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移植患者に対するワクチン接種/日本造血・免疫細胞療法学会

 造血幹細胞移植後の患者において、ワクチン接種は感染症予防のための重要な手段となる。しかし、免疫再構築の個別性やワクチン免疫原性の低下、さらには費用・制度面の課題などにより、実臨床における実装状況には施設間差が見られる。 2026年2月27日~3月1日に開催された第48回日本造血・免疫細胞療法学会総会では、「移植患者に対するワクチン接種」をテーマとしたシンポジウムが企画され、国内実態調査、優先度の高い予防接種の科学的根拠、実臨床における運用体制という3つの視点から、移植後ワクチン接種の現状と課題が提示された。造血幹細胞移植後のワクチン接種に関する国内実態調査より 冒頭、黒澤 彩子氏(伊那中央病院 腫瘍内科)は造血幹細胞移植後のワクチン接種に関する日本国内の実態を把握するために実施された全国規模のアンケート調査の結果について報告した。本調査は、厚生労働科学研究費補助金による研究班の一環として行われたもので、日本国内の移植認定施設(成人診療科・小児科)を対象に実施され、85%(成人診療科施設86%、小児科施設85%)という非常に高い回答率が得られている。 移植後は免疫が再構築される過程で既存の免疫が失われるため、ワクチン再接種が必要とされるが、その方針や実際の接種状況、さらにワクチンで予防可能な疾患(vaccine-preventable diseases:VPD)の発症状況を把握し、今後の施策や提言につなげることが本調査の目的であった。 まず、ワクチン再接種に対する認識について、同種移植後では成人診療科・小児科ともにほぼ100%の施設がその必要性と重要性を認識しており、約75〜80%の施設で統一した接種方針が定められていた。一方、自家移植後では診療科間で大きな差が見られた。小児科では約70%が必要性を認識し、半数以上が統一方針を有していたのに対し、成人診療科では必要性の認識は24%にとどまり、方針を持つ施設はわずか6%であった。その背景として「有用性が低い」「コストの問題」などが挙げられ、自家移植後の位置付けが十分に共有されていない実態が浮き彫りとなった。 接種されているワクチンの種類にも違いがある。回答した成人診療科の80%以上が“推奨”と回答したものはインフルエンザウイルス、肺炎球菌、麻疹風疹混合(MR)であり、接種率についてはそのうちインフルエンザと肺炎球菌で高い(対象の半数以上に接種という回答が75%超)傾向にあった。一方、小児科ではMR、おたふくかぜ、水痘、ヘモフィルス・インフルエンザ菌b型(Hib)、インフルエンザウイルスについて8割を超える施設が“推奨”とし、接種率も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を除いて成人診療科と比較して小児科で高かった。施設体制の面では、すべてのワクチンを院内で接種可能な施設は20〜30%にとどまり、70〜80%の施設ではワクチンの種類や症例によっては接種を他院へ依頼しているという現状が示された。 水痘・帯状疱疹対策では、成人診療科では不活化ワクチンの推奨が進む一方、高額な費用負担が障壁となっている。不活化帯状疱疹ワクチンは18歳未満に適応がなく、小児は水痘に未罹患なことが多いため、小児科では水痘予防として生ワクチンが主に使用されている。また、抗ウイルス薬は移植後1〜2年、あるいは免疫抑制薬終了時まで予防投与されることが多いが、投与のタイミングや中止時期には施設間でばらつきがあった。 VPDの発症経験については、成人診療科・小児科ともに60〜90%の施設がCOVID-19、インフルエンザ、帯状疱疹、肺炎球菌感染症などを経験しており、移植患者が依然として高リスクであることが示された。死亡例は成人診療科では半数以上の施設が経験しており、とくにCOVID-19の影響が大きかった。一方、小児科では80%以上の施設が死亡例なしと回答し、成人診療科と比べて致死的転帰は少ない傾向が見られた。注目すべきは、自家移植後であってもVPD発症は決して少なくなく、軽視できない点である。加えて、COVID-19については、致死率の観点からとくに成人診療科において重要な課題であることが示された。一方で、ワクチン接種率はインフルエンザや肺炎球菌と比較して低く、対象の半数以上に接種しているとの回答は50%未満にとどまっており、この点も本調査より明らかとなった。 ワクチン接種率向上のための課題として、保険収載、自治体等による費用助成、長期フォローアップ(long-term follow-up:LTFU)体制の強化、最新の推奨を反映した資材の整備などが挙げられた。総じて、同種移植後の再接種の重要性は定着している一方で、自家移植後の再接種に関する認識不足や成人領域での接種されるワクチンの種類が限定されていること、さらに自己負担による費用面の問題が大きな障壁となっている。今後は制度的整備と情報の標準化を進め、移植患者をVPDから守る体制の構築が不可欠であると黒澤氏は結論付けた。同種移植患者に対する優先度の高い予防接種に関する研究について 同種造血幹細胞移植後の長期生存例が増加する一方、晩期合併症としての感染症対策は依然として重要な課題となっている。とくに移植後晩期には液性免疫の回復が遅延し、VPDに対する防御能が十分に再構築されない症例が少なくない。このような背景において、冲中 敬二氏(国立がん研究センター東病院 感染症科/造血幹細胞移植科)は、同種造血幹細胞移植患者に対する優先度の高いワクチン接種について、晩期感染症の疾病負荷および再接種戦略の最新エビデンスを整理し講演した。 移植後晩期に問題となるのは、肺炎球菌などの被包化細菌、帯状疱疹・単純ヘルペスを含むヘルペスウイルス群、さらに呼吸器ウイルスなどである。