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1.

第331回 ポストバイオティックがGLP-1を増やして体重を減らす

小規模ながら二重盲検のプラセボ対照無作為化試験で、経口服用の不活化細菌サプリメント(ポストバイオティック)が肥満/過体重成人の体重を有意に減らしました1,2)。GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)が肥満治療の主役に一気に躍り出たものの、治療が長続きしないことは少なくないようです。たとえば米国成人の4~5割ほどが開始から1年と経たずにGLP-1薬の使用を止めてしまっており、胃腸の有害事象を生じた患者はとくにそうでした3,4)。それゆえ、GLP-1薬のような生理作用をGLP-1薬が強いる負担なしでもたらす治療選択肢を必要とする患者は多いようです。有益作用をもたらす不活化微生物やその成分であるポストバイオティックがその需要に応えられるかもしれません。たとえばオリーブやキムチなどの発酵食品を介して口に入る細菌のラクチプランチバチルス プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum[L. plantarum])にその可能性があります。熱で不活化したL. plantarumが短鎖脂肪酸(SCFA)を作る乳酸菌などの細菌を増やし5)、SCFAが豊富だと腸細胞からのGLP-1分泌が促進すること6)が先立つ研究で示されています。ゆえに不活化L. plantarumはGLP-1伝達を介して体重管理を助ける働きがあるかもしれません。そこでアラバマ大学のCharitharth Vivek Lal氏らは、不活化L. plantarumを含むポストバイオティック製品の体重への効果などを米国の過体重/肥満成人80人を募って試みました。使われた製品はResMと呼ばれ、不活化L. plantarumに加えてビタミンなどの微量栄養素と植物抽出物を含みます。被験者は1対1の割合で1日1回ResM服用群かプラセボ服用群に割り振られました。2ヵ月後、ResM群に割り振られた被験者の体重は、ベースライン時に比べて平均3%(2.6kg)減っていました。一方、プラセボ群の体重は減らず、ベースライン時より0.5kg増えていました。また、ResM群の血中のGLP-1活性はベースライン時に比べて2倍ほどに上昇していました。一方、プラセボ群ではほとんど変化がみられませんでした。GLP-1薬につきものの胃腸症状の心配はResMでは比較的少ないらしく、今回の試験で胃腸症状はむしろプラセボ群により多く生じました。深刻な有害事象はResM群とプラセボ群のどちらでもみられませんでした。GLP-1薬がすでに経ているような大規模試験で長期投与の効果持続のほどなどを今後調べる必要があります。それに、ResMの種々の成分の体重低下への寄与のほどもはっきりさせなければなりません。それらのさらなる検討で確かな裏付けが晴れて確立すれば、ResMはGLP-1薬に比べて副作用がより少なくて安上がりな体重減量や減った体重の維持手段を担うようになるかもしれません。参考(1)Pala OSK, et al. medRxiv. 2026 Jul 27. [Epub ahead of print](2)Postbiotic supplement boosts body’s own GLP-1 and weight loss / NewScientist(3)Do D, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e2413172.(4)Rodriguez PJ, et al. JAMA Netw Open. 2025;8:e2457349.(5)Huang Y, et al. Foods. 2025;14:2799.(6)Tolhurst G, et al. Diabetes. 2012;61:364-371.

2.

GLP-1薬は骨折リスクを上げる?下げる?

 GLP-1受容体作動薬(以下「GLP-1薬」)の投与開始は、DPP-4阻害薬の投与開始と比較して、2型糖尿病患者における脆弱性骨折リスクの低下と関連することが、米国・カリフォルニア大学のChristopher D. Hamad氏らの研究で示された。一方、GLP-1薬開始群と非開始群を比較した糖尿病の有無別の感度分析では、非2型糖尿病患者においてGLP-1薬使用は骨折リスク増加と関連していた。JAMA Network Open誌オンライン版2026年7月24日号掲載の報告。 これまでの研究では、BMIと脆弱性骨折リスクとの間にはU字型の関連があり、低体重や肥満では骨折リスクが高くなること、急速または大幅な体重減少でも骨折リスクが高くなることが報告されている。GLP-1薬は臨床試験で有意な体重減少をもたらしているため、骨への影響が懸念されているものの、その影響については十分なエビデンスが得られていない。そこで研究グループは、2型糖尿病患者におけるGLP-1薬開始と脆弱性骨折リスクとの関連について、DPP-4阻害薬開始を比較対照として検討する標的試験エミュレーションを実施した。 米国の電子カルテデータベースTriNetXを用いて、2015年1月1日~2022年12月31日に新たにGLP-1薬またはDPP-4阻害薬を開始した50~90歳の2型糖尿病患者を対象とした。患者は骨折、死亡、365日を超える医療受診の中断、または3年間の追跡終了まで追跡された。主要評価項目は、立位からの転倒など低エネルギー外傷による脆弱性骨折の発生とした。糖尿病の有無による違いを検討するため、GLP-1薬開始群と非開始群を比較する感度分析を実施したほか、BMIおよびHbA1cの変化が骨折リスクとの関連を媒介するかどうかについても解析した。 主な結果は以下のとおり。・傾向スコアマッチング後、13万3,606例(各群6万6,803例)の患者が解析に含まれた。GLP-1薬開始群およびDPP-4阻害薬開始群の平均年齢は63.2歳vs.63.8歳、男性が52.7%vs.54.0%、平均BMIは33.0 vs.32.9、平均HbA1cは8.48 vs.8.40であった。・3年間の追跡調査期間中、GLP-1薬開始群2,030例とDPP-4阻害薬開始群2,484例に脆弱性骨折が発生した。・GLP-1薬の開始は、DPP-4阻害薬の開始と比較して脆弱性骨折リスクの低下と関連していた。 -ハザード比(HR):0.79(95%信頼区間[CI]:0.76~0.83) -絶対リスク減少:0.79%(95%CI:0.60~0.99) -治療必要数:126(95%CI:101~168)・骨折リスク低下との関連は1年目と2年目で有意に認められたが、3年目には有意ではなくなった。 -1年目 HR:0.72(95%CI:0.67~0.78) -2年目 HR:0.77(95%CI:0.71~0.83) -3年目 HR:0.94(95%CI:0.86~1.02)・骨折リスク低下との関連は年齢、性別、フレイルの程度にかかわらず一貫して認められた。最も大きなリスク低下は、椎骨骨折および股関節・大腿骨骨折であった。・媒介分析では、GLP-1薬使用による骨折リスク低下の大部分は、BMIやHbA1cの低下を介さない直接効果によることが示唆された(HR:0.81[95%CI:0.76~0.86])。・糖尿病の有無別にGLP-1薬開始群と非開始群を比較した感度分析では、GLP-1薬使用は2型糖尿病患者では骨折リスク低下と関連した一方、非2型糖尿病患者では骨折リスク増加と関連していた(交互作用のp<0.001)。 -2型糖尿病患者 HR:0.91(95%CI:0.88~0.95) -非2型糖尿病患者 HR:1.13(95%CI:1.04~1.23) これらの結果より、研究グループは「2型糖尿病患者へのGLP-1薬の投与開始は、DPP-4阻害薬の投与開始と比較して、BMIおよびHbA1cの変化では説明されない形で3年間の脆弱性骨折リスク低下と関連していた。因果関係を確立し、骨への長期的な影響を明らかにするためには前向き研究が必要である」とまとめた。

3.

orforglipronはSGLT2阻害薬を超えた存在になるか?:ACHIEVE-2試験から(解説:永井聡氏)

 orforglipronは、空腹時の服用や飲水制限といった条件が不要で、食後投与が可能な経口GLP-1受容体作動薬である。本剤の2型糖尿病に対する実薬対照RCTとしてはすでにACHIEVE-3試験が発表されており、低用量(12mg)でも経口セマグルチド14mgに対して有意なHbA1c低下を示し「勝利」を収めている1)。 今回取り上げるACHIEVE-2試験は、メトホルミンでコントロール不十分な2型糖尿病患者を対象に、orforglipron(3/12/36mgカプセル)とSGLT2阻害薬ダパグリフロジン10mgを比較した国際多施設共同試験である。結果は、orforglipronが全用量においてダパグリフロジンに対し血糖降下作用の非劣性および優越性を示し、再び「完全勝利」となった。PIONEER 2試験において経口セマグルチド14mgがエンパグリフロジン25mgを凌駕したことを踏まえれば2)、この結果は想定内とも言えるが、実臨床に与える影響は小さくない。 本邦の2型糖尿病の薬物治療アルゴリズム3)では、病態に応じた薬剤選択(肥満)の推奨薬として、メトホルミン、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の順に記載されている。SGLT2阻害薬が優先される理由は、豊富な心血管・腎臓への保護効果のエビデンスに加え、既存の経口GLP-1受容体作動薬が服用条件に制約があるのに対し、処方や内服が容易であるためである。しかし、他の降圧薬等と一包化も可能で服薬条件に縛られないorforglipronの登場は、血糖降下作用と利便性の両面でSGLT2阻害薬を上回る存在になりうる。現在実施中の心血管アウトカム試験(ACHIEVE-4)の結果次第では、将来的に推奨順位が逆転する可能性もある。 一方で、試験結果の解釈は慎重にすべき点もある。第一に、orforglipron群は盲検化されたがダパグリフロジン群は非盲検であったため、新薬への「期待バイアス」が生じた可能性は否めず、orforglipronの臨床効果は過大評価となった可能性である。第二に、消化器症状による脱落率の高さである。本試験では、ダパグリフロジン群の6%に対し、orforglipron群では15%以上と高率であった。継続できなければ期待される恩恵にあやかれない。第三に、DECLARE-TIMI 58やDAPA-CKDなどで確立された長期安全性や心腎保護、二次予防の観点では、依然としてダパグリフロジンに軍配が上がることである。新薬への「期待バイアス」は患者だけではなく処方する医師にも起こりうる。さらに盲点となるのが薬物相互作用である。CYP3A4に関連する薬剤(クラリスロマイシンやイトラコナゾール)などではorforglipronとの併用注意・併用回避が必要な場合があり、多剤併用中の高齢者への処方はとくに注意が必要である。 ともあれ、かつて脂質異常症の治療は食事療法が主体であったが、ストロングスタチンの登場により、厳格な食事指導が緩和された歴史がある。糖尿病においても食事療法が基本であることに変わりはないが、強力な食事制限なしに血糖値と体重の改善をもたらすorforglipronは、まさに糖尿病領域における「ストロングスタチン」となる可能性がある。日進月歩でGLP-1関連薬は次々と新薬開発が進むが、個々のライフスタイルに合わせた処方や早期介入が進むことで、糖尿病寛解が夢物語でなくなることを願うばかりである。

4.

