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2型DMのCVリスク、SGLT2阻害薬 vs. DPP-4阻害薬/BMJ

 大規模なリアルワールド観察試験において、2型糖尿病患者への短期のSGLT2阻害薬投与はDPP-4阻害薬投与と比べて、重篤な心血管イベントリスクを低減することが示された。カナダ・Jewish General HospitalのKristian B. Filion氏らが複数のデータベースを基に行った後ろ向きコホート研究の結果で、著者は「多種のSGLT2阻害薬にわたる結果であり、SGLT2阻害薬のクラス効果としての心血管効果を示すものであった」と述べている。2型糖尿病へのSGLT2阻害薬投与は増えており、無作為化試験でプラセボ投与と比べて主要有害心血管イベント(MACE)や心不全のリスクを抑制することが示されていた。BMJ誌2020年9月23日号掲載の報告。MACE発生を主要アウトカムに、DPP-4阻害薬と比較 研究グループは2013~18年の、カナダ7州の医療管理データベースと英国の臨床診療研究データリンク(Clinical Practice Research Datalink:CPRD)を基に、リアルワールドの臨床設定での2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の心血管イベントリスクを比較するCanadian Network for Observational Drug Effect Studies(CNODES)を実施した。 対象となった被験者は、SGLT2阻害薬の新規服用者20万9,867例と、期間条件付き傾向スコアでマッチングした同数のDPP-4阻害薬服用者で、平均追跡期間は0.9年だった。 主要アウトカムは、MACE(心筋梗塞、虚血性脳卒中、心血管死の複合)だった。副次アウトカムは、MACEの個々のイベント発生と、心不全、全死因死亡だった。 Cox比例ハザードモデルを用いて、アプローチどおりのSGLT2阻害薬服用者とDPP-4阻害薬服用者を比較した、試験地域特異的な補正後ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推算して評価した。試験地域特異的結果は、ランダム効果メタ解析にて統合した。MACE発生リスク24%低下、SGLT2阻害薬のクラス効果を確認 MACE発生率比は、DPP-4群16.5/1,000患者年に対し、SGLT2群11.4/1,000患者年で、SGLT2阻害薬はMACE発生リスクを抑制したことが認められた(HR:0.76、95%CI:0.69~0.84)。 個別に見ても、心筋梗塞(SGLT2群5.1 vs.DPP-4群6.4/1,000患者年、HR:0.82[95%CI:0.70~0.96])、心血管死(3.9 vs.7.7、0.60[0.54~0.67])、心不全(3.1 vs.7.7、0.43[0.37~0.51])、全死因死亡(8.7 vs.17.3、0.60[0.54~0.67])で、同様にリスクの抑制がみられた。虚血性脳卒中についても抑制効果はみられたが、やや控えめだった(2.6 vs.3.5、0.85[0.72~1.01])。 個々のSGLT2阻害薬についてみるとMACEへの効果は類似しており、DPP-4阻害薬とのHRは、カナグリフロジン0.79(95%CI:0.66~0.94)、ダパグリフロジン0.73(0.63~0.85)、エンパグリフロジン0.77(0.68~0.87)だった。

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第28回日本乳癌学会学術総会 会長インタビュー【Oncologyインタビュー】第22回

出演:愛知県がんセンター副院長兼乳腺科部長 岩田 広治氏2020年10月9日より、第28回日本乳癌学会学術総会がバーチャル開催される。総会の主題は「We Can Do ~making better future~」である。 会長の愛知県がんセンター副院長兼乳腺科部長 岩田 広治氏に総会の趣旨と見どころについて聞いた。参考第28回日本乳癌学会学術総会ホームページ9日から開催の日本乳癌学会学術総会、注目トピック

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SGLT2阻害薬ertugliflozinの心血管効果は?/NEJM

 2型糖尿病でアテローム動脈硬化性心血管疾患を有する患者において、標準治療に加えてのSGLT2阻害薬ertugliflozinの投与はプラセボ投与に対して、主要有害心血管イベント(心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中の複合)の発生は非劣性であった。また、副次評価項目の心血管死または心不全による入院の複合アウトカムについて、プラセボに対する優越性は示されなかった。米国・ハーバード大学医学大学院のChristopher P. Cannon氏らが、8,246例超を対象に行った多施設共同無作為化二重盲検試験で明らかにした。ertugliflozinは、2型糖尿病の血糖コントロールを改善するとして米国その他の国で承認されている。同薬の心血管効果については、明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2020年9月23日号掲載の報告。ertugliflozinの主要有害心血管イベントについて対プラセボの非劣性を検証 研究グループは、2型糖尿病でアテローム動脈硬化性心血管疾患を有する患者を無作為に3群に割り付け、標準的治療に加えて、ertugliflozin 5mg/日、同15mg/日、またはプラセボをそれぞれ投与した。 ertugliflozinの2投与群についてはデータをプールし解析。試験の主要目的は、主要評価項目とした主要有害心血管イベント(心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中の複合)について、ertugliflozin群がプラセボ群に対し非劣性を示すことができるかであった。非劣性マージンは1.3(ertugliflozinのプラセボに対するハザード比[HR]の信頼区間[CI]上限値95.6%)とした。 第1副次評価項目は、心血管死または心不全による入院の複合アウトカムとした。ertugliflozin群の主要有害心血管イベントの非劣性は示されたが 合計8,246例が無作為化を受け、平均追跡期間は3.5年だった。 ertugliflozinまたはプラセボを1回以上投与された8,238例において、主要有害心血管イベントの発生は、ertugliflozin群653/5,493例(11.9%)、プラセボ群327/2,745例(11.9%)だった(HR:0.97、95.6%CI:0.85~1.11、非劣性のp<0.001)。 心血管死または心不全による入院の発生は、ertugliflozin群444/5,499例(8.1%)、プラセボ群250/2,747(9.1%)だった(HR:0.88、95.8%CI:0.75~1.03、優越性のp=0.11)。 また、心血管死に関するHRは0.92(95.8%CI:0.77~1.11)、腎疾患死、腎代替療法、またはベースラインからの血清クレアチニン値の2倍化のいずれかの発生に関するHRは0.81(95.8%CI:0.63~1.04)だった。 肢切断実施は、ertugliflozin 5mg群54例(2.0%)、同15mg群57例(2.1%)、プラセボ群45例(1.6%)だった。

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COVID-19、18~34歳の臨床転帰と重症化因子

 米国や日本では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の若年者における感染が拡大している。しかし、COVID-19は高齢者に影響を及ぼす疾患として説明されることが多く、若年患者の臨床転帰に関する報告は限られる。米国・ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJonathan W. Cunningham氏らは、COVID-19により入院した18~34歳の患者約3,000例の臨床プロファイルと転帰について、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2020年9月9日号リサーチレターで報告した。 2020年4月1日から6月30日に、米国の1,030病院を含む病院ベースのPremier Healthcare DatabaseでICD-10に基づきCOVID-19による入院が記録された18~34歳の患者が対象。COVID-19による最初の入院のみが含まれた。対象者のうち、妊婦(1,644例)は除外された。併存症および入院中の転帰については、診断、診療行為、ICD-10の請求コードにより定義された。集中治療の有無は、集中治療室の利用あるいは人工呼吸管理の請求コードにより定義された。 死亡または機械的換気の複合アウトカムに関連する独立因子は、多変量ロジスティック回帰分析を用いて特定した。両側検定p<0.05で有意と設定された。  主な結果は以下の通り。・2020年4月1日~6月30日の間に退院した78万969例のうち、6万3,103例(8.1%)がCOVID-19のICD-10コードを保有しており、そのうち3,222例(5%)が妊娠していない若年患者(18~34歳)で、米国の419病院に入院していた。・平均(SD)年齢は28.3(4.4)歳。1,849例(57.6%)は男性で、1,838例(57.0%)は黒人またはヒスパニック系であった。・1,187例(36.8%)は肥満(BMI≧30)、789例(24.5%)は高度肥満(BMI≧40)、588例(18.2%)は糖尿病、519例(16.1%)は高血圧を有していた。・入院中、684例(21%)が集中治療を、331例(10%)が機械的換気を必要とし、88例(2.7%)が死亡した。・217例(7%)で昇圧薬または強心薬、283例(9%)で中心静脈カテーテル、192人(6%)で動脈カテーテルが使用された。・入院期間中央値は4日(四分位範囲:2~7日)。・生存例のうち、99例(3%)が急性期後、ケア施設に退院した。・高度肥満(調整オッズ比[OR]:2.30、95%信頼区間[CI]:1.77~2.98、vs. 肥満なし;p<0.001)および高血圧(調整OR:2.36、95%CI:1.79~3.12、p<0.001)の患者のほか、男性(調整OR:1.53、95%CI:1.20~1.95、p=0.001)患者は、死亡または機械的換気を要するリスクが高かった。・死亡または機械的換気のオッズは、人種や民族によって大きく変化しなかった。・死亡または機械的換気を必要とした患者のうち140例(41%)に高度肥満があった。・糖尿病患者は、単変量解析で死亡または機械的換気を要するリスクが高かった(OR:1.82、95%CI:1.41~2.36、p<0.001)が、調整後に統計学的有意差に達しなかった(調整OR:1.31、95%CI:0.99~1.73、p=0.06)。・複数の因子(高度肥満、高血圧、糖尿病)のある患者は、これらのない8,862例のCOVID-19中高年(35~64歳)患者(非妊娠)と同等の死亡または機械的換気を要するリスクを有していた。 著者らは、2.7%という院内死亡率は、COVID-19の高齢患者と比較すれば低いが、急性心筋梗塞の若年者の約2倍であるとし、この年齢層のCOVID-19感染者の増加率を考慮すれば、若年者における感染防止対策の重要性を強調する結果だとしている。