なかでも、移植片対宿主病(GVHD)予防として普及した移植後シクロホスファミド(PTCy)を用いたレジメンでは、CD4陽性T細胞の回復遅延に加え、サイトメガロウイルス(CMV)感染や非CMVヘルペスウイルス感染(HHV-6血症)、呼吸器ウイルス感染などの増加が米国のレジストリ解析によって示唆されている。このように、移植後晩期には液性免疫不全のみならず細胞性免疫の再構築不全も問題となることは少なくない。 海外でのアンケート調査によると、成人患者の40%以上が移植後晩期にVPD(インフルエンザ様疾患、帯状疱疹、子宮頸部細胞診異常など)を経験していることが示されている。小児データベース研究では、VPD発症頻度は7%程度と低いものの、帯状疱疹や侵襲性肺炎球菌感染症、インフルエンザなどの発症中央値は移植後190~300日で、移植から6ヵ月以降に多いことがわかる。すなわち、移植後晩期も感染症のリスクは持続し、長期にわたる免疫学的脆弱性を前提とした管理が必要となる。 同種移植患者の市中肺炎罹患率は一般人口より著明に高く、原因菌として肺炎球菌が約9%と最も頻度が高く、重症化リスクも高いことが海外から報告されている。呼吸器ウイルス感染については、RSウイルス(RSV)、インフルエンザ、COVID-19の米国での罹患後30日以内の寄与死亡率が4~6%とされ、日本からはインフルエンザ罹患後90日以内の寄与死亡率が2.2%とのデータが示されている。日本では約4分の3の症例で発症48時間以内に抗ウイルス薬が処方されているのに対し、米国では同期間内に処方を受ける症例は約4分の1にとどまっており、この差が寄与死亡率の違いの一因と考えられる。呼吸器ウイルス感染症を疑う症状が出現した際には、速やかな受診を促す患者教育の重要性が示唆される。 院内感染で呼吸器ウイルス感染症に罹患した場合はさらに予後が不良であり、院内での伝播は防がなければいけない。このためには外来での呼吸器感染症状スクリーニング、必要に応じた迅速PCR診断、感染判明時の接触・飛沫予防策の徹底が推奨される。また、患者本人のみならず同居家族や医療従事者へのワクチン接種も重要な間接防御策となる。 免疫記憶の消失も見逃せない。国内データでは、麻疹・ムンプス・風疹(MMR)の抗体保有率が移植5年で50%未満に低下しえること、B型肝炎表面(HBs)抗体の陰性化が再活性化リスクに関与することが示されている。つまり、小児期に定期接種歴があっても、移植後の防御免疫は保証されないことになる。このため、移植後のワクチン再接種が重要となり、厚労科研研究班は優先度の高いワクチン再接種に関する研究を通じ、水痘、MMR、ジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)、肺炎球菌、B型肝炎ウイルス(HBV)などのワクチン再接種戦略をレビューしている。加えて、帯状疱疹ワクチン、RSVワクチン、COVID-19ワクチンなど、新規・更新ワクチンの有効性データも蓄積されつつある。 冲中氏は、同種移植患者では、晩期においても液性免疫不全が残存し、VPDは現実的かつ重篤な脅威となるとし、「免疫再構築の特性、GVHD治療状況、地域流行状況を踏まえ、計画的かつ優先順位を明確にしたワクチン再接種を実装することが、長期予後改善には重要となる」と強調した。同種造血細胞移植患者におけるワクチン接種の実際 移植後の患者では、続発性免疫不全や既存免疫記憶の低下により感染症リスクが高まるため、移植後の再予防接種が重要であることは広く認識されている。しかし、実際にワクチン再接種を確実に実施するためには、院内外での運用体制の整備が不可欠となる。そこで、森 有紀氏(虎の門病院 輸血・細胞治療部/造血細胞移植後長期フォローアップセンター)は、実臨床でワクチン接種を円滑に進める具体例として、虎の門病院における体制整備や役割分担の取り組みを紹介し、移植後ワクチン接種を実装するためのポイントについて解説した。 移植後ワクチン接種の運用体制を整備するには、まず、どこで接種を行うのか(移植施設か他の医療機関か)を明確にする必要がある。そのうえで、どの診療科が中心となって担うのか(血液内科、感染症科、小児科、一般内科など)を決め、さらに看護師や薬剤師を含めた多職種連携を具体的に設計していくことが求められる。 虎の門病院では、LTFU外来で血液内科医が適応と開始時期を判断し、その後臨床感染症科医へ紹介して、詳細説明、スケジュール作成、実際の接種を行う分業体制を構築することで専門性を担保しつつ、マンパワーの軽減にもつながっている。 一方、他の医療機関に接種を依頼する場合、移植施設側が適応判断を行い、紹介状や説明文書、患者手帳などを活用して情報共有を徹底することが重要である。とくにクリニック等に紹介する際には、具体的な日程を記載した接種スケジュールの提案や、無断キャンセル防止に関する事前説明(ワクチンを個別に取り寄せる場合があるため)なども大切なポイントとなる。 接種手順は、適応・開始時期の判断、インフォームド・コンセント、接種スケジュール作成、接種、接種後の注意点説明の流れとなる。ガイドラインでは、不活化ワクチンは、GVHDの増悪がなければ移植後3ヵ月(種別により6ヵ月ないし12ヵ月)を経過した後接種可能となっているが、開始時期が遅いほど免疫応答が得られやすいとされる。生ワクチンは、免疫抑制薬が終了し慢性GVHDを認めなければ移植後24ヵ月以降で接種可能とされるが、十分な免疫回復や輸血および所定の薬剤との間隔などの条件を満たすことが前提となる。いずれにしても、個々の患者の状況に応じた判断が必要となる。 さらに、帯状疱疹ワクチン接種後の抗体価上昇や安全性に関する施設データの提示、情報共有テンプレートの整備などの実践的工夫も紹介された。一方で、多くが任意接種・自費負担であること、自治体助成が限定的であること、接種歴証明の困難さや年齢制限といった制度的課題も残されている。 最後に森氏は「移植後ワクチン接種は、単なる推奨事項ではなく、長期予後を左右する重要な支持療法である。各施設の実情に応じた体制構築と地域連携を通じて、標準化と実装を進めていくことが、今後の移植医療の質向上に直結する」と締めくくった。

