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1.

若年2型糖尿病に対するチルゼパチドの検討(解説:小川大輔氏)

 若年発症の2型糖尿病は、成人発症と比べて早期に糖尿病合併症を発症することが知られている。そのため食事療法や運動療法、薬物療法を組み合わせて適切な糖尿病治療を行うことが必要とされる。今回、10歳から18歳までに2型糖尿病を発症した患者99例を対象に、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの効果を検討した第III相試験の結果が発表された1)。従来の治療で血糖コントロール不十分であった若年発症の2型糖尿病患者において、チルゼパチドはプラセボと比較し、血糖コントロールや肥満を改善することが報告された。 若年発症の糖尿病といえば1型糖尿病やMODY(Maturity-Onset Diabetes of the Young)、ミトコンドリア糖尿病など遺伝性糖尿病が知られているが、今回の試験では対象が2型糖尿病に限定されている。患者背景を確認すると、BMIの平均値が35.4であり、高度の肥満を合併している症例が多く含まれていたことがわかる。試験前の治療としては、メトホルミンが92%、インスリンが31%の症例で使用されていた。しかしベースラインのヘモグロビンA1c値は8.04%とコントロール不十分の状態で、チルゼパチドあるいはプラセボを30週間投与し効果を検討した。その結果、チルゼパチド投与群では30週時のヘモグロビンA1c値変化量は-2.23%、BMI変化率は-9.3%であり、プラセボ群より有意な減少を認めた。主な有害事象は胃腸障害であったが軽度から中等度であった。 若年発症2型糖尿病患者の治療法を比較検討した研究(TODAY2追跡試験)の参加者では、2型糖尿病診断後15年以内に60%が糖尿病関連合併症を発症し、約3分の1が複数の合併症を発症していたと報告された2)。つまり若年発症例は成人発症例と比べてより早期に複数の糖尿病合併症を発症することが明らかになり、合併症の予防や進行抑制のために発症時から厳格な血糖コントロールが重要であることが示唆された。今回の研究により、チルゼパチドが若年2型糖尿病に対する治療の選択肢の1つとなりうることが報告された。今後さらにGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬の検討が進むことを期待したい。

2.

低用量経口セマグルチド、過体重/肥満者で優れた減量効果/NEJM

 低用量(25mg)の経口セマグルチド(GLP-1受容体作動薬)は、高用量(50mg)や皮下注射薬(2.4mg)に代わる肥満者の新たな治療選択肢となる可能性が指摘されている。カナダ・トロント大学のSean Wharton氏らOASIS 4 Study Groupは、過体重または肥満者では、プラセボと比較して低用量セマグルチドの1日1回経口投与は、減量効果が有意に優れ、体重が生活の質(QOL)に及ぼす影響も有意に改善することを示した。研究の成果は、NEJM誌2025年9月18日号に掲載された。4ヵ国の無作為化プラセボ対照比較試験 OASIS 4試験は、4ヵ国(カナダ、ドイツ、ポーランド、米国)の22施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(Novo Nordiskの助成を受けた)。2022年10月~2024年5月に、年齢18歳以上で、BMI値30以上、またはBMI値27以上で少なくとも1つの肥満関連合併症(高血圧、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、心血管疾患)を有し、減量を目指した食事療法に失敗した経験が1回以上あると自己報告した患者を対象とした。 被験者307例を無作為に2対1の割合で、生活様式への介入に加えて、セマグルチド25mgを1日1回経口投与する群(205例:平均[±SD]年齢48[±13]歳、女性155例[75.6%])、またはプラセボ群(102例:47[±13]歳、87例[85.3%])に割り付けた。ベースラインの全体の体重は105.9kg、BMI値は37.6、ウエスト周囲長は113.9cm、糖化ヘモグロビン値(HbA1c)は5.7%だった(すべて平均値)。 主要エンドポイントは、ベースラインから64週目までの体重の変化量と5%以上の体重減少の2つとした。13.6%の体重減少、約3割で20%以上の体重減少を達成 ベースラインから64週目までの体重の推定平均変化量は、プラセボ群が-2.2%であったのに対し、経口セマグルチド群は-13.6%と、減量効果が有意に優れた(推定群間差:-11.4%ポイント、95%信頼区間[CI]:-13.9~-9.0、p<0.001)。 64週の時点で5%以上の体重減少を達成した患者の割合は、プラセボ群の31.1%(28/90例)に比べ、経口セマグルチド群は79.2%(152/192例)であり、有意に良好であった(p<0.001)。 64週時の10%以上(63.0%vs.14.4%)、15%以上(50.0%vs.5.6%)、20%以上(29.7%vs.3.3%)の体重減少の達成割合は、いずれも経口セマグルチド群で有意に高かった(すべてp<0.001)。体重がQOLに及ぼす影響、55%で臨床的に意義のある改善 ベースラインから64週目までのImpact of Weight on Quality of Life-Lite Clinical Trials Version(IWQOL-Lite-CT)の身体機能スコア(0~100点、高点数ほど機能水準が良好)の変化量も、経口セマグルチド群で有意に改善し(16.2点vs.8.4点、p<0.001)、体重のQOLに及ぼす影響が良好であることが示された。 また、64週時にIWQOL-Lite-CTの身体機能スコアが臨床的に意義のある改善(14.6点以上の上昇)を達成した患者の割合も経口セマグルチド群で良好であった(55.3%vs.34.8%、オッズ比:2.4[95%CI:1.4~4.1])。 経口セマグルチド群では、ベースライン時に前糖尿病(HbA1c値≧5.7~<6.5%)であった患者のうち71.1%が、64週時に正常血糖値(同<5.7%)に移行していた。安全性プロファイルは予想どおり 最も頻度が高い有害事象は消化器系の障害で、経口セマグルチド群の74.0%、プラセボ群の42.2%にみられた。悪心(46.6%vs.18.6%)と嘔吐(30.9%vs.5.9%)が経口セマグルチド群で多くみられたが、ほとんどが軽度~中等度で、一過性であった。 重篤な有害事象は、経口セマグルチド群で8例(3.9%)に17件、プラセボ群で9例(8.8%)に13件発現した。試験薬の恒久的な投与中止に至った有害事象は、それぞれ14例(6.9%)および6例(5.9%)に認め、このうち消化器系の障害は7例(3.4%)および2例(2.0%)だった。死亡例の報告はなかった。 著者は、「経口セマグルチド25mgの1日1回投与は、13.6%という臨床的に意義のある体重減少をもたらし、安全性プロファイルと有害事象の発現状況は予想どおりで、GLP-1受容体作動薬クラスと一致した」「これらのデータは、経口セマグルチド25mgが肥満に対する有効な治療選択肢であるとの見解を支持するもので、高用量経口投与や皮下投与の代替法として、過体重および肥満の治療戦略の柔軟性を高める可能性がある」としている。

3.

チルゼパチド、血糖コントロール不良の若年2型糖尿病患者に有効/Lancet

 メトホルミンや基礎インスリンで血糖コントロール不十分の若年発症2型糖尿病患者において、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの週1回投与はプラセボと比較し、血糖コントロールおよびBMIを有意に改善し、その効果は1年間持続した。米国・Indiana University School of MedicineのTamara S. Hannon氏らがオーストラリア、ブラジル、インド、イスラエル、イタリア、メキシコ、英国および米国の39施設で実施した、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SURPASS-PEDS試験」の結果で示された。若年発症2型糖尿病に対する治療選択肢は限られており、成人発症2型糖尿病と比較し血糖降下作用が低いことが知られている。若年発症2型糖尿病患者に対するチルゼパチドの臨床エビデンスは不足していた。Lancet誌オンライン版2025年9月17日号掲載の報告。チルゼパチド(5mg、10mg)群とプラセボ群を比較 SURPASS-PEDS試験の対象は、10歳以上18歳未満、体重50kg以上、BMI値が当該国または地域の年齢・性別集団の85パーセンタイル超の2型糖尿病患者で、メトホルミン(1,000mg/日以上)や基礎インスリンによる治療で血糖コントロールが不十分(スクリーニング時のHbA1c値6.5%超11%以下)の患者であった。 研究グループは、最長4週間のスクリーニング期の後、適格患者をチルゼパチド5mg群、10mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、30週間の二重盲検投与期にそれぞれ週1回皮下投与した。無作為化では、年齢層(14歳以下、14歳超)および血糖降下薬使用状況(メトホルミン、基礎インスリン、その両方)で層別化した。 チルゼパチドは2.5mgから開始し、割り付けられた用量まで4週ごとに2.5mgずつ増量した。二重盲検投与期に引き続き、22週間の非盲検延長期に移行し、プラセボ群の患者にはチルゼパチド5mgを投与した。 主要エンドポイントは、チルゼパチド併合(5mgおよび10mg)群とプラセボ群との比較におけるベースラインから30週時までのHbA1c値の変化量であった。 主要な副次エンドポイント(第1種過誤を制御)は同HbA1c値の変化量のチルゼパチド各用量群とプラセボ群の比較、ベースラインから30週時までのBMI値の変化率(チルゼパチド各用量群および併合群とプラセボ群との比較)などであった。主要エンドポイントおよび副次エンドポイントは52週時においても評価した。30週時のHbA1c値変化量は-2.23%vs.+0.05%、BMI値変化率は-9.3%vs.-0.4% 2022年4月12日~2023年12月27日に146例がスクリーニングされ、99例が無作為化された(チルゼパチド5mg群32例、10mg群33例、プラセボ群34例)。患者背景は、女性60例(61%)、男性39例(39%)、平均年齢14.7歳(SD 1.8)、ベースラインの平均HbA1c値は8.04%(SD 1.23)であった。 30週時におけるHbA1c値の変化量は、チルゼパチド併合群で平均-2.23%に対し、プラセボ群では+0.05%であり、チルゼパチド併合群の優越性が検証された(推定群間差:-2.28%、95%信頼区間:-2.87~-1.69、p<0.0001)。チルゼパチドの血糖降下作用は52週まで持続し、52週時におけるHbA1c値の変化量は、チルゼパチド5mg群で-2.1%、10mg群で-2.3%であった。 30週時におけるBMI値の変化率は、チルゼパチド併合群-9.3%、5mg群で-7.4%、10mg群で-11.2%、プラセボ群-0.4%であり、チルゼパチド群はいずれもプラセボ群より有意な減少であった(対プラセボ群の併合群のp<0.0001、5mg群のp=0.0001、10mg群のp<0.0001)。 二重盲検期における有害事象の発現率は、プラセボ群44%(15/34例)、チルゼパチド5mg群66%(21/32例)、10mg群70%(23/33例)であった。チルゼパチド群で最も頻度の高かった有害事象は胃腸障害で、いずれも軽度~中等度であり、用量漸増期に発現し、経時的に減少した。投与中止に至った有害事象はチルゼパチド5mg群で2例(6%)に認められた。チルゼパチドの安全性プロファイルは成人での報告と一致した。試験期間中の死亡例は報告されなかった。

4.