経口GLP-1受容体作動薬elecoglipronは新たな肥満症治療薬として有効である(解説:住谷哲氏)

 elecoglipronはAstraZeneca社が開発中の経口GLP-1受容体作動薬である。先行するEli Lilly社のorforglipronと同じく絶食時の服用などの制限がなく、新たな肥満症治療薬として期待されている。本試験VISTAはelecoglipronの第IIb相の用量設定試験である。用量は5mgから75mgに設定された。対象は2型糖尿病を合併していない肥満/過体重患者である。主要評価項目は2つ設定され(dual primary endpoints)、26週後の体重減少率と26週後に5%以上の体重減少を来した患者の割合とされた。 主要評価項目の1つである26週後の体重減少率は、プラセボ群、5mg投与群、75mg投与群でそれぞれ-0.6%、-2.6%および-10.5%であり、すべての投与群でプラセボ群と比較して有意に減少していた。26週後に5%以上の体重減少を来した患者の割合は、プラセボ群、5mg投与群、75mg投与群でそれぞれ15.6%、40.4%および88.8%であった。さらに、副次評価項目である36週後の体重減少率は75mg投与群で-11.8%であり、26週時点では体重減少がプラトーに達していないことが示された。安全性についても、これまでのGLP-1受容体作動薬と同様に消化器系有害事象が多く認められた。 肥満症治療薬としての経口GLP-1受容体作動薬については、経口セマグルチド(商品名:Wegovy錠25mg)がすでに欧米で承認されており、米国ではorforglipron(商品名:Foundayo)も承認されている。第IIb相である本試験の結果を受けて、AstraZeneca社は第III相臨床開発プログラムであるEMBOLD試験をすでに開始している。さらに、他のglipron薬と同じく血糖降下薬としての承認を目指したSOLSTICE試験の結果もLancetの同日号に報告された1)。わが国でも経口薬による肥満症治療が可能になる日が近づいている。

5.

フィネレノンは糸球体疾患由来のCKDに対しても腎保護的である可能性がある(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しい? フィネレノン(商品名:ケレンディア)は、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(mineralocorticoid receptor antagonist:MRA)であり、ミネラルコルチコイド受容体(MR)の活性を抑制する。従来、本剤は糖尿病性慢性腎臓病(CKD)を適応とし、心・腎保護を目的に使用されてきた。 今回のFIND-CKD試験では、新たに非糖尿病性CKD患者を対象として、フィネレノンの腎保護効果が評価された。FIND-CKD試験の結果は、非糖尿病性CKD患者全体を対象とした主要解析を報告したNEJM論文(Heerspink HJL, et al. N Engl J Med. 2026 Jun 4. [Epub ahead of print])と、糸球体疾患を有するCKD患者を対象に事前規定された探索的サブグループ解析を報告したJAMA論文(本論文)の2報として公表されている。 NEJM論文では、主要アウトカムとしてフィネレノンによるeGFRスロープの有意な改善が示された。一方、本JAMA論文では、糸球体疾患を有するCKD患者においても、先行するNEJM論文の結果を支持する腎保護効果が示された。MRAによる腎保護療法の流れ 現在、糖尿病性CKDに対する腎保護を目的とした薬物療法として推奨されているのは、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nonsteroidal mineralocorticoid receptor antagonist:nsMRA)、およびGLP-1受容体作動薬である。このうち、RAS阻害薬とSGLT2阻害薬は第1選択薬として推奨されている一方、nsMRAはこれら2剤に追加して使用する薬剤として位置付けられており、推奨度はやや低い(Levin A, et al. Kidney Int. 2024;105:684-701.)。 nsMRAであるフィネレノンは、糖尿病性CKD患者を対象としたFIGARO-DKD試験、FIDELIO-DKD試験、および両試験の統合解析であるFIDELITYにおいて、心血管アウトカムおよび腎複合アウトカムの改善効果が示されている。これらのエビデンスを踏まえ、2024年KDIGOガイドラインでは、RAS阻害薬およびSGLT2阻害薬に追加する治療薬として、糖尿病性CKDの早期から心・腎保護を目的に使用することが推奨されている。 今回報告されたFIND-CKD試験は2報から構成されており、NEJM論文では非糖尿病性CKD患者全体を対象としてフィネレノンの腎保護効果が検証された。一方、JAMA論文(本論文)では、その対象集団のうち糸球体疾患を有するCKD患者に限定した事前規定の探索的サブグループ解析が報告された。FIND-CKD試験(JAMA論文)の結果の概要 FIND-CKD試験は、24の国・地域で実施された第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験であり、非糖尿病性CKD患者を対象とした。本試験の結果は2報として報告されており、NEJM論文では登録された全1,584例を対象とした主要解析が、一方、本JAMA論文では、そのうち糸球体疾患由来のCKDと診断された903例を対象とした事前規定の探索的サブグループ解析が報告された。 対象患者の平均年齢は51.1歳、女性は40.1%、アジア人は61.9%を占め、平均eGFRは48.8mL/min/1.73m2であった。また、尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)も評価された。約80%の患者では腎生検により組織学的診断が確定しており、その内訳はIgA腎症46.1%、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)23.8%、膜性腎症10.0%、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)1.8~3.9%で、一部は高血圧性腎硬化症であった。 全例で試験開始前に最大忍容量のRAS阻害薬が4週間以上投与されており、その上乗せ治療としてフィネレノンの有効性が検討された。その結果、ベースラインから32ヵ月までのeGFRスロープは、フィネレノン群で−3.50mL/min/1.73m2/年、プラセボ群で−4.23mL/min/1.73m2/年となり、群間差は0.73mL/min/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:0.22~1.24)であった。また、フィネレノン群ではベースラインから12ヵ月までのUPCRが42%(95%CI:35~48)低下した。さらに、腎不全への進行またはeGFRが40%以上低下する複合腎アウトカムの発生リスクは、プラセボ群と比較して26%低下した(100患者年当たり7.42件vs.9.60件、ハザード比:0.74、95%CI:0.57~0.97)。 以上より、フィネレノンは糸球体疾患を有する非糖尿病性CKD患者において、腎機能低下の抑制、蛋白尿の減少、および腎アウトカムの改善を示し、腎保護作用を有する可能性が示唆された。FIND-CKDから学ぶこと 本研究の最大のポイントは、非糖尿病性CKD患者を対象としたFIND-CKD試験において、糸球体疾患サブグループでもフィネレノンの腎保護効果を支持する結果が得られた点である。 まず留意すべき点は、既報のFIGARO-DKD試験およびFIDELIO-DKD試験と同様に、FIND-CKD試験もRAS阻害薬による標準治療にフィネレノンを上乗せした治療の有効性を検証した試験であり、フィネレノン単独の効果を評価したものではないことである。また、NEJM論文は、非糖尿病性CKD患者全体を対象としてフィネレノンの有効性を検証するために計画された確証的試験である。一方、本JAMA論文は、試験計画時から糸球体疾患患者を対象とした事前規定の探索的サブグループ解析として実施されたものである。したがって、その結果は仮説的・補足的な位置付けであり、統計学的な確証的結論を導くものではないことを明記しておく必要がある。 そのような制約があるにもかかわらず、本JAMA論文では、主要評価項目であるeGFRスロープの改善に加え、事前に設定された腎複合エンドポイントおよび心血管エンドポイントについても、一貫してフィネレノンに有利な傾向が認められた。したがって、IgA腎症をはじめとする糸球体疾患由来の非糖尿病性CKD患者においても、フィネレノンの腎保護作用を支持する結果が得られたと解釈することは妥当と思われる。ただし、その有効性が確立されたと結論付けるには、今後の独立した確証試験による検証が必要である。 MRA投与時の高カリウム血症について、糖尿病性CKDと非糖尿病性CKDで差異があるかどうかも興味深い点である。高カリウム血症の発現率は、糖尿病性CKDを対象としたFIGARO-DKD試験では10.8%(プラセボ群5.3%、群間差5.5%)、FIDELIO-DKD試験では18.3%(同9.0%、群間差9.3%)であった。一方、非糖尿病性CKDを対象としたFIND-CKD試験では17.0%(同13.3%、群間差3.7%)であり、プラセボ群との差は3試験中で最も小さかった。各試験の平均eGFRは、FIGARO-DKD試験で約68、FIDELIO-DKD試験で約44、FIND-CKD試験で約49mL/min/1.73m2であった。これらの試験間比較からは、(1)高カリウム血症の発現頻度は腎機能低下の程度と関連する可能性、(2)非糖尿病性CKDでは糖尿病性CKDと比べてフィネレノン投与に伴う高カリウム血症の増加幅が小さい可能性、の2点が示唆される。ただし、これらは異なる試験間の比較から得られた知見であり、患者背景や試験デザインの違いによる影響を受ける可能性があるため、これには慎重な解釈が必要である。一般に、糖尿病性CKDでは低レニン性低アルドステロン症(hyporeninemic hypoaldosteronism:HRHA)、インスリン作用不足、代謝性アシドーシスなどが高カリウム血症の誘因となりやすいことが知られている。今回のFIND-CKD試験の結果は、糸球体疾患を主体とする非糖尿病性CKDでは、nsMRA投与に伴う高カリウム血症の頻度が少ない可能性を示唆しており、副作用の観点からも注目される。 今後は、IgA腎症をはじめとする糸球体疾患由来の非糖尿病性CKD患者に対し、フィネレノンが真に腎保護作用を有するかどうかを検証する独立した確証試験の実施が期待される。

