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早期発症統合失調症に対するブレクスピプラゾールの有効性~第III相試験事後解析

 米国・Zucker Hillside HospitalのChristoph U. Correll氏らは、早期発症統合失調症患者に対するブレクスピプラゾールの有効性と安全性を評価するため、第III相試験の事後解析の結果を報告した。Psychiatry Research誌2026年6月号の報告。 統合失調症患者を対象とした4件の6週間ランダム化二重盲検プラセボ対照試験のデータを統合した。18~65歳の成人を対象とした試験が3件(NCT01396421、NCT01393613、NCT01810380)、13~17歳の青年を対象とした試験が1件(NCT03198078)であった。早期発症の基準は、年齢が13~35歳、罹病期間が5年以内とした。ブレクスピプラゾール2~4mg/日投与群(ブレクスピプラゾール群)またはプラセボ投与群(プラセボ群)にランダムに割り付けられた患者データを統合した。有効性の評価は、主に陽性・陰性症状評価尺度(PANSS:すべての試験の主要エンドポイント)を用いた。機能の変化は、成人では個人的・社会的機能遂行度尺度(PSP)、青年ではChild Global Assessment Scale(CGAS)を用いて測定した。また、安全性も評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は476例(ブレクスピプラゾール群:289例、プラセボ群:187例)。・ベースラインから6週目までのPANSS総スコア(最小二乗平均差[LSMean]:-3.6、95%信頼区間[CI]:-7.0~-0.1、p=0.04、Cohen's d:0.19)およびPSP/CGAS複合機能スコア(LSMean:2.3、95%CI:0.1~4.5、p=0.04、Cohen's d:0.19)の変化は、ブレクスピプラゾール群のほうがプラセボ群よりも大きかった。・治療中に発現した有害事象(TEAE)の発現率は、ブレクスピプラゾール群で50.7%、プラセボ群で46.3%であった。・ブレクスピプラゾール群で最も多くみられたTEAEは、不眠(ブレクスピプラゾール群:9.2%、プラセボ群:9.5%)およびアカシジア(ブレクスピプラゾール群:6.5%、プラセボ群:2.1%)であった。 著者らは「本解析により、統合失調症の初期段階の患者におけるブレクスピプラゾールの有効性が示され、統合失調症に対するブレクスピプラゾールのエビデンスが拡充された。また、ブレクスピプラゾールの安全性プロファイルは、これまでの臨床試験の結果と一致していた」としている。

2.

脳内出血既往患者、低用量3剤配合降圧薬の追加で再発減少/NEJM

 脳内出血患者において、標準治療に加え3種類の低用量降圧薬の配合錠を1日1回投与することにより、プラセボと比較し脳卒中の再発および主要心血管イベントの発生が減少したことを、オーストラリア・George Institute for Global HealthのCraig S. Anderson氏らTrident Research Groupが「TRIDENT試験」の結果で報告した。降圧は脳卒中を予防する、唯一の立証済み治療法である。標準的な降圧治療への低用量3剤配合降圧薬の追加が、標準治療単独より血圧をさらに低下させ、脳卒中再発リスクを低減できるかどうかは明らかにされていなかった。NEJM誌2026年4月23日号掲載の報告。テルミサルタン20mg+アムロジピン2.5mg+インダパミド1.25mgの配合錠 TRIDENT試験は、12ヵ国(オーストラリア、ブラジル、ジョージア、マレーシア、オランダ、ナイジェリア、シンガポール、スリランカ、スイス、台湾、英国、ベトナム)の61施設で実施された無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験。 対象は、非外傷性の脳内出血の既往歴があり、ベースラインの収縮期血圧が130~160mmHgで臨床的に安定(必要に応じて降圧治療中)の18歳以上の患者とした。 研究グループは、導入期として全例に低用量降圧薬の3剤配合錠(テルミサルタン20mg+アムロジピン2.5mg+インダパミド1.25mg)を1日1回2週間投与し、導入期終了後に同意が得られた適格患者を3剤配合錠(継続)群またはプラセボ群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは脳卒中の初回再発、副次アウトカムは無作為化後6ヵ月時点の血圧コントロール(収縮期血圧130mmHg未満と定義)、主要心血管イベント(非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中または心血管死の複合)、心血管死、および安全性であった。脳卒中の再発は、3剤配合錠群4.6%vs.プラセボ群7.4% 2017年9月28日~2024年11月30日に、スクリーニングを受け適格性を評価された2,206例が導入期に参加し、導入期終了後に1,670例が無作為化された(3剤配合錠群833例、プラセボ群837例)。1,670例の平均(±標準偏差)年齢は57.8±11.4歳、563例(33.7%)が女性、1,213例(72.6%)がアジア系で、1,114例(66.7%)がスリランカ在住であった。 追跡期間中央値2.5年(四分位範囲:1.6~4.4)時点で、追跡期間中の平均収縮期血圧は3剤配合錠群127mmHg、プラセボ群138mmHgであり、平均拡張期血圧はそれぞれ82mmHg、86mmHgであった。 脳卒中再発は、3剤配合錠群38例(4.6%)、プラセボ群62例(7.4%)に発生し、ハザード比(HR)は0.61(95%信頼区間[CI]:0.41~0.92、p=0.02)であった。脳内出血再発は3剤配合錠群15例(1.8%)、プラセボ群37例(4.4%)であった(HR:0.40、95%CI:0.22~0.73)。 主要心血管イベントの発生割合は、3剤配合錠群がプラセボ群より有意に低かった(6.6%vs.9.8%、p=0.04)。 重篤な有害事象は、3剤配合錠群で193例(23.2%)、プラセボ群で218例(26.0%)に認められた。投与中止に至った有害事象の発現率はそれぞれ13.6%、6.0%であり、主な事象は血清クレアチニン値の20%以上の上昇であった。

3.

抗菌薬が腸内環境を変える期間は想像以上に長い

 抗菌薬は、危険な感染症を治療する重要な薬として知られている。しかし、新たな研究で、抗菌薬はこれまで考えられていた以上に長期間にわたり身体に影響を残す可能性が示された。約1万5,000人の成人を対象とした研究で、特定の抗菌薬が腸内マイクロバイオームに対して、最長で約8年にわたり影響を及ぼすことが明らかになった。ウプサラ大学(スウェーデン)のGabriel Baldanzi氏らによるこの研究結果は、「Nature Medicine」に3月11日掲載された。 この研究では、スウェーデンの3つの大規模コホート研究のデータを統合して、8年間の抗菌薬の使用歴と腸内マイクロバイオームとの関連を検討した。対象者に処方された抗菌薬は、スウェーデン処方薬レジストリを用いて把握した。対象者の総計は1万4,979人で、過去8年間で1回以上の抗菌薬使用歴があった割合は69.7〜73.7%であった。参加者から便サンプルを採取し、さらに生活習慣や食事に関する詳細なアンケートにも回答してもらった。 他の使用薬剤や腸内マイクロバイオームに影響を与える既知の因子を調整した多変量解析の結果、腸内マイクロバイオームの多様性の低下と最も強く関連していたのは抗菌薬の使用後1年未満であったが、1〜4年前および4〜8年前の使用でも関連は有意であった。抗菌薬の種類別に見ると、クリンダマイシン、フルオロキノロン系、フルクロキサシリンは、腸内マイクロバイオームの組成への影響が大きく、菌種の存在量との関連の大部分を占めていた。これらの抗菌薬の4〜8年前の使用は、解析対象菌種の10〜15%で存在量の変化と関連していた。一方、ペニシリンV、広域ペニシリン、ニトロフラントインは、数種類の菌種の変化とのみ関連していた。4〜8年前の1コースの抗菌薬の使用でも、未使用と比較すると、腸内マイクロバイオームの組成の変化と関連していた。 論文の筆頭著者であるウプサラ大学のGabriel Baldanzi氏は、「4〜8年前の抗菌薬の使用が、現在の腸内マイクロバイオームの組成と関連していることが分かった。特定の抗菌薬は、1コースの治療でもその痕跡が残る」と述べている。 腸内マイクロバイオームのバランスは、人の健康にとって極めて重要である。過去の研究でも、抗菌薬の使用量が多いほど、2型糖尿病、心疾患、肥満、重篤な消化管感染症、さらには大腸がんのリスクが高まることが報告されている。こうした長期的な腸内環境の変化が、その一因ではないかと考えられている。 研究を率いたウプサラ大学分子疫学分野のTove Fall氏は、「今回の結果は、同等の効果を持つ抗菌薬が2種類ある場合には、腸内マイクロバイオームへの影響がより小さい方を選択するなど、今後の処方指針に役立つ可能性がある」と述べている。 ただし研究グループは、医師に処方された薬の服用を自己判断で中止すべきではないと強調し、「重要なのは、本当に必要な場合に適切な抗菌薬を選択し、長期的に体内の生態系を守ることだ」としている。

4.

鼻腔ブラシ生検でアルツハイマー病が検出可能に?

