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1.

冠動脈疾患2次予防、クロピドグレルvs.アスピリン/Lancet

 冠動脈疾患(CAD)の2次予防において、アスピリン単剤療法と比較してクロピドグレル単剤療法は、大出血のリスク増加を伴うことなく、主要有害心・脳血管イベント(MACCE)の発生低下をもたらすことが、スイス・University of Italian SwitzerlandのMarco Valgimigli氏らによるシステマティックレビューとメタ解析で示された。CAD既往患者には、無期限のアスピリン単剤療法が推奨されているが、本検討の結果を受けて著者は、「CAD患者における2次予防は、アスピリンよりクロピドグレルを優先して使用することが支持される」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年8月31日号掲載の報告。CAD2次予防としてのクロピドグレルvs.アスピリン単剤療法を比較した無作為化試験をメタ解析 研究グループは、PubMed、Scopus、Web of Science、Embaseを用いて、データベース公開から2025年4月12日までに発表された、CADと確認された患者(かつ抗血小板薬2剤併用療法を中止、または開始していない患者)を対象に、クロピドグレル単剤療法とアスピリン単剤療法を比較した無作為化試験を系統的に検索し、無作為化後に導入期として抗血小板薬2剤併用療法を行った試験を組み入れ、個別の患者データのメタ解析を行った。 主要解析では、試験間のベースラインハザード差を調整するためのランダム切片と、治療効果の差を調整するためのランダムスロープを含む、セミパラメトリック共有対数正規フレイルティモデル(1段階解析)を用いた。 有効性の主要アウトカムは、心血管死、心筋梗塞または脳卒中の複合(MACCE)。安全性の主要アウトカムは大出血(BARC出血基準タイプ3または5、あるいは試験固有の定義)であった。MACCEリスク、クロピドグレル単剤療法がアスピリン単剤療法より有意に低い 検索で特定された1万1,754報のスクリーニングに基づき54件の研究が精査され、このうち適格と認められた7件の無作為化試験(ASCET、CADET、CAPRIE、HOST-EXAM、STOPDAPT-2、STOPDAPT-3、SMART-CHOICE 3)が解析に組み込まれた。 解析対象は計2万8,982例(クロピドグレル単剤療法群1万4,507例、アスピリン単剤療法群1万4,475例)で、追跡期間中央値は2.3年(四分位範囲:1.1~4.0)であった。 5.5年時点で、MACCEの発現頻度はクロピドグレル群(929件[2.61/100患者年])がアスピリン群(1,062件[2.99])より低かった(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.77~0.96、p=0.0082)。 死亡および大出血の発現頻度は、クロピドグレル群(256件[0.71/100患者年])とアスピリン群(279件[0.77])で差はなかった(HR:0.94、95%CI:0.74~1.21、p=0.64)。

2.

冠動脈疾患への抗血栓療法、アウトカムに性差はあるか/BMJ

 冠動脈疾患の女性患者は、心血管リスクが男性患者に比べて高いにもかかわらず、いわゆる抗血栓療法への反応の違いを理由に、薬物療法やインターベンションを受ける機会が男性患者より少ないという。ジェンダーに基づくアウトカムに関する無作為化試験のデータは十分でないため、心血管治療における男女間の格差が今後も広がる可能性が指摘されている。イタリア・University of Naples Federico IIのRaffaele Piccolo氏らは、冠動脈疾患に対する抗血栓療法において、全死因死亡や心筋梗塞の発生、大出血のリスクに性差はないことを示した。研究の成果は、BMJ誌2025年7月29日号で報告された。有効性と安全性の性差の存在をメタ解析で評価 研究グループは、冠動脈疾患を有する患者における抗血栓療法(抗血小板薬、抗凝固薬)の有効性と安全性に性差が存在するかを評価する目的で系統的レビューとメタ解析を行った(イタリア教育省の助成を受けた)。 2025年4月の時点で、医学関連データベースに登録された文献を検索した。冠動脈疾患患者において抗血栓療法の比較を行い、性別に基づくアウトカム(虚血イベント、大出血イベントなど)の記述がある無作為化対照比較試験を対象とした。 主要アウトカムは、全死因死亡、心筋梗塞、大出血(BARC基準のタイプ3または5)とした。抗血栓療法のレジメンを、高強度と低強度に分類(未分画ヘパリン±GP IIb/IIIa阻害薬vs.bivalirudin、抗凝固薬vs.プラセボ、静注P2Y12受容体阻害薬vs.クロピドグレル、長期DAPT vs.短期DAPTなど)して解析した。死亡、心筋梗塞に性別関連の異質性はない 1999~2025年に33件の試験に登録された27万4,433例を解析の対象とした。13万1,014例(52.4%)が高強度、11万9,189例(47.6%)が低強度の抗血栓療法に割り付けられた。7万2,601例が女性で、33試験の女性の比率中央値は25%(四分位範囲[IQR]:22~30.7)であった。全体の年齢中央値は64.5歳(IQR:62~67)だった。 22試験の参加者18万7,580例のうち6,018例が死亡した(高強度群3,064例、低強度群2,954例)。男性患者では、低強度群に比べ高強度群で全死因死亡のリスクがわずかに低かった(ハザード比[HR]:0.94[95%信頼区間[CI]:0.88~1.00]、p=0.05)が、女性患者ではこのような差はなかった(0.99[0.90~1.09]、p=0.90)。全体として、死亡の発生に関して性別に関連した異質性は認めなかった(交互作用のHR:1.06[95%CI:0.94~1.19]、pinteraction=0.33、I2=0.00%、pheterogeneity=0.76)。 心筋梗塞は、21試験の17万2,504例で7,558件発生した。男性患者では、低強度群に比べ高強度群で心筋梗塞のリスクが低く(HR:0.85[95%CI:0.80~0.90]、p<0.001)、女性患者でも有意に低かった(0.89[0.82~0.97]、p=0.01)。全体として、心筋梗塞の発生に関して性別に関連した異質性はみられなかった(交互作用のHR:1.05[95%CI:0.95~1.17]、pinteraction=0.36、I2=14.05%、pheterogeneity=0.28)。性別に依拠しない選択を 大出血は、28試験の24万4,179例で4,003件発現した(高強度群2,384件、低強度群1,619件)。男性患者では、低強度群に比べ高強度群で大出血のリスクが高く(HR:1.48[95%CI:1.37~1.60]、p<0.001)、女性患者でも有意に高かった(1.47[1.30~1.66]、p<0.001)。全体として、大出血のリスクに関して性別に関連した異質性はなかった(交互作用のHR:0.99[0.86~1.15]、pinteraction=0.93、I2=33.56%、pheterogeneity=0.05)。 著者は、「これらのデータは、虚血保護効果と出血リスクの程度は男女間でほぼ同じであると示唆している」「本研究の知見は、冠動脈疾患患者における抗血栓療法の選択は性別に依拠して行うべきではないとの考え方を裏付けるものである」「女性患者における抗血栓療法戦略の最適化に向けたさらなる研究の必要性が浮き彫りとなった」としている。

3.