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菜食とメンタルヘルスリスク

 これまでの研究では、うつ病、不安、ストレスなどのメンタルヘルスの問題への菜食の影響については、一貫した結果が得られていない。イラン・テヘラン医科大学のMohammadreza Askari氏らは、菜食とうつ病、不安、ストレスとの関連についての理解を深めるため、システマティックレビューを実施した。Critical Reviews in Food Science and Nutrition誌オンライン版2020年9月4日号の報告。 2020年7月までの研究を、Scopus、PubMed、Web of Scienceより検索した。成人を対象に菜食のうつ病、不安、ストレスへの推定リスクを検討したプロスペクティブコホート研究および横断研究を分析に含めた。エフェクトサイズの統合には、固定効果モデルおよびランダム効果モデルを用いた。主な結果は以下のとおり。・菜食とうつ病、不安、ストレスとの関連を評価した研究13件(コホート研究:4件、横断研究:9件)が抽出された。・10件の研究における統合エフェクトサイズでは、菜食とうつ病との関連は認められなかった(統合エフェクトサイズ:1.02、95%CI:0.84~1.25、p=0.817)。・4件の研究における統合エフェクトサイズでは、菜食と不安との関連は認められなかった(統合エフェクトサイズ:1.09、95%CI:0.71~1.68、p=0.678)。・ストレスに関するデータは不十分であった。 著者らは「菜食とうつ病または不安との有意な関連は認められなかった。メンタルヘルスに対する菜食の影響をさらに調査するためには、今後のコホート研究が求められる」としている。

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TNF阻害薬・MTX服用者、COVID-19入院・死亡リスク増大せず

 COVID-19の治療法確立には、なお模索が続いている。米国・ウェストバージニア大学のAhmed Yousaf氏らは、エビデンスデータが不足している生物学的製剤および免疫抑制剤のCOVID-19関連アウトカムへの影響を、多施設共同リサーチネットワーク試験にて調べた。5,351万人強の患者の医療記録を解析した結果、腫瘍壊死因子阻害薬(TNFi)および/またはメトトレキサート(MTX)曝露のあるCOVID-19患者は非曝露のCOVID-19患者と比べて、入院や死亡が増大しないことが示されたという。結果について著者は「COVID-19と生物学的製剤の使用に関する現行ガイドラインは、厳密な統計学的解析ではなく主として専門家の見解(opinion)に基づくものである。今回のわれわれの試験結果は、TNFiやMTXの使用を継続することを支持し、COVID-19関連アウトカムが不良となる可能性の懸念による治療の中断に異を唱えるものである」とまとめている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2020年9月11日号掲載の報告。TNF阻害薬および/またはMTX治療群と非治療群を3万2,076例で比較 研究グループは、TNF阻害薬および/またはMTXを服用する患者について、COVID-19関連アウトカムのリスクが増大するかどうかを調べる大規模比較コホート試験を行った。 試験では、リアルタイム検索と解析で、COVID-19と診断された成人患者について、TNF阻害薬および/またはMTX治療群と非治療群を比較。入院および死亡の尤度を、交絡因子に関する傾向スコアマッチングの有無別群間で比較した。 主な結果は以下のとおり。・5,351万1,836例の患者記録を解析した。・そのうち3万2,076例(0.06%)が、2020年1月20日以降にCOVID-19に関連する診断を受けたことが記録されていた。・214例のCOVID-19患者が、TNF阻害薬またはMTXへの最近の曝露が確認され、3万1,862例のCOVID-19患者は、TNFiまたはMTXに非曝露であった。・傾向マッチング後、入院および死亡の尤度について、TNF阻害薬および/またはMTX治療群と非治療群で有意差はなかった。入院のリスク比は0.91(95%信頼区間[CI]:0.68~1.22、p=0.5260)、死亡のリスク比は0.87(0.42~1.78、p=0.6958)であった。・本検討は、すべてのTNF阻害薬が同様の影響をもたらすとは限らない、という点で限定的である。

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早期乳がん術後補助療法でのパルボシクリブ追加、iDFS改善せず(PALLAS)/ESMO2020

 ホルモン受容体(HR)陽性/HER2陰性の早期乳がんの術後補助療法として、標準的な内分泌療法にCDK4/6阻害薬パルボシクリブを追加しても、無浸潤疾患生存期間(iDFS)を有意に改善できなかったことが、第III相オープンラベルPALLAS試験で示された。欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で、米国・Dana-Farber Cancer InstituteのErica L. Mayer氏が発表した。 転移を有するHR陽性/HER2陰性乳がんにおいては、内分泌療法にパルボシクリブを追加することにより無増悪生存期間(PFS)が改善する。このPALLAS試験では、早期乳がんの術後補助療法においても、パルボシクリブの追加でアウトカムが改善するかどうかを検討した。3年iDFSはパルボシクリブ併用群88.2%、内分泌療法群88.5% ・対象:Stage II/IIIのHR陽性/HER2陰性乳がん患者(診断後12ヵ月以内、内分泌療法による術後補助療法開始後3ヵ月以内)・試験群:パルボシクリブ(125mg1日1回、3週投与1週休薬、2年間)+標準的内分泌療法(少なくとも5年)・対照群:標準的内分泌療法(少なくとも5年)単独・評価項目[主要評価項目]iDFS[副次評価項目]非乳房由来の2次がんを除くiDFS、遠隔無再発生存期間(DRFS)、局所無再発生存期間、全生存期間(OS)、安全性 パルボシクリブを早期乳がんの術後補助療法に追加することによりiDFSが改善するかを検討した主な結果は以下のとおり。・2015年9月~2018年11月に5,760例(年齢中央値52歳)が登録され、パルボシクリブ併用群と内分泌療法群に1対1で無作為に割り付けられた。・Stage IIB/IIIの症例が4,729例(82.1%)と多くを占め、化学療法歴のある患者も4,754例(82.5%)と多かった。・観察期間中央値23.7ヵ月において、3年iDFSはパルボシクリブ併用群88.2%、内分泌療法群88.5%(ハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.76~1.15、p=0.51)と有意差は認められなかった。また、臨床的高リスクグループ(リンパ節転移4個以上[N2以上]、もしくはリンパ節転移1~3個でT3/T4かつ/またはG3)を含め、臨床病理学的なサブグループのいずれにおいても差が認められなかった。・3年DRFSについても、パルボシクリブ併用群89.3%、内分泌療法群90.7%(HR:1.00、95%CI:0.79~1.27、p=0.9997)と、差が認められなかった。・有害事象は、パルボシクリブ併用群99.4%、内分泌療法群88.6%に発現した。Grade3/4の有害事象は、パルボシクリブ併用群で最も多かったのは好中球減少症(61.3%)であった。全Gradeの有害事象は、血液毒性、疲労、上気道感染症、貧血、悪心、脱毛、下痢でパルボシクリブ併用群のほうが多かった。・パルボシクリブ併用群では、早期中止例が42.2%と多く、データカットオフ時点でパルボシクリブを継続していた患者は25.5%、予定された治療期間を完了した患者は32.3%であった。・パルボシクリブ併用群における早期中止例の64.2%が有害事象関連によるものだった。24ヵ月時点の早期中止率は、パルボシクリブ併用群6.9%、内分泌療法群6.3%で差がなかった。