 将来、嗅裂と呼ばれる鼻の奥の部位から採取した検体を用いた鼻腔ブラシ生検で、アルツハイマー病(AD)の初期兆候を検出できるようになるかもしれない。米デューク・ヘルスが特許を取得した実験段階にあるこのブラシ生検によって、思考力や記憶力の問題が現れる前に神経細胞や免疫細胞の初期の変化を捉えることができたとする研究結果が報告された。この小規模ながら有望な研究は、「Nature Communications」に3月18日掲載された。責任著者である米デューク大学医学部教授のBradley Goldstein氏は、「もし早い段階で診断できれば、臨床的なADの発症を防ぐ治療の開始につなげられる可能性がある」と述べている。 Goldstein氏によると、今回の研究の目的は、「脳にダメージが蓄積する前の極めて早い段階でADを確認できるようにすること」であった。ADは脳の疾患だが、生体内の脳組織を直接調べるのは難しい。一方で、嗅覚は初期から障害されることが多く、嗅覚の神経細胞は嗅裂から採取できる。そこで研究グループは、22人の参加者の嗅裂からブラシを使って嗅上皮の検体を採取し、単一細胞RNA解析により各細胞における遺伝子発現を調べた。参加者は、健常者、脳脊髄液(CSF)バイオマーカー検査でADと診断された人、認知機能は年齢相応だがCSFバイオマーカー検査でADの前臨床段階にあると判定された人で構成されていた。採取された検体から、約22万個の細胞のそれぞれについて数千の遺伝子発現を測定することができ、得られたデータは数百万に上った。 その結果、ADの前臨床段階にある人においても、炎症に関与するT細胞やミエロイド細胞、嗅覚神経細胞の変化が見つかり、また、CD8陽性T細胞の活性化亢進がフローサイトメトリーによって裏付けられた。さらに、これらの変化を組み合わせることで、臨床的ADと前臨床段階のADを区別する一定の性能(ROC曲線下面積〔AUC〕0.81)も示された。 研究グループによると、現行のADの血液検査では、病状が進行してからでないと確認できないマーカーを検出する。一方、今回の検査は、生きた神経や免疫の活動を捉えるため、より直接的に疾患に関連する変化を見つけ、より早期段階で介入できるようになる可能性がある。 論文の筆頭著者でデューク大学医学科学者養成プログラムの学生であるVincent D’Anniballe氏は、「これまでにADについて明らかにされていることの多くは、剖検で得られた組織の解析結果に基づいていた。しかし、生きた神経組織を調べることができるようになり、診断と治療に新たな可能性が生まれた」と述べている。 Mary Umsteadさんは、若年性ADで亡くなった姉のMariah Umsteadさんのために今回の研究に参加した。Mariahさんは57歳でADの診断を受けたが、家族はそれよりはるか以前から症状に気付いていたという。Maryさんは、「研究参加のチャンスが巡ってきたとき、私はすぐに飛びつきました。Mariahを失ったときのような悲しみを、他の家族に味わってほしくないし、どの患者にも私たちが経験したようなつらい思いをしてほしくないからです」と語った。 デューク大学の研究グループは、このブラシ生検が治療の経過を追跡するのに役立つかどうかを明らかにすることを目標に、デューク大学・ノースカロライナ大学アルツハイマー病研究センター(Duke-UNC ADRC)と共同で、研究対象をより大規模な集団に拡大している。なお、今回の研究は米国立衛生研究所(NIH)の助成を受けて実施された。

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増える麻しん、医療従事者向け「麻しんを疑った際の対応」公開/JIHS

 日本では、2015年にWHOにより麻しんの排除認定を受けているが、2026年1月からの国内の発生報告数(速報値)は4月8日までに236例と、2020年以降同期間としては最多で、すでに2025年の1年間の発生報告数(265例)に迫る数字となっている。国立健康危機管理研究機構(JIHS)では、医療機関向けのリーフレット「 麻しんを疑った際の対応」を公開。典型的皮疹やコプリック斑を写真で示すとともに、感染対策や臨床対応のポイントを簡潔にまとめている。<麻しんを疑った際の対応(一部抜粋)>麻しんを疑う所見:・発熱+発疹+カタル症状(咳・鼻汁・結膜充血)・口腔内のコプリック斑・海外渡航歴または麻しん患者発生地域への移動歴、接触歴・ワクチン2回未完了または不明※修飾麻しん(麻しんに対する免疫が不十分な人に生じる、軽症で非典型的な麻しん)では、典型所見に乏しいことがあるので注意(1)感染対策・個室管理対応、患者にマスク着用を促し、扉を閉める(可能なら陰圧室)・空気感染対策(原則、N95マスク)+標準予防策を行う・対応する医療者と接触者を最小化する(2)臨床対応・ワクチン接種歴聴取、臨床評価、脱水や呼吸管理等・合併症:中耳炎、肺炎、下痢等による脱水、脳炎※麻しん患者との接触後、72時間以内に麻しん含有ワクチンを接種すること等によって、麻しんの発症を予防できる可能性がある(3)連絡・届け出・院内ICTへ即時連絡・麻しんと臨床診断したら直ちに発生届提出・できるだけ早期(発疹出現後1週間以内)に、保健所の指示に基づく検体(咽頭ぬぐい液・尿・EDTA血)を採取し、提出する・提出方法は、自治体ごとに異なるため、管轄の保健所に問い合わせる※必要に応じてIgM抗体検査も実施するが、発疹出現後3日以内は偽陰性に注意する

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高齢者のがん薬物療法GLの改訂ポイント【消化管】/日本臨床腫瘍学会

 『高齢者のがん薬物療法ガイドライン 改訂第2版』が2026年3月25日に発刊され、第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)のシンポジウムで全17項目のクリニカルクエスチョン(CQ)が解説された。消化管領域からは、胃がんに関する2項目(CQ4、CQ5)、大腸がんに関する2項目(CQ6、CQ7)の計4つのCQが設定された。CQ4 高齢者では切除不能進行・再発胃がんに対して、オキサリプラチンの併用は推奨されるか?推奨:高齢者では切除不能進行・再発胃がんに対して、オキサリプラチン併用療法を行うことを弱く推奨する。推奨のタイプ:当該介入の条件付きの推奨エビデンスの強さ:C 胃癌治療ガイドラインでは、切除不能進行・再発胃がんの1次治療としてオキサリプラチンを含むレジメンが推奨されている。高齢者においては末梢神経障害や骨髄抑制といった有害事象が懸念されるため、条件付きの推奨としてオキサリプラチンを含まないレジメンを使用することもある。そこで本CQでは、高齢の根治切除不能胃がんの1次治療として、オキサリプラチンを併用する化学療法(減量投与を含む)(介入群)とオキサリプラチンを併用しない化学療法(対照群)のアウトカムを評価した。2件のランダム化比較試験(RCT)(1件はシスプラチン併用)において、無増悪生存期間(PFS)は併用群で有意に良好で、全生存期間(OS)と奏効率は併用群で良好な傾向を示した。オキサリプラチン通常量と減量投与を評価したRCTでは、減量群では奏効率の低下を認めた。治療関連死は併用群で0%、非併用群で3.8%であった。Grade3以上の有害事象は併用群で多いという報告と少ないという報告があり、結果は一貫しなかった。末梢神経障害は併用群66.7%、非併用群7.7%であり、併用群において有意な増加がみられた。しかし、4サイクル後のglobal QOLは併用群のほうが良好であり、有害事象よりもがんの病勢制御ができることのメリットがより大きいと考えられた。OSは併用群で良好で望ましい効果は大きく、治療関連死は両群で差がないため望ましくない効果は小さいと評価された。CQ5 高齢者では切除不能進行・再発胃がんに対して、バイオマーカーに基づいた治療は推奨されるか?推奨:高齢者の切除不能進行・再発胃がんに対して、バイオマーカーに基づいた化学療法を行うことを弱く推奨する。推奨のタイプ:当該介入の条件付きの推奨エビデンスの強さ:C 近年、胃がんの治療では、HER2、CLDN18.2、CPS、MSI(MMR)といったバイオマーカーに基づいて治療レジメンの選択を行うことが推奨されているが、高齢者における分子標的薬の有効性・安全性は十分に評価されていない。そこで本CQでは、高齢の根治切除不能胃がんの1次治療として、バイオマーカーに基づいた化学療法(トラスツズマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、ゾルベツキシマブの併用)を行う群(介入群)とバイオマーカーに基づいた化学療法を行わない群(対照群)のアウトカムを評価した。13件の研究が対象となった。トラスツズマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ併用はRCTの高齢者サブグループ解析でOSの有意な改善が確認できたが、ゾルベツキシマブは明らかなOS改善効果を認めなかった。PFSは、ATTRACTION-4でニボルマブ併用による良好な傾向を認めたが、ゾルベツキシマブは良好な傾向を認める試験(SPOTLIGHT)と認めない試験(GLOW)があった。治療関連死、Grade3以上の有害事象、QOLについてはRCTで高齢者集団に限定した解析は存在しなかった。RCTの高齢者サブ解析において一部の薬剤ではOSの有意な改善が示されて益は大きいものの、高齢者に限定した安全性のデータがないことからエビデンスの強さは「C(弱い)」と評価された。CQ6 結腸がん術後(R0切除、StageIII)の70歳以上の高齢者に対して、術後補助化学療法を行う場合、どのような治療が推奨されるか?推奨:結腸がん術後(R0切除、StageIII)の70歳以上の高齢者に対して、術後補助化学療法を行う場合には、フッ化ピリミジン単独療法もしくはオキサリプラチン併用の補助化学療法を行うことを弱く推奨する。推奨のタイプ:当該介入または比較対照のいずれかについての条件付きの推奨エビデンスの強さ:C 大腸癌治療ガイドラインにおいて、StageIIIの大腸がんに対してオキサリプラチン併用療法は強く推奨、フッ化ピリミジン単独療法は弱く推奨されている。しかし、70歳以上の高齢者に対するオキサリプラチンの上乗せ効果については議論がある。そこで本CQでは、結腸がん術後(R0切除、StageIII)の70歳以上の高齢者を対象に、フッ化ピリミジンとオキサリプラチンの併用療法を6ヵ月施行する群(介入群)とフッ化ピリミジン単独療法を6ヵ月施行する群(対照群)のアウトカムを比較した。3件のRCTではいずれもオキサリプラチン併用による有意なOSの改善効果は示されなかったが、4件の観察研究ではいずれも併用群で良好であった。3件のRCTではいずれも無病生存期間(DFS)の改善効果は示されなかったが、1件の観察研究では併用群で有意に良好であった。Grade3/4の有害事象およびGrade3/4の末梢神経障害は併用群で有意に多かった。RCTではOS・DFSの有意な延長効果は示されないことから益は小さく、Grade3以上の有害事象は増加することから害は中であると評価された。CQ7 切除不能進行再発大腸がんの高齢患者の初回化学療法においてオキサリプラチンまたはイリノテカンの使用は推奨されるか?推奨:切除不能進行再発大腸がんの高齢患者の初回化学療法において、オキサリプラチンやイリノテカンの併用は一律には行わず、患者の状態に応じて判断することを弱く推奨する。推奨のタイプ:当該介入に反対する条件付きの推奨エビデンスの強さ:B 切除不能進行再発大腸がんの1次治療では、オキサリプラチンおよび/またはイリノテカンを併用した強力なレジメンが推奨されているが、忍容性に問題のある患者ではオキサリプラチンやイリノテカンを併用しないレジメンが推奨されている。そこで本CQでは、切除不能進行再発大腸がんの高齢患者を対象に、オキサリプラチンまたはイリノテカンを併用する化学療法を行う群(介入群)とこれらを併用しない化学療法を行う群(対照群)のアウトカムを比較した。日本で行われた第III相のRCT(JCOG1018)において、70歳以上の高齢者に対するオキサリプラチン併用による有意なOSの延長は認められず、その他の5件のRCTでもオキサリプラチンまたはイリノテカン併用による有意なOSの延長は確認されなかった。JCOG1018を含む5件のRCTにおいて、オキサリプラチンまたはイリノテカン追加による有意なPFSの延長は認めなかったが、NORDIC-9ではS-1単独群(標準用量)よりも減量SOX療法のほうがPFSは有意に延長した。Grade3以上の有害事象はNORDIC-9では併用群で有意に少なかったが、その他の試験ではいずれも併用群で有害事象の頻度が高かった。有害事象による治療中止は、NORDIC-9を除くRCTでは併用群で高い傾向を認めた。併用群ではOS・PFSともに有意な改善効果を示していないことから益はわずかである一方、Grade3以上の有害事象の頻度は併用群で高く、治療中止の割合も高い傾向を示したことから害は大きいと評価された。

