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2型糖尿病患者などでは、GLP-1受容体作動薬の投与により認知症およびアルツハイマー病のリスクが低下することを示唆する実臨床研究のエビデンスがある。米国・ネバダ大学のJeffrey L. Cummings氏らは、「evoke試験」および「evoke+試験」において、経口セマグルチドは早期の症候性アルツハイマー病の臨床的な進行を遅らせる効果を有さず、安全性や忍容性は他の適応症を対象とした試験の結果と一致することを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2026年3月19日号で報告された。2つの無作為化プラセボ対照試験 evoke試験およびevoke+試験は、40ヵ国566施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2021年5月~2024年9月に参加者を登録した(Novo Nordiskの助成を受けた)。 年齢55~85歳、アミロイド病変が確認されたアルツハイマー病で、軽度認知障害(MCI)またはアルツハイマー病に起因する軽度認知症を有する患者を対象とした。evoke+試験では、顕著な小血管病変を有する患者も対象に含めた。 被験者を、セマグルチド14mg(可変用量)またはプラセボを1日1回、最長で156週間経口投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、無作為化された全患者における臨床的認知症評価尺度-Sum of Box(CDR-SB)スコアのベースラインから104週までの変化量とした。CDR-SB、ADCS-ADL-MCIスコアの変化量に差はない 3,808例を登録した。このうち1,855例(セマグルチド群928例、プラセボ群927例)がevoke試験、1,953例(976例、977例)がevoke+試験の参加者だった。ベースラインの全体の平均年齢は72.2(SD 7.1)歳、女性が1,998例(52.5%)で、平均CDR-SBスコアは3.7(SD 1.6)点だった。2,746例(72.1%)がMCI、1,034例(27.2%)が軽度のアルツハイマー型認知症であった。evoke+試験では、54例(2.8%)が小血管病変を有していた。 evoke試験およびevoke+試験における、ベースラインから104週までのCDR-SBスコアの平均変化量は、セマグルチド群で2.3(SE 0.1)点および2.2(0.1)点、プラセボ群で2.3(0.1)点および2.1(0.1)点で、推定群間差は、evoke試験が-0.08(95%信頼区間[CI]:-0.35~0.20、p=0.57)、evoke+試験が0.10(95%CI:-0.17~0.38、p=0.46)であり、両試験とも両群間に有意な差を認めなかった。 また、同期間におけるAlzheimer’s disease Cooperative Study Activities of Daily Living-MCI(ADCS-ADL-MCI)スコアの平均変化量の両群間の差は、evoke試験が-0.25(95%CI:-1.22~0.72)、evoke+試験は-0.03(95%CI:-0.97~0.91)と、いずれも有意差を示さなかった。消化器症状と体重減少が多い 試験治療下での有害事象は、両試験を合わせたセマグルチド群では1,896例中1,729例(91.2%)に、プラセボ群では1,902例中1,613例(84.8%)に発現した。セマグルチド群で頻度の高い有害事象は、体重減少(36.5%)、食欲減退(33.1%)、悪心(24.3%)であった。 試験薬の恒久的な投与中止に至った有害事象の割合は、セマグルチド群で16.9%とプラセボ群の8.4%に比べて高く、重篤な有害事象はそれぞれ20.4%および23.8%にみられた。担当医判定による治療関連死は5例に発生し、セマグルチド群で1例(出血性脳卒中)、プラセボ群で4例であった。 著者は、これらの結果と実臨床のエビデンスの乖離の説明として、(1)全原因による認知症ではなく、生物学的に定義されたアルツハイマー病患者を対象としたこと、(2)治療開始時に無症状の2型糖尿病患者集団におけるアルツハイマー病の発症率の低下ではなく、症状のあるアルツハイマー病患者集団における進行遅延を調査したことなどを挙げ、「アルツハイマー病の病変がより軽度で、無症状の患者に、より早期の段階で同様の介入を行うことで、治療効果が期待できる可能性がある」と指摘している。