経口orforglipron、肥満成人の減量に有効~日本を含む第III相試験/NEJM

 非糖尿病の成人肥満者において、プラセボと比較して経口低分子GLP-1受容体作動薬orforglipronは有意な体重減少をもたらすとともに、ウエスト周囲長や収縮期血圧、非HDLコレステロール値を改善し、有害事象プロファイルは他のGLP-1受容体作動薬と一致する。カナダ・McMaster UniversityのSean Wharton氏らATTAIN-1 Trial Investigatorsが、第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験「ATTAIN-1試験」の結果を報告した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年9月16日号で発表された。日本を含む9ヵ国137施設で実施 ATTAIN-1試験は、日本を含む9ヵ国137施設で行われた(Eli Lillyの助成を受けた)。2023年6月~2025年7月に、年齢18歳以上で、BMI値30以上、または同27~30で少なくとも1つの肥満関連合併症(高血圧、脂質異常症、心血管疾患、閉塞性睡眠時無呼吸症候群)に罹患し、減量を目的とする食事療法に失敗した経験が1回以上あると自己報告した患者3,127例を登録した。糖尿病の診断を受けた患者と、スクリーニング前の90日以内に±5kg以上の体重の変動を認めた患者は除外した。 被験者を、健康的な食事と身体活動に加えて、orforglipron 6mgを1日1回経口投与する群(723例)、同12mg群(725例)、同36mg群(730例)、プラセボ群(949例)に無作為に割り付け、72週間投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから72週目までの体重の平均変化量とした。 ベースラインの全体の平均(±SD)年齢は45.1(±12.1)歳、女性が2,009例(64.2%)で、平均体重は103.2kg、平均BMI値は37.0であり、参加者の36.0%が前糖尿病であった。減少率別の達成率も有意に改善 ベースラインから72週目までの体重の平均変化量は、プラセボ群が-2.1%(95%信頼区間[CI]:-2.8~-1.4)であったのに対し、orforglipron 6mg群は-7.5%(-8.2~-6.8)、同12mg群は-8.4%(-9.1~-7.7)、同36mg群は-11.2%(-12.0~-10.4)であり、用量依存性の体重減少を認めた。 体重の平均変化量のプラセボ群との群間差は、orforglipron 6mg群が-5.5%ポイント(95%CI:-6.5~-4.5)、同12mg群が-6.3%ポイント(-7.3~-5.4)、同36mg群は-9.1%ポイント(-10.1~-8.1)と、いずれの用量とも有意に優れた体重減少効果を示した(すべてのp<0.001)。 また、72週時に、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上の体重減少率を達成した患者の割合は、いずれもプラセボ群に比べorforglipronのすべての用量群で有意に高かった(多重性の調整を行っていないためp値を表記しない6mg群の減少率20%以上を除き、すべてのp<0.001)。たとえば、10%以上の体重減少を達成した患者の割合は、プラセボ群が12.9%であったのに対し、orforglipron 6mg群は33.3%、同12mg群は40.0%、同36mg群は54.6%であった。 さらに、orforglipron群では、ウエスト周囲長(72週目までの平均変化量:orforglipron 6mg群-7.1cm、同12mg群-8.2cm、同36mg群-10.0cm、プラセボ群-3.1cm、プラセボ群との比較で3つの用量群のすべてのp<0.001)、収縮期血圧(3つの用量群の統合解析とプラセボ群の変化量の群間差:-4.2mmHg、95%CI:-5.3~-3.2、p<0.001)、非HDLコレステロール値(変化率の群間差:-4.9%、95%CI:-6.7~-3.1、p<0.001)、トリグリセライド値(変化率の群間差:-11.5%、95%CI:-14.5~-8.3、p<0.001)などの心代謝系リスク因子の有意な改善を認めた。また、無作為化の時点で前糖尿病であった患者のうち72週目に正常血糖値に達した割合は、プラセボ群の44.6%に対し、3つの用量のorforglipron群では74.6~83.7%の範囲であった。軽度~中等度の消化器系有害事象が多い orforglipron群で頻度の高い有害事象は悪心、便秘、下痢、嘔吐などの消化器症状で、ほとんどは軽度~中等度であった。消化器系の有害事象による投与中止は、orforglipron群の3.5~7.0%、プラセボ群の0.4%で発生した。 重篤な有害事象は、orforglipron群の3.8~5.5%、プラセボ群の4.9%に発現し、72週目までに3例が死亡した(6mg群1例[死因不明]、12mg群1例[転移のある卵巣がん]、プラセボ群1例[肺塞栓症])。orforglipron群の5例で軽度の膵炎がみられ、orforglipron群の7例とプラセボ群の1例で正常上限値の10倍以上に達するアミノトランスフェラーゼ値の上昇が報告された。また、平均脈拍数は、orforglipron群で4.3~5.3拍/分の増加を認めたが、プラセボ群では0.8拍/分の増加だった。 著者は、「GLP-1受容体作動薬は、体重減少を誘導する作用と、体重に依存しない直接的な作用の両方によって心血管アウトカムを改善する可能性があるが、orforglipronによる体重減少とバイオマーカーの変化が心血管リスクの低減につながるかを知るには、それ専用のアウトカム試験が必要である」「低分子化合物は標的でない受容体に結合する可能性があるため、付加的な有害作用の可能性が高まるが、本薬剤の開発計画ではそのような作用は検出されておらず、安全性プロファイルはペプチド性GLP-1受容体作動薬の第III相試験の結果と一致する」としている。

5.