ASCO2025 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年1回の総会は、今年も米国イリノイ州のシカゴで行われ、2025年は5月30日から6月3日まで行われた。昨今の円安(5月30日時点で1ドル=143円台)および物価高は現地参加に対するモチベーションを半減させるほどの勢いであり、今年もOn-lineでの参加を選択した。泌尿器腫瘍の演題は、Oral abstract session 18(前立腺9、腎4、膀胱5)、Rapid oral abstract session18(前立腺8、腎4、膀胱5、陰茎1)、Poster session 221で構成されており、昨年と比べて多くポスターに選抜されていた。毎年の目玉であるPlenary sessionは、Practice changingな演題が5演題選出されるが、昨年に引き続き今年も泌尿器カテゴリーからは選出がなかった。Practice changingな演題ではなかったが、他領域に先駆けてエビデンスを創出した免疫チェックポイント阻害薬関連の研究の最終成績が公表されたり、新規治療の可能性を感じさせる報告が多数ありディスカッションは盛り上がっていた。今回はその中から4演題を取り上げ報告する。Oral abstract session 前立腺#LBA5006 相同組み換え修復遺伝子(HRR)変異を有する去勢感受性前立腺がんに対するニラパリブ+アビラテロン、rPFSを延長(AMPLITUDE試験)Phase 3 AMPLITUDE trial: Niraparib and abiraterone acetate plus prednisone for metastatic castration-sensitive prostate cancer patients with alterations in homologous recombination repair genes.Gerhardt Attard, Cancer Institute, University College London, London, United Kingdomニラパリブは、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)-1/2の選択性が高く強力な阻害薬であり、日本では卵巣がんで使用されている。HRR遺伝子変異を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)ではMAGNITUDE試験で、ニラパリブ+アビラテロン+prednisone併用(Nira+AP)による画像上の無増悪生存期間(rPFS)の延長が示されている。ASCO2025において、HRR遺伝子変異を有する転移性去勢感受性前立腺がん(mHSPC)に対するNira+AP療法の有効性を検証したAMPLITUDE試験(NCT04497844)の結果が報告された。この試験のHRR遺伝子変異の定義は、BRCA1、BRCA2、BRIP1、CDK12、CHEK2、FANCA、PALB2、RAD51B、RAD54Lの生殖細胞系列または体細胞変異が含まれていた。患者はアビラテロン1,000mg+prednisone 5mgに加えて、ニラパリブ200mgあるいはプラセボを内服する2群にランダム化され、主要評価項目はrPFS、副次評価項目に症候性進行までの期間、全生存期間(OS)、安全性などが設定されていた。ランダム化された696例のうち、BRCA1/2変異は55.6%、High volume症例は78%であった。追跡期間中央値30.8ヵ月時点のrPFS中央値はNira+AP群で未到達、プラセボ+AP群で29.5ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.63、95%信頼区間(CI):0.49~0.80、p=0.0001であった。BRCA1/2変異群でもHR=0.52(95%CI:0.37~0.72)、p<0.0001であった。OSは中間解析であるがHR=0.79(95%CI:0.59~1.04)、p=0.10と報告された。重篤な有害事象は、Nira+AP群で75.2%、プラセボ+AP群で58.9%であり、非血液毒性では貧血(29.1%vs.4.6%)、高血圧(26.5%vs.18.4%)が多く、治療中止割合はそれぞれ11.0%と6.9%であった。AMPLITUDE試験は、HRR遺伝子を有する症例に絞って実施した第III相ランダム化比較試験で、mHSPCにおいてもNira+AP併用療法はrPFSを有意に改善し、OSにおいても良好な傾向を示した。日本は本試験に参加しておらず、Nira+AP療法が保険適用を取得する可能性はないが、同じくmHSPCを対象に実施中のTALAPRO-3試験(タラゾパリブ+エンザルタミドvs.プラセボ+エンザルタミド)の結果に期待が広がる内容であった。#5003 転移性前立腺がんにおけるPTEN遺伝子不活化はADT+DTX治療の効果予測因子(STAMPEDE試験付随研究)Transcriptome classification of PTEN inactivation to predict survival benefit from docetaxel at start of androgen deprivation therapy (ADT) for metastatic prostate cancer: An ancillary study of the STAMPEDE trials.Emily Grist, University College London Cancer Institute, London, United Kingdomドセタキセル(DTX)は転移性の前立腺がんに対して有効な治療法であるが、その効果が得られる症例にはばらつきがある。STAMPEDE試験のプロトコルに参加し(2005年10月〜2014年1月)ADT単独vs.ADT+DTX±ゾレドロン酸またはADT単独vs.ADT+アビラテロン(Abi)に1:1でランダム化された転移性前立腺がん患者の腫瘍サンプルを用いて、全トランスクリプトームデータによりPTENの不活化が治療アウトカムに与える影響を検討した報告である。PTENの不活化は、既報のスコアリング手法(Liuら, JCI, 2021)に基づいて定義された(活性あり:スコア≦0.3、活性なし:スコア>0.3)。また、Decipherスコアは高リスク>0.8、低リスク≦0.8と定義した。Cox比例ハザードモデルを用い、治療割り付けとPTEN活性との交互作用を評価し、年齢、WHO PS、ADT前PSA、Gleasonスコア、Tステージ、Nステージ(N0/N1)、転移量(CHAARTED定義によるHigh volume/ Low volume)で調整した。主要評価項目はOSであり仮説の検定には部分尤度比検定を用いた。全トランスクリプトームプロファイルを832例の転移性前立腺がん患者から取得し、これは試験全体の転移性前立腺がんコホート(n=2,224)と代表性に差はなかった。PTEN不活性腫瘍は419例(50%)に認められ、PTEN mRNAスコアの分布はHigh volumeとLow volumeで差はなかった(p=0.310)。ADT+Abi群(n=182)では、PTEN不活性はOS短縮と有意に関連(HR=1.56、95%CI:1.06~2.31)し、ADT+DTX群(n=279)では、有意な差は認められなかった(HR=0.93、95%CI:0.70~1.24)。PTEN不活化とDTX感受性は有意な交互作用(p=0.002)があり、PTEN不活性腫瘍ではDTX追加により死亡リスクが43%低下(HR=0.57、95%CI:0.42~0.76)し、PTEN活性腫瘍では有意差なし(HR=1.05、95%CI:0.77~1.43)であった。この傾向は転移量にかかわらず一貫しており、Low volume患者(n=244)ではPTEN不活性:HR=0.53、PTEN活性:HR=0.82、High volume患者(n=295)ではPTEN不活性:HR=0.59、PTEN活性:HR=1.23であった。一方、アビラテロン群ではPTENの状態によらず治療効果は一定であり、PTEN不活性:HR=0.52、PTEN活性:HR=0.55(p=0.784)であった。また、PTEN不活性かつDecipher高リスク腫瘍にDTXを追加した場合、死亡リスクが45%低下(HR=0.55、99%CI:0.34~0.89)と推定された。このバイオマーカーの併用による層別化は、ADT+アビラテロン+ドセタキセルの3剤併用療法の適応を検討する際の指標として今後の臨床応用が期待されると演者は締めくくった。日本ではmHSPCへのupfront DTXはダロルタミドとの併用に限られるが、PTEN遺伝子に注目した戦略が重要と考えられ、ますます診断時からの遺伝子パネル検査の保険償還が待たれる状況となってきた。Oral abstract session 腎/膀胱#4507 VHL病関連悪性腫瘍におけるベルズチファンの長期効果 (LITESPARK-004試験)Hypoxia-inducible factor-2α(HIF-2α)inhibitor belzutifan in von Hippel-Lindau(VHL)disease-associated neoplasms: 5-year follow-up of the phase 2 LITESPARK-004 study.Vivek Narayan, Hospital of the University of Pennsylvania, Philadelphia, PAHIF-2α阻害薬のベルズチファンは、VHL病に関連する腎細胞がん(RCC)、中枢神経血管芽腫、膵神経内分泌腫瘍(pNET)を対象に、即時の手術が不要な症例に対して治療薬として日本でも2025年6月に承認された。これは、非盲検第II相試験のLITESPARK-004試験(NCT03401788)の結果に基づくものであるが、ASCO2025では5年以上の追跡期間を経た最新の結果が報告された。対象は以下を満たす症例であった:生殖細胞系列のVHL遺伝子異常を有する測定可能なRCCを1つ以上有する即時の手術が必要な3 cm超の腫瘍なし全身治療歴なし転移なしPS 0~1治療はベルズチファン120mgを1日1回経口投与で、病勢進行、不耐容、または患者自身の希望による中止まで継続された。主要評価項目は、VHL病関連RCCにおける奏効率(ORR)であった。追跡期間中央値は61.8ヵ月、ベルズチファンの投与を受けた61例中35例(57%)が治療継続中であった。ORRは、RCCで70%、中枢性神経血管芽腫で50%、pNETで90%、網膜血管芽腫(18眼/14例)では100%の眼において眼科的評価で改善を確認。奏効期間中央値は未到達(範囲:8.5~61.0ヵ月)であった。重篤な治療関連有害事象は11例(18%)に認められた。最も多かった貧血はAny gradeで93%、Grade 3以上で13%と報告された。そのマネジメントとしてエリスロポエチン製剤(ESA)のみを使用したのは11例(18%)、輸血のみは2例(3%)、ESAと輸血を用いたのは5例(8%)であり、その他の治療が39例(64%)で選択されていた。5年間の追跡後も、ベルズチファンは持続的な抗腫瘍効果と管理可能な安全性プロファイルが報告され、多数の患者が治療を継続していた。即時手術を要しないVHL病関連のRCC、中枢神経血管芽腫、pNET患者において有用な治療選択肢であり、今後われわれも使いこなさなければいけない薬剤である。Rapid Oral abstract session 腎/膀胱#4518 MIBCに対する術前サシツズマブ ゴビテカン+ペムブロリズマブ併用療法と効果に応じた膀胱温存療法(SURE-02試験)First results of SURE-02: A phase 2 study of neoadjuvant sacituzumab govitecan (SG) plus pembrolizumab (Pembro), followed by response-adapted bladder sparing and adjuvant pembro, in patients with muscle-invasive bladder cancer (MIBC).Andrea Necchi,Department of Medical Oncology, IRCCS San Raffaele Hospital,Vita-Salute San Raffaele University, Milan, Italy筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)の標準治療は、術前化学療法を伴う膀胱全摘除術(RC)である。術前ペムブロリズマブ(Pem)やサシツズマブ ゴビテカン(SG)の単剤療法は、それぞれPURE-01試験およびSURE-01試験においてMIBCに対する有効性を示している。SURE-02試験(NCT05535218)は、術前SG+Pem併用療法および術後Pemを用いた第II相試験であり、臨床的奏効に応じた膀胱温存の可能性も含んでいる。ASCO2025ではその中間解析の結果が報告された。cT2~T4N0M0のMIBCと病理診断され、化学療法の適応がない、もしくは化学療法を拒否し、RC予定の患者を対象に、Pem 200mgをDay1に、SG 7.5mg/kgをDay1およびDay8に3週間間隔で4サイクル投与した。手術後はPemを3週間間隔で13サイクル投与した。臨床的完全奏効(cCR)を達成した患者(MRI陰性かつ再TUR-BTでviableな腫瘍が検出されない[ypT0]症例)については、RCの代わりに再TUR-BTが許容され、その後Pem 13サイクルを投与した。主要評価項目はcCR割合で、閾値30%、期待値45%としてα=0.10、β=0.20で検出するための症例数は48例と設定された。2段階デザインであり、1段階目を23例で評価し、cCR7例以上であれば2段階目に進む計画であった。ASCO2025では、SURE-02試験の中間報告がなされた。2023年10月~2025年1月までに40例が治療を受け、31例が有効性評価対象となった。cCR割合は12例(38.7%)、95%CI:21.8~57.8であり、全員が再TUR-BTを施行された。ypT≦1N0-x割合は16例(51.6%)であった。重篤な有害事象は4例(12.9%)で、SGの投与中止2例、1週間の投与延期1例があったが、SGの減量は不要であった。23例でトランスクリプトーム解析が行われ、病理学的完全奏効(ypT0)について、Luminal腫瘍では非Luminal腫瘍に比べてypT0率が高かった(73%vs.25%、p=0.04)。Lund分類においては、ゲノム不安定型では67%、尿路上皮型では57%、基底/扁平上皮型では20%、神経内分泌型では0%であった。間質シグネチャーが高い症例では非ypT0である割合が高く(p=0.004)、一方でTrop2(p=0.15)およびTOP1(p=0.79)の発現はypT0との関連を示さなかった。周術期におけるSG+Pembro療法は、良好なcCR率と許容可能な安全性プロファイルを示し、約40%の症例で膀胱温存が可能であった。本試験において、このまま主要評価項目を達成するかどうかは現時点で期待値以下であるため少し不安はあり、また得られる結果も決して確定的なものではない。しかしながら、中間報告の時点で膀胱温存の可能性を40%の症例で達成していることは非常に興味深い内容であった。今後、検証的な第III相試験においても膀胱温存が重要なアウトカムとして設定され、再発や死亡といった腫瘍学的に重要なアウトカムを損なわない結果が達成できる日が訪れることを期待したい。

4.

