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ADHDと食事パターンとの関連~メタ解析

 注意欠如・多動症(ADHD)は、不注意、衝動性、多動の持続的な症状を特徴とする神経生物学的障害である。これまでも、小児期の食事と潜在的なADHDの病因との関連について調査されている。ブラジル・ペロタス連邦大学のBianca Del-Ponte氏らは、ADHDと食事パターンとの関連についてのエビデンスをシステマティックにレビューした。Journal of Affective Disorders誌2019年6月1日号の報告。 PubMed、LILACS、PsycINFOのデータベースより、独立した2人のレビューアーが文献検索を行った。対象は、小児および青年における食事パターンとADHDについて評価した研究とした。研究間の異質性は、推定値をプールしたランダム効果モデルを用いて評価した。ADHDリスクを不健康な食事パターンが増大させる可能性 ADHDと食事パターンとの関連についてのレビューの主な結果は以下のとおり。・14件の観察研究(コホート:4件、ケースコントロール:5件、横断研究:5件)が抽出された。・プール分析では、健康的な食事パターンがADHDに保護的であったのに対し(OR:0.65、95%CI:0.44~0.97)、不健康な食事パターンはADHDリスクとしてみなされた(OR:1.41、95%CI:1.15~1.74)。・デザイン(コホート、ケースコントロールまたは横断研究)、大陸(ヨーロッパまたはアジア、オセアニア)、サンプルサイズ(1,000例以上または1,000例未満)により研究を層別化した後でも、その効果は認められた。 著者らは「甘味料や飽和脂肪酸を多く含む食事は、ADHDリスクを増大させる可能性があり、果物や野菜を多く取るような健康的な食事は、ADHDに対し保護的に働く。しかし、利用可能な研究データは少なく、現時点でのエビデンスは強くないため、今後は縦断的なデザインを用いた研究を実施する必要がある」としている。

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宇宙医学研究の成果を高齢者医療に役立てる

 骨密度低下と聞けば高齢者をイメージするが、無重力空間に滞在する宇宙飛行士もそれが問題視されている。しかし、宇宙飛行士と高齢者の骨密度減少の原因と程度にはどのような違いがあるのだろうか? 2019年6月14日、大島 博氏(宇宙航空研究開発機構、整形外科医)が「非荷重環境における骨・筋肉の減少と対策」において、宇宙飛行士に対する骨量減少と筋萎縮の実態と対策について講演した(第19回日本抗加齢医学会総会 シンポジウム2)。高齢者と宇宙飛行士の骨量減少の違いは? 高齢者の骨粗鬆症と30~60歳の宇宙飛行士の骨量減少の原因は異なる。高齢者では加齢によるCa吸収の低下や女性ホルモン減少により骨吸収亢進と骨形成低下から、骨量は年間1~2%ずつ低下する。一方で、宇宙飛行や長期臥床では骨への荷重負荷が減少し、著しい骨吸収亢進と骨形成低下が生じる。そのため、骨粗鬆症とともに尿路結石のリスクも高まる。 宇宙飛行士の大腿骨頚部の骨量を1ヵ月単位でみると、骨密度(DXA法で測定)は1.5%、骨強度(QCT法で測定)は2.5%も減少していた。大島氏は「宇宙飛行士の骨量は骨粗鬆症患者の約10倍の速さで減少する。骨量減少は荷重骨(大腿骨転子部や骨盤など)で高く、非荷重骨(前腕骨など)では少ない」とし、「体力ある宇宙飛行士でも半年間の地球飛行を行うと、帰還後の回復に3~4年も要し、次の飛行前までに回復しないケースもある」と、報告した。宇宙飛行士×ビスフォスフォネート薬 宇宙飛行士の骨量減少を地上で模擬し医学的な対策法の妥当性を検証するため、JAXAは欧州宇宙機関などと共同で“90日間ベッドレスト研究”を実施。この地上での検証結果をもとに、宇宙飛行における骨量減少予防対策としてJAXAとNASA共同による“ビスフォスフォネート剤を用いた骨量減少予防研究”を行った。長期宇宙滞在の宇宙飛行士から被験者を募りアレンドロネートの週1回製剤(70mg)服用群と非服用群に割り付けた。それぞれ、食事療法(宇宙食として2,500kcal、Ca:1,000mg/日と、ビタミンD:800IU/日含む)と運動療法(筋トレと有酸素運動を2時間、週6日)は共通とした。その結果、ビスフォスフォネート剤を予防的に服用すれば、骨吸収亢進・骨量減少・尿中Ca排泄は抑制され、宇宙飛行の骨量減少と尿路結石のリスクは軽減できることが確認された1)。宇宙で1日分の筋萎縮変化は高齢者の半年分 加齢に伴い、60歳以降では2%/年の筋萎縮が生じる。宇宙飛行では、背筋や下腿三頭筋などの抗重力筋が萎縮しやすく、約10日間の短期飛行で下腿三頭筋は1%/日筋肉は萎縮した。同氏は「宇宙で1日分の筋萎縮変化は、臥床2日分、高齢者の半年分に相当する。宇宙飛行士には、専属のトレーナーから飛行前から運動プログラムが処方され、飛行中も週6回、1日2時間、有酸素トレーニングと筋力トレーニングからなる軌道上運動プログラムを実施し、筋萎縮や体力低下のリスクを軽減している。」という2)。宇宙医学は究極の予防医学を実践 「宇宙飛行は加齢変化の加速モデル。予防的対策をきちんと実践すれば、骨量減少や筋萎縮のリスクは軽減できる」とコメント。「骨・筋肉・体内リズムなどは、宇宙飛行士と高齢者に共通する医学的課題であり、宇宙医学は地上の医学を活用して宇宙飛行の医学リスクを軽減している。宇宙医学の成果は、中高年者の健康増進の啓発に活用できる」と地上の医学と宇宙医学の相互性を強調した。「宇宙医学は、ガガーリン時代にサバイバル技術として始まったが、現在は究極の予防医学を実践している。地上の一般市民に対しては、病気を俯瞰して理解し、予防対策の重要性の啓発に利用できる」と締めくくった。

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非扁平上皮NSCLCへの維持療法、Bev対Pem対Bev+Pem(ECOG-ACRIN 5508)/ASCO2019

 進行非扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)患者における維持療法として、ベバシズマブ、ペメトレキセド、およびその併用の3群を比較した第III相ECOG-ACRIN 5508試験の結果を、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2019)で、米国・Winship Cancer Institute of Emory UniversityのSuresh Ramalingam氏が発表した。・対象:全身療法歴のない、ECOG PS 0~1の進行非扁平上皮NSCLC患者(カルボプラチン・パクリタキセル・ベバシズマブ併用3週ごと4サイクルの導入療法実施後、CR/PR/ SDとなった患者が、維持療法として、ベバシズマブ群とペメトレキセド群、ベバシズマブ・ペメトレキセド併用群に1:1:1の割合で無作為に割り付けられた)・試験群:ペメトレキセド3週ごとPDまで(Pem群)ベバシズマブ+ペメトレキセド3週ごとPDまで(Bev+Pem群)・対照群:ベバシズマブ3週ごとPDまで(Bev群)・評価項目:[主要評価項目]無作為化後の全生存期間(OS)[副次評価項目]無作為化後の無増悪生存期間(PFS)、RECIST1.1による奏効率(RR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・導入療法後、874例が3群に無作為化された(Bev群287例、Pem群294例、Bev+Pem群293例)。年齢中央値:64歳、男性:49%、ECOG PS1:55%。ベースライン特性は、3群でバランスがとれていた。・治療サイクル数の中央値はBev群およびPem群で6サイクル、Bev+Pem群8サイクルであった。無作為化後の追跡期間中央値は50.6ヵ月。・無作為化後のOS中央値はBev群14.4ヵ月に対し、Pem群15.9ヵ月(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.70~1.07、p=0.12)、Bev+Pem群16.4ヵ月(HR:0.90、95%CI:0.73~1.12、p=0.28)。・無作為化後のPFS中央値はBev群4.2ヵ月に対し、Pem群5.1ヵ月(HR:0.85、95%CI:0.69~1.03、p=0.06)、Bev+Pem群7.5ヵ月(HR:0.67、95%CI:0.55~0.82、p<0.001)。・維持療法のRRはBev群13%、Pem群19%、Bev+Pem群21%であった。・維持療法におけるGrade3以上の有害事象は、Bev群29%、Pem群37%、Bev+Pem群50%と併用群で多い傾向がみられた。Pem群およびBev+Pem群で多くみられたのはリンパ球減少症(1%、5%、8%)、好中球減少症(1%、7%、11%)、血小板減少症(0%、3%、4%)など。Bev群で多くみられたのはタンパク尿(4%、1%、3%)、高血圧(16%、5%、19%)であった。 これらの結果を受けてRamalingam氏は、併用群では、Bev群と比較してPFS中央値を延長したものの、OS中央値は有意な差が認められなかったと結論付けている。

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1人でも多くの人に正しい理解を―『がん悪液質ハンドブック』発信。シリーズがん悪液質(3)【Oncologyインタビュー】第7回