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経口GLP-1受容体作動薬elecoglipronは新たな血糖降下薬として有効である(解説:住谷哲氏)

 elecoglipronはアストラゼネカ社が開発中の経口GLP-1受容体作動薬である。先行するイーライリリー社のorforglipronと同じく絶食時の服用などの制限がなく、新たな血糖降下薬として期待されている。本試験SOLSTICEはelecoglipronの第IIb相の用量設定試験である。用量は5mgから75mgに設定され、対照にはプラセボ群と実薬対照としてセマグルチド14mgが投与された。主要評価項目は26週後のHbA1cの変化量とされた。 主要評価項目のHbA1cは5mg投与群の-0.91%から75mg投与群の-1.88%とすべての投与量でプラセボ群と比較して有意な減少を示した。対照のセマグルチド14mg投与群では-1.28%であった。安全性についてもこれまでのGLP-1受容体作動薬と同様に消化器系有害事象が多く認められた。 血糖降下薬である経口GLP-1受容体作動薬としてはセマグルチド(商品名:リベルサス)がすでに登場しているが、早朝空腹時に少量の水で服用し、その後少なくとも30分は絶飲食を必要とするため服薬アドヒアランスに問題がある。さらに吸収に個人差が大きく、血中有効濃度にも大きなばらつきがあるのが問題であった1)。その問題をクリアしたorforglipronが近々わが国でも承認される予定であり、それに続くのが本試験のelecoglipronとなる。 第IIb相である本試験の結果を受けて、アストラゼネカ社は第III相臨床開発プログラムであるELUMINATE試験をすでに開始している。さらに他のglipron薬と同じく肥満症治療薬としての承認を目指したVISTA試験の結果もLancetの同日号に報告された2)。この領域における新薬開発競争はまだまだ続きそうである。

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GLP-1受容体作動薬、脱毛症リスクは高いか/BMJ

 GLP-1受容体作動薬の潜在的な有害作用として、脱毛(脱毛症)が市販後調査により報告されている。米国・ペンシルベニア大学のHuilin Tang氏らは、2型糖尿病患者では、GLP-1受容体作動薬の使用はSGLT2阻害薬やDPP-4阻害薬と比較して、臨床的に記録された脱毛症、とくに非瘢痕性脱毛症のリスク上昇と関連することを示した。研究の成果は、BMJ誌2026年7月22日号に掲載された。脱毛症リスクを標的試験エミュレーションで評価 研究グループは、2型糖尿病患者におけるGLP-1受容体作動薬の脱毛症リスクを評価する目的で標的試験エミュレーション(target trial emulation)を行った(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成を受けた)。 データの収集には、ペンシルベニア大学健康システム(Penn Medicine)の電子健康記録を用いた。対象は、年齢18歳以上、2019年1月~2024年9月に新たにGLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬の投与を開始した2型糖尿病患者であった。 主要評価項目は、新規発症の脱毛症およびその亜型とした。sIPTW調整後の発生率が高い GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬の比較では、それぞれ1万2,004例(平均年齢58.1歳、女性55.5%)および1万5,221例(平均年齢64.5歳、女性38.1%)の新規投与開始例を、GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬の比較では、それぞれ1万1,964例(平均年齢58.0歳、女性55.5%)および1万1,233例(平均年齢66.9歳、女性48.1%)を登録した。 安定化逆確率重み付け(sIPTW)で調整後の脱毛症の発生率は、SGLT2阻害薬群(平均追跡期間2.36年)が5.04/1,000人年であったのに対し、GLP-1受容体作動薬群(平均追跡期間2.39年)は6.91/1,000人年と高い値を示した(ハザード比[HR]:1.37、95%信頼区間[CI]:1.08~1.73)。 同様に、DPP-4阻害薬群(平均追跡期間2.95年)のsIPTW調整後の脱毛症発生率が3.89/1,000人年であったのに比べ、GLP-1受容体作動薬群(平均追跡期間2.91年)は6.53/1,000人年であり、より高率だった(HR:1.68、95%CI:1.28~2.20)。円形・アンドロゲン性などとの関連はない 脱毛症の亜型別の解析では、GLP-1受容体作動薬と脱毛症の関連性は非瘢痕性脱毛症に特有のものだった。SGLT2阻害薬群およびDPP-4阻害薬群と比較したGLP-1受容体作動薬群における非瘢痕性脱毛症のハザード比は、それぞれ1.53(95%CI:1.18~1.97)および1.72(95%CI:1.28~2.31)であった。一方、GLP-1受容体作動薬群は、SGLT2阻害薬群およびDPP-4阻害薬群に比べ、円形脱毛症、アンドロゲン性脱毛症、瘢痕性脱毛症の発生率が高かったが、いずれも有意な関連は認められなかった。 著者は、「これらの知見は、GLP-1受容体作動薬による治療を検討する際の共有意思決定に役立つ可能性があり、今後の研究において皮膚科関連アウトカムの評価をさらに進める必要性を強調するものである」としている。 また、GLP-1受容体作動薬と脱毛症の関連性の基盤となる最も可能性の高いメカニズムとして、治療による体重減少およびカロリー摂取量の減少を挙げ、「これが生理的ストレスや微量栄養素(鉄、亜鉛、ビオチンなど)の欠乏を招き、毛髪の成長サイクルを乱す可能性がある」とし、「すなわち、脱毛は薬剤の直接的な作用というよりは、代謝性変化による下流の影響を反映している可能性が示唆される」と指摘する。 さらに、「最も頻度の高い亜型である非瘢痕性脱毛症は、急速な体重減少と関連することが多く、通常は可逆的である。この事実は、患者を安心させ、治療継続を支援する一助となりうる」と指摘している。

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基礎インスリンで治療中の2型糖尿病患者における、cagrilintide/セマグルチド配合薬の追加治療の有効性と安全性(解説:田村嘉章氏)

 cagrilintide(C)は長時間作用型アミリンアナログであり、満腹感の増加、食欲抑制効果により体重減少効果をもつ。また食後のグルカゴン分泌を抑制し血糖降下作用を示すと考えられている。CagriSemaは、CとGLP-1受容体作動薬セマグルチド(S)との配合薬であり、2型糖尿病患者への投与の効果をみたREDEFINE 2試験では、CagriSema投与群ではHbA1c、体重とも、S単独群より減少効果が大きいことが示されている1)。 本研究(REIMAGINE 3)は、1日1回の基礎インスリン投与を行っている2型糖尿病患者に対し、CagriSemaをアドオン投与することによる有効性と安全性を評価するプラセボ対照二重盲検試験である。日本を含む6カ国(アジア人46%)のBMI≧25、HbA1c 7.0~10.5%の2型糖尿病患者274例(平均年齢59歳、平均HbA1c 8.8%、平均BMI 31.6、85%でメトホルミンを併用)を、2:2:1:1の割合で、CagriSema(C、Sともに)2.4mg群、CagriSema(C、Sともに)1.0mg群、それぞれの実薬群用量に対応するプラセボ(P)群に割り付けた。CagriSema群では4週ごとに薬剤がそれぞれ4回、2回増量された。基礎インスリンは、HbA1c≦8%の患者では開始時に20%減量し、以降は空腹血糖80~130mg/dLとなるように調節された。主要エンドポイントは40週におけるHbA1cの変化、2次エンドポイントはHbA1cの目標達成率、体重減少率、インスリン投与量の変化などである。 全体として85%以上の患者に投与完了(80%以上で目標量に到達)した。40週のHbA1cは2.4mg群で-2.33%、1.0mg群で-2.10%、P群では-0.66%で、実薬群で有意に低下し、HbA1c<7%を2.4mg群で75%、1.0mg群では70%で達成した(P群では16%)。インスリンはP群で18U増加したのに対し、実薬群ではいずれも2U減少した。体重は2.4mg群で-12.0%、1.0mg群で-10.4%、P群で+1.1%で、実薬群で有意に減少した。有害事象は、消化器系の異常が2.4mg群で57%、1.0mg群で45%(P群23%)と多かったが、軽~中等度であった。重症低血糖はなく、非重症低血糖の頻度はP群と同等であった。なお、収縮期血圧や、HDL-C、non-HDL-Cなどの脂質プロファイルにも改善が認められた。 この結果は、基礎インスリン使用でコントロールが不十分であるが低血糖リスクや体重増加の懸念により治療強化が困難な2型糖尿病患者に対し、CagriSemaが追加治療の有効な選択肢となることを示した点で重要である。ただし、本試験ではC単独群やS単独群が設定されていないため、各単剤と比較したCagriSemaの効果については明らかではない。なお、CagriSemaもSと同様に心血管イベント抑制効果を有することが期待されるが、これを支持する直接的なエビデンスは現時点では得られていない。現在、心血管疾患を有する患者における心血管イベントへの影響を検証するための第III相試験(REDEFINE 3)が進行中であり、結果が待たれる。