診療科別2025年上半期注目論文5選(循環器内科編)

Pulsed Field or Cryoballoon Ablation for Paroxysmal Atrial FibrillationReichlin T, et al. N Engl J Med. 2025;392;1497-1507.<SINGLE SHOT CHAMPION試験>:心房細動へのアブレーション、パルスフィールドか冷凍バルーンか心房細動へのアブレーションは本邦でも普及しています。従来の高周波や冷凍バルーンによる熱的アブレーションは、組織特異性が低く心筋周辺組織への影響が問題でした。非熱的アブレーション法であるパルスフィールドアブレーションを評価した研究です。冷凍バルーンに比べ、パルスフィールドアブレーションが再発予防効果において非劣性を示しました。この新技術の普及に弾みがつくのか注目されます。Lorundrostat Efficacy and Safety in Patients with Uncontrolled HypertensionLaffin LJ, et al. N Engl J Med. 2025;392;1813-1823.<Advance-HTN試験>:治療抵抗性高血圧へのアルドステロン合成酵素阻害薬に注目コントロール不良の治療抵抗性高血圧への新規降圧薬であるアルドステロン合成酵素阻害薬のlorundrostat(ロルンドロスタット)を評価した研究です。24時間平均収縮期血圧を有意に低下させ、安全性も許容範囲内にあると報告されました。難治性高血圧の患者は一定数存在します。循環器領域で血圧管理は本質的な命題であり、降圧薬開発は永続的なテーマです。Efficacy and safety of clopidogrel versus aspirin monotherapy in patients at high risk of subsequent cardiovascular event after percutaneous coronary intervention (SMART-CHOICE 3): a randomised, open-label, multicentre trialChoi KH, et al. Lancet. 2025;405;1252-1263.<SMART-CHOICE 3試験>:PCI患者のSAPTはクロピドグレルかアスピリンかPCI患者のDAPT完了後の抗血小板薬の単剤療法(SAPT)は、従来から慣れ親しんだアスピリンなのか、P2Y12阻害薬のクロピドグレルなのかは古くて新しい課題です。韓国で虚血イベント再発高リスク患者を対象にして施行されたこの無作為ランダム化試験では、クロピドグレル群で出血を増加させずに全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合リスクの低下をもたらしたことを報告しました。Cardiac Arrest During Long-Distance Running RacesKim JH, et al. JAMA. 2025;333;1699-1707.<RACER 2研究>:マラソンでの心停止は減少も一定数発生、冠動脈疾患が最多マラソン中の心停止の発生率と転帰を調べた臨床研究。2012年にNEJM誌に発表されたRACER1研究の続報的な内容です。2010~23年の間に米国で公認されたフルマラソンとハーフマラソン443大会での走行中の心停止事故は、2000~10年を対象としたRACER 1と比して発生率は同じでしたが心臓死は半減していました。原因は冠動脈疾患が最多でした。日本では市民参加型マラソン大会が全国各地で開催されており、参考になるデータと思われます。Phase 3 Open-Label Study Evaluating the Efficacy and Safety of Mavacamten in Japanese Adults With Obstructive Hypertrophic Cardiomyopathy - The HORIZON-HCM StudyKitaoka H, et al. Circ J. 2024;89:130-138.<HORIZON-HCM試験>:閉塞性肥大型心筋症の治療を変革する新規薬剤の日本人データ閉塞性肥大型心筋症(HCM)の選択的心筋ミオシン阻害薬であるマバカムテンの治療効果を日本人で検証した臨床研究です。30週の時点での有効性・安全性・忍容性について報告しています。2024年12月25日論文掲載であり、2024年下半期ではなく今回の2025年上半期での紹介となりました。2025年3月の日本循環器学会年次集会で54週のデータも報告されています。本邦の実臨床でも使用可能となったばかりの新規薬剤であり、今後も注目していきたいところです。

5.

わが国における単剤療法を考えるにはもう一段の考察も必要か?(解説:野間重孝氏)

 本論文は、PCI後の抗血小板療法において、DAPT終了後の維持戦略としてP2Y12阻害薬単剤療法がアスピリン単剤と比較して虚血イベント抑制において優れ、出血リスクも同等に保たれる可能性を、個別患者データ(IPD)を用いたメタ解析によって明らかにしたものである。対象データはいずれも信頼できるRCTに基づいており、解析の設計と手法も洗練されている。近年積み重ねられてきたP2Y12阻害薬単剤療法の有効性に関する知見を、統合的かつ精緻に再検討した意義は十分に評価できると考える。 ただ、評者のような臨床の現場に長く関わってきた者の立場から見ると、今回示された結果は、すでに多くの医師たちが経験的に感じ取っていた傾向とおおむね一致しており、新たな方向性を提示するというよりは、既存の流れを整理・追認した印象を受けた。もちろん、エビデンスを体系的に裏付ける作業は臨床指針の基盤として欠かせないが、現場感覚としては「やはりそうだったか」と静かにうなずくような感覚に近いのではないだろうか。 一点、気になったのは、本研究においてP2Y12阻害薬が薬剤クラスとして一括りに扱われており、クロピドグレルとチカグレロルの違いが十分に掘り下げられていない点である。とりわけわが国においては、チカグレロルを巡ってPHILO試験などで有効性や忍容性に関する慎重な議論がなされてきた経緯があり、現在もその使用には一定の留意が払われている。P2Y12阻害薬の使用傾向にも、欧米と日本では明確な差があり、欧米ではACSを中心にチカグレロルの使用が広く浸透しているのに対し、わが国ではクロピドグレルとプラスグレルが主流であり、チカグレロルは限定的に用いられるにとどまっている。このような背景を踏まえると、クロピドグレルを中心とした国内のエビデンスを、そのままチカグレロルに拡張してよいかについては、やや議論の余地があるように感じた。 また、本研究が今後の治療方針やガイドラインの改訂に影響を与える可能性があることは容易に想像される。大規模なメタ解析が、科学的意義のみならず制度的な検討材料としても参照されるのは自然なことであり、それ自体は否定されるべきではない。しかし、抗血小板療法の選択は、患者の病態、出血リスク、服薬アドヒアランス、社会的背景など多くの要素を踏まえたうえでの個別最適化が求められる分野であり、1つの方向性のみが過度に強調されることで、現場の柔軟性が損なわれるようなことがあってはならないと思う。 本論文は、DAPT終了後の戦略としてP2Y12阻害薬単剤療法を考慮する妥当性をあらためて丁寧に確認した点で、診療上の安心感を与える結果であると同時に、制度設計を視野に入れたエビデンス整理の1つとしても受け止められるべきものだろう。大切なのは、このような研究成果を、現場の実感と折り合いをつけながら活用していく姿勢であり、形式的な統一に回収されることのない実践的知性こそが、今後の抗血小板療法の在り方を形作っていくことを評者は願うものである。

6.

PCI後DAPT例の維持療法、P2Y12阻害薬が主要有害心・脳血管イベント抑制に有効/BMJ

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行後の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を終了した患者では、アスピリン単剤療法と比較してP2Y12阻害薬単剤療法(チカグレロルまたはクロピドグレル)は、大出血のリスク増加を伴わずに、心筋梗塞と脳卒中のリスク低下に基づく主要有害心・脳血管イベント(MACCE)の発生率の低下をもたらすことが、イタリア・University of CataniaのDaniele Giacoppo氏らによるメタ解析で明らかになった。研究の成果は、BMJ誌2025年6月4日号で報告された。5件の無作為化試験のメタ解析 研究グループは、PCI施行後のDAPTを終了した患者におけるP2Y12阻害薬単剤療法とアスピリン単剤療法の有効性の比較を目的に、無作為化臨床試験の個々の参加者のデータを用いてメタ解析を行った(スイス・Cardiocentro Ticino Instituteなどの助成を受けた)。 医学関連データベースを用いて、冠動脈疾患患者でPCI施行後の虚血性イベントの2次予防として、P2Y12阻害薬またはアスピリンの単剤療法について検討した無作為化試験を検索した。 主要アウトカムはMACCE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合)とし、主要複合アウトカムとして大出血(BARC type 3または5)も評価した。副次アウトカムは有害心・脳血管イベントの複合(NACCE、主要アウトカムと主要複合アウトカムの組み合わせ、および個々のアウトカム[全死因死亡、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、definiteまたはprobableステント血栓症、消化管出血など])とした。 PCI施行後に、推奨されたDAPTレジメン(期間中央値12ヵ月)を終了した患者を、P2Y12阻害薬単剤療法またはアスピリン単剤療法に割り付けた5件(ASCET、CAPRIE、GLASSY、HOST-EXAM[韓国の37施設5,438例]、STOPDAPT-2[日本の90施設3,009例])の無作為化試験(合計1万6,117例)を解析の対象とした。治療必要数は45.5例 ベースラインの年齢中央値は65歳(四分位範囲[IQR]:57~73)、23.8%が女性、28.6%が糖尿病、14.6%が中等症~重症の慢性腎臓病を有していた。P2Y12阻害薬は、58.7%がクロピドグレル、41.3%がチカグレロルであった。また、患者の48.9%が欧州または北米の試験の参加者で、51.1%は東アジアの試験の参加者だった。 追跡期間中央値1,351日(IQR:373~1,791)の時点で、アスピリン単剤群に比べP2Y12阻害薬単剤群はMACCEのリスクが有意に低かった(混合効果モデルよる1段階解析のハザード比[HR]:0.77[95%信頼区間[CI]:0.67~0.89、p<0.001]、多変量混合効果モデルによる1段階解析の補正後HR:0.77[0.67~0.89、p<0.001]、変量効果モデルに基づく2段階解析のHR:0.77[0.67~0.89、p<0.001])。有益性を得るための治療必要数は45.5例(95%CI:31.4~93.6)だった。NACCEのリスクも有意に低い 大出血は両群間で有意な差を認めなかった(混合効果モデルよる1段階解析のHR:1.26[95%CI:0.78~2.04、p=0.35]、多変量混合効果モデルによる1段階解析の補正後HR:1.12[0.74~1.70、p=0.60]、変量効果モデルに基づく2段階解析のHR:1.15[0.69~1.92、p=0.59])。 また、NACCE(変量効果モデルに基づく2段階解析のHR:0.84[95%CI:0.73~0.98]、p=0.03)、心筋梗塞(0.69[0.55~0.86]、p=0.001)、脳卒中(0.67[0.51~0.88]、p=0.003)は、アスピリン単剤群に比べP2Y12阻害薬単剤群で発生リスクが低かった。 著者は、「これらの結果は、複数の感度分析で確認され、P2Y12阻害薬単剤群の有効性は心筋梗塞と脳卒中の有意な減少に起因していた」「大出血と全出血は、両群間で有意差を認めなかったが、試験間で著明な異質性が検出された」としている。

7.