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歯科でのHbA1c測定、3人に1人で糖尿病早期発見の可能性

 歯科への受診をきっかけに、未診断の糖尿病発見につながる可能性が報告された。歯科の患者に、指先穿刺による簡便な血液検査を行ったところ、3人に1人以上の割合で糖尿病または糖尿病前症が見つかったという。英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のGiuseppe Mainas氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Dentistry」4月号に掲載された。 この研究では、歯科受診者に対して診察室内でのHbA1c測定が、糖尿病のスクリーニングとして機能するか、横断的に検討された。英国成人の歯科受診頻度はかかりつけ医の受診頻度よりも高い傾向があり、かつ、医科受診時のHbA1c測定が日常的に行われているわけではないことが、この研究の背景にあるという。 解析対象はKCLによる口腔・歯科関連のバイオバンクに参加している911人で、このうち104人は、既に2型糖尿病の診断を受けている患者だった。歯肉の状態は、6.0%が健康、11.3%は歯肉炎、82.7%は歯周病だった。HbA1cは診察室内で指先穿刺により採血して測定し、所要時間は6分ほどだった。 HbA1cの平均は5.71±0.94%であり、既診断や自覚症状のある糖尿病患者を除くと、227人(28.7%)がHbA1c 5.7~6.3%で「糖尿病前症」に該当し、58人(7.3%)はHbA1cがより高く「糖尿病」に該当した。つまり、歯科でのスクリーニングにより、3人に1人以上に未診断の糖尿病前症または糖尿病が発見される可能性が示された。 また、歯肉の状態が悪いほどHbA1cが高いという関連も見つかった。具体的には、歯肉が健康な人のHbA1cは5.43±0.51%、歯肉炎の人は5.51±0.91%、歯周病の人は5.76±0.97%だった(傾向性P=0.004)。 Mainas氏は、「われわれの研究結果は、歯科受診が糖尿病リスクのある人を見いだす有用な機会となり得ることを示唆している。特に高齢者やBMIが高い人、歯周病のある人では、その可能性が高い」と述べている。また、論文の筆頭著者であるKCLのMark Ide氏は、「歯科受診を契機にHbA1cが高いことが判明した場合、患者はかかりつけ医を受診し詳しく調べてもらうことができる。歯科でHbA1cが検査されなければ、その機会はかなり先になってしまうかもしれない。実際、本研究に参加してHbA1cが高いことが判明した患者の大半は、自分が糖尿病前症や糖尿病に該当するとは思っておらず、判定結果に驚いていた」と話している。 なお、歯周病と糖尿病の関連について、論文の上席著者であるKCLのLuigi Nibali氏は、「これまでの多くの研究で、両者に双方向性の関連があることが示されている。歯周病による炎症は糖代謝に変化をもたらし、糖代謝の乱れは炎症に影響を与える。歯周病は糖尿病の発症や悪化に関連する可能性があり、その逆もまた同様だ」と解説している。

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第56回 406万人の命が「食事」で防げる。世界204ヵ国のデータが突きつける、私たちの食卓への警告

先月、Nature Medicine誌に、食事と心臓病の関係を世界規模で解析した大規模研究が発表されました1)。世界204ヵ国からのデータをもとに、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)の死亡・障害負担のうち、食事リスクに起因する割合を包括的に推計したものです。虚血性心疾患は、数十年にわたり世界の死因第1位であり続けています。「心臓病は生活習慣病」とよく言われますが、では実際にどの食習慣がどれほどのインパクトを持っているのか。この研究は、その問いに対してこれまでで最も精緻な答えを示しています。年間406万人の命を奪う「食卓のリスク」研究の結果、2023年に世界で食事リスクに起因する虚血性心疾患の死亡者数は約406万人と推計されました。これは虚血性心疾患による全死亡のかなりの割合を占めています。ただし明るい兆しもあります。1990年から2023年にかけて、食事に起因する虚血性心疾患の年齢調整死亡率は約43.9%低下しました。これは世界的な食生活改善や医療の進歩を反映していると考えられます。しかし、人口増加と高齢化の影響で、絶対的な死亡者数は約41.6%増加しており、問題の深刻さが解消されたわけではありません。「足りないもの」が心臓を蝕むこの研究で特に注目すべきは、心臓病リスクを高める食事要因の顔ぶれです。13の食事要因を個別に評価した結果、最も大きな死亡寄与を示したのは、ナッツ・種子類の摂取不足(10万人当たり9.87人の死亡に寄与)、全粒穀物の摂取不足(同9.22人)、果物の摂取不足(同7.25人)、そして食塩の過剰摂取(同7.15人)でした。つまり、「何を摂りすぎているか」よりも「何が足りていないか」のほうが、実は心臓にとってはより大きな脅威となっているようなのです。加工肉や砂糖入り飲料の過剰摂取ももちろんリスクではありますが、それ以上に、ナッツ、全粒穀物、果物、豆類といった「守るための食材」を日常的に食べていないことが、世界中で多くの命を奪っています。「減塩」だけでは不十分うれしいニュースとして、日本を含むアジア太平洋地域は、この研究で食事関連の虚血性心疾患負担が最も低い地域の一つでした(10万人当たり12.20人の死亡)。これは日本の食文化が持つ優位性を示唆するデータと言えるかもしれません。しかし、安心するのは早計です。日本では食塩の過剰摂取が依然として深刻な問題であり、地域別ランキングでも高い順位を占めています。加えて、全粒穀物やナッツ・種子類の摂取量は欧米と比べて少ない傾向にあります。白米中心の食事は日本の食文化の根幹ですが、精白米は全粒穀物の健康効果を享受できないという点では、改善の余地があるでしょう。これまで日本の循環器疾患対策では「減塩」が柱とされてきましたが、このデータは、それだけでは不十分であることを示唆しています。ナッツや全粒穀物、果物、豆類といった「心臓を守る食材」を意識的に食卓に加えていくことが、今後の日本における心疾患予防の新たな柱となる可能性があります。所得格差が「食の格差」を生むこの研究ではさらに、社会開発指標(SDI)の低い国ほど食事関連の虚血性心疾患負担が重いことも示されました。低所得国では、野菜、果物、全粒穀物、ナッツ、豆類といった保護的な食材へのアクセスが限られているために、心疾患のリスクが高くなっています。一方、高所得国では加工食品や砂糖入り飲料の過剰摂取が問題です。つまり、所得水準によってリスクの顔つきが異なるのです。この知見は、日本国内にも当てはまります。経済的に余裕のない世帯では、安価で高カロリーな加工食品に頼りがちになり、新鮮な果物やナッツ、全粒穀物といった食品の摂取が不足する傾向があることは、国内の研究でも指摘されています。食事による健康格差は、決して遠い国の話ではありません。研究の限界と、それでも揺るがない価値もちろん、この研究にも限界はあります。まず、各国の食事データの質にばらつきがあり、一部の国では推計モデルに依存しています。また、ここで示された食事の影響は、因果関係を保証するものではありません。さらに、各食事要因間の複合的な相互作用(たとえば、全粒穀物の摂取が多い人は全体的に食事の質が高い傾向にある、など)を完全には考慮できていません。しかし、204ヵ国を対象に13の食事要因を網羅的に評価し、33年間の推移を追跡したこの研究の規模と包括性は、他に類を見ません。「食事を変えることで心臓病の相当部分を予防できる」というメッセージは、これらの限界を踏まえてもなお、揺るぎないものです。明日から始められること最後に、この研究が示す教訓。それは、「減らす」ことだけでなく「加える」「替える」ことも大切だということです。食塩を減らす、砂糖を減らす、だけではなく、毎日の食事に一握りのナッツを添える、白米の一部を玄米や雑穀米に替える、果物を意識的に増やす。こうした小さな積み重ねが、10年後、20年後の心臓の健康を大きく左右する可能性があります。世界406万人の死というデータは衝撃的ですが、裏を返せば、それだけの命が「食卓を変えること」で守れる余地があるということ。壮大なデータが教えてくれたのは、毎日の食事の力がいかに大きいかということだったのです。 1) GBD 2023 IHD & Dietary Risk Factors Collaborators. Global, regional and national burden of ischemic heart disease attributable to suboptimal diet, 1990-2023: a Global Burden of Disease study. Nat Med. 2026 Mar 30. [Epub ahead of print]

