている。改正後は、製薬企業が提供する研究資金のほか、医師への接待費用や説明会、講演会にかかった費用と件数も公表対象となる。これにより、医師が所属する大学などへの寄付金、講演会の講師謝金、原稿執筆料に加え、これまで公表対象外だった接待費用なども含めた透明性の確保が図られる。今回の規制強化は、高血圧治療薬「ディオバン」を巡る臨床研究データ改ざん事件を受けて制定され、2018年に施行された臨床研究法に基づくもの。この法律は、製薬会社から研究を実施する大学側に寄付金が提供されていた事実を背景に、研究の透明性を高めることを目的としている。また、日本製薬工業協会は、2011年に「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」を策定し、2022年にも改定している。このガイドラインでは、製薬企業と医療機関、医療関係者の産学連携における透明性と信頼性の向上を目指し、製薬企業の活動が倫理的かつ誠実なものとして信頼されるための取り組みを強調している。臨床研究法との関係においても、ガイドラインは臨床研究に関連する資金提供の情報公開を義務付け、国民の信頼確保に寄与することを目指している。今回の規制強化により、製薬企業と医療機関の資金提供について透明性を高め、医療機関・医療関係者が特定の企業・製品に深く関与することによる利益相反の問題を解消し、患者の健康を最優先にした倫理的かつ誠実な医療の提供を目指している。参考1)医師への接待費、公表義務化へ…研究資金提供の製薬会社に対し4月から(読売新聞)2)企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドラインについて(日本製薬工業協会)4.糖尿病薬ダイエット乱用問題、医療広告の厳格化で対応/厚労省糖尿病治療薬をダイエット目的で使用する不適切な医療広告が増加している問題に対し、厚生労働省は医療広告ガイドラインの見直しを行うことを決めた。とくに、GLP-1受容体作動薬を「ダイエット薬」として処方する事例が問題視され、関係学会から有効性や安全性が確認されていないとの警鐘が鳴らされている。GLP-1受容体作動薬は、食欲や胃の動きを抑える効果があるため、糖尿病治療以外にもダイエット目的で使用されている。厚労省は、1月29日に医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、未承認の医薬品や医療機器を自由診療で使用する場合、公的な救済制度の対象外であることを明示するなど、ガイドラインの「限定解除要件」に新たに項目を追加する方針を明らかにした。また、美容医療サービスなどの自由診療でのインフォームド・コンセントの留意事項も見直される。ダイエット目的での不適切な医療広告によって、糖尿病患者が必要とする薬が手に入らない事態を引き起こしており、健康被害の報告も増加している。ダイエット目的で使用した場合の副作用には、吐き気、気分の低下、頭痛、胃のむかつきなどがあり、使用者からは苦しんだとの声が上がっている。厚労省は、不適切な医療広告に対処する都道府県に対して、実施手順書のひな形を提供し、指導、対応を促す方針。さらにネットパトロール事業を通じて違反が確認された医療機関には通知され、多くは6ヵ月以内に改善されているが、一部では改善が遅れているケースもあるため、厳格な対応が求められており、医療広告に関する全国統一ルールの検討や、医療機関のウェブサイトだけでなく、SNSや広告への対処も検討されている。また、一般国民への正しい情報提供と理解促進の強化が必要とされている。参考1)第2回 医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会(厚労省)2)医療広告ガイドライン改正へ 厚労省「未承認薬は救済制度の対象外」明示、限定解除要件に(CB news)3)「糖尿病治療薬を用いたダイエット」などで不適切医療広告が目に余る、不適切広告への対応を厳格化せよ-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)4)「糖尿病治療薬」“ダイエット目的”での使用相次ぎ健康被害が続出 薬不足で糖尿病患者が薬を手にできないケースも…(FNNプライムオンライン)5.利用率の低迷するマイナ保険証、現場の懸念の中、利用促進のため支援金を交付/厚労省2024年12月に現行の健康保険証が廃止され、マイナ保険証への完全移行が予定されている。この移行に向けて、厚生労働省は医療機関や薬局に対してマイナ保険証の利用促進策を通知した。支援策には、利用促進、顔認証付きカードリーダーの増設、再来受付機・レセプトコンピューターの改修コストの補助が含まれる。利用促進に関しては、利用率の上昇に応じて1件当たり最大120円の支援金が提供される予定。具体例として、国家公務員の利用率は4.36%と低迷し、とくに防衛省では2.50%と最も低い利用率を記録している。同様に電子処方箋の普及も伸び悩んでおり、導入率は約6%に留まっている。これには、システム導入費の負担が大きな障壁となっていることが原因の1つとされている。さらに、マイナ保険証の導入に対する現場の反発も広がっている。大阪府保険医協会のアンケートでは、回答した医療機関の約7割が現行の保険証の存続を支持しており、マイナ保険証の利用に際してのトラブルも多く報告されている。医療現場からは、マイナ保険証の導入による受付業務の負担増や患者の待ち時間の増加が懸念されている。政府はマイナ保険証の利用促進とデジタル化の推進を図っているが、現場の声や患者の不安に十分考慮した取り組みが求められる。専門家は、マイナ保険証のメリットが十分に理解されていない現状を指摘し、デジタル化に適応できない人たちへの配慮や現場の声を反映したスケジュールの見直しが必要だと提言している。参考1)マイナ保険証の利用促進等について(厚労省)2)マイナ保険証、利用増に応じて支援金 厚労省が詳しい運用を通知(CB news)3)マイナ保険証、国家公務員も利用低迷 昨年11月は4.36%(朝日新聞)4)「トラブル多い」「利用は少ない」 マイナ保険証、広まる現場の反発(同)6.県立病院で医師の高圧的な指導が問題に、救命士へのパワハラが発覚/鳥取鳥取県立中央病院の救命救急センターの医師が、消防の救急救命士に対してパワーハラスメント行為を行っていた問題について、病院は6件のパワハラ、またはパワハラの恐れがある行為を認めた。これに対し、12件はパワハラには当たらないと判断された。問題の行為には、救急救命士への高圧的な口調での対応や、一方的に電話を切るなどの行為が含まれている。病院側は、救急救命士からの医療行為に必要な指示を出すよう要請されたにもかかわらず、指示を拒否したり、救急救命士の発言が終わる前に電話を切ったりするなど、救急救命士を指導したいという思いが行き過ぎた行為があったと認めた。この問題について、病院長は記者会見を開き、パワーハラスメントに該当する言動があったことを発表し、今後は研修会などを通じて医師と救急救命士との信頼関係の醸成を図ると述べた。同病院は、消防局に対して謝罪し、関係回復に努めるとしている。また、県病院局はハラスメント防止委員会を立ち上げ、医師らの処分を検討する方針を示している。参考1)県立中央病院医師の救急救命士へのパワハラ6件と発表(NHK)2)救命士に電話ガチャ切りパワハラ 鳥取県立中央病院の救急医(産経新聞)3)「それってぼくが助言しなきゃいけないことですか」「一方的に電話を切られた」医師から救急隊員へのパワハラさらに判明 鳥取県立中央病院(山陰放送)

