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患者評価の変形性関節症治療の疼痛改善報告、実臨床と臨床試験で異なる

 疼痛管理をより適切に行うため患者自身による治療効果評価(Patient-reported outcomes;PRO)尺度が開発されているが、フランス・INSERM/パリ第5大学のSerge Perrot氏らによる多施設前向きコホート研究の結果、患者が容認できる症状状態(patient acceptable symptom state:PASS)スコアならびに疼痛が改善したと報告した患者の疼痛スコアの変化の最小値(minimal clinically important improvement:MCII)は、実臨床と臨床試験とで異なっていることが明らかとなった。疼痛を伴う変形性関節症の治療効果は関節症の部位に左右される可能性があるという。個々の患者に応じた疼痛管理を行うため、治療効果の評価は患者の特性や日常生活に適したものでなければならない、とまとめている。Pain誌2013年2月号(オンライン版2012年10月30日号)の掲載報告。 変形性膝関節症または変形性股関節症に対する日常の疼痛管理におけるPASSおよびMCIIのカットオフ値を決めることが目的であった。 対象は、一般開業医を受診し7日以上治療を要した50歳以上の疼痛を有する変形性膝関節症または変形性股関節症患者2,414例である(男性50.2%、平均年齢67.3歳、BMI 27.9kg/m2、変形性股関節症33.5%)。 主な結果は以下のとおり。・治療7日後のPASSスコアは、変形性膝関節症患者および変形性股関節症患者のいずれも疼痛の数値評価スケール(以下、疼痛スケール)で安静時4ならびに動作時5と推定された。これは、臨床試験におけるPASSより高値であった。・PASSを得られやすかったのは、変形性膝関節症では男性、非高齢患者、治療開始時において安静時または動作時の疼痛スケールが低い非高齢者、特にスポーツ活動での疼痛の影響が最も大きかった患者、変形性股関節症では治療開始時の安静時疼痛スケールが低かった患者および非肥満患者であった。・治療7日後のMCIIは、変形性膝関節症患者および変形性股関節症患者のいずれも、安静時ならびに動作時ともに疼痛スケールで-1であった。この改善の度合いは、ランダム化比較試験で記録された値より小さかった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中! ・「痛みの質と具体性で治療が変わる?!」神経障害性疼痛の実態をさぐる ・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケースレポート ・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケース解説

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腰椎椎間板切除術、日帰り手術により短期合併症が減少

 腰椎椎間板切除術は最も頻度の高い脊椎手術で、外来でも実施可能である。同外来手術は、低コストでより大きな患者満足度が得られ安全性に問題はないことがこれまで報告されていたが、今回、米国・アイオワ大学病院のAndrew J. Pugely氏らによる前向きコホート研究において、入院手術に比べ術後短期合併症が少ないことが確認された。腰椎椎間板切除術を行う場合、適切な症例には外来手術を考慮すべきであるとまとめている。Spine誌2月1日号の掲載報告。 本研究の目的は、単一レベル腰椎椎間板切除術後30日以内の合併症発生率を入院手術および外来手術で比較するとともに、合併症の独立した危険因子を同定することであった。 2005~2010年に、米国外科学会の外科手術質改善プログラム(NSQIP)データベースを用い医師診療行為用語(CPT)コードに基づいて初回単一レベル腰椎椎間板切除術を受ける患者4,310例を選出した。 術後30日以内の合併症発生率ならびに術前患者特性について検討した。統計解析は、傾向スコアマッチング法および多変量ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・4,310例中、2,658例(61.7%)が入院手術、1,652例(38.3%)が外来手術であった。・合併症発生率は、未調整時ならびに傾向スコアマッチング後のいずれも入院手術群が外来手術群より高率であった(未調整時6.5% vs 3.5%、p<0.0001/マッチング後5.4% vs 3.5%、p=0.0068)。・多変量ロジスティック回帰分析でも、入院手術で合併症発生率が有意に高率となることが示された(調整済みオッズ比:1.521、95%CI:1.048~2.206)。・年齢、糖尿病、術前創傷感染、輸血、手術時間および入院手術が術後短期合併症の独立した危険因子であった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・「痛みの質と具体性で治療が変わる?!」神経障害性疼痛の実態をさぐる・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケースレポート・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケース解説