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虚血の急性期治療が瘢痕関連VTアブレーション成績に及ぼす影響~TITAN-VT/日本循環器学会

 虚血性心筋症(ICM)に伴う瘢痕組織関連心室頻拍(VT)に対するカテーテルアブレーションは、急性心筋梗塞(AMI)発症から5時間以内の早期再灌流により良好な結果をもたらすことが、「TITAN-VT研究」より示唆された。西村 卓郎氏(東京科学大学 循環器内科)が3月20~22日に開催された第90回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Cohort Studies 1にて報告した。 AMIに対する早期再灌流は、梗塞サイズを縮小し、左室機能の保存や生存率の向上に寄与するため、最新の『急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)』ではST上昇型心筋梗塞(STEMI)の発症から90分以内に搬送し、primary PCIを実施することが推奨されている1)。しかし昨今、心筋梗塞から数年後に発症する致死性不整脈である“ICMに伴う瘢痕関連VT”が問題視されている。この瘢痕組織の特徴は急性期虚血治療の影響を受けるが、早期再灌流がVTに対するカテーテルアブレーションの結果に及ぼす影響は依然として不明であった。 そこで同氏らは、虚血の急性期管理と虚血性VTアブレーションの長期転帰との関連を評価するため、多施設共同観察コホート研究を実施。2020~24年に45施設で施行されたICMに伴う瘢痕関連VTアブレーション例を後ろ向きに解析し、多電極カテーテルによる左室心内膜のマッピングにて評価された不整脈基質(瘢痕、遅延電位、伝導ブロックなど)およびVTアブレーションの結果と、虚血の背景(AMI vs.慢性完全閉塞[CTO])、再灌流の有無、実施タイミング(Door-to-Balloon time:DTB、Onset-to-Balloon time:OTB)との関連を検証した。なお、VT再発は持続する単形性心室頻拍、抗頻拍ペーシングやショックなどに対する植込み型除細動器による治療実施と定義付けた。 主な結果は以下のとおり。・対象はICM520例(AMI:392例、CTO:116例)ならびにVTアブレーション術581件*で、平均年齢72歳(範囲:64~77)、男性485例(93%)、平均BMI 23(同:21~26)、平均左室駆出率(LVEF)34%(同:26~42)であった。*複数回の手術経験者は最終手術結果が評価された・VTアブレーションは、AMIもしくはCTOの診断後中央値16年(8~25年)で実施されていた。・使用した3DマッピングシステムはCARTO(60%)、EnSite(35%)、Rhythmia(5%)であった。・追跡期間中、全体の76%にVT再発は認められなかった。・AMI群の392例(75%)では、OTBが5時間未満(p=0.021)およびDTBが90分未満(p=0.031)の早期再灌流は、遅延または再灌流なしと比較し、より良好な結果と関連していた。・不整脈基質としての伝導ブロックはOTBが長い症例ほど高頻度に観察される傾向にあり、再灌流時間が複雑な不整脈基質の形成と関連していることが示唆された。一方で、心表面に対する瘢痕の割合はOTBと強い相関はみられなかった。・心筋虚血診断時の側副血管の有無は、VTアブレーションの結果と関連していなかった(p=0.87)。・CTO群の116例(23%)では、アブレーション前(ベースライン)の12誘導心電図でQ波を有する患者のほうが、より予後良好な結果と関連していた(p=0.014)。 本研究の限界として、日本人のみを対象としていること、マッピングや手術経験などが標準化されていない、冠動脈の解剖学的構造などは評価していない点を挙げるも、同氏は本研究を振り返り「急性心筋梗塞に対する再灌流遅延例では伝導ブロックが増加することで複雑な不整脈基質が形成されていた。よって、VTアブレーション成績は瘢痕量よりも基質構造(とくに伝導ブロック)に依存する。CTOはAMIと異なる基質を持つ可能性がある」とし、「ベースラインのQ波特性はCTOの既往を有する患者のVTアブレーション結果の簡便な予測マーカーとなる可能性がある」と結んだ。日本循環器学会(JCS)学術集会まとめページはこちら

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入院患者の栄養管理とウェルニッケ脳症【医療訴訟の争点】第20回