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GLP-1受容体作動薬の投与には適切な患者をSELECTするのが肝要だろう(解説:住谷哲氏)

 注射薬であるGLP-1受容体作動薬セマグルチド(商品名:オゼンピック)が心血管イベントハイリスク2型糖尿病患者の心血管イベント発症を26%減少させることが、SUSTAIN-6試験で報告されている1)。一方で、経口セマグルチド(同:リベルサス)はPIONEER 6試験において心血管イベントハイリスク2型糖尿病患者の心血管イベント発症を増加させないこと、つまり既存の治療に対する非劣性は示されたが優越性は証明されなかった2)。したがって、同じセマグルチドではあるが、心血管イベント抑制を目標とするのであれば経口薬ではなく注射薬を選択するのが妥当だろう。 肥満症は心血管イベント発症のリスク因子であるが、生活習慣改善のみでは目標とする体重減少を達成することは困難であった。しかし、GLP-1受容体作動薬の登場により状況は一変した。GLP-1受容体作動薬には体重減少作用があり、とくにセマグルチド2.4mg(同:ウゴービ)は肥満症治療薬として欧米およびわが国で承認されている。本試験はセマグルチド2.4mgの心血管イベント既往を有する、糖尿病を合併していない肥満症患者の心血管イベント再発抑制に対する有効性を検討したものである。結果は平均観察期間40ヵ月で、3-point MACEの発症を20%抑制することが示された。 RCTの結果を目の前の患者に適用する際には、結果の外的妥当性(generalizability or external validity)の評価が重要となる(EBMのstep 4)。本試験の対象患者は、全例が心血管イベントの既往があり(心筋梗塞が70%)、平均BMI 33kg/m2、糖尿病ではないが70%以上の患者はprediabetes(HbA1c≧5.7%)を合併していた。本文には記載がないが、表3から主要評価項目のNNTを計算すると67/40ヵ月になる。肥満症の有病率を考慮すると、このNNTはこの薬剤の有用性を示唆すると思われるが、やはりリスクとベネフィットとを考慮して適切な患者をSELECTすることが肝要だろう。

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第197回 強引過ぎる零売薬局規制とやる気のないスイッチラグ対策で実感する厚労省の守旧派ぶり、GLP-1ダイエット処方規制の方が最優先では?