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セマグルチド使用拡大で誤使用による相談が急増

 米国では、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)のセマグルチドが肥満症治療薬として承認されて以降、中毒情報センターへの電話相談が急増しているという実態が報告された。その多くは、投与量を間違えてしまったという相談だという。米テキサス大学サンアントニオ校のJordan Miller氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Medical Toxicology」4月号に掲載された。 GLP-1RAは当初、2型糖尿病(T2DM)の治療薬として上市されたが、米国では2021年に肥満症治療薬としても承認され、それを機に処方が拡大した。特に、週1回皮下注射するタイプのセマグルチドが承認された後に、より顕著な増加が生じた。 GLP-1RAの副作用として、消化器症状が高頻度に生じることは、T2DM治療に用いられていた時点で明らかにされていた。しかし、肥満症治療目的で使用されるようになって以降に、薬の使用に伴う問題の発生状況がどのように変化したかは十分研究されていない。これを背景にMiller氏らは、中毒情報センターで受け付けた症例情報が集約されている、全米中毒データシステム(NPDS)のデータを用いた検討を行った。 解析対象期間は2012~2023年とし、米食品医薬品局(FDA)が週1回投与タイプのセマグルチドを肥満症治療薬として承認した2021年6月4日以降の変化を評価するため、同年7月1日を境に承認前後の期間に分けた。GLP-1RA関連の相談件数や患者背景が、同薬の承認前後でどのように変化したかを解析した。 対象期間中に報告されたGLP-1RA関連の相談は1万33件だった。このうち承認前は3,113件であったのに対して、承認後は6,920件であり約2.2倍となっていた。患者の年齢は、承認前が57.0±13.3歳、承認後は51.6±14.7歳と有意に若年化し、女性の割合は68.9%から78.2%へと有意に上昇していた(いずれもP<0.001)。 報告件数をGLP-1RAの種類別に見た場合、承認前はリラグルチドが33.9%で最多であり、次いでデュラグルチドが29.5%、セマグルチドは24.6%で3位だった。しかし承認後はセマグルチドが64.2%を占め、次いでデュラグルチドが12.7%、リラグルチドが8.8%の順に変化していた。著者らは、セマグルチド関連の相談増加の背景として、同薬への注目度の高まりや利用者の急増が影響した可能性を挙げている。 報告事例の多くは患者の意図的な不適切使用ではなく、投与量などを誤ってしまったことによるものだった。頻繁に報告されていた誤りには二つのパターンがあり、一つはセマグルチドを週1回ではなく毎日注射してしまったというもの、もう一つは段階的に増量する手順を守らず、最初から最大量を注射してしまったというものだった。報告された症状の大半は軽度の消化器症状であったが、医療機関で管理された、または医療機関への紹介を要した患者の割合は、承認前の23.0%から承認後は33.5%へ増加していた。 著者らは、「報告に見られたミスの多くは予防できる内容であり、患者教育の改善によって減らすことができる」と述べている。

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J-CLEAR特別座談会(10)「慢性腎臓病(CKD)治療の新時代―新規治療薬の使い分けと注意点」

J-CLEAR特別座談会(10)「慢性腎臓病(CKD)治療の新時代―新規治療薬の使い分けと注意点」糖尿病や心不全の治療薬としても用いられるSGLT2阻害薬、非ステロイド型選択的MR拮抗薬フィネレノン、GLP-1受容体作動薬は、今や慢性腎臓病(CKD)治療を大きく変革する腎保護薬として主役を担っています。今回のJ-CLEAR特別座談会では、非糖尿病患者を含むCKDへの効果、IgA腎症の最新動向、脱水や高カリウム血症など、臨床現場での注意点と使い分けを専門医が多角的に議論します。なお、この番組は2026年6月10日に収録したもので、当時の情報に基づく内容であることをご留意ください。慢性腎臓病(CKD)治療の新時代―新規治療薬の使い分けと注意点司会    桑島 巖 氏臨床研究適正評価教育機構 理事長、東都クリニック 高血圧専門外来出演    栗山 哲 氏東京慈恵会医科大学 客員教授石上 友章 氏横浜市立大学 特任教授浦 信行 氏札幌西円山病院 名誉院長オブザーバー吉岡 成人 氏NTT東日本札幌病院 院長

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リラグルチドの胃排出遅延は食欲抑制に直接影響せず

 GLP-1受容体作動薬の作用として胃排出遅延と食欲抑制は知られているが、両者に関連性はあるのだろうか。このテーマに関して、米国・モネル化学感覚研究所のMark I. Friedman氏らの研究グループは、リラグルチド投与群の症例の胃排出と満腹感の測定値およびエネルギー摂取量との相関関係を検討した。その結果、胃排出遅延は、リラグルチドの食欲抑制作用において直接的な役割をほとんど果たしていないことが示唆された。この結果はObesity誌オンライン版2026年7月2日号で公開された。リラグルチドの胃排出遅延は食欲抑制作用に数%だけ影響 研究グループは、GLP-1受容体作動薬リラグルチド投与中の胃排出遅延と食欲抑制との関連性評価を目的に、肥満患者を対象とした16週間の無作為化プラセボ対照リラグルチド試験の2次データ解析を実施した。ベースライン時および治療終了時において、コホート全体、および試験を完了したプラセボ群とリラグルチド投与群について、固形食の胃排出と満腹感の測定値およびエネルギー摂取量との相関関係を検討した。また、治療中に正常な胃排出、持続的な胃排出遅延、または一過性の胃排出遅延を示したリラグルチド投与群の参加者間で食欲に関する指標を比較した。 主な結果は以下のとおり。・全コホートにおいて、ベースライン時および試験終了時、胃排出はエネルギー摂取量と有意な相関を示し、ベースライン時には満腹感の指標の1つとも有意な相関を示した。・胃排出は、これらの食欲関連指標の変動のわずか4~6%にしか影響していなかった。・プラセボ群またはリラグルチド投与群のいずれか単独では、このような相関は認められなかった。・リラグルチド治療中に異なる胃排出パターンを示したサブグループ間において、食欲関連指標に差は認められなかった。 研究グループは、これらの結果から「胃排出の遅延は、リラグルチドによる食欲抑制に直接的な役割をほとんど果たしていないことが示唆された。今後の研究で、胃排出遅延や、ほかのGLP-1受容体作動薬による胃腸管への影響が、食欲に直接的または間接的に影響を与えるかどうかを検証する必要がある」と考察している。

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第70回 あなたの体は何歳ですか?「老化時計」が明かす、臓器ごとに進む老いの正体

この100年で人間の平均寿命はおよそ2倍になりました。ところが、健康に過ごせる期間(健康寿命)は同じペースでは延びておらず、心臓病やがん、認知症、身体の障害などを抱えて暮らす人はむしろ増えています。この「長生きするけれど健康ではない」というギャップを埋める鍵として注目されているのが、老化の速さそのものを数値で測る「生物学的時計」です。今回はそんな概念を取り扱った論文をもとに最新の知見をシェアしていきます1)。老化は「一定のスピード」では進まないかつて老化は、誰の体でも年齢とともに一定の速さで進むものと考えられてきました。しかし近年の大規模な研究で、その常識は覆されつつあります。血液中のタンパク質やDNAの変化を数万人規模で追跡すると、老化は一定ではなく、人生のなかで何度か「波」となって加速することがわかってきたのです2)。論文の中では、成人期におよそ3つの大きな転換期があると指摘されています。目安は「30~40歳ごろ」「60~70歳ごろ」「80歳前後」。この時期に体内の分子レベルの変化が一気に進むことが、複数の独立した研究で繰り返し確認されています。つまり老化は坂道をなだらかに下るというより、階段を数段まとめて下りるようなイメージに近いのです。この転換期は、生活を見直したり対策を打ったりする「介入の窓」にもなりうると期待されています。脳と免疫の「若さ」が寿命を左右するもう1つの重要な発見が、同じ人の体の中でも臓器ごとに老化のスピードが違うということです。心臓は実年齢より若いのに、肝臓は老けている、といったことが実際に起こります。英国の大規模データを用いた研究では、ある臓器が実年齢より「老けている」人ほど、その臓器に関連する病気や死亡のリスクが高いことが示されました。とくに3つ以上の臓器で老化が進んでいる人では、その傾向がはっきりと強まります。また、脳の生物学的な老化が進んでいる人では、アルツハイマー病を発症するリスクが約3.1倍に上ったと報告されています。逆に、脳や免疫が「若い」状態を保っている人は長生きしやすい傾向がありました3)。老化時計を活用することで、症状が出るより何年も前に、リスクの高い人を見つけ出せる可能性もあるわけです。老化時計は遅らせられる?では、この時計の進み方は変えられるのでしょうか。論文によれば、運動、適度なカロリー制限、オメガ3脂肪酸やビタミンDの摂取などが、DNAの老化の指標をわずかに遅らせる可能性が報告されています4)。また、少し有名な話になりましたが、帯状疱疹ワクチンの接種者で認知症が少なく、老化が緩やかだったという研究も複数あります5)。糖尿病や肥満の治療に使われるGLP-1受容体作動薬にも、老化を遅らせる働きの可能性が指摘されています。ただし、過度な期待は禁物です。これらの効果は示されているとしてもまだ「わずか」で、長期的に寿命や健康寿命を本当に延ばすのかは未確認です。また、市販されている老化測定検査は測定方法がバラバラで標準化されておらず、同じ人が受けても結果が大きく食い違うことがあります。現時点では、個人が一度の検査結果に一喜一憂する段階にはありません。大切なのはおそらく、特別な検査を受けることよりも、運動・睡眠・食事といった昔から知られた生活習慣が、体の「老化時計」の進み方に確かに影響するという事実です。ただし、ここでご紹介した「老化時計」は、病気になってから治す「後追いの医療」から、リスクを早期に見つけて防ぐ「先手の医療」へと転換する、次の大きな一歩になろうとしているのもまた事実だと思います。1)Wyss-Coray T, et al. Biological aging clocks in health and disease. Nat Med. 2026;32:2383-2394.2)Oh HS, et al. Organ aging signatures in the plasma proteome track health and disease. Nature. 2023;624:164-172.3)Balachandran A, et al. Pace of aging associations of healthspan and lifespan in older adults in the US and UK. Nat Aging. 2025;5:1132-1142.4)Belsky DW, et al. DunedinPACE, a DNA methylation biomarker of the pace of aging. eLife. 2021;11:e73420.5)Kim JK, et al. Association between shingles vaccination and slower biological aging: evidence from a U.S. population-based cohort study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2026;81:glag008.