昨今、がん悪液質に関しては認知度が徐々に高まっているが、決定打となる治療方針はないのが実情である。そのような状況下で日本がんサポーティブケア学会は、2019年3月より、同学会監修によるガイドブックのダイジェスト電子版を学会HPで公開している。こうした取り組みについて、同学会で作成の実務を担当した、静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科の内藤 立暁氏に聞いた。―まず『がん悪液質ガイドブック』電子版作成の経緯を教えていただけますか。がん悪液質に関するガイドライン、治療指針は、欧州のEuropean Palliative Care Research Collaborative(EPCRC)によるガイドラインを除くと、世界的にもほとんどないのが現状です。日本では日本緩和医療学会、日本静脈経腸栄養学会などの関連ガイドラインの中で一部言及がある程度で、やはりまとまったマニュアル、ガイドラインはありませんでした。こうした中、日本がんサポーティブケア学会(JASCC)代表理事である田村 和夫先生(福岡大学医学部 総合医学研究センター 教授)から、最新研究をまとめた英文学術書『Cancer cachexia: mechanisms and progress in treatment(がん悪液質:機序と治療の進歩)』(著者:Egidio Del Fabbroら)の翻訳書を学会から発行しようという提案があり、そこから、学会内に高山 浩一先生(京都府立医科大学 呼吸器内科 教授)を部会長としたJASCC Cachexia部会で翻訳が始まりました。その結果、学会監修で『がん悪液質:機序と治療の進歩』が発刊されましたが、非常に膨大なものなので読み切ることは難しく、コンパクトにまとめたものが欲しいとの要望がありました。その要望にお応えしたのが、2019年3月にJASCCより発刊された全16ページの『がん悪液質ハンドブック』(以下ハンドブック)です。―ハンドブック作成の目的、無料の電子版を公表した意図を教えていただけますか。ハンドブックを作成した目的は大きく3つあります。1つ目は、がん悪液質の正しい理解を広め、社会の認知度を高めることです。臨床現場では「がん悪液質は終末期の緩和病棟などで起こる症状」という誤った固定概念が根付いてしまっています。しかし最近、がんの種類によっては、手術で治癒が見込める症例であっても、術前の体重や骨格筋の減少が術後転帰を悪化させることが報告されています。つまり進行がんだけでなく、治癒可能な早期のがんでも悪液質はすでに共存しているのです。この事実を医療従事者が広く知り、イメージを変えてもらいたいのです。2つ目は、医療従事者に、がん患者さんの体重への関心を高めていただくことです。がん悪液質の診断には体重測定が重要ですが、がん治療を専門とする医療機関であっても、定期的な体重測定の習慣が根付いていないことが少なくありません。がん患者さんの体重減少の重要性が認知されていないのです。体重を定期的に測定することによって、医療従事者にも患者さんにも栄養状態の変化に関心を持っていただきたいのです。3つ目の目的は、医師以外の医療従事者にも気軽に読んでいただき、多職種の連携に役立てていただくことです。ハンドブックでも述べたように、がん悪液質の治療は医師の力だけでは難しいのです。栄養士の栄養管理、理学療法士による運動療法、看護師の生活指導、薬剤師の薬剤管理、心理療法士の心理介入など、がん悪液質の治療には多職種の協力が不可欠です。そのため、内容を絞り込み、図説を多用することで、多くの職種の皆さんに受け入れやすいハンドブックとなるよう心がけました。―ガイドブックの内容について簡単にご説明ください画像を拡大する内容は3章立てで、第1章ではがん悪液質がどのような症状で、臨床転帰にどのような影響を及ぼすかを解説しています。それは、がん悪液質は生命予後に影響するという大枠はもちろんのこと、悪液質があれば、化学療法の効果減弱と副作用増加を引き起こし、結果として治療の継続性に関わる疾患であるという点です。また、筋肉量の減少に伴う体重低下と食欲の低下は、外見の変貌なども相まって外出・外食を控える、その結果、家族との軋轢が生じるなど、心理面の影響も大きいのです。加えて、前述のEPCRCガイドラインで示されている悪液質のステージも紹介しています。このステージ分類では「前悪液質」→「悪液質」→「不応性悪液質」という段階を踏み、すでに「前悪液質」で集学的介入の必要性があることをうたっています。前述した悪液質に対する誤ったイメージは、「不応性悪液質」と呼ばれる最終段階のみを悪液質だと思い込んでいるためではないかと考えられます。画像を拡大する第2章では、悪液質の症状と現在わかっているそのメカニズムを解説しています。骨格筋減少では慢性的炎症とそれに伴うサイトカインの分泌物が特殊な代謝状況を引き起こしていること、また脂肪組織から分泌され食欲を抑えるホルモン「レプチン」と、胃から分泌され食欲を増進するホルモン「グレリン」のバランスが治療の鍵を握ることなど、図解を用いて説明しています。第3章では、現在までにわかっている各種治療の実態を解説しています。早期診断・早期介入の必要性、薬物だけでなく栄養、運動、社会心理面など、集学的介入の必要性を示しています。要は、がん悪液質の治療はどこか1つのスイッチを押せばよいというのではなく、多職種連携のもとで集学的に取り組む必要性があることが、この章でお伝えできればと思います。また、新規に開発されている薬物療法も紹介しています。―臨床現場でどのような活用を期待していますか?まずは病棟や外来で設置や配布し、看護師、薬剤師、理学療法士など多くの医療従事者に目を通していただき、がん悪液質の認知を広めてほしいということに尽きます。患者さんに見ていただいても差し支えないとも思っています。患者さんにとってはやや難しい内容かもしれませんが、「がん悪液質」という病名とその概要を大まかに知っていただき、医療スタッフと体重についてお話するきっかけになるかもしれません。医療現場でこのような対話が増えることが、がん悪液質の早期発見と早期治療の鍵となると考えています

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加熱式タバコには、ニコチンは含まれない?【新型タバコの基礎知識】第3回

第3回 加熱式タバコには、ニコチンは含まれない?Key Points加熱式タバコには、紙巻タバコとほとんど変わらないレベルのニコチンが含まれている。紙巻タバコと同じように、加熱式タバコによってニコチン依存症が維持される。加熱式タバコは、従来からの紙巻タバコのようにタバコの葉に直接火をつけるのではなく、タバコの葉を加熱してニコチン等を含んだエアロゾルを発生させる方式のタバコです。ニコチンはタバコをやめられなくする依存性物質で、タバコを吸うとおよそ5分で血液中のニコチン濃度が最大になりますが、吸っていないとすぐに濃度は低下していきます(ニコチンの体内半減期は1~2 時間)。喫煙者はニコチン依存症となり、ニコチン濃度を維持するために断続的にタバコを吸うようになります。ニコチンは血管収縮などを介して循環器系疾患のリスクを高めるとともに、脳の発達に害を及ぼすことも知られています。加熱式タバコに含まれるニコチンの量は製品による違いがあり、紙巻タバコのニコチン量を100%とすると、プルーム・テックでは13%、グローでは23~27%、アイコスでは57~84%と報告されています(表)。製品による程度の違いはあるものの、すべての加熱式タバコにニコチンが含まれています。画像を拡大する加熱式タバコ(アイコス)を吸った場合に、体内のニコチン濃度がどうなるのか、図のとおり、フィリップモリス社による研究の結果が報告されています。縦軸がニコチンの血中濃度であり、横軸はタバコを吸ってからの時間が分を単位として示されています。グラフの形を見てください。加熱式タバコ(アイコス)と紙巻タバコで、ほとんど同じ形をしています。要するに、加熱式タバコ(アイコス)でも紙巻タバコと同じようにニコチンが体に吸収されるということです。これは、紙巻タバコと同じように、加熱式タバコ(アイコス)によってニコチン依存症が維持されるということを意味しています。画像を拡大するこのニコチン依存症がいかに恐ろしい病態なのかについては、拙著「新型タバコの本当のリスク」の第5章第4節で詳細に説明しておりますので、興味のある方はぜひご覧ください。 第4回は、「新型タバコも禁煙外来でやめられる?」です。1)Simonavicius E et al. Tob Control. 2018 Sep 4. [Epub ahead of print]2)Uchiyama S et al. Chem Res Toxicol. 2018;31:585-593.3)Bekki K et al. J UOEH. 2017;39:201-207.4)Picavet P et al. Nicotine Tob Res. 2016;18:557-563.

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中間~高リスク前立腺がんの放射線治療、超寡分割照射は有効か/Lancet

 中間~高リスクの前立腺がんの治療において、超寡分割放射線治療は通常分割放射線治療に対し、治療奏効維持生存(failure-free survival:FFS)率に関して非劣性であり、早期の副作用の頻度は高いものの晩期の副作用の割合は同等であることが、スウェーデン・ウメオ大学のAnders Widmark氏らが行ったHYPO-RT-PC試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年6月18日号に掲載された。中程度寡分割照射は、従来の通常分割照射に比べ臨床アウトカムが良好であることが示されているが、超寡分割照射に関する無作為化試験の報告はなかったという。北欧の12施設が参加した超寡分割照射の無作為化非劣性試験 HYPO-RT-PC試験は、超寡分割照射の通常分割照射に対する非劣性を検証する第III相非盲検無作為化試験であり、2005年7月~2015年11月の期間にスウェーデンとデンマークの12施設で患者登録が行われた(Nordic Cancer Unionなどの助成による)。 対象は、年齢75歳までの男性で、中間~高リスクの前立腺がんを有し、全身状態(WHO PS)が0~2の患者であった。被験者は、超寡分割照射(総線量42.7Gy、7分割、3日/週、2.5週)または通常分割照射(78.0Gy、39分割、5日/週、8週)を施行する群に無作為に割り付けられた。アンドロゲン遮断療法は許容されなかった。 主要評価項目は、per-protocol集団におけるFFS(無作為化から生化学的または臨床的な治療不成功までの期間)とした。事前に規定された非劣性マージンは5年時に4%とし、ハザード比(HR)の限界値は1.338であった。担当医による毒性の評価は、米国腫瘍放射線治療グループ(Radiation Therapy Oncology Group:RTOG)の合併症スケールに準拠し、患者報告アウトカムの評価には、前立腺がん症状スケール(PCSS)質問票を用いた。超寡分割照射群は急性期合併症が多いが、1年時を除きほかは同等 1,200例が登録され、超寡分割照射群に598例、通常分割照射群には602例が割り付けられた。このうち1,180例がper-protocol集団で、超寡分割照射群が589例(年齢中央値68歳[IQR:64~72]、PSA中央値8.7ng/mL[6.0~12.2])、通常分割照射群は591例(69歳[65~72]、8.6ng/mL[5.7~12.0])であった。全体の89%が中間リスク例であり、高リスク例は11%と少なかった。フォローアップ期間中央値は5.0年(IQR:3.1~7.0)だった。 5年時のFFS率は、両群とも84%(95%信頼区間[CI]:80~87)で、補正後HRは1.002(0.758~1.325、log-rank検定のp=0.99)であり、超寡分割照射群は通常分割照射群に対し非劣性であった。 5年全生存率は、超寡分割照射群が94%、通常分割照射群は96%と、両群間に有意な差は認めなかった(HR:1.11、95%CI:0.73~1.69)。前立腺がんによる死亡率は、それぞれ2%、<1%であった(Gray検定のp=0.46)。 放射線治療終了時の担当医報告によるRTOG Grade2以上の尿路の急性期毒性の割合は、超寡分割照射群のほうが高い傾向が認められた(28%[158/569例]vs.23%[132/578例]、p=0.057)。 放射線治療終了後10年間のGrade2以上の尿路または腸管の晩期毒性は、1年時の尿路毒性の割合が超寡分割照射群で高かったこと(6%[32/528例]vs.2%[13/529例]、p=0.0037)を除き、両群間に差はなかった。 放射線治療終了後5年時のRTOG Grade2以上の尿路毒性(超寡分割照射群5%[11/243例]vs.通常分割照射群5%[12/249例]、p=1.00)および腸管毒性(1%[3/244例]vs.4%[9/249例]、p=0.14)に差はみられなかった。 患者報告アウトカムは、放射線治療終了時の急性期では、尿路(p=0.0066)および腸管(排便)(p<0.0001)とも超寡分割照射群で有意に不良であったが、晩期症状は、1年時の尿路毒性が超寡分割照射群で高かったこと(p=0.0036、担当医判定と一致)を除き、有意な差はなかった。 全体の勃起機能の保持は、治療開始時の約70%から5年時には約35%に低下したが、両群の比較では、担当医判定および患者報告のいずれにおいても、治療終了時から終了後10年間で差は認めなかった。 著者は、「この結果は、前立腺がんにおける超寡分割照射の使用を支持する。高リスク例が少なかったことから、この集団での超寡分割照射の検討を新たに行う必要がある」としている。