症例昨今、入院患者の栄養管理の重要性は広く認識されており、多くの医療機関では栄養サポートチーム(NST)などを中心として体系的な栄養評価が行われている。本稿では、入院時の栄養評価および静脈栄養管理の適否が争われた名古屋高裁令和6年9月5日判決を紹介する。<登場人物>患者(P1)直腸切除術後、幽門狭窄により経口摂取困難となった患者(66歳・男性)原告患者P1およびその妻被告県立病院(地方独立行政法人)事案の概要は以下の通りである(なお、いずれも平成27年)。◆入院前経過(体重減少の進行)4月15日患者P1は、直腸がんの疑いで大腸内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を受けるため、本件病院に入院し、この時の体重は62.3kgであった。8月25日P1は胃痛および嘔吐を主訴として本件病院外科・消化器外科を受診し、幽門狭窄症と診断され入院した。この時の体重は55.4kgであり、4月の受診時から約7kgの体重減少がみられていた。9月28日本件病院外科・消化器外科の受診時、食事は少しずつ時間をかけて取っている旨を述べた。10月26日本件病院外科・消化器外科の受診時、食事はセーブしている旨を述べた。◆入院時の栄養評価10月30日水を飲んでも吐き戻す絶食状態が数日続いたとして受診。幽門狭窄による経口摂取不良疑いの精査のため入院。入院時、病院では栄養状態の評価が行われたが、体重測定は実施されなかった。その結果、患者の栄養状態については「明らかな栄養不良は認められない」と判断された。しかし、その後(入院から6日目の11月4日)の測定で48.1kgであったため、入院当時の体重は約48kg程度であったと推定されている。これは「約6ヵ月で20%以上の体重減少」「約2ヵ月で10%以上の体重減少」に相当する著しい体重減少であった。◆入院後の栄養管理患者は幽門狭窄による嘔吐のため、入院後も十分な経口摂取ができない状態が続いた。そのため病院では静脈栄養による栄養管理が行われたが、その際ビタミンB1の投与は行われなかった。このこともあり「ブドウ糖を含む輸液が継続された」という状況であった。◆ウェルニッケ脳症の発症11月4日頃患者はウェルニッケ脳症を発症した。その後、患者はコルサコフ症候群を発症し、重篤な後遺障害が残存した。 実際の裁判結果名古屋高裁は、病院の栄養管理には過失があったと認定し、患者側の請求を一部認容した。裁判所は、以下の点を指摘し「本件病院は、自ら規定した本件マニュアルに従い、患者P1の体重測定を行い、最近6ヵ月および最近2週間の体重の変化を把握すべきであった」とした。SGA(Subjective Global Assessment)を含む一般に妥当性が承認されている複数の栄養状態評価の方法においては、体重変化が最も重要な指標であるとされていること 本件病院においては、入院患者に対してはSGAに基づく栄養状態評価を行うことを定め、その具体的な内容を本件マニュアルで定めて、これが運用されていたこと患者P1は、本件病院で直腸切除の手術を受け、その後、摂食障害により被控訴病院に幽門狭窄症と診断されて入院し、退院後も通院している中で、時間をかけても十分に食事を摂取することができなくなったことを述べるようになっていたことそして、裁判所は、以下の点を指摘し、「本件病院が患者P1について「明らかに栄養不良がない」との栄養評価をして、体重測定を行うことなく、重大な栄養障害が生じている可能性が高いことを把握しなかったことは、当時の医療水準を逸脱するものであったと言わざるを得ず、不法行為法上の過失があった」とした。栄養障害が存在するときには、とくに体内貯蔵量の少ないビタミンB1などの水溶性ビタミンの欠乏症が起こりやすく、ビタミンB1は18日から20日間で枯渇することビタミンB1が欠乏すると、死亡または重大な後遺障害を遺す蓋然性の高いウェルニッケ脳症を発症することは、いずれも本件入院時において広く知られていたこと平成27年当時、ビタミン欠乏のおそれのない患者に対して、無条件にビタミン剤を投与することは消極的とされていたことから、本件病院が、摂食不良を訴える患者P1の入院時に体重測定をせず、体重変化を把握しないまま、「明らかに栄養不良がない」との栄養評価をすれば、ビタミンB1を投与せずにブドウ糖のみを投与することとなり、ビタミンB1が欠乏し、ウェルニッケ脳症を発症する。このことは、患者P1が直腸切除術後であること、摂食障害により幽門狭窄症と診断されて入通院していること、時間をかけても十分な食事摂取ができなくなり、水を飲んでも吐き戻す絶食状態が数日続き再入院している患者P1の既往、経過および状態にあることを把握していた本件病院において、予見することが十分に可能であったこと患者P1の妻が本件入院で来院の際、本件病院の外来看護師に対して患者P1の摂食状況が2週間前から極端に悪化していることを伝えていたこと患者P1は、本件病院に着くまでは自ら歩いており、本件病院到着後も立位を保持して検査を受けることが可能であり、本件病院が患者P1の体重を測定することは容易であったこと本件当時も、ビタミンB1があらかじめ添加された栄養輸液製剤は広く普及しており、本件病院においてビタミンB1を投与することも容易であったことその上で、裁判所は、以下の点を指摘し、「本件病院が患者P1に本件入院当初からビタミンB1を投与していれば、ウェルニッケ脳症およびコルサコフ症候群を発症しなかったであろう高度の蓋然性がある」として、過失と損害の因果関係を認めた。患者P1の本件入院時の体重は、同年11月4日の測定結果とほぼ同様の48.1kgと考えられるところ、患者P1は同年4月15日には62.3kg、同年8月25日には55.4kgであったのだから、最近約6ヵ月の体重減少率は20%を超える約22.8%、最近約2ヵ月の体重減少率は10%を超える約13.2%であり、病的な体重減少であったこと本件病院の作成している本件マニュアルに照らせば、重大な栄養障害である可能性があるものに当たるだけでなく、その基準をはるかに超えて体重が減少していることから、体重の増減を把握していれば、患者P1に重大な栄養障害が生じている可能性があるものと判断したはずであること重大な栄養障害が生じている患者にビタミンB1を投与することなくブドウ糖を投与すると、急激にビタミンB1が消費されてウェルニッケ脳症を発症することウェルニッケ脳症は高い割合で重篤な後遺障害が残存しまたは死亡するという重大な疾患である一方で、ビタミンB1の投与による特段の副作用はないとされており、ウェルニッケ脳症は症状が出てから対応する疾患ではなく、予防的に対応する疾患であるとされていることウェルニッケ脳症は、ビタミンB1の欠乏により発症するものであり、コルサコフ症候群はウェルニッケ脳症の慢性期に発症するものであること注意ポイント解説本判決の特徴は、入院患者の栄養管理に関する医療水準を比較的具体的に示した以下の点にある。第1に、栄養評価において体重変化が基本的指標であることを明確にし、体重測定を行わないまま栄養状態を判断したことを問題視した点第2に、摂食不良患者ではビタミンB1欠乏が生じ得るという医学的知見を前提とし、そのような患者に対するビタミンB1投与の必要性を指摘した点第3に、ビタミンB1欠乏状態でのブドウ糖投与がウェルニッケ脳症の発症につながる可能性を踏まえ、予防的なビタミンB1投与を行わないことの不合理性を認めた点また、本判決は、消化管疾患による摂食不良患者や末梢静脈栄養の症例であってもウェルニッケ脳症の発症リスクが生じ得ることを示した点に特徴がある。加えて、本件病院が患者P1の入院時の栄養状態を「明らかな栄養不良がない」としたことにつき、本判決は“本件病院では、「明らかに栄養不良がない」という場合がどのような場合であるのかについては明示されていなかったのであるから、少なくとも、ディティールスクリーニングの項目のいずれかに該当することがうかがわれる場合には、「明らかに栄養不良がない」と判断することは許されない”としており、本件病院に栄養評価に関するマニュアルがあり栄養サポート体制が存在していたにもかかわらず、基本的な栄養評価が十分に行われなかったことが過失認定の背景となっている。この点からすると、本判決は単にビタミンB1投与の問題にとどまらず、入院患者の栄養管理体制そのものの重要性を示したものと評価できる。医療者の視点本判決は、入院契機となった主訴や疾患の治療に注力するだけでなく、栄養状態を含めた「患者全体の全身管理」に目を向けることの重要性を改めて浮き彫りにしました。実際の臨床現場でも、NST(栄養サポートチーム)などを通じて体系的な栄養評価が行われており、体重変化の把握やビタミンB1欠乏への注意喚起は広く認識されているため、裁判所の見解と実臨床の認識は概ね一致しています。一方で、実臨床との相違点や課題もあります。本件では入院時に体重測定を実施しなかったことが過失と認定されました。臨床現場では、患者の全身状態が不良で、立位での体重測定が困難なケースに直面することが多々あります。しかし、本件の患者は自立歩行が可能であり、測定は容易であったと判断されました。状態が悪く測定が困難な場合であっても、ベッドスケールを活用するなど、客観的な指標である体重を可能な限り把握する姿勢が求められます。本件から得られる教訓は、入院契機となった主訴や原疾患の治療にのみ目を奪われるのではなく、患者の栄養状態を含めた全身管理に広く目を向けることの重要性です。実臨床においては、目の前の症状に対処するだけでなく、患者の既往や経過から潜在的なリスクを予測し、予防的な介入を行うという包括的な視点を持つことが、予期せぬ合併症や医療事故を防ぐ上で不可欠といえます。また、実臨床では、短期の末梢静脈栄養においてビタミンB1を含まないブドウ糖輸液を選択する場面も少なくありません。しかし、消化管疾患などで摂食不良の経過がある患者に対しては、ブドウ糖投与がウェルニッケ脳症を誘発するリスクを常に念頭に置き、予防的にビタミンB1を投与することが不可欠です。Take home message栄養評価では体重測定と体重変化の把握が基本である摂食不良患者ではビタミンB1欠乏を想定する必要があるビタミンB1欠乏状態でのブドウ糖投与はウェルニッケ脳症を誘発し得るウェルニッケ脳症は予防可能な医療事故であるキーワード体重変化、摂食不良、ビタミンB1欠乏、ウェルニッケ脳症、コルサコフ症候群

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呼吸器感染症やアレルギーに対する点鼻ワクチン、動物実験で有望な結果

 注射を何本も打たれるのが嫌でワクチン接種を避けてきた人にとって、希望の持てるニュースがある。米国の主要5大学の科学者たちが、将来的にはインフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、細菌性肺炎、さらには一般的なアレルギーにまで効果を発揮し得る点鼻スプレー型ワクチンの開発に大きな一歩を踏み出したのだ。このワクチンのマウスでの実験に携わった米スタンフォード大学医学部の微生物学・免疫学教授であるBali Pulendran氏は、「これは医療のあり方を一変させる可能性がある」と語っている。この研究の詳細は、「Science」に2月19日掲載された。 現行のワクチンは、病原体の一部をあらかじめ免疫に提示することで、実際の感染に備えさせるものだ。しかし、多くのウイルスは瞬く間に変異してしまうため、追加接種やインフルエンザワクチンのような毎年の接種が必要とされている。Pulendran氏は、「ヒョウが模様を変えるように、ウイルスは表面の抗原を容易に変えてしまう」と説明する。 一方、「GLA-3M-052-LS+OVA」と名付けられた今回のワクチンは、感染時に免疫細胞同士が交わすシグナルを模倣することで体の主要な防御機構を総動員し、より長く続く協調的な免疫反応を引き起こすように設計されている。具体的には、この点鼻ワクチンは、脂質から成る粒子であるリポソームを用いて、免疫を強く刺激するTLR4(Toll様受容体4)およびTLR7/8のリガンドと、モデル抗原である卵白由来のタンパク質、オボアルブミンを組み合わせたもので、鼻腔に投与することで気道や肺の免疫系を直接活性化する。 実験では、マウスの鼻腔にワクチンを滴下投与し、一部のマウスには1週間おきに複数回投与した。その後、呼吸器系ウイルスに曝露させた。その結果、これらのマウスは、新型コロナウイルスやSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルス、コウモリ由来のSARS関連コロナウイルスであるSHC014-CoVなどの複数のウイルスだけでなく、黄色ブドウ球菌やアシネトバクター属菌などの細菌、さらにはダニなどのアレルゲンに対しても3カ月以上続く防御効果を示した。一方、未接種のマウスでは著しい体重減少と重症化が認められ、死亡例も多く確認された。 Pulendran氏は、「最初は突拍子もないアイデアに思えた。こんなことが可能だと本気で考えていた人はほとんどいなかったと思う」と話す。しかし、実際に成果は得られた。同氏は、「ワクチンを投与された肺の免疫システムは、ウイルスに対処する準備が万全であり、通常は2週間程度かかるウイルス特異的T細胞や抗体による適応免疫反応をわずか3日で起こすことができるのだ」と述べている。 とはいえ、すぐに現行のワクチン接種をやめられるわけではない。動物実験の結果がそのまま人間に当てはまるとは限らず、GLA-3M-052-LS+OVAについても、これからヒトを対象にした試験が必要である。しかし、ヒトでも同様の結果が得られれば、将来は毎年必要な複数の注射をこの1本の点鼻ワクチンに置き換えられる可能性がある。また、新たに出現したパンデミックを引き起こし得るウイルスに対して迅速に防御を提供できる可能性もあるという。研究グループは、ヒトでの試験が成功すれば、5〜7年以内に「呼吸器系ウイルスに対するユニバーサルワクチン」が利用可能になる可能性があるとしている。 なお、今回の研究には、スタンフォード大学のほか、エモリー大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、ユタ州立大学、アリゾナ大学の研究者も参加した。