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CD19-CAR-T細胞療法/日本造血・免疫細胞療法学会

 CD19キメラ抗原受容体T(CD19-CAR-T)細胞療法は、再発・難治性B細胞性悪性腫瘍に対する革新的な細胞免疫療法であり、急性リンパ芽球性白血病(ALL)や大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)を中心に臨床実装が進んでいる。 2026年2月27日~3月1日に開催された第48回日本造血・免疫細胞療法学会総会では、「CD19-CAR-T細胞療法」をテーマとしたシンポジウムが開催され、ALLやLBCLに対する治療の進化と課題、さらに治療アクセスの課題などを含めた包括的な議論が展開された。CD19-CAR-T細胞療法はすでに重要な治療選択肢として位置付けられている中で、その治療最適化に伴い、治療戦略の再設計や医療提供体制の整備などが同時に求められる段階に入っていることが示された。LBCLに対するCD19-CAR-T細胞療法の最前線 冒頭、米国のCaron Jacobson氏(米国・Dana-Farber Cancer Institute)は、LBCLにおけるCD19-CAR-T細胞療法の現状と将来展望について、主要な臨床試験データを基に包括的に概説した。 まず、3つの主要臨床試験により、LBCLに対するCD19-CAR-T細胞療法(Axi-cel、Tisa-cel、Liso-cel)の長期寛解の可能性が示され、再発・難治性患者の約40%で長期寛解が達成されていることが確認された。さらに、長期寛解を維持している患者の多くが、CAR-T細胞投与後に微小残存病変(MRD)陰性を達成していることも示されている。 また、CD19-CAR-T細胞療法は治療戦略のタイミングにも大きなパラダイムシフトをもたらしている。ZUMA-7試験(Axi-cel)やTRANSFORM試験(Liso-cel)などの第III相試験では、ハイリスク患者に対して二次治療の段階でCAR-T細胞療法を早期導入することにより、従来の化学療法および自家幹細胞移植と比較して、無イベント生存率(EFS)が有意に改善することが示された。一方で、三次治療以降にCAR-T細胞療法を施行した患者では治療成績が低下する傾向がみられ、投与時期の遅れが治癒機会の減少につながる可能性が示唆された。さらに、リアルワールドデータ(CIBMTR解析)もこれらの知見を支持しており、併存疾患や攻撃的な疾患生物学的背景により臨床試験の対象外であった患者においても、有効性および安全性がおおむね再現されていることが示された。 続いて、次世代CAR-T細胞製品の開発動向が紹介された。CD19/CD20二重標的CAR-Tや、迅速製造プロセスを導入した製品(例:KITE-753)などが開発されており、T細胞の幹性(stemness)を維持・向上させながら毒性を抑制し、高い完全寛解率(CR)を確保することを目指している。また、CD19陰性再発への対応策として、CD22やB細胞活性化因子受容体(BAFF-R)を標的とするCAR-T細胞療法の可能性についても解説された。 さらに、患者側、T細胞側、腫瘍側の各因子は相互に影響し合い、CAR-T細胞療法の治療効果を規定していることが強調された。したがって、腫瘍微小環境、既存の免疫状態、ならびに最終的に投与されるT細胞製品の特性が治療アウトカムに及ぼす影響を総合的に理解することが、より精緻で多面的な治療戦略を構築するうえで不可欠となる。 最後にJacobson氏は、「現時点において、CD19-CAR-T細胞療法は高リスクLBCLに対する最も有力な治癒選択肢として確立されている。しかし、今後さらなる治療成績の向上を実現するためには、腫瘍微小環境の制御やT細胞機能の最適化に加え、患者個々の免疫学的背景を踏まえた個別化アプローチの導入が重要となる。これらを統合的に発展させることで、より安全かつ持続的な治療効果の達成が期待される」と締めくくった。ALLに対するCART療法の位置付け:小児・若年成人例を中心として 続いて、加藤 格氏(京都大学医学部附属病院 小児科)は、ALLにおけるCD19-CAR-T細胞療法の臨床的位置付けについて、小児および思春期・若年成人(AYA)世代を中心に概説した。 近年、ALLの治療成績は年代を追うごとに着実に向上している。治療プロトコールの改良や支持療法の進歩を背景に、生存率は全体として改善傾向にあり、とりわけ小児領域(0~14歳)では2000年ごろに5年全生存率が約90%に達するなど、きわめて良好な成績が得られている。一方で、初回治療後に再発を来した症例の予後は依然として不良であり、長年にわたり重要な臨床課題とされてきた。こうした状況の中、2014年以降(日本では2019年以降)にCD19-CAR-T細胞療法(Tisa-cel)が承認され、再発・難治例に対する治療戦略を大きく変える画期的治療法として位置付けられるようになった。 現在、日本で小児ALLに対するTisa-cel療法を実施可能な施設は35施設に及ぶ(造血幹細胞移植実施施設は71施設)。2019~21年にTisa-cel投与実績のあった11施設におけるリアルワールドデータ(42症例)の解析では、完全寛解率(CR/CRi)93%、MRD陰性化率97%と高率であり、1年全生存率(OS)は82%、1年EFSは56%と良好な成績が示された。これらは国際共同第III相試験(ELIANA試験)などと比較しても遜色のない結果であり、日本の実臨床においても高い有効性と再現性が確認された。 治療成績に影響を及ぼす因子についても検討が進んでいる。遺伝子異常は従来の化学療法では重要な予後因子であったが、CD19-CAR-T細胞療法の初期反応性には大きな影響を与えないとされる。ただし、KMT2A遺伝子再構成例では再発時に骨髄性白血病への形質転換を来しやすく、予後不良であることから慎重な経過観察が必要である。また、投与時の残存腫瘍量も重要であり、低腫瘍量であるほど望ましいが、造血細胞移植とは異なり、必ずしも投与前にMRD陰性化を達成する必要はない。骨髄中芽球比率が5%未満にコントロールされていれば、十分な治療効果が期待できるとされている。さらに、ブリナツモマブの先行使用については、理論上はCD19発現低下が懸念されるものの、現時点では治療成績に重大な悪影響を及ぼすとは示されていない。 CD19-CAR-T細胞療法後の造血幹細胞移植の適応については、「全例に実施するか」ではなく、「どの症例に実施すべきか」という個別化医療の観点から議論されている。再発リスクや持続的寛解の可否、CAR-T細胞の持続性などを踏まえたリスク層別化が重要である。とくに、B細胞無形成が6ヵ月未満で回復する症例や、投与後28日目の次世代シーケンシング(NGS)でMRD陽性が確認される症例では、再発リスクが高い可能性があり、追加移植を検討すべきとされる。 このように、CD19-CAR-T細胞療法はALL治療のパラダイムを大きく変革した。今後は、治療後に一律に移植を行うのではなく、B細胞回復動態や遺伝学的背景などを踏まえ、患者ごとに最適な後療法を選択する個別化治療の重要性がいっそう高まっている。CAR-T 治療アクセスを向上させる体制整備 最後に、加藤 光次氏(九州大学病院 血液・腫瘍・心血管内科)は、日本におけるCD19-CAR-T細胞療法のアクセス格差と、その解消に向けた体制整備に関する現状と課題について論じた。 CD19-CAR-T細胞療法は国内導入から7~8年が経過し、再発・難治性びまん性LBCLを中心に実臨床で定着している。累積症例数は3,000例以上に達し、全国レジストリを通じて長期フォローを含むリアルワールドデータが蓄積されつつある。細胞治療ワーキングの解析では、2019~21年と2022~23年を比較して治療成績は改善傾向を示した。支持療法の標準化、患者選択の適正化、治療プロセスの成熟がその背景にあると考えられる。一方で、患者からT細胞を採取するアフェレーシスから、製造されたCAR-T細胞を輸注するまでのVein-to-Vein(V2V)期間は中央値約60日と、大きな短縮には至っていない。海外では米国約50日、欧州約66日と報告され、約2週間の差が無増悪生存率に20%以上の影響を及ぼしうることが示唆されている。国内データでもV2V延長は予後不良と関連しており、時間的ボトルネックの解消は喫緊の課題である。V2Vは単なる製造期間ではなく、紹介タイミング、施設選択、情報共有など、医療システム全体の「アクセス設計」によって規定される指標となる。 こうした課題に対し、日本造血・免疫細胞療法学会主導の下、企業と連携して全国共通の紹介フォームが整備された。病歴、治療歴、病勢、検査値などを標準化フォーマットで共有することで、紹介の迅速化と情報の質向上を図るものである。これは同時にリアルワールドデータの精度向上にも寄与する。また、施設偏在の是正を目的としたマッチングアプリ構想も進行中である。紹介元が患者情報を入力すると、各施設の受け入れ状況を踏まえた候補が提示される仕組みで、地域研究を経て全国展開が検討されている。 約4%で発生し、現在治験薬として提供されている規格外製品(Out of Specification:OOS)への対応も重要な論点である。OOS投与例の解析では、Grade3以上のサイトカイン放出症候群(CRS)13%、Grade3以上の免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)4.3%と、安全性はおおむね許容範囲内であった。完全寛解率も約40%と一定の有効性が示されている。薬機法改正により、市販後の枠内での適切な提供の位置付けと長期データの構築が求められる。 長期安全性の観点では、CAR-T細胞療法後二次がんが焦点となる。海外では発症率約4%と報告され、T細胞リンパ腫の発症もまれながら注目を集めている。CAR-T関連T細胞リンパ腫疑い例ではCAR遺伝子の確認や挿入部位解析を行い、企業と連携した検査体制が整備されつつある。さらに、妊娠例に対する対応や、全身性エリテマトーデスなど自己免疫疾患への応用も進み、診療科横断的な連携体制の構築が新たな課題となっている。 加藤氏は次のように述べて講演をまとめた。「経済面では、日本の薬価は欧米より低水準に設定されており、企業の採算性低下によるドラッグロスが懸念される。持続可能なアクセス確保には、アカデミアによる質の高いリアルワールドデータの提示、企業の開発意欲の維持、国による適正な価格・償還制度設計が不可欠である。CD19-CAR-T細胞療法の均てん化とは、紹介標準化、V2V短縮、安全性監視、経済的持続性を包含する包括的なアクセス再設計にほかならない。全国的な連携強化が、次世代細胞療法時代の基盤整備につながることが期待される。」

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がん薬物療法における皮下注射剤の可能性/日本臨床腫瘍学会