HFpEF/HFmrEFの今:2025年JCS/JHFS心不全診療ガイドラインに基づく新潮流【心不全診療Up to Date 2】第4回

HFpEF/HFmrEF診療の新たな潮流『2025年改訂版心不全診療ガイドライン』(日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン)は、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)および軽度低下した心不全(HFmrEF)の診療における歴史的な転換点を示すものであった。長らく有効な治療法が乏しかったこの領域は、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン[商品名:ジャディアンス]またはダパグリフロジン[同:フォシーガ])や非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)、GLP-1受容体作動薬(セマグルチド[同:ウゴービ皮下注]、チルゼパチド[同:マンジャロ])*といった医薬品の新たなエビデンスに基づき、生命予後やQOLを改善しうる治療戦略が確立されつつある新時代へと突入した。本稿では、最新心不全診療ガイドラインの要点も含め、HFpEF/HFmrEF診療の新たな潮流を概説する。*セマグルチドは肥満症のLVEF≧45%の心不全患者へ、チルゼパチドは肥満症のLVEF≧50%の心不全患者に投与を考慮する定義と病態の再整理ガイドラインでは、Universal Definition and Classification of Heart Failure**に準拠し、左室駆出率(LVEF)に基づく分類が踏襲された。HFpEFはLVEFが50%以上、HFmrEFは41~49%と定義される。とくにHFpEFは、高齢化を背景に本邦の心不全患者の半数以上を占める主要な表現型となっており、高齢、高血圧、心房細動、糖尿病、肥満など多彩な併存症を背景とする全身性の症候群として捉えるべき病態である1)。HFpEFがこのように心臓に限局しない全身的症候群であることが、心臓の血行動態のみを標的とした過去の治療薬が有効性を示せなかった一因と考えられる。そして近年、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬といった、代謝など全身へ多面的に作用する薬剤が成功を収めたことは、この病態の理解を裏付けるものである。**日米欧の心不全学会が合同で2021年に策定した心不全の世界共通の定義と分類一方、HFmrEFはLVEF40%以下の心不全(HFrEF)とHFpEFの中間的な特徴を持つが、過去のエビデンスからは原則HFrEFと同様の治療が推奨されている。ただ、HFmrEFはLVEFが変動する一過程(transitional state)をみている可能性もあり、LVEFの経時的変化を注意深く追跡すべき「動的な観察ゾーン」と捉える臨床的視点も重要となる。診断の要点:見逃しを防ぐための多角的アプローチ心不全診断プロセスは、症状や身体所見から心不全を疑い、まずナトリウム利尿ペプチド(BNP≧35pg/mLまたはNT-proBNP≧125pg/mL)を測定することから始まる。次に心エコー検査が中心的な役割を担う。LVEFの評価に加え、左室肥大や左房拡大といった構造的異常、そしてE/e'、左房容積係数(LAVI)、三尖弁逆流最大速度(TRV)といった左室充満圧上昇を示唆する指標の評価が重要となる。安静時の所見が不明瞭な労作時呼吸困難例に対しては、運動負荷心エコー図検査や運動負荷右心カテーテル検査(invasive CPET)による「隠れた異常」の顕在化が推奨される(図1)2)。(図1)HFpEF早期診断アルゴリズム画像を拡大するさらに、心アミロイドーシスや肥大型心筋症など、特異的な治療法が存在する原因疾患の鑑別を常に念頭に置くことが、今回のガイドラインでも強調されている(図2)。(図2)HFpEFが疑われる患者を診断する手順画像を拡大する治療戦略のパラダイムシフト本ガイドラインが提示する最大の変革は、HFpEFに対する薬物治療戦略である(図3)。(図3)HFpEF/HFmrEFの薬物治療アルゴリズム画像を拡大するHFrEFにおける「4つの柱(Four Pillars)」に比肩する新たな治療パラダイムとして、「SGLT2阻害薬を基盤とし、個々の表現型に応じた治療薬を追加する」という考え方が確立された。EMPEROR-Preserved試験およびDELIVER試験の結果に基づき、SGLT2阻害薬は糖尿病の有無にかかわらず、LVEF>40%のすべての症候性心不全患者に対し、心不全入院および心血管死のリスクを低減する目的でクラスI推奨となった3,4)。これは、HFpEF/HFmrEF治療における不動の地位を確立したことを意味する。これに加えて、今回のガイドライン改訂で注目すべきもう一つの点は、nsMRAであるフィネレノン(商品名:ケレンディア)がクラスIIaで推奨されたことである。この推奨の根拠となったFINEARTS-HF試験では、LVEFが40%以上の症候性心不全患者を対象に、フィネレノンがプラセボと比較して心血管死および心不全増悪イベント(心不全入院および緊急受診)の複合主要評価項目を有意に減少させることが示された5)。一方で、従来のステロイド性MRAであるスピロノラクトンについては、TOPCAT試験において主要評価項目(心血管死、心停止からの蘇生、心不全入院の複合)は達成されなかったものの、その中で最もイベント数が多かった心不全による入院を有意に減少させた6)。さらに、この試験では大きな地域差が指摘されており、ロシアとジョージアからの登録例を除いたアメリカ大陸のデータのみを用いた事後解析では、主要評価項目も有意に減少させていたことが示された7)。これらの結果を受け、現在、HFpEFに対するスピロノラクトンの有効性を再検証するための複数の無作為化比較試験(SPIRRIT-HFpEF試験など)が進行中であり、その結果が待たれる。その上で、個々の患者の表現型(フェノタイプ)に応じた治療薬の追加が推奨される。うっ血を伴う症例に対しては、適切な利尿薬、利水薬(漢方薬)の投与を行う(図3)8)。また、STEP-HFpEF試験、SUMMIT試験の結果に基づき、肥満(BMI≧30kg/m2)を合併するHFpEF患者には、症状、身体機能、QOLの改善および体重減少を目的としてGLP-1受容体作動薬がクラスIIaで推奨された9,10)。これは、従来の生命予後中心の評価軸に加え、患者報告アウトカム(PRO)の改善が重要な治療目標として認識されたことを示す画期的な推奨である。さらに、PARAGON-HF試験のサブグループ解析から、LVEFが正常範囲の下限未満(LVEFが55~60%未満)のHFpEF患者やHFmrEF患者に対しては、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI、サクビトリルバルサルタンナトリウム[同:エンレスト])が心不全入院を減少させる可能性が示唆され11,12)、クラスIIbで考慮される。併存症管理と今後の展望HFpEFの全身性症候群という概念は、併存症管理の重要性を一層際立たせる。本ガイドラインでは、併存症の治療が心不全治療そのものであるという視点が明確に示された。SGLT2阻害薬(糖尿病、CKD)、GLP-1受容体作動薬(糖尿病、肥満)、フィネレノン(糖尿病、CKD)など、心不全と併存症に多面的に作用する薬剤を優先的に選択することが、現代のHFpEF/HFmrEF診療における合理的かつ効果的なアプローチである。今後の展望として、ガイドラインはLVEFという単一の指標を超え、遺伝子情報やバイオマーカーに基づく、より詳細なフェノタイピング・エンドタイピングによる個別化医療の方向性を示唆している13)。炎症優位型、線維化優位型、代謝異常優位型といった病態の根源に迫る治療法の開発が期待される。 1) Yaku H, et al. Circ J. 2018;82:2811-2819. 2) Yaku H, et al. JACC Cardiovasc Imaging. 2025 Jul 17. [Epub ahead of print] 3) Anker SD, et al. N Engl J Med. 2021;385:1451-1461. 4) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2022;387:1089-1098. 5) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2024;391:1475-1485. 6) Pitt B, et al. N Engl J Med. 2014;370:1383-1392. 7) Pfeffer MA, et al. Circulation. 2015;131:34-42. 8) Yaku H, et al. J Cardiol. 2022;80:306-312. 9) Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2023;389:1069-1084. 10) Packer M, et al. N Engl J Med. 2025;392:427-437. 11) Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2019;381:1609-1620. 12) Solomon SD, et al. Circulation. 2020;141:352-361. 13) Hamo CE, et al. Nat Rev Dis Primers. 2024;10:55.

6.

隠れた脂肪の蓄積が心臓の老化を加速させる

 腸の周りや肝臓、筋肉などに溜まった脂肪が心臓の老化を速めるとする、英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)のDeclan O’Regan氏らの研究結果が、「European Heart Journal」に8月22日掲載された。異所性脂肪と呼ばれるそれらの脂肪の蓄積は体型からは判別しにくく、たとえ体重は健康的とされる範囲であっても、そのような脂肪が蓄積していることがあるという。一方、全身の脂肪蓄積の分布とその影響には性差があり、論文の上席著者であるO’Regan氏は、「ある種の脂肪、特に女性の腰や太ももの周りの脂肪は、老化を抑制する可能性がある」と述べている。 この研究では、英国で行われている住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」の参加者2万1,241人のデータが用いられた。MRI画像データから、血管や心臓の機能などに関連のある126種類の指標を特定し、機械学習により参加者それぞれの心臓年齢を算出。実際の年齢との差を割り出した上で、さまざまな部位に蓄積している脂肪の量との関連を検討した。すると、内臓脂肪などの異所性脂肪が多いほど、実際の年齢と心臓年齢との乖離が大きいことが明らかになった。 O’Regan氏は今回の研究結果を、「健康な人でも隠れた脂肪が有害となり得ることが分かった」と総括している。研究結果を詳しく見ると、内臓脂肪の量は、実際の年齢と心臓年齢との乖離の大きさと有意な関連があった(β=0.656〔95%信頼区間0.537〜0.775〕)。また、筋肉に浸潤している脂肪の量(β=0.183〔同0.122〜0.244〕)や肝臓内の脂肪の量(β=1.066〔0.835〜1.298〕)も、同様の関連が認められた。さらに、血液検査の結果と照らし合わせて解析すると、内臓脂肪の蓄積は全身の炎症と関連があり、そのことが心臓の老化を速めている可能性が示唆された。 一方、脂肪の分布と心臓年齢との関連に、男性と女性の間で差が存在することも示唆された。例えば男性では、いわゆる“リンゴ型肥満”と呼ばれるようなお腹周りへの脂肪の分布が、心臓の老化と強く関連していた。その一方で女性では、“洋ナシ型肥満”と呼ばれるような腰や太ももへの脂肪の分布が、心臓の老化を防ぐような関連が見られた。研究者によると、腰や太ももへの脂肪蓄積は女性ホルモンであるエストロゲンの分泌量と関連しており、エストロゲンは女性の心臓の老化を防ぐように働くという。「脂肪の分布の違いによって、リンゴ型肥満と洋ナシ型肥満に分類され、健康への影響が異なることは以前から知られていたが、なぜその差が生じるのかは、これまで明らかでない点があった」とO’Regan氏は語っている。 この研究からはまた、身長と体重に基づき算出され、肥満や痩せを判定する指標として広く用いられているBMIが、心臓の健康状態を推測する指標としては十分に機能しないことも示された。O’Regan氏は、「BMIでは体のどの部分に脂肪が蓄積しているかを知ることができない。しかしわれわれの研究は、それを知ることの重要性を示している」と強調している。 なお、同氏らの研究グループでは今後、GLP-1受容体作動薬を用いた減量が、内臓脂肪の蓄積や心臓の健康に及ぼす影響を調査することを計画している。

7.

GLP-1受容体作動薬は気候変動対策にも有益

 肥満症治療薬として使用されているオゼンピックやゼップバウンドなどのGLP-1受容体作動薬は、単に体重を減らすだけでなく、地球環境の保護にも役立っている可能性のあることが、新たな研究で示された。これらの薬が心不全患者の減量目的で使用されると、温室効果ガス排出量の削減につながるという。米Lahey病院・医療センターのSarju Ganatra氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2025、8月29日~9月1日、スペイン・マドリード)で発表された。 Ganatra氏らは、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)患者(GLP-1受容体作動薬を投与された患者1,914人、プラセボを投与された患者1,829人)を対象とした4件の臨床試験のデータを統合して解析した。HFpEFとは、心臓の収縮機能は保たれているものの、心筋が硬いために十分に拡張できず、血液を十分に取り込めない状態を指す。米国心臓病学会(ACC)によれば、心不全患者のほぼ半数がこのタイプに分類される。 心不全悪化イベントの発生数は、GLP-1受容体作動薬を投与された患者では54件であったのに対し、プラセボを投与された患者では86件だった。心不全悪化イベントには入院と病院の往復を伴うと仮定して二酸化炭素(CO2)排出量を推算すると、GLP-1受容体作動薬を使用したHFpEF患者の年間CO2排出量は1人当たり9.45kgと推定され、プラセボ群の9.7kgと比べて少ないことが示された。 Ganatra氏は、「この数値をGLP-1受容体作動薬による治療の対象となる何百万人もの患者に当てはめると、20億kg以上のCO2換算量の削減につながる」と言う。同氏らによると、20億kgのCO2は、満席のボーイング747型機の長距離フライト2万便にほぼ相当し、また、この量のCO2を吸収するには、植えられてから10年が経過した約3,000万本の木が必要になるという。 Ganatra氏はさらに、ESCのニュースリリースの中で、医療廃棄物の発生量や水の使用量についても、同様の規模の削減が見られた」と述べている。その上で同氏は、「今回の研究は、個々の小さな改善の積み重ねが、集団全体として大きなインパクトをもたらすことを明確に示している」と説明している。 さらに、GLP-1受容体作動薬を使用した患者では食物の摂取量が減り、そのことが気候にも良い影響を与えると推定された。Ganatra氏らの推計によると、プラセボ群と比べてGLP-1受容体作動薬群では1日当たりの摂取カロリーが減少したことで年間およそ695kg分のCO2排出量の削減につながったという。 今回の研究結果についてGanatra氏は、「薬物治療から患者の健康状態の改善と地球環境の健全化という2つのメリットを得られる可能性を示した結果だといえる」と述べ、「将来的には政策立案者が医療技術の評価や医薬品の保険適用の決定、医薬品調達の枠組みなどにサステナビリティの指標を組み込むことを期待している」と付け加えた。 Ganatra氏らは次の段階として、実際の排出データと臨床アウトカムを用いてモデルを検証する予定だ。同氏は、「将来的には、臨床試験のデザインや医薬品の規制プロセス、処方の決定に環境への影響が組み込まれ、医療システムがプラネタリーヘルス(地球環境と人類の健康の両立)に関する目標と連携できるようになることを期待している」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

8.