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活動性SLEがオビヌツズマブ上乗せにより改善/NEJM

 オビヌツズマブは、糖鎖改変されたII型抗CD20モノクローナル抗体で、強力なB細胞枯渇作用を有し、諸外国では活動性ループス腎炎の成人患者の治療薬として承認されている。米国・NorthwellのRichard A. Furie氏らは「ALLEGORY試験」において、活動性全身性エリテマトーデス(SLE)の治療薬として、プラセボと比較して同薬は、52週の時点で疾患活動性の指標などから成るSLEレスポンダー指数(SRI-4)の有意な改善をもたらし、重篤な有害事象の頻度に大きな差はないことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年3月6日号で報告された。14ヵ国の無作為化プラセボ対照比較第III相試験 ALLEGORY試験は、14ヵ国の施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較第III相試験(F. Hoffmann-La Rocheの助成を受けた)。2021年7月~2024年9月に、年齢18~75歳、増殖性または膜性ループス腎炎を伴わない活動性SLEで、標準治療を受けている患者303例を登録した。 被験者を、オビヌツズマブ(1,000mg、1日目、2、24、26週目)の静脈内投与群(151例、平均[SD]年齢41.1[±12.3]歳、女性139例[92.1%])またはプラセボ群(152例、41.4[±12.6]歳、135例[88.8%])に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、52週目の時点におけるSRI-4奏効の達成とした。SRI-4奏効は、次の条件をすべて満たす場合と定義した。(1)SLE疾患活動性指数2000(SLEDAI-2K)のスコアが、ベースラインから少なくとも4点低下すること、(2)British Isles Lupus Assessment Group(BILAG)2004指数および医師による総合評価(Physician's Global Assessment:PGA)で疾患の悪化がないこと、(3)中間事象(主たる併用薬違反、レスキュー薬の投与、死亡・有効性の欠如・有害事象による試験参加の早期中止)がないこと。5つの主な副次エンドポイントも有意に優れる 52週の時点でのSRI-4奏効の達成率は、プラセボ群が53.5%であったのに対し、オビヌツズマブ群は76.7%と有意に優れた(補正後群間差:23.1%ポイント、95%信頼区間[CI]:12.5~33.6、p<0.001)。 死亡を除く中間事象が奏効に影響を及ぼさない状況での補完的な解析では、SRI-4奏効達成率は、プラセボ群の68.5%に対しオビヌツズマブ群は85.4%であり、有意に良好であった(補正後群間差:16.8%ポイント、95%CI:7.1~26.4、p<0.001)。 また、オビヌツズマブ群では、5つの主な副次エンドポイント(52週時のBILAGに基づく複合ループス評価[BICLA]の奏効[p<0.001]、グルココルチコイド用量の≦7.5mg/日への40~52週目までの持続的な減量[p<0.001]、40週時のSRI-4奏効の52週目までの持続[p<0.001]、52週時のSRI-6[SLEDAI-2Kスコアのベースラインから少なくとも6点の低下を含む]奏効達成率[p<0.001]、BILAGの定義に基づく初回再燃までの期間[p=0.002])のすべてが、プラセボ群に比べ有意に優れた。infusion-related reactionが多く発現 有害事象は、オビヌツズマブ群の88.7%、プラセボ群の81.5%で報告され、重篤な有害事象はそれぞれ24例(15.9%)および18例(11.9%)で発現した。オビヌツズマブ群で頻度の高かった重篤な有害事象は、肺炎(2.0%)、上気道感染症、尿路感染症、infusion-related reaction(各1.3%)であった。infusion-related reactionはオビヌツズマブ群で多くみられた(11.9%vs.3.3%)。 二重盲検の期間中に、オビヌツズマブ群で1例(軟部組織感染症と肺炎)、プラセボ群で3例が死亡した。薬剤関連好中球減少が、オビヌツズマブ群で7例に8件(Grade1:3件、Grade2:2件、Grade3:3件)、プラセボ群で3例に認めたが、いずれも平均35日以内に解消した。 著者は、「活動性SLEの成人患者の治療において、標準治療とオビヌツズマブの併用は、主要および5つの主な副次エンドポイントのすべてで、プラセボに比べ有意な改善効果をもたらした」「DORIS奏効(寛解の指標)およびLLDASスコア(低疾患活動性の指標)も、オビヌツズマブ群で改善の傾向がみられ、これはガイドラインが低用量グルココルチコイドによる寛解を目指す『目標達成に向けた治療(treat-to-target)』を強調していることを踏まえると重要な知見と言えよう」としている。

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VR介入はMCI/認知的フレイルの高齢者に有効な介入なのか?

 軽度認知障害(MCI)や認知症、またはフレイルを有する高齢者の認知機能、移動能力、情緒面の健康をサポートするための介入として、没入型バーチャルリアリティ(VR)の利用が増加している。そのエビデンスは拡大しているが、いずれも小規模なランダム化試験や実現可能性試験であり、依然として情報は断片化している。下関市立大学の窪田 和巳氏らは、MCI/認知症およびフレイルの高齢者に対するVR介入のベネフィット、リスク、VR導入における考慮事項を明らかにするため、最近のシステマティックレビューを実施し、研究結果の統合を試みた。BMC Geriatrics誌2026年1月13日号の報告。 PRISMA2020に基づき、2019年1月1日~2025年10月15日に公表された研究をPubMed、CINAHLより検索した。対象にはMCI、認知症、フレイル/認知的フレイルを有する65歳以上の高齢者を登録した研究を含めた。ヘッドマウントディスプレイまたは大画面投影(インタラクティブタスクまたは360度コンテンツ)を介した没入型または半没入型VRを用いて、認知機能、移動能力、感情/行動に関するアウトカムを評価したランダム化比較試験、準実験試験、事前事後比較試験を抽出した。2人の独立したレビューアーにより、データ抽出およびスクリーニングを行った。バイアスリスクの評価には、RoB 2(ランダム化試験)またはJBIツール(非ランダム化試験)を用いた。異質性によりメタ解析は実施できなかったため、構造化ナラティブ・シンセシスを実施した。 主な結果は以下のとおり。・70件(PubMed:28件、CINAHL:42件)の研究が特定された。・重複した9件の研究を除外した後、61件の研究をスクリーニングし、24件の全文を評価し、13件の研究(ランダム化比較試験:10件、実現可能性試験/混合研究:3件)を分析に組み入れた。・MCIまたは認知的フレイルを有する高齢者において、最も一貫した改善が認められたのは実行機能と処理速度であり、いくつかの試験では全般認知機能においても若干の改善が報告された。・複数の試験において、Timed Up & GoとBerg Balanceスコアのアウトカムが、対照群と比較して良好であり、予測的な姿勢調整能の向上も認められた。・施設介護において、没入型回想法とグループVR介入は、不安およびアパシーの軽減が認められ、忍容性も良好であった。・有害事象はまれで軽度であり、監督下での実施では順守率が高かった。・ほとんどのランダム化試験でバイアスに関する懸念が認められたが、1件は全体的に低いリスクであった。 著者らは「MCIまたは認知的フレイルのある高齢者において、没入型および半没入型VR介入は監督下での実施が可能であり、認知機能および移動能力のアウトカムの改善に寄与する可能性が示された。施設における感情面および行動面のアウトカムに関するエビデンスは有望であったが、いまだ予備段階でもあった。適切な介入(2~3回/週、8~12週間、合計15時間以上)、適応型課題、スーパービジョンを備えたVR介入プログラムは、良好なアウトカムと最も高い関連が認められた。これらの結果をさらに明らかにするためにも、標準化されたアウトカム、実施および経済評価を組み込んだ、より大規模な多施設ランダム化試験が求められる」としている。

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現行世代の薬剤溶出性ステントを改善するハードルは高い(解説:山地杏平氏)

 新しい世代のシロリムス溶出ステントであるAbluminus DES+を検証したランダム化比較試験であるABILITY Diabetes Global試験の結果がLancet誌に掲載されました。本ステントはシロリムスを薬剤として用い、ポリマーをステント外側(abluminal side)に限定し、さらにバルーン表面にもコーティングを施すことで、血管壁への薬剤送達効率を高めることを狙った設計となっています。 本試験では、糖尿病患者という再狭窄リスクが高い症例において、12ヵ月時点の虚血を伴う標的病変再血行再建(ID-TLR)および標的病変不全(TLF)を主要エンドポイントとして評価が行われました。それぞれ絶対リスク差2.8%、3.0%の非劣性マージンが事前に設定され、その結果、12ヵ月時点のID-TLRはAbluminus DES+群で約4.8%、XIENCE群で約2.1%、また、TLFはそれぞれ約9.7%と6.2%で非劣性は示すことができず、さらに、心筋梗塞など臨床的に重要なイベントも、Abluminus DES+群で一貫して多い傾向が認められました。 本試験において非劣性マージンが絶対リスク差で設定されている点には注意が必要です。近年のDES治療ではイベント率自体が低下しているため、数%の絶対差であっても相対的には大きなリスク増加を意味します。今回設定された2.8%というマージンは、相対的にはおよそ4割前後のイベント増加を許容する水準に相当し、糖尿病患者という高リスク集団においては決して小さな差とはいえません。そのように「かなり下駄を履かされた」状態においてなお、非劣性を示すことができませんでした。 本試験ではステント留置時に45秒以上の長時間バルーン拡張が推奨されていましたが、実臨床ではこの条件が十分に遵守されていない症例も確認されています。Abluminus DES+は薬剤送達の最適化を前提とした設計であり、手技が誤っていた場合、その性能が発揮されにくい可能性があります。 生体吸収性スキャフォールド(BRS)でも同様の問題が指摘されてきました。BRSにおいても、長時間拡張や十分な後拡張といった推奨手技が遵守されなかったことは、期待された成績が得られなかった一因と考えられています。新規デバイスは設計思想に基づいた最適使用条件を前提としており、推奨される使用方法に準拠した適切な手技が行われて初めて本来の性能が評価可能となります。本試験の結果は、新規デバイス導入時には正しい手技を用いた植え込みが必須であることを示しているともいえます。