 近年、がん薬物療法領域での皮下注射剤の活用が広がっている。2026年度診療報酬改定では外来腫瘍化学療法診療料への皮下注製剤の算定も認められる見通しとなった。第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)では、腫瘍内科医、薬剤師、緩和ケア医、看護師、制度申請者の立場から、皮下注射の現状と課題が多角的に論じられた。がん治療の時間毒性を改善できる皮下注射 大阪大学の吉波 哲大氏は、腫瘍内科医の立場からがん薬物療法における「時間毒性」の概念を提示した。がん薬物療法においては、骨髄抑制や悪心などの薬剤毒性に加え、近年は経済毒性が注目されている。もう1つの側面として、吉波氏は時間毒性の重要性を訴える。 時間毒性は経済毒性とも無関係ではない。たとえば、通院により仕事を休むことで、給与に影響が出る。このように、時間毒性は深刻化すると経済毒性につながる。「医療者は時間毒性に対する取り組みを強く認識しなければならない」と吉波氏は説明した。 吉波氏が専門とする乳がん領域でも皮下注射は活用されている。HER2陽性乳がんでは、トラスツズマブとペルツズマブの併用療法が用いられるが、近年トラスツズマブとペルツズマブの配合皮下注製剤(商品名:フェスゴ)が登場した。フェスゴは2剤併用と同等の血中濃度と有効性を示す。投与時間に関しては、従来の2剤投与の90分超に対し、フェスゴでは最短5分と、1時間以上短縮ができる。患者に2剤投与とフェスゴ投与のどちらを選ぶかを聞いたところ、85%がフェスゴと回答している。その理由の多くは「診療における所要時間の短さ」であった。 皮下注製剤について吉波氏は「がん治療の時間毒性を軽減する可能性を十分に秘めている」と結論付ける。製剤技術の進化が皮下注射の可能性を広げる 小牧市民病院の山本 泰大氏は、薬剤師の観点から皮下注製剤の特性と今後の展開を論じた。従来、皮下投与可能な薬液量は2mLが目安とされてきたが、ヒアルロン酸を配合することで皮下組織にスペースが確保される。そのため、薬液量が増えても投与が可能になった。同院では現時点で外来化学療法患者の約20%が皮下注射を受けている。「今後もさらに増えていくであろう」と山本氏は述べた。 国内で承認されている皮下注射抗がん剤として、前述のフェスゴに加えてダラツズマブ、アミバンタマブ、モスネツズマブなどがある。海外でもいくつかの薬剤で臨床試験が進んでいるという。 「皮下注射抗がん剤は、今後もさらに広がっていくことが予想され、医療コストや患者負担軽減につながることは間違いない。これからは臨床現場での運用や副作用のエビデンスを蓄積していくべき」と山本氏は述べる。緩和ケア領域における皮下注射のメリット 広島市立広島市民病院の余宮 きのみ氏は、緩和ケアにおける皮下注射の臨床的意義を紹介した。緩和ケア領域において持続皮下注はその簡便性と安全性から世界的に普及している。日本緩和医療学会の「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)」でも、経口困難な患者に対するオピオイドの持続皮下注が推奨される。 緩和ケアにおける皮下注射の利点として余宮氏は、ルート確保の容易さ、シリンジポンプを小さくできる可能性、経口剤に比べた鎮痛達成の早さといった点などを挙げた。 「皮下注射は緩和領域においても重要な選択肢になるであろう」と余宮氏は述べる。安全な皮下注射投与のために 国立がん研究センター東病院の市川 智里氏は、看護師の立場から発言。皮下注射は簡便ではあるものの必ずしも安全というわけではないと指摘した。抗体薬、G-CSF製剤、ホルモン薬と多岐にわたる薬剤が皮下注射として使用されており、薬剤ごとの特性と注意事項を把握しておくことの重要性を強調する。 具体的には、6R(Right Patients・Right Drug・Right Dose・Right Time・Right Route・Right Purpose)と全身状態評価の徹底を挙げた。投与部位、硬結・疼痛予防、放射線照射部位・瘢痕部位の回避といった基本を押さえるとともに、皮下脂肪層が薄い高齢者や低栄養患者に対する工夫も重要だという。 同院では薬剤別の早見表(投与間隔、使用針ゲージ、投与部位、投与前チェック項目など)を化学療法室に掲示し、スタッフが入れ替わっても一定の質を保てるよう工夫している。市川氏はまた、「投与観察時間を患者とのコミュニケーション機会として活用し、副作用や生活上の意見を聞き取ることで治療継続を支援していきたい」と話す。外来腫瘍化学療法診療料への皮下注射の算定 国立がん研究センター中央病院の下井 辰徳氏は、2026年度診療報酬改定における「外来腫瘍化学療法診療料」への皮下注射剤算定について解説した。従来、点滴・静注は外来腫瘍化学療法診療料として算定されるが、皮下注製剤は算定対象外とされていた。 算定対象外であるため、医療機関は皮下注射を積極的に選択しにくいのが現状だ。フェスゴを例にとると、外来腫瘍化学療法診療料が算定できないという理由で、4割以上の患者で使用されていないという。 こうした状況を受け、日本臨床腫瘍学会をはじめとする団体が合同で医療技術評価分科会に要望を提出した。要望で示したのは、皮下注も点滴と同様に専門的なケアと安全管理を伴う医療行為であること、算定されない現状が患者の時間毒性軽減という利益を阻害していること、財政影響が限定的であるといった点である。 中医協での審議の結果、点数は点滴・静注よりも少ないが、2026年6月から皮下注製剤に対しても算定が認められる見通しだ。「次回診療報酬改定までの2年間で、算定の活用状況、点数設計などが検討されていくと予想される」と下井氏は述べる。

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免疫性血小板減少症、抗CD38抗体mezagitamabが有望/NEJM

 持続性または慢性の免疫性血小板減少症(ITP)を有する患者において、mezagitamabによる治療はプラセボと比較して、血小板数の増加をもたらし、安全性プロファイルは類似していたことを、米国・マサチューセッツ総合病院のDavid J. Kuter氏らMezagitamab ITP Phase 2 Trial Investigatorsが第II相試験の結果で報告した。ITPは血小板破壊の亢進と血小板産生の抑制によって特徴付けられる自己免疫疾患であり、出血リスクの増加とQOLの低下を伴う。利用可能な治療法はあるが、約20%において十分な血小板数の維持が認められない。mezagitamabは、形質細胞、形質芽細胞およびナチュラルキラー細胞などをターゲットとする抗CD38抗体である。抗CD38療法は多発性骨髄腫の治療に広く用いられているが、自己免疫疾患の治療において有望な効果が示されている。NEJM誌2026年4月9日号掲載の報告。日本を含む9ヵ国の41例の第II相試験で有害事象、血小板反応などを評価 本試験は2つのパートからなる国際共同第II相二重盲検無作為化プラセボ対照試験で、持続性または慢性のITP(平均血小板数が2回以上の測定で3万/μL未満)を有する成人に対するmezagitamab(100mg、300mg、600mg)の週1回、8週間皮下投与の安全性と有効性を評価した。 主要エンドポイントは有害事象とした。有効性に関する主要な副次エンドポイントは、16週までのいずれかの2回以上の受診時における、血小板反応(血小板数が5万/μL以上かつベースライン値より2万/μL以上増加と定義)とした。 試験は2020年11月~2024年4月に行われ、ブルガリア、中国、クロアチア、ギリシャ、イタリア、日本、スロベニア、スペイン、ウクライナの9ヵ国24施設で計41例が無作為化された。16週までに観察された血小板反応、mezagitamab 600mg群で91% mezagitamab群28例(100mg群9例、300mg群8例、600mg群11例)の平均年齢は50歳(範囲:24~88)、ITP既治療回数は平均4回(範囲:1~9)であった。プラセボ群13例の平均年齢は39歳(範囲:20~65)、ITP既治療回数は平均4回(範囲:1~13)であった。また、平均ベースライン血小板数は、mezagitamab群1万9,100/μL、プラセボ群1万7,300/μLであった。 有害事象の発現頻度は、mezagitamab群19/28例(68%)、プラセボ群9/13例(69%)であった。Grade3以上の有害事象はそれぞれ5/28例(18%)、3/13例(23%)で報告された。重篤な有害事象はそれぞれ4/28例(14%)、1/13例(8%)であった。 16週までに血小板反応が観察されたのは、mezagitamab 600mg群で10/11例(91%)、プラセボ群では3/13例(23%)であった。

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高齢者のがん薬物療法GLの改訂ポイント【総論・造血器】/日本臨床腫瘍学会