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夜間低酸素血症のCOPDへの長期夜間酸素療法は有効か/NEJM

 カナダ・ラヴァル大学のYves Lacasse氏らINOX試験の研究グループは、夜間に動脈血酸素飽和度低下を認めるものの長期酸素療法の適応ではない慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において、長期夜間酸素療法の有用性を評価した。試験は、患者の登録が継続できず早期中止となったため検出力が不十分であり、長期夜間酸素療法の有効性に関して結論は得られなかった。COPDを有し、慢性的に日中に重度低酸素血症を呈する患者では、長期酸素療法により生存率が改善する。しかしながら、夜間のみの低酸素血症の管理における酸素療法の有効性は知られていない。研究の詳細は、NEJM誌2020年9月17日号に掲載された。4ヵ国28施設が参加したプラセボ対照無作為化試験 本研究は、4ヵ国(カナダ、ポルトガル、スペイン、フランス)の28施設が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化試験であり、2010年11月~2015年1月の期間に患者登録が行われた(カナダ国立保健研究機構の助成による)。 対象は、喫煙歴のあるCOPDで、試験登録の少なくとも6週間前には病態が安定し、6ヵ月以上は喫煙しておらず、夜間酸素飽和度が低下した患者であった。夜間酸素飽和度低下は、夜間パルスオキシメトリーによる記録時間(就寝時)の30%以上が酸素飽和度(Spo2)90%未満であることと定義された。試験登録時に、Nocturnal Oxygen Therapy Trial(NOTT)の判定基準で長期酸素療法の適応となる可能性が高い患者は除外された。 被験者は、在宅夜間酸素療法を受ける群または偽酸素濃縮器から室内空気を吸入する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、intention-to-treat(ITT)集団における全死因死亡またはNOTT基準で長期酸素療法の適応の複合とした。 計画されていた600例のうち243例が無作為割り付けされた時点で、患者の募集とその継続が困難となったため、募集は中止された。3年時の主要アウトカム:39.0% vs.42.0% 夜間酸素療法群に123例(平均年齢69±8歳、男性65.9%)、プラセボ群には120例(69±9歳、64.2%)が割り付けられた。192例(79.0%)が、試験登録時の2回の夜間パルスオキシメトリー検査で夜間酸素飽和度低下の基準を満たした。 3年間で53例(夜間酸素療法群27例、プラセボ群26例)が介入を中止し、4年までにさらに3例(2例、1例)が中止した。 フォローアップ期間3年の時点で、ITT集団におけるNOTTの長期酸素療法適応基準を満たすか死亡した患者の割合は、夜間酸素療法群が39.0%(48/123例)、プラセボ群は42.0%(50/119例)であった(群間差:-3.0ポイント、95%信頼区間[CI]:-15.1~9.1、p=0.64)。 また、フォローアップ期間4年の時点でのtime-to-event解析では、NOTTの長期酸素療法適応基準を満たすか死亡した患者の割合は、夜間酸素療法群が47.5%(57/120例)、プラセボ群は54.0%(61/113例)であった(群間差:-6.5ポイント、95%CI:-18.9~5.9、ハザード比[HR]:0.87、95%CI:0.61~1.25、p=0.44)。死亡(HR:0.98、95%CI:0.60~1.63)およびNOTTの長期酸素療法適応基準に適合(0.87、0.57~1.34)のいずれにも両群間に差はなかった。 COPDの急性増悪や全原因による入院、QOLの経時的な変化にも、両群間に差は認められなかった。また、試験期間中に、介入の直接的な関与による重篤な有害事象の報告はなかった。 著者は、「データの信頼区間が広いことは、酸素療法の有益性を排除するものではないが、本試験単独および既報の他試験の結果を合わせて検討しても、夜間酸素療法の明確な臨床的有益性は示されていない」としている。

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遺伝子型ガイドのP2Y12阻害薬選択は本当に無効なのか?(解説:中川義久氏)-1288

 血小板凝集では、周囲からの刺激に反応してADPが血小板から放出され、これが血小板のADP受容体P2Y12を介してさらなる血小板凝集の連鎖を引き起こす。この受容体へのADPの結合を阻害し、血小板の凝集と血栓の形成を抑制する代表的な薬剤がチエノピリジン系抗血小板薬である。BMSが導入された時期には、第1世代チエノピリジン系抗血小板薬のチクロピジンのみであった。現在では副作用の発生頻度がチクロピジンよりも少ない第2世代チエノピリジン系薬剤であるクロピドグレルが多く使用されている。クロピドグレルは肝臓のCYP2C19で代謝されて活性化するが、CYP2C19の遺伝子多型により薬効が異なる。代謝能の低い遺伝子型である機能喪失型(loss-of-function:LOF)を持つ患者では効きが弱い、すなわち血小板凝集が十分に抑制されない。プラスグレルは第3世代のチエノピリジン系薬剤である。チカグレロルはADP受容体阻害薬ではあるが、チエノピリジン系ではなく、シクロペンチルトリアゾロピリミジン系薬剤に分類される。この新規のADP受容体阻害薬である、プラスグレルとチカグレロルは、CYP2C19遺伝子多型による低反応性はない。 PCI後の抗血小板薬の選択を、CYP2C19のLOFの有無に基づいて行う「TAILOR-PCI試験」の結果が2020年8月25日付のJAMA誌に掲載された。これは3月のACC.20/WCCのLate-Breaking Clinical Trialsセッションで発表された内容が論文化されたものである。 遺伝子型ガイド群ではCYP2C19のLOF保有者にはチカグレロルを、従来治療群にはクロピドグレルを投与している。LOF保有者のみを解析対象としている。全患者にアスピリンが投与され、DAPTが継続されている。12ヵ月時点の心血管死・心筋梗塞・脳卒中・ステント血栓症・重度虚血再発の複合で定義される主要評価項目は、遺伝子型ガイド群で4.0%、従来治療群で5.9%に認められ、ハザード比:0.66、p=0.06と有意差はなかった。副次評価項目である出血イベントにも有意差は認められなかった。本研究の公式の解釈は、遺伝子型ガイドのP2Y12阻害薬の選択戦略は無効ということになる。 しかし、本当に遺伝子型ガイドによる個別化した治療戦略に意味がないと言い切ってもよいであろうか? 本試験の後付け解析ではあるが、初期3ヵ月に限ればハザード比:0.21、p=0.001と、遺伝子型ガイドが主要評価項目の発生を8割近く抑制している。イベント発生のリスクの高い時期でなければ差異は表出されない可能性がある。この研究が計画されたのは2012年であり、2013~18年と6年間も時間を要している。この間にDESは進化し、植込み技術の向上も相まってステント血栓症は激減した。このイベント率の低下によって研究デザインのパワーが不足することになった可能性もある。 PCI術後にDAPTを中止し単剤とする場合に、アスピリンを中止しADP受容体阻害薬のみを継続する方向への動きがある。またDAPT期間そのものが短縮化している。その代表的な研究がSTOPDAPT-2試験(Watanabe H, et al. JAMA. 2019;321:2414-2427.)である。単剤投与であれば、一層と遺伝子型ガイドによって有効な薬剤を選択する価値が高まる可能性もある。 少なくとも、この「TAILOR-PCI試験」の結果から、遺伝子型ガイドによるP2Y12阻害薬を選択する治療戦略には意味がないと、結論付けることはできない。CYP2C19のLOF保有者が多いとされる日本から決着をつける研究が望まれる。

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第27回 日本のCOVID-19死亡率が低いのはα1-アンチトリプシンのおかげ?