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終末期患者における口腔ケアの必要性

 「最期まで口から食べたい」の思いに応えようと、終末期の口腔ケアは最近のトピックの1つになっている。イタリア・Antea Palliative Care UnitのCaterina Magnani氏らは、ホスピスの入院患者を対象に口腔ケアの影響を調査し、患者は口腔内の変化が多く、その機能が部分的に障害され生活の質が低下していること、そして標準的な口腔ケアは手短に実施可能で、口腔の状態、症状および患者の快適さが改善したことを明らかにした。検討が行われた背景には、「緩和ケアでは口腔の問題がしばしばみられ、口腔顔面痛、味覚障害および口内乾燥など日常生活に支障を来す症状が引き起こされており、口腔ケアが不可欠だが、さまざまな複雑な患者のニーズを管理しなければならないときは優先事項と見なされないことが少なくない」との問題意識があったという。American Journal of Hospice and Palliative Medicine誌オンライン版2019年2月12日号掲載の報告。終末期患者への標準的な口腔ケアで味覚障害および口内乾燥が有意に減少  研究グループは、終末期患者における口腔の状態を明らかにし、症状の管理に対する標準的な口腔ケアの影響と患者が感じている快適さを評価する目的で、前向きコホート研究を行った。 対象はホスピスの入院患者で、研究への参加に同意した患者に看護師が標準的な口腔ケアを行い、登録時およびケア実施3日後に口腔の状態、症状および快適さについて評価した。 終末期患者における口腔ケアの影響を評価した主な結果は以下のとおり。・解析対象は適格患者75例であった。・口腔アセスメントガイドスコアは標準的な口腔ケア後に有意に低下した(p<0.0001)。・看護師が口腔ケアに費やした時間は平均5.3分であった。・味覚障害および口内乾燥も標準的な口腔ケア後に有意に減少した(それぞれp=0.02およびp=0.03)。・口腔ケアを受けた後は、快適と感じた患者が多かった(86.6%)。

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頭頸部扁平上皮がん1次治療にペムブロリズマブが新たなスタンダードに(KEYNOTE-048)/ASCO2019

 転移のある頭頸部がんでは従来から治療薬の選択肢が少ないことで知られ、免疫チェックポイント阻害薬の登場により全生存期間(OS)の延長効果が認められるようになったことが注目されている。 これまで頭頸部がん1次治療としてのペムブロリズマブ+化学療法はセツキシマブ+化学療法に比べて、PD-L1発現陽性およびすべての集団でOSを改善することがオープンラベル無作為化比較第III相臨床試験「KEYNOTE-048」の最終解析からわかった。同試験についてオーストラリアのPeter MacCallum Cancer Centreの Danny Rischin氏らが米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2019)で発表した。頭頸部扁平上皮がんでの新たな標準治療であることを支持 同試験の対象は、未治療の再発または転移のある頭頸部(中咽頭、口腔、喉頭)扁平上皮がん患者882例。登録患者はペムブロリズマブ3週ごと最大35サイクルに300例、ペムブロリズマブ+化学療法(カルボプラチンまたはシスプラチン+5-FU)3週ごと6サイクル後にペムブロリズマブ3週ごと(最大35サイクル)に281例、EXTREME試験と同じセツキシマブ+化学療法(前述に同じ)3週ごと6サイクル後にセツキシマブ毎週投与の301例に無作為に割り付けられた。 主要評価項目はPD-L1陽性スコア(CPS)20以上、CPS1以上、頭頸部扁平上皮がん全患者でのOS、盲検下独立中央判定委員会が評価した無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目はCPS20以上、CPS1以上、全患者での6ヵ月PFS率、12ヵ月PFS率、奏効率、ベースラインからのQOLスコアの変化、安全性であった。 ペムブロリズマブ+化学療法群とセツキシマブ+化学療法の比較では、CPS20以上のOS中央値はペムブロリズマブ+化学療法群14.7ヵ月、セツキシマブ+化学療法群11.0ヵ月で、ペムブロリズマブ+化学療法群が有意なOS延長効果を示した(HR:0.60、95%CI:0.45~0.82、p=0.0004)。CPS1以上のOS中央値はそれぞれ13.6ヵ月、10.4ヵ月で、ペムブロリズマブ+化学療法群の有意なOS延長効果が認められた(HR:0.65、95%CI:0.53~0.80、p<0.0001)。全患者でのOSの比較ではHR0.72(0.60~0.87)、OS中央値はペムブロリズマブ+化学療法群が13.0ヵ月、セツキシマブ+化学療法群が10.7ヵ月で有意な延長効果を示した。また、ペムブロリズマブ+化学療法群のOSは全サブグループで優れていた。 PFS中央値は、CPS20以上でペムブロリズマブ+化学療法群が5.8ヵ月、セツキシマブ+化学療法群が5.2ヵ月でHR0.73(0.55~0.97、p=0.0162)、CPS1以上では両群とも5.0ヵ月、HR0.82(0.67~1.00)で、いずれも有意差は認められなかった。奏効率はCPS20以上で、ペムブロリズマブ+化学療法群が42.9%、セツキシマブ+化学療法群が38.2%、CPS1以上ではそれぞれ36.4%、35.7%だった。なお奏効期間中央値はCPS20以上でそれぞれ7.1ヵ月、4.2ヵ月、CPS1以上でそれぞれ6.7ヵ月、4.3ヵ月だった。 一方、ペムブロリズマブ単独群とセツキシマブ+化学療法群との比較では、頭頸部扁平上皮がん全患者のOS中央値はそれぞれ11.5ヵ月、10.7ヵ月でHR0.83(0.70~0.99、p=0.0199)。CPS20以上でのOS中央値はペムブロリズマブ単独群が14.8ヵ月、セツキシマブ+化学療法群が10.7ヵ月、HR0.58(0.44~0.78)、CPS1以上でのOS中央値はそれぞれ12.3ヵ月、10.3ヵ月、HR0.74(0.61~0.90)。 PFS中央値はそれぞれ2.3ヵ月、5.2ヵ月でHR1.34(1.13~1.59)。奏効率はペムブロリズマブ単独群が16.9%、セツキシマブ+化学療法群が36.0%だった。 全有害事象発現率はペムブロリズマブ単独群が96.7%、ペムブロリズマブ+化学療法群が98.2%、セツキシマブ+化学療法群が99.7%。グレード3以上の有害事象は、それぞれ54.7%、85.1%、83.3%だった。 この結果について、Rischin氏はペムブロリズマブ+化学療法は「セツキシマブ+化学療法に比べ、CPS20以上、CPS1以上、さらに全患者でOSを改善し、同等の安全性プロファイルを示した」と述べるとともに、「ペムブロリズマブ単剤はCPS20以上、CPS1以上の患者でのOSは優れており、全患者では非劣性であった。また安全性は良好であった」と評した。そのうえで「このデータはペムブロリズマブ+化学療法、ペムブロリズマブ単独療法は再発および転移のある頭頸部扁平上皮がんでの1次治療の新たな標準治療であることを支持している」と結論付けた。

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SCARLET試験:敗血症関連凝固障害に対する遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモジュリンの有効性(解説:小金丸博氏)-1066

 敗血症関連凝固障害はINR延長や血小板数低下で定義され、28日死亡率と相関することが報告されている。遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモジュリン(rhsTM)製剤は、播種性血管内凝固(DIC)が疑われる敗血症患者を対象とした第IIb相ランダム化試験の事後解析において、死亡率を下げる可能性が示唆されていた。 今回、敗血症関連凝固障害に対するrhsTM製剤の有効性を検討した第III相試験(SCARLET試験)の結果が発表された。本試験は、26ヵ国159施設が参加した二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験であり、集中治療室に入室した心血管あるいは呼吸器障害を伴う敗血症関連凝固障害患者を対象とした。プライマリアウトカムに設定した28日全原因死亡率は、rhsTM投与群が26.8%(106/395例)、プラセボ投与群は29.4%(119/405例)であり、両群間に有意差を認めなかった(p=0.32)。絶対リスク差は2.55%(95%信頼区間:-3.68~8.77)だった。重篤な出血有害事象の発生率は、rhsTM投与群が5.8%、プラセボ投与群は4.0%だった。 本試験では、敗血症関連凝固障害に対するrhsTM製剤の投与は、28日全原因死亡率を有意に低下させることができなかった。有効性を示せなかった要因として、(1)約20%の患者がベースライン時に凝固障害の基準を満たしていなかったこと、(2)プラセボ投与群の死亡率が予想より高かったこと、(3)深部静脈血栓症予防に用いたヘパリンがrhsTMの効果を弱めた可能性があること、(4)試験に参加した159施設中55施設では登録患者数が1例であり、有効性の結果に影響した可能性があることが挙げられている。 サブグループ解析では、ベースラインのAPACHE IIスコア25点未満の患者(439例)は28日全原因死亡率がrhsTM投与群で低く(リスク差:4.66%)、25点以上の患者(283例)はrhsTM投与群で高かった(リスク差:-1.45%)。また、ヘパリンを投与された患者(416例)は28日全原因死亡率がrhsTM投与群で高く(リスク差:-0.87%)、ヘパリンを投与されなかった患者(384例)はrhsTM投与群で低かった(リスク差:6.25%)。敗血症患者の病態は不均一であり、敗血症関連凝固障害に対して一律にrhsTMを投与しても有効性を見いだせないかもしれない。しかしながら、サブグループ解析や事後解析の結果はrhsTM投与が有効な病態が存在することを示唆しており、今後の研究結果を待ちたい。