 『高齢者のがん薬物療法ガイドライン 改訂第2版』が2026年3月25日に発刊され、第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)のシンポジウムで全17項目のクリニカルクエスチョン(CQ)が解説された。 本ガイドラインは、2019年の初版以降に蓄積されたエビデンスを踏まえ改訂された。「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020」に準拠し、新規CQの追加や対象領域の拡張を行った。今回の改訂では新たに「Evidence to Decision(EtD)フレームワーク」が導入された点が大きな特徴である。これにより、エビデンスの確実性だけでなく、益と害のバランス、患者の価値観、実行可能性など多面的な要素を考慮した推奨決定のプロセスが可視化された。 総論からは「がん薬物療法を考慮している高齢がん患者に対して、高齢者機能評価とそれに基づくマネジメントの実施は推奨されるか?」「がん薬物療法を考慮している高齢がん患者のがん薬物療法の選択に、高齢者機能評価は推奨されるか?」、造血器からは「初発高齢者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の治療方針の判断に高齢者機能評価は有用か?」「80歳以上の初発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対してドキソルビシンを含む薬物療法は推奨されるか?」が設定された。総論 Geriatric Assessment(GA:高齢者機能評価)により患者の脆弱性を多面的に評価し、その結果に基づく介入により重篤な毒性の軽減やQOLの改善の可能性が示されている。しかし、初版の総論では以下の2つのCQが並立しており、患者アウトカムを目的としたGAは提案される一方、治療方針を判断する目的のGAは過少治療による不利益の可能性から推奨されていなかった。 (旧)CQ1 高齢がん患者において、がん薬物療法の適応を判断する方法として、高齢者機能評価を実施することを提案する。 (旧)CQ2 高齢者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対して、治療方針の判断には高齢者機能評価を使わないことを提案する。 今回の改訂では、QOLや機能に関わるアウトカムと腫瘍関連アウトカムという視点別に、CQ1-1とCQ1-2に分けて包括的なメッセージを示す構成へと再編した。CQ1-1 がん薬物療法を考慮している高齢がん患者に対して、高齢者機能評価とそれに基づくマネジメントの実施は推奨されるか?推奨:高齢がん患者に対して、がん薬物療法を考慮する際には、高齢者機能評価およびその結果に基づくマネジメントを実施することを弱く推奨する。推奨のタイプ:当該介入の条件付きの推奨エビデンスの強さ:C 本CQでは、がん薬物療法の適応が考慮されている高齢者に対し、GAとその結果に基づくマネジメントを受けた群(介入群)と受けなかった群(対照群)の患者中心アウトカムを評価した。8件のランダム化比較試験(RCT)を主なエビデンスとして評価を行った。GAとその結果に基づくマネジメントにより、QOLの維持・改善、医師とのコミュニケーション、患者満足度について有意な改善が報告された。介入群では対照群と比較して、一貫してGrade3以上の有害事象の有意な減少傾向を認め、統合解析でも有意な結果であった。重篤な毒性の有意な低下は臨床的に意味が大きく、QOLや満足度など患者中心アウトカムも良好な一方、有害な影響を示す根拠は乏しいと評価された。CQ1-2 がん薬物療法を考慮している高齢がん患者のがん薬物療法の選択に、高齢者機能評価は推奨されるか?推奨:がん薬物療法を考慮している高齢がん患者のがん薬物療法の選択に、高齢者機能評価を実施することを弱く推奨する。推奨のタイプ:当該介入の条件付きの推奨エビデンスの強さ:C 本CQでは、がん薬物療法の適応が考慮されている高齢者に対し、GAに基づく治療決定を受けた群(介入群)と受けなかった群(対照群)の腫瘍関連アウトカムを評価した。7件のRCTおよび4件の前向き観察研究をもとに評価した。全生存期間(OS)・無増悪生存期間(PFS)・奏効率のいずれも介入群と対照群で有意差を認めなかったものの、介入群では一貫してGrade3以上の有害事象の減少傾向を認め、統合解析でも有意な結果だった。腫瘍関連アウトカムの改善は認めなかったもののOSの明らかな増悪は認めず、毒性低減という臨床的意義を示したと評価された。造血器CQ2 初発高齢者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の治療方針の判断に高齢者機能評価は有用か?推奨:初発高齢者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の治療方針の判断に高齢者機能評価を行うことを弱く推奨する。推奨のタイプ:当該介入の条件付きの推奨エビデンスの強さ:C DLBCLは発症年齢中央値が約70歳であり、高齢患者が多数を占めている。R-CHOP療法などの標準化学療法により治癒が期待できるが、高齢者には毒性が高く、暦年齢やパフォーマンスステータス(PS)のみでは個体差を正確に評価することが困難である。個人の予備能をより正確に見極めるためにGAの重要性が認識されている。本CQでは、初発高齢者DLBCLを対象に、GAが良好な群(介入群)と不良な群(対照群)のアウトカムについて、GAの有無による直接比較ではなく、EtDフレームワークを用いてGAによって層別化された群で比較して総合的な評価が行われた。文献検索の結果、RCTは該当しなかったが、前向きおよび後ろ向きの観察研究21件が抽出された。GAが良好な群ではOSが優れており、標準治療の適用によって若年者と同程度の治療アウトカムが期待できることが示された。標準治療による有害事象は一定頻度で生じるが適切な対策で完遂可能である一方、GAが不良な群では毒性が重篤化する懸念がある。観察研究のみのためエビデンスの強さは「C(弱い)」に留まると評価されたが、得られる臨床的利益の大きさから、総合的な効果のバランスはGA実施を強く支持している。CQ3 80歳以上の初発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対してドキソルビシンを含む薬物療法は推奨されるか?推奨:80歳以上の初発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対してドキソルビシンを含む薬物療法を行うことを弱く推奨する。ただし、ドキソルビシンのdose intensityを考慮する必要がある。推奨のタイプ:当該介入の条件付きの推奨エビデンスの強さ:C DLBCLは標準治療であるR-CHOP療法により、半数程度の治癒が見込まれる。しかし、ドキソルビシンは心毒性が問題となり、心疾患の併存が多い高齢者では、血液毒性や粘膜障害のリスクも相まって使用が躊躇されることがある。そこで本CQでは、80歳以上の未治療DLBCL(日本人含む)を対象に、ドキソルビシンを含むレジメン(R-CHOP、R-miniCHOP、R-THP-COPなど[介入群])とドキソルビシンを含まないレジメン(R-CVP、R-benda、ステロイド単剤、支持療法など[対照群])のアウトカムを評価した。文献検索の結果、ドキソルビシンの有無を直接比較したRCTは該当せず、12件の前向き・後ろ向き観察研究などが採用された。介入群の2年OS率は60〜70%、2年PFS率は50〜60%と良好で、対照群と比較して一貫して優れた治療効果が示された。ドキソルビシンを50%程度に減量した介入研究では、心毒性が2〜5%、治療関連死亡が0〜5%と許容範囲に収まっていた。しかし、通常量を投与した観察研究では、治療関連死亡が20%に達するという報告もあり、投与量に配慮が必要と評価された。

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高齢者機能評価+コミュニケーション支援が高齢がん治療の安全性を改善/日本臨床腫瘍学会

 Webアプリを活用した高齢者機能評価(GA)に基づくマネジメントとコミュニケーション支援を組み合わせたプログラムが、高齢がん患者の健康アウトカムを改善した。同プログラムの有効性を評価する多施設共同無作為化比較試験について、国立がん研究センターがん対策研究所の松岡 歩氏が第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)で発表した(2025年米国臨床腫瘍学会・発表演題の再報告)。 高齢がん患者では、栄養状態の低下、抑うつ、社会的孤立、身体機能低下といった加齢に伴う問題が、治療の安全性に大きく影響する。この問題は診療現場で十分に把握・共有されないまま治療が開始されることが多い。米国では、GAを用いて加齢に伴う問題を評価し、医師に共有することで副作用が減少すると報告されている。日本においてはGAの臨床アウトカムへの影響を検証した無作為化試験はなかった。・対象:GAで問題を有する70歳以上の進行・再発消化器がん患者215例・介入群:Webアプリ上でGAを実施し、GAサマリーとGAに基づくマネジメントの提案を提示。質問促進リストを用いたコミュニケーション支援を実施した上で、医師に結果をフィードバック・通常診療群:GAは実施するが結果は患者にも主治医にも共有しない・評価項目:[主要評価項目]:診察時の加齢に関する懸念事項の会話数[副次評価項目]:GAに基づくマネジメント(GAM)実施率、Grade3以上の有害事象、医療利用、QOL、身体機能、生存など 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目である診察時の加齢に関する懸念事項の会話数は、介入群2.95回、通常診療群1.90回で、介入群で有意に増加した(p<0.001)。・GAMの実施率も、介入群34.7%、通常診療群19.5%と、介入群で有意に増加した(p<0.001)。・治療開始後3ヵ月以内のGrade3以上の有害事象発現率は、介入群50.9%、通常診療群66.4%と、介入群で有意な減少を認めた(p<0.05)。 当研究の結果から松岡氏は「高齢がん患者の“見えにくい脆弱性”を可視化して医療者と共有することで、より安全な治療につながる可能性がある。今後はデジタル技術を活用してこのプログラムを自動化することで、全国の医療機関で利用できる仕組みを目指していく」と述べた。

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第308回 致死率の高いマダニ感染症、生存者を苦しめる後遺症とは