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第48回 世界のがんの4割は予防可能。しかし日本には「欧米とは異なる」決定的なリスク構造がある

今月、Nature Medicine誌に非常に示唆に富む研究結果が報告されました1)。この研究は、世界185ヵ国のがん罹患データ(GLOBOCAN 2022)をもとに、修正可能なリスク要因が、どのがんの負担にどれほど寄与しているかを包括的に解析したものです。日々の診療で私たちが接するがん患者さんの中には、「なぜ自分が」と運命を呪う方も少なくありません。しかし今回のデータは、世界で新たに診断されたがんの約37.8%、実に4割近くが、理論上は「防ぐことのできたがん」であることを示唆しています。今回はこの論文の要点と、日本を含む東アジア特有の事情、そして解釈上の限界について、共有したいと思います。潜伏期間まで考慮した、より「リアル」な推計これまでもGlobal Burden of Disease研究などで同様の解析は行われてきましたが、今回の研究にはいくつかのユニークな強みがあります。まず、評価対象とするリスク要因の包括性です。喫煙やアルコール、BMIといった代謝・行動要因だけでなく、これまでの研究では除外されがちだった「感染症(ピロリ菌、HPV、肝炎ウイルス等)」や「紫外線」を含む30もの要因を網羅しています。さらに特筆すべきは、曝露から発がんまでのタイムラグ、いわゆる「潜伏期間」をモデルに組み込んでいる点です。多くのがんにおいて、現在の罹患率は「今」ではなく「過去」の生活習慣の結果です。そこで研究チームは、10年前の曝露状況などのデータを用いることで、因果関係の推定精度をより高めようと試みています。世界と異なる「東アジア」のリスク構造解析の結果、世界全体ではがんの約4割が予防可能なリスク要因に起因しており、とくに男性ではその割合が約半数(45.4%)に達することがわかりました。女性は約3割(29.7%)です。この性差は、主に喫煙率とアルコール摂取量の男女差を反映していると考えられます。ここで、私たち日本人の医療者がとくに注目すべきデータがあります。地域別の解析を見ると、高所得国グループの中でも、欧米と東アジアではリスクの顔ぶれが大きく異なるのです。欧米諸国では、喫煙、高BMI(肥満)、アルコールが主要なリスク要因となっています。一方で、日本を含む東アジア地域では、依然として「感染因子」による疾病負担がきわめて高い水準にあります。具体的には、胃がんの主因であるヘリコバクター・ピロリ、肝細胞がんの主因である肝炎ウイルス(HBV/HCV)、そして子宮頸がん等に関与するヒトパピローマウイルス(HPV)です。これらががん負担の大きな部分を占めているという事実は、日本の臨床現場における感染症対策(具体的には、ピロリ菌の除菌、肝炎ウイルスの拾い上げ、そしてHPVワクチンの普及)が、がん予防において依然として重要であることを如実に物語っています。もちろん、食の欧米化に伴い、高BMIによるリスクも年々増加傾向にあります。感染症対策の手を緩めず、同時に肥満などの代謝リスクへも介入していくという、「二刀流」が私たちには求められているといえるでしょう。研究データの解釈における「限界」非常に精緻な研究ではありますが、解釈にあたっては、いくつかの限界も念頭に置く必要があります。まず挙げられるのが、データの質の地域差です。世界185ヵ国すべてにおいて高品質なリスク曝露データが揃っているわけではなく、一部の国や地域では推計モデルに依存しているため、数値の精度にはばらつきがある可能性があります。また、潜伏期間の設定についても課題が残ります。本研究では多くの要因で一律に「10年」という潜伏期間を設定して解析していますが、実際の発がんプロセスはがん種や要因によって千差万別です。10年という期間設定が、必ずしもすべての病態を正確に反映しているとは限らない点には注意が必要です。さらに、今回は各リスク要因の影響を足し合わせるモデルを基本としています。しかし実際の生体反応では、たとえば「喫煙」と「アスベスト曝露」が組み合わさることでリスクが跳ね上がるといった相互作用が起こりえます。こうした複合的なシナジー効果については、今回の数値には十分に反映されていない可能性があり、実際のリスクはさらに高いかもしれません。臨床現場への示唆こうした限界はあるものの、この研究が私たちに提供してくれているものの価値は揺らぎません。がんの4割は、運ではなく、対策可能なリスクによって引き起こされているのです。患者さんへの生活指導において、禁煙や節酒の重要性を伝えることはもちろんですが、東アジア特有のリスクである感染症への介入を徹底することが、将来のがんを減らす価値のある投資になります。私たち医療従事者が、このエビデンスを日々の診療や啓発活動に落とし込んでいくことが、10年後、20年後の日本の「がんの風景」を変えることにつながるのかもしれません。 1) Fink H, et al. Global and regional cancer burden attributable to modifiable risk factors to inform prevention. Nat Med. 2026 Feb 3. [Epub ahead of print]

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多発性骨髄腫患者の感染リスクを予測する免疫バイオマーカー/Blood

 多発性骨髄腫患者において感染予防は最重要課題である。今回、スペイン・Cancer Center Clinica Universidad de NavarraのAintzane Zabaleta氏らによる多発性骨髄腫患者の大規模免疫プロファイリングの結果、骨髄中のCD27陽性B細胞、CD27陰性NK細胞、CD27陰性/CD27陽性T細胞比が、感染の独立したリスク因子であることが示唆された。Blood誌オンライン版2026年1月29日号に掲載。 著者らは感染リスクの高い免疫バイオマーカーを特定するため、さまざまな疾患Stageおよび治療シナリオにある1,786例の多発性骨髄腫患者から骨髄および末梢血検体を採取し、次世代フローサイトメトリーを用いた免疫プロファイリングを実施した。 主な結果は以下のとおり。・感染症を発症した患者では、骨髄中のCD27陽性B細胞およびCD27陰性NK細胞の割合が有意に低く、CD27陰性/CD27陽性T細胞比が高かった。・リスク因子が1個以下と2個以上に層別化する免疫スコアを開発したところ、感染症発症率はそれぞれ35%と60%であった(p<0.001)。・免疫スコア(オッズ比:2.31、p<0.001)、疾患Stage、CD38、BCMA、GPRC5D標的療法が、感染症発症率と独立して関連していた。 本研究の結果、骨髄および末梢血で検出可能なすべての細胞タイプは有意に相関しており、感染リスクの高い免疫バイオマーカーは、日常的な検査で利用可能な低侵襲的な方法でモニタリングが可能であることが示唆された。

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DM合併冠動脈疾患、Abluminus DES+シロリムスステントの有用性は?/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受ける糖尿病合併患者において、血管壁側(abluminal)およびバルーン表面をコーティングしたシロリムス溶出ステント(Abluminus DES+SES)は、XIENCE耐久性ポリマーエベロリムス溶出ステント(XIENCE EES)と比較し、12ヵ月時の虚血による再度の標的病変血行再建術および標的病変不全の発生率が高く、非劣性は認められなかった。ブラジル・Heart Institute of University of Sao PauloのAlexandre Abizaid氏らが、16ヵ国74施設で実施した無作為化非盲検比較試験「ABILITY Diabetes Global試験」の結果を報告した。著者は、「糖尿病合併患者における治療成績の最適化が依然として課題であることが浮き彫りとなり、この患者集団における虚血リスクを低減するためステント設計および補助的薬物療法のさらなる革新が必要である」とまとめている。Lancet誌2026年1月17日号掲載の報告。Abluminus DES+SESのXIENCE EESに対する非劣性を評価 研究グループは、慢性冠症候群または非ST上昇型急性冠症候群で少なくとも1つの新規冠動脈病変に対しPCIを施行する1型または2型糖尿病の成人(18歳以上)患者を、Abluminus DES+SES群またはXIENCE EES群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 Abluminus DES+SES群では、薬剤移行を促進するためにバルーン拡張時間を45秒以上とすることが推奨された。また、全例に、臨床ガイドラインおよび現地の標準治療に基づいて2剤併用抗血小板療法を行った。 主要エンドポイントは、per-protocol集団における12ヵ月時点の虚血による再度の標的病変血行再建術(ID-TLR)および標的病変不全(TLF)(心血管死、標的血管心筋梗塞、またはID-TLRの複合エンドポイントと定義)の2つで、非劣性マージンはそれぞれ2.8%および3.0%とした。いずれも累積発生率はKaplan-Meier法で推定し、Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)とその95%信頼区間(CI)を算出した。複合主要エンドポイントのID-TLRとTLFの発生、非劣性基準を満たさず 2020年6月12日~2022年9月9日に、3,032例がAbluminus DES+SES群(1,514例)またはXIENCE EES群(1,518例)に無作為に割り付けられた。3,032例中2,931例(96.7%)が死亡までまたは24ヵ月間の追跡調査を完了した。年齢中央値は68.0歳(四分位範囲:60~74)で、879例(29.0%)が女性、2,153例(71.0%)が男性であった。 per-protocol集団における12ヵ月時のID-TLRは、Abluminus DES+SES群で1,421例中67例(Kaplan-Meier推定値:4.8%、95%CI:3.9~6.2)、XIENCE EES群で1,446例中30例(2.1%、1.6~3.2)に認められ、絶対リスク群間差は2.7%(95%CI:1.3~4.1)で非劣性基準を満たさなかった(非劣性のp=0.44)。 また、TLFはAbluminus DES+SES群で137例(Kaplan-Meier推定値:9.7%、95%CI:8.4~11.5)およびXIENCE EES群で89例(6.2%、5.3~7.8)に認められ、絶対リスク群間差は3.5%(95%CI:1.5~5.5)であり(非劣性のp=0.68)、いずれの主要エンドポイントも絶対リスク群間差の95%CIの下限が0を上回った。 TLFを個別にみると、標的血管心筋梗塞は、Abluminus DES+SES群のほうが発生率は高かったが(Kaplan-Meier推定値:5.2%[95%CI:4.1~6.5]vs.3.1%[2.4~4.3])、心血管死(2.9%[2.1~3.9]vs.2.1%[1.5~3.0])および全死因死亡(3.7%[2.8~4.8]vs.3.3%[2.5~4.4])に有意差は認められなかった。 結果は、24ヵ月時点でもITT集団において一貫性が認められたが、12ヵ月から24ヵ月までのランドマーク解析では、両群間に有意差は認められなかった。