HER2+早期乳がん術前療法、de-escalation戦略3試験の統合解析結果/ASCO2025

 HER2陽性(HER2+)早期乳がんに対し、パクリタキセル+抗HER2抗体薬による12週の術前補助療法は有効性と忍容性に優れ、5年生存率も極めて良好であった。さらにStageI~IIの患者においては、ほかの臨床的・分子的因子を考慮したうえで、化学療法省略もしくは抗体薬物複合体(ADC)による治療を考慮できる可能性が示唆された。de-escalation戦略を検討したWest German Study Group(WSG)による3件の無作為化比較試験(ADAPT-HR-/HER2+試験、ADAPT-HR+/HER2+試験、TP-II試験)の統合解析結果を、ドイツ・ハンブルグ大学のMonika Karla Graeser氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。<各試験の概要>■ADAPT-HR-/HER2+試験(134例)遠隔転移のないHR-/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてトラスツズマブ+ペルツズマブ(T+P群)、トラスツズマブ+ペルツズマブ+パクリタキセル(T+P+pac群)に5:2の割合で無作為に割り付け■ADAPT-HR+/HER2+試験(375例)遠隔転移のないHR+/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1群)、T-DM1+内分泌療法(T-DM1+ET群)、T+ET群に1:1:1の割合で無作為に割り付け■TP-II試験(207例)遠隔転移のないHR+/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてT+P+ET群、T+P+pac群に1:1の割合で無作為に割り付け 主要評価項目はいずれも病理学的完全奏効(pCR)で、生存成績は副次評価項目であった。 主な結果は以下のとおり。・3つの試験から計713例のデータが集められ、術前全身化学療法あり(sCTx群)149例、術前全身化学療法なし/ADC(sCTx-free/ADC群)564例であった。・ベースラインの患者特性は、>50歳がsCTx群59.7%vs.sCTx-free/ADC群52.7%、StageI が74.5%vs.76.6%、HR+が71.8%vs.84.3%、cT2~4が56.4%vs.55.1%、cN1~3が28.2%vs.32.1%、Grade3が55.7%vs.74.3%であった。・術後pCR達成症例がsCTx群66.4%vs.sCTx-free/ADC群31.4%、術後化学療法ありが47.1%vs.88.4%であった。・追跡期間中央値60.7ヵ月における生存成績は以下のとおり。[5年無浸潤疾患生存(iDFS)率]sCTx群96.4%vs.sCTx-free/ADC群88.2%(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.29~1.08、p=0. 083)[5年全生存(OS)率]97.8%vs.96.8%(HR:0.88、95%CI:0.36~2.11、p=0.775)・pCR達成状況別にみた生存成績は以下のとおり。[5年iDFS率]-pCR例:sCTx群97.8%vs.sCTx-free/ADC群93.7%(HR:0.76、95%CI:0.27~2.12、p=0.609)-non-pCR例:93.3%vs.85.5%(HR:0.77、95%CI:0.31~1.94、p=0.587)[5年OS率]-pCR例:98.9%vs.98.7%(HR:1.10、95%CI:0.28~4.32、p=0.895)-non-pCR例:95.5%vs.95.8%(HR:1.49、95%CI:0.44~5.03、p=0.523)・iDFSと関連する臨床的因子を検討した多変量解析の結果、sCTx群ではpCR([vs.non- pCR]HR:0.14、p=0.013)、sCTx-free/ADC群ではpCR([vs.non- pCR]HR:0.51、p=0.026)、cN1([vs.cN0]HR:2.31、p<0.001)と有意に関連していた。・sCTx-free/ADC群における、pCR後の5年iDFS率に対する術後化学療法実施の有意なベネフィットは確認されなかった(5年iDFS率:術後化学療法あり94.0%vs.なし93.2%、HR:1.25、95%CI:0.39~4.00、p=0.712)。 Graeser氏は、化学療法を省略した術前補助療法群において、pCR達成例で良好な生存成績が得られたことは、さらなるde-escalation戦略検討の基盤となるとし、術前補助療法としてのトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)を評価する現在進行中のADAPT-HER2-IV試験への期待を示した。

8.

アスピリンがよい?それともクロピドグレル?(解説:後藤信哉氏)

 筆者は1986年に循環器内科に入ったので、PCI後に5%の症例が血管解離などにより完全閉塞する時代、解離をステントで解決したが数週後に血栓閉塞する時代、薬剤溶出ステントにより1~2年後でも血栓性閉塞する時代を経験してきた。とくに、ステント開発後、ステント血栓症予防のためにワルファリン、抗血小板薬、線溶薬などを手当たり次第に試した時代を経験している。チクロピジンとアスピリンの併用により、ステント血栓症をほぼ克服できたインパクトは大きかった。チクロピジンの後継薬であるクロピドグレルは、急性冠症候群の1年以内の血栓イベントを低減した。アスピリンとクロピドグレルの併用療法は、PCI後の抗血小板療法の標準治療となった。 抗血小板併用療法により重篤な出血イベントリスクが増える。それでも1剤を減らして単剤にするのは難しい。単剤にした瞬間、血栓イベントが起これば自分の責任のように感じてしまう。やめる薬をアスピリンにするか、クロピドグレルにするかも難しい。クロピドグレルが特許期間内であれば、メーカーは必死でクロピドグレルを残す努力をしたと思う。資本主義の世の中なので、資金のあるほうが広報の力は圧倒的に強い。学術雑誌であってもfairな比較は期待できなかった。 クロピドグレルは特許切れしても広く使用され、真の意味で優れた薬剤であること(メーカーの広報がなくても医師が使用するとの意味)が示された。本研究ではPCI後標準期間の抗血小板併用療法施行後、アスピリンまたはクロピドグレルに割り振った。クロピドグレルの認可承認試験は、アスピリンとの比較における有効性・安全性を検証したCAPRIE試験であった。今回はPCI後、16ヵ月ほどDAPTが施行された後にランダム化した。冠動脈疾患の慢性期の単一抗血小板薬としてクロピドグレルによる死亡、心筋梗塞、脳梗塞がアスピリンよりも少ないことが示された。 筆者は特許中の薬剤を応援することがない。資本主義における、資本力による広報のトリックを完全に見破れる自信もない。しかし、特許切れして、なお有効性・安全性を示す薬は本物と思う。アスピリンは安価で優れた薬であった。筆者はアスピリンについて一冊の本を書いたほどである(後藤 信哉編. 臨床現場におけるアスピリン使用の実際. 南江堂;2006.)。しかし、クロピドグレルも数十年かけて優れた薬であることを示した。今度はクロピドグレルの本を書きたいほどである。

9.

急性冠症候群のDCB治療後DAPT、段階的漸減レジメンで十分か/BMJ

 薬剤コーティングバルーン(DCB)による治療を受けた急性冠症候群患者では、有害臨床イベントの発生に関して、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を段階的に減薬(de-escalation)するレジメンは12ヵ月間の標準的なDAPTに対し非劣性であることが、中国・Xijing HospitalのChao Gao氏らREC-CAGEFREE II Investigatorsが実施した「REC-CAGEFREE II試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2025年3月31日号で報告された。中国の無作為化非劣性試験 REC-CAGEFREE II試験は、DCBを受けた急性冠症候群患者において、抗血小板薬療法の強度を弱めることは可能かの評価を目的とする医師主導型の非盲検評価者盲検無作為化非劣性試験であり、2021年11月~2023年1月に中国の41病院で患者を登録した(Xijing Hospitalの助成を受けた)。 年齢18~80歳で、パクリタキセルを塗布したバルーンによるDCB治療のみを受けた急性冠症候群患者1,948例(平均年齢59.2歳、男性74.9%)を対象とした。被験者を、DAPTを段階的に減薬する群(975例)、または標準的なDAPTを投与する群(973例)に無作為に割り付けた。 段階的DAPT減薬群では、アスピリン+チカグレロル(1ヵ月)を投与後、チカグレロル単剤(5ヵ月)、引き続きアスピリン単剤(6ヵ月)の投与を行った。標準的DAPT群では、アスピリン+チカグレロルを12ヵ月間投与した。 主要エンドポイントは、有害臨床イベント(全死因死亡、脳卒中、心筋梗塞、血行再建術、BARC type 3または5の出血)とした。絶対リスク群間差の片側95%信頼区間(CI)の上限値が3.2%未満の場合に非劣性と判定した。出血リスクは低い 全体の30.5%が糖尿病で、8.8%が脳卒中の既往、13.2%が心筋梗塞の既往、32.2%が経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の既往を有しており、20.6%は出血リスクが高かった。治療を受けた病変の60.9%が小血管で、17.8%にステント内再狭窄を認めた。DCBの直径の平均値は2.72(SD 0.49)mmだった。 12ヵ月の時点で、主要エンドポイントである有害臨床イベントは、段階的DAPT減薬群で87例(8.9%)、標準的DAPT群で84例(8.6%)に発現した。発生率の群間差は0.36%(95%CI:-1.75~2.47)で、95%CI上限値は3.2%未満であり、段階的DAPT減薬群の標準的DAPT群に対する非劣性が示された(非劣性のp=0.01)。 BARC type 3または5の出血の発生は、段階的DAPT減薬群で少なかった(4例[0.4%]vs.16例[1.6%]、群間差:-1.19%[95%CI:-2.07~-0.31]、p=0.008)。また、患者志向型複合エンドポイント(全死因死亡、脳卒中、心筋梗塞、血行再建術)の発生は、両群で同程度だった(84例[8.6%]vs.74例[7.6%]、1.05%[-1.37~3.47]、p=0.396)。階層的な臨床的重要性を考慮したwin ratioが優れる 全死因死亡、脳卒中、心筋梗塞、BARC type 3出血、血行再建術、BARC type 2出血というあらかじめ定義された階層的複合エンドポイントについて、win ratio(勝利比)法による階層的な臨床的重要性を考慮すると、標準的DAPT群(勝率10.1%)に比べ段階的DAPT減薬群(14.4%)で勝率が有意に高かった(勝利比:1.43[95%CI:1.12~1.83]、p=0.004)。 著者は、「ITT集団では、標準的DAPT群に比べ段階的DAPT減薬群で、患者志向型複合エンドポイントの発生率が1%高く、BARC type 3または5の出血の発生率が1%低かったことから、虚血リスクと出血リスクにはトレードオフが存在する可能性が示唆される」としている。