GLP-1RAが2型糖尿病患者のGERDリスク増大と関連

 2型糖尿病患者に対するGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の処方が、胃食道逆流症(GERD)のリスク増大と関連していることを示すデータが報告された。GLP-1RAが処方されている患者では、SGLT2阻害薬(SGLT2i)が処方されている患者に比べて、GERDおよびGERDに伴う合併症の発症が有意に多く認められるという。全南大学校(韓国)のYunha Noh氏らの研究の結果であり、詳細は「Annals of Internal Medicine」に7月15日掲載された。 2型糖尿病および肥満の治療薬であるGLP-1RAは胃排出遅延作用を有しており、これが血糖上昇抑制や食欲低下に部分的に関与していると考えられている。しかし一方でこの作用は、理論的にはGERDのリスクとなり得る。とはいえ、GLP-1RAの処方とGERDとの関連を示す大規模な研究に基づくエビデンスは十分ではないことから、Noh氏らは英国の臨床データベース(Clinical Practice Research Datalink)を用いて、SGLT2iを実薬対照とするターゲット試験エミュレーション研究を実施し、GERDおよびGERD関連合併症の発症リスクを比較した。 2013~2021年に、GLP-1RAまたはSGLT2iの新規処方が開始されていた18歳以上の成人2型糖尿病患者を2022年3月31日まで追跡し、主要評価項目であるGERDの発症、および副次評価項目であるGERD関連合併症の発症状況を把握。傾向スコアに基づき背景因子を精密層別化(fine stratification)して重み付けした上で、リスク差およびリスク比を算出した。 GLP-1RAが新規処方されていた患者は2万4,708人、SGLT2iが新規処方されていた患者は8万9,096人だった。中央値3.0年の追跡で、SGLT2i群に対するGLP-1RA群のGERD発症リスク比は1.27(95%信頼区間1.14~1.42)であり、リスク差は100人当たり0.7だった。また、GERD関連合併症については、リスク比が1.55(同1.12~2.29)、リスク差は1,000人当たり0.8だった。 著者らは、本研究の限界点として、GERDリスクに影響を及ぼし得る食習慣を含む、ライフスタイル関連因子が把握されていないことなどによる残余交絡が存在する可能性を挙げ、「追試による検証が必要」としている。その上で、「われわれの研究結果は、2型糖尿病患者に対するGLP-1RAの使用はSGLT2iを使用した場合に比較し、GERDの発症とその合併症のリスクを高めることを示唆している」と結論。また、「医師や患者はGLP-1RAがGERDリスクに影響を及ぼし得ることを認識しておくべき」とし、「医師は適切なタイミングで予防および治療介入を行う必要がある」と付け加えている。 なお、2人の著者が製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を開示している。

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長らく日の目を見なかったアミリンが抗肥満薬として復活した(解説:住谷哲氏)

 アミリン(amylin)、別名膵島アミロイドポリペプチド(islet amyloid polypeptide:IAPP)は、インスリンと同時に膵β細胞から分泌されるホルモンである。アミリンには消化管運動調節作用があり食後の血糖上昇を抑制することから、すでに20年前にアミリンアナログであるpramlintideが商品名SymlinとしてFDAに血糖降下薬として承認されている(日本では未承認)。しかしpramlintideは半減期が短く、1日3回の注射が必要であるためほとんど使用されていない。 アミリンは当初から食欲中枢に作用して食欲を低下させることが知られていた1)。そこでアミリンの分子構造を変化させることで週1回投与を可能にしたcagrilintideが抗肥満薬として開発された。プラセボと比較した第II相試験では、cagrilintide 2.4mgはプラセボと比較して9.7%の体重減少をもたらした2)。さらに本試験の前段階である第Ib相の臨床試験において、cagrilintide 2.4mg+セマグルチド2.4mg(CagriSema)の投与は17.1%の体重減少をもたらすことが報告されている3)。 本論文は2型糖尿病を合併していない肥満患者に対するCagriSemaの体重減少作用をプラセボおよびcagrilintide、セマグルチドそれぞれ単剤と比較した第IIIa相試験の報告である(2型糖尿病合併肥満患者に対する試験はREDEFINE 2として同誌に同時掲載されている)。その結果はCagriSemaの最大投与量2.4mgで53.6%の患者に20%以上の体重減少が認められた。この結果は、CagriSemaがGLP-1受容体作動薬を含めた抗肥満薬のなかでは最も強力であることを示している。有害事象もcagrilintideとセマグルチド単剤と同様に消化器症状が中心であり、CagriSemaによる新たな有害事象は認められなかった。唯一の懸念材料はCagriSema群で2例の死亡があり、そのうち1例が自殺とされている点である。 わが国では現在セマグルチド(商品名:ウゴービ)およびチルゼパチド(商品名:ゼップバウンド)が抗肥満薬として使用可能である。随時服用可能な経口GLP-1受容体作動薬であるorforglipronも近々抗肥満薬として承認申請予定であり、GIP/GLP-1/Glucagonのトリプルアゴニストであるretatrutideも抗肥満薬として遠からず申請されると思われる。まさに抗肥満薬の百花繚乱時代であるが、専門医としては体重減少の先にある臨床アウトカムの改善を見据えて、適切な薬剤を適切な患者に選択するという基本を忘れてはならない。

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第259回 75歳以上の医療費負担が10月から増加 300万人に影響/厚労省