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急性筋骨格系損傷の小児、イブプロフェン単独療法vs.併用療法/JAMA

 非観血的急性筋骨格系損傷の小児(6~17歳)において、薬剤投与60分後の疼痛スコアは、イブプロフェン+アセトアミノフェン併用投与またはイブプロフェン+ヒドロモルフォン併用投与を行っても、イブプロフェン単独投与と比較して有意な改善は認められず、副作用の発現割合はヒドロモルフォン併用投与で約4倍高かった。カナダ・アルバータ大学のSamina Ali氏らが、カナダの3次医療施設6施設の小児救急部門で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照試験「Non-Steroidal or Opioid Analgesia Use for Children With Musculoskeletal Injuries:No OUCH試験」の結果を報告した。イブプロフェンは、筋骨格痛に対する第1選択薬であるが、小児の3例に2例がイブプロフェン単独では十分な疼痛緩和が得られず、中等度から重度の筋骨格痛に対する鎮痛薬の追加併用の有効性は不明であった。JAMA誌オンライン版2026年1月8日号掲載の報告。オピオイド併用の3群比較試験と、非オピオイド併用の2群比較の2試験を実施 No OUCH試験は、オピオイド試験と非オピオイド試験の2試験で構成され、保護者および患者がいずれに参加するかを決定できる治療選好を考慮した補完的試験デザインで実施された。 対象は6~17歳の小児で、発症後24時間以内の急性筋骨格系損傷(明らかな変形や神経血管障害を伴わない)を呈し、verbal numerical rating scale(vNRS)による疼痛スコアが10点満点中5点以上の患者とした。 研究グループは、適格患者を、オピオイド試験では(1)イブプロフェン+ヒドロモルフォン群、(2)イブプロフェン+アセトアミノフェン群、(3)イブプロフェン単独群のいずれかに、非オピオイド試験では(1)イブプロフェン+アセトアミノフェン群、または(2)イブプロフェン単独群のいずれかに無作為に割り付け、それぞれ単回経口投与した。 両試験とも、イブプロフェンは10mg/kg(最大600mg)、アセトアミノフェンは15mg/kg(最大1,000mg)、ヒドロモルフォンは0.05mg/kg(最大5mg)を投与した。 有効性の主要アウトカムは、投与後60分時点の自己申告によるvNRS疼痛スコア(スコア範囲:0[無痛]~10[最悪の痛み]、臨床的意義のある最小群間差:1.5[SD 2.7])、安全性の主要アウトカムは、治療関連有害事象の発現割合であった。平均疼痛スコアは3群間で有意差なし 2019年4月~2023年3月に8,098例がスクリーニングされ、適格患者699例が無作為化された(オピオイド試験249例[イブプロフェン+ヒドロモルフォン群110例、イブプロフェン+アセトアミノフェン群70例、イブプロフェン単独群69例]、非オピオイド試験450例[イブプロフェン+アセトアミノフェン群225例、イブプロフェン単独群225例])。2試験の患者の平均(SD)年齢は11.5(3.5)歳、47.4%が女性で、登録時の平均(SD)vNRSスコアは6.4(1.8)であった。 有効性の解析対象集団653例において、投与60分後の平均(SD)vNRSスコアはイブプロフェン+ヒドロモルフォン群4.8(2.6)、イブプロフェン+アセトアミノフェン群4.6(2.4)、イブプロフェン単独群4.6(2.3)であった(p=0.78)。 治療関連有害事象の発現割合は、イブプロフェン+ヒドロモルフォン群で28.2%と、イブプロフェン+アセトアミノフェン群6.1%、イブプロフェン単独群5.8%と比較して高かった。重篤な有害事象は報告されなかった。

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アルツハイマー病に伴うアジテーション、最適なブレクスピプラゾールの投与量は?

 アルツハイマー病に伴うアジテーションは、患者の転帰と介護者の負担に重大な影響を及ぼす。ブレクスピプラゾールは有望な治療選択肢と考えられている。しかし、至適用量は依然として不明であった。サウジアラビア・King Faisal UniversityのMahmoud Kandeel氏らは、アルツハイマー病に伴うアジテーションの治療におけるブレクスピプラゾールの異なる用量の有効性と安全性を比較するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2025年12月8日号の報告。 PRISMAガイドラインに従い、2025年1月までに公表された研究をPubMed、Embase、Web of Science、Scopusより検索した。ブレクスピプラゾールの異なる用量(0.5~3mg/日)とプラセボを比較した4件のランダム化比較試験(1,451例)を解析に含めた。主要アウトカムは、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)、Clinical Global Impression-Severity Scale(CGI-S)、Neuropsychiatric Inventory-Nursing Home Version(NPI-NH)スコアの変化と安全性評価とした。 主な結果は以下のとおり。・ブレクスピプラゾール2mgは、プラセボと比較し、CMAIスコア(平均差[MD]:-5.88、95%信頼区間[CI]:-8.13~-3.63)、CGI-Sスコア(MD:-0.48、95%CI:-0.95~-0.01)の有意な改善が認められた。・複数回投与においてNPI-NHスコアの有意な改善が認められ、高用量(2~3mg)投与で最も効果が高かった(MD:-4.60、95%CI:-7.54~-1.66)。・高用量(2~3mg)では、治療下で発現した有害事象が増加した(リスク比:1.20~1.33)。しかし、重篤な有害事象についてはプラセボと比較して有意な差は認められなかった。 著者らは「アルツハイマー病に伴うアジテーションに対するブレクスピプラゾール2mgによる治療は、良好な安全性プロファイルを維持しながら、最適な治療効果をもたらすことが明らかとなった。これらの知見は、個々の反応と忍容性に基づき、低用量から治療を開始しながら2mgまで慎重に漸増することを支持している」とし「今後の研究では、長期的なアウトカムと実臨床における有効性に焦点を当てるべきである」としている。

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2型糖尿病患者は難聴の有病率が高い

 2型糖尿病と難聴リスクとの関連が報告された。罹病期間が長い糖尿病患者は難聴有病率が高いことなどが示されている。バルセロナ大学(スペイン)のMiguel Caballero-Borrego氏、Ivan Andujar-Lara氏の研究によるもので、詳細は「Otolaryngology-Head and Neck Surgery」11月号に掲載された。 慢性高血糖に伴う神経や血管の障害は全身性であることから、聴覚系にも影響を及ぼす可能性がある。これまでにも、糖尿病患者では内耳毛細血管の超微細構造に変化が生じているという報告など、糖尿病と難聴の関連性を示すエビデンスが報告されている。ただし、実臨床での研究結果には一貫性が見られず、糖尿病罹病期間や性別などにより関連性が異なるのではないかとの考え方もある。Caballero-Borrego氏らはこれを背景として、システマティックレビューとメタ解析による検討を行った。 論文検索にはPubMed、Scopusを用い、2019年1月~2024年4月に収載された論文を対象とした。包括基準は、糖尿病と難聴との関連を検討したコホート研究、横断研究、症例対照研究で、英語またはスペイン語の論文とし、糖尿病以外の要因による聴覚障害の可能性を否定できない研究、1型糖尿病患者のみを対象とした研究、聴力検査の信頼性が低いと判定される研究などは除外した。 一次検索で8,354件の論文がヒットし、重複削除、タイトルと要約に基づくスクリーニング、全文精査を経て17件を抽出した。これらの研究の参加者数は糖尿病群が計3,910人、対照群が4,084人であり、糖尿病群の難聴の有病率は40.6~71.9%の範囲だった。 有病率を比較可能な4件の研究(糖尿病群2,358人、対照群3,561人)を統合した解析で、糖尿病群の難聴有病率は有意に高いことが明らかになった(オッズ比〔OR〕4.19〔95%信頼区間1.22~14.37〕)。また、糖尿病群の純音聴力閾値は対照群より有意に高く(3.19dB〔同1.08~5.19〕)、低音域(1.11dB〔0.62~1.57〕)および高音域(2.3dB〔1.97~2.63〕)も同様に、糖尿病群の方が有意に高かった。 HbA1cと難聴の重症度との関連も示された。例えば中等度難聴の糖尿病群は対照群に比し平均HbA1cが0.57%(0.1~1.05)高値であり、より重度の難聴の糖尿病群は対照群に比し0.95%(0.02~1.87)高値だった。また、糖尿病の診断後10年以上経過している患者は10年未満の患者に比べ、難聴有病率が有意に高いことも分かった(OR2.07〔1.45~2.94〕)。一方、性別は難聴の有病率に有意な影響を与えていなかった。 著者らは、「糖尿病における難聴は、潜在的に生じている可能性のある細小血管症の結果として現れるのではないか。つまり、糖尿病患者に見られる聴力の低下は早期の警告サインと考えられる。よって糖尿病患者に聴力低下を認めた場合、より綿密なモニタリングを行うとともに、難聴への進行リスクを最小限に抑えるため、治療内容を再検討する必要があるだろう」と述べている。

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