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診療科別2026年上半期注目論文5選(糖尿病・代謝・内分泌内科編)

Orforglipron for maintenance of body weight reduction: the double-blind, randomized phase 3b ATTAIN-MAINTAIN trialArrone LJ, et al. Nat Med. 2026 May 13. [Epub ahead of print]<ATTAIN-MAINTAIN>:orforglipronは、チルゼパチド・セマグルチドによる減量維持に有用SURMOUNT-5研究(糖尿病のない肥満症者対象)でチルゼパチド・セマグルチドにより5%以上減量した人を対象に、注射薬から経口GLP-1受容体作動薬orforglipronへ切り替えたところ、52週後の減量維持率はプラセボ群より有意に高く、体重リバウンド予防への有用性が示されました。一方で消化器系副作用の多さが今後の課題です。Tirzepatide for the Treatment of Obstructive Sleep Apnea and ObesityMalhotra A, et al. N Engl J Med 2024;391:1193-205.<SURMOUNT-OSA>:チルゼパチドは閉塞性睡眠時無呼吸を改善する肥満(BMI≧27)を伴う中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸患者において、52週間のチルゼパチド投与により体重が最大約20%減少しAHIが最大約29回/時間減少しました。2026年5月にチルゼパチドが本邦でも閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療薬としても承認されました。本論文は2024年発行ですが、保険適用に伴い改めて取り上げました。処方条件については最適使用推進ガイドラインを確認しましょう。Finerenone in Type 1 Diabetes and Chronic Kidney DiseaseHeerspink HJL, et al. N Engl J Med 2026;394:947-57.<FINE-ONE>:フィネレノンは1型糖尿病の腎症進展抑制に有用1型糖尿病で微量~顕性アルブミン尿期の腎症を合併している患者において、フィネレノンは6ヵ月間で尿中アルブミン/クレアチニン比を顕著に減少させました。ただし、短期間の介入であること、代用エンドポイントを指標としていることから長期的な臨床効果や安全性(とくに高カリウム血症のリスク)の評価は今後の課題です。Intensive LDL Cholesterol Targeting in Atherosclerotic Cardiovascular DiseaseLee YJ, et al. N Engl J Med 2026;394:1365-75.<Ez-PAVE>:心血管疾患合併者では、LDL-Cの超厳格管理により心血管リスクが低減する心血管疾患を有する韓国人では、LDL-Cの目標値を55mg/dL未満に設定すると、70mg/dL未満を目標とした場合よりもイベントリスクがさらに低下しました。ただし、非盲検試験であるため効果が過大評価されている可能性がある点と、低リスク者における有効性は未確立である点に注意が必要です。Histological efficacy of anti-diabetic agents in MASH and the mediating role of weight loss: A network meta-analysisBanerjee M, et al. Diabetes Obes Metab. 2026;28:287-295.<ネットワークメタアナリシス>:SGLT2阻害薬とインクレチン関連薬はMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)を改善するSGLT2阻害薬およびインクレチン関連薬は生検で確定診断されたMASHにおいて線維化を改善することが示されました。その効果には体重減少が大きく寄与していることが示唆されましたが、それ以外の直接的な作用の可能性も想定されています。2026年6月にセマグルチドが日本初のMASH治療薬として承認されました。処方条件については最適使用推進ガイドラインを確認しましょう。

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複数の降圧薬とGLP-1RA併用で低血圧関連イベント増加の可能性

 複数の降圧薬を服用している人がGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)を併用した場合、めまいや失神、転倒などの低血圧関連イベントのリスクが高まることを示唆するデータが報告された。高齢者や2型糖尿病(T2DM)患者はそのリスクがより高い可能性があるという。米ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部およびノースウェスタン・メディシンのMicah Eimer氏らが、米国内分泌学会年次集会(ENDO 2026、6月13~16日、シカゴ)で発表した。 GLP-1RAは、代謝・心血管・腎疾患の治療薬として広く処方されている。その副作用の多くは消化器症状であるが、低血圧が生じたとの症例報告も存在する。Eimer氏らは、電子カルテデータを用いて、セマグルチド、チルゼパチド、リラグルチドのいずれかが処方開始された外来患者を対象とする、個人内比較による後向き観察研究を実施した。 解析対象は、18歳以上で少なくとも2種類の降圧薬が処方され、血圧測定結果が記録されていた4万2,262人とした。GLP-1RA処方開始前後での低血圧関連イベントの発生率を評価した。低血圧関連イベントは、低血圧の新規診断、失神または前失神状態、めまい、転倒、収縮期血圧90mmHg以下の記録、昇圧薬の処方、これらで構成される複合エンドポイントとして定義した。 解析の結果、GLP-1RAの処方開始後に、低血圧関連イベントの発生率が有意に上昇していた。処方開始後6カ月では、発生率が8.7%から10.2%へと増えていた(P<0.001)。同様に、開始後12カ月では、13.6%から14.3%へと増加していた(P=0.003)。開始後24カ月では、17.7%から18.1%へと増加したものの、統計学的有意差は認められなかった(P=0.061)。 また、GLP-1RAが処方された患者における低血圧関連イベントは、特に65歳以上の高齢者とT2DM患者で多い傾向が認められた。具体的には、対象集団に占める高齢者の割合は37%だったのに対し、低血圧関連イベントの53%を高齢者が占めていた。同様に、T2DM患者は対象集団の63%を占めていた一方で、低血圧関連イベントの75%を占めていた。 なお、40例を対象としたサブ解析では、GLP-1RAが処方された患者の約25%で、追跡期間中に降圧薬の処方薬剤数または投与量が減らされていた。これも、低血圧を回避するために降圧薬が調整された可能性を示唆するものと考えられた。また、GLP-1RA処方後の低血圧関連イベントの増加との関連は、体重変化を考慮しても維持された。 Eimer氏は、「GLP-1RAの効果は絶大で私もその使用を支持する1人だが、一部の患者では低血圧に注意する必要があると考えている。既に複数の降圧薬が処方されている患者の場合、医師は注意深く経過を観察する必要があるだろう」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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日本初のMASH治療薬、MASLD/MASH診療は新たな局面に/ノボ