<先週の動き> 1.75歳以上の医療費負担が10月から増加 300万人に影響/厚労省 2.新型コロナワクチン、接種費用は最大1万5千円で定期接種10月開始へ/厚労省 3.「睡眠障害内科」の標榜科を新設へ議論開始/厚労省 4.美容医療広告に違反横行 GLP-1ダイエット拡大で健康被害の懸念/厚労省 5.江別谷藤病院の給与未払い、釧路にも波及 職員無給で診療継続/北海道 6.県立こども病院で電子カルテ撮影・送信 20代看護師を停職処分/長野県 1.75歳以上の医療費負担が10月から増加 300万人に影響/厚労省10月1日から、75歳以上の後期高齢者の一部で外来医療費の自己負担が実質的に増える。2022年10月以降、「一定以上の所得」がある高齢者は負担割合が1割から2割に引き上げられていたが、急な負担増を抑えるために導入された「配慮措置」(外来での負担増を月3,000円までに抑制)が9月末で終了する。これにより、たとえば5万円の医療費の場合、これまで窓口支払いは8,000円で済んでいたものが、10月からは1万円の2割負担を全額支払うことになる。対象は後期高齢者の約20%、全国で380~390万人とされ、その大半が今回の影響を受ける。財政背景として、後期高齢者医療制度は患者負担以外に公費が5割、現役世代からの支援金が4割を占め、医療費の膨張に伴い現役世代の負担が重くなっている。2023年度の支援金は7兆1,059億円と過去最高を記録し、制度の持続には高齢者の応分負担が避けられない状況。今後、政府は、3割負担の対象拡大や介護保険での負担増も検討しており、今回の配慮措置終了は「改革の試金石」と位置付けられている。医療現場にとっては、患者からの負担増に関する問い合わせが急増することが予想される。厚労省は医療機関に対し、診療報酬請求の円滑化に向けたレセプトコンピュータ改修を呼びかけるとともに、疑問が生じた場合には2026年3月末まで設置される専用コールセンターに問い合わせるよう要請している。とくに高齢患者では、治療継続への不安や通院控えが生じる可能性もあり、疾患の悪化を防ぐためにも医師主導の情報提供と適切なフォローアップが欠かせない。制度改正を背景に、診療現場には医療の質を保ちながら患者の生活を支える視点がいっそう求められている。 参考 1) 75歳以上、来月から医療費負担増 窓口2割の300万人 現役負荷抑制 改革の試金石に(日経新聞) 2) 高齢者の医療費、2割全額負担 10月から軽減措置撤廃(同) 3) 後期2割負担の配慮措置終了で「レセコン改修を」厚労省が呼び掛け 診療報酬請求の円滑化で(CB news) 2.新型コロナワクチン、接種費用は最大1万5千円で定期接種10月開始へ/厚労省厚生労働省は9月5日、新型コロナウイルスワクチンの定期接種に用いる製品を5種類に決定した。対象は65歳以上の高齢者と基礎疾患を有する60~64歳で、実施期間は2025年10月1日~2026年3月末まで。今回使用されるのは、米国ファイザー・米国モデルナ・第一三共のmRNAワクチン、武田薬品工業の組み換えタンパクワクチン、Meiji Seikaファルマの「レプリコン」ワクチン(細胞内でmRNAが複製される新型製剤)の計5製品で、いずれも昨年度に使用実績があるもの。標的はオミクロン株の「LP・8・1」と「XEC」だが、国内流行中の変異株「ニンバス」に対しても効果が期待されるとしている。接種費用は1回当たり約1万5,000円が見込まれているが、国による助成(8,300円/回)は昨年度で終了した。本年度は自治体独自の補助に限られ、自治体によっては自己負担額が増える可能性もある。定期接種の対象外となる人は、原則全額自己負担となる点も留意が必要である。医療現場にとっては、(1)対象者の確認(年齢・基礎疾患の有無)、(2)ワクチンの種類ごとの特徴や接種スケジュールの説明、(3)自己負担に関する事前の情報提供、が求められる。とくに高齢患者からは「どのワクチンを選べばよいか」「費用はいくらかかるか」といった質問が想定されるため、最新情報を把握し、自治体の補助制度と合わせてわかりやすく伝えることが重要である。また、定期接種対象外であっても希望する患者に対しては、全額自己負担となるため、感染リスクや効果・副反応を踏まえた意思決定支援が必要になる。今回の決定は、感染の再拡大が懸念される冬季に向けた備えと位置付けられる。医師には、患者への丁寧な説明と同時に、接種体制やワクチン在庫管理を含む運営面での調整も期待されている。 参考 1) 新型コロナワクチンの接種について(厚労省) 2) コロナ定期接種に5製品 変異株「ニンバス」にも効果期待 10月1日から、厚労省(産経新聞) 3) コロナワクチン定期接種、5製品の使用決定 10月から 厚労省(毎日新聞) 3.「睡眠障害内科」の標榜科を新設へ議論開始/厚労省厚生労働省は9月4日、医道審議会診療科名標榜部会で、医療機関が掲げられる標榜診療科に「睡眠障害」を追加するか検討を開始した。標榜診療科の追加は、2008年の規制緩和以来初めてとなる見通しで、2026年3月ころの取りまとめを予定している。背景には、日本人の睡眠時間が国際的に最短水準であり、5人に1人が十分な休養を取れていないという状況がある。睡眠障害は高血圧、糖尿病、肥満など生活習慣病リスクを高め、事故や労働生産性低下にもつながるとされ、経済損失はGDPの約3%、年15兆円規模との試算もある。現在、睡眠障害の診療は精神科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科など多岐にわたり、患者にとって受診先がわかりにくいことが課題とされてきた。日本睡眠学会は「睡眠障害内科」「睡眠障害精神科」といった標榜を可能にするよう厚労省に要望し、理事長の内村 直尚氏(久留米大学長)は「診療科名が明示されればアクセスが改善し、早期診断・治療を通じて国民の健康増進に寄与できる」と強調した。学会は、標榜追加に必要な「独立性」「国民ニーズ」「わかりやすさ」「知識の普及」の4条件を満たすと説明している。医療側にとっては、新たな標榜が実現すれば患者からの期待が高まり、より明確な診療体制と説明責任が求められる。すでに精神科・内科・耳鼻科などで睡眠障害の診療は行われているが、診療科名として標榜する医療機関の受診者は「専門的な対応」を期待することになる。このため、医師は最新の診断や治療法に関する知識のアップデートが求められる。その一方、地域での診療連携や専門機関との協力体制をどう整えるかが今後の課題となる。 参考 1) 第6回医道審議会医道分科会診療科名標榜部会[資料](厚労省) 2) 診療科名に「睡眠障害」を加えるか検討開始 厚生労働省の医道審議会部会(産経新聞) 3) 「睡眠障害」を診療科追加へ議論 厚労省部会 5人に1人が眠り不十分(毎日新聞) 4) 不眠大国ニッポン ぐっすり眠れてますか? 9月3日は「睡眠の日」(同) 5) 診療科名「睡眠障害内科」可能に、厚労省部会が初の追加を議論(日経新聞) 4.美容医療広告に違反横行 GLP-1ダイエット拡大で健康被害の懸念/厚労省美容医療を巡る広告トラブルが全国で急増している。とくに糖尿病治療薬「GLP-1受容体作動薬」を用いた「GLP-1ダイエット」は、痩せ願望の強い若年女性を中心に広がり、低体重の人がさらに痩せようとする傾向も指摘される。健康被害への懸念が強まるなか、厚生労働省はネット広告の監視を強化している。厚労省によると、2023年度に確認された美容医療関連の広告違反は362サイトで計2,888ヵ所。全体では1,098サイト6,328ヵ所に上り、医療広告分野で最多となった。内容はリスクや副作用の説明が不十分な自由診療の宣伝が目立ち、「必ず痩せる」「満足度99%」など虚偽や誇大表現も横行している。SNSでのビフォーアフター写真や体験談の掲載、有名人利用を強調する手法も規制対象となるが、実際には多くが違反に該当している。実際に都内の30代女性は「痩せる注射」と宣伝された施術を5回受けたが効果はなく、高熱の副作用に苦しんだ。それでも返金は拒否され「だまされた気持ち」と悔しさを語る。国民生活センターへの相談も2023年度は約5,500件に達し、契約トラブルや副作用被害が後を絶たない。厚労省は医療機関に対し、効果には個人差があること、費用や解約条件を丁寧に説明するよう要請。さらにネットパトロールを拡大し、自治体と連携した改善要請や行政指導を強める方針だ。ただ立ち入り検査に消極的な自治体も多く、対応にばらつきが残るのが課題となっている。専門家は「SNSを通じた、偏った情報が女性の健康観に影響を与えている」と警鐘を鳴らし、国には具体的な指導事例の集約と実効性ある取り締まりが求められる。一方で、患者自身も広告を見極める「ヘルスリテラシー」を高めることが不可欠とされ、社会全体での啓発が急務となっている。 参考 1) 美容医療広告のトラブル多発 低体重でも「痩せ願望」強い女性に糖尿病薬のリスク説明不足(産経新聞) 2) 「必ず手術成功」「満足度99%」など違法な医療広告が横行…「違反」1,000サイト超、厚労省確認(読売新聞) 3) “ビフォーアフター写真の加工”“体験談の掲載”はNG!「美容医療広告のルール」を専門家が解説(TOKYO FM) 4) 医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書[第5版](厚労省) 5.江別谷藤病院の給与未払い、釧路にも波及 職員無給で診療継続/北海道北海道江別市と釧路市で医療法人社団「藤花会」が運営する江別谷藤病院、釧路谷藤病院など複数の病院で、医師や職員約300人分の給与が7月から2ヵ月連続で支払われていないことが明らかになった。経営悪化が背景にあり、資材や人件費の高騰が要因とされる。未払いは非常勤を除くほぼ全職員に及び、江別谷藤病院ではすでに10人以上が退職届を提出。9月5日からは患者の受け入れを縮小する事態となっている。江別谷藤病院は1969年開設、病床数122床の中核病院で、夜間・休日の当番病院も担う。しかし、給与未払いが続く中、職員は「患者や仲間のため」と無給で診療を継続している。理事長の谷藤 方俊氏は「経営的な問題が原因」と説明し、「できる限り早期に未払い分を全額支給し、法人の再建に取り組む」とコメントした。地元医師会も「説明がないまま混乱している」と困惑を示し、弁護士は「職員は職業倫理から働き続けているが、地域社会全体で解決に踏み込む必要がある」と指摘する。江別市民からも「将来の診療体制が心配」と不安の声が広がる。当初は江別谷藤病院の問題として報じられたが、同法人が運営する釧路谷藤病院にも同様の給与未払いが波及。法人全体の経営危機が浮き彫りとなった。今後、さらなる退職者増や医療体制の縮小が懸念されており、地域医療の持続性が問われている。 参考 1) 北海道の病院で給料2ヵ月未払い 医師や職員など300人分(共同通信) 2) 「無給でも患者のため」給与未払い2カ月連続 江別谷藤病院で異例事態「地域社会全体で踏み込まなくては」(HTBニュース) 3) 江別谷藤病院、釧路谷藤病院などで2か月分の給与未払い 資材や人件費高騰で経営悪化 江別では5日から患者の受け入れ縮小(北海道新聞) 6.県立こども病院で電子カルテ撮影・送信 20代看護師を停職処分/長野県長野県安曇野市の県立こども病院に勤務する20代の女性看護師が、患者の電子カルテ画面をスマートフォンで撮影し、通信アプリ「LINE」で知人に送信していたことが明らかとなり、県立病院機構は9月4日付で停職1ヵ月の懲戒処分を科した。看護師は2025年4月、勤務先についての会話の中で患者一覧画面を撮影。画面には診療科や氏名を含む24人分の情報が表示されていたが、氏名や病棟名は黒塗りにして送信していた。現時点で患者個人が特定される情報漏洩は確認されていない。7月に県へ通報があり、病院側が調査を実施し、8月に本件事実を公表した。本人は「職場の実情を知ってもらい、看護師としての苦労を理解してほしかった」と説明し、深く反省している。この事案を受け、病院機構は監督責任として院長と看護部長を厳重注意処分とした。機構は「再発防止に努め、研修や教育を強化する」と表明し、個人情報保護の徹底を改めて職員に求めている。今回のケースでは患者特定に至る被害は確認されていないものの、電子カルテを私的に撮影し、外部へ送信する行為は重大なリスクを伴い、医療現場全体の信頼を損ねかねない。情報セキュリティの観点からも、スタッフ教育と組織的な管理体制の強化が改めて課題として浮き彫りとなった。 参考 1) 職員による情報漏えい事故が発生しました(長野県立こども病院) 2) 電子カルテの一部を外部に漏洩 県立こども病院の20代看護師を懲戒処分(長野朝日放送) 3) 「看護師としての苦労を分かってもらいたかった」 長野県立こども病院の20代女性看護師が電子カルテを撮影し通信アプリで知人に送信 停職1カ月の処分(長野放送)

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2型糖尿病治療薬、国際的持続評価システムの最新結果/BMJ