食事なしのビジネスホテルにポツンと放り込まれた被災者たちこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。能登半島地震から4週間が過ぎました。先週のこの連載では、被災者の地元外にある1.5次や2次避難所への移動が本格化したものの、実際に移ったのは2,607人、避難者全体の17%とほとんど進んでいないと書きましたが、その後、1月26日のNHKニュースでは、2次避難所等への移動が進まない意外な理由を報じていました。それによれば、2次避難所に避難したものの、食事提供がないため再び被災地の避難所に戻る人が少なくないというのです。食事の提供がある旅館などの避難所は既に満員のため、現在、県などが用意するのはビジネスホテルなどの食事提供がない避難所。場合によっては、食事代だけではなく駐車場代も自己負担になるとのことです。被災した高齢者たちを金沢市などのビジネスホテルにポツンと放り込んで、食事はコンビニや外食、自腹でなんとかしろと言っているわけです。被災者たちが「多少不便でも地元の避難所がいい」というのもわかります。「災害関連死予防のため」と言いながら、行政のこの対応は無責任としかいいようがありません。福祉避難所ではないので、おそらく医療や介護の体制も手薄で被災者任せではないかと思われます。国や県はこうした問題をすでに把握しているとのことですが、早急な対応が望まれます。零売は「やむを得ない場合」のみ販売可能にさて、今回は、処方箋なしで一部の医療用医薬品が購入できる「零売薬局」や日本でなかなか進まないスイッチOTC化など薬の販売を巡る動きについて書いてみたいと思います。厚正労働省は昨年12月18日に開いた医薬品の販売制度に関する検討会において、零売の法令規定や、 乱用の恐れのある医薬品の販売規制強化、 一般用医薬品の販売区分の統廃合などを盛り込んだ改正案をとりまとめました。年が明けた1月11日には、「医薬品の販売制度に関する検討会とりまとめ」と題する正式文書を公表しました1)。その中で、かねてから問題視されてきた零売について、「やむを得ない場合」のみ販売可能であることを法令で明記し、販売可能時の条件も法令で定める方針を打ち出しました。法制化は2024年中にも行われるとみられます。2005年4月の薬事法改正時の通知で零売に法的根拠厚労省が「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売」、すなわち零売を公式に認めたのは、2005年とそんなに昔のことではありません。2005年4月の薬事法改正時に、医薬品分類を現在の分類に刷新するとともに「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品の薬局での販売を条件付きで認める通知を発出し、零売に法的な根拠を与えました。零売については本連載でも、「第127回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(後編)」で取り上げました。この時は、コロナ禍で医療機関の受診控えが起こったことなどを背景に、東京都内をはじめ大都市圏で零売薬局が急増している状況と、私自身の零売利用体験について記し、「零売は医療機関を受診しない(保険診療ではない)ことで、医療費の削減につながります。国が言う、セルフメディケーション推進の流れにも合っているわけで、風邪や下痢などのコモンディジーズや患者自身も十分に理解している疾患に限っては、零売は『規制』よりも『推進』があるべき形だと考えられます」と書きました。 医薬品の販売制度に関する検討会で零売を法律で規制する方向にしかし、世の中はそうは動きませんでした。利用者にとっては医療機関に受診しないで処方薬が手に入る利便性がある一方で、さまざまな不適切事例(「処方箋なしで病院の薬が買えます」と通知で不適切とされる広告を出していた企業があるなど)を厚労省も把握しており、不適切事例に対する指導を徹底するよう、度々通知を出してきました。そうした流れの延長線で、今回の医薬品の販売制度に関する検討会も議論が進みました。結果、「とりまとめ」では零売を法律でしっかりと規制しようという内容となったわけです。具体的には、医療用医薬品については処方箋に基づく交付が基本処方箋医薬品以外の医療用医薬品は、例外的に「やむを得ない場合」については薬局での販売を認めることを法令上規定上記「やむを得ない場合」は、「医師に処方され服用している医療用医薬品が不測の事態で患者の手元にない状況となり、かつ、診療を受けられない場合」、「OTC医薬品で代用できない場合、又は代用可能と考えられるOTC医薬品が容易に入手できない場合(例:通常利用している薬局及び近隣の薬局等において在庫がない場合等)」に限定。なお、その他の特殊な場合として「社会情勢の影響による物流の停滞・混乱や疾病の急激な流行拡大で薬局での医薬品販売が必要となった時」を付記。となっています。不適切な処方・販売なら「GLP-1ダイエット」の方がよほど悪質零売という販売システムにおいて甚大な健康被害があったわけでもなく、単に広告表現に不適切な事例が散見されただけで、零売という薬剤販売のユニークな仕組みを一律に法律で規制してしまうというのは、相当強引なやり方ではないかと私は思います。薬の不適切な処方、販売ということでは、美容クリニックなどが自由診療でGLP-1受容体作動薬を処方する、通称「GLP-1ダイエット」のほうがよほど悪質なのではないでしょうか。急性すい炎など重篤な副作用の報告や健康被害も報告されているようです。2023年12月20日に国民生活センターはダイエットなどを目的としたオンライン診療でトラブルについて注意喚起を行っています2)。それによると、ダイエットを含む美容医療のオンライン診療に関する相談は、2022年度が205件と前年度の約4.2倍に増加。2023年4月~10月末は169件の相談があり、前年同期比の約1.7倍に上っていたそうです。相談の約半数が、ダイエット目的によるオンライン診療のトラブルで、基礎疾患の問診や副作用の説明が十分行われずに、数ヵ月分の糖尿病治療薬を処方される事例が目立っていました。実際に、頭痛や吐き気、めまいなどの副作用が起きた事例もあったとのことです。また、処方薬の中途解約に条件があり、返品や取り消しができないといった相談も多かったそうです。医師ではない職員がGLP-1受容体作動薬を自由診療で処方との報道も12月11日のNHKの「GLP-1ダイエット」に関する報道によれば、オンラインで診療する医師の医師免許が確認できないクリニックも多数あったとのことです。つまり、対面ではなくオンラインであることを悪用し、医師ではない職員が医師を騙ってGLP-1受容体作動薬を自由診療で処方しまくっているケースが相当あるようなのです。以上を比較してみると、同じ薬の処方、販売に関することなのに、国はGLP-1受容体作動薬を“偽医者”を使ってオンラインで自由診療として処方する医療機関には「とても甘く」、きちんと薬剤師が薬の説明もしてくれる零売薬局には「厳し過ぎる」と言えるのではないでしょうか。オンライン診療については、「第101回 私が見聞きした“アカン”医療機関(中編) オンライン診療、新しいタイプの“粗診粗療”が増える予感」でも、そのゆるさと危険性について書きました。コロナ禍を経たことで、オンライン診療推進という流れに揺るぎはないようです。しかし、ことオンラインにおける自由診療となると多くの悪い奴らが暗躍しているようです。零売規制やスイッチラグ解消に消極的な姿勢から浮かび上がる厚労省の守旧派ぶり薬の販売では、日本におけるスイッチOTC化の遅れも大きな問題と言えます。内閣府の規制改革推進会議の健康・医療・介護ワーキンググループは、12月11日に開いた第3回会合で、規制改革実施計画に盛り込まれているスイッチOTC促進策のフォローアップを行いました。会合では、諸外国における医療用から一般用への転用実績との格差、いわゆる「スイッチラグ」が社会課題であると再確認、厚労省に対して改めて推進を前提に審査期間・手順の見直しを迫るとともに、具体的な数値目標とロードマップの策定を求めました。スイッチラグについては、本連載の「第113回 規制改革推進会議答申で気になったこと(後編)PPIもやっとスイッチOTC化?処方薬の市販化促進に向け厚労省に調査指示」でも書きましたが、厚労省は相変わらず煮え切らない対応を繰り返しているばかりです。12月24日付の薬局新聞の報道によれば、12月11日の規制改革推進会議の健康・医療・介護ワーキンググループの会合では、厚労省がPPIなどスイッチラグの代表的な成分のOTC化に関して「重大な疾患の症状が見落とされる危惧があり、また販売制度実態調査などの状況から薬剤師による説明が十分なされていない実態がある」とそのリスクを説明したところ、ワーキンググループの委員から、「日本の薬剤師はレベルが低いと聞こえる」との疑問が呈されたそうです。理不尽とも思える零売規制やスイッチラグ解消に消極的な姿勢から浮かび上がるのは、厚労省の頑固と言える守旧派ぶりです。その背景には、日本医師会など医師団体に対する“忖度”も少なからずあるのかもしれません。医薬品販売の規制は、実際に多くの健康被害が確認されているところにフォーカスされるべきでしょう。厚労省は規制の矛先を間違えているとしか言いようがありません。参考1)「医薬品の販売制度に関する検討会」の「とりまとめ」 を公表します/厚生労働省2)痩身目的等のオンライン診療トラブル/国民生活センター

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GLP-1受容体作動薬の処方された患者さんへのライフスタイル指導【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第45回