日本、中国、韓国、タイ、ベトナム、カンボジア、マレーシア等のアジアの国で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡率が比較的低いことに関心が集まっていますが、理由はいまだ不明です。サハラ以南アフリカのいくつかの国でCOVID-19発症やその死亡率が低いことも注目に値します。おそらくその背景にはSARS-CoV-2の検査が広まっていないことや海外からの入国者が少ないことがあるでしょうが、それぞれの国に特有の遺伝的特徴も寄与しているかもしれません。SARS-CoV-2はヒト細胞のセリンプロテアーゼTMPRSS2の助けを借りて別の細胞表面タンパク質ACE2に結合して細胞に侵入します。セリンプロテアーゼ阻害薬・ナファモスタットやカモスタットはTMPRSS2を阻害することが分かっており、COVID-19患者へのそれら薬剤の臨床試験が進行中です。ヒトの血液中の主なセリンプロテアーゼ阻害タンパク質・α1-アンチトリプシン(AAT)もナファモスタットやカモスタットと同様にTMPRSS2を阻害することが最近の研究で確認されています1)。遺伝子変異のせいでAATが乏しい人が多いイタリアのロンバルディ地域ではCOVID-19感染率が高く2)、AAT欠乏の人の割合とCOVID-19感染率が関連するのではないかと考えられています。そこでイスラエルのテルアビブ大学の研究者3人は67ヵ国のデータを使い、AAT欠乏を招く一般的な遺伝子変異とCOVID-19流行の関連を世界規模で調べてみました。その結果イタリアでの疫学データと同様の傾向があり、AAT欠乏変異保有者が多い国ほどCOVID-19死亡率が高く、逆に少ない国ほどCOVID-19死亡率が低い事が示されました3,4)。たとえばスペインはCOVID-19死亡率が高く、100万人あたり640人がCOVID-19で死亡しており、1,000人あたり17人がPiZという主たるAAT欠乏変異を有していました。イタリアも同様で、100万人あたり620人がCOVID-19で死亡し、1,000人あたり13人に変異がありました。一方、COVID-19死亡率が世界で最も低い国々の一つ日本のPiZ変異保有は無視できるほど少なく、COVID-19死亡率はスペインの71分の1の100万人あたり9人です。興味深いことに、日本でCOVID-19が少ないことやCOVID-19重症化阻止との関連が示唆されているBCGワクチン接種は血中のAATを増やします5)。AATは抗ウイルス作用に加えて抗炎症作用もあります。副腎皮質ステロイド(コルチコステロイド)・デキサメタゾンはCOVID-19入院患者の死亡を防ぐことが示されていますが、AATの抗炎症作用はどうやら副腎皮質ステロイドの上を行きます6)。AATが生理濃度でヒト気道上皮へのSARS-CoV-2感染を阻害することも確認されており7)、COVID-19患者への吸入AAT投与の臨床試験(NCT04385836)8)がサウジアラビアで進行中です。参考1)Alpha 1 Antitrypsin is an Inhibitor of the SARS-CoV2-Priming Protease TMPRSS2. bioRxiv. May 05, 20202)Vianello A,et al. Arch Bronconeumol. 2020 Sep;56:609-610. 3)Shapira G, et al. FASEB J. 2020 Sep 22.4)Carriers of two genetic mutations at greater risk for illness and death from COVID-19 / Eurekalert 5)Cirovic B, et al. ell Host Microbe. 2020 Aug 12;28:322-334.e5. [Epub ahead of print]6)Schuster R,et al. Cell Immunol. 2020 Oct;356:104177.7)Alpha-1 antitrypsin inhibits SARS-CoV-2 infection. bioRxiv. July 02, 2020. 8)Trial of Alpha One Antitrypsin Inhalation in Treating Patient With Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2)(ClinicalTrials.gov)

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心停止状態での搬送、現場蘇生法継続に比べ生存退院率が低い/JAMA

 院外心停止(OHCA)患者の心停止状態での搬送は、現場での蘇生法継続に比べ退院時の生存割合が低く、神経学的アウトカムも不良であることが、カナダ・St. Paul's HospitalのBrian Grunau氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年9月15日号に掲載された。救急医療システム(EMS)におけるOHCA患者の蘇生処置中の病院搬送に関しては、さまざまな見解が存在する。蘇生法を施行中の心停止状態での搬送が、現場での継続的な蘇生法の実施と比較して有益性が高いか否かは明らかにされていないという。北米10施設のレジストリのデータを解析 研究グループは、北米の10施設が参加した地域住民ベースの前向きレジストリのデータを用いて、心停止状態での搬送と現場での蘇生法継続による転帰の改善効果を比較した(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成による)。 Resuscitation Outcomes Consortium(ROC)Cardiac Epidemiologic Registryから、EMSによる治療を受けた非外傷性の成人OHCA患者のデータを前向きに、連続的に収集した。登録期間は2011年4月~2015年6月で、フォローアップは退院または死亡まで実施された。 心停止状態で搬送された患者(曝露群)と、同時期に難治性の心停止(心停止状態での搬送のリスクがある)を発症した患者(非曝露群)を、時間依存性の傾向スコアを用いてマッチさせ、心停止状態での搬送(心拍再開[ROSC]前に開始された搬送と定義)と、現場での蘇生法継続を比較した。 主要評価項目は退院時の生存とし、副次評価項目は退院時の良好な神経学的アウトカム(修正Rankin尺度<3点)であった。傾向マッチの退院時生存:4.0% vs.8.5%、良好な神経学的アウトカム:2.9% vs.7.1% 4万3,969例が解析に含まれた。年齢中央値は67歳(IQR:55~80)、37%が女性であった。 86%は私的な場所で心停止を発症し、49%は現場にバイスタンダーまたはEMSによって目撃され、22%はショック適応で、97%は院外で2次救命処置を受けた。1万1,625例(26%)が心停止状態で搬送され、3万2,344例(74%)はROSC達成または蘇生法が終了するまで現場で処置を受けた。 全体の退院時生存割合は、心停止搬送群が3.8%、現場蘇生法群は12.6%であった(リスク差:-8.8%、95%信頼区間[CI]:-8.3~-9.3)。傾向マッチコホート(2万7,705例)の退院時生存割合は、心停止搬送群(9,406例)が4.0%、現場蘇生法群(1万8,299例)は8.5%であった(リスク差:-4.6%、95%CI:-5.1~-4.0)。 良好な神経学的アウトカムの達成割合は、全体(心停止搬送群2.6% vs.現場蘇生法群10.2%、リスク差:-7.6%、95%CI:-8.2~-7.0)および傾向マッチコホート(2.9% vs.7.1%、-4.2%、-4.9~-3.5)のいずれにおいても、心停止搬送群で低かった。 傾向マッチコホートのサブグループ解析では、ショック適応(リスク比:0.55、95%CI:0.45~0.68)、ショック非適応(0.63、0.53~0.74)、EMS目撃(0.58、0.50~0.66)、EMS非目撃(0.32、0.25~0.41)の心停止患者のすべてで、心停止搬送群は現場蘇生法群よりも退院時生存割合が低かった。 著者は、「これらの知見は、院外心停止患者に蘇生処置を施行しながらの病院への搬送を、ルーチンに行うことを支持しない。観察研究デザインの潜在的な交絡の存在により、これらの結果は限定的なものとなる」としている。

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アテゾリズマブ+パクリタキセル、TN乳がん1次治療でPFS改善せず(IMpassion131)/ESMO2020