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ASCO2019レポート 肺がん

レポーター紹介2019年のASCO、とくに肺がん領域は、このところ続いた免疫チェックポイント阻害薬による新境地の開拓の連続とは異なり、比較的おとなしいエビデンスの報告が主体であった。その中でも、RELAY試験の中川先生、JIPANG試験の劔持先生、COMPASS試験の瀬戸先生、そして大規模な外科切除データに基づく発表が注目された津谷先生といった日本人演者のOral presentationが多数報告され、活況を呈した。今回はその中から、とくに注目すべき演題について概観したい。RELAY試験EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの患者を対象に、試験治療としてのエルロチニブとラムシルマブの併用療法を標準治療としてのエルロチニブと比較したRELAY試験の結果が報告された。本試験には、Exon19欠失変異、Exon21 L858R変異があり、PS 0-1、血管新生阻害薬の一般的な適格規準を満たし、脳転移のない患者が合計449例登録された。主要評価項目はPFS、副次評価項目は安全性、OS、奏効割合などが設定されている。本試験はこれまでのEGFR-TKIと血管新生阻害薬の試験に比べ多数の症例が登録されており、また、アジア例が77%、そのうち日本人が多数を占めるという点も特徴的である。主要評価項目であるPFS中央値は、試験治療群で19.4ヵ月、標準治療群で12.4ヵ月、ハザード比は0.591(95%信頼区間0.461~0.760)であり、有意にエルロチニブ+ラムシルマブ併用群が良好な成績であった。探索的に実施されたPFS2の解析でも、ハザード比0.690(95%信頼区間0490~0.972)であった。安全性に関しては、Grade 3以上の有害事象が試験治療群で72%、標準治療群で54%報告されており、両者の違いは多くは高血圧であり、皮膚障害などの有害事象はCTCAE Gradeでは大きな違いを認めなかった。脳転移のない患者集団であることは考慮する必要があるものの、PFSの中央値でオシメルチニブのFLAURA試験と同等の結果が得られたことは、今後明らかになる全生存期間の解析に期待が持たれる結果であった。ゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの患者を対象に、試験治療としてゲフィチニブとカルボプラチン+ペメトレキセド療法を併用する治療と、標準治療としてのゲフィチニブを比較するPhase III試験の結果が、インドから報告された。本試験には、Exon 19欠失変異、Exon 21 L858R変異があり、PS 0~2の患者が350例登録された。主要評価項目はPFS、副次評価項目はOS、安全性、奏効割合などであった。本試験に登録された患者の年齢中央値は50代半ばであり、PSに関しては2の患者が21~22%登録されており、わが国で実施されたNEJ009試験とは患者集団が異なる可能性が高い試験である。PFS中央値は試験治療群で16ヵ月、標準治療群で8ヵ月であり、ハザード比0.51(95%信頼区間0.39~0.66)と、良好な成績であった。OSについては試験治療群の中央値は到達しておらず、ハザード比は0.45(95%信頼区間0.31~0.65)であり、副次評価項目ながら併用療法群が良好な結果であった。NEJ009試験で話題となったゲフィチニブ、カルボプラチン+ペメトレキセド療法がPDとなった後のPSや腫瘍量などについての情報は開示されなかったものの、同様にOSを延長する結果が得られたことは評価に値する。ただ、FLAURA試験の結果でオシメルチニブが初回治療で注目されており、オシメルチニブを基本として今回と同様のデザインでどのような結果が得られるか、注目がさらに集まっている。JCOG1210/WJOG7813L試験75歳以上の高齢者を対象として、試験治療としてのカルボプラチン+ペメトレキセド療法と標準治療ドセタキセルと比較したPhase III試験である、JCOG1210/WJOG7813L試験の結果も報告されている。本試験には未治療、PS 0~1の75歳以上の非扁平上皮非小細胞肺がん患者433例が登録され、試験治療としてカルボプラチン+ペメトレキセド併用療法とその後の維持療法が、標準治療としてドセタキセル単剤療法が実施された。主要評価項目はOSの非劣性であり、非劣性マージンはハザード比で1.154に設定された。登録された患者の年齢中央値は78歳、試験治療群では最高87歳、標準治療群では最高88歳の高齢患者が登録されている。OSは中央値で試験治療群が18.7ヵ月、標準治療群が15.5ヵ月、ハザード比は0.850(95%信頼区間は0.684~1.056)であり、カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法のドセタキセルに対する非劣性が証明された。安全性については、試験治療群で貧血が多い傾向にあり、標準治療群で白血球減少、好中球減少が多い傾向を認め、治療関連死はそれぞれ2例ずつ報告されている。FACT-LCを用いたQOL評価では、試験治療群が良いことが示されている。非劣性が証明され、かつ有害事象やQOLでも試験治療群が想定されたとおり良好な結果であったことを受け、カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法とそれに続くペメトレキセド維持療法が、75歳以上の高齢者における標準治療と考えて問題ない結果であった。サブセット、フォローアップ今回、肺がん領域では、主たる結果が発表済みの試験においても盛んにサブセット解析、フォローアップ解析の結果が報告された。IMpower150試験は、進行期非小細胞肺がんにおいて、カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブにアテゾリズマブを上乗せすることの優越性を示したPhase III試験である。本試験ではこれまでのベバシズマブを用いた試験の結果を受け、肝転移の有無が層別化因子に加えられていた。今回報告された肝転移の有無で分けられたサブセット解析では、肝転移を有する症例で、カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ療法に対し、アテゾリズマブを加えることで、PFS、OSのハザード比がそれぞれ0.41(95%信頼区間0.26~0.62)、0.52(95%信頼区間0.33~0.82)と、いずれも明らかに改善していることが認められた。AACRでは、KEYNOTE189試験において、層別化因子には含まれていなかったものの肝転移の有無でのサブセット解析結果が報告されており、同様に肝転移症例でも有効であることが示されている。肝転移症例が予後不良であることはすでに報告されており、この患者集団においてもプラチナ併用療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法の意義を示すエビデンスが積み重ねられている。一方、フォローアップデータとしては、KEYNOTE189試験のアップデート、PACIFIC試験のアップデート等が報告され、いずれも良好な傾向が維持されていることが示されている。なかでも注目を集めたのはLate breakingで報告されたKEYNOTE001試験の5年生存のデータである。KEYNOTE001試験は、ペムブロリズマブのPhase I試験であり、この中から同薬の安全性や至適投与量のデータだけでなく、PD-L1のTPSカットオフについての知見も得られている。今回報告された5年生存のデータでは、未治療患者、治療歴のある患者それぞれについて、PD-L1発現別のサブセットを含め長期生存のデータが評価された。5年生存割合は、未治療患者では23.2%、治療歴あるセカンドライン以降の患者では15.5%であった。すでにニボルマブの長期生存のデータが報告されており、既治療の患者集団での成績は大きく異ならない印象であった。一方、未治療の患者における23.2%の5年生存割合はこれまで報告されていなかった情報であり、初回治療から免疫チェックポイント阻害薬を使用する場合の5年生存割合の新たな指標として受け止められる結果であった。PD-L1 TPS別の解析結果でも、PD-L1 50%以上の集団では、未治療、既治療問わず、5年生存割合が25%を超えるという驚くべき結果であった。ただし、Phase I試験のデータであるなど、対象となった患者集団は日常臨床の患者集団とは異なる、具体的にはより状態が良い可能性もあり、この結果が一般臨床でも再現されるかは、今後の追加情報を待つ必要がある。周術期治療NEOSTAR:術前のニボルマブ+イピリムマブ併用療法の有効性と安全性を評価するPhase II試験である。本試験には、切除可能Stage I~IIIA(Single N2)症例44例が登録され、ニボルマブ単剤療法とニボルマブ+イピリムマブ併用療法にランダム化された。主要評価項目はMajor Pathologic Response(<10% viable tumor)とされた。両群併せて手術検体が得られた41例中10例(29%)、ニボルマブ単剤では20%、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法では43%でMPRが達成されていた。有害事象に関しては、ニボルマブ群1例でbronchopleural fistulaとそれに伴う肺臓炎による死亡例が報告されており、それ以外にも、肺臓炎、低酸素血症、低マグネシウム血症、下痢などがGrade 3の有害事象として報告されている。免疫チェックポイント阻害薬による術前導入療法については、本試験以外にも複数実施されており、注目が高まっている。評価手法として用いられたMPRについて、従来からあるpCRを含めた病理学的効果判定の意義や、長期生存のデータとの関連性等について今後さらなる解析が必要と考えられる。JIPANG:Stage II~IIIAの非扁平上皮非小細胞肺がんの術後化学療法として、試験治療としてシスプラチン+ペメトレキセド併用療法を、標準治療であるシスプラチン+ビノレルビン併用療法と比較したPhase III試験である。本試験には、完全切除後のpStage II-IIIAの非扁平上皮非小細胞肺がん患者804例が登録され、性別、年齢、pStage、EGFR遺伝子変異の有無、施設を層別化因子としてランダム化された。主要評価項目は無再発生存期間、副次評価項目はOS、安全性等とされ、優越性試験のデザインで実施された。無再発生存期間の中央値は、試験治療群で38.9ヵ月、標準治療群で37.3ヵ月、ハザード比は0.98(95%信頼区間0.81~1.20)であり、試験治療の優越性は証明されなかった。安全性に関しては、Grade 3以上の有害事象の発生頻度は、試験治療群で47.4%、標準治療群で89.4%であり、試験治療群がより良好な結果であった。確かに優越性は証明されなかったものの、有効性は大まかには同等といえ、かつ安全性においてもシスプラチン+ペメトレキセドが良好な傾向を示したことが、会場でも話題になっていた。分子標的薬今回のASCOではMET阻害薬のデータが複数報告された。capmatinibとtepotinibは従来からMET exon14 skipping変異に対する有効性が報告されており、今回もそのフォローアップならびに追加データが示された。capmatinibに関しては、MET amplificationに対しても開発が進められている。MET阻害薬の発表と同時に、クリゾチニブを中心としたMETに対するTKIの耐性機序についても小数例ながら報告が行われており、EGFR等と並んで耐性機序の克服についても将来的には課題となってくることが示唆された。EGFRについては、通常のEGFR-TKIでは効果が限定されるExon 20 insに対する治療薬である、TAK788のPhase I試験の有効性と安全性が報告された。一方、EGFR等Driver oncogeneに対する治療の耐性因子としてMETに対する治療開発も盛んであり、今回ADCであるTeliso-V、EGFRとc-METのbispecific抗体であるJNJ-61186372についても発表があった。EGFR遺伝子変異陽性患者におけるADCであるTeliso-Vとエルロチニブの併用療法、EGFRとc-METを標的とする抗体療法によって、EGFR遺伝子変異陽性肺がんにおける新たな治療戦略が開拓されることが期待されている。最初に記載したとおり、今回のASCO肺がん領域では、いくつかの重要なPhase III試験の結果発表とともに、免疫チェックポイント阻害薬による術前治療、新たな分子標的薬等、近い将来の標準治療の変革を示唆する情報が多数報告された。今後の各学会、来年のASCOに期待したい。