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神経障害性疼痛の実態をさぐる

神経障害性疼痛が見逃されているたとえば熱いものを触ったり、刃物で切れば痛みを感じる。そういう通常の痛みを「侵害受容性疼痛」といいます。末梢神経の終末にある侵害受容器が刺激されたときに感じる痛みです。侵害受容性疼痛の中には炎症に伴って起こる炎症性疼痛も含まれますが、これらを合わせて生体を守るための生理的な疼痛と呼んでいます。一方、「神経障害性疼痛」は、末梢神経から脊髄、さらに大脳に至るまでの神経系に何かの障害が起こったときに、エラーとして生じる痛みです。生体を守る意義はなく、病的な疼痛と考えられています。このように、神経障害性疼痛と炎症性疼痛は区別して考える事になっています。ただし、臨床的には炎症が遷延し持続的に痛みのシグナルが入力されるような状態では、神経系はエラーとしての過敏性を獲得するため、炎症性疼痛が続いた結果起こる痛みと神経障害性疼痛は明確に区別できないと考えられています。多くの神経障害性疼痛は痛みの重症度が高く、患者さんのQOLは著しく低下します。神経障害性疼痛は、まだまだ医療者に浸透していない痛みの概念です。神経障害性疼痛であることが疑われないで治療されているケースも多くみられ、神経障害性疼痛には特別なスクリーニングが必要だと考えます。神経障害性疼痛のスクリーニング痛みと一口にいっても、ナイフで刺された時の痛みと、炎や熱に手をかざした時の痛みは、おのずと性質が違ってきます。神経障害性疼痛の患者さんの多くは、「ヒリヒリと焼けるような痛み」「電気ショックのような痛み」「痺れたような痛み」「ピリピリする痛み」「針でチクチク刺されるような痛み」といった特徴的な性質の痛みを訴えます。一方、炎症性疼痛の患者さんでは、ズキズキする、ズキンズキンするといった、明らかに痛みの性質が異なった訴えをします。痛みの性質の違いは、痛みの発生メカニズムの違いを表していると考えられています。患者さんの自覚的な訴えから痛みの種類を鑑別するために、痛みの問診票が各国で開発されています。私たちはドイツでつくられた「PainDETECT」の日本語版を許可を得て開発し、その妥当性の検証試験を行っています。痛みの性質、重症度、場所、範囲、時間的変化を1つの質問用紙に記入する形のもので、臨床で使いやすい問診票になっています。侵害受容性疼痛なのか神経障害性疼痛なのか、あるいは両方が混合している疼痛なのかを分類することができます。画像を拡大する痛みの具体性を評価する痛みのスクリーニングにおいて、痛みの性質と共に痛みの具体性を評価することが重要です。たとえば捻挫をした患者さんにどこが痛いか聞くと、「足首のここが痛い、足首を伸ばすと痛い」と明確な答えが得られます。これは痛みの具体性が高いといえます。一方、器質的な異常を伴わない非特異的腰痛や、外傷後の頸部症候群(むち打ち症)では、「腰のあたりが全体的に痛い」とか、「何となく首の周りが痛い」といった部位を特定しにくい漠然とした痛みを訴えることがあります。そのような場合は痛みの具体性が低いと評価します。痛みの具体性が高いときには身体的な問題、器質的な異常があり、痛みの具体性が低い場合は器質的な異常がない(少ない)と判断し、心因性疼痛の要素の有無を考えます。器質的異常の有無は薬物療法の適応を考える際に重要なポイントになりますので、痛みの性質と共に具体性を聞くことは非常に有用です。神経障害性疼痛が合併しやすい疾患神経障害性疼痛が多く見られる疾患は、糖尿病性ニューロパチー、帯状疱疹後神経痛、脊柱管狭窄症です。たとえば帯状疱疹では、神経にウイルスが棲んでいて神経の炎症や障害が起きます。日本での大規模な調査研究で、これまで神経障害性疼痛ではないと考えられていた腰痛や膝関節症を含む多くの慢性疼痛患者さんの中にも、神経障害性疼痛が含まれていることがわかってきました。首から背中、腰の痛みを訴える患者さんの実に約8割が、神経障害性疼痛だろうと推察される報告もあります。手術後の痛みは意外に調べられていない領域です。傷が治れば痛くないと医療者が思っているので、患者さんが痛みを訴えにくい環境があるようです。開胸手術後は6~8割、乳腺の術後には5~6割、鼠径ヘルニアの術後では3~4割の患者さんが傷が治った後にも痛みを持っていることがわかっています。もちろん手術後に遷延する痛みの病態のすべてが神経障害性疼痛ではありません。術後遷延痛には、神経障害性疼痛とも炎症性疼痛ともいえない独特のメカニズムがありそうだ、ということが分子生物学的な病態研究によってわかってきています。薬物療法による神経障害性疼痛の治療神経障害性疼痛の治療は、侵害受容性疼痛とは治療戦略がまったく異なります。基本的に消炎鎮痛薬は効果がありません。神経障害性疼痛の第一選択薬はCa2+チャネルα2δリガンドであるプレガバリン(商品名:リリカ)と三環系抗うつ薬です。第二選択薬としては、抗うつ薬セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のうちの一つであるデュロキセチン(商品名:サインバルタ)、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(商品名:ノイロトロピン)、抗不整脈薬メキシレチン(商品名:メキシチールほか)です。第三選択薬は、麻薬性鎮痛薬(オピオイド鎮痛薬)です。まず初めにプレガバリンか三環系抗うつ薬を用います。効果が不十分であれば、いずれかに切り替えるか併用する。プレガバリンは添付文書では、朝と夕方に内服することになっていますが、私たちは就寝前の服用を勧めています。神経障害性疼痛の患者さんは痛みが強く不眠を訴える方が多いのですが、プレガバリンによる眠気の作用を逆に利用した服用方法です。プレガバリンの眠気は鎮静によって生じるものではなく、生理的な睡眠作用であることがわかっています。そのためか、患者さんもぐっすり眠れたという満足感を持つことが多いようです。そして第一選択薬で効果が不十分な場合は、第二選択薬への切り替え、あるいは第二選択薬との併用を行います。ただし三環系抗うつ薬とデュロキセチンの併用では、副作用として興奮・せん妄等のセロトニン症候群を起こす危険性があるので、三環系抗うつ薬とデュロキセチンは基本的に併用はしません。第二選択薬が無効な場合は、第三選択薬として麻薬性鎮痛薬(オピオイド鎮痛薬)を使います。非がん性の慢性疼痛に対して使えるオピオイド鎮痛薬は、トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠(商品名:トラムセット)とフェンタニル貼付剤(商品名:デュロテップMTパッチ)が主なものです。ブプレノルフィン貼付剤(商品名:ノルスパンテープ)は変形性関節症、腰痛症のみが保険適応となっています。オピオイドは最も高い鎮痛効果を期待できますが、長期間使った場合に便秘や吐き気、日中の眠気などの副作用が問題になります。オピオイド鎮痛薬に対して精神依存を起こす患者さんもまれにですがいます。そのため、第一選択薬、第二選択薬が無効な場合にのみ使うことが推奨されています。オピオイド鎮痛薬使用における注意点非がん性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の使い方は、がん性疼痛とは異なります。がん性疼痛の場合は、上限を設けずに患者さんごとに投与量を設定し、痛みが続いている間は使い続けます。痛みが発作的に強まったときには頓用薬も用います。一方、非がん性の疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を使用する場合は、経口のモルヒネ製剤換算で120mgを上限に設定することが推奨されています。オピオイド鎮痛薬の使用期間は極力最少期間にとどめ、痛みが強くなったときの頓用は推奨されていません。これらのオピオイド鎮痛薬の使用に制限を設けている理由は、すべて精神依存の発症リスクを抑えるためです。がん性疼痛と非がん性疼痛では、オピオイド鎮痛薬の使い方の原則が違うことをご理解いただきたいと思います。オピオイド鎮痛薬の精神依存は、器質的な痛みの患者さんでは基本的に発症しないことがわかっています。器質的ではない疼痛、すなわち痛みの具体性の低い患者さんでは精神依存を起こす可能性が高まるので、オピオイド鎮痛薬を積極的に使用すべきではないと考えています。うつ病や不安障害といった精神障害を合併している患者さんも、オピオイド鎮痛薬による精神依存を発症しやすいことがわかっています。最も強い鎮痛効果を求めるときは、われわれはオピオイド鎮痛薬とプレガバリンを併用しています。プレガバリンには抗不安作用があり、それがオピオイド鎮痛薬による吐き気の発生に対する予期不安を抑制し、制吐効果が期待できます。オピオイド鎮痛薬と三環系抗うつ薬の併用も強い鎮痛効果が期待できますが、吐き気、眠気、抗コリン作用による口渇などを相乗的に増強してしまうため推奨していません。

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長距離ランナーは、疼痛知覚が低い

 疼痛への感受性の違いが疼痛性障害の発症リスクと関わりがあるかもしれないことから、ドイツ・ウルム大学病院のWolfgang Freund氏らは、興味深い研究対象として「疼痛に高い耐性を示す人」について研究を行った。対象としたのは長距離ランナーで、その疼痛耐性および性格特性を調べた結果、健常対照者および慢性疼痛患者と異なっていることが明らかになったという。Pain Practice誌オンライン版2月1日の掲載報告。 本研究では、毎日休むことなく64日間、計4,487kmを走ることができるウルトラマラソン選手について、疼痛耐性と性格特性を対照者と比較した。 対象は、トランスヨーロッパフットレース2009の参加者(TEFR09群)11名、ならびに過去5年以内のマラソン経験がなくTEFR09群と年齢・性別・人種をマッチさせた健常対照者11名であった。 寒冷昇圧(CP)試験、特性的自己効力感(GSE)試験および240項目版性格検査(TCI)を行った。 主な結果は以下のとおり。・CP試験において、TEFR09群は健常対照群より寒冷疼痛耐性が有意に高かった(p=0.0002)。・GSE試験の結果は、両群で差は認められなかった。・TCIでは、TEFR09群は協調性と報酬依存が低かったが自己超越性が高かった。・CP試験における180秒での疼痛スコアが高ければ高いほど、TCIの報酬依存、依存、協調性、共感および純粋な良心のスコアが高く、両者には有意な正の相関関係がみられた。・以上の結果を踏まえて著者は、「TEFR参加の長距離ランナーの疼痛耐性プロファイルは、健常対照群とは異なっていた。また以前の試験に参加した慢性疼痛患者とも異なっていると思われた」と結論し、「疼痛知覚が低いことが、長距離ランナーになるために求められる素質である可能性がある。しかし、低疼痛知覚が継続的なトレーニングに起因するものか、あるいはその結果なのかは不明である」とまとめている。【おすすめコンテンツ】~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中! ・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケースレポート ・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケース解説

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長期療養施設の高齢者の多くは、本当は痛みに耐えている

 The Services and Health for Elderly in Long TERm care(SHELTER)研究において、ヨーロッパの長期療養施設の入所者は国によって差はあるものの疼痛有病率が高く、大部分の入所者は疼痛が適切にコントロールされていると自己評価しているが、実際にはまだ強い痛みを有している入所者が多いことが明らかとなった。ドイツ・ウルム大学Bethesda病院のAlbert Lukas氏らによる報告で、こうした結果の背景にある理由を分析することが、疼痛管理の改善に役立つ可能性があるとまとめている。Journal of the American Medical Directors Association誌オンライン版1月31日の掲載報告。 今回の研究は、長期療養施設の入所者における疼痛について評価し、国家間で比較することが目的であった。 対象はヨーロッパ7ヵ国およびイスラエルの長期療養施設の入所者計3,926人で、インターライの長期療養施設(Long Term Care Facility:LTCF)版を用い疼痛の有病率、頻度、強さなどを評価した。 患者関連特性と不適切な疼痛管理の相関を二変量および多変量ロジスティック回帰モデルにより解析した。 主な結果は以下のとおり。・疼痛を有していた入所者は1,900人(48.4%)であった。・疼痛有病率は、イスラエルの19.8%からフィンランドの73.0%まで、国によって大きく異なった。・疼痛は、性別(女性)、骨折、転倒、褥瘡、睡眠障害、不安定な健康状態、がん、うつ病および薬剤数と正の相関があり、一方で認知症と負の相関があった。・多変量ロジスティック回帰モデルにおいて、睡眠障害を除いたすべての因子が有意であることが示された。・疼痛は十分コントロールされていると自己評価した入所者は88.1%に上ったが、痛みがないまたは軽度であると回答したのは56.8%にすぎなかった。【おすすめコンテンツ】~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中! ・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケースレポート ・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケース解説