INDEX今年、マダニによる国内SFTS発生率が更新か生存者にどんな後遺症が残るのか今年、マダニによる国内SFTS発生率が更新か昨年、報告数が過去最高の191例(速報値)にのぼったダニ媒介感染症の重症熱性血小板減少症候群(略称・SFTS)。国立健康危機管理研究機構が発表する感染症発生動向調査週報の最新データ(2026年第13週[3月23~29日])1)時点でも、すでに全国7県で各1例、合計7例が報告されている。前年の同週までが2例だったことから比べれば、ハイペースである。そして報道によると、この第13週後に熊本県天草市では90代・女性の死亡後のSFTS感染が確認されたという。正直、今年も嫌な予感しかない。生存者にどんな後遺症が残るのかSFTSについては過去の本連載(第286回)でも取り上げたが、国内で確認される感染症の中でも致死率が10~30%と極めて高いのが特徴だ。しかも、病名にある検査値での顕著な血小板減少(10万/mm3未満)以外は、初期症状が発熱、倦怠感、頭痛など非特異的なものであるため、確定診断が必ずしも容易ではない点も厄介である。そして救命できたとしても、その後もしばらく後遺症が続くという研究結果2)が最近明らかにされている。これは中国・河南省信陽市にある中国融通医療健康グループの第154病院の研究チームが、2025年8月のPLOS Neglected Tropical Diseases誌に発表したSFTSサバイバーの前向きコホート研究である。同研究は2010~24年にかけて確認されたSFTSサバイバー1,197例(以下、サバイバー群)の後遺症の有無を発症後6ヵ月おきに24ヵ月目まで追跡したもので、性別・年齢をマッチングさせたSFTS陰性発熱患者188例の対照群を置いて比較したもの。ちなみにサバイバーのうち294例は11年間も追跡調査を行っている。これによると、まず何らかの後遺症が確認された割合は、サバイバー群が62.57%、対照群が51.60%であり、サバイバー群が有意に高い割合だった(p<0.05)。症状別の発症率をサバイバー群と対照群でみると、記憶障害は33.50% vs.22.87%(p=0.005)、関節痛は33.08% vs.22.87%(p=0.008)、脱毛は32.25% vs.25.00%(p=0.066)、視力低下は31.08% vs.22.34%(p=0.019)であり、脱毛を除き、サバイバー群で有意に高い割合を示した。全体として有意差が認められなかった脱毛だが、発症後6ヵ月時点では、サバイバー群33.33% vs.対照群13.75%(調整オッズ比[OR]:4.01、95%信頼区間[CI]:2.01~8.66)、12ヵ月時点では29.37% vs.8.57%(OR:3.13、95%CI:1.10~11.33)と有意差が認められている(p<0.05)。一方、全体での検査値異常については、好酸球減少が9.44% vs.3.72%(p=0.011)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)低下が6.02% vs.1.60%(p=0.018)、LDH上昇が19.38% vs.12.77%(p=0.038)となり、いずれも有意差が認められている。逆にSFTSで典型的な血小板減少は長期的には改善し、両群間で有意差は認められていない。(表)症状別発症率画像を拡大するそしてリスク因子別で見ると、サバイバー群で脳炎を発症した場合は記憶障害と血小板減少、出血症状を発症した場合は、記憶障害、視力低下、MCH低下の発症頻度が対照群と比べ有意に高く、ウイルス量(≧106コピー/mL)が高値だった場合は、多くの症状や検査異常の発症率が対照群に比べ有意に高いこともわかった。つまるところ、SFTS発症時の高ウイルス量を筆頭に、急性期の神経・出血症状の有無が重要な予後指標となるということだ。ちなみに最長で11年間の長期追跡例があることは前出の通りだが、これらの症例では、一部で視力障害や血小板数異常が残っていた事例があったという。つまりSFTSウイルスは神経向性ウイルスの性質が強いとも解釈できる。このような結果を見ると、致死率の高さだけに止まらないこのウイルスの恐ろしさを改めて実感させられる。参考1)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:感染症発生動向調査週報一覧2)Cui N, et al. PLoS Negl Trop Dis. 2025;19:e0013276.

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体内CAR-T細胞生成による多発性骨髄腫治療、ESO-T01の第I相試験結果/Nat Med

 体内でのCAR-T細胞の生成は、体外培養やリンパ球除去を省略できるため、細胞療法へのアクセスを簡素化・迅速化する可能性がある。今回、再発・難治性多発性骨髄腫の成人患者を対象に、体内でCAR-T細胞を生成するレンチウイルスベクターであるESO-T01の安全性と忍容性を評価した第I相試験の結果を、中国・Huazhong University of Science and TechnologyのNing An氏らがNature Medicine誌オンライン版2026年3月25日号に報告した。 ESO-T01は、ナノボディ指向性の免疫遮蔽レンチウイルスベクターで、ヒト化抗B細胞成熟抗原(BCMA)CARをコードしている。本試験では、白血球アフェレーシス、体外培養、リンパ球除去化学療法を実施せずに、0.2×109形質導入単位を静脈内に単回投与した。前治療歴の多い男性患者5例(治療ライン中央値:3)が連続して登録され、追跡期間中央値は6.0ヵ月であった。主要評価項目は安全性、忍容性、副次評価項目は有効性、薬物動態、薬力学などであった。 主な結果は以下のとおり。・全例でGrade3以上の有害事象が認められた。・サイトカイン放出症候群が4例(Grade3が3例、Geade2が1例)に認められ、副腎皮質ステロイド、トシリズマブ、支持療法で管理された。・最も多かった毒性は一過性の血球減少および可逆的な肝酵素値の上昇で、Grade2の感染症が3例に認められた。・Grade1の免疫エフェクター細胞関連神経毒性が1例に認められ、骨髄外病変に関連する脊髄圧迫により死亡した。・5例中4例で奏効が得られ、うち3例は厳格な完全寛解であった。・評価可能な奏効例(4例)すべてで、60日目までに微小残存病変陰性(10-5)が確認された。

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日本の成人血液腫瘍の5年純生存率の推移:2000~14年(CONCORD-3)

 日本における成人血液腫瘍患者の5年純生存率(net survival)は2000~14年に全体的に改善し、その改善は高齢患者よりも若年患者においてより顕著であったことが、世界的ながん生存率調査を目的としたCONCORD-3プログラムの日本人データを用いた分析により示された。国立病院機構 四国がんセンターの吉田 功氏らがJapanese Journal of Clinical Oncology誌2026年3月号で報告した。 本研究では、国内16の地域がん登録データから2000~14年に骨髄系またはリンパ球系悪性腫瘍と診断され、2014年12月31日まで追跡された成人患者(15~99歳)のデータを分析した。Pohar-Perme法を用いて年齢層および形態学的サブタイプごとの5年純生存率を推定し、International Cancer Survival Standard(ICSS)の重み付けを用いて年齢を調整した。 主な結果は以下のとおり。・骨髄系腫瘍の5年純生存率は、15~44歳の患者では2000~04年の57.3%から2010~14年の72.3%へ、45~54歳の患者では同期間に41.9%から61.3%へ有意な改善が認められた。・リンパ球系腫瘍では全年齢層で5年純生存率が改善したが、高齢患者における改善はそれほど顕著ではなかった。・骨髄増殖性腫瘍、古典的ホジキンリンパ腫、濾胞性リンパ腫では、5年純生存率が10%以上改善した。びまん性B細胞リンパ腫および急性骨髄性白血病では、中程度の改善が認められた。

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再発・難治性濾胞性リンパ腫へのエプコリタマブ+R2併用療法のEPCORE FL-1試験、日本人解析を含む最新データ/日本臨床腫瘍学会