 代謝機能障害関連脂肪肝疾患(MASLD)および代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)の診療は、近年病名変更や非侵襲的診断法(NIT)の進歩によって様変わりした。一方で、肝線維化の進展を抑制する薬物療法は長らく存在せず、生活習慣改善が治療の中心であった。そのような中、2026年6月、すでに肥満症治療薬として広く用いられているGLP-1受容体作動薬セマグルチド(商品名:ウゴービ)が、日本で初めてMASHを適応症とする追加承認を取得し、国内のMASLD/MASH診療は新たな局面を迎えた。 ノボ ノルディスク ファーマは6月30日にプレスセミナーを開催し、国際医療福祉大学 消化器内科統括教授の中島 淳氏が「日本初MASH治療薬がもたらす未来」をテーマに講演を行った。同氏は「これまでMASH患者が肝硬変や肝細胞がんへ進展していくのをみているしかなかったが、ようやく治療薬を手にすることができた」と述べた。「脂肪量」ではなく「線維化」が予後を決める MASLDは、かつてNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)と呼ばれていた疾患概念で、2023年に国際的なコンセンサスを得て名称が変更された。現在では代謝異常を背景とする脂肪性肝疾患として位置付けられ、その中で肝炎を伴う病態がMASHと定義されている。 日本ではMASLD患者は約2,500万例に達すると推定され、MASH患者も100万例規模に上ると考えられている。健康診断データでは脂肪肝の有病率は25.8%と4人に1人を超え、さらに進行線維化が疑われる症例も約1%存在するなど、肝疾患の中で患者数が最も多い疾患となっている。 MASLDは自覚症状に乏しい「サイレントキラー」である。線維化はF0からF4(肝硬変)へと数十年かけて進行するが、その速度は線維化の進展とともに加速する。F0~F1から肝硬変までは30年以上を要する一方、F2では約20年、F3では約6年で肝硬変に至るとされる。さらに肝硬変へ進展すると肝細胞がんや非代償性肝硬変のリスクが急激に高まる。 中島氏は、「疾患が悪化するかは脂肪肝であること自体ではなく、線維化がどこまで進んでいるかによるところが大きい」と説明した。実際、約9,700例を20年間追跡した解析では、脂肪量や炎症よりも線維化の有無が無イベント生存期間を最も強く規定する因子であることが示されている。 また、日本人MASLD患者を対象としたCLIONE試験では、線維化ステージの進展に伴い全死亡、肝関連イベント、肝細胞がんの発症率が段階的に上昇することも報告されている。死亡原因は肝疾患だけでなく、心血管疾患や他臓器がんも多く認められ、MASLDが全身性疾患であることも改めて示されている。診療のカギはF2以上のハイリスク患者をいかに拾い上げるか 一方で、近年は診断法も大きく進歩した。従来の肝生検に代わり、FIB-4 indexやM2BPGi、ELFスコアなどの血液バイオマーカーに加え、VCTE(FibroScan)やMRエラストグラフィなど非侵襲的検査が普及している。 2026年4月に改訂された「MASLD診療ガイドライン」では、FIB-4 indexを用いた1次リスク評価を起点とし、中間・高リスク例ではエラストグラフィや線維化マーカーを組み合わせて評価する診療アルゴリズムが推奨された。中島氏は、「最も重要なのはF2以上の患者を早期に見つけることであり、かかりつけ医と肝臓専門医との連携が不可欠になる」と述べた。 さらに同氏は、近年の肝細胞がんの原因も大きく変化していると指摘した。C型肝炎に対する直接作用型抗ウイルス薬の普及によりC型肝炎由来の肝細胞がんは減少した一方、MASLD/MASH由来の肝細胞がんは増加を続けている。「都市部では肝切除症例の大部分がMASLD由来となっている」と述べ、今後の肝臓診療ではMASLD対策が重要課題になるとの認識を示した。ESSENCE試験で2つの主要評価項目を達成 今回の適応追加の根拠となったのは、F2またはF3線維化を有するMASH患者800例(日本人116例を含む)を対象とした国際共同第III相ESSENCE試験である。 被験者は標準治療+セマグルチド2.4mgまたはプラセボに2対1で無作為化され、72週時点で肝生検による組織学的評価が行われた。主要評価項目は、「線維化悪化を伴わないMASH消失」と「MASH悪化を伴わない線維化改善」の2項目であった。 その結果、「線維化悪化を伴わないMASH消失」はセマグルチド群62.9%、プラセボ群34.3%で達成され、「MASH悪化を伴わない線維化改善」もそれぞれ36.8%、22.4%となり、いずれも統計学的有意差を示した。 また、副次評価項目ではALT、AST、γ-GTPの改善に加え、CAPによる肝脂肪量、VCTEによる肝硬度、線維化関連バイオマーカーの改善も確認された。組織学的にも脂肪化や炎症、肝細胞風船様変性の改善が認められ、線維化改善を示唆する結果となった。 安全性については、新たな重大な懸念は認められなかったものの、悪心、下痢、便秘などGLP-1受容体作動薬に特徴的な消化器症状はプラセボ群より高頻度で認められた。実臨床では漸増投与や副作用マネジメントが重要となる。早期診断・早期介入の時代へ 中島氏は、「これまでは薬がなかったため、糖尿病医やかかりつけ医から専門医へ紹介されない患者も多く、腹水や巨大肝がんを契機に初めて紹介されるケースも少なくなかった」と振り返る。その上で、「今後はF2~F3の段階で患者を拾い上げ、治療介入することで、肝硬変や肝細胞がんへの進展を防げる可能性がある」と述べ、今回の適応追加を「MASLD/MASH診療におけるゲームチェンジャー」と位置付けた。 薬物療法の選択肢が加わったことで、MASLD診療は「経過観察」から「積極的治療」へと大きく転換しつつある。今後はFIB-4 indexをはじめとする非侵襲的評価を活用したハイリスク患者の早期抽出と、適切な専門医紹介、薬物療法を含めた包括的な管理体制の構築が、国内のMASH診療における重要な課題となりそうだ。【最適使用推進ガイドライン抜粋】・適応:「肝硬変を伴わないMASH。ただし、中等度又は高度の線維化を有する場合に限る」→肝線維化ステージがF2又はF3に線維化が進行した患者であることを、生検によって確認すること。なお、「肝生検ガイダンス」(日本肝臓学会編)19の禁忌の項を参考に、生検の実施が適切ではないと判断された場合には、非侵襲的検査(NIT)に基づき判定すること。・用法及び用量:成人には0.25mgから投与を開始し、週1回皮下注射。その後は4週間の間隔で、週1回0.5mg、1.0mg、1.7mg及び2.4mgの順に増量し、以降は2.4mgを週1回皮下注射。なお、患者の状態に応じて適宜減量する。・施設要件:消化器内科、肝臓内科、内科のいずれかを標榜している保険医療機関・医師要件: MASH又はNASHの診療を5年以上行っていること

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GLP-1受容体作動薬、肥満関連がんの進行を抑制か

 新たな研究により、GLP-1受容体作動薬が一部の肥満関連がんの転移進行リスクを抑制する可能性が示された。GLP-1受容体作動薬はもともと糖尿病治療薬として開発されたが、現在は肥満症や心血管疾患の治療にも広く用いられている。米Taussig Cancer InstituteのMark David Orland氏らによるこの研究結果は、米国臨床腫瘍学会(ASCO 2026、5月29~6月2日、米シカゴ)で発表された。 米フォックス・チェイスがんセンターで支持療法腫瘍学・緩和ケアプログラム責任者を務めるMarcin Chwistek氏は、「GLP-1受容体作動薬は、これまでも単なる血糖降下薬ではなかった。その抗炎症作用および免疫調節作用から、以前より幅広い作用を持つことが示唆されている」と述べている。 今回の研究でOrland氏らは、TriNetXの国際的なリアルワールドデータネットワークを用いて、ステージ1~3のがんの診断を受け、診断後にGLP-1受容体作動薬による治療を開始した1万225人の健康データを解析した。対象としたがんは、乳がん、前立腺がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、大腸がん、肝細胞がん、腎細胞がん、膵臓がんの7種類とした。これらの患者と社会人口統計学的特徴やBMI、血糖関連因子などを一致させた、診断後にDPP-4阻害薬による治療を開始した患者を対照とし、ステージ4(転移がん)への進行リスクを比較した。 その結果、GLP-1受容体作動薬群では7種類中6種類のがんで転移がんへの進行リスクの低下が認められ、うち4種類(NSCLC、乳がん、大腸がん、肝細胞がん)での低下は統計学的に有意であった。進行リスクは、NSCLCで50%、乳がんで43%、大腸がんで31%、肝細胞がんで38%の低下であった。GLP-1受容体作動薬群において、新たな安全性シグナルや有害事象の増加は認められなかった。さらに、The Cancer Genome Atlas(TCGA)の遺伝子データを解析して、GLP-1受容体の発現と全生存期間との関連を検討した。その結果、腫瘍でのGLP-1受容体の発現が高い患者では、死亡リスクが33%低いことが示された。がん種ごとに検討すると、特に乳がんでのリスク低下は45%と顕著であった。 Orland氏らは、これらの結果は、GLP-1受容体作動薬の抗炎症作用および免疫調節作用により説明される可能性があるとしている。また、本研究は観察研究であり、因果関係を証明するものではないとして慎重な解釈を求める一方で、「将来、臨床試験を実施する上で十分な根拠となる有望な結果だ」との見方も示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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survodutide、非糖尿病の肥満成人で顕著な体重減少/NEJM