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術中脊髄モニタリングは術後の永続的神経障害の発生を有意に低下させる

 脊椎脊髄手術後の永続的神経障害の回避に術中モニタリング(IOM)が有効であることが、米国・Barnes-Jewish病院のBarry L. Raynor氏らによる、25年間にわたる計1万2,375例の後ろ向き研究で確認された。IOMを行いデータの著しい変化/消失が発生した時に対処することで、永続的神経障害の発生率は最悪のシナリオである3.1%(IOMデータの著しい変化/消失の発生率)から0.12%に有意に低下した(p<0.0001)という。Spine誌2013年1月15日号の掲載報告。 本研究の目的は、IOMデータの著しい変化または消失に関与する術中事象について調査することであった。 多元的IOMには、体性感覚誘発電位(SEP)、下行性神経誘発電位(DNEP)、神経原性運動誘発電位(n-MEP)、自発筋電図および誘発筋電図が含まれた。 1985年1月~2010年12月に脊椎脊髄手術を受けた計1万2,375例について後ろ向きに調査した(女性59.3%/男性40.7%、頸部29.7%、胸部・胸腰部45.4%、腰仙部24.9%、18歳以上72.7%/18歳未満27.3%、初回手術77.8%/再手術22.2%)。 主な結果は以下のとおり。・1万2,375例中、386例(3.1%)、406件のIOMデータ変化/消失が発生した。・データ悪化/消失の原因は、インストゥルメンテーション(131件)、ポジショニング(85件)、補正(56件)、全身性因子(49件)、不明(24件)、限局性脊髄圧迫(15件)などであった。・データ変化/消失は、初回手術(2.3%、219 / 9,633例)より再手術(6.1%、167 / 2,742例)で高頻度にみられた(p<0.0001)。・対処により88.7%(360 / 406件)はデータが改善したのに対して、11.3%(46 / 406件)は改善しなかった。・術後に永続的神経障害を呈した患者は15例(0.12%)で、このうち1例は対処によりデータが改善した患者であったのに対し、14例は改善しなかった患者であった(p<0.0001)。【おすすめコンテンツ】~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中! ・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケースレポート ・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケース解説

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プライマリ・ケアにおける脊椎MRI検査、その意義に疑問符

 プライマリ・ケアで脊椎MRI検査の利用が増加しているが、MRI所見とその後の診療との関連についてはほとんど知られていない。カナダ・マックマスター大学/Institute for Clinical Evaluative SciencesのJohn J. You氏らは、プライマリ・ケアで脊椎MRI検査を受けた患者のうち半数近くが手術評価のため整形外科または神経外科に紹介されるが、その大半は手術を受けていないことを、後ろ向き研究により明らかにした。「プライマリ・ケアにおけるMRI検査はその後の手術の要否を判別できておらず、脊椎の愁訴を有する患者を評価する代替法を検討すべきであることが示唆される」とまとめている。Spine誌2013年1月1日号の掲載報告。 本研究の目的は、プライマリ・ケア医の指示による腰仙椎または頸椎MRI検査後の診療について調査することである。 カナダ・オンタリオ州において脊椎MRI検査を受けた外来患者の医療記録と保険データベースを分析した。 主な結果は以下のとおり。・プライマリ・ケア医の指示で腰仙椎のMRI検査を受けた647例のうち、整形外科医もしくは神経外科医の診察を受けた患者は288例(44.5%)で、その後3年以内に手術を受けた患者は42例(6.5%)であった。・同様に頸椎のMRI検査を受けた373例のうち、164例(44.0%)は整形外科医もしくは神経外科医の診察を受けたが、3年以内に手術を受けた患者はいなかった。・腰仙椎のMRI検査で重度の椎間板ヘルニアまたは脊柱管狭窄症を認めた患者は、その後手術を受ける可能性が高かった[それぞれ尤度比は5.62(95%CI:2.64~12.00)および2.34(同:1.13~4.85)]。・MRI検査で異常所見が認められた患者の多くは、手術を受けていなかった。一方で、MRI検査で異常所見がなければ、その後の手術の可能性が有意に低いということも示されなかった。【おすすめコンテンツ】~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケースレポート「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケース解説

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術後のAcute Pain Serviceを利用できない患者には経口オピオイド療法を

 術後痛など急性痛に対応するAcute Pain Service(APS)を受けない、すなわち局所麻酔法や患者自己管理鎮痛法を受けることができない患者は、激しい術後疼痛に苦しむ。こうした患者に対しては経口オピオイド療法が有効であり、治療アルゴリズムは外科病棟で実行可能であることがドイツ・ミュンスター大学病院のE.M. Pogatzki-Zahn氏らによる前向き観察研究で示された。Der Schmerz誌オンライン版2013年1月17日号の掲載報告。 耳鼻咽喉科、外傷外科および一般外科で手術を受ける患者を対象に、徐放性(CR)オキシコドン、速放性(IR)ヒドロモルフォンを含む経口オピオイド、および非オピオイド性鎮痛薬からなる経口療法を実施した。 手術当日術前および手術後12時間毎に最高4日間、CRオキシコドンを投与した。疼痛スケール(0~10)が安静時3または体動時5を上回り患者の希望があった場合、IRヒドロモルフォンで治療した。 手術当日および手術後4日間の計5日間アンケートを用いて評価した。また、同様の調査を手術後6ヵ月および12ヵ月に行った。 主な結果は以下のとおり。・計275例が登録された(耳鼻咽喉科163例、外傷外科82例、一般外科30例)。・疼痛スケール中央値は、安静時3以下および体動時5以下であった。・外傷外科手術を受けた患者は、耳鼻咽喉科手術および一般外科手術を受けた患者と比較してより多くのCRオキシコドンを必要とした(p<0.001)。・一般外科および外傷外科手術を受けた患者は、耳鼻咽喉科手術を受けた患者より便秘の頻度が高かった。・嘔吐は手術の種類に関係なく、手術当日20~30%からその後は10%以下まで減少した。・重篤な有害事象は観察されなかった。・手術前のうつ病スコアが高かった患者はそうでない患者に比べ、手術直後により大きな痛みを報告した。・手術後6ヵ月および12ヵ月に持続性の術後痛を訴えた患者は、それぞれ11例(15.7%)および7例(14.9%)であった。これらの患者は、手術後1日目の急性痛が大きかった。

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【CASE REPORT】非器質的疼痛とオピオイド治療 症例解説

症例解説整形外科医がオピオイドを使用する場合においては、やはり最もオピオイドが効果的であることが知られている「侵害受容性疼痛」に対して治療を行うことが優先される。「侵害受容性疼痛」にはNSAIDsが効果を奏し、その効果が十分ではないときにオピオイドを使用することで治療効果が最大となる。しかし、難治性疼痛ではこのように単純な「侵害受容性疼痛」は少なく、「神経障害性疼痛」「中枢機能障害性疼痛(機能性疼痛症候群)」や「心因性疼痛」が存在することが知られている。心因性疼痛にはオピオイドを使用すると依存や耽溺、乱用となることが知られている。整形外科医が心因性疼痛の存在を診断することは、多科目連携治療アプローチとして精神科医が加わらない限りは難しい。がん性疼痛ならオピオイド治療には死亡という投与終了が規定されているが、非がん性疼痛の場合は、投与終了できない事もある。そのため、その適応には乱用や依存などを十分考慮することが必要である。この症例の場合、術後の難治性疼痛ということで、痛みの原因が不明であったのにもかかわらず、オピオイド治療を開始したところに問題がある。オピオイド治療はNSAIDsが効果的であり、かつその効果が不十分である症例で、つまり侵害受容性疼痛(XPなどで容易に医師が患者の痛みの程度を理解できるもの)が適切と考えられる1)、2)(表1)。画像を拡大するまたオピオイド治療は精神疾患罹患では依存、乱用の頻度が高くなること3)が知られており、その点でも不適切と考えられる。また37歳という若年では、オピオイドの依存が発生しやすいこと、60歳以上の高齢者の方がオピオイドの鎮痛効果が高いこと4)からも、オピオイドを若年に使用する時はとくに注意が必要であり、長期投与した場合のリビドーの低下や性ホルモンの低下5)なども考慮する必要がある。痛みは患者本人にしかわからないものであり、疼痛(顕示)行動から推察するしか無い。術後難治性疼痛は、その原因を明確にする事が困難である。この症例では、不動時に必ず認められる筋萎縮や骨萎縮が無いことからも精神科疾患も含めた心因性疼痛、機能性疼痛、中枢機能性障害性疼痛の範疇と考えられ、オピオイド治療については慎重であるべきである。参考文献1)三木健司.新薬と臨床.2011;60:1212-1218.2)三木健司ほか.運動器慢性疼痛とオピオイド.In:七川 歓次 監修. 前田 晃 ほか編.リウマチ病セミナーXXIII.永井書店;2012.p.155-161. 3)Edlund MJ, et al.Pain.2007; 129: 355-362.4)Buntin-Mushock C ,et al. Anesth Analg.2005; 100:1740-1745.5)Lin TC,et al.J Anesth. 2010;24:882-887. Epub 2010 Oct 1. << 症例経過へ