■外来NGワード「きちんと注射しなさい!」(食事療法や運動療法については説明せず)「この注射をすれば、痩せますよ」(副作用について説明せず)■解説GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病治療薬であり、膵β細胞に作用して血糖依存的にインスリン分泌を促進するGLP-1(Glucagon-like peptide-1)に基づいています。このクラスの薬物は血糖改善だけでなく、減量効果も期待されます。わが国では2010年に初めてリラグルチド(商品名:ビクトーザ)が上市され、その後にエキセナチド(同:バイエッタ)、リキシセナチド(同:リキスミア)、デュラグルチド(同:トルリシティ)、セマグルチド(同:オゼンピック)など、現在では5つの注射製剤が利用可能です。あと、GIPも加えたGIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチド(同:マンジャロ)もあります。ただし、GLP-1受容体作動薬を使用する際には、開始直後に嘔気や嘔吐などの消化器症状がよくみられます。これらの症状は通常、時間が経つと軽減する傾向がありますが、患者さんに対しては、事前に十分な説明が必要です。なぜなら、突然の症状に驚いて治療アドヒアランスが低下する可能性があるからです。重大な有害事象としては、腸閉塞が挙げられます。腹部手術の既往がある患者さんや腸閉塞のリスクを抱える患者さんでは、慎重な投与と定期的なモニタリングが必要です。また、GLP-1受容体作動薬であるセマグルチド(同:ウゴービ皮下注)は、肥満症治療薬としても認可されています。臨床試験では、セマグルチドを使用した群では平均で体重が13.2%減少したことが示され、その効果は脳の中枢を刺激して食欲を抑え、胃の運動を制御することによるものです。最大投与量が2.4mgまでできるため、強力な効果が期待される一方で、吐き気、下痢、便秘などの副作用には慎重に対処する必要があります。患者さんには副作用を十分に説明し、ライフスタイルの改善により最小限の用量で管理するように指導することが重要です。■患者さんとの会話でロールプレイ患者食事や運動に気を付けているんですが、血糖がなかなか下がりません。医師それでは、この週1回の注射薬を試してみましょうか。患者注射薬ですか、毎日、注射できるかな…(心配そうな顔)。医師大丈夫です。これは週に1回の注射なので、休みの日などゆっくりとした日に試してみてください。患者それなら、できそうです。医師この薬は血糖値が高いときには膵臓を刺激してインスリンを出して血糖値を改善するんですが、脳にも働いて食欲を抑えることで減量効果も高めます(薬の作用について説明)。患者えっ、それなら私にもピッタリですね。医師ただし、副作用については注意してください。注射してからすぐに、吐いてしまうことがあります。とくに、このくらいならいけると余分なものを食べたり、食べ過ぎたりするのは禁物です。患者了解しました。食べ過ぎは禁物ということですね。医師そうです。薬も少なめから徐々に増やしていこうと思っています。その方が、副作用がでにくいので…。患者それは安心です。それで、お願いします。医師この薬の効果を高めるには、朝晩体重計に乗ったり、お菓子類を目につかない所に置く、ヘルシープレートを使うなどのダイエット作戦を併用しておくといいですよ。ここにパンフレットがありますので、是非、試してみてください。患者はい。ありがとうございます(嬉しそうな顔)。■医師へのお勧めの言葉「この薬の副作用を予防するには、余分なものを食べない、食べ過ぎたり飲みすぎたりしないことが大切ですよ」「この薬の効果を高めるには、朝晩体重計に乗ったり(セルフモニタリング)、お菓子類を目につかない所に置く(刺激統制法)、ヘルシープレートを使う(ポーションコントロール、などのダイエット作戦を一緒にやるといいですよ!」 1)Wilding JPH, et al. N Engl J Med. 2021;384:989-1002.2)Capehorn MS, et al. Diabetes Metab. 2020;46:100-109.

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経口GLP-1受容体作動薬の処方された患者さんへの服薬指導【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第44回

■外来NGワード「朝食前に飲みなさい」(正しい服用法を説明しない)「たっぷり水を飲んで服用しなさい」(間違った説明をする)■解説代表的なインクレチンであるGLP-1は、小腸下部のL細胞から分泌され、膵β細胞でのインスリン分泌を促進し、膵α細胞でのグルカゴン分泌を抑制します。同時に中枢での摂食抑制ホルモンとしても機能します。これまでGLP-1受容体作動薬はペプチドであり、経口投与しても消化酵素によって分解されてしまい吸収されませんでした。そのため、主に注射薬として使われていました。しかし、経口セマグルチドのリベルサス(商品名)は、吸収促進剤であるサルカプロザートナトリウム(SNAC)を添加することで、胃からの吸収が可能となりました。これが国内初の経口GLP-1受容体作動薬です。この薬は胃内で主に吸収され、SNACがもつ局所でのpH緩衝作用によりセマグルチドの酵素的分解が抑制され、吸収が促進されます。また、SNACによってセマグルチドのモノマー化も促進される仕組みです。薬物動態解析によれば、経口投与後のセマグルチドの絶対的なバイオアベイラビリティは、約1%と推定されています。セマグルチドの吸収を高めるためには、空腹時にコップ半分(120mL以下)の水で服用する必要があります。また、経口セマグルチドの吸収には食事が影響を与えることが確認されています。そのため、服用後は少なくとも30分間は飲食や他の薬剤の経口摂取を避ける必要があります。経口セマグルチドの適応は「2型糖尿病」で、用法用量は「1日1回3mgから始め、4週間以上投与した後、1日1回7mgに増量する」ことが推奨されています。患者の状態により適宜増減させることも可能で、1日1回7mgを維持しても効果が不十分な場合は、1日1回14mgに増量することも考慮されています。服用は14mg錠を1錠摂取し、分割・粉砕・噛むことは避けなければなりません。さらに、湿気と光の影響を受けやすいので、服用直前に錠剤をシートから取り出す必要があります。また、ミシン目以外で切れないため、偶数日数で処方する際には、その点に留意する必要があります。患者さんの朝のルーチンに合わせ、服用後の30分間を有意義に過ごす工夫を一緒に考え、指導することが求められます。■患者さんとの会話でロールプレイ患者食事や運動に気を付けているんですが、血糖値がなかなか下がりません。医師それでは、この薬を試してみましょうか。患者どんな薬なんですか?医師これは小腸から出るGLP-1というホルモンを模倣した薬で、普通は注射薬なんですが、この薬は特別な薬で…。患者特別って?医師吸収を高めるために、特許技術が採用されているんですよ。ですから服用方法を守らないと、ほとんど吸収されません。患者えっ、そうなんですか。どんな風に服用したらいいんですか?医師朝のルーチンを教えてもらえますか?患者7時頃に起きて、顔を洗って7時20分頃にパンとコーヒーの朝食を済ませて…。医師なるほど。この薬は、空腹時に服用します。食べたり、飲んだりすると薬の吸収率が下がるので、コップ半分の水(120mL以下)で飲んで、30分経ってから飲み物を飲んだり、食事をしたり、他の薬を飲んだりすることができます。患者そうすると、薬を飲んですぐにコーヒーはだめですね。医師そうですね。この薬は主に胃で吸収されるのですが、1%くらいしか吸収されないとも言われています。是非、この薬の高める朝のルーチンにして頂けますか。患者はい。わかりました(嬉しそうな顔)。■医師へのお勧めの言葉「この薬は、空腹時に服用します。食べたり飲んだりすると薬の吸収率が下がるので、コップ半分の水(120mL以下)で飲んで、30分経ってから飲み物を飲んだり、食事をしたり、他の薬を飲んだりすることができます」 1)Buckley ST, et al. Sci Transl Med. 2018;10:eaar7047.2)Bækdal TA, et al. Diabetes Ther. 2021;12:1915-1927.