 非糖尿病の肥満成人において、survodutideの週1回投与はプラセボと比較して、10%以上の体重減少とともに、ウエスト周囲長や糖化ヘモグロビン値、脂質値にも良好な影響を及ぼすことが、アイルランド・ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンのCarel W. le Roux氏らSYNCHRONIZE-1 Investigatorsの「SYNCHRONIZE-1試験」において示された。survodutideは、グルカゴン受容体とGLP-1受容体の二重作動薬であり、非糖尿病の肥満成人を対象とした第II相試験で、大幅な体重減少をもたらしたと報告されている。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年6月7日号に掲載された。14ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 SYNCHRONIZE-1試験は、日本を含む14ヵ国116施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験(Boehringer Ingelheimの助成を受けた)。 2023年11月~2026年2月に、年齢18歳以上、BMI値≧30、または≧27かつ糖尿病を除く1つ以上の肥満関連合併症(高血圧、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸症、心血管疾患、代謝機能障害関連脂肪肝炎[MASH])を有し、少なくとも1回の減量目的の食事療法に失敗した経験があると事前に申告した者を登録した。 被験者725例(平均年齢47.1歳、男性294例[40.6%]、アジア系22.3%)を、survodutide最大3.6mg(241例)、同6.0mg(242例)、プラセボ(242例)を週1回皮下投与する3群に無作為に割り付けた。すべての被験者が、生活習慣の是正のためのカウンセリングを受けた。 主要エンドポイントは2つで、ベースラインから76週時の体重の変化率と、5%以上の体重減少であった。体重の平均変化率、survodutide 3.6mg群-12.2%vs.6.0mg群-13.0%vs.プラセボ群-5.4% ベースラインの平均BMI値は37.9、平均体重は108.8kg、平均ウエスト周囲長は115.0cmであった。被験者の94.9%がBMI値≧30で、69.7%が1つ以上の肥満関連合併症を有しており、高血圧(40.1%)、脂質異常症(33.9%)、閉塞性睡眠時無呼吸症(18.3%)の頻度が高かった。 76週時点で、ベースラインからの体重の平均変化率は、survodutide 3.6mg群-12.2%(95%信頼区間[CI]:-13.6~-10.8)、6.0mg群-13.0%(95%CI:-14.4~-11.6)、プラセボ群-5.4%(95%CI:-6.9~-4.0)であった。プラセボ群との平均変化率の差は、survodutide 3.6mg群-6.8%ポイント(95%CI:-8.8~-4.8)、6.0mg群-7.5%ポイント(95%CI:-9.6~-5.5)と、いずれの用量群ともプラセボ群に比べ減量効果が有意に優れた(両比較ともp<0.001)。 この間の体重の平均絶対変化量は、survodutide 3.6mg群-13.1kg(95%CI:-14.7~-11.6)、6.0mg群-14.1kg(95%CI:-15.6~-12.6)、プラセボ群-5.9kg(95%CI:-7.5~-4.4)であった。 また、5%以上の体重減少を達成した被験者の割合は、survodutide 3.6mg群72.6%、6.0mg群71.9%、プラセボ群46.3%であり、プラセボ群との比較のオッズ比はsurvodutide 3.6mg群が3.1(95%CI:2.0~4.7)、6.0mg群は3.0(95%CI:2.0~4.4)と、いずれの用量群とも有意に高かった(両比較ともp<0.001)。 survodutideの2つの用量群で、ウエスト周囲長も有意に改善し、糖化ヘモグロビン値、空腹時血糖値、脂質値、肝機能マーカーにも全般的に良好な影響を認めた。胃腸症状が高頻度、重症低血糖の発現はない 最も頻度の高かった有害事象は胃腸症状であり、survodutide 3.6mg群80.9%、6.0mg群89.7%、プラセボ群47.9%に発現した。これらは、主に吐き気、嘔吐、下痢、便秘であり、重症度は多くが軽度~中等度で、各群の17.8%、20.2%、2.9%で試験薬の投与中止に至った。 重篤な有害事象は、survodutide 3.6mg群8.3%、6.0mg群8.3%、プラセボ群6.2%にみられた。高血糖や抑うつはsurvodutide群で頻度が低かった。重症低血糖や死亡例の報告はなかった。 著者は、「肥満治療薬の減量依存的な効果と非依存的な効果の両方が、肥満関連合併症の改善に寄与している可能性があり、われわれは、一部のアウトカムにおいては、減量達成のメカニズムが、減量の程度と同じくらい重要である可能性があるとの仮説を立てている」「本薬の安全性プロファイルは、GLP-1受容体作動活性を有する他の肥満治療薬と同様と考えられ、治療開始後早期に発現した消化器系の副作用は、緩徐で柔軟な用量漸増と対症療法などの対策で多くが軽減した」としている。

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中等度~重度肥満者、週1回GLP-1/グルカゴン二重作動薬mazdutideの減量効果/JAMA

 中等度~重度の肥満を有する中国人成人において、GLP-1/グルカゴン受容体二重作動薬mazdutideの9mg週1回60週間皮下投与により、プラセボと比較して消化器系の有害事象が多かったものの、臨床的に意義のある体重減少が認められたことを、中国・Peking University People’s HospitalのLeili Gao氏らが、同国の27施設で実施した第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「GLORY-2試験」の結果で報告した。肥満は世界的な問題であり、中国においても公衆衛生上の大きな課題となっていた。JAMA誌オンライン版2026年6月7日号掲載の報告。2型糖尿病不問の肥満成人対象に、mazdutide 9mgの有効性と安全性をプラセボと比較 GLORY-2試験の対象は、BMI値30以上で、食事療法および運動療法のみによる減量に少なくとも1回失敗し(自己申告)、スクリーニング前3ヵ月間の体重が安定している(自己申告で変動が5%以下)、18歳以上の成人であった。 スクリーニングの3ヵ月以上前に2型糖尿病と診断され、スクリーニング時にHbA1cが7.0~10.0%、空腹時血糖値が11.1mmol/L以下で、スクリーニング前2ヵ月以上食事療法と運動療法のみ、または最大3種類の経口糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬およびDPP-4阻害薬を除く)の安定用量で治療を受けていた場合は、組み入れ可能とした。 研究グループは、適格被験者をmazdutide 9mg群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、食事療法(低カロリー食)および運動療法(150分/週の中強度の運動)の順守に加えて、それぞれ週1回60週間皮下投与した。 主要エンドポイントは2つで、ベースラインから60週時までの体重の変化率、5%以上体重減少を達成した被験者の割合であった。 有効性および安全性の解析は、主要解析集団(試験薬を少なくとも1回投与された、すべての無作為化された被験者)を対象とし、有効性のエンドポイントは、治療レジメン推定(治療順守不問で60週時におけるプラセボに対するmazdutideの平均治療効果を表す)、および有効性推定(試験薬投与を60週間完了した場合のプラセボに対するmazdutideの平均治療効果を表す)の2つの解析が行われた。60週時の体重変化率はmazdutide 9mg群-16.65%、プラセボ群-1.50% 2023年12月~2024年6月に593例がスクリーニングを受け、うち462例が登録・無作為化され、主要解析対象集団には試験薬を投与された461例(mazdutide群307例、プラセボ群154例)が組み入れられた。 461例の背景は、女性295例(64.0%)、平均年齢33.9歳(SD 8.4)、平均体重94.0kg(SD 13.8)、平均BMI値34.3(SD 3.2)で、74例(16.1%)が2型糖尿病を有しており、399例(86.6%)は2型糖尿病以外の体重関連合併症を1つ以上有する被験者であった。 ベースラインから60週時の体重の平均変化率は、治療レジメン推定値でmazdutide群-16.65%(95%信頼区間[CI]:-18.19~-15.12)、プラセボ群-1.50%(95%CI:-3.43~0.43)であり、群間差は-15.15%(95%CI:-17.22~-13.09、p<0.001)であった。 5%以上体重減少を達成した被験者の割合は、治療レジメン推定値でmazdutide群84.3%(95%CI:80.0~88.5)、プラセボ群33.1%(95%CI:25.5~40.6)であり、群間差は51.6%(95%CI:43.0~60.1、p<0.001)であった。 両主要エンドポイントの有効性推定値は、治療レジメン推定値と類似していた。 有害事象はmazdutide群で98.7%、プラセボ群で93.5%に発生した。主な試験治療下における有害事象は、嘔吐(mazdutide群53.1%、プラセボ群1.3%)、悪心(同46.9%、3.2%)、下痢(同39.4%、6.5%)で、ほとんどは軽度~中等度であった。試験中止に至った有害事象は、mazdutide群で2.9%に認められたが、プラセボ群では報告されなかった。

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コントロール不良の2型糖尿病、週1回皮下投与のretatrutideが有効/Lancet

 食事療法および運動療法のみではコントロール不十分な2型糖尿病成人患者において、retatrutide単独療法はプラセボと比較し、血糖コントロールおよび体重減少に関して有意な改善を示し、有害事象のプロファイルは既知のGLP-1受容体作動薬と一致していた。カナダ・LMC Diabetes and EndocrinologyのHarpreet S. Bajaj氏らが、米国、メキシコおよびインドの48施設で実施した40週間の第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「TRANSCEND-T2D-1試験」の結果を報告した。retatrutideは、GIP、GLP-1およびグルカゴンの3つのホルモンの受容体作動薬で、2型糖尿病、肥満、および関連する合併症を対象に臨床開発が進められている。Lancet誌2026年6月13日号掲載の報告。retatrutideの3用量をプラセボと比較、週1回40週間皮下投与 TRANSCEND-T2D-1試験の対象は、食事療法および運動療法のみでは血糖コントロール不良の18歳以上の2型糖尿病患者で、HbA1c値が7.0~9.5%、BMI値23以上、スクリーニング前90日間およびスクリーニング期間中に血糖降下薬を使用しておらず、インスリン療法歴がなく、スクリーニング前少なくとも90日間体重が安定していること(自己申告で変動が5kg以下)とした。 研究グループは適格患者を、retatrutide 4mg群、9mg群、12mg群またはプラセボ群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付け、週1回40週間皮下投与した。retatrutide群は全例2mgより投与を開始し、計画に従い割り付けられた維持用量(4mg、9mg、または12mg)に達するまで4週ごとに増量した。 主要エンドポイントは、ベースラインから40週時のHbA1cの変化量で、retatrutide各用量群のプラセボ群に対する優越性を両側有意水準0.0167として検証した(全体でα=0.05を各比較に分割)。重要な副次エンドポイントは、ベースラインから40週時の体重の変化率などであった。 主要エンドポイントおよび重要な副次エンドポイントについては、両側有意水準0.05でファミリーワイズの第1種の過誤確率を厳密にコントロールするため、グラフィカルアプローチを用いて検定を行い、多重性を調整した。HbA1c変化量の推定治療群間差は、-0.88~-1.12% 2024年4月10日~2025年4月21日に、930例がスクリーニングを受け、537例が無作為化された(retatrutide 4mg群134例、9mg群133例、12mg群136例、プラセボ群134例)。 ベースラインの患者背景は、女性296例(55%)、男性241例(45%)、平均年齢48.8歳(SD 12.1)、HbA1c7.9%(1.1)、2型糖尿病の罹病期間2.5年(4.4)、BMI値35.8(7.0)であった。490例(91%)が40週間の治療を完了し、504例(94%)が本試験を完了した。 ベースラインから40週時のHbA1cの変化量の治療レジメン推定値は、retatrutide 4mg群-1.69%(SE 0.11)、9mg群-1.86%(0.10)、12mg群-1.94%(0.08)に対し、プラセボ群は-0.81%(0.12)であった。 プラセボ群に対する推定治療群間差は、retatrutide 4mg群-0.88%(95%信頼区間[CI]:-1.18~-0.59)、9mg群-1.04%(95%CI:-1.32~-0.76)、12mg群-1.12%(95%CI:-1.39~-0.85)であり、retatrutide全用量群でプラセボ群と比較し、有意差が認められた(いずれもp<0.0001)。 ベースラインから40週時の体重の平均変化率は、retatrutide 4mg群-11.5%(SE 0.7)、9mg群-13.9%(0.8)、12mg群-15.3%(0.8)に対し、プラセボ群は-2.6%(0.5)であり、retatrutide群のプラセボ群に対する推定治療群間差はそれぞれ-8.9%(95%CI:-10.5~-7.2)、-11.3%(95%CI:-13.1~-9.5)、-12.7%(95%CI:-14.4~-11.0)であった(いずれもp<0.0001)。 retatrutide群で最も発現割合が高い有害事象は、軽度~中等度の消化器系イベント(下痢、悪心、嘔吐)であり、主に用量漸増期間中に発現した。 有害事象による試験中止は、retatrutide 4mg群3例(2%)、9mg群6例(5%)、12mg群7例(5%)に認められたが、プラセボ群では認められなかった。重症低血糖は報告されなかった。 試験期間中に死亡が2例報告されたが(いずれもretatrutide 4mg群)、試験薬とは関連がなかった。