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【CASE REPORT】非器質的疼痛とオピオイド治療 症例経過

運動器慢性疼痛の分類通常、器質的な「痛み」は侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛に分類され、それ以外のものはしばしば心因性疼痛と分類される。心因性疼痛の定義は明確でなく、器質的疼痛でないものの中に機能性疼痛症候群、中枢機能障害性疼痛と心因性疼痛などが存在するという考え方を提唱するものもある(図1)。機能性疼痛症候群は、King's College LondonのSimon Wesselyが提唱した機能性身体症候群(Functional Somatic Syndrome :FSS)という概念に含まれるものである。FSSは諸検査で器質的あるいは特異的な病理所見を明らかにできない持続的で特徴的な身体愁訴を呈する症候群で、それを苦痛と感じて日常生活に支障を来しているために、さまざまな診療科を受診する。愁訴としては「さまざまな部位の痛み」「種々の臓器系の症状」「倦怠感や疲労感」が多く、代表例として過敏性腸症候群、慢性疲労症候群、線維筋痛症、脳脊髄液減少症、間質性膀胱炎、慢性骨盤痛などがある。FSSの病態のうち、不安、痛み、睡眠、食欲などの症状に脳内の神経伝達物質が関与していると考えられている。これらの中で中枢機能障害性疼痛(central dysfunctional pain)は痛みを主訴とするものであり、線維筋痛症はその代表例である。また整形外科で時々遭遇する術後疼痛症候群は、「痛み」の原因を特定することが難しい。痛みの機序には「侵害受容性疼痛」「神経障害性疼痛」「中枢機能障害性疼痛(機能性疼痛症候群)」のように分類されるが、ヒトの「痛み」はあくまで主観的なものであり、完全に分類することができるわけではない。さらに、ほとんどの痛みはこれらが複雑に絡み合った混合性疼痛であると考えられる。痛みに含まれるこれらの構成要素のバランスを考えることは、痛みの治療選択の大きな助けになる1)。画像を拡大する不適切なオピオイド処方例症例経過37歳女性 肩腱板断裂手術後難治性疼痛転倒し発症した肩腱板断裂に対して肩関節鏡視下に腱板縫合術が行われた。術後肩関節周囲部痛が出現し、肩の可動域訓練が行えなかった。再度、肩関節の手術が行われたが、疼痛は変わらなかった。その後CRPS(複合性局所疼痛症候群)を疑い、術後難治性疼痛と診断され、NSAIDsにて効果が無かったことからオピオイドであるププレノルフィン貼付薬(商品名:ノルスパンテープ)5mgの投与が開始された。しかし、効果が無かったことから同剤が20mgまで増量された。その後も鎮痛効果が認められないため、当科を紹介受診した。肩関節の専門医の診察でも肩関節周囲部痛を説明できる器質的疾患は認められなかった。また、本人の申告では患側の上肢はまったく使用できず、常に三角巾にて固定が必要ということであったが、筋萎縮、骨萎縮は認められず、交感神経の異常を示唆する皮膚温・発汗・皮膚のツルゴール・皮膚色の異常を認めなかった。骨シンチでも異常を認めなかった。厚生労働省CRPS判定指標2)では、CRPSの診断には至らなかった。当院では、「痛み」の原因が器質的疼痛(侵害受容性疼痛および神経障害性疼痛)ではなく、心因性疼痛、機能性疼痛、中枢機能障害性疼痛を含めた非器質的疼痛と判断した。よって、ププレノルフィン貼付薬は不適切と判断し、1週間毎に15mg、10mg、5mg、0mgと減量した。さらに、「痛み」を受容しながら運動療法を行うための認知行動療法的アプローチを行った。当院での診察の経過中に精神疾患罹患があることが判明した。ププレノルフィン貼付薬を減量しても疼痛は変化しなかったが、認知行動療法的アプローチを導入したことで運動療法、可動域訓練が行えるようになり、患側上肢が日常生活動作で使用できるようになり、肩関節の可動域もほぼ正常化した。参考文献1)三木健司ほか.Practice of Pain Management.2012;3: 240-247. 2)住谷昌彦ほか.Anesthesia 21 Century.2008;10: 1935-1940.症例解説へ >>

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レベチラセタムは末梢性の鎮痛・抗浮腫作用を示す

 セルビア・ベオグラード大学のRadica M. Stepanovic-Petrovic氏らは、ラット炎症性疼痛モデルを用いて、レベチラセタムの末梢局所における鎮痛・抗浮腫作用とその作用機序について検討した。その結果、レベチラセタムはオピオイド受容体、アドレナリン受容体、アデノシン受容体、5-HT受容体を介して末梢性の鎮痛作用を示すことが明らかになった。Anesthesia & Analgesia誌2012年12月号(オンライン版2012年11月9日号)の掲載報告。 本研究は、ラット炎症性疼痛モデルにおいて、レベチラセタムの炎症局所における鎮痛・抗浮腫作用ならびにその作用機序を検討することを目的とした。ラット足底(paw)皮下にカラゲナンを注射して炎症性浮腫を惹起させ、レベチラセタム(200~1,000nmol/paw)および各種受容体アンタゴニストの鎮痛作用を足圧痛法により評価した。さらに、レベチラセタムの浮腫に及ぼす影響を体積変動測定法により測定した。検討した各種受容体アンタゴニストは以下。オピオイド受容体アンタゴニスト:ナロキソン(75~300nmol/paw)、CTAP(1~5nmol/paw)アドレナリン受容体アンタゴニスト:ヨヒンビン(130~520nmol/paw)、BRL 44408(50~200nmol/paw)、MK-912(5~20nmol/paw)アデノシン受容体アンタゴニスト:カフェイン(500~1,500nmol/paw)、DPCPX(3~30nmol/paw)5-HT受容体アンタゴニスト:メチセルギド(10~100nmol/paw)、GR 127935(50~200nmol/paw)GABA受容体アンタゴニスト:ビククリン(400nmol/paw) 主な結果は以下のとおり。・レベチラセタムは、用量依存的かつ有意な疼痛閾値の低下、足浮腫抑制作用を示した。・レベチラセタム(1,000nmol/paw)の鎮痛作用は、GABA受容体アンタゴニストのビククリンで抑制されなかった。一方で、オピオイド受容体アンタゴニスト、アドレナリン受容体アンタゴニスト、アデノシン受容体アンタゴニスト、5-HT受容体アンタゴニストにより有意に抑制された。・ラットの対側後足にレベチラセタム、各種受容体アンタゴニストを投与した場合に効果が観察されなかったことから、これらの作用は末梢性であると考えられた。・以上のことから、レベチラセタムは末梢局所で鎮痛ならびに抗浮腫作用を示し、その作用はオピオイド受容体、アドレナリン受容体、アデノシン受容体、5-HT受容体を介したものであることが示唆された。レベチラセタムは、全身性の副作用および薬物相互作用の出現を低く抑え、炎症性疼痛を改善させうる。■関連記事とくにうつ病患者は要注意?慢性疼痛時のオピオイド使用レベチラセタム、部分てんかん患者に対する1年間の使用結果レビュー疼痛治療「プラセボでも一定の効果が」臨床試験に課題も抗てんかん薬レベチラセタム、日本人小児に対する推奨量の妥当性を検証