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低リスク患者へのTAVR vs.SAVR、5年フォローアップの結果【Dr.河田pick up】

 NOTION(Nordic Aortic Valve Intervention:北欧大動脈弁インターベンション)trialは、70歳以上で孤立性の重症大動脈弁狭窄を持つ患者を対象に経皮カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)と外科的大動脈弁置換術(SAVR)を比較する目的で行われた試験である。このたび、5年間のフォローアップ後における臨床経過および心エコーの結果が示された。Hans Thyregod氏らの研究グループがCirculation誌6月号に発表(オンライン発表は2月)。北欧3施設の低リスク患者をTAVR:SAVRに無作為化 患者は北欧の3つの施設からリクルートされ、自己拡張型コアバルブ人工弁(145例)もしくは外科的ステント付き生体弁の植込み(135例)に、1:1の割合で無作為に割り付けられた。1次複合エンドポイントは、1年目における、Valve Academic Research Consortium-2(VARC-2)基準に基づく全死亡率、脳卒中および心筋梗塞。TAVR:圧較差は低いものの、中等度以上の大動脈弁閉鎖不全が多い 2群間のベースラインにおける患者の特徴は似ていた。平均年齢は79.1±4.8歳で平均のSociety of Thoracic Surgery-Predicted Risk Of Mortality(STS-PROM)スコアは3.0%±1.7%であった。5年後において、TAVRとSAVRで複合アウトカムやその要素において有意差は認められなかった(カプランマイヤー推定:38.0% vs.36.3%、ログランク検定のp=0.86)。TAVR群は、人工弁の面積が大きく(同:1.7 cm2 vs.1.2cm2、p<0.001)、生体弁の圧較差の平均値も低く(同:8.2mmHg vs.13.7mmHg、p<0.001)、それらの値はフォローアップ中で変化がなかった。ただし、TAVR群は中等度もしくは重症の大動脈弁閉鎖不全を来す頻度が高く(同:8.2% vs.0.0%、p<0.001)、新たにペースメーカーが植込まれる頻度が高かった(同:43.7% vs.8.7%、p<0.001)。また、全症例中4例において、人工弁の不具合による再手術が必要となった。 今回は、低リスク患者におけるTAVRとSAVRの比較で最も長くフォローアップしたスタディーで、自己拡張型生体弁を用いたTAVRとSAVR後における主要な臨床アウトカムにおいては、統計学的な有意差が認められなかった。ただし、生体弁植込み後の弁逆流とペースメーカーの植込みがTAVR群で顕著に認められた。TAVR:低侵襲だが、ペースメーカーの植込みが必要となる可能性がある SAVRと比べて低侵襲であるTAVRの適用は、より低リスクな患者や比較的若い患者に広がりつつある。しかしながら、TAVR後の中等度以上の弁逆流の発生やペースメーカー植え込みの頻度は高い。これまでの研究でも、30日以内の急性期のマルチセンタースタディーで20%の患者にペースメーカーが植込まれている。この研究では、ペースメーカーの植込みが必要となる可能性が高いと言われる自己拡張型大動脈弁を使用しており、ペースメーカーの植込み頻度は40%と高い。実際には症例に応じて、房室ブロックを起こしにくいバルーン拡張型と自己拡張型を使い分けられているため、頻度はもう少し低いと考えられる。TAVRかSAVRどちらが良いかは患者の年齢、併存疾患、希望を考慮した上で慎重に術式を決めるべきと考える。Clinical Trial Registration:URL: https://clinicaltrials.gov. Unique identifier: NCT01057173.(Oregon Heart and Vascular Institute 河田 宏)

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人工呼吸器離脱の成功率が高いのは?圧制御vs.Tピース/JAMA

 人工呼吸器で24時間以上管理された患者に対し、抜管のために自発呼吸トライアル(SBT)を行う際、圧制御換気SBTを30分実施するほうが、Tピース換気SBTの2時間実施に比べ、抜管成功率が有意に高いことが示された。スペイン・マンレザ大学のCarles Subira氏らが、1,153例の患者を対象に行った無作為化比較試験の結果で、JAMA誌2019年6月11日号で発表した。人工呼吸器の離脱の適切性を見極めるには、SBTが最も良い方法だと考えられているが、その際の換気モードや実施時間については明確にはなっていなかった。今回の結果を踏まえて著者は、「より短時間で負荷の少ない換気戦略をSBTに用いることを支持する所見が示された」とまとめている。初回SBT 72時間後の人工呼吸器からの離脱を比較 研究グループは2016年1月~2017年4月にかけて、スペインにある18ヵ所のICUで24時間以上の人工呼吸器管理を受けた患者1,153例を対象に試験を開始し、2017年7月まで追跡した。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはTピース換気SBTを2時間(578例)、もう一方には圧制御(8cm・H2O)換気SBTを30分(557例)行った。 主要アウトカムは抜管成功で、初回SBTから72時間後の人工呼吸器からの離脱と定義した。副次アウトカムは、SBT後に抜管した患者のうち再挿管した患者の割合、ICU入室日数・入院日数、入院・90日死亡率だった。抜管成功率、圧制御換気群が約82%、Tピース換気群が74% 被験者の平均年齢は62.2歳(SD 15.7)、女性は428例(37.1%)で、試験を完遂したのは1,018例(88.3%)だった。 人工呼吸器からの離脱と定義された抜管成功率は、圧制御換気群が82.3%(473例)、Tピース換気群が74.0%(428例)だった(群間差:8.2%、95%信頼区間[CI]:3.4~13.0、p=0.001)。 副次アウトカムについては、再挿管率は圧制御換気群11.1% vs.Tピース換気群11.9%(群間差:-0.8%、95%CI:-4.8~3.1、p=0.63)、ICU入室日数の中央値は9日vs.10日(平均差:-0.3日、95%CI:-1.7~1.1、p=0.69)、入院日数の中央値はともに24日(平均差:1.3日、95%CI:-2.2~4.9、p=0.45)で、いずれも有意差はなかった。 一方で入院死亡率は、圧制御換気群10.4% vs.Tピース換気群14.9%であり(群間差:-4.4%、95%CI:-8.3~-0.6、p=0.02)、90日死亡率は13.2% vs.17.3%(群間差:-4.1%、95%CI:-8.2~0.01、p=0.04、ハザード比:0.74[95%CI:0.55~0.99])だった。

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人種は、リスクか?- CREOLE試験の挑戦(解説:石上友章氏)-1065

 米国は、人種のるつぼといわれる、移民の国である。17世紀、メイフラワー号に乗船したピルグリム・ファーザーズによるプリマス植民地への入植は、その当初友好的であったといわれている。しかし、米国建国に至る歴史は、対立抜きに語ることはできない。対立は、民族であったり、皮膚の色であったり、宗教の対立であった。高血圧の領域には、半ば伝説的な“学説”が信じられており、驚くべきことに、今に至るも受け入れられている。筆者も学生時代の当時、講義中に語られたと記憶している。すなわち、アフリカ系米国人は、奴隷交易にその祖があり、奴隷船の過酷な環境に適応した者が生存して、今に至っている。その結果、アフリカ系米国人は食塩感受性を特徴としており、RA系阻害薬の効果が高い(こうした環境負荷による表現型・遺伝子の選択を、ボトル・ネック効果と呼び、遺伝学で用いられている)。驚くべきことに米国では、こうした人種による薬剤応答性の違いが信じられており、黒人だけに適応がある、心不全治療薬が処方されている。 ナイジェリア・アブジャ大学のDike B. Ojji氏らが、サハラ以南のアフリカ6ヵ国で実施した無作為化単盲検3群比較試験「Comparison of Three Combination Therapies in Lowering Blood Pressure in Black Africans:CREOLE試験」は、標準的・代表的な降圧薬である、カルシウム拮抗薬、サイアザイド系利尿薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬の3種類から、2剤による3通りの組み合わせの処方の効果を、24時間携帯型自動血圧計による血圧値により評価した臨床研究である。本研究は、組織的に良好に遂行されたばかりでなく、その結果の質の高さにおいても、疑義なく受け入れることができる、質の高い研究である。本研究の結果、アフリカ系黒人の高血圧患者に対して、カルシウム拮抗薬(アムロジピン)と他の2剤の組み合わせが、サイアザイド系利尿薬・アンジオテンシン変換酵素阻害薬と比較して、有意に優れた降圧効果を示すことができた。この結果は、米国黒人の高血圧患者に、通説として受け入れられている説に反する結果といえる。非科学的で、偏見に満ちた通説と比較すると、科学的かつ、実証的な反論であるともいえる。試験のタイトルになったCREOLEとは、宗主国に対して植民地を意味する言葉であり、研究者らの思いをくみ取ることができるのではないか。