 中国・四川大学のKailei Nong氏らは、2型糖尿病治療薬の無作為化比較試験についてリビングシステマティックレビュー(living systematic review:LSR)とネットワークメタ解析(NMA)を用いて評価するシステムを開発。SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)、フィネレノンおよびチルゼパチドは、死亡、心血管疾患、慢性腎臓病および体重減少に関してリスク依存的に異なる有益性をもたらすが、薬剤特有の有害事象があることを明らかにした。著者は、「本評価システムは、最新のエビデンスを随時統合できるよう設計されている。エビデンスを持続的に更新する国際的なシステムとして、政策立案者、臨床医および患者の情報に基づく意思決定を支援し、研究の無駄を減らす可能性がある」と述べている。BMJ誌2025年8月14日号掲載の報告。869試験、49万3,168例のデータを解析 研究グループは、MedlineおよびEmbaseを用い、2型糖尿病治療薬を相互に、またはプラセボあるいは標準治療と比較した24週以上の無作為化並行群間比較試験について、毎月検索を実施し(本報告では2024年7月31日までの検索を対象)、頻度(frequentist)ランダム効果モデルとGRADEアプローチを用いたLSRおよびNMAを行った。 LSRとNMAは、少なくとも年2回更新。本報告のLSRとNMAには、869試験(2022年10月以降に53試験を追加)の計49万3,168例の患者が含まれ、13の薬剤クラス(63種類の薬剤)と26の重要なアウトカムに関するデータが報告された。薬剤ごとに有益性が異なり、薬剤特有の有害事象も確認 有益性は、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、およびフィネレノン(慢性腎臓病を有する患者に限る)について、心血管および腎臓へのベネフィットが確認された(エビデンスの確実性:中~高)。 体重減少に最も有効な薬剤は、チルゼパチド(平均差[MD]:-8.63kg[95%信頼区間[CI]:-9.34~-7.93]、エビデンスの確実性:中)、およびorforglipron(-7.87kg[-10.24~-5.50]、エビデンスの確実性:低)の順で、次いで他の8種類のGLP-1受容体作動薬(エビデンスの確実性:高~中)であった。 薬剤の絶対的有益性は、心血管および腎アウトカムに対するベースラインのリスクによって大きく異なっていた。リスク層別化された薬剤の絶対効果は、インタラクティブツールにまとめている。 薬剤特有の有害事象については、SGLT2阻害薬は性器感染症(オッズ比[OR]:3.29[95%CI:2.88~3.77]、エビデンスの確実性:高)、糖尿病性ケトアシドーシス(2.08[1.45~2.99]、エビデンスの確実性:高)、切断(1.27[1.01~1.61]、エビデンスの確実性:中)を、チルゼパチドとGLP-1受容体作動薬は重度胃腸障害(チルゼパチドで最もリスクが増加、OR:4.21[95%CI:1.87~9.49]、エビデンスの確実性:中)、フィネレノンは重度高カリウム血症(OR:5.92[95%CI:3.02~11.62]、エビデンスの確実性:高)を、チアゾリジン系薬剤は主要な骨粗鬆症性骨折および心不全による入院、スルホニル尿素薬とインスリンおよびDPP-4阻害薬は重度低血糖のリスクをそれぞれ増加させる可能性が示された。 神経障害や視覚障害などその他の糖尿病関連合併症に対する効果については、エビデンスの確実性が低または非常に低の結果しか得られなかった。また、関心が高い認知症に関しても、GLP-1受容体作動薬が認知症を軽減するかどうかは不確実であった(OR:0.92[95%CI:0.83~1.02]、エビデンスの確実性:低)。

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薬物療法【脂肪肝のミカタ】第9回

薬物療法Q. 併存疾患に対する薬物療法は?併存疾患に対する薬物療法として、糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)、肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬)、脂質異常症治療薬(スタチン、ぺマフィブラート)が肝臓の採血所見、画像所見、組織所見の改善に繋がるという報告は複数発表されている。チアゾリジン誘導体やビタミンEの肝臓の組織改善作用に関しては、近年は賛否両論がある1-3)。いずれの薬剤もMASLDに対する治療薬ではないことを把握した上で処方する必要がある。将来的な治療方針として、MASLD最大のイベントである心血管イベントの抑制まで視野に入れた治療が期待される。心血管イベント抑制作用における高いエビデンスを有する糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)の併用を視野に入れた薬剤開発が期待される(図1)4,5)。(図1)心血管系イベントにおける糖尿病治療薬の長期インパクト(2型糖尿病を対象とした海外データ)画像を拡大するQ. 今後期待される薬物療法は?最近の臨床試験の対象は、肝硬変(Stage 4)を除外した線維化進行例(Stage 2~3)である1,2)。主要評価項目も以前は肝臓の線維化改善を重視していたが、最近は活動性改善も同時に重視する傾向にある。2024年3月、経口の甲状腺ホルモン受容体β作動薬(resmetirom)がStage 2~3の線維化が進行したMASHを対象に初の治療薬として米国食品医薬品局で承認されたが2)、本邦では臨床試験が行われておらず、現時点では使用することができない。2024年11月、米国肝臓学会で、Stage 2~3の線維化が進行したMASHを対象としたGLP-1受容体作動薬セマグルチドの72週の第III相プラセボ対照試験(ESSENCE Study)の成績が報告された。肝炎活動性と線維化を共に改善し、主要評価項目を達成したことが報告された(図2)6)。本臨床試験は本邦でも行われており、今後の上市が期待されている。(図2)MASH(Stage 2~3)を対象としたGLP-1受容体作動薬の治療効果[ESSENCE Study]画像を拡大する最後に、MASLDの新薬開発における将来の展望として、まずはメタボリックシンドローム由来の心血管イベントを抑制することが課題である。よって、食事/運動療法や糖代謝改善薬は肝臓の線維化進行度に関わらず重要である。さらに、肝臓の炎症や線維化が進行してくると肝疾患イベントが抑制されることも課題となる。肝臓の脂肪化、炎症、線維化を改善する薬剤を開発し、併用していく時代になると考えている(図3)。(図3)MASLD新薬開発における将来の展望画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542. 3) 日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂. 4) Marso S, et al. N Engl J Med. 2016;375;311-322. 5) Zinman B, et al. N Engl J Med. 2015;373:2117-2128. 6) Sanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.

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糖尿病女性の診察では毎回、妊娠希望の意思確認を

 糖尿病既往のある女性の妊娠に関する、米国内分泌学会と欧州内分泌学会の共同ガイドラインが、「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に7月13日掲載された。糖尿病女性患者には、診察の都度、子どもをもうけたいかどうかを尋ねるべきだとしているほか、妊娠前のGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の使用中止などを推奨している。 ガイドラインの筆頭著者である米ミシガン大学アナーバー校のJennifer Wyckoff氏はガイドライン策定の目的を、「生殖年齢の女性の糖尿病有病率が上昇している一方で、適切な妊娠前ケアを受けている糖尿病女性はごくわずかであるため」とした上で、「本ガイドラインは、計画的な妊娠の方法に加え、糖尿病治療テクノロジーの進歩、出産の時期、治療薬、食事・栄養についても言及したものだ」と特色を強調している。 ガイドラインの推奨には、以下のような内容が含まれている。・出産可能年齢の糖尿病女性全員に妊娠の意思があるかどうかを尋ねる。・糖尿病妊婦では妊娠継続に伴うリスクが早産に伴うリスクを上回ることがあるため、39週より前に出産を計画する。・妊娠前にGLP-1RAの使用を中止する。・すでにインスリンを使用している妊婦では、メトホルミンの使用を避ける。・1型糖尿病の妊婦には、連続血糖測定(CGM)機能を備えたハイブリッド・クローズドループのインスリンポンプを使用する。アルゴリズムを利用していないCGM対応インスリンポンプや、CGMに基づく頻回のインスリン注射は推奨しない。・2型糖尿病の妊婦には、CGMまたは血糖自己測定(SMBG)のいずれかの使用を推奨する。・糖尿病の女性が妊娠を希望する場合、妊娠の準備が整うまでは避妊を継続する。 著者の1人であるパドヴァ大学(イタリア)のAnnunziata Lapolla氏は、「われわれはランダム化比較試験から得られたエビテンスに基づいて、これらの推奨事項を策定した。現在、世界中で肥満に関連する2型糖尿病が増加し、2型糖尿病を持つ妊婦が増加しているが、本ガイドラインの推奨事項は、そのような女性に対する適切な栄養と治療アプローチに関する課題にも対処している」と述べている。 なお、本ガイドラインの策定には、前記2団体のほかに、米国糖尿病学会、米国産科婦人科学会、母体胎児医学会、国際糖尿病・妊娠研究グループ、欧州糖尿病学会、糖尿病ケア・教育専門家協会、米国薬剤師会などが関与した。

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第279回 経口GLP-1薬orforglipronで体重が12%ほど減少~投資家落胆

経口GLP-1薬orforglipronで体重が12%ほど減少~投資家落胆1日1回服用の経口GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)orforglipron高用量が、72週間の第III相ATTAIN-1試験で太り過ぎか肥満の患者の体重を平均12.4%減らしました1)。orforglipronはLillyが開発しています。ATTAIN-1試験には高血圧症、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)、心血管疾患などの体重関連の持病を有している太り過ぎか肥満の成人3,127例が参加しました。先立つ第III相ACHIEVE-1試験は2型糖尿病患者を対象としましたが2)、今回のATTAIN-1試験に糖尿病患者は含まれません。ATTAIN-1試験のorforglipron投与群の被験者はまず全員が1mgを服用し、低(6mg)、中(12mg)、高(36mg)の3つ維持用量へと段階的に服用量を増やしました。orforglipron低、中、高用量の72週時点のベースライン時と比べた体重低下率はそれぞれ7.8%、9.3%、12.4%で、プラセボ群の0.9%低下を有意に上回り、試験の主要評価項目を達成しました。しかし競争が激しいGLP-1薬界隈では目標を達成しただけで十分とは限らず、今回の試験結果に投資家はかなり落胆したようで3)、Lillyの米国ニューヨーク証券取引所での株価は木曜日の取引で1割超下落しました。先立つ第II相試験でのorforglipron 36mg投与群の36週時点の体重は13.5%低下しました4)。第II相試験は今回の第III相試験と同様に糖尿病ではない太り過ぎか肥満の成人を募っています。現在の肥満薬市場を切り開いたNovo NordiskのGLP-1薬セマグルチドの経口剤は、64週間の第III相OASIS 4試験の解析で、多ければ16.6%の体重低下を示しています5,6)。そのような背景があって投資家の多くはATTAIN-1試験でorforglipron高用量群の体重は14~15%ほど減るだろうと期待していましたが、実際はその予想にほんの2%ばかり届きませんでした3)。糖尿病患者を募った先立つ第III相ACHIEVE-1試験に比べて安全性も若干不調なようで、10例に1例ほどの10.3%が有害事象のためにorforglipron高用量服薬を止めています。GLP-1薬につきものの胃腸症状はやはり多く、高用量投与群の4例に1例ほどの24%に嘔吐が生じました。そんなこんなでLillyの株価はだいぶ下落しましたが、過剰反応だと見る向きもあります。効果に関して議論はあるでしょうが、体重減少が2%ほど不足したばかりにorforglipronの需要に大した影響が出るかどうかは不明であり、今回の発表を受けてのLillyの株価下落は買い時だろうとアナリストの1人は言っています3)。ともあれLillyは今年中に世界の国々でのorforglipronの承認申請を始めます。Novo Nordiskのセマグルチド25mg経口薬による体重管理の開発はorforglipronに比べてだいぶ先行しており、今年2月に米国FDAにすでに承認申請されています5)。この5月初めまでにFDAはその承認申請を受理しており、審査結果は今年中に判明する見込みです7)。ちなみにATTAIN-1試験結果の発表を受けて、Novo Nordiskの株価は木曜日に7%ほど上昇しています。 参考 1) Lilly's oral GLP-1, orforglipron, delivers weight loss of up to an average of 27.3 lbs in first of two pivotal Phase 3 trials in adults with obesity / PR Newswire 2) Rosenstock J, et al. N Engl J Med. 2025 Jun 21. [Epub ahead of print] 3) Lilly's obesity pill lags Novo's Wegovy injection in key trial / Reuters 4) Wharton S, et al. N Engl J Med. 2023;389:877-888. 5) Novo Nordisk:Financial report for the period 1 January 2025 to 31 March 2025 6) Novo Nordisk:Investor presentation First three months of 2025 7) FDA accepts filing application for oral semaglutide 25 mg, which if approved, would be the first oral GLP-1 treatment for obesity / PR Newswire