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関節疾患にみる慢性疼痛

関節痛の概要・特徴痛みを呈する関節で最も多いのが膝関節、次いで肩こりを含めた肩関節が多い。股関節では骨形成不全などがあると痛みが発症するが、膝関節や肩関節に比べて頻度は低い。また、肩関節、手関節および肘関節の痛みの訴えはそれ以上に少なく、治療上も問題になることは多くない。関節痛の原因としては変形性関節症が最も多く、次に痛風、偽痛風、関節リウマチなどの炎症性関節炎、そして感染性関節炎となる。関節痛の多くは、慢性的なケースが多く、継続して痛みがあるか亜急性的に痛みが悪化する患者さんが多い。関節痛のリスク因子には、下肢(股関節、膝関節、足関節)のアライメントの異常(関節の歪み)や肥満、筋力低下がある。日本人にはO脚が多いため、膝の内側が摩耗しやすく、体重増や筋力低下により摩耗が進むと関節痛がさらに悪化するというのはその典型といえる。関節痛の原因関節痛についても、痛みの原因を明らかにし、その原因に対処していくことが必要である。変形性関節症の場合、過労時や荷重時の痛みが多く、安静時痛がない。ちなみに、安静時痛のある場合は、関節リウマチや痛風などの炎症性関節炎や細菌感染などの化膿性関節炎などのこともあるので注意が必要である。炎症性関節炎の場合、痛みの原因となる内科疾患を明らかにする必要がある。痛風であれば熱感や発赤が認められるが関節液の濁りは少なく、採血でCRPおよび尿酸値の高値が認められる。偽通風であれば関節液からピロリン酸が検出される。炎症性関節炎では、感染性関節炎と鑑別しにくい場合もある。化膿性関節炎では、熱感、発赤が非常に強く、白血球は10万レベルになる。一方、炎症性関節炎であれば上がっても白血球は数千から1万程度である。また、化膿性関節炎の関節液では白色の膿が確認されるが、炎症性関節炎の関節液は少し濁っている程度である。炎症性、感染性が除外された場合、単純X線所見と併せて変形性関節症と診断することになる。また、胆嚢疾患や心疾患などの内科疾患が原因で肩関節が痛む関連痛が報告されているが、整形外科に来院する場合もあるので注意が必要である。変形性関節症の特徴的X線所見骨棘形成関節裂隙の狭小化軟骨下骨の硬化関節裂隙の消失関節痛の治療変形性関節症はセルフリミティングな疾患であり、ある程度までしか進行せず自然治癒力が期待できるため治療の緊急性は少ない。NSAIDsで効果を期待できるため、治療初期の2週間ほどはNSAIDsを処方して様子をみて、運動療法を行う。長期にわたり鎮痛効果が必要な場合は、NSAIDsの長期服用による腎障害や胃潰瘍の発現を考慮し、弱オピオイド鎮痛薬の併用あるいは切り替えを検討する。また、変形性関節症ではX線の所見と痛みの程度は必ずしも一致せず、進行した例でも薬物療法や運動療法が有効な場合がある。関節破壊が進展し十分な保存療法を行っても症状の改善が得られず、患者さんの希望するレベルの生活に障害がある場合などは手術の適応を検討する。炎症性関節炎の場合、原因となる内科疾患、関節リウマチであればその治療を、痛風であれば尿酸値を下げるなど、その疾患の治療を行う。感染性疾患は治療に緊急性を要する場合が多い。たとえば化膿性関節炎では、関節破壊が進行し、さらに敗血症で死亡する危険があるため緊急手術を要する。運動療法の積極導入ある程度痛みが軽減したら、運動療法、筋力トレーニング、関節可動域改善のトレーニングを行う。痛みがあると、その部位の筋力が低下していることが多く、運動療法で筋力を回復するだけでも随分痛みが改善することが多い。変性疾患で軟骨が摩耗している変形性膝関節症であれば、むしろ運動療法することでが機能が回復するとされている1)。「痛み=安静」という意識を変え、症状改善のためには、少し痛みが残っていても動くことを勧めるのも治療選択肢であろう。代表的な運動療法としては、肩関節周囲のコッドマン体操や滑車体操、膝関節の大腿四頭筋訓練、股関節の股関節周囲筋筋力体操などがある。いずれの場合も運動療法を導入する際は、管理下の運動療法といって、PTや整形外科医の指導・監視下で行うことが基本であり、その際には、整形外科医との連携を図っていただくべきであろう。高齢者の肩の腱板断裂関節痛とは異なるが整形外科では高齢者の肩の腱板断裂という疾患が近年多くみられるため紹介する。この疾患は、急に肩が動かなくなり、夜も寝られない程の肩の痛みを訴える。しかしながら、単純X線検査では診断がつきにくく、内科からの紹介も多い。検査としてはドロップアームサインがある。腕を上げてバンザイはできるが、肩の腱板が切れているため腕をおろしてゆくと保持できず途中でドロップする。つまり、棚の上の物が取れなくなるが、腕をおろした状態では問題がないため字は書ける。治療として、NSAIDsで痛みをある程度軽減してから、手術療法が必要なければ運動療法により肩の可動域を保持する。症例ごとに最適の疼痛診療を目指す整形外科領域の疼痛の診療にはさまざまなピットフォールがあるが、どんな場合でも痛みの原因を明らかにし、それぞれの症例に適した診療が必要となる。また、疼痛患者さんはどの診療科を受診するかわからず、他診療科からの紹介も多い。整形外科と他診療科が連携して、患者さんの痛みをうまくコントロールしていくことが、超高齢化社会に入っていくこれからの医療には重要なのではないだろうか。参考文献1)岩谷 力 (監修)ほか 変形性膝関節症の保存的治療ガイドブック;メジカルレビュー社2006年

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第9回 説明義務 その3:「説明義務の客体」癌の告知は誰まですべき!?