 転移を有する/切除不能な局所進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者に対する1次治療として、アテゾリズマブ+パクリタキセルの併用療法は、無増悪生存期間(PFS)の有意な改善を認めなかった。英国・Mount Vernon Cancer CentreのDavid Miles氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験IMpassion131の結果を報告した。IMpassion131ではアテゾリズマブ+パクリタキセル併用でPFS有意に改善せず・対象:進行乳がんに対する化学療法または全身療法歴のない、転移を有する/切除不能な局所進行TNBC患者([ネオ]アジュバント化学療法後≧12ヵ月、ECOG PS≦1)・試験群:以下の2群に2対1の割合で無作為に割り付けアテゾリズマブ併用群:28日を1サイクルとし、アテゾリズマブ(840mgを1、15日目投与)、パクリタキセル(90mg/m2を1、8、15日目投与) PD-L1陽性191例/ITT集団431例※各サイクル少なくとも最初の2回は、デキサメタゾン8~10mgを投与プラセボ群:28日を1サイクルとし、プラセボ+パクリタキセル(90mg/m2を1、8、15日目投与) PD-L1陽性101例/ITT集団220例・層別化因子:タキサン治療歴、VENTANA PD-L1 SP142アッセイによるPD-L1発現状況(<1% vs.≧1%)、肝転移の有無、地域(北米 vs.西欧/オーストラリア vs.東欧/アジアvs.南米)・評価項目:[主要評価項目]PD-L1陽性患者およびITT集団における治験責任医師評価によるPFS(PD-L1陽性患者で達成された場合にITT集団で解析を行うことを事前に規定)[副次評価項目]PD-L1陽性患者およびITT集団における全生存期間(OS)、客観的奏効率(ORR)、安全性など IMpassion131の主な結果は以下のとおり。・両群のベースライン特性はバランスがとれており、PD-L1≧1%の患者は全体の45%であた。・2019年11月15日データカットオフ時点におけるPD-L1陽性患者でのPFS中央値は併用群6.0ヵ月 vs.プラセボ群5.7ヵ月(層別ハザード比[HR]:0.82、95%CI:0.60~1.12、ログランク検定p=0.20)で、併用による有意な改善はみられなかった。・ITT集団でのPFS中央値は併用群5.7ヵ月 vs.プラセボ群5.6ヵ月(層別ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.70~1.05、p値は検出せず)であった。・タキサン治療歴やPD-L1発現状況、肝転移の有無などPFSのサブグループ解析結果も、PD-L1陽性患者全体と同様の傾向で、併用によるベネフィットがみられる因子はみられなかった。・治験責任医師評価による未確定のORRは、PD-L1陽性患者で併用群63.4% vs.プラセボ群55.4%、ITT集団で53.6% vs.47.5%であった。・2020年8月19日データカットオフ時点におけるOS中央値は、PD-L1陽性患者で併用群22.1ヵ月 vs.プラセボ群28.3ヵ月(層別HR:1.12、95%CI:0.76~1.65)。ITT集団で19.2ヵ月 vs.22.8ヵ月(層別HR:1.11、95%CI:0.87~1.42)であった。・安全性プロファイルは各薬剤の既知のリスクと一致していた。 ディスカッサントを務めた米国・UNC Lineberger Comprehensive Cancer CenterのLisa Carey氏は、PD-L1陽性患者でベネフィットを示したアテゾリズマブ+ナブパクリタキセル併用のIMpassion130試験とIMpassion131試験との間でなぜ結果に差が生じたのかについて考察。試験対象の患者背景に大きな差異はみられず、パクリタキセル投与時に前投与されるステロイドが免疫チェックポイント阻害薬の効果に影響を及ぼす可能性に言及した。しかし、ペムブロリズマブ+化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセル、ゲムシタビン/カルボプラチンのうちいずれか)併用の有効性を評価したKEYNOTE-355試験ではPFS改善が報告されており、引き続き検討が必要とした。

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NSTEMIは、高齢者だからこそ積極的に治療を!(解説:中川義久氏)-1287

 皆さんもご存じのように、急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)は、不安定狭心症(unstable angina:UA)、非ST上昇型心筋梗塞(Non ST-segment elevation myocardial infarction:NSTEMI)、ST上昇型心筋梗塞(ST-segment elevation myocardial infarction:STEMI)の3つに分類される。可能な限り早急なprimary PCIが有効なSTEMIに対して、NSTEMIでは治療のタイミングについて判断が必要である。PCI施行を含む積極的な治療を施行するタイミングは2つに大別される。早期に造影検査およびインターベンションを行う侵襲的治療戦略と、保存的な治療を優先し侵襲的治療のルーチンとしての実施を回避する初期保存的治療戦略(非侵襲的治療戦略)である。TIMIリスクスコアやGRACE ACSリスクモデルなどの、リスク評価法に基づいて治療戦略を決定することが推奨されている。このように選択肢がある中でも、早期に侵襲的治療を施行する有用性が高いとの報告が増加していた。しかし、高齢者はこれらのエビデンスを構築するための臨床試験から除外されることが常であり、明確な方針は明らかではなかった。 80歳以上のNSTEMI患者においても、侵襲的治療が非侵襲的治療と比べて優れていることを示した「SENIOR-NSTEMI試験」の結果が、Lancet誌2020年8月29日号に掲載された。累積5年死亡率は、侵襲的治療で36%、非侵襲的治療55%と、ハザード比:0.68、(95%CI:0.55~0.84)で侵襲的治療戦略が有意に優れていた。さらに、侵襲的治療は、心不全による入院発生頻度も有意に低下させていた。5年時の死亡を3割以上も減少させる意義は大きい。高齢者だからこそ積極的な戦略をとるべきともいえ、高齢者であれば保存的治療が一番という安易な選択を戒めるものであろう。 この試験はランダマイズ研究ではなく、日常の診療のデータを登録した中から、プロペンシティ・スコア(傾向スコア)を用いて解析している。ここでプロペンシティ・スコア解析を復習しよう。多変量解析の1つである、ロジスティック回帰法を用いて全患者に対して、その患者が侵襲的治療を受ける確率を計算する。この確率の値が、「プロペンシティ・スコア」であり0から1の間の数値をとる。侵襲的治療を受ける確率が同じ「0.6」という値であっても、実際には侵襲的治療を受けた患者も存在すれば、非侵襲的治療を受けた患者も存在する。これをペアにして比較することによって、あたかも患者をランダマイズしたかのように背景因子をそろえて比較することができる。「SENIOR-NSTEMI試験」のmethodには興味深い記載がある。侵襲的治療を受ける確率が非常に高い患者と、非常に低い患者は、解析から除外したというのだ。議論の余地なく、誰がみても侵襲的治療が良いと思われる患者が存在することを事前に了解しているのである。逆に、誰がみても侵襲的治療がそぐわない患者の存在も同様に認定している。この試験の結果から侵襲的治療が優れているという結論が導かれたように思う方もいるかもしれないが、この試験を実施するまでもなく、侵襲的治療に適した患者や、適していない患者が存在するのである。 ランダマイズ試験では、いずれかの治療に割り付けられれば従わねばならない。このため、どちらの選択肢に割り付けられても支障の少ない患者が多く参加する。ある治療法が適していると皆が考える患者の参加は少ない。このようにランダマイズ試験の弱点もあることを知る必要がある。高齢者という、ランダマイズ試験の難しい患者であるからこそ、プロペンシティ・スコア解析の意義を感じた「SENIOR-NSTEMI試験」であった。