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GLP-1受容体作動薬ダイエット」に興味を持った患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第43回

■外来NGワード「あなたには使えません」(保険適用について説明せず)「この薬を使えば、痩せますよ!」(食事と運動療法について説明せず)■解説最近、「GLP-1ダイエット」という言葉が注目を集めています。SNSでは、単品ダイエット、脂肪燃焼スープ、食事時間制限、レモンコーヒーなどとともに、「GLP-1ダイエット」というワードが頻繁に検索されています。GLP-1受容体作動薬は、血糖依存的にインスリン分泌を促進し、グルカゴン抑制や胃内容物排出遅延を介して血糖改善作用を発揮するだけでなく、食欲抑制を通じて減量効果も期待されます。肥満症を対象とした「セマグルチド(商品名:ウゴービ皮下注)」の適応は、高血圧、脂質異常症、または2型糖尿病を有し、かつ食事療法や運動療法が不十分な場合、かつBMIが27以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害がある、またはBMIが35以上の患者に限定されています。ところが、「GLP-1ダイエット」では、「初診からオンラインで診察可能、自宅で手軽に実施でき、食事制限や運動不要で、太りにくい体質になる」などといった宣伝文句が並んでいます。一部には自己調整可能な投与量を強調するものも見受けられます。そのうえ、自由診療であるので価格が高額である一方で、副作用については詳細な説明が不足しています。その結果、副作用が発生した場合には、保険診療の医療機関を受診する必要が生じます。そして、自由診療においてGLP-1受容体作動薬が処方されることで、本来必要な糖尿病患者への供給が追いつかないとの指摘もあります。また、自由診療で処方された患者は、適切なライフスタイルの改善方法について充分な説明がなされていないため、薬を中止した際のリバウンドを心配しています。こうした「GLP-1ダイエット」の問題点について適切に理解し、説明することが重要です。■患者さんとの会話でロールプレイ患者この間、SNSを検索していたら、「GLP-1ダイエット」というのがでてきたのですが、どうですか?(糖尿病がない肥満者)医師最近、美容の世界や個人輸入している人もいるそうですね。患者痩せるんですか?医師正しく使えばね。ただし、自己流は禁物です。患者副作用はありますか?医師もちろん。薬ですから、副作用はありますよ。吐き気や嘔吐、胃腸障害など…。あと、専門家の指導のもとで薬の量を調整しないと、低血糖などで救急搬送された例もあるそうですよ。患者えっ、それ怖いですね。医師それに、薬を止めたら、体重がリバウンドするかもしれませんからね。患者確かに、ただ単に薬を飲むだけじゃ、痩せないということですね。医師そうです。こういった肥満症治療薬は食事療法と運動療法の補助として使います。そうすることがリバウンド予防になります。患者食事と運動はどんなことに気を付けたらいいですか?(興味深々)■医師へのお勧めの言葉「ただ、薬を飲むだけでは痩せることはできませんし、止めたらリバウンドは必至です。肥満症治療薬は食事療法と運動療法の補助として使います。その方が、最小限の薬になって副作用も少ないですし、薬を止めた際にもリバウンド予防につながります」 1)Ansari H UI H, et al. Endocr Pract. 2023:23;758-759.Endocr Pract. 2023 Nov 27.[Epub ahead of print]2)日本肥満学会、肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント3)最適使用推進ガイドラインセマグルチド(遺伝子組換え)

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第197回 セマグルチドと自殺念慮は関連せず

セマグルチドと自殺念慮は関連せずGLP-1受容体作動薬の自殺リスクが取り沙汰されていますが、併せて180万例強の電子カルテ解析で幸いにもノボ ノルディスク ファーマのセマグルチド使用患者の自殺念慮はほかの糖尿病薬や抗肥満薬使用患者に比べて多くなく、むしろ少なめでした。今月5日にNature Medicine誌に掲載された解析結果です1)。2つの集団が解析され、その1つは2021年6月~2022年12月にセマグルチドかほかの抗肥満薬が処方された米国の肥満か太り過ぎの約24万例(24万618例)の医療記録の解析です2)。被験者の大半の23万2,771例は先立って自殺念慮を被ったことがなく、残り7,847例は過去に自殺念慮を生じたことがありました。自殺念慮の経験がなかった患者にセマグルチド処方後6ヵ月間に認められた自殺念慮の発生率、すなわち初発率は0.11%、自殺念慮の経験があった患者のセマグルチド処方後6ヵ月間のその再発率は7%ほどでした。一方、ほかの抗肥満薬処方患者の自殺念慮の初発率と再発率はどちらもより高く、それぞれ0.43%と14%でした。2017年12月~2021年5月にセマグルチドかほかの糖尿病薬が投与された2型糖尿病患者160万例弱(158万9,855例)の医療記録を使ったもう1つの解析も同様の結果となりました。セマグルチド投与群の自殺念慮の初発率と再発率はそれぞれ0.13%と10%、ほかの糖尿病薬投与群の自殺念慮の初発率と再発率はより高くそれぞれ0.36%と18%でした。2型糖尿病へのセマグルチド使用は2017年に米国で承認されているので、より長期の経過の比較が可能です。そこで最大3年間の経過を比較したところ、差は縮まってはいたもののセマグルチド投与群の自殺念慮初発率はやはりより低く保たれていました。セマグルチドと自殺念慮が生じ易くなることの関連をそれらの結果は支持していません。一方、セマグルチドが自殺念慮を生じ難くすると決めつけることはできなさそうですが、もしそうであるなら体重減少が心理的によい影響をもたらすことによるのかもしれませんし、まだ知られていないメカニズムによるのかもしれません3)。先週11日に米国FDAはセマグルチドなどのGLP-1作動薬と自殺念慮や自殺行為の関連の調査の途中経過を発表しました。幸い、Nature Medicine誌の報告と一致し、GLP-1作動薬と自殺念慮や自殺行為の因果関係は示されていないとひとまず判断されています4)。ただし若干のリスクの恐れ(small risk may exist)の払拭には至っておらず、FDAの検討は続いています。今後の課題としてより長期のセマグルチド使用と自殺念慮の関連を調べる必要があるとNature Medicine誌報告の著者は言っています2)。また、自殺念慮から一線を越えた自殺企図(suicide attempt)との関連の検討も必要です。参考1)Wang W, et al. Nature Medicine. 2024 January 5. [Epub ahead of print] 2)Semaglutide associated with lower risk of suicidal ideations compared to other treatments prescribed for obesity or type 2 diabetes / NIH3)No link between popular weight loss drugs and suicidal thoughts, health records suggest / Science4)Update on FDA’s ongoing evaluation of reports of suicidal thoughts or actions in patients taking a certain type of medicines approved for type 2 diabetes and obesity / FDA