■今回のテーマのポイント1.法的な説明義務の客体は、診療契約の当事者である患者である2.診療契約の当事者でない家族に対して、患者の同意なく患者情報を提供しても違法とならない場合は限られている3.患者の同意なく、家族に患者情報を提供する法的義務を課すこと及び家族を探索する義務を課すことは、行き過ぎといえるが、判例があるため注意する必要がある事件の概要77歳男性(X)は、昭和60年より虚血性心疾患等にてY病院の循環器科に外来通院していました。平成2年10月に胸部X線を撮影したところ、肺野にコイン様陰影が認められたことから、呼吸器内科医であるA医師にコンサルトし、精査した結果、多発性の肺腫瘍で胸水貯留もあることが判明しました。A医師は、すでに根治的治療は困難であり、Xの余命は長くて1年程度と判断したため、Xに対し、病名を伏せ、肺の検査をするために入院するように勧めました。しかし、Xは、「高齢の妻と2人暮らしのため入院はできない」と拒否しました。また、A医師は、診察に家族を同行するよう依頼しましたが、結局Xは1人で通院してきました。翌月、A医師は、Xの家族には病名を伝えた方がいいと考え、カルテ記載のXの自宅電話番号にも電話しましたが、つながりませんでした。その後、外来主治医がB医師に変更され、2ヵ月通院していましたが、それ以上家族に連絡を取る等は行われませんでした。最終的にXは、他院に入院したものの平成3年10月に死亡しました。なお、Xには、最後まで病名の告知はなされませんでした。これに対し、Xの家族は、Y病院に対し、Xが末期癌であることを本人又は家族である原告らに対し告知しなかったことは、説明義務違反であるとして1600万円の損害賠償請求を行いました。第1審では末期癌の告知をいつ、誰に、どのような方法で行うかは、医師に広範な裁量が認められるとして、原告の請求を棄却しましたが、第2審においては、Xに対して告知しなかったことは違法ではないものの、患者本人に対し告知しないと判断した以上、医師には患者の家族に関する情報を収集する義務があり、必要であれば家族と直接接触するなどして患者家族に対して告知するか否かを検討する義務があるとして、これに違反したY病院に対し120万円の損害賠償責任を認めました。この原審に対し、Y病院が上告したところ、最高裁は、家族に対する説明義務につき、原審を維持したうえで、下記の通り判示しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過77歳男性(X)は、昭和60年より虚血性心疾患等にてY病院の循環器科に外来通院していました。平成2年10月に胸部X線を撮影したところ、肺野にコイン様陰影が認められたことから、呼吸器内科医であるA医師にコンサルトし、精査した結果、多発性の肺腫瘍で胸水貯留もあることが判明しました。12月にA医師の外来を受診した際、Xが前胸部痛を訴えたこと、Y1はすでに根治的治療は困難であり、Xの余命は長くて1年程度と判断したことから、Xに対し、病名を伏せ、肺の検査をするために入院するように勧めました。しかし、Xは、「高齢の妻と2人暮らしのため入院はできない」と拒否しました。また、A医師は、診察に家族を同行するよう依頼しましたが、結局Xは1人で通院してきました。翌1月、A医師は、Xの家族には病名を伝えた方がいいと考え、カルテ記載のXの自宅電話番号にも電話もしましたが、つながりませんでした。A医師は、翌月よりY病院で診療をしなくなることから、Xのカルテに「転移病変につきXの家族に何等かの説明が必要」と記載しました。2月から、外来主治医がB医師に変更されましたが、B医師からは家族に連絡を取る等は行われませんでした。Xは、Y病院にて治療を受けていても前胸部痛が改善しないことから、3月になってZ病院を受診したところ、Z病院の医師CからXの長男に対して、Xが末期肺癌である旨の説明がなされました。最終的にXは、Z病院に入院し、同年10月に死亡しました。なお、Xには、最後まで病名の告知はなされませんでした。事件の判決「医師は、診療契約上の義務として、患者に対し診断結果、治療方針等の説明義務を負担する。そして、患者が末期的疾患にり患し余命が限られている旨の診断をした医師が患者本人にはその旨を告知すべきではないと判断した場合には、患者本人やその家族にとってのその診断結果の重大性に照らすと、当該医師は、診療契約に付随する義務として、少なくとも、患者の家族等のうち連絡が容易な者に対しては接触し、同人又は同人を介して更に接触できた家族等に対する告知の適否を検討し、告知が適当であると判断できたときには、その診断結果等を説明すべき義務を負うものといわなければならない。なぜならば、このようにして告知を受けた家族等の側では、医師側の治療方針を理解した上で、物心両面において患者の治療を支え、また、患者の余命がより安らかで充実したものとなるように家族等としてのできる限りの手厚い配慮をすることができることになり、適時の告知によって行われるであろうこのような家族等の協力と配慮は、患者本人にとって法的保護に値する利益であるというべきであるからである。これを本件についてみるに、Xの診察をしたA医師は、前記のとおり、一応はXの家族との接触を図るため、Xに対し、入院を1度勧め、家族を同伴しての来診を1度勧め、あるいはカルテに患者の家族に対する説明が必要である旨を記載したものの、カルテにおけるXの家族関係の記載を確認することや診察時に定期的に持参される保険証の内容を本件病院の受付担当者に確認させることなどによって判明するXの家族に容易に連絡を取ることができたにもかかわらず、その旨の措置を講ずることなどもせず、また、本件病院の他の医師らは、A医師の残したカルテの記載にもかかわらず、Xの家族等に対する告知の適否を検討するためにXの家族らに連絡を取るなどして接触しようとはしなかったものである。このようにして、本件病院の医師らは、Xの家族等と連絡を取らず、Xの家族等への告知の適否を検討しなかったものであるところ、被上告人〔患者側〕については告知を受けることにつき格別障害となるべき事情はなかったものであるから、本件病院の医師らは、連絡の容易な家族として、又は連絡の容易な家族を介して、少なくとも同被上告人らと接触し、同被上告人らに対する告知の適否を検討すれば、同被上告人らが告知に適する者であることが判断でき、同被上告人らに対してAの病状等について告知することができたものということができる。そうすると、本件病院の医師らの上記のような対応は、余命が限られていると診断された末期がんにり患している患者に対するものとして不十分なものであり、同医師らには、患者の家族等と連絡を取るなどして接触を図り、告知するに適した家族等に対して患者の病状等を告知すべき義務の違反があったといわざるを得ない」(最判平成14年9月24日民集207号175頁)ポイント解説今回は3回にわたる説明義務の最終回となります。テーマは、「説明義務の客体」についてです。診療契約は、医療機関(*医師個人ではないことに注意〔第8回参照〕)と患者個人との間で締結されています。したがって、患者以外の第三者は、たとえ家族であったとしても法律上の関係がない第三者ですから、原則として契約上の義務である説明義務の対象とはなり得ません。特に、医師等医療従事者には刑法134条1項(秘密漏示)※1等に守秘義務が定められており、違反した場合には刑事罰が科されることもありますので、たとえ患者家族であったとしても(家族間で相続争いがある場合など、往々にして紛争の種になることがあります)みだりに第三者に患者の情報を伝えることは許されないといえます。さらに、本最高裁判決後である平成15年に成立し、平成17年に全面施行となった「個人情報保護法」※2からも、患者の同意なく第三者に患者情報を提供することは、原則的には許されない(個人情報保護法23条1項)ことから、本判決との整合的理解が必要となります。●患者本人の同意なく家族に病状を伝えることは違法か?それでは、患者の同意なく家族に患者情報を伝えることは、一切許されないかと問われるとそうではありません。刑法134条1項は「正当な理由」がある場合には、医師等が患者の情報を第三者に提供しても守秘義務違反にはならないとしています。したがって、家族に病状を伝えることが「正当な理由」に該当するのは、どういった場合かが問題となります。この点、現在は、個人情報保護法がありますので、個人情報保護法上、適法に第三者に提供できる場合は、少なくとも「正当な理由」に該当すると考えられます。すなわち、個人情報保護法23条1項各号に該当する場合には「正当な理由」に該当する結果、守秘義務違反とならないと考えられます。したがって、患者の同意なく家族に病状を伝える場合であっても、個人情報保護法23条1項2号「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」に該当するような場合、すなわち、意識がない患者又は重度の認知症の高齢者などにおいて、病状や状況を家族等に説明する場合には、患者の同意がなくても「正当な理由」があると考えられます。ただし、その場合であっても「本人の家族等であることを確認した上で、治療等を行うに当たり必要な範囲で、情報提供を行うとともに、本人の過去の病歴、治療歴等について情報の取得を行う。本人の意識が回復した際には、速やかに、提供及び取得した個人情報の内容とその相手について本人に説明するとともに、本人からの申し出があった場合、取得した個人情報の内容の訂正等、病状の説明を行う家族等の対象者の変更等を行う」(国立大学附属病院における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン)ことが必要と考えられます。●適法に患者家族に病状を伝えるための方法は?しかし、患者の同意が不要となるのが、そのような特別な場合だけに限るとすると、日常診療に多大な支障をきたすことになるのは明らかです。そのため、現在の実務運用としては、診療に関する患者情報の家族への提供は、「院内掲示」を用いた事前の包括的同意取得によって、患者の同意を得ているとして適法に行えることにしています。つまり、「国立大学附属病院については、患者に適切な医療サービスを提供する目的のために、当該国立大学附属病院において、通常必要と考えられる個人情報の利用範囲を施設内への掲示(院内掲示)により明らかにしておき、患者側から特段明確な反対・留保の意思表示がない場合には、これらの範囲での個人情報の利用について同意が得られているものと考えられる」(国立大学附属病院における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン)としており、この院内掲示に「患者さんの家族への病状説明」と記載することで、包括的同意を取得していることとなるため、家族への病状説明が適法になるのです。●本判決の整合的理解さて、患者の同意なく家族に病状を伝えても違法とはならない場合は理解できましたが、だからといって、そのような場合においては、当然に患者の同意なく家族に病状を伝えなければならない(=伝えないことが違法)ということにはなりません。たとえば、救急搬送された患者が覚せい剤を使用していることが判明した場合、その旨を警察に通報することは、「医師が、必要な治療または検査の過程で採取した患者の尿から違法な薬物成分を検出した場合に、これを捜査機関に通報することは、正当行為として許容されるものであって、医師の守秘義務に違反しないというべきである」(最判平成17年7月19日刑集第59巻6号600頁)とされていますが、逆に警察に伝えなかったからといっても違法にはなりません。そして、現在の法律上、患者の同意なくとも第三者に患者情報を提供する義務が課されているのは、 (児童虐待の防止等に関する法律第6条1項)児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。 (同法同条3項)刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第1項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。 や麻薬及び向精神薬取締法、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律、食品衛生法等特殊な場合に限られています。本件では、医師が、医学的な判断から患者本人に癌告知をしないとした場合において、患者の同意なく家族に病状を伝えようとした場合ですが、個人情報保護法を踏まえた現在の解釈としては、同法23条1項2号に該当するといえますので、家族に伝えることが違法にはならないと考えられます。しかし、それを超えて契約関係にもない家族に伝えないことが違法かと問われると、何らの法律もない現状においては判断が分かれると考えます。特に、捜査機関ではない医療機関に、家族を探して連絡を取る義務(探索義務)を課すことは、たとえ患者や家族にとって重大な事実であったとしても行き過ぎといえます。しかも本件では、患者に「入院を1度勧め、家族を同伴しての来診を1度勧め、あるいはカルテに患者の家族に対する説明が必要である旨を記載」しているにもかかわらず、なお探索義務を尽くしていないとされています。探索義務に関連する他の判例としては、「医師としては真実と異なる病名を告げた結果、患者が自己の病状を重大視せず治療に協力しなくなることのないように相応の配慮をする必要がある。しかし、A医師は、入院による精密な検査を受けさせるため、Xに対して手術の必要な重度の胆石症であると説明して入院を指示し、二回の診察のいずれの場合においても同女から入院の同意を得ていたが、同女はその後に同医師に相談せずに入院を中止して来院しなくなったというのであって、同医師の右の配慮が欠けていたということはできない」(最判平成7年4月25日民集49巻4号1163頁)としているものや、「患者の疾患について、どのような治療を受けるかを決定するのは、患者本人である。医師が患者に対し治療法等の説明をしなければならないとされているのも、治療法の選択をする前提として患者が自己の病状等を理解する必要があるからである。そして、医師が患者本人に対する説明義務を果たし、その結果、患者が自己に対する治療法を選択したのであれば、医師はその選択を尊重すべきであり、かつそれに従って治療を行えば医師としての法的義務を果たしたといえる。このことは、仮にその治療法が疾患に対する最適な方法ではないとしても、変わりはないのである。そうだとすれば、医師は、患者本人に対し適切な説明をしたのであれば、更に近親者へ告知する必要はないと考えるのが相当である」(名古屋地判平成19年6月14日判タ1266号271頁)としたものがあります。これらを総合すると、1度では違法で2度だと適法というようにもみえますが、そういった問題なのでしょうか?倫理的に家族をできる限り探したほうがよいとすることは構いませんが、契約関係にもなく、法律上の明文もなく、場合によっては、先に述べたように相続等紛争にも発展しかねないことなども考えると、本判決は裁判所の行き過ぎた判断といえるのではないでしょうか。本判決がでた時代には、医療バッシングの風に流され、法と倫理の相違をわきまえず、明示された条文なしに裁判官自らの倫理観のみで、違法と判断する判決が多々生まれ、その結果、萎縮医療、医療崩壊が生じました。司法はその役割を自覚し、法律に基づく判断をするべきものと考えます。 ※1.(刑法134条1項)医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。※2.(個人情報の保護に関する法律23条1項)個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。一法令に基づく場合二人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。三公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。四国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。最判平成14年9月24日民集207号175頁最判平成17年7月19日刑集第59巻6号600頁最判平成7年4月25日民集49巻4号1163頁名古屋地判平成19年6月14日判タ1266号271頁