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第13回 頭部外傷 その原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)発症様式を必ずチェック!突然発症は要注意!2)失神は突然発症だ!心血管性失神を見逃すな!3)外傷の背景に失神あり。必ず前後の痛みの有無をチェック!【症例】65歳女性。来院当日、娘さんとスーパーへ出掛けた。レジで並んでいる最中に倒れ、後頭部を打撲した。目撃した娘さんが声を掛けると数十秒以内に反応があったが、頭をぶつけており、出血も認めたため救急車を要請した。●搬送時のバイタルサイン意識清明血圧152/88mmHg脈拍100回/分(整)呼吸18回/分SpO296%(RA)体温36.5℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧(61歳~)、脂質異常症(61歳~)内服薬アムロジピン(Ca拮抗薬)、アトルバスタチン(スタチン)外傷患者に出会ったら高齢者が外傷を理由に来院することは非常に多く、軽症頭部外傷、胸腰椎圧迫骨折、大腿骨頸部骨折などは、しばしば経験します。「段差につまずき転倒した」「滑って転倒した」など、受傷原因が明確であれば問題ないのですが、受傷前の状況がはっきりしない場合には注意して対応する必要があります。大切なのは「なぜけがを負ったのか」、すなわち受傷機転です。結果として引き起こされた外傷の対応も重要ですが、受傷原因のほうが予後に直結することが少なくありません。失神の定義突然ですが、失神とは何でしょうか?意識消失、一過性全健忘、痙攣、一過性脳虚血発作などと明確に区別する必要があります。失神は一般的に、(1)瞬間的な意識消失発作、(2)姿勢保持筋緊張の消失、(3)数秒~数分以内の症状の改善を特徴とします。(1)~(3)を言い換えれば、それぞれ(1)突然発症、(2)外傷を伴うことが多い、(3)意識障害は認めないということです。失神は表1のように分類され、この中でも心血管性失神は見逃し厳禁です1)。決して忘れてはいけない具体的な疾患の覚え方は“HEARTS”(表2)です2)。これらは必ず頭に入れておきましょう。画像を拡大する画像を拡大する外傷の原因が失神であることは珍しくありません。Bhatらのデータによると、外傷患者の3.3%が失神が契機となったとされています3)。姿勢保持筋緊張が消失するために、立っていられなくなり倒れるわけです。完全に気を失わなければ手が出るかもしれませんが、失神した場合には、そのまま頭部や下顎をぶつけるようにして受傷します。頭部打撲、頬部打撲、下顎骨骨折などに代表される外傷を診たら、なぜ手が出なかったのか、失神したのかもしれない、と考える癖を持つとよいでしょう。痛みの有無を必ず確認外傷患者を診たら、誰もが疼痛部位を確認すると思います。Japan Advanced Trauma Evaluation and Care(JATEC)にのっとり、身体診察をとりながら、疼痛部位を評価しますが、その際、今現在の痛みの有無だけでなく、受傷時前後の疼痛の有無も確認しましょう。クモ膜下出血、大動脈解離のそれぞれ10%は失神を主訴に来院します。発症時に頭痛や後頸部痛の訴えがあればクモ膜下出血を、胸痛や腹痛、背部痛を認める場合には大動脈解離を一度は鑑別診断に入れ、疑って病歴や身体所見、バイタルサインを解釈しましょう。検査前確率を意識して適切な検査のオーダーを失神患者にとって、最も大切な検査は心電図です。各国のガイドラインでも心電図は必須の検査とされています。しかし、その場で診断がつくことはまれです。症状が現時点ではないのが失神ですから、検査を施行しても捕まらない、当たり前といえば当たり前です。房室ブロックに代表される不整脈が、その場でキャッチできればもうけものといった感じでしょう。また、心電図に異常を認めるからといって、心臓が原因とは限らないことにも注意しましょう。たとえばクモ膜下出血では90%以上に心電図変化(Big U wave、Prolonged QTc、ST depression など)が出るといわれます。ST低下を認めたからといって、心原性のみを考えていては困るわけです。本症例では、来院時の心電図でST低下が認められ、心原性の要素を考えて初療医は対応していました。しかし、受傷時に頭痛を訴えていたことが娘さんから確認できたため、クモ膜下出血を疑い頭部CT検査を施行し、診断に至りました。外傷患者を診たら受傷機転を考えること、はっきりしない場合には失神/前失神を鑑別に入れて病歴を聴取しましょう。“HEARTS”に代表される心血管性失神の可能性を考慮し、所見(収縮期雑音、血圧左右差、深部静脈血栓症の有無など)をとるのです。鑑別に挙げなければ、頭部外傷患者の下腿を診ることさえないでしょう。1)坂本 壮.救急外来 ただいま診断中!.中外医学社;2015.2)Brignole M,et al. Eur Heart J. 2018;39:1883-1948.3)Bhat PK,et al. J Emerg Med. 2014;46:1-8.

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境界性パーソナリティ障害への精神薬理学的治療におけるガイドラインとの比較

 境界性パーソナリティ障害(BPD)は、生命を脅かす精神障害である。BPD患者に対する薬理学的治療に関するガイドラインの推奨事項は、非常に広範囲に及ぶ。オーストリア・Psychosomatische Zentrum Waldviertel-Klinik EggenburgのFriedrich Riffer氏らは、日常臨床におけるBPD患者の薬物療法について調査を行った。International Journal of Psychiatry in Clinical Practice誌オンライン版2019年5月29日号の報告。 オーストリアの精神科・心療内科クリニックで治療されたBPD(ICD-10:F-60.3)の患者110例(女性の割合:90%)の薬理学的治療に関するデータを評価した。 主な結果は以下のとおり。・臨床医は、BPD患者に向精神薬を処方する頻度が高く、多くの場合で複数の薬剤を処方することが示唆された。・最も一般的に用いられていた薬剤群は、抗精神病薬、気分安定薬、抗うつ薬であった。・最も一般的に用いられていた薬剤は、クエチアピン、ラモトリギン、セルトラリンであった。・併存疾患の有無による薬物療法の種類や数量に、有意な差は認められなかった。・薬物療法と合併症との関連は認められなかった。 著者らは「日常臨床では、BPD患者に対し向精神薬が処方されることが多く、多剤併用になることが多いと示唆された。薬剤数と入院治療プログラムの有効性との間に認められる正の相関、薬剤数と併存疾患との間の関連性の欠如は、多剤併用の医原性効果を示唆していることと矛盾している。これらのことは、ガイドラインのコンセンサスを欠いているにもかかわらず、臨床医はBPD患者に向精神薬を処方しており、処方された薬剤の種類や数量が多いほど、より大きな治療効果が観察されている」としている。

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StageII大腸がんの予後予測因子としての簇出(SACURA試験)/JCO

 Stage II大腸がんにおける術後補助化学療法の有効性を検討したSACURA試験(主任研究者:東京医科歯科大学 杉原 健一氏)の付随研究として、簇出(budding)の予後予測因子、補助化学療法の効果予測因子としての有用性を評価した解析結果を、防衛医科大学校の上野 秀樹氏らが報告した。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2019年6月10日号に掲載。簇出は、国際対がん連合(UICC)が腫瘍関連の予後因子として挙げている因子であり、2016年のInternational Tumor Budding Consensus Conference(ITBCC2016)において国際的評価基準が定義された。簇出の評価によって術後補助化学療法の適応となる対象を適切に選別 SACURA試験は、Stage II大腸がんを対象として、経口テガフール-ウラシル(UFT)1年間投与による術後補助化学療法群と手術単独群とを比較した大規模な無作為化試験である。今回の付随研究では、2006~10年の間に123施設からSACURA試験に登録されたStage II大腸がん1,982例のうち、991例の病理標本を収集した。簇出は、後にITBCC2016に採用された評価基準に基づいた中央判定によって3つのグレード(BD1/BD2/BD3)に診断され、前向きに記録された。5年間の患者登録完了後に主研究で収集した臨床病理学的データおよび予後データと統合し、解析を行った。 簇出の予測因子としての有用性を評価した主な解析結果は以下のとおり。・991例のうち、BD1(簇出が0~4個)が376例、BD2(同5~9個)が331例、BD3(同10個以上)が284例であった。5年無再発生存率(RFS)はそれぞれ90.9%、85.1%、74.4%(p<0.001)で、深達度T4の部分集団解析では、RFSの分かれ方が顕著であった(86.6~53.3%)。・簇出のグレードは、肝臓、肺、リンパ節、腹膜における再発と有意に相関した(p<0.01~0.001)。・多変量解析において、簇出と壁深達度は、独立した予後不良因子であった。Harrellのc統計量(c-index)に基づくと、これらの2因子はRFSの予測モデルの分別能を有意に改善した。・BD2、BD3の部分集団いずれにおいても、統計学的に有意差は無いものの、手術単独群に比べて術後補助化学療法群で5年累積再発率が約5%良好であった。 これらの結果から、研究グループは「Stage II大腸癌においては、ITBCC2016基準による簇出をルーチンに評価すべきであり、これにより術後補助化学療法の適応となる対象の適切な選別と予後向上が期待される」としている。