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第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?Q1 肥満症を合併した高齢者糖尿病ではどのような食事・運動療法を行うべきですか?食事・運動療法を行うにはまず、膝関節疾患や心血管疾患の有無をチェックし、認知機能、身体機能(ADL、サルコペニア、フレイル・転倒)、心理状態、栄養、薬剤、社会・経済状況、骨密度などを総合的に評価します。80歳以上の肥満症では治療によって血管障害や死亡のリスクを減らせるというエビデンスに乏しくなります。しかしながら、減量によって疼痛が軽減され、QOLが改善されるということも報告されていますので、膝関節痛などがある場合は減量を勧めてもいいと思います。肥満症を合併した糖尿病患者ではレジスタンス運動を含めた運動療法と食事療法を併用することが大切です。肥満症の高齢者に食事療法と運動療法の両者を併用し、減量を行うと、食事療法単独または運動療法単独と比べて、身体機能とQOLが改善します。有酸素運動とレジスタンス運動の両者を併用した方がそれぞれ単独の運動よりも歩行速度などの身体能力の改善効果が認められます。レジスタンス運動は肥満症の人は一人で行うことが困難な場合が多いので、介護保険のデイケア、市町村の運動教室などを利用し、監視下で運動することがいいと思います。また、体重による負荷を軽減する運動としてはプール歩行やエアロバイクなどを勧める場合もあります。また、高齢者の肥満では運動療法を行わず、食事療法のみで減量すると骨格筋量や骨密度が減少するリスクがあります。一方、適切なエネルギー量を設定し、運動療法を併用することにより筋肉量、身体機能、および骨密度を低下させることなく減量が可能であるとされています。Look AHEAD研究では高齢糖尿病患者を対象に運動を中心とした生活習慣改善と体重減少を行った介入群では、対照群と比べて、歩行速度が速く、SPPBスコアで評価した身体能力が有意に高いという結果が得られています。介入群は歩行速度低下のリスクが16%減少しました1)。とくに、65歳以上の高齢糖尿病患者でSPPBスコアの改善効果がみられました。食事のエネルギー摂取量に関しては、肥満があるとエネルギー制限を行うことになりますが、過度の制限によるサルコペニア・フレイル・低栄養の悪化に注意する必要があります。肥満高齢者にレジスタンス運動にエネルギー制限を併用した群では運動のみの群に比し体重減少とともに除脂肪量の減少がみられたが、歩行能力や要介護状態は改善し、筋肉内脂肪の減少を認めたという報告があります2)。この結果は減量によって筋肉内の脂肪をとることが筋肉の質を改善することにつながることを示唆しています。「糖尿病診療ガイドライン2019」においては、高齢者では[身長(m)]2×22~25で得られた目標体重に身体活動の係数をかけて総エネルギー量を計算します。J-EDIT研究では目標体重当りのエネルギー量が約25kcal/kg体重以下と35kcal/kg体重以上の群で死亡リスクの上昇がみられ、過度のエネルギー摂取もよくないことが示唆されています3)。高齢者でも肥満があり、減量が必要な場合には目標体重は[身長(m)]2に低めの係数(22~23)をかけて目標体重を求め、目標体重当たり25~30 kcalの範囲でエネルギー量を設定することが望ましいと考えています。一般のサルコペニア・フレイルに対してはタンパク質の十分な摂取(1.0~1.5㎏/㎏体重)が推奨されています。肥満やサルコペニア肥満がある場合のタンパク質摂取に関しては、まだ十分なエビデンスがありませんが、タンパク質は十分に摂取した方がいいという報告があります。膝OAがある高齢糖尿病女性の縦断研究でも、タンパク質の摂取が1.0g/㎏体重以上を摂取した群の方が膝進展力低下や身体機能低下が少ないという結果が得られました(図1)4)。サルコペニア肥満がある高齢女性を低カロリーかつ正常タンパク質(0.8g/㎏体重)摂取群と低カロリーかつ高タンパク質(1.2g/㎏体重)摂取群に割り付けて3ヵ月間治療した結果、骨格筋量の指標は正常タンパク質群では減少したのに対し、高タンパク質摂取群では有意に増加していました5)。したがって、肥満症のある高齢糖尿病患者では、少なくとも1.0g/㎏のタンパク質をとることが望ましいと思われます。画像を拡大するQ2 肥満症を合併した高齢糖尿病、薬物療法は何に注意が必要ですか?個々の病態に合わせて薬物選択を行いますが、肥満があるので、インスリン抵抗性を改善する薬剤を主体に治療します。体重減少を目的にする場合にはメトホルミン(高用量)、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬が使用されます。メトホルミンはeGFR 30ml/min/1.73m2以上を確認して使用し、eGFR 60ml/min/1.73m2以上を確認できれば少なくとも1,500㎎/日以上の高用量で使用します。SGLT2阻害薬は、心血管疾患合併例で、血糖コントロール目標設定のためのカテゴリーI(認知機能正常でADL自立)で積極的に使用し、カテゴリーIIでは運動や飲水ができる場合に使用するのがいいと考えています。GLP-1受容体作動薬は消化器症状に注意して使用します。いずれの薬剤を使用する場合もレジスタンス運動を含む運動を併用し、サルコペニア肥満やフレイルを予防することが大切です。1)Houston DK, et al . J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018;73:1552-1559.2)Nicklas BJ, et al. Am J Clin Nutr. 2015;101:991-999.3)Omura T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2020;20:59-65.4)Rahi B, et al. Eur J Nutr. 2016; 55:1729-1739. 5)Muscariello E, et al. Clin Interv Aging. 2016;11:133-140.

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キャリアアップに毎月支出する金額は?/医師1,000人に聞きました

 例年ならば秋の学術集会が盛んに開催されている季節だが、新型コロナウイルス感染症は、WEB学会という新しい形の学術集会を誕生させ、夏から順次開催されている。こうした学術集会などを通じ医師や医療従事者は、知識・知見の収集と学習、技術の習得を行っているが、実際、医師の学習やキャリア形成はどうしているのか。8月20日(木)~26日(水)に会員医師1,000人に協力をいただき、その実態を聞いた。 下記にアンケートの概要を報告する。20・30代の医師の目標は「学位」より「専門医」 回答年代別では、50代が29%と1番多く、次いで40代(24%)、30代(19%)の順だった。診療科では、一般内科(240人)、消化器科(88人)、循環器内科/心臓血管外科(73人)の順で多かった。 質問として20・30代の医師(n=250)に「今一番興味のあるキャリアに関することは何ですか」(単回答)と聞いたところ、「専門医資格の取得」(113名)、「診療技術・手技など技術の習得」(52名)、「博士などの学位の取得」(38名)の順で多かった。学位よりも臨床上の実績・経験を研鑽したいという傾向が見受けられた。また、開業や起業に興味を持つ会員医師も10名以上みられた。 同じ対象群に「専門・非専門のキャリア向上のため、どのような学習をされていますか」(複数回答)と聞いたところ「専門書籍・国内外のジャーナルで独学」(128名)が1番多く、ついで「所属学会・研究会の講習会に参加」(114名)、「CareNet.comなどの医療者向けウェブサイトで学習」(63名)の順で多かった。また、「キャリア形成などに1ヵ月にどのくらいお金をかけていますか」(単回答)という質問では、「1万円以内」(147名)が1番多く、毎月の学習費は抑えられている傾向がみられた。 自由回答として「キャリア形成で参考にしている動画サイトや書籍を教えてください」では、CareNet.comをはじめとする医療系サイトのほか、Lancetなどの有名ジャーナルが並んだが、中にはYouTubeのお金に関するコンテンツやTwitterなどSNSからという回答もあった。医師の半数の学習は「所属学会・研究会の講習会」が主体 質問として全医師(n=1,000)に「専門・非専門のキャリア向上のため、どのような学習をされていますか」(複数回答)と聞いたところ「所属学会・研究会の講習会に参加」(468名)と1番多く、ついで「専門書籍・国内外のジャーナルで独学」(427名)、「CareNet.comなどの医療者向けウェブサイトで学習」(396名)の順番だった。 また、「キャリア形成などに1ヵ月にどのくらいお金をかけていますか(単回答)では、「1万円以内」(644名)が1番多く、年代を問わずキャリア形成への支出は少なかった。 40代以上の会員医師(n=750)に「医師以外のキャリアで考えている職種などはありますか」(単回答)という質問では、「医師以外のキャリアは考えたことがない」(376名)が1番多く、ついで「キャリアは作らず悠々自適の生活を過ごす」(131名)、「趣味を仕事にする転職」(51名)の順番だった。とくに60代以上の会員医師では、「キャリアは作らず悠々自適の生活を過ごす」(59名)の選択も多かったことから、医師の引退も考えている会員も多いことがわかった。自由回答として「キャリア形成で参考にしている動画サイトや書籍を教えてください」と聞いたところ、20・30代の会員医師と同じ傾向の記載のほか、医療系のウェブサイトでは各専門学会のサイト、一般のウェブサイトでは金融系のサイトを挙げる会員医師が多かった。中にはYouTubeで番組を持っているYouTuber会員もいた。

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進行TN乳がん1次治療でのアテゾリズマブ+nab-PTX、OSの最終解析(IMpassion130)/ESMO2020