10.

PCI後DAPT例の維持療法、クロピドグレルvs.アスピリン/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後に標準的な期間の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を完了した、虚血性イベントの再発リスクが高い患者の維持療法において、アスピリン単剤療法と比較してクロピドグレル単剤療法は、3年時の主要有害心・脳血管イベント(MACCE)が少なく、なかでも心筋梗塞のリスクが有意に減少し、出血の発生率は両群で差がなく、上部消化管イベントのリスクはクロピドグレル群で低いことが、韓国・Sungkyunkwan University School of MedicineのKi Hong Choi氏らSMART-CHOICE 3 investigatorsが実施した「SMART-CHOICE 3試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年3月30日号で報告された。韓国の無作為化試験 SMART-CHOICE 3試験は、薬剤溶出ステントによるPCI後に標準的な期間のDAPTを完了した患者における、クロピドグレル単剤とアスピリン単剤の有効性と安全性の比較を目的とする非盲検無作為化試験であり、2020年8月~2023年7月に韓国の26施設で参加者の適格性を評価した(Dong-A STの助成を受けた)。 年齢19歳以上、PCI後に標準的な期間のDAPTを完了し、虚血性イベントの再発リスクが高い患者(心筋梗塞の既往歴がある、糖尿病で薬物療法を受けている、複雑な冠動脈病変を有する)を対象とした。被験者を、クロピドグレル(75mg、1日1回)またはアスピリン(100mg、1日1回)を経口投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ITT集団におけるMACCE(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合)の累積発生率とした。MACCEの推定3年発生率:4.4%vs.6.6% 5,506例を登録し、クロピドグレル群に2,752例、アスピリン群に2,754例を割り付けた。全体の年齢中央値は65.0歳(四分位範囲[IQR]:58.0~73.0)、1,002例(18.2%)が女性であった。2,247例(40.8%)が糖尿病(2,089例[37.9%]が糖尿病の薬物療法を受けていた)で、2,552例(46.3%)が急性心筋梗塞(1,330例[24.2%]が非ST上昇型、1,222例[22.2%]がST上昇型)でPCIを受けていた。PCI施行から無作為化までの期間中央値は17.5ヵ月(IQR:12.6~36.1)だった。 追跡期間中央値2.3年の時点で、MACCEはアスピリン群で128例に発生し、Kaplan-Meier法による推定3年発生率は6.6%(95%信頼区間[CI]:5.4~7.8)であったのに対し、クロピドグレル群では92例、4.4%(3.4~5.4)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.71[95%CI:0.54~0.93]、p=0.013)。 MACCEの個々の項目(副次エンドポイント)の推定3年発生率は、全死因死亡がクロピドグレル群2.4%、アスピリン群4.0%(HR:0.71[95%CI:0.49~1.02])、心筋梗塞がそれぞれ1.0%および2.2%(0.54[0.33~0.90])、脳卒中が1.3%および1.3%(0.79[0.46~1.36])であった。大出血の発生率にも差はない 出血(BARC type 2、3または5)(クロピドグレル群3.0%vs.アスピリン群3.0%、HR:0.97[95%CI:0.67~1.42])、大出血(BARC type 3または5)(1.6%vs.1.3%、1.00[0.58~1.73])のリスクは両群で差はなかった。 上部消化管イベント(クロピドグレル群2.8%vs.アスピリン群4.9%、HR:0.65[0.47~0.90])および有害な臨床イベント(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、大出血の複合)(5.4%vs.7.3%、0.78[0.61~0.99])はクロピドグレル群で少なく、血行再建術(4.2%vs.4.5%、0.94[0.69~1.27])の頻度は両群で同程度だった。 著者は、「これらの患者において、クロピドグレル単剤療法は、出血を増加させずに全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合リスクの低下をもたらしたことから、長期維持療法としてアスピリン単剤療法に代わる好ましい選択肢と考えられる」としている。

11.

敗血症疑い患者の抗菌薬の期間短縮、PCTガイド下vs.CRPガイド下/JAMA

 敗血症が疑われる重篤な入院成人患者において、バイオマーカー(プロカルシトニン[PCT]とC反応性タンパク質[CRP])のモニタリングプロトコールによる抗菌薬投与期間の決定について、標準治療と比較してPCTガイド下では、安全に投与期間を短縮でき全死因死亡も有意に改善したが、CRPガイド下では投与期間について有意な差は示されず、全死因死亡は明らかな改善を確認することはできなかった。英国・マンチェスター大学のPaul Dark氏らADAPT-Sepsis Collaboratorsが、多施設共同介入隠蔽(intervention-concealed)無作為化試験「ADAPT-Sepsis試験」の結果を報告した。敗血症に対する抗菌薬投与の最適期間は不明確であり、投与中止の判断はバイオマーカー値に基づいて行われているが、その有効性および安全性の根拠は不明確なままであった。JAMA誌オンライン版2024年12月9日号掲載の報告。総抗菌薬投与期間(有効性)と全死因死亡(安全性)を評価 ADAPT-Sepsis試験は2018年1月1日~2024年6月5日に、英国国民保健サービス(NHS)の集中治療室(ICU)41ヵ所で行われた。敗血症が疑われ24時間以内に抗菌薬の静脈内投与を開始した、少なくとも72時間の投与継続の可能性がある18歳以上の成人患者2,760例を対象に、PCTまたはCRPの評価に基づく決定が抗菌薬期間を安全に短縮可能かどうかについて検証した。 被験者は、daily PCTガイド下プロトコール群(918例)、daily CRPガイド下プロトコール群(924例)、標準治療群(918例)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間(有効性)と全死因死亡(安全性)であった。副次アウトカムは、CCU(critical care unit)入室期間、入院期間データなどであった。90日全死因死亡も評価した。PCTガイド下の有効性、安全性を確認 無作為化された2,760例のベースライン特性は3群間で類似しており、平均年齢は60.2(SD 15.4)歳、男性60.3%であった。ほぼすべての患者が敗血症診断Sepsis-3基準を満たしていたと考えられ(SOFAスコア:7[四分位範囲:5~9])、敗血症患者は1,397例(50.8%)、敗血症性ショック患者は1,352例(49.2%)であった。 無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間は、daily PCTガイド下プロトコール群が標準治療群と比較して有意に短縮した(平均期間:9.8日[SD 7.2]vs.10.7日[7.6]、平均群間差:0.88[95%信頼区間[CI]:0.19~1.58]、p=0.01)。一方、daily CRPガイド下プロトコール群は標準治療群と比較して、総抗菌薬投与期間について差はみられなかった(10.6日[SD 7.7]vs.10.7日[7.6]、平均群間差:0.09[95%CI:-0.60~0.79]、p=0.79)。 無作為化から28日までの全死因死亡について、daily PCTガイド下プロトコール群(全死因死亡率20.9%[184/879例])の標準治療群(19.4%[170/878例])に対する非劣性(非劣性マージンは5.4%)が示された(絶対群間差:1.57[95%CI:-2.18~5.32]、p=0.02)。daily CRPガイド下プロトコール群(全死因死亡率21.1%[184/874例])の標準治療群に対する非劣性は確証が得られなかった(絶対群間差:1.69[95%CI:-2.07~5.45]、p=0.03)。

12.