 1ライン以上の治療歴を持つ濾胞性リンパ腫に対するエプコリタマブ+R2(レナリドミド+リツキシマブ)療法とR2療法を比較した国際第III相試験であるEPCORE FL-1試験において、規定された2回目の中間解析から得られた、日本人データを含む最新版のデータについて、がん研究会有明病院の丸山 大氏が第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)で発表した。エプコリタマブ+R2療法群はR2療法群に比べ、有意に高い全奏効割合(ORR)と無増悪生存期間(PFS)の延長が認められ、日本人集団の追跡期間は短いものの全体集団の結果と一貫していることが示唆された。 本試験は、国際共同第III相無作為化非盲検試験で日本を含む30ヵ国189施設で実施された。1ライン以上の治療歴のあるCD20陽性の再発・難治性濾胞性リンパ腫の成人患者を対象に、エプコリタマブ+R2群とR2群に無作為に割り付け、最大12サイクル投与した。エプコリタマブは2または3ステップの漸増投与(SUD)レジメンで初期誘導し、その後全量48mgを投与した。サイクル1~3は毎週、サイクル4~12は4週ごとに皮下投与した。主要評価項目はORRおよびPFS、主な副次評価項目は完全奏効割合(CRR)、全生存期間(OS)、奏効期間(DOR)および安全性を設定した。データカットオフ時点(2025年3月24日)での追跡期間中央値は14.8ヵ月であった。 主な結果は以下のとおり。・2022年9月~2025年1月に、エプコリタマブ+R2群に243例、R2群に245例が無作為に割り付けられた。そのうち日本人はそれぞれ11例、17例であった。・人口統計学的特性および疾患特性は全体集団、日本人集団とも概ね均衡していた。年齢中央値は日本人集団が全体集団より高く、65歳以上の割合が高かった。全体集団において、2年以内の疾患進行(POD24)が約40%、抗CD20抗体とアルキル化剤の両方に抵抗性を示す患者が37%であった。日本人集団では、エプコリタマブ+R2群のPOD24が73%と高かった。・PFSは、エプコリタマブ+R2群がR2群に比べて有意に良好で、全体集団においてハザード比(HR)は0.21(95%信頼区間[CI]:0.14~0.31、p<0.0001)であり、日本人集団においても追跡期間は短いが全体集団と同様の傾向を示した。サブグループ解析でも、予後良好な背景を持つ患者も含め、エプコリタマブ+R2群が良好であった。・ORRは、エプコリタマブ+R2群95%、R2群79%、CRRはエプコリタマブ+R2群83%、R2群50%と、どちらもエプコリタマブ+R2群が有意に(p<0.0001)高かった。日本人集団においてもエプコリタマブ+R2群が良好であり、ORRとCRRのいずれも100%に達した。・DOR中央値は、エプコリタマブ+R2群は未到達で、R2群と比較したHRは0.19(95%CI:0.12~0.30、p<0.0001)であった。・次治療までの期間(TTNLT)の中央値は、エプコリタマブ+R2群では未到達、R2群では24.3ヵ月であった。・OS中央値は両群で未到達であり、16ヵ月時点の推定OS率はエプコリタマブ+R2群で95.8%、R2群で88.8%であった。・日本人集団における有害事象は、エプコリタマブ+R2群で感染症と好中球減少症の発現率が高かったが、エプコリタマブ中止例はなく、発熱性好中球減少症や致死的な有害事象は報告されなかった。・サイトカイン放出症候群(CRS)は、全体集団において3SUDを受けた133例のうち26%で発現したが、すべて低Gradeで、その後すべて回復した。CRSおよび免疫細胞関連神経毒性症候群(ICANS)による中止例はなかった。 丸山氏は、「エプコリタマブ+R2療法は外来投与に適した新しい化学療法フリーの治療であり、本レジメンが2次治療以降の濾胞性リンパ腫における新たな標準治療となることが示唆された」と展望を述べた。

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モスネツズマブとポラツズマブ ベドチン併用療法、再発・難治性の大細胞型B細胞リンパ腫の適応追加/中外

 中外製薬は2026年3月23日、抗CD20/CD3ヒト化二重特異性モノクローナル抗体モスネツズマブ(遺伝子組換え)(商品名:ルンスミオ)および微小管阻害薬結合抗CD79bモノクローナル抗体ポラツズマブ ベドチン(遺伝子組換え)(商品名:ポライビー)の併用療法について、「再発又は難治性の大細胞型B細胞リンパ腫」に対する適応追加の承認を取得したことを発表した。 本承認は、自家造血幹細胞移植の適応とならない再発・難治性の大細胞型B細胞リンパ腫に対するモスネツズマブとポラツズマブ ベドチンの併用療法の有効性・安全性を、リツキシマブ、ゲムシタビンおよびオキサリプラチンの併用(R-GemOx)療法(国内未承認)と比較する多施設共同無作為化国際共同第III相試験(SUNMO試験)の成績に基づいている。本試験の中間解析における奏効割合は、R-GemOx群44.1%に対して69.7%、主要解析時における無増悪生存期間は、R-GemOx群3.8ヵ月に対して11.5ヵ月であった。<電子化された添付文書情報の抜粋> ※下線は変更箇所・販売名:ルンスミオ皮下注5mg、ルンスミオ皮下注45mg ・一般名:モスネツズマブ(遺伝子組換え) ・効能又は効果:○以下の再発又は難治性の大細胞型B細胞リンパ腫 びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 高悪性度B細胞リンパ腫○再発又は難治性の濾胞性リンパ腫・用法及び用量:〈再発又は難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、高悪性度B細胞リンパ腫)、再発又は難治性の濾胞性リンパ腫(Grade3B)〉ポラツズマブ ベドチン(遺伝子組換え)との併用において、通常、成人にはモスネツズマブ(遺伝子組換え)として、21日間を1サイクルとし、1サイクル目は1日目に5mg、8日目及び15日目に45mg、2サイクル目以降は1日目に45mgを8サイクルまで皮下投与する。・販売名:ポライビー点滴静注用30mg、ポライビー点滴静注用140mg・一般名:ポラツズマブ べドチン(遺伝子組換え) ・効能又は効果:○以下の大細胞型B細胞リンパ腫 びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 高悪性度B細胞リンパ腫○再発又は難治性の濾胞性リンパ腫・効能又は効果に関連する注意: 〈再発又は難治性の濾胞性リンパ腫〉十分な経験を有する病理医により、Grade 3Bと診断された患者に投与すること。・用法及び用量: 他の抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、成人には、ポラツズマブ ベドチン(遺伝子組換え)として、1回1.8mg/kg(体重)を3週間間隔で6回点滴静注する。初回投与時は90分かけて投与し、忍容性が良好であれば2回目以降の投与時間は30分間まで短縮できる。なお、患者の状態に応じて適宜減量する。

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発熱・感染徴候のない好中球減少症【日常診療アップグレード】第52回

発熱・感染徴候のない好中球減少症問題72歳女性。6日前、尿路感染症に対してトリメトプリム・スルファメトキサゾール(TMP-SMX)を3日間内服した。全身状態は良好で新たな症状はない。既往歴は鉄欠乏性貧血、高血圧である。内服薬はカンデサルタンのみ。身体診察では、バイタルサインは正常である。その他の所見に異常はない。貧血の経過観察のため、全血球計算(CBC)を実施したところ、白血球減少を認め、WBC 3,000/μL、好中球数 900/μLであった。6日前のCBCでは異常がなかった。原因検索を目的に骨髄穿刺を施行した。

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ロミプロスチムがCITによる化学療法の減量・延期を回避/NEJM

 化学療法を受けた患者で多くみられる化学療法誘発性血小板減少症(CIT)を有する患者に、ロミプロスチムが有効であることが示された。米国・マサチューセッツ総合病院のHanny Al-Samkari氏らが、14ヵ国で実施した多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験「RECITE試験」の結果を報告した。CITは出血や相対用量強度の低下と関連し、予後の悪化につながる可能性があるが、広く利用可能な承認薬は存在していなかった。NEJM誌2026年3月12・19日合併号掲載の報告。消化器がん治療中のCIT、ロミプロスチムvs.プラセボの有効性と安全性を検証 RECITE試験の対象は、大腸がん、胃食道がんまたは膵がんに対し病期や治療ラインを問わずオキサリプラチンを含む多剤併用化学療法を受けており、持続性CIT(前サイクルの最低値からの回復期間にかかわらず、試験1日目の血小板数が85×109/L以下)を有し、かつ3サイクル以上の化学療法が予定されている患者であった。 研究グループは、適格患者をロミプロスチム群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付けた。ベースラインの血小板数(<50×109/L vs.≧50×109/L)およびがん種で層別化も行った。 主要評価項目は、予定された化学療法の第2および第3サイクルにおいて、CITによる化学療法の用量変更(減量、遅延、休薬または中止)がなかった患者の割合であった。 2019年9月30日~2023年10月24日に165例が登録され無作為化された。主要解析のデータカットオフ日は2024年1月25日、追跡調査の最終来院日は2025年1月9日であった。化学療法の用量変更なし、ロミプロスチム群84%vs.プラセボ群36% 165例(ロミプロスチム群109例、プラセボ群56例)の患者背景は、大腸がん75%、胃食道がん13%、膵がん12%で、ロミプロスチム群の72%、プラセボ群の61%がStageIVであった。 CITによる化学療法の用量変更がなかった患者の割合は、ロミプロスチム群84%(92/109例)、プラセボ群36%(20/56例)で、オッズ比は10.16(95%信頼区間[CI]:4.44~23.72、p<0.001)、リスク比は2.77(95%CI:1.78~4.30、p<0.001)であった。 Grade3以上の有害事象はロミプロスチム群で37%、プラセボ群で22%に、治験責任医師がロミプロスチムまたはプラセボに関連すると判断した有害事象(副作用)はそれぞれ12%および7%に発現した。 主な副作用は悪心(両群とも2%)、頭痛(ロミプロスチム群2%、プラセボ群0%)であった。重篤な副作用、ロミプロスチム、プラセボまたは化学療法の中止に至った副作用、および死亡に至った副作用は認められなかった。ロミプロスチム群でのみ、2例(2%)に血栓塞栓症が発現した。