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痩身目的のオンライン診療でのトラブルが急増/国民生活センター

 痩身目的での糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬)の不適切処方が問題視され、厚生労働省などから適正使用への注意喚起がなされている。さらに最近では、痩身をうたうオンライン診療でトラブルが急増し、国民生活センターが警鐘を鳴らしている1)。 同センターへ寄せられた年度別相談件数では、2021年度は49件、2022年度は205件、2023年度は10月31日までで169件と多く、21年から22年では約4.2倍も急増していた。 痩身目的などのオンライン診療に関する相談では、処方薬、副作用の説明や基礎疾患の問診が十分でないまま、初診時に数ヵ月分が処方されるなど、不適切なケースがあると同センターは報告している。こうした不適切処方では、副作用などのフォローが十分ではないために、処方を受け、不調を訴えて一般の医療機関へ来院する患者も散見され、センターでは消費者に注意を喚起している。キャンセルできない、処方薬で副作用などの事例 同センターに寄せられた相談事例としては、「オンライン診療後のダイエット用の薬が糖尿病治療薬だった」「基礎疾患の問診も不十分なまま糖尿病治療薬を勧められた」「他剤との相互作用、副作用の説明がなく、キャンセルもできない」などの事例があった。また、「既往があるが問診がなされず、処方薬を1ヵ月服用したところ、頭痛・吐き気・めまいなどの副作用が現れたため、解約を申し出たが拒否された」などの実害が生じている事例も報告されている。相談事例からみる特徴や問題点【処方薬、副作用の説明や基礎疾患の問診が不十分】 自由診療では、医師は施術に伴う副作用や合併症のほか、施術費用および解約条件、効果の個人差などを丁寧に説明することが求められているが、多くの事例でこれらの説明が不十分。 「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(厚生労働省作成)2)では、初診の場合には、基礎疾患などの情報が把握できていない患者に対する8日分以上の処方を行わないこととされているが、初診で基礎疾患などの確認が不十分なまま数ヵ月分の処方がなされているケースがある。さらに、2型糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬)を痩身目的で処方(不適正使用)しているケースがあり、同指針が遵守されているとは考えにくい。【特定商取引法に基づく取消しや解約が難しいケースがある】 痩身目的の治療で契約期間が数ヵ月間の継続コース(処方薬の定期購入)を勧められ、数十万円の契約をしているケースが多くある。オンライン診療の結果、医師の判断で薬の処方の当否や薬の種類、数量を決めて処方している場合、契約申し込みのケースによっては「特定申込み」に該当せず、定期購入と同様の仕組みであっても、特定商取引法に基づく取消しができない場合がある。【運営事業者と医師の責任の所在がわかりにくい】 運営事業者と医師の責任の所在がわかりにくいケースがあるため、診察や処方薬などにかかる説明は誰が行うのか、誰が処方薬の販売者なのか、トラブルが生じた際、誰がどういった責任を負い、どこに問い合わせればいいのかなどについて、消費者にとってわかりにくくなっている。消費者への4つのアドバイス【痩身目的などのオンライン診療を受診するときは、処方薬も含め医師からしっかり説明を受ける】 「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、医学的な必要性に基づかない体重減少目的に使用されうる糖尿病治療薬の処方など、不適正使用が疑われるような場合に処方することは不適切とされている。痩身目的などのオンライン診療を受診するときは、治療内容や処方薬、副作用などのリスク、万が一のときの対応などに関し、医師からしっかり説明を受ける。持病があり、通院や服薬をしている人は、主治医に相談するなど、とくに慎重に検討することが大切。【糖尿病治療薬は痩身目的の使用に関し、安全性と有効性は確認されていない】 糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬)が痩身目的で使われていることがあるが、これらの薬は2型糖尿病の治療を目的として承認されている。これらの薬に関する美容・痩身・ダイエットなどを目的とする不適正使用については、安全性と有効性は確認されていない。【解約条件などを申し込み前によく確認】 痩身目的などのオンライン診療の受診後に処方薬を購入する場合、定期購入になっているケースが多くある。解約できる場合でも条件が付されていることが多く、申し込み前によく確認する必要がある。解約の申し入れ先や副作用が出た場合の連絡先などについてもよく確認する。【トラブルにあった場合は、消費生活センターなどに相談】 契約に不安を感じたり、解約時にトラブルになったりした場合には、1人で悩まず最寄りの消費生活センターや消費者ホットラインの188(いやや!)へ相談。もし、副作用などの症状が出た場合、速やかに最寄りの医療機関を直接受診。

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セマグルチドが糖尿病患者の視力に悪影響を及ぼす可能性は否定的