新PCIデバイスbioadaptor、アウトカム改善の可能性/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた患者における、持続的なnon-plateauing(非平坦化)による有害事象の発生は依然として重要な課題とされている。スウェーデン・ルンド大学のDavid Erlinge氏らは「INFINITY-SWEDEHEART試験」において、急性冠症候群を含む冠動脈疾患患者では、non-plateauingのデバイス関連イベントを軽減するように設計された新たなPCIデバイス(DynamX bioadaptor、Elixir Medical製)は、最新の薬剤溶出ステント(DES)に対し有効性に関して非劣性であり、non-plateauingデバイス関連イベントを軽減し、アウトカムを改善する可能性を示した。研究の成果は、Lancet誌2024年11月2日号に掲載された。スウェーデンの無作為化非劣性試験 INFINITY-SWEDEHEART試験は、スウェーデンの20の病院で実施したレジストリベースの単盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2020年9月~2023年7月に患者の無作為化を行った(Elixir Medicalの助成を受けた)。 Swedish Coronary Angiography and Angioplasty Registryのデータから、18~85歳、慢性または急性冠症候群の虚血性心疾患患者で、PCIの適応があり、1つの病変につき1つのデバイスの留置に適した最大3つのde novo病変を有する患者2,399例を選出した。 これらの患者を、DynamX bioadaptorを留置する群(bioadaptor群、1,201例、1,419病変)、またはDES(Onyxゾタロリムス溶出性ステント)を留置する群(DES群、1,198例、1,431病変)に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、12ヵ月時点での標的病変不全(心血管死、標的血管関連の心筋梗塞、虚血による標的病変の再血行再建術の複合)とし、ITT解析を行った。両群の絶対リスク差の両側95%信頼区間(CI)の上限値が4.2%未満の場合に、非劣性と判定することとした。ランドマーク解析の結果は有意に良好 全体の年齢中央値は69.5歳(四分位範囲[IQR]:61.2~75.6)、575例(24.0%)が女性であった。急性冠症候群が1,838例(76.6%)含まれた。デバイス留置の成功率は、bioadaptor群が99.5%(1,411/1,417病変)、DES群は99.8%(1,429/1,431病変)であり、手技成功率はそれぞれ99.6%(1,193/1,199例)および99.9%(1,193/1,195例)だった。 12ヵ月時の標的病変不全の発生率は、bioadaptor群が2.4%(28/1,189例)、DES群は2.8%(33/1,192例)であり、両群のリスク差は-0.41%(95%CI:-1.94~1.11)と、DES群に対するbioadaptor群の非劣性の基準が満たされた(非劣性のp<0.0001)。 一方、事前に規定された6ヵ月の時点から12ヵ月時までのランドマーク解析では、Kaplan-Meier法による標的病変不全推定値は、DES群の1.7%(16/1,176例)に対し、bioadaptor群は0.3%(3/1,170例)と有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.19、95%CI:0.06~0.65、p=0.0079)。 また、同様の解析による標的血管不全(心血管死、標的血管関連の心筋梗塞、虚血による標的血管の再血行再建術の複合)(bioadaptor群0.8%[8/1,167例]vs.DES群2.5%[23/1,174例]、HR:0.35[95%CI:0.16~0.79]、p=0.011)、および急性冠症候群患者における標的病変不全(0.3%[2/906例]vs.1.8%[12/895例]、0.17[0.04~0.74]、p=0.018)も、bioadaptor群で有意に優れた。デバイス血栓症の発生率は低い 安全性のアウトカムであるdefiniteまたはprobableのデバイス血栓症の発生率は低く、両群間に差はなかった(bioadaptor群0.7%[8/1,201例]vs.DES群0.5%[6/1,198例]、イベント発生率の群間差:0.16%[95%CI:-0.50~0.83])。 著者は、「これまでに得られたエビデンスに基づくと、この新デバイスはステント関連イベントの発生を軽減可能であるとともに、de novo病変患者の治療選択肢として有望視されるものであり、今後、長期の追跡を行って確認する必要がある」としている。

13.

ACSのPCI後、短期DAPT後チカグレロルvs.12ヵ月DAPT~メタ解析/Lancet

 急性冠症候群(ACS)患者の冠動脈ステント留置後の標準治療は、12ヵ月間の抗血小板2剤併用療法(DAPT)となっている。この標準治療とDAPTからチカグレロルへと段階的減薬(de-escalation)を行う治療を比較したエビデンスの要約を目的に、スイス・Universita della Svizzera ItalianaのMarco Valgimigli氏らSingle Versus Dual Antiplatelet Therapy(Sidney-4)collaborator groupは、無作為化試験のシステマティックレビューおよび個々の患者データ(IPD)レベルのメタ解析を行った。とくにACS患者では、12ヵ月間のDAPT単独療法と比較して、DAPTからチカグレロルへの段階的減薬は、虚血のリスクを増大することなく大出血リスクを軽減することが示された。Lancet誌2024年9月7日号掲載の報告。チカグレロル単独療法の有効性と安全性をIPDレベルメタ解析で評価 研究グループは、冠動脈薬剤溶出ステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた患者における短期DAPT(2週~3ヵ月)後チカグレロル単独療法(90mgを1日2回)について、12ヵ月DAPTと比較した有効性と安全性を評価するため、システマティックレビューおよびIPDレベルのメタ解析を行った。 対象試験は、冠動脈血行再建術後のP2Y12阻害薬単独療法とDAPTを比較した中央判定エンドポイントを有する無作為化試験とし、Ovid MEDLINE、Embaseおよび2つのウェブサイト(www.tctmd.comおよびwww.escardio.org)を各データベースの開始から2024年5月20日まで検索した。長期の経口抗凝固薬適応患者を含む試験は除外した。 Cochrane risk-of-biasツールを用いてバイアスリスクを評価。適格試験の主任研究者から匿名化された電子データセットでIPDの提供を受けた。 主要エンドポイントは、主要有害心血管または脳血管イベント(MACCE[全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合]、per-protocol集団で非劣性を検証)、Bleeding Academic Research Consortium(BARC)出血基準タイプ3または5の出血(ITT集団で優越性を検証)、および全死因死亡(ITT集団で優越性を検証)の3つとし、階層的に解析した。すべてのアウトカムは、Kaplan-Meier推定値で報告された。非劣性の検証は片側α値0.025を用い、事前規定の非劣性マージンは1.15(ハザード比[HR]スケール)であった。その後に順位付け優越性の検証を両側α値0.05を用いて行った。とくに女性で、チカグレロル単独療法にベネフィットありの可能性 合計8,361件の文献がスクリーニングされ、うち610件がタイトルおよび要約のスクリーニング中に適格の可能性があるとみなされた。その中で患者をチカグレロル単独療法またはDAPTに無作為化した6試験が特定された。 段階的減薬は介入後中央値78日(四分位範囲[IQR]:31~92)で行われ、治療期間の中央値は334日(329~365)であった。 per-protocol集団(2万3,256例)において、MACCE発生は、チカグレロル単独療法群297件(Kaplan-Meier推定値2.8%)、DAPT群は332件(3.2%)であった(HR:0.91[95%信頼区間[CI]:0.78~1.07]、非劣性のp=0.0039、τ2<0.0001)。 ITT集団(2万4,407例)において、BARC出血基準タイプ3または5の出血(Kaplan-Meier推定値0.9% vs.2.1%、HR:0.43[95%CI:0.34~0.54]、優越性のp<0.0001、τ2=0.079)および全死因死亡(0.9% vs.1.2%、0.76[0.59~0.98]、p=0.034、τ2<0.0001)は、いずれもチカグレロル単独療法群で低減した。 試験の逐次解析で、被験者全体およびACS集団におけるMACCEの非劣性および出血の優越性の強固なエビデンスが示された(z曲線は無益性の境界を越えたりnull値に近づいたりすることなく、モニタリング境界を越えるか必要な情報サイズを満たした)。 治療効果は、MACCE(相互作用のp=0.041)、全死因死亡(0.050)については性別による不均一性がみられ、女性ではチカグレロル単独療法のベネフィットがある可能性が示唆された。また、出血は臨床症状による不均一性がみられ(相互作用のp=0.022)、ACS患者ではチカグレロル単独療法にベネフィットがあることが示唆された。 これらの結果を踏まえて著者は、「チカグレロル単独療法は、とくに女性において生存ベネフィットとも関連する可能性があり、さらなる検討が必要である」と述べている。

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中等~重症の潰瘍性大腸炎、リサンキズマブの導入・維持療法が有効/JAMA

 中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎患者において、IL-23p19阻害薬リサンキズマブは寛解導入療法および維持療法として、プラセボと比較し臨床的寛解率を改善することが示された。ベルギー・リエージュ大学病院のEdouard Louis氏らINSPIRE and COMMAND Study Groupが、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「INSPIRE試験」および「COMMAND試験」の結果を報告した。JAMA誌オンライン版2024年7月22日号掲載の報告。導入療法、2用量の皮下投与による維持療法の有効性と安全性をプラセボと比較 導入療法試験「INSPIRE試験」は、2020年11月5日~2022年8月4日(最終追跡日2023年5月16日)に41ヵ国261施設で実施された。 中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎を有し、1種類以上の従来の治療、先進治療、またはその両方に不耐容または効果不十分で、リサンキズマブの前治療歴がない患者977例を、リサンキズマブ(1,200mg)群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、0週、4週および8週に静脈内投与した。 主要アウトカムは、12週時の臨床的寛解(Adapted Mayoスコアの排便回数サブスコアが1以下でベースラインを超えない、血便スコアが0、内視鏡所見サブスコアが1以下で易出血性の所見がない)であった。 維持療法試験「COMMAND試験」は、2018年8月28日~2022年3月30日(最終追跡日2023年4月11日)に37ヵ国238施設で実施された。 維持療法試験では、導入療法試験において12週時に臨床的改善(Adapted Mayoスコアがベースラインから2ポイント以上かつ30%以上低下し、さらに血便スコアが1以下または1以上低下)を達成した適格患者584例を、リサンキズマブ180mg群、360mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、8週ごとに52週にわたり皮下投与した。 維持療法試験の主要アウトカムは、52週時の臨床的寛解であった。リサンキズマブ群の臨床的寛解率は導入療法で20.3%、維持療法で37.6~40.2% 導入療法試験の解析対象は975例(年齢42.1[SD 13.8]歳、973例中586例[60.1%]が男性、677例[69.6%]が白人)で、12週時の臨床的寛解率はリサンキズマブ群20.3%(132/650例)、プラセボ群6.2%(20/325例)であった(補正後群間差:14.0%、95%信頼区間[CI]:10.0~18.0、p<0.001)。 維持療法試験の解析対象は548例(年齢40.9[SD 14.0 ]歳、男性313例[57.1%]、白人407例[74.3%])で、52週時の臨床的寛解率は、リサンキズマブ180mg群40.2%(72/179例)、リサンキズマブ360mg群37.6%(70/186例)、プラセボ群25.1%(46/183例)であった。リサンキズマブ180mg群とプラセボ群の補正後群間差は16.3%(97.5%CI:6.1~26.6、p<0.001)、リサンキズマブ360mg群とプラセボ群の補正後群間差は14.2%(4.0~24.5、p=0.002)であった。 導入療法試験における主な有害事象は、リサンキズマブ群がCOVID-19(4.8%)、貧血(3.4%)、プラセボ群が潰瘍性大腸炎(10.2%)、貧血(6.5%)で、重篤な有害事象の発現率はそれぞれ2.3%および10.2%であった。 維持療法試験における主な有害事象は、潰瘍性大腸炎(リサンキズマブ180mg群13.0%、360mg群13.8%、プラセボ群14.8%)およびCOVID-19(180mg群8.8%、360mg群13.3%、プラセボ群11.7%)で、重篤な有害事象の発現は180mg群5.2%、360mg群5.1%、プラセボ群8.2%であった。 著者は、追跡期間が短期であったことから、「52週間の追跡期間を超えた有益性を確認するためには、さらなる研究が必要である」とまとめている。