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日本の高齢者、痩せと糖尿病が認知症リスクに

 わが国の高齢者において、痩せていること(BMI 18.5kg/m2未満)と糖尿病が認知症発症のリスク因子であり、BMIが低いほど認知症発症率が高いことが、JAGES(Japan Gerontological Evaluation Study:日本老年学的評価研究)のコホートデータを用いた山梨大学の横道 洋司氏らの研究で示された。また、本研究において認知症発症率が最も高かったのは高血圧症を持つ痩せた高齢者で、次いで脂質異常症を持つ痩せた高齢者であった。Journal of Diabetes Investigation誌オンライン版2019年6月17日号に掲載。 本研究では、高齢者における糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満(BMI 25kg/m2以上)、痩せ(BMI 18.5kg/m2未満)に関連する認知症リスクを比較し、さらにこれらの代謝性疾患とBMIの組み合わせに関連する認知症リスクも調査した。対象は、2010年に健康診断を受けた高齢者(平均年齢73.4歳)で、平均5.8年間追跡した。認知症は介護保険登録を用いて調べ、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、肥満、痩せは、服薬もしくは健康診断結果で評価し、認知症発症率と調整ハザード比(HR)を計算した。 主な結果は以下のとおり。・参加した高齢者3,696人のうち、338人が認知症を発症した。・標準体重で該当する疾患がない人を基準とすると、男女それぞれの調整HR(95%信頼区間)は、糖尿病では2.22(1.26~3.90)および2.00(1.07~3.74)、高血圧症では0.56(0.29~1.10)および1.05(0.64~1.71)、脂質異常症では1.30(0.87~1.94)および0.73(0.49~1.08)、BMI 25~29.9kg/m2では0.73(0.42~1.28)および0.82(0.49~1.37)、痩せでは1.04(0.51~2.10)および1.72(1.05~2.81)であった。・脂質異常症を持たない標準体重の男性と比較して、脂質異常症を持つ痩せた男性のHRが4.15(1.79~9.63)、高血圧症を持たない標準体重の女性と比較して高血圧症を持つ痩せた女性のHRが3.79(1.55~9.28)と、認知症リスクが有意に高かった。・認知症発症率が最も高かったのは高血圧症を持つ痩せた高齢者で、次いで脂質異常症を持つ痩せた高齢者であった。

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家族性良性慢性天疱瘡〔familial benign chronic pemphigus〕

1 疾患概要■ 概念・定義家族性良性慢性天疱瘡(ヘイリー・ヘイリー病[Hailey-Hailey disease])は、厚生労働省の指定難病(161)に指定されている皮膚の難病である。常染色体優性遺伝を示す先天性の水疱性皮膚疾患で、皮膚病変は生下時には存在せず、主として青壮年期以降に発症する。臨床的に、腋窩・鼠径部・頸部・肛囲などの間擦部に小水疱、びらん、痂皮などによる浸軟局面を生じる。通常、予後は良好である。しかし、広範囲に重篤な皮膚病変を形成し、極度のQOL低下を示す症例もある。また、一般的に夏季に増悪、冬季に軽快し、紫外線曝露・機械的刺激・2次感染により急激に増悪することがある。病理組織学的に、皮膚病変は、表皮下層を中心に棘融解性の表皮内水疱を示す。責任遺伝子はヒトsecretory pathway calcium-ATPase 1(hSPCA1)というゴルジ体のカルシウムポンプをコードするATP2C1であり、3番染色体q22.1に存在する。類似の疾患として、小胞体のカルシウムポンプ、sarco/endoplasmic reticulum Ca2+ ATPase type 2 isoformをコードするATP2A2を責任遺伝子とするダリエ病があり、この疾患は皮膚角化症に分類されている。■ 疫学わが国の患者数は300例程度と考えられている。現在、本疾患は、指定難病として厚生労働省難治性疾患政策研究事業の「皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班」(研究代表者:大阪公立大学大学院医学研究科皮膚病態学 橋本 隆)において、アンケートを中心とした疫学調査が進められている。その結果から、より正確なわが国における本疾患の疫学的情報が得られることが期待される。■ 病因本症の責任遺伝子であるATP2C1遺伝子がコードするヒトSPCA1はゴルジ体に存在し、カルシウムやマグネシウムをゴルジ体へ輸送することにより、細胞質およびゴルジ体のホメオスタシスを維持している。ダリエ病と同様に、常染色体優性遺伝する機序として、カルシウムポンプタンパクの遺伝子異常によってハプロ不全が起こり、正常遺伝子産物の発現が低下することによって本疾患の臨床症状が生じると考えられる。しかし、細胞内カルシウムの上昇がどのように表皮細胞内に水疱を形成するか、その機序は明らかとなっていない。■ 症状生下時には皮膚病変はなく、青壮年期以降に、腋窩・鼠径部・頸部・肛門周囲などの間擦部を中心に、小水疱、びらん、痂皮よりなる浸軟局面を示す(図1)。皮膚症状は慢性に経過するが、温熱・紫外線・機械的刺激・感染などの因子により増悪する。時に、胸部・腹部・背部などに広範囲に皮膚病変が拡大することがあり、極度に患者のQOLが低下する。とくに夏季は発汗に伴って増悪し、冬季には軽快する傾向がある。皮膚病変上に、しばしば細菌・真菌・ヘルペスウイルスなどの感染症を併発する。皮膚病変のがん化は認められない。高度の湿潤状態の皮膚病変では悪臭を生じる。表皮以外にも、全身の細胞の細胞内カルシウムが上昇すると考えられるが、皮膚病変以外の症状は生じない。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は主として、厚生労働省指定難病の診断基準に従って行う。すなわち、臨床的に、腋窩・鼠径部・頸部・肛囲などの間擦部位に、小水疱、びらんを伴う浸軟性紅斑局面を形成し、皮疹部のそう痒や、肥厚した局面に生じた亀裂部の痛みを伴うこともある。青壮年期に発症後、症状を反復し慢性に経過する。20~50歳代の発症がほとんどである。皮疹は数ヵ月~数年の周期で増悪、寛解を繰り返す。常染色体優性遺伝を示すが、わが国の約3割は孤発例である。参考項目としては、増悪因子として高温・多湿・多汗(夏季)・機械的刺激、合併症として細菌・真菌・ウイルスによる2次感染、その他のまれな症状として爪甲の白色縦線条、掌蹠の点状小陥凹や角化性小結節、口腔内および食道病変を考慮する。皮膚病変の生検サンプルの病理所見として、表皮基底層直上を中心に棘融解による表皮内裂隙を形成する(図2)。裂隙中の棘融解した角化細胞は少数のデスモソームで緩やかに結合しており、崩れかけたレンガ壁(dilapidated brick wall)と表現される。画像を拡大するダリエ病でみられる異常角化細胞(顆粒体[grains])がまれに出現する。棘融解はダリエ病に比べて、表皮中上層まで広く認められることが多い。生検組織サンプルを用いた直接蛍光抗体法で自己抗体が検出されない。最終的には、ATP2C1の遺伝子検査により遺伝子変異を同定することによって診断確定する(図3)。変異には多様性があり、遺伝子変異の部位・種類と臨床的重症度との相関は明らかにされていない。別に定められた重症度分類により、一定の重症度以上を示す場合、医療費補助の対象となる。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ステロイド軟膏や活性型ビタミンD3軟膏などの外用療法やレチノイド、免疫抑制薬などの全身療法が使用されているが、対症療法が主体であり、根治療法はない。2次的な感染症が生じたときには、抗真菌薬・抗菌薬・抗ウイルス薬を使用する。予後としては、長期にわたり皮膚症状の寛解・再燃を繰り返すことが多い。比較的長期間の寛解状態を示すことや、加齢に伴い軽快傾向がみられることもある。4 今後の展望前述のように、本疾患は、指定難病として厚生労働省難治性疾患政策研究事業の「皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班」において、各種の臨床研究が進んでいる。詳細な疫学調査によりわが国での本疾患の現状が明らかとなること、最終的な診療ガイドラインが作成されることなどが期待される。最近、新しい治療として、遺伝子上の異常部位を消失させるmutation read throughを起こさせる治療として、suppressor tRNAによる遺伝子治療やゲンタマイシンなどの薬剤投与が試みられている。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省の難治性疾患克服事業(難治性疾患政策研究事業)皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班(研究代表者:橋本 隆 大阪公立大学・大学院医学研究科 皮膚病態学 特任教授)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 家族性良性慢性天疱瘡(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Hamada T, et al. J Dermatol Sci. 2008;51:31-36.2)Matsuda M, et al. Exp Dermatol. 2014;23:514-516.公開履歴初回2019年6月25日

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光免疫療法、局所再発頭頸部がんで良好な成績/ASCO2019

 BRCA1/2やATM遺伝子(相同組換え修復遺伝子:HRR遺伝子)に変異があり、かつ転移も有する 去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に対する、PARP阻害薬のオラパリブと標準的なホルモン剤との比較試験の結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で、米国・Northwestern University Feinberg School of MedicineのMaha Hussain氏により発表された。 本試験は国際共同オープンラベル第III相試験である。・対象:1次治療のホルモン剤(エンザルタミドまたはアビラテロン)投与後に病勢進行となったmCRPC患者で、HRR遺伝子のBRCA1/2、ATM、CDK12、CHEK2など15遺伝子のうち1つでも変異の有る患者387例。・試験群:[コホートA]HRR遺伝子のうちBRCA1、BRCA2、ATMに変異を有する患者、[コホートB]他のHRR遺伝子の変異を有する患者にオラパリブ300mgx2/日投与。(Ola群)・対照群:[コホートA、Bとも]、主治医選択によるホルモン剤(エンザルタミドまたはアビラテロン)を投与。(EA群)・評価項目:[主要評価項目]コホートAの画像評価による無増悪生存期間(rPFS)判定。[副次評価項目]コホートA+BのrPFS、コホートAにおける奏効率、疼痛が増悪するまでの期間(TPP)、全生存期間(OS)であった。EA群からOla群へのクロスオーバーが認められていた。各遺伝子の変異は、NGSによる中央測定で決定した。 主な結果は以下のとおり。・2017年4月~2018年11月までの登録期間で、コホートAとコホートBに2対1の割合(245例と142例)で割り付けられた。・コホートAのrPFS中央値はOla群で7.39ヵ月、EA群で3.55ヵ月(ハザード比[HR):0.34(95%信頼区間[CI):0.25~0.47、p<0.0001]と有意にOla群が良好であった。・コホートAの奏効率は、Ola群が33.3%、EA群が2.3%でHR20.86(95%CI:4.18~379.18)、p<0.0001と有意にOla群が高かった。・同様にコホートAのTPP中央値は、Ola群が未到達、EA群が9.92ヵ月で、HR0.44(95%CI:0.22~0.91)、p=0.0192とOla群で有意に延長していた。・さらにコホートAのOS中央値は、中間解析でOla群が18.50ヵ月、EA群が15.11ヵ月、HR0.64(95%CI:0.43~0.97)、p=0.0173だった。中間解析用の事前設定のp値の閾値は0.01であったたため、この時点では有意性は検証できなかった。・コホートAで病勢進行の見られた患者の80.6%でオラパリブへのクロスオーバーが行われていた。・コホートA+BのrPFS中央値は、Ola群で5.82ヵ月、EA群で3.52ヵ月、HR0.49(95%CI:0.38~0.63)、p<0.0001とOla群で有意に延長していた。・Ola群の安全性プロファイルは、他がん種の報告と同様で、新たなる予見はみられなかった。