 進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)への1次治療として、抗PD-L1抗体アテゾリズマブとnab-パクリタキセル(PTX)の併用療法を検討した第III相IMpassion130試験における最終解析における全生存期間(OS)の結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で報告された。ITT集団ではOSにおける有意差は認められなかったが、PD-L1陽性患者ではOSの改善がみられたことを、米国・University of Pittsburgh Medical Center Hillman Cancer CenterのLeisha A.Emens氏が発表した。 本試験の無増悪生存期間(PFS)については、すでに2018年のNEJM誌で報告されており、ITT集団でのハザード比(HR)が0.80(95%信頼区間[CI]:0.69~0.92、p=0.002)、PD-L1陽性患者のHRが0.62(95%CI:0.49~0.78、p<0.001)といずれもアテゾリズマブ併用群の有効性が示されている。また、OSについては、第1回中間解析(データカットオフ2018年4月17日)では、ITT集団でのHRが0.84(95%CI:0.69~1.02、p=0.0840)、PD-L1陽性患者でのHRが0.62(95%CI:0.45~0.86)、第2回中間解析(データカットオフ2019年1月2日)では、ITT集団でのHRが0.86(95%CI:0.72~1.02、p=0.078)、PD-L1陽性患者でのHRが0.71(95%CI:0.54~0.93)であった。・対象:未治療の転移有りまたは切除不能な局所進行TNBC患者(ECOG PS 0~1)・試験群(アテゾリズマブ併用群):アテゾリズマブ840mg(1、15日目)+nab-PTX 100mg/m2(1、8、15日目)、28日ごと 451例・対照群(プラセボ群):プラセボ(1、15日目)+nab-PTX 100mg/m2(1、8、15日目)、28日ごと 451例・主要評価項目:ITT集団およびPD-L1陽性患者におけるPFSとOS 主な結果は以下のとおり。・最終解析のデータカットオフは2020年4月14日で、OS観察期間中央値は18.8ヵ月。・OS中央値は、ITT集団ではアテゾリズマブ併用群21.0ヵ月、プラセボ群18.7ヵ月(HR:0.87、95%CI:0.75~1.02、p=0.077)で有意な差は認められなかったが、PD-L1陽性患者ではアテゾリズマブ併用群25.4ヵ月、プラセボ群17.9ヵ月(HR:0.67、95%CI:0.53~0.86)と改善が認められた(ただし、事前規定された階層に基づく解析ではない)。・Grade3/4の有害事象発現率は、アテゾリズマブ併用群51%、プラセボ群43%、重篤な有害事象発現率はアテゾリズマブ併用群24%、プラセボ群19%であった。・追加の観察期間においても、アテゾリズマブ併用群では安全性と忍容性を維持していた。

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外傷性脳損傷への入院前トラネキサム酸投与開始は有益か/JAMA

 中等度~重度の外傷性脳損傷(TBI)患者において、受傷2時間以内の入院前トラネキサム酸投与は、プラセボ投与と比較して6ヵ月後の神経学的アウトカム(Glasgow Outcome Scale-Extendedで測定)を有意に改善しないことが示された。米国・オレゴン健康科学大学のSusan E. Rowell氏らが、米国とカナダの外傷センターおよび救急医療機関で行った多施設共同二重盲検無作為化試験の結果を報告した。TBIは、外傷性の死亡および障害をもたらすが、早期のトラネキサム酸投与がベネフィットをもたらす可能性が示唆されていた。JAMA誌2020年9月8日号掲載の報告。受傷2時間以内のトラネキサム酸投与開始の有益性を対プラセボで評価 研究グループは、中等度~重度TBI患者において、受傷2時間以内に院外にて開始するトラネキサム酸治療が、神経学的アウトカムを改善するかを検討した。試験は2015年5月~2017年11月に、米国およびカナダの外傷センター20ヵ所と救急医療機関39ヵ所で実施した。 適格患者は、Glasgow Coma Scaleスコア12以下および収縮期血圧90mmHg以上である15歳以上のTBI入院前患者(1,280例)で、受傷2時間以内に治療を開始する以下の3つの介入について評価した。(1)入院前にトラネキサム酸(1g)をボーラス投与し、入院後に同薬を8時間点滴投与(ボーラス継続群、312例)、(2)入院前にトラネキサム酸(2g)をボーラス投与し、入院後にプラセボを8時間点滴投与(ボーラスのみ群、345例)、(3)入院前にプラセボをボーラス投与し、入院後にプラセボを8時間点滴投与(プラセボ群、309例)。 主要アウトカムは、両トラネキサム酸投与群とプラセボ群を比較した、6ヵ月時点の良好な神経学的アウトカム(Glasgow Outcome Scale-Extendedスコア4超[中等度障害または良好な回復])であった。非対称有意性の閾値は、有益性が0.1、有害性は0.025とした。 副次エンドポイントは18項目で、本論ではそのうち5つ(28日死亡率、6ヵ月時のDisability Rating Scaleスコア[0:障害なし~30:死亡]、頭蓋内出血の進行、発作の発生、血栓塞栓症イベントの発生)を報告している。6ヵ月時の良好な神経学的アウトカム、トラネキサム酸群65% vs.プラセボ群62% 主要解析に包含された1,063例のうち、割り付け治療が行われなかった96例とその他1例(登録時に収監)が除外され、解析集団は966例(平均年齢42歳、男性255例[74%]、平均Glasgow Coma Scaleスコア:8)であった。このうち819例(84.8%)について、6ヵ月フォローアップ時に主要アウトカム解析のデータが入手できた。 主要アウトカムの発生は、トラネキサム酸群65%、プラセボ群62%であった(群間差:3.5%、有益性に関する90%片側信頼区間[CI]:-0.9%[p=0.16]、有害性の97.5%片側CI:10.2%[p=0.84])。 副次エンドポイントの28日死亡率(トラネキサム酸群14% vs.プラセボ群17%、群間差:-2.9%[95%CI:-7.9~2.1]、p=0.26)、6ヵ月時のDisability Rating Scaleスコア(6.8 vs.7.6、-0.9[-2.5~0.7]、p=0.29)、頭蓋内出血の進行(16% vs.20%、-5.4%[-12.8~2.1]、p=0.16)について、有意差はみられなかった。

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EGFR変異肺がんに新規抗HER3抗体薬物複合体U3-1402が有望/ESMO2020

 濃厚な治療歴を有するEGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)に対し、HER3を標的とする抗体薬物複合体(ADC)が、臨床的に意義のある効果と管理可能な安全性を示した。この第I相試験の結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で、米国・メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのHelena A. Yu氏より発表された。・対象:EGFR変異陽性の転移を有するNSCLC患者57例(用量漸増パートから12例+用量拡大パートから45例)。PSは 0〜1・試験群:Patritumab Deruxtecan(U3-1402)を用量漸増パートでは3.2mg/kg~6.4mg/kg、用量拡大パートでは5.6mg/kgを3週間ごと点滴・評価項目:[主要評価項目]抗腫瘍効果(盲検下中央判定での奏効率、奏効期間など)[副次評価項目]安全性と忍容性 主な結果は以下のとおり。・症例の年齢中央値は65歳、女性が63%、アジア人が47%、白人が44%だった。脳転移も47%の症例で認められた。・前治療ライン数の中央値は4。全員がEGFR TKIの治療を受けており(オシメルチニブ86%含む)、90%でプラチナ化学療法が、40%で免疫チェックポイント阻害薬の投与歴があった。・追跡期間中央値は5ヵ月で全奏効率25%(CR 2%、PR 23%)、3例の未確定PR例があった。・病勢コントロール率は70%、奏効期間中央値は6.9ヵ月だった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TEAE)は、血小板減少28%、好中球減少19%、倦怠感9%、貧血9%であった。・TEAEによる治療中止は9%で、その要因は、倦怠感、食欲低下、間質性肺疾患、肺臓炎などであり、治療関連死はなかった。 最後に演者は「この抗HER3の新規ADCはEGFR C797S変異、MET増幅、HER2変異、BRAF融合、PIK3CA変異などのさまざまなEGFR-TKI耐性にも有効性を示した。次の第II相試験も計画されている」と結んだ。

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直腸が爆発した1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第171回