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慢性腰痛治療のエビデンス、高周波神経切離術は良、神経ブロックは可~良

 腰椎椎間関節への治療介入の効果に関する最新知見について、米国・Mid Atlantic Spine & Pain PhysiciansのFrank J.E. Falco氏らによるシステマティックレビューの結果が発表された。従来法の高周波神経切離術の使用に関するエビデンスは良(good)、腰椎椎間関節の慢性疼痛治療のための神経ブロックのエビデンスは可~良(fair to good)であり、短期または長期に鎮静が得られ身体的機能の改善が認められたことが明らかになったという。一方で、関節内注射やパルス高周波サーモ神経切離術(Pulsed radiofrequency thermoneurolysis)のエビデンスは十分ではなかったとまとめている。Pain Physician誌2012年11月15日号の掲載報告。 研究グループは、慢性腰痛マネジメントにおける腰椎椎間関節介入の影響について評価・更新を目的としたシステマティックレビューを行った。 エビデンスは、米国予防医療作業部会(USPSTF)によって開発された質的評価に基づき、良(good)、可(fair)、限定的あるいは不十分(limitedかpoor)にレベル分類した。 解析に組み込んだのは、1966年~2012年6月までのPubMed、EMBASEと、先行主要レビューの参考文献調査で同定された関連文献などであった。 主要評価アウトカム尺度は、短期軽減(最長6ヵ月)と長期軽減(12ヵ月)とした。副次アウトカム尺度には、身体的機能状態の改善、精神状態、職場復帰、オピオイドの減量などを含んだ。 主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューには、122研究が組み込まれた。・試験・研究の方法論が良質であった(評価の包含基準を満たした)のは、11の無作為試験と14の観察研究であった。・短期および長期の改善について、高周波神経切離術のエビデンスは良であった。腰椎椎間関節神経ブロックについては可~良であった。・一方で、関節内注射とパルス高周波法神経切離術のエビデンスは限定的であった。・このレビューには、エビデンスが不十分なデータも組み込まれている(とくに、関節内注射療法について)という点に留意が必要である。

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聖路加GENERAL 【一般診療に役立つ腫瘍内科学】

第1回「がんの一般情報について」第2回「Oncologic emergenciesとがん性疼痛管理について」 第1回「がんの一般情報について」「日本人の約3人に1人はがんで死亡する」「日本人の約2人に1人はがんに罹る」という言葉からは、「がんの恐ろしさ」だけではなく、「がんにかかっても一定数は治っている」ことが読み取れます。がんを治すためには、早期発見が原則です。しかしながら、がんは初期症状が出ないのが特徴。では、一体どこからがんを疑えばよいのでしょうか。脳腫瘍の場合は、「頭痛」「嘔吐」「うっ血乳頭」が三徴として知られていますが、実際にはそのような明確な徴候よりもむしろ、「だるい」「調子が悪い」「食欲がない」などと訴えてくることがほとんどです。つまり、どんな患者さんに対しても、がんの可能性を意識することが第一歩となるのです。がんの早期発見のためのポイントをはじめ、がん治療中患者が風邪などで来院した場合の注意点や、performancestatus に基づくがんの治療方針など、プライマリ・ケア医が知っておくべき、がん情報のエッセンスを届けます。第2回「Oncologic emergenciesとがん性疼痛管理について」がんは慢性疾患のひとつと捉えられますが、救急処置が必要な「Oncologicemergencies」という病態があります。たとえばSAIDH は、肺がんなど、がん自体に起因するほかプラチナ系のシスプラチンなどの治療薬が原因となることもあります。また、がんの既往がある患者に脊髄圧迫による疼痛や高カルシウム血症などが発症した場合は、すぐに病院に送る必要のある症状かどうかの見極めが重要です。まずOncologic emergenciesの具体的な対処法について、そして後半は、がんの疼痛管理についてお伝えします。薬のおかげで痛みが減って、“我慢できるようになった”ではダメ。痛み“0”を目指すためには、積極的な麻薬の使用が必要です。現場ではなかなか使われない麻薬について、その使い方と注意点を解説します。

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プライマリ・ケア慢性腰痛患者の2.9%で高用量オピオイド(中央値180.0mg/日)処方

 長期にオピオイド療法を受けている慢性腰痛患者のうち、高用量オピオイドの処方を受けている患者は8.6%であり、慢性腰痛患者全体では2.9%にあたることが明らかにされた。米国・オレゴン健康科学大学のAmy M Kobus氏らがプライマリ・ケアでの腰痛患者の高用量オピオイド使用について調査した結果で、それら患者は、メンタルヘルスの問題や複数の内科疾患を有している割合も高く、潜在的に安全性が懸念される催眠・鎮静薬の複数処方を受けていることも確認されたと報告した。これまで、非がん性疼痛に対する高用量オピオイド療法の関連因子はほとんど明らかになっていなかった。Journal of Pain誌11月号の掲載報告。 研究グループは、腰痛患者における高用量オピオイド使用の出現率を、人口統計学的、臨床的および医療サービス利用と関連づけて調べた。 高用量オピオイド(モルヒネ相当量≧100mg/日と定義)を90日以上連続で使用している患者を、低用量オピオイド使用群(1~99mg/日)および非オピオイド使用群と比較した。 主な結果は以下のとおり。・高用量オピオイド使用群は453例、低用量群は4,815例、非使用群は1万184例であった(全対象総計1万5,452例)。・高用量オピオイド使用患者は全対象患者の2.9%であり、オピオイド使用患者のうち8.6%が高用量・長期使用患者であった。・高用量オピオイド群の使用量中央値は、180.0mg/日であった。・非使用群と比較して高用量群の健康状態は、より不良であることが報告されていた。・あらゆる群間比較において、高用量群はメンタルヘルスや依存症を有し催眠・鎮静薬を同時使用している割合が高く(60.5%、274例)、医療サービスの利用も高かった。・共変量選択法による補正後、高用量オピオイド処方尤度が高かったのは、男性[オッズ比(OR):1.68、95%CI:1.37~2.06]、併存疾患が多い、メディケア被保険者(同:1.65、1.22~2.23)、メンタルヘルスあるいは依存症がある(同:1.58、1.28~1.95)、催眠・鎮静薬の同時処方を受けている(同:1.75、1.42~2.16)、そして救急外来や専門ペインクリニック外来の受診がより多い人であった。