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冠動脈バイパス術後の抗血小板薬療法(解説:後藤信哉氏)

 冠動脈のカテーテルインターベンション(PCI)後の抗血小板療法は、2剤併用の期間短縮の方向に向かっている。PCI後のMACEが減少し、抗血小板薬による出血の問題が相対的に大きくなったことが主な理由である。PCIの適応が拡大し、バイパス手術に回る症例の困難性は以前よりも増加していると想定される。リスクの重畳したMACEリスクの高い症例が多いかもしれない。本研究では中国の6つの病院で施行したオープンラベルではあるが、ランダム化比較試験である。 日本では90mg×2/日のチカグレロルとアスピリンの併用は、急性冠症候群では有効性より安全性の懸念を示唆した(Goto S,et al.Circ J. 2015;79:2452-2460.)。本研究では(1)90mg×2/日のチカグレロルとアスピリン(DAPT)、(2)チカグレロル単独、(3)アスピリン単独、の3群が比較された。5年間のMACEはDAPT群にて、他の単剤治療群よりも低かった。抄録だけを読む、提示されているprimary eventのカプランマイヤー曲線のみを注目する、などの読み方をしていると本研究の本当の価値はわからない。 5年間の観察期間内の重篤な出血リスクはDAPT群にて最も高く、5年間の死亡数もDAPT群が多かった。1次元のパラメーターに着目して、臨床的仮説を検証するランダム化比較試験の結果のみに注目してはいけない。薬の薬効と直接関係しないかもしれない総死亡、安全性のリスクも重要である。死亡数が多く、重篤な出血イベントも多いDAPTを、MACEが少ないとの理由で推奨するだろうか?

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CABG後1年間のDAPT、術後5年のMACEを有意に抑制/BMJ

 冠動脈バイパス術(CABG)後1年間のチカグレロル+アスピリンによる抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)は、アスピリン単剤療法やチカグレロル単剤療法に比べ、術後5年間の主要有害心血管イベント(MACE)発生リスクを有意に低下させたことが、中国・上海交通大学医学院のYunpeng Zhu氏らによる無作為化試験「Different Antiplatelet Therapy Strategy After Coronary Artery Bypass Grafting(DACAB)試験」の5年フォローアップの結果で示された。チカグレロル+アスピリンのDAPTは、CABG後の伏在静脈グラフト不全の予防において、アスピリン単剤よりも効果的であることが示されている。しかしCABG後のDAPTの、臨床アウトカムへの有効性については確定的ではなかった。DACAB試験ではこれまでに、DAPTがアスピリン単剤と比較して1年後の静脈グラフト開存率を有意に改善したことが示されていた。BMJ誌2024年6月11日号掲載の報告。DAPT vs.チカグレロル単剤vs.アスピリン単剤を評価 CABG後の異なる抗血小板療法の臨床アウトカムへの有効性を調べたDACAB試験は、2014年7月~2015年11月に中国の6つの3次機能病院で被験者を登録し、2019年8月~2021年6月に5年間のフォローアップを完了した。 被験者は、待機的CABG手術を受け、DACAB試験を完了した18~80歳の患者500例(うち女性は91例[18.2%])であった。被験者は1対1対1の割合で、チカグレロル90mgを1日2回+アスピリン100mgを1日1回(DAPT群168例)、チカグレロル90mgを1日2回(チカグレロル単剤群166例)、アスピリン100mgを1日1回(アスピリン単剤群166例)に無作為に割り付けられ、術後1年間投与された。1年以降の抗血小板療法は、治療担当医が標準治療に従い処方した。 主要アウトカムはMACE(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建の複合)で、ITT解析を原則として評価。治療群間の比較にはtime-to-event解析を用いて、複数の事後感度解析により試験で得られた所見の堅牢性を検証した。DAPT群のハザード比、対アスピリン単剤0.65、対チカグレロル単剤0.66 MACEに関する5年時フォローアップは、477/500例(95.4%)で完了した。MACEの発生は148例で認められ、うち39例がDAPT群、54例がチカグレロル単剤群、55例がアスピリン単剤群であった。 5年時点のMACEの発生リスクは、DAPT群がアスピリン単剤群と比べて(22.6% vs.29.9%、ハザード比:0.65[95%信頼区間:0.43~0.99]、p=0.04)、またチカグレロル単剤群と比べても(22.6% vs.32.9%、0.66[0.44~1.00]、p=0.05)有意に低下した。 結果は、すべての感度解析でも一貫していた。

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ACSへのPCI後1~12ヵ月でのチカグレロル単独vs.アスピリン併用/Lancet

 最新の薬剤溶出性ステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)で1ヵ月間イベントフリーを維持した急性冠症候群(ACS)患者において、PCI後1~12ヵ月のチカグレロル単独投与は、チカグレロル+アスピリン投与に比べ、臨床的に重要な出血リスクを減少し、主要有害心脳血管イベント(MACCE)リスクが同等であることが示された。中国・南京医科大学のZhen Ge氏らが、3,400例を対象とした無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果を報告した。著者は、「先行研究の結果と照らし合わせ、この集団のほとんどの患者は1ヵ月間のDAPT後に、アスピリンの中止およびチカグレロル単独の維持療法による優れた臨床アウトカムを得られることが示された」とまとめている。Lancet誌2024年4月7日号掲載の報告。BARCタイプ2、3、5とMACCEのリスクを比較 本試験は、中国、イタリア、パキスタン、英国の医療センター58施設で行われた。血管内超音波ガイド下PCIに関するIVUS-ACS試験を完了し、DAPTによる1ヵ月の治療期間に重大な虚血性または出血性イベントがなかった18歳以上のACS患者を、経口チカグレロル(90mg、1日2回)+経口アスピリン(100mg、1日1回)を投与する群、または経口チカグレロル(90mg、1日2回)+適合プラセボを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。PCI後1ヵ月時点から投与を開始し12ヵ月時点で終了した(計11ヵ月間投与)。無作為化はWebベースシステムを用いて行い、ACSタイプ、糖尿病の有無、IVUS-ACS試験での無作為化、試験地域で層別化した。 優越性の主要エンドポイントは、臨床的に重要な出血(BARC出血基準タイプ2、3、5)だった。非劣性の主要エンドポイントは、MACCE(心臓死、心筋梗塞、虚血性脳卒中、ステント血栓症[definite]、臨床的要因による標的血管の再血行再建術の複合)だった。PCI後1~12ヵ月のチカグレロル+アスピリン群のイベント発生率の予測値は6.2%で、非劣性マージン絶対値は2.5ポイントとした。 2つのエンドポイントは連続的に検証した。すなわち、優越性の主要エンドポイントの達成が示されてから、MACCEアウトカムの仮説検証を行うこととした。すべての主要な解析はITT集団で評価した。臨床的に重要な出血イベントリスク、チカグレロル単独群で0.45倍に 2019年9月21日~2022年10月27日に、IVUS-ACS試験の被験者3,505例のうち、3,400例(97.0%)が無作為化され(アスピリン併用群1,700例、チカグレロル単独群1,700例)、3,399例(>99.9%)が12ヵ月の追跡期間を完了した。 PCI後1~12ヵ月で臨床的に重要な出血イベントが発生した患者は、チカグレロル単独群35例(2.1%)、アスピリン併用群78例(4.6%)だった(ハザード比[HR]:0.45、95%信頼区間[CI]:0.30~0.66、p<0.0001)。 MACCEは、チカグレロル単独群61例(3.6%)、アスピリン併用群63例(3.7%)で発生した(絶対群間差:-0.1%[95CI:-1.4~1.2]、HR:0.98[95%CI:0.69~1.39]、非劣性のp<0.0001、優越性のp=0.89)。

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薬剤コーティングバルーンでステントは不要となるか、不射之射の境地【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第71回