直腸が爆発した1例pixabayより使用肛門のケガについては、過去にイノシシに突き破られた1例を紹介したことがありました。(参考記事:【第156回】イノシシに肛門を突き破られた男性)しかししかーし、世の中にはもっと不思議な肛門外傷が存在するもので。論文のタイトルは、「直腸爆発」!!比喩でもなんでもなく、本当に爆発した症例がチェコから報告されました。Hejna P, et al.Rectal explosion: a strange case of autoerotic death.Int J Legal Med. 2020 Jun 26. doi: 10.1007/s00414-020-02344-7.これは、性的倒錯によって肛門に致死的な外傷を負った35歳男性の症例報告です。ある日、彼は空気を入れることができるゴムストッパー(長い風船のようなもの)を肛門に入れました。ここまではよくある肛門異物。ここで取り出せなくなって救急搬送されるケースがあるわけですが、彼は一味違います。彼は自動的に空気が出てくる空圧システムにそのゴムストッパーを接続し、だんだんゴムが膨らむようにしたのです。空気を出し続け、膨らむゴムストッパー。当然ながら肛門は次第に悲鳴を上げ始めます。そして……そして……、とうとう直腸が爆発しました!いやぁぁぁぁあ!!直腸がバルーンの圧に耐えられず、ボカンと破裂したのです。肛門周囲の爆発により、大量出血を来し、救急搬送されるまでもなく、彼は死亡することとなりました。生前、彼はインターネットで異常性癖に関するウェブサイトにいろいろな投稿をしており、今回の1件も自分なりに考えて快楽を求めた結果だったのかもしれません。快楽を求めて死に行き着くなんて、一体何がどうなっているのか……。ご冥福をお祈りします。

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第19回 高齢者の肥満、特有の問題と予後への影響は【高齢者糖尿病診療のコツ】

第19回 高齢者の肥満、特有の問題と予後への影響はQ1 高齢者の肥満、若年者とはちがう特徴とは?最近、高齢糖尿病患者でも肥満症が増えています。我が国の65歳以上の高齢糖尿病患者でBMI 25㎏/m2以上の頻度は2000年から2012年で28.4%から33.0%に増加したという報告もあります1)。こうした高齢者の肥満症の増加は1)加齢に伴う身体活動量の低下2)基礎代謝量の低下3)高齢者の食習慣の欧米化などが関係しているのでないかと思われます。高齢者の肥満症にはいくつかの特徴があります。加齢とともに内臓脂肪は増加し、除脂肪量(骨格筋量)が低下するという体組成の変化が起こり、BMI高値を伴わない腹部肥満、いわゆる隠れ肥満やメタボリックシンドロームが増加します。また、高齢者のBMIは体脂肪量を正確に反映しないことがあります。身長が低下することで、BMIは見かけ上増加することもあります。したがって、高齢者の肥満症の評価にはBMIだけでなく、ウエスト周囲長も測ることが大切です。ウエスト周囲長やウエスト・ヒップ比の高値の方がBMIよりも死亡のリスクの指標となることも知られています。また、高齢期の肥満症では死亡や心血管疾患のリスクが逆に減少するというobesity paradoxがみられる場合があります。これは、BMI低値の方が悪性疾患、サルコペニア、慢性感染症などの併存疾患によるリスクが増加することで、BMI高値におけるリスクが相対的に小さくなることが原因として考えられます。加齢とともに、肥満とサルコペニアが合併したサルコペニア肥満が増えます2)。サルコペニア肥満は糖尿病やメタボリックシンドロームの発症リスクも高いので、高齢者糖尿病でも注意すべきです。サルコペニア肥満では筋肉内の脂肪蓄積によるインスリン抵抗性、炎症、ビタミンD低下などが骨格筋量や筋力の減少をもたらし、身体機能低下をきたすと考えられ考えられています。サルコペニア肥満は、単なる肥満症と比べ、フレイル、ADL低下、転倒、骨粗鬆症、認知機能低下、および死亡をきたしやすいことが特徴です3)。サルコペニア肥満の定義は定まっていませんが、肥満の方は体脂肪%、ウエスト周囲長などで定義しています。われわれの調査では高齢糖尿病患者におけるDXA法による四肢骨格筋量と体脂肪量で定義したサルコペニア肥満の頻度は16.7%という結果でした2)。Q2 高齢者の肥満は身体機能や認知機能、死亡にどのような影響を及ぼしますか?高齢者のBMI 30kg/m2以上の肥満や腹部肥満は、ADL低下、歩行困難、フレイル、易転倒性などの身体機能低下と関連しています。Study of Osteoporosis Fracturesにおける高齢糖尿病患者でも家事や2~3ブロックの歩行が約2~2.5倍障害されると報告されています4)。また、高齢糖尿病患者がフレイルをきたしやすいことも腹部肥満によって一部説明できると報告されています5)。BMI 25kg/m2以上の肥満がある糖尿病患者では複数回の転倒を約3.5倍起こしやすくなります6)。とくにインスリン治療と過体重が重なると、何度も転倒しやすいとされています。中年期の肥満は認知症発症リスクになりますが、高齢期の肥満は認知症発症リスクに抑制的に働くことが知られています。しかしながら、高齢者の肥満患者の体重変化と認知症発症とはJカーブの関連が見られ、体重減少と体重増加の両者がリスクとなっています(図1)。画像を拡大する高齢糖尿病患者でも、BMI低値、体重減少(10%以上)と体重増加(10%以上)が認知症発症の危険因子であると報告されています7)。高齢糖尿病患者ではそれ自体が認知症発症のリスクですが、認知症発症のリスクとなる4つの肥満の中で、体重減少を伴った高齢者の肥満、メタボリックシンドローム(腹部肥満)、サルコペニア肥満に注意する必要があります(図2)。画像を拡大する一方、12の論文のメタ解析により、生活習慣の改善による意図的な体重減少は記憶力と注意力・遂行機能を改善することが明らかになっています8)。 Look Ahead研究では高齢者を含む2型糖尿病患者でもエネルギー制限と運動療法による介入によって、過体重の患者で認知機能の改善が見られています9)。糖尿病初期の肥満症患者を対象にリラグルチド1.8㎎/日を4ヵ月間投与した介入群と対照群で認知機能の変化を検討したRCTでは、両群とも7%の体重減少が得られたが、リラグルチド投与群では短期記憶と記憶複合スコアの有意な増加を認めたと報告されています10)。減量自体の効果よりも、GLP-1の脳のブドウ糖代謝の改善、可溶性AβによるIRS-1のセリンのリン酸化阻害によるインスリン情報伝達障害の改善などによる認知機能の改善効果の可能性もあります。いずれにせよ、高齢者の肥満症の患者では体重減少が意図的か否かに注意する必要があります。高齢糖尿病患者における肥満症と心血管疾患の発症や死亡に関しては、一致した結果が得られていません。肥満症合併の高齢糖尿病患者を対象に生活習慣改善と体重減少の介入を行ったLook AHAED研究では心血管疾患発症の減少は見られなかったと報告されています11)。我が国のJDCS研究とJ-EDIT研究の糖尿病患者のプール解析では、BMI 18.5未満の群で死亡リスクが上昇し、BMI 25㎏/m2以上の群では死亡リスクは増加していませんでした12)。とくに75歳以上ではBMI18.5未満の群の死亡リスクが8.1倍と75歳未満と比べてさらに高くなり、最も死亡リスクが低いBMIは25前後となりました。すなわち、低栄養による死亡リスクの方が増加し、肥満による死亡リスクが相対的に低下したと考えられます。1)Miyazawa I, et al. Endocr J. 2018;65:527-536.2)荒木 厚、周赫英、森聖二郎:日本老年医学会雑誌.2012;49:210-213.3)Batsis JA, et al. J Am Geriatr Soc. 2013;61:974-980.4)Gregg EW, et al. Diabetes Care. 2002; 25: 61-67.5)Volpato S, et al. J Gerontol A BiolSci Med Sci.2005; 60: 1539-1545.6)García-Esquinas E, et al. J Am Med Dir Assoc. 2015;16:748-754.7)Nam GE, et al. Diabetes Care. 2019;42:1217-1224.8)Siervo M, et al. Obes Rev. 2011;12:968-983.9)Espeland MA, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2014;69:1101-1108.10)Vadini F, et al. Int J Obes (Lond). 2020 Jun;44:1254-1263.11)Wing RR, et al. N Engl J Med. 2013;369:145-154.12)Tanaka S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 99: E2692-2696, 2014.

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