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高齢の糖尿病を有する人の薬物治療の限界はどこか/日本糖尿病学会

 第69回日本糖尿病学会年次学術集会(会長:下村 伊一郎氏[大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授])が、5月21~23日の日程で、大阪国際会議場、リーガロイヤルホテル大阪をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマに、41のシンポジウム、143の口演、ポスターセッション、会長特別企画による講演、特別企画「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 高齢の糖尿病を有する人では、糖尿病本態だけでなく、心血管障害や認知障害、運動器障害などさまざまな疾患を併存しているケースが多く、治療薬の選択やアドヒアランスのフォローなど考慮することが多岐にわたる。実臨床ではどのように診療を進めるべきであろうか。そこで本稿では、シンポジウム34「超高齢時代のダイアベティス治療はいかにあるべきか」(日本糖尿病学会・日本糖尿病協会合同シンポジウム)より清野 祐介氏(藤田医科大学医学部内分泌・代謝・糖尿病内科学/関西電力医学研究所糖尿病研究センター)の「超高齢2型糖尿病の至適な薬物治療の限界」の講演概要をお届けする。治療薬の工夫が重要な高齢の糖尿病を有する人 高齢の糖尿病を有する人では、糖尿病は高血糖、低血糖、フレイル、サルコペニア、認知機能低下の危険因子となる。また、加齢による肝機能、腎機能の低下がみられることから治療薬の選択では、バランス調整が必要になる。『糖尿病治療ガイド2024』(編集:日本糖尿病学会)では、高齢の糖尿病を有する人の治療の留意点を示しており、「低血糖を避けながら、高血糖をおだやかに是正することが必要」としている。また、糖尿病合併症や他の疾患との併存が多く、服薬数が多くなるのも特徴である。 このような多剤併用はアドヒアランスの低下を来し、高血糖や重症低血糖など致死的なリスクが高くなる。そのために服薬回数の減少や服薬タイミングの統一、一包化、配合薬の選択などが行われているが、緊急時の対応への準備も必要となる。日本糖尿病学会と日本老年医学会が共同制作した『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』(編集:日本老年医学会)では、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」が示されており、3つのカテゴリー別と重症低血糖が危惧される薬剤(インスリンやスルホニル尿素薬[SU薬]など)の使用の有無で、HbA1cの目標値と下限値が示されている。現段階で、超高齢の糖尿病を有する人にこのHbA1cの目標値があてはまるかどうかは不明である。よく理解しておきたい糖尿病治療薬の高齢の患者への影響 糖尿病の治療において、体重を減らすことは、インスリン感受性や糖代謝を改善するのに効果的とされているが、高齢の糖尿病を有する人では、筋肉量や骨量の低下があり、配慮する必要があるとされる。また、高齢の糖尿病を有する人に糖尿病治療薬を使用する際の懸念点としては、たとえばα-グルコシダーゼ阻害薬では服用回数が多い、SGLT2阻害薬では体重減少、チアゾリジン薬では心不全の増悪や女性では骨折リスクの増加、ビグアナイド薬では腎機能低下時に乳酸アシドーシスのリスクの出現、GLP-1受容体作動薬では体重減少、SU薬やグリニド薬では単独で低血糖のリスクが高くなるなどが挙げられる。そのほか、高齢の糖尿病を有する人に頻用されているDPP-4阻害薬では、演者の経験としては便秘など消化器症状の頻度も高く、重症例では腸閉塞を来す例もみられたという。とくに高齢の糖尿病を有する人は、在宅で診療をされている患者が多く、主治医が適切なタイミングでこうしたリスクを防ぐことができるか課題であると指摘する。高齢の糖尿病を有する人にはSU薬とDPP-4阻害薬の使用が多い 糖尿病治療薬の使用などについて、清野氏らが行った多施設共同研究の一端に触れた。この研究では、65歳以上の糖尿病、慢性腎疾患、そのいずれかまたは両方の疾患の患者を対象としたもので、参加施設は糖尿病、腎臓病の専門医を中心とした多職種連携が行われている施設。参加者は1,355例で、65~74歳は767例、75~84歳が523例、85歳以上が65例。これらの参加者のBMI、骨格筋量(SMI)、HbA1c、eGFRなどの数値を計測した。 その結果、85歳を区切りとしてみると、85歳以上では握力、筋力が65~84歳群との比較で顕著に低下していた。使用されている治療薬について85歳以上では体重減少に働くようなSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の使用頻度が低くなっていた。また、乳酸アシドーシスのリスクからビグアナイド薬、心不全のリスクからチアゾリジン薬の使用頻度も低い一方で、SU薬とDPP-4阻害薬は高頻度で使用されていた。また、予想に反してグリニド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬の使用が多く、その理由として「参加者の自己管理能力が高かったことが推定される」と述べた。 本研究では、糖尿病診療支援が整った医療施設で食事療法も薬物療法もしっかりでき、通院や歩行にも問題がない参加者を対象としていることから、このような結果につながったと推察している。しかし、実臨床の現場では、通院ができずに糖尿病非専門医による在宅医療を受けているケースが多く、治療薬剤の選択、血糖マネジメントの目標をどこにおくのかなど糖尿病学会の推奨があまり知られていないこと、あるいは超高齢の糖尿病を有する人の治療に関するガイドラインがないことが現状の問題点となっていると述べた。さらに90歳以上の2型糖尿病を有する人を対象とした大規模臨床試験は皆無であり、複雑な背景をもつ症例への的確なアプローチをいかに構築するかが課題であると指摘した。高齢の糖尿病を有する人の治療最適化には多職種・在宅医療連携が重要 高齢の糖尿病を有する人の症例を1つ挙げ、介護施設などでの診療の難しさを説明した。症例は施設入所している91歳女性(要介護3)で認知症があり、車いすを使用、BMIは15.7でやせ型。インフルエンザで突然の意識障害があり、救急搬送された。来院時の血糖値は35mg/dLで急性低血糖にてブドウ糖静脈投与で意識回復をした。普段は、DPP-4阻害薬と少量のSU薬を服用している。腎機能は保たれているがHbA1cは5.4%であり、高齢者にとっては過度な管理で、低血糖のリスクが予想される症例だったという。日常から糖尿病をきちんと診療できる環境ではないことが予想され、治療目標、とくに下限目標の情報が診療する人、介護する人にきちんと行き届いていないのではないかと警鐘を鳴らす。また、在宅医療など超高齢糖尿病を有する人の診療現場では糖尿病専門医が予想していないような治療上の悩みも多々見受けられる。そこで、日本糖尿病協会(JADEC)では、「JADEC在宅医療・介護支援Q&A集」を作成するとともに、在宅・介護の診療現場からの質問を募っている。清野氏は、今後、こうした診療現場の情報を集積し、在宅・介護の診療現場用のJADECカードシステムによる糖尿病支援ツールセットを作成していく必要があると提言を行った。 高齢の糖尿病を有する人の治療では、『高齢者糖尿病診療ガイドライン』があるものの、90歳以上の超高齢者を対象としたエビデンスは乏しい。実臨床では認知機能、ADL、介護力が治療を規定するが、高齢者では厳格な血糖管理より低血糖回避と何よりも患者の生活維持が重要だと考える。 おわりに清野氏は、「今後の高齢の糖尿病を有する人の診療では、患者の体重や握力測定など定期的な確認も大切であり、治療の最適化には多職種・在宅医療連携が重要になる」と語り、講演を終えた。

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