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肥満・過体重の減量に、cagrilintide/セマグルチド配合薬が高い効果/NEJM

 肥満または過体重の成人において、プラセボと比較してcagrilintide/セマグルチド配合薬(以下、CagriSema)は、有意で臨床的に意義のある体重減少をもたらし、消化器系有害事象の頻度が高いものの多くは一過性で軽度~中等度であることが、米国・アラバマ大学バーミングハム校のW. Timothy Garvey氏らREDEFINE 1 Study Groupが実施した「REDEFINE 1試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年6月22日号で報告された。22ヵ国の第IIIa相無作為化対照比較試験 REDEFINE 1試験は、非糖尿病の肥満または過体重の成人における固定用量のcagrilintide(長時間作用型アミリン類似体)とセマグルチド(GLP-1受容体作動薬)の配合薬による減量効果の評価を目的とする第IIIa相二重盲検無作為化プラセボ/実薬対照比較試験であり、2022年11月~2023年6月に22ヵ国で参加者を登録した(Novo Nordiskの助成を受けた)。 糖尿病がなく、BMI値30以上、またはBMI値27以上で少なくとも1つの肥満関連合併症を有し、減量を目的とする食事制限に1回以上失敗したと自己報告した成人を対象とした。 被験者を、CagriSema(各0.25mgで開始、4週ごとに増量して16週までに各2.4mgとし、これを維持量として52週間投与)、セマグルチド単剤(2.4mg)、cagrilintide単剤(2.4mg)、プラセボの皮下投与(週1回)を受ける群に、21対3対3対7の割合で無作為に割り付け68週間投与した。全例にライフスタイルへの介入を行った。 主要エンドポイントは、プラセボ群との比較におけるCagriSema群のベースラインから68週までの体重の相対的変化量と、5%以上の体重減少の2つであった。また、検証的副次エンドポイントとして、20%以上、25%以上、30%以上の体重減少について評価した。2つの単剤群との比較でも有意な減量効果 3,417例を登録し、2,108例をCagriSema群、302例をセマグルチド群、302例をcagrilintide群、705例をプラセボ群に割り付けた。全体の平均年齢は47.0歳、女性が67.6%で、白人が72.0%であった。ベースラインの平均体重は106.9kg、平均BMI値は37.9、平均ウエスト周囲長は114.7cmであり、最も頻度の高い肥満関連合併症は脂質異常症と高血圧症で、32.1%が糖尿病前症だった。 ベースラインから68週までの体重の推定平均変化率は、プラセボ群が-3.0%であったのに対し、CagriSema群は-20.4%と有意な減量効果を示した(推定群間差:-17.3%ポイント、95%信頼区間[CI]:-18.1~-16.6、p<0.001)。セマグルチド群の体重の推定平均変化率は-14.9%(-5.5%ポイント[-6.7~-4.3]、p<0.001)、cagrilintide群は-11.5%(-8.9%ポイント[-10.1~-7.7]、p<0.001)であり、いずれもCagriSema群のほうが有意に優れた。 また、5%以上の体重減少の達成割合は、プラセボ群の31.5%に比べCagriSema群は91.9%であり有意に高率であった(推定群間差:60.4%ポイント[95%CI:56.4~64.5]、p<0.001)。 20%以上の体重減少(53.6%vs.1.9%、p<0.001)、25%以上の体重減少(34.7%vs.1.0%、p<0.001)、30%以上の体重減少(19.3%vs.0.4%、p<0.001)の達成割合についても、CagriSema群はプラセボ群と比較し有意に優れた。 さらに、ベースラインから68週までの推定平均変化量は、ウエスト周囲長がCagriSema群-17.5cm、プラセボ群-4.0cm(p<0.001)、収縮期血圧はそれぞれ-9.9mmHgおよび-3.2mmHg(p<0.001)、SF-36の身体機能スコアは7.1点および3.6点(p<0.001)と、いずれもCagriSema群で有意に良好だった。これまでで最も高水準の減量効果 悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛などの消化器系の有害事象の頻度が、プラセボ群(39.9%)に比べCagriSema群(79.6%)で高かったが、その多くが一過性で重症度は軽度~中等度であった。注射部位反応(12.2%vs.3.0%)と胆嚢関連障害(4.1%vs.1.0%)もCagriSema群で多かった。 重篤な有害事象(9.8%vs.6.1%)、恒久的な投与中止に至った有害事象(5.9%vs.3.5%)、恒久的な投与中止に至った消化器系有害事象(3.6%vs.0.6%)も、CagriSema群で多く発現した。同群で2例(自殺、原発不明がん)が死亡した。 著者は、「CagriSema群で観察された体重減少は、既存の減量介入でこれまでに達成されたものの中で最も高い水準にある」「プラセボ群に比べ同群では糖化ヘモグロビン値も改善しており、これはベースライン時に糖尿病前症であった集団における血糖値が正常化した患者の割合(87.7%vs.32.2%)に反映している」「同群では、体重減少が最大値に到達する前に血圧の改善が起き、68週まで持続しており、降圧の程度は降圧薬の臨床試験に匹敵するものだった」としている。

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GLP-1RAで痩せるには生活習慣改善が大切

 オゼンピックやゼップバウンドなどのGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の減量効果が高いため、注射さえしていればあとは何もしなくても体重を減らせると思っている人がいるかもしれない。しかし専門家によると、それは誤りだ。適切に体重を減らしてそれを維持するには、注射に加えて生活習慣の改善も必要だという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJoAnn Manson氏らによる、GLP-1RA治療中の生活習慣改善に関するアドバイス集が「JAMA Internal Medicine」に、患者対象情報として7月14日掲載された。 Manson氏は、「GLP-1RAによる減量治療を開始後に、多くの患者が脂肪量だけでなく筋肉量も減少してしまう。また、胃腸症状が現れて治療を中止せざるを得なくなることも多い」と述べ、GLP-1RA使用時の生活習慣改善の重要性を指摘している。例えば、GLP-1RAのみで体重を減らした場合、減った体重の25~40%は除脂肪体重(多くは筋肉)が占めるとのことだ。 筋肉を減らさないための対策として、専門家らは「毎食、魚、豆、豆腐などの食品から20~30gのタンパク質摂取を」と推奨する。「一般的な運動量の人なら、体重1kg当り1.0~1.5gのタンパク質を毎日摂取し、食欲がないときには1食につき少なくとも20gのタンパク質を含むシェイクを飲むと良い」としている。 またGLP-1RAは食欲抑制作用があるため、適切な栄養素摂取が妨げられる可能性があるという。発表されたアドバイス集では、「適量の食事と軽食(果物、ナッツ類、無糖ヨーグルトなど)を取ることで、エネルギーを維持する」ことを推奨している。さらに、「炭水化物については、血糖値の急激な変動を引き起こす精製穀物や加糖飲料ではなく、サツマイモやオートミールなどの消化の遅いものを選択する。満腹感を長続きさせるには、オリーブオイルやアボカドなどの健康的な脂質食品を食事に加えると良い」とのことだ。 GLP-1RAによる減量中には、バランスの取れた栄養価の高い食事が重要になる。不適切なカロリー制限は、不健康な体重減少、必須栄養素やビタミンの不足による栄養失調のリスクにつながるため避けなければならない。一方、GLP-1RAの副作用として多く見られる胃腸症状に対しては、以下の推奨事項が示されている。・吐き気を和らげるには、脂質の多い揚げ物や加工食品を避け、お腹に優しい少量の全粒粉トーストやシリアル、果物、ジンジャーティーを食べたり飲んだりする。・胸焼けを抑えるには、少量ずつ食べ、食後2~3時間は横にならないようにする。揚げ物よりも焼き物を選び、黒コショウ、唐辛子、ニンニクなどの刺激の強いスパイスは避ける。・便秘には、オートミール、リンゴ、野菜、ナッツなど、食物繊維が豊富な食品の摂取量を増やす。水分を十分に取り、市販の下剤や便軟化剤の使用も検討。 また、GLP-1RAが脱水傾向を招くこともあるため、こまめに水分を取る必要があり、キュウリやスイカといった水分を多く含む果物や野菜の摂取が効果的だとしている。 このほかに、筋肉量を維持するため、週に2〜3回の30分の筋力トレーニングも大切。運動は体重のリバウンドを抑えるためにも重要で、早歩き、サイクリング、軽い庭仕事など、中強度の運動を週に150分程度、筋力トレーニングに加えて行う必要がある。 著者らは、「GLP-1RAの登場は肥満治療の大きな進歩ではあるが、減量効果の長期的な維持には、個別化された食事・運動療法を並行して行わなければならない。そのような包括的なアプローチによって、副作用を軽減し、筋肉量を維持して、栄養失調を回避しつつ、持続的な減量が達成される」と述べている。

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週1回投与のinsulin efsitoraはインスリン頻回注射療法中の2型糖尿病患者においても有効である(解説:住谷哲氏)