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第22回 心電図には秘密の“地下世界”がある?~ラダーグラムを描こう~(前編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第22回:心電図には秘密の“地下世界”がある?~ラダーグラムを描こう~(前編)皆さんは不整脈の心電図に遭遇し『ぎょぎょっ!』となったことはありませんか? もちろん、あまりに難解すぎる場合にはすぐに循環器医に相談するのが一番ですが、心臓内でどんなことが起こっているのかが想像できるようになると、おのずから冷静な対処も可能となるでしょう。いつもの心電図に「ラダーグラム」という“地下の見取図”を付け足すだけで、診断にも役立ちます。ボク自身、不整脈のカテーテル検査*のハードルを乗り越えるとき、この“見取図”を常に意識することが非常に有用でした(つまり“プロ”にも通じる知識ってこと)。今回はその入り口として、洞調律による正常収縮を例に、描き方の基本をDr.ヒロが解説しましょう。*心臓電気生理学的検査、いわゆるEPS(Electrophysiological Study)のこと。循環器医でも苦手にする人が多い症例提示50歳、男性。約1年前に心房細動(AF)に対するカテーテルアブレーションを受けた。時折、動悸は自覚するもののいずれも短時間で、術後AFの再発は記録されていない。以下に定期外来での心電図を示す(図1)。(図1)定期外来時の心電図画像を拡大する【問題1】次の(1)~(5)について、それぞれ適切なものを選べ。肢誘導および胸部誘導の3、6拍目は(1)(ア:洞収縮、イ:期外収縮、ウ:補充収縮、エ:副収縮)である。QRS波形について、幅は(2)(ア:狭、イ:広)く、洞収縮と(3)(ア:同じ、イ:異なる)形状である。先行P波の有無からも、起源は(4)(ア:心室、イ:房室接合部、ウ:心房)と判断できる。このような収縮パターンのくり返しを(5)(ア:二、イ:三、ウ:四)段脈と呼ぶ。解答はこちら(1)イ、(2)ア、(3)ア、(4)ウ、(5)イ解説はこちらまずは復習問題から。「期外収縮」の概念(第16回)やその発生起源が心房か心室かについて、見極め方の鉄則(第21回)を見直しておきましょう。『線香とカタチと法被が大事よね』でしたね? 洞収縮の波形と同一で、QRS幅がnarrow(狭い)、手前にP’波も確認できますから、「心房期外収縮」(PAC)と判断するのが正しいです。“洞-洞-期*”という、3つの収縮がセットになってくり返されており、このパターンは「三段脈」(trigeminy)と呼ぶのでした(第20回)。*:洞は洞収縮、期は期外収縮を示す。この場合、“期”がPACですから、「心房三段脈」という名称がより正確です(心室期外収縮[PVC]なら心室三段脈と言います)。【問題2】II誘導を抜粋して示す(図2)。ピンク色枠で示した部分のラダーグラムを描け。(図2)図1よりII誘導のみ抜粋画像を拡大する解答はこちら図3の下段部(図3)正常洞収縮のラダーグラム(正式版)画像を拡大する解説はこちらピンク色枠で示されているのは、何の変哲もない「洞収縮」です。さて、問題は「ラダーグラム」のほう。この言葉を知っているという方は、かなり心電図の勉強が進んだ人です。ボクの予想では、この用語を初めて聞いたよ、という方も少なくないと予想します。ですから、今回のメインテーマは次の2つです。1)「ラダーグラム」とは何なのか?2)洞収縮の「ラダーグラム」をどう描くか?“地下に広がるラダーグラムの世界”『心電図とは何ですか?』…この質問をされたら、『心臓内を電気が流れることで心房や心室が活動するさまを表現した波形』とボクは答えます。この場合、四肢と胸部につけた電極から構築される「体表面心電図」のことを指します。つまり、通常の心電図には、心房や心室の収縮・拡張といった、実際に“目で見える”活動の様子、いわば最終的な「結果」だけが表現されているわけです。一方、今回扱う「ラダーグラム」(laddergram)または「ラダー・ダイアグラム」(ladder diagram)は少しコンセプトが違います。“ラダー”とは“はしご”を意味するので、直訳すると「はしご図」です(実際にこう呼ぶ人は少ない)。何拍も続く心収縮が描かれた実際の図を遠目に見ると、確かにそう見えます。これは、電気刺激が心臓内を辿る「過程」を中心に描いた、いわゆるダイヤグラムのこと。普段、交通機関の運行表を略して“ダイヤ”と呼んでいる、あれです。ここで余談ですが、体表面心電図が完成された“製品”(たとえば自動車)だけを見ているものだとしたら、ラダーグラムは自分が乗るメカ(自動車や電車…)の“内部構造”を把握すること。物が出来上がる工程や実際の様子は多くの人にとっては不必要・無意味なのかもしれませんが、後者を知ることで、より使い易く愛着の念を抱くのはDr.ヒロだけ?この心電図界の“ダイヤ”(運行表)であるラダーグラムでは、電気刺激が伝わっていく「過程」が描かれるので、心房や心室で実際に起きていることはもちろん、普通の心電図では表現されない、“見えない”P波やQRS波についても表現できる点がスゴイのです。体表面心電図を上段にしてラダーグラムを下段に描いた様子は、さながら“地下の見取図”です。心電図を見ながらラダーグラムを描くことは、ボクたちの想像力をかき立て、不整脈の成因を理解するのに有効だと思います。ただ、残念ながら、昨今の多くの教科書や医学部・卒後研修においても、あまり取り上げられることがありません。ですから、この連載ではラダーグラムをあえて取り上げ、皆さんにその有用性を実感してもらいたいと思います。“洞調律のラダーグラムを描こう”今回は、ラダーグラムを描画する上での“イロハ”の“イ”について、図2の網掛け部分に示された洞収縮を例に、ラダーグラムの描き方を解説します(図3)。(図3)洞収縮のラダーグラム(正式版)画像を拡大するボクが“地下見取図”と言った意味がわかってもらえますか? このように、ラダーグラムは心電図を上に置き、その下に描いていきます。この図3は“地下4階”までありますね。“階”に相当する用語としては、「tier」ないし「row」という英語が用いられます。刺激伝導系を思い浮かべると、はじめに洞結節が興奮し、心房内の導線を電気が流れて心房全体が収縮します。洞結節(SN)の興奮は体表面では見えないので、P波の「はじまり」よりも少し手前になるように“地下1階”の天井部分に黄色丸を描きました。教科書によっては「×」や「*」などの記号が用いられますが、いずれも洞結節の興奮を表します。続いて洞結節の黄色丸とP波の「はじまり」を結びましょう(ピンク線)。“地下1階”は「洞結節-心房」の“経路”(S-A)を示すので、これで刺激が心房に到達します(洞房伝導)。“地下2階”は「心房」(A)フロアで、P波の「はじまり」からスタートです。“中継点”はP波の「おわり」ではなく「頂点」部分。これがミソで、同時点で“地下3階”の「房室結節」周囲の興奮も始まるとされるからなんです。誘導によってはP波もきれいな“山型”ではないため(例:二相性)、その場合は“真ん中”あたりを選びましょう(その辺アバウトでOKです)。P波の「はじまり」と「頂点」を結ぶ赤線が心房興奮/収縮を表しています。ここから先は意外にカンタンです。“地下3階”は心房(A)と心室(V)との“つなぎ目”となるフロアで、正確には「房室接合部」(A-V junction:A-V)と呼ばれます。実はここがラダーグラムを理解する上で“要”となる部分です。「AVN」と表記している本もあり「房室結節」と思っても悪くはないです。P波の「頂点」とQRS波の「はじまり」とを結べば“地下3階”の「房室接合部」(A-Vフロア)は完成です。ここが心房から心室への「房室伝導」と呼ばれる時間帯に相当します(心電図ではPR[Q]部分)。緑線を見ると、ほかの階よりも傾きが緩やかで、この部分の電気伝導がほかよりも遅いことを見事に反映しています。そして最後の“地下4階”は「心室」(V)フロアです。青線のようにQRS波の「はじまり」と「おわり」を結べばOKです。以上で4本の折れ線からなる正常洞収縮のラダーグラムが完成しました。今回はここまで。ラダーグラムを紹介し、正常洞調律を地下4階建てに描く方法について解説しました。初めて聞いたことばかりだったかもしれませんね。次回も同じ症例を用いて、一歩進んだラダーグラム描画を扱います。お楽しみに!Take-home Message想像力を働かせてラダーグラム(ラダー・ダイアグラム)を描こう心内の電気伝導の「過程」を知ることで、不整脈を目で見える形で理解できる!【古都のこと~三宅八幡宮~】学会で京都国際会館などを訪れた際、左京区上高野の三宅八幡宮はギリギリ徒歩圏内でしょう。古くは小野郷と呼ばれ、遣隋使として有名な小野妹子とも縁が深い場所です。隋への道すがら筑紫で病にかかった妹子が宇佐八幡に祈願すると平癒したことから、帰国後に同神社を勧請して建立されました。田の虫よけ神であった伝承から、子供のかんの虫・夜なき退治の御利益もあるのだそう。別称“鳩神社”としても知られ、入り口では犬ではなく“狛鳩”の出迎えを受け、境内では多数の鳩(御祭神[応神天皇]の使い)と出会えます。子供にも鳩にもやさしい“ホッコリ系”神社と言えましょうか。なお、同敷地内に、“七生報国*”と刻まれた馬上の楠木正成像もあり、南北朝、室町時代との関係性を調べるという一つの自習課題が生まれました。*:「この世に生まれ変わる限り国のために尽力する」。足利尊氏に敗れ自刃する大楠公が弟正季らと誓ったという。かつて戦時教育にも用いられた。

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