 オゼンピックやウゴービという商品名で流通しているGLP-1受容体作動薬のセマグルチドは、使用開始後に高血糖が急速に改善されることがある。急速な高血糖の改善は時に糖尿病網膜症の悪化を引き起こすことが知られているが、セマグルチド使用開始後に網膜症の急性増悪が生じる懸念は高くないとする研究結果が報告された。米ミネソタ網膜コンサルタントのZeeshan Haq氏らの研究によるもので、第127回米国眼科学会年次総会(AAO2023、11月3~6日、サンフランシスコ)で報告された。なお研究者らは、セマグルチドによる治療を受けることを検討している糖尿病患者に対し、より決定的な研究結果が明らかになるまでは、同薬のメリットとデメリットについて医師とよく相談することを勧めている。 Haq氏らは、4万8,000人以上の成人2型糖尿病患者の転帰を追跡。解析対象者の年齢は51~75歳で、全員がセマグルチドの注射剤による治療を受けていた。セマグルチドによる治療開始から2年以内に、新たに網膜症を発症した患者、または既存の網膜症が悪化した患者は、全体の2.2%にとどまっていた。セマグルチド治療開始時点で既に初期の網膜症(軽度から中等度の非増殖糖尿病網膜症)と診断されていた患者に限った解析でも、網膜症の悪化が認められた割合は3.5%だった。そして、セマグルチド治療開始時点で既に進行期の網膜症(重度の非増殖糖尿病網膜症または増殖糖尿病網膜症)を有していた患者の60%で、網膜症の改善を示す所見が観察された。 これらの結果についてHaq氏は、「これは予備的な研究であり、明確な結論を出すにはさらなる研究が必要だが、明らかになったデータは有望なものと言える」と語っている。ただし同氏は米国眼科学会発のリリースの中で、「セマグルチドによる治療を受けることを検討している糖尿病患者は、現時点では自分自身の状態について、主治医と眼科医に相談する必要がある」とアドバイスしている。 今回発表された研究は、患者データを遡及的に解析する手法で行われた。それに対して現在、セマグルチド治療が視力に及ぼす影響を前向きに検討する臨床試験が進行中だ。Haq氏によると、その臨床試験は2027年初頭に終了し、結果が明らかになるという。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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事例038 C101 在宅自己注射指導管理料の導入期加算の算定漏れ【斬らレセプト シーズン3】

解説持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ皮下注2.5mgアテオス)の院内新規採用があったので、「C101 在宅自己注射指導管理料」(以下「同管理料」)の注3の処方変更時の導入初期加算(以下「同加算」)に漏れがないかを調べてみました。同加算の算定漏れを複数件みつけて返戻再請求を行いました。また、同様事例が他院でもありました。原因は次のとおりでした。同管理料注3には「処方内容に変更があった場合に、当該指導を行った日の属する月から起算して1月を限度として、1回限り」とあります。留意事項において「処方内容の変更とは、別表第9に掲げる注射薬に変更があった場合」と定義されています。この「注射薬の変更」の判断を、「日本標準商品分類番号」や「薬効分類名」ですると誤解されており算定漏れにつながっていました。「注射薬に変更があった場合」とは、「一般的名称に変更があった場合」であると2014年に疑義解釈が発出されています。2020年度の診療報酬改定にて「一般名」から「注射薬」に文言修正されましたが、この「一般的名称」で判断することには変わりありません。したがって、別表第9に示された分類の中で、「一般的名称」が異なる薬剤に変更した場合は、同加算が算定できます。なお、過去1年以内に使用したことのある一般的名称に変更した場合には、算定できません。薬剤変更暦が確認できる台帳や履歴表示の仕組みがないと誤算定につながりますので留意が必要です。算定漏れ防止対策として、同加算は「一般的名称」で判断することを院内連絡し、処方システムには前回処方と異なる場合に「同加算が算定可能」とアラート表示されるように改修をしました。

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第175回 研修医がGLP-1受容体作動薬を不正処方/東大病院