 BantingとBestによってインスリンが発見されたのは1921年である。翌1922年にイーライリリー社がブタ膵臓の抽出物からインスリンの製剤化に成功し、その翌年には大量生産にも成功して「アイレチン(Iletin)」として販売を開始した。販売当初は力価も安定せず不純物も多かったが、その後の種々の改良により現在のレギュラーインスリンが市場に登場した。その後の100年間はレギュラーインスリン改良の歴史であるが、1つの方向はブタインスリンからヒトインスリンへの変換であり、いまひとつはその作用時間の延長であった。 レギュラーインスリンの作用時間は約6時間と短く、インスリン分泌の枯渇している1型糖尿病患者では1日数回の注射が必要になる。その後の改良により中間型インスリン、持効型インスリンと作用時間が延長し、現在は週1回投与可能なインスリンアナログであるアウィクリ(一般名:インスリン イコデク)が使用可能である。ノボ ノルディスク社のアウィクリに対して、イーライリリー社が開発しているのが本試験で用いられたinsulin efsitora alfa(以下efsitora)である。 QWINT試験はefsitoraの臨床開発プログラムであり、QWINT-1~5の5試験が実施され結果はすべて論文化されている1-4)。ちなみにQWINTはQW(quaque week, once-weekly)insulin therapyの略である。本試験QWINT-4はインスリン頻回注射療法を受けている2型糖尿病患者を対象としている。基礎インスリンをグラルギンU-100とefsitoraとに無作為化し、食事インスリン(prandial insulin)は両群ともリスプロを用いた。主要評価項目は26週後のHbA1c変化量であり、efsitoraのグラルギンU-100に対する非劣性を検証した。結果はefsitoraのグラルギンU-100に対する非劣性が証明された。 筆者も週1回投与のインスリンアナログであるアウィクリを使用しているが、現時点ではインスリンを毎日投与することが不可能な患者に限定されている。やはりシックデイへの対応が困難である点がその理由の1つである。しかし日常臨床では毎日の注射は不可能であり、週1回投与のGLP-1受容体作動薬投与でもコントロールが不良でインスリン投与が必要な患者、フレイルがありGLP-1受容体作動薬ではなくインスリン投与が適切な患者が一定数存在している。これらの患者に対する週1回投与のインスリンアナログの有用性を評価する試験が実施されることが望まれる。

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GLP-1RA処方が糖尿病患者の新生血管型加齢黄斑変性と関連

 糖尿病患者に対するGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の処方と、新生血管型加齢黄斑変性(nAMD)の発症リスクとの関連を示すデータが報告された。交絡因子調整後にもリスクが2倍以上高いという。トロント大学のReut Shor氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Ophthalmology」に6月5日掲載された。 この研究は、カナダのオンタリオ州の公的医療制度で収集されたデータを用いた後ろ向きコホート研究として実施された。組み込み基準は、糖尿病と診断後12カ月以上の追跡が可能な66歳以上の患者であり、除外基準はデータ欠落、およびGLP-1RAが処方された患者においてその期間が6カ月に満たない患者。 これらの条件を満たす111万9,517人から、傾向スコアマッチングにより背景因子を一致させた13万9,002人(平均年齢66.2±7.5歳、女性46.6%)を抽出し、GLP-1RA処方群4万6,334人、非処方群9万2,668人から成る、患者数1対2のデータセットが作成された。 追跡期間3年におけるnAMD発症率は、GLP-1RA非処方群が0.1%であるのに対して処方群は0.2%であった。Cox比例回帰分析では、交絡因子調整の有無にかかわらず、GLP-1RA処方群のnAMD発症リスクが2倍以上有意に高いことが示された(粗モデルではハザード比〔HR〕2.11〔95%信頼区間1.58~2.82〕、調整モデルではHR2.21〔同1.65~2.96〕)。 著者らは、「得られた結果は、nAMD、糖尿病網膜症、非動脈炎性前部虚血性視神経症の増悪に、GLP-1RAが関与する可能性のある組織低酸素状態という機序を示唆する既報文献と一致している。ただし、本研究で明らかになった関連性に真の因果関係があるのか否かを判断し、その上でGLP-1RAを用いることのメリットとリスクのトレードオフの関係を理解するため、さらなる研究が求められる」と総括している。 一方、本研究には関与していない米ノースウェル・ヘルスのTalia Kaden氏は、「網膜にGLP-1受容体が存在していることは既に知られている。よってGLP-1RAの網膜に対する薬理的な作用を理解しようとし、その作用がどのような結果をもたらすのかを知ろうとするのは当然である。ただし、これまでに明らかにされたGLP-1RAが持つさまざまなメリットを考慮すると、本研究に登録された特定のコホートで見られたわずかなリスクの増加は、多くの人々にとってGLP-1RAの使用を避けるという判断の根拠にならないのではないか」と述べている。 なお、1人の著者が複数の医薬品・医療機器関連企業との利益相反(COI)に関する情報を開示している。

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経口GLP-1受容体作動薬の進化:orforglipronがもたらす可能性と課題(解説:永井聡氏)

 GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病の注射製剤として、すでに15年以上の歴史がある。減量効果だけでなく、心血管疾患や腎予後改善のエビデンスが示されるようになり、さらに経口セマグルチド(商品名:リベルサス)の登場により使用者が増加している。しかし、本剤が臨床効果を発揮するためには、空腹かつ少量の水で服用することが必須であり、服薬条件により投与が困難な場合もあった。 今回、経口薬であり非ペプチドGLP-1製剤であるorforglipronの2型糖尿病を対象とした第III相ACHIEVE-1試験が発表された。orforglipronは、もともと中外製薬が開発した中分子化合物で、GLP-1受容体に結合すると、細胞内でG蛋白依存性シグナルを特異的に活性化する“バイアスリガンド”という、新しい機序の薬剤である。経口セマグルチドのようなペプチド医薬品と異なり、胃内で分解されにくく、吸収を助ける添加剤を必要としない。そのため、空腹時の服用や飲水制限といった条件を課さず、日常生活における服薬の自由度が格段に向上することが特徴である。 試験の結果では、血糖降下作用や減量効果は、週1回セマグルチド注射製剤と同等かやや上回るほどであった。注射製剤の受け入れや空腹での服用条件により、経口セマグルチドの投与が困難だった人にも使用が可能になるという「投与条件の容易さ」は大きなインパクトである。 orforglipronが臨床現場に与える影響は少なくない。投与方法に制限がないことにより、「GLP-1受容体作動薬は特別な治療」という印象が減り、切り替えや他剤と同時服用も可能になり、DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬と同様に、早期導入が一般的になる可能性がある。投与方法が容易であることは、治療自体のQOLの向上を意味し、セルフケア行動を促進しアウトカムをより一層改善する「好循環」を後押しする。現在でも、GLP-1受容体作動薬により減量が進んでから運動を始める人がいる。その人は「体が軽くなった」から運動する気持ちになったと言うが、本当は減量できた成功体験によって「気持ちが軽くなった」から運動できると思い始めたのである。 処方が増加しても、錠剤は一般的に注射剤より生産工程が容易で大量生産可能であり、輸送コストも低く、世界的な需要拡大にも対応が可能と考えられる(近年問題となった某GLP-1受容体作動薬関連の処方制限を思い出してほしい)。 懸念点はないだろうか。有害事象は、他のGLP-1受容体作動薬と同様、嘔気や下痢といった消化器症状が中心であるが、第III相ACHIEVE-1試験では4~8%の症例で投与中止に至っている。さらに、本剤は分子量が小さく、血液脳関門を通過し、中枢性の嘔気症状が増える可能性が指摘されているため、消化器症状のため内服できなかった人が服用できるようになるわけではないと思われる。また、新しい機序の薬剤は、中長期的な有害事象も既存のGLP-1受容体作動薬と同様なのか、良くも悪くも現時点では何とも言えない。さらに、「多くの患者に使える薬」になるということは、裏を返せば「不適切に使われるリスク」も増すということである。フレイルを伴う高齢者への投与や安価な薬剤で十分な患者でも漫然と投与される可能性がある。保険財政への影響も懸念がある。 これからの糖尿病治療において重要なのは、薬剤選択肢の拡大そのものではなく、それをいかに適切に、患者個々の病態や背景を踏まえて用いるかである。適切な患者選択と丁寧なモニタリングを通じて、本剤の真価を最大限に引き出し、「糖尿病のない人と変わらぬQOLの実現」を後押しできるかが医療者に期待されることである。

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セマグルチドやペムブロリズマブなど、重大な副作用追加/厚労省

 厚生労働省は7月30日、セマグルチドやペムブロリズマブなどに対して、添付文書の改訂指示を発出。該当医薬品の添付文書の副作用の項に、重大な副作用が追記されることとなった。 該当医薬品と改訂内容は以下のとおり。GLP-1受容体作動薬:セマグルチド(商品名:ウゴービ、オゼンピック、リベルサス)GIP/GLP-1受容体作動薬:チルゼパチド(同:マンジャロ、ゼップバウンド)インスリン/GLP-1受容体作動薬配合薬:インスリン グラルギン/リキシセナチド(同:ソリクア配合注ソロスター) イレウス関連症例を評価した結果、重大な副作用の項に「イレウス」(腸閉塞を含むイレウスを起こすおそれがある。高度の便秘、腹部膨満、持続する腹痛、嘔吐等の異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと)を追記。また、合併症・既往歴等のある患者の項に「腹部手術の既往又はイレウスの既往のある患者」を追記した。抗PD-1抗体:ペムブロリズマブ(同:キイトルーダ) 血管炎関連症例を評価した結果、重大な副作用の項に「血管炎」(大型血管炎、中型血管炎、小型血管炎[ANCA関連血管炎、IgA血管炎を含む]があらわれることがある)を追記した。抗PD-L1抗体:アベルマブ(同:バベンチオ) 硬化性胆管炎関連症例を評価した結果、重大な副作用の項の「肝不全、肝機能障害、肝炎」に「硬化性胆管炎」を追記した。また、重要な基本的注意の項の「肝不全、肝機能障害、肝炎」に関する記載に「硬化性胆管炎」に関する注意を追記した。チロシンキナーゼ阻害薬:アファチニブマレイン酸塩(同:ジオトリフ)抗エストロゲン薬:フルベストラント(同:フェソロデックス) 各製剤においてアナフィラキシー関連症例を評価した結果、重大な副作用の項に「アナフィラキシー」を追記した。キナーゼ阻害薬:スニチニブリンゴ酸塩(同:スーテント) 高アンモニア血症関連症例を評価、専門委員の意見も聴取した結果、肝機能異常を伴わずに発現する高アンモニア血症の症例が認められ、本剤との因果関係が否定できない症例が集積したことから、重大な副作用の項に「高アンモニア血症」を追記した。

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