PCI発展の過程急性心筋梗塞や狭心症に代表される冠動脈疾患の治療では、冠動脈の流れを回復させるために冠血行再建が決定的に重要です。その方法として冠動脈バイパス手術(CABG)と、カテーテル治療である冠動脈インターベンション(PCI)があります。PCIの発展の過程は再狭窄をいかに克服するかが課題でした。再狭窄とはPCIで治療した冠動脈が再び狭くなることです。バルーンのみで病変を拡張していた時代は、再狭窄率が約50%でした。金属製ステント(BMS)が登場してからは約30%まで減少しましたが、それでも高い再狭窄率でした。再狭窄の要因は、ステント留置後に血管内の細胞が増殖しステントを覆ってしまい内腔が狭小化することです。この新生内膜の増殖抑制を治療ターゲットとして薬剤溶出ステント(DES)が開発されました。当初はステント血栓症などの問題もありましたが、DESの改良が進み再狭窄は劇的に改善されました。現在は、本邦だけでなく世界中でDESを用いたPCIが広く普及しています。「不射之射」皆さんは、「不射之射(ふしゃのしゃ)」という言葉をご存じでしょうか。小生の最も敬愛する作家である中島 敦の作品の『名人伝』に詳しく書かれています。中島 敦(1909~42年)は喘息により33歳という若さで没しています。『山月記』や『李陵』などが代表作ですが、その格調高い芸術性と引き締まった文章が魅力です。「名人伝」のあらすじを紹介します。紀元前3世紀に、中国の都で、天下第一の弓の名人を目指した紀昌(きしょう)という男がいました。伝説の弓の名人である甘蠅老師(かんようろうし)に勝負を挑みに出かけます。そこで、名人に想像を超えた境地を教えられます。弓の名人は、「弓」という道具を使わずに、「無形の弓」によって飛ぶ鳥を射落とすのです。「射之射」とは、弓で矢を射て鳥を撃ち落とすこと、 不射之射とは、矢を射ることなく射るのと同様の結果が得られることです。紀昌は、不射之射を9年かけて会得し都へ帰還します。「弓をとらない弓の名人」となった紀昌は、晩年には「弓」という道具の使い方も、名前すらも忘れてしまうという境地に到達したといいます。野球の川上 哲治氏は「打撃の神様」と言われた強打者で、日本プロ野球史上初の2,000安打を達成しました。全盛期には、ピッチャーの投げたボールが「止まって見えた」と言っていたそうです。このような境地に到達した者を名人と称賛し憧れるのが日本人です。ステントに代わる、薬剤コーティングバルーン(DCB)の登場日本におけるPCIで、注目されているコンセプトがステントレス PCIです。薬剤溶出ステント (DES) を留置するPCIは、冠動脈疾患の治療に革命をもたらし、最も行われている治療法の1つとなっています。しかし、DESは金属性のデバイスであり、その使用により冠動脈内に異物が永続的に留まるという制限があります。これを克服するために登場したのが、薬剤コーティングバルーン(DCB)です。このDCBによる治療は、金属製ステントを使用せず、バルーンに塗布されたパクリタキセルなどの薬剤を血管の壁に到達させて再狭窄を予防するものです。DCBによる、ステントレス PCI のメリットを考えてみましょう。DESを留置した後にはステント血栓症を防ぐため抗血小板薬の2剤併用(DAPT)が必要ですが、抗血小板薬1剤に比べて出血が増加します。高齢の患者では出血性の合併症が問題となります。DCBで治療すれば、抗血小板薬を減弱化することが可能となります。冠動脈CTによる評価法が普及していますが、金属製ステントがあるとノイズとなり冠動脈ステントの内部がよく見えません。PCI術後に何年か経ってから病変が進行し、CABGや2回目のPCIが必要になった場合には、既存の冠動脈ステントが治療の邪魔になる可能性があります。このような利点もありDCBの使用は増加しています。一方で、金属製ステントの効能の1つである、急性冠閉塞の予防効果がDCBでは期待できないことからリスク増加も懸念されます。DCBは、冠動脈内に異物を残さない治療を実現するもので、このコンセプトを、「leave nothing behind」と呼んでいます。欧米や諸外国においてもDCBを用いたステントレス PCIが話題として取り上げられることはありますが、日本ほど注目されている訳ではありません。日本でステントレス PCIへの議論が高まってきているのは、その背景に「不射之射」を尊ぶ東洋的思想があるように思います。ステントを用いずにPCIを完遂することが、あたかも弓矢を用いずに飛ぶ鳥を射落とすが如く捉えられているのです。冠動脈疾患の予防治療が将来さらに進化して、冠血行再建を必要とする患者がゼロとなり、CABGやPCIという道具や手技の名前を忘れてしまうという、「紀昌」の境地までに到達する日を夢みております。

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LVADにおいても抗血栓療法の常識を疑う時代(解説:絹川弘一郎氏)

 最近ステントの抗血栓療法について、相次いでDAPTの常識が緩和される方向にデータが出てきている。その流れはLVADにも及んできた。このMandeep R. Mehra氏のJAMA誌の論文は、HeartMate3新規植込み患者において通常の抗血栓療法(ワルファリン[INR:2~3]と低用量アスピリン)とアスピリンなしの抗血栓療法(ワルファリン[INR:2~3]とプラセボ)をダブルブラインドで割り付けし、その後の有害事象フリーの生存率をprimary endpointとして12ヵ月間比較したものである。ここで言う有害事象は、LVADの場合、とくにhemocompatibility-related adverse eventと呼ばれ、脳卒中・ポンプ血栓・大出血・末梢塞栓症が含まれる。 そもそも前世代のHeartMate IIとHeartMate3を比較した MOMENTUM3試験で、HeartMate3のポンプ血栓はほとんどゼロの発症率であり、おそらくポンプ内血栓に起因すると考えられる脳卒中も激減していた。出血の中でもLVAD特有の合併症として知られる消化管出血(Angiopoietin-2活性化からくる血管新生による動静脈奇形などが原因とされるが、その限りではない)も減っており、HeartMate3のポンプ構造自体が進化したことがhemocompatibilityを増加させ、俗な言い方であるが、血球や凝固因子にfriendlyになったとも考えられてきた。その中で、ここまでポンプ血栓が生じないなら、抗血栓療法を甘くしてもいいのではないかと考えるのは必然であり、また依然としてHeartMate3でも一定の消化管出血は生じることから、アスピリンを除外したレシピが望まれたことも当然である。 もともと抗血小板薬は速い血流を有する動脈性の血栓予防に対する薬剤であり、LVADの中の血流は静脈系よりは速いものの、真に動脈系かというと微妙である。結論から言えば、アスピリンなしでも脳卒中や塞栓症はまったく増えず、大出血は有意に減少した。 Primary endpointは優越性検定をするとp=0.03でアスピリンなし群が優れているのだが、もともと非劣性試験として計画された関係上、一応アスピリンなしでも大丈夫ですよ、という言い方しかできないが、結果を見ればむしろアスピリンは切るべきといえる。試験プロトコルに忠実な姿勢ならばアスピリンフリーのレジメンで良いのは新規植込み患者においての話と限定的に捉えることもできるが、消化管出血をすでに合併した患者において日常臨床においてアスピリンをやめて管理している例は、実際は多いかと思われる。私自身は少なくとも出血の合併症を生じた場合には、遠隔期においてもアスピリンを中止することがむしろ望ましいと読める結果と解釈する。 Mandeep氏に聞いたところ、彼の属するBrigham & Women’s Hospitalには、かのEugene Braunwald先生が健在で週に1~2回話をするそうであるが、この結果を見てBraunwald先生は、「世の中にはエキスパートコンセンサスといって、検証されずになんとなく入っている薬剤が、まだたくさんある。ぜひそういう事例を見つけて、どんどん検証試験をやってほしい」と言われたそうである。Braunwald先生には何かしら念頭にあるんでしょう。私たちも探しましょう、そういう都市伝説的な薬剤使用を。

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重症コロナ患者に対するスタチンとビタミンCの治療効果、対照的な結果に

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者を対象に、広く使用されている安価なスタチン系薬のシンバスタチンとビタミンCのそれぞれの有効性を調べた2件の臨床試験で、大きく異なる結果が示された。これらの試験は感染症の患者を対象とした進行中の国際共同研究「REMAP-CAP(Randomised, Embedded, Multi-factorial, Adaptive Platform Trial for Community-Acquired Pneumonia)」の一環で実施され、スタチン系薬に関する試験の詳細は「The New England Journal of Medicine(NEJM)」、ビタミンCに関する試験の詳細は「Journal of the American Medical Association(JAMA)」にいずれも10月25日掲載されるとともに、欧州集中治療医学会(ESICM 2023、10月21~25日、イタリア・ミラノ)でも発表された。 シンバスタチンの臨床試験には13カ国、141施設の病院からCOVID-19重症患者が参加し、最終的に2,684人のデータが解析された。その結果、シンバスタチンはCOVID-19重症患者の集中治療室(ICU)での臓器サポートを要する日数の短縮に95.9%の確率で寄与し、90日時点での生存率向上に91.9%の確率で寄与することが明らかになった。研究グループの計算によると、この結果は、同薬を投与した33人のうち1人の命が救われることに相当するという。 REMAP-CAPのシンバスタチンの試験を主導した英クィーンズ大学ベルファストのDanny McAuley氏は、米国での研究のスポンサーとなったGlobal Coalition for Adaptive Research(GCAR)のニュースリリースで、「この結果は、シンバスタチンによる治療がCOVID-19重症患者の転帰を改善する可能性が高いことを示しており、実に心強いものだ」とした上で、「この研究は、各国の医療専門家がCOVID-19患者に対する治療を向上させる上で助けとなるだろう」と述べている。 一方、COVID-19重症患者に対する高用量ビタミンCの有効性については、2件の臨床試験(LOVIT-COVIDとREMAP-CAP)を組み合わせて検討された。対象は、20カ国のCOVID-19による入院患者2,590人で、重症患者と非重症患者の双方が含まれていた。その結果、ビタミンCが臓器サポートを要する日数の短縮や生存に寄与する可能性は低いことが示された。 ビタミンCに関する試験の共同代表である、サニーブルック・ヘルスサイエンスセンター(カナダ)のNeill Adhikari氏は、「この結果は、COVID-19入院患者に対するビタミンCの使用は控えるべきことを示している」と述べている。また、本試験の別の共同代表である、シャーブルック大学(カナダ)のFrancois Lamontagne氏は、「現時点で利用可能な治療法のうち、患者にとって有益性がなく、かえって有害な影響を与え得る治療法を特定し、それを中止することには健康と経済の両面でメリットがある。今回の臨床試験の結果はその重要性を示したものだ」と述べている。 REMAP-CAPの米国の研究責任者で米ピッツバーグ医療センター(UPMC)集中治療医学部長のDerek Angus氏は、「REMAP-CAPから2つの結果が論文として同時に掲載されたことは、REMAP-CAPが複数の介入方法を効率的に評価できることの証しともいえる」と説明。「この恐ろしいパンデミックを通じて、われわれは治療に関するいくつかの大きな疑問に迅速に対処するための新しい方法を開拓し、今いる患者の治療に取り組み、将来、より機敏に対応するための準備をしてきた」と述べている。

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