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疼痛治療「プラセボでも一定の効果が」臨床試験に課題も

 線維筋痛症(FMS)の症状軽減に対しプラセボ以上の治療効果が期待できる薬物療法は少なく、有害事象による脱落率が増加するといわれてきた。最近のシステマティックレビューによると、慢性疼痛の試験において、治療薬の有用性や副作用のかなりの割合は、プラセボに起因することが実証された。Winfried Häuser氏らはプラセボおよびノセボ反応(プラセボにより副作用が発現すること)の大きさを測定し、FMS適応承認のための医薬品の臨床試験においてそれらが薬の有用性に及ぼす影響を評価した。Clinical and experimental rheumatology誌オンライン版2012年11月8日号の報告。 FMS患者を対象とした、デュロキセチン、ミルナシプラン、プレガバリン、ナトリウムオキシベートを用いた無作為化二重盲検プラセボ対照試験のうち、2012年6月30日までに報告された試験を、CENTRAL、MEDLINE、clinicaltrials.govより検索した。プラセボへの反応は、プラセボにより痛みが50%軽減する推定値を評価した。ノセボ反応は、プラセボ群における有害事象による推定脱落値を評価した。 主な結果は以下のとおり。・プラセボ群3,546例を含む18試験が抽出された。・プラセボにより痛みが50%軽減する推定値は18.6%であった(95%CI:17.4~19.9)。・プラセボ群における有害事象による推定脱落値は10.9%であった(95%CI:9.9~11.9)。・臨床ではプラセボ効果を期待する場合もあるが、治験医師はプラセボ効果を低下させることを目指している。また、臨床試験においてはノセボ反応を減らすことが重要である。関連医療ニュース ・とくにうつ病患者は要注意?慢性疼痛時のオピオイド使用 ・検証!デュロキセチンvs.他の抗うつ薬:システマティックレビュー ・「片頭痛の慢性化」と「うつ」の関係

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抗うつ薬だけじゃない!うつ病寛解を目指す「共同ケア」の効果は?

 うつ病に対する共同ケア(collaborative care)の有効性について評価した結果、抑うつおよび不安アウトカムが、通常ケアと比べて改善することが、英国・マンチェスター大学のArcher氏らによるシステマティックレビューの結果より示された。著者は、「抑うつ・不安症状を呈する成人患者の臨床治療に有用であることが示された」と結論している。Cochrane Database Syst Rev2012年10月17日号の報告。英国では、よくあるメンタルヘルスの問題として人口の最大15%が抑うつや不安症状を有すると推定されており、世界的にもこれらの症状の影響や負荷を減らすための効果的な介入が求められている。共同ケアは、慢性疾患マネジメントモデルをベースとする複合的な介入で、メンタルヘルスのマネジメントにおいても有望視されている。 2012年2月までに、MEDLINEやEMBASEなどから関連する無作為化試験を登録しているCochrane Collaboration Depression, Anxiety and Neurosis Group(CCDAN)試験レジスターを検索した。適格試験は、抑うつまたは不安を呈するあらゆる年齢を対象とした共同ケアについての無作為化試験とした。2人の独立したレビュワーがデータ抽出を行い、バイアスリスクの検証とともに、標準化された平均差(SMD)およびリスク比(いずれも95%CIを伴う)を統合算出して検討した。結果の妥当性について感度解析も行った。主な結果は以下のとおり。・無作為化試験79件(関連性のある比較90件を含む)、参加者計2万4,308例を組み込んだ。・試験は、バイアスリスクにより差があった。・主要解析の結果、共同ケアモデルで治療されたうつ病成人患者は、介入が短期、中期、長期を問わず、抑うつ症状のアウトカムについて有意に顕著な改善を示した。短期介入のSMDは-0.34(95%CI:-0.41~-0.27)、RRは1.32(95%CI:1.22~1.43)、中期介入のSMDは-0.28(同:-0.41~-0.15)、RRは1.31(同:1.17~1.48)、長期介入のSMDは-0.35(同:-0.46~-0.24)、RRは1.29(同:1.18~1.41)であった。・しかしながら、これらの有意なベネフィットは、非常に長期にわたる介入においては示されなかった(RR:1.12、95%CI:0.98~1.27)。・不安症状のアウトカムについても同様の結果が示された。短期介入のSMDは-0.30(95%CI:-0.44~-0.17)、RRは1.50(95%CI:1.21~1.87)、中期介入のSMDは-0.33(同:-0.47~-0.19)、RRは1.41(同:1.18~1.69)、長期介入のSMDは-0.20(同:-0.34~-0.06)、RRは1.26(同:1.11~1.42)であった。・不安症状アウトカムについては、非常に長期にわたる介入の比較試験がなかった。・薬物療法、メンタルヘルスQOL、患者満足度を含んだ副次アウトカムでも、ベネフィットがあるとのエビデンスが認められた。しかし、身体的QOLに関するベネフィットについては、エビデンスが乏しかった。関連医療ニュース ・【学会レポート】抗うつ効果の予測と最適な薬剤選択 ・世界初!「WEB版」気分変動アンケート、その後の臨床に有益 ・うつ病患者は要注意?慢性疼痛時のオピオイド使用

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「片頭痛の慢性化」と「うつ」の関係

 頭痛は精神的なストレスと密接に関係しており、うつ病と頭痛の関係についてさまざまな報告がなされている。アルバート・アインシュタイン医科大学(米国ニューヨーク州ブロンクス)のAshina氏らは、片頭痛の慢性化とうつ病との関係を検討した。J Headache Pain誌オンライン版2012年9月25日号の報告。 2004年のAmerican Migraine Prevalence and Prevention(AMPP)研究で激しい頭痛を有していた患者24,000例をフォローアップし、2005年~2006年に片頭痛エピソードがみられた患者が翌年慢性片頭痛を発症するかを、ランダム効果ロジスティック回帰分析を用い検討した。うつ病は、こころとからだの質問票(PHQ-9スコア)15以上と自己申告診断の2つの方法で評価した。分析は、社会人口統計、BMI、頭痛の強さ・頻度・重症度、皮膚異痛症、急性薬物乱用、抗うつ剤の使用や不安など、複数の共変量にて調整した。主な結果は以下のとおり。・2005年に片頭痛エピソードがみられた患者6,657例のうち、翌年160例(2.4%)が慢性片頭痛を発症した。また、2006年に片頭痛エピソードがみられた患者6,852例のうち、翌年144例(2.2%)が慢性片頭痛を発症した。・完全調整後の結果によると、うつ病は慢性片頭痛発症の有意な予測因子であることが示された(OR 1.65、95%CI:1.12~2.45)。・うつ病でない人や軽度うつ病患者と比較した慢性片頭痛発症の相対リスクは、中等度患者(OR 1.77、95%CI:1.25~2.52)、重度患者(OR 2.35、95%CI:1.53~3.62)、非常に重度な患者(OR 2.53、95%CI:1.52~4.21)であった。・片頭痛エピソードを有する患者において、うつ病は慢性片頭痛発症リスク増加との関連が認められた(社会人口統計学的変数や頭痛の特性で調整後)。関連医療ニュース ・検証!「痛み」と「うつ」関係は? ・うつ病患者は要注意?慢性疼痛時のオピオイド使用 ・うつ病の予測因子は青年期の「腹痛」?

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とくにうつ病患者は要注意?慢性疼痛時のオピオイド使用

 オピオイド製剤はがん性疼痛だけでなく慢性疼痛に対しても有用であると報告されている。しかし、患者の自己判断による治療中止率は高く、オピオイド治療を継続させるためにはオピオイドの有用性の認知について対策が重要である。米国Howe氏らは有効なオピオイドによる治療を受けている患者において、オピオイド治療の中止あるいは減量を望む予測因子を検討するため、オピオイド使用に関する両価性とうつ病について調査した。Clin J Pain誌2012年9月号の報告。 オピオイド療法により疼痛管理可能であった非がん性疼痛患者1,737例における横断調査を実施した。オピオイド使用に関する両価性は患者からオピオイド使用の中止や減量に関する訴えにより評価した。うつ病は8項目の患者健康調査票を用い評価した。主な結果は以下のとおり。・オピオイドが有効だとわかっていても、43.3%の患者はオピオイドの中止または減量を望んでいた。・オピオイドの中止または減量を望む患者の半数は、望まなかった患者の3分の1 と比較し有意に臨床的な抑うつ状態であった(p

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