<先週の動き>1.研修医がGLP-1受容体作動薬を不正処方/東大病院2.5シーズンぶりのインフルエンザ警報、早期対策を/厚労省3.オンライン診療、メリットあるも要件の厳格化へ/厚労省4.処方箋なしで医薬品を販売する「零売薬局」、規制強化へ/厚労省5.レカネマブが保険適用、1年間で298万円/厚労省6.来年度診療報酬改定、医療従事者の賃上げに本体は0.88%引き上げ/政府1.研修医がGLP-1受容体作動薬を不正処方/東大病院東京大学医学部付属病院の臨床研修医2人が、病気ではないにも関わらず、互いに処方箋を発行し、GLP-1受容体作動薬を入手していたことが明らかになった。この報道に対して、病院側は「自己使用目的であって転売目的ではなく、常習性もなかった」と判断し、病院長から厳正な指導を行ったことを明らかにした。GLP-1受容体作動薬は、インターネット上で「やせ薬」として紹介されており、自由診療目的で処方を行う医療機関が急増している。一方、日本糖尿病学会は、11月28日に「2型糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する見解」を発表しており、本来は糖尿病治療薬であるのに、美容、痩身、ダイエット目的での自由診療による処方が一部のクリニックで行われており、需要増加による供給不足が生じている。糖尿病治療薬の適切使用は重要であり、医療専門家による不適切な薬剤使用は、専門医の信頼を損なう行為であり、日本糖尿病学会はこれを厳しく警告している。参考1)GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解(日糖会)2)研修医、病気装い糖尿病薬入手=供給不足の「やせ薬」-東大病院(時事通信)3)東大病院の研修医2人、病気装って糖尿病薬を入手 「やせ薬」と話題(朝日新聞)2.5シーズンぶりのインフルエンザ警報、早期対策を/厚労省厚生労働省は、2023年12月15日に全国約5,000の定点医療機関から報告されたインフルエンザの感染者数が1医療機関当たり33.72人となり、警報レベル(30人超)に達したことを発表した。警報は2019年1月以来、5シーズンぶりの事態で、とくに北海道では60.97人と最多。全国で33道県が警報レベルを超え、1週間で6,382ヵ所の保育所や学校が休校や学級閉鎖に追い込まれた。慶應義塾大学の菅谷 憲夫客員教授は、「新型コロナウイルス感染症の流行中にインフルエンザの流行が抑えられたことで、とくに子どもを中心に免疫が落ちている」と指摘。基本的な感染対策の継続と、症状があれば早期受診を呼びかけている。また、菅谷教授は、2つのタイプのA型インフルエンザウイルスが同時に流行していることや、約3年間に大規模な流行がなかったことを、早期警報の要因として挙げている。高齢者や妊婦、基礎疾患を持つ人は、とくに注意が必要であり、発熱などの異常を感じたら早期受診が推奨されている。冬休みに小児のピークが過ぎる可能性があるが、年末年始の休暇シーズンで全国的な感染拡大の恐れもあるため、手洗い、うがい、マスク着用などの基本的な感染対策の徹底が求められている。参考1)インフルエンザ、全国で「警報レベル」…コロナ禍の感染対策で識者「免疫落ちている」(読売新聞)2)インフルエンザ、今季初の警報レベル 1医療機関33.72人 厚労省(毎日新聞)3.オンライン診療、メリットあるも要件の厳格化へ/厚労省厚生労働省は、12月15日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、オンラインで患者を診療した際に医療機関が算定する初・再診料の要件を2024年度の診療報酬改定で厳格化する案を了承した。新たな要件には、「初診では向精神薬を処方しないこと」を医療機関のホームページに掲示することが含まれている。さらに、遠方の患者を多く診療する医療機関に対しては、対面診療の連携先を報告させることも検討されている。厚労省は、新型コロナウイルス禍を経て、オンライン診療は重要であるとして、保険診療だけでなく自由診療も対象にガイドラインを策定し、規制緩和を行なってきたが、初診時に向精神薬の処方を行ったり、メールやチャットだけで診察や薬の処方を行うなど、ガイドラインで認めていない方法で診療を行っている医療機関が問題視されてきた。今後、厚労省では、オンライン診療を行っている医療機関がガイドラインを遵守しているか実態調査を行うため、スケジュールや調査方法などを検討するほか、患者がオンライン診療を適切に行っている医療機関を選択できるよう、情報発信の強化に乗り出すことにした。一方、慶應義塾大学などの研究グループは、うつ病や不安症などの精神科診療において、オンライン診療が対面診療と同等の治療効果があることを発表した。この研究結果は、オンライン診療の普及に向けた政策的議論に貢献するもので、さらに、オンライン診療は、通院に要する時間の短縮や費用の削減といった副次的効果もあり、今後もデジタルトランスフォームを通して医療現場に浸透していくとみられる。参考1)オンラインの初・再診料要件、厳格化案を了承「向精神薬初診で処方せず」の掲示必須に(CB news)2)オンライン診療 不適切な医療機関の実態調査へ 厚労省(NHK)3)オンライン診療、対面と遜色なし 普及に弾み(日経新聞)4.処方箋なしで医薬品を販売する「零売薬局」、規制強化へ/厚労省厚生労働省は、処方箋なしで医療用医薬品を販売する「零売薬局」に対する規制を強化する方針を固めた。不適切な販売方法や広告が増加していることに対応するために打ち出されたもの。2022年時点で60店舗以上の零売薬局が存在し、例外的に処方箋なしで医療用医薬品を販売できるが、これまで大規模災害時など「正当な理由」がある場合に限られていた。しかし、一部の薬局が通知を逸脱し、やむを得ない状況ではないにも関わらず日常的に医療用医薬品を販売する薬局が増加していることや、不適切な広告などが確認されており、重大な疾患や副作用が見過ごされるリスクが高まっていた。厚労省は、処方箋に基づく販売を原則とし、やむを得ない場合に限って認めることを法令で明記する方針。また、医療用医薬品の販売を強調する広告も禁止する方向で調整している。厚労省は12月18日に開かれる医薬品の販売制度に関する検討会で取りまとめを行い、医薬品医療機器制度部会に報告した後、厚生労働省から正式に通知が発出される見込み。参考1)医薬品の販売制度に関する検討会(厚労省)2)「零売薬局」の販売規制へ 処方箋なしで医療用医薬品-認める条件明確化・厚労省(時事通信)3)特例のはずが…処方箋なし薬「零売」横行 副作用や疾患見逃す恐れ(毎日新聞)5.レカネマブが保険適用、1年間で298万円/厚労省厚生労働省は、アルツハイマー病の新薬「レカネマブ(商品名:レケンビ)」を公的医療保険の適用対象とし、体重50kgの患者の1回当たりの価格を約11万4千円、年間約298万円と設定した。この薬は、アルツハイマー病の原因物質「アミロイドβ(Aβ)」を取り除くことを目的とした初の治療薬で、軽度認知障害や軽度の認知症の人が対象。投与は2週に1度の点滴で行われる。レカネマブの投与は、副作用のリスクを考慮し、限られた医療機関でのみ行われる予定で、副作用には脳内の微小出血やむくみが含まれ、安全性を重視するため、認知症専門医が複数いる施設でMRIやPETを備えていることなどの条件に合致する限られた医療機関で処方される。臨床治験では、レカネマブを1年半投与したグループは、偽薬を投与したグループより病気の悪化を27%抑える結果が得られた。レカネマブの市場規模は、ピーク時に年間986億円に上ると予測されており、医療保険財政への影響が懸念されている。また、薬価の決定に際しては、社会的価値の反映が議論されたが、最終的には製造費や薬の新規性を考慮した通常の算定方法で算出された。専門家や関係者からは、新薬の保険適用により治療が前進することへの期待とともに、検査費用や治療に関する不安の意見も上がっている。また、効果が見込める患者の適切な選別や、新しい治療薬に対応できる認知症医療システムの構築が今後の課題とされている。参考1)新医薬品の薬価収載について(厚労省)2)認知症薬エーザイ「レカネマブ」 年298万円 中医協、保険適用を承認(日経新聞)3)見えぬ全体像、処方可能な医療機関は限定的 アルツハイマー病新薬(毎日新聞)4)アルツハイマー病新薬 年間約298万円で保険適用対象に 中医協(NHK)6.来年度診療報酬改定、医療従事者の賃上げに本体は0.88%引き上げ/政府政府は来年度の診療報酬改定において、医療従事者の人件費に相当する「本体」部分を0.88%引き上げる方針を固めた。今回の診療報酬の改定をめぐっては、各医療団体から物価高騰や医療従事者の賃上げに対応する意見が上がっていた。一方、薬の公定価格である「薬価」は約1%引き下げとなり、全体としてはマイナス改定となる見通し。岸田 文雄首相は、財務省と厚生労働省の間での議論を経て、賃上げ方針を医療従事者にも波及させるために、最終的に引き上げを決定した。診療報酬改定は原則2年に1度行われ、今回の改定は前回2022年度の0.43%引き上げを上回る水準となる。今回の改定により、医療従事者の処遇改善が期待される一方で、国民の保険料負担の増加が懸念される。また、診療所の利益剰余金の増加や医療費の抑制が課題となっており、国民負担の抑制が今後の大きな課題になっている。参考1)「本体」0.88%引き上げ=賃上げ対応、全体ではマイナス-24年度診療報酬改定(時事通信)2)診療報酬「本体」0.88%上げ、政府方針…「薬価」は1%引き下げで調整し全体ではマイナス改定(読売新聞)3)診療報酬改定 人件費など「本体」0.88%引き上げで調整 政府(NHK)

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