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再発・難治性の濾胞性リンパ腫治療薬タファシタマブを発売/インサイト・ジャパン

 インサイト・バイオサイエンシズ・ジャパンは、「再発又は難治性の濾胞性リンパ腫」の適応で、タファシタマブ(遺伝子組換え)(商品名:ミンジュビ)を2026年3月18日に発売したことを発表した。タファシタマブとリツキシマブおよびレナリドミドの併用療法は、再発・難治性のFLに対する日本初のCD19およびCD20の両方を標的とした免疫療法となる。 濾胞性リンパ腫(FL)はわが国で2番目に多いB細胞性非ホジキンリンパ腫の緩徐進行型であるが、根治が困難で初回治療後も再発を繰り返すことが多く、再発のたびに予後が不良となり、約20%が治療開始後2年以内に病勢進行もしくは再発する。タファシタマブは、CD19を標的としたフラグメント結晶化可能領域(Fc)改変ヒト化モノクローナル抗体で、B細胞性腫瘍の細胞膜上に発現するCD19に結合し、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および抗体依存性細胞貪食(ADCP)活性およびアポトーシスを誘導することにより、腫瘍増殖抑制作用を示すと考えられている。<製品概要>・販売名:ミンジュビ点滴静注用200mg・一般名:タファシタマブ(遺伝子組換え)・効能又は効果:再発又は難治性の濾胞性リンパ腫・用法及び用量:リツキシマブ(遺伝子組換え)及びレナリドミドとの併用において、通常、成人にはタファシタマブ(遺伝子組換え)として12mg/kg(体重)を1日1回点滴静注する。28日間を1サイクルとして、最初の3サイクルは1週間間隔で4回(1、8、15及び22日目)、4サイクル以降は2週間間隔で2回(1及び15日目)投与する。最大12サイクルまで投与を継続する。・薬価:200mg1瓶125,201円・製造販売承認日:2025年12月22日・薬価基準収載日:2026年3月18日・発売日:2026年3月18日・製造販売元:インサイト・バイオサイエンシズ・ジャパン合同会社

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再発・難治性の多発性骨髄腫治療薬ベランタマブ マホドチンを発売/GSK

 グラクソ・スミスクラインは、「再発又は難治性の多発性骨髄腫」の適応で、抗BCMA(B細胞成熟抗原)抗体薬物複合体(ADC)であるベランタマブ マホドチン(遺伝子組換え)(商品名:ブーレンレップ)を2026年3月18日に発売したことを発表した。 本剤は骨髄腫細胞の表面にあるBCMAを標的とする日本初のADCで、BCMAに特異的に結合する低フコース化したヒト化IgG1抗体にペイロードとして微小管阻害薬であるモノメチルアウリスタチンFを、プロテアーゼ耐性マレイミドカプロイルリンカーで結合している。わが国では2024年8月に厚生労働省により希少疾病用医薬品に指定され、2025年5月に「再発又は難治性の多発性骨髄腫」を適応として承認された。点滴静注用70mgも2026年2月25日に承認を取得し、発売準備中である。<製品概要>・販売名:ブーレンレップ点滴静注用100mg・一般名:ベランタマブ マホドチン(遺伝子組換え)・効能又は効果:再発又は難治性の多発性骨髄腫・用法及び用量:ボルテゾミブ及びデキサメタゾン併用投与: 通常、成人にはベランタマブ マホドチン(遺伝子組換え)として、2.5mg/kgを30分以上かけて3週間間隔で点滴静注する。なお、患者の状態により適宜減量する。ポマリドミド及びデキサメタゾン併用投与: 通常、成人にはベランタマブ マホドチン(遺伝子組換え)として、初回は2.5mg/kg、2回目は1.9mg/kgを30分以上かけて4週間間隔で点滴静注する。なお、患者の状態により適宜減量する。・薬価:100mg1瓶1,284,052円・製造販売承認日:2025年5月19日・薬価基準収載日:2026年3月18日・発売日:2026年3月18日・製造販売元:グラクソ・スミスクライン株式会社

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高リスクくすぶり型多発性骨髄腫への治療がもたらすベネフィット/J&J

 抗CD38抗体ダラツムマブ(商品名:ダラキューロ)において、2025年11月に高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫(SMM)における進行遅延の適応が追加され、多発性骨髄腫の診断指標であるCRAB症状(高カルシウム血症、腎機能障害、貧血、骨病変)が確認される前に治療を開始することが可能となった。これを受け、2026年2月25日に開催されたJohnson & Johnson(ヤンセンファーマ)の記者説明会において、福岡大学の高松 泰氏がSMMの治療開始基準とその課題を、日本赤十字社医療センターの鈴木 憲史氏がSMM治療の意義とAQUILA試験の結果を解説した。SMMの診断基準と治療開始時期 多発性骨髄腫は、形質細胞への初期遺伝子異常によって前がん状態であるMGUS(意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症)になり、2次的な遺伝子異常によりSMMへ、さらに遺伝子異常が重なることで多発性骨髄腫に進展すると考えられている。 かつてMP療法で治療していた時代の試験において、CRAB症状の出現前に治療しても生存期間を延長しなかったことから、CRAB症状の有無でSMMと多発性骨髄腫に分けられ、CRAB症状の出現後(多発性骨髄腫に進行後)に治療開始することが標準治療になった。その後、2014年にIMWG(International Myeloma Working Group)の診断基準が改訂され、CRAB症状がなくとも、進行リスクがきわめて高いバイオマーカー(SLiM:骨髄形質細胞割合≧60%、血清遊離軽鎖[FLC]比≧100、MRIで局所性骨病変2ヵ所以上のいずれか)を満たす患者は、2年以内に80%以上が多発性骨髄腫に進行する可能性が高いため、多発性骨髄腫として治療を開始することになった。 高松氏は、「SMMと診断された場合、その後つらい症状が出現することがわかっているなら、症状出現前に治療を開始して出現しないようにしてほしいと思うのではないか」と述べ、早期の治療開始の意義を強調した。高リスクSMMの適切な抽出のためのリスク層別化の課題 早期の治療介入が適切なSMM患者を選ぶためには、急速に進行する患者を精度高く抽出することが重要になる。これまでMayo Clinic基準(M蛋白量、FLC比、骨髄形質細胞割合の3因子)やPETHEMA基準(骨髄中の異常形質細胞の割合、M蛋白以外のγグロブリン値の2因子)などが提唱されてきたが、両基準でリスク評価が一致する割合は28.6%に留まり、Mayo Clinic基準で低リスクと診断された患者が、PETHEMA基準で高リスクに分類されてしまう例もあったという。 また、次世代シーケンサーによるゲノム解析(MAPK経路、DNA修復経路、MYC変異)によるリスク層別化も可能となっているが、高松氏は、リスク因子として抽出されているゲノム変異の種類が異なる点や実臨床では高額過ぎることを課題として指摘した。現在、世界で主流の分類は、2020年にIMWGで提唱された「血清M蛋白量」「血清FLC比」「骨髄形質細胞割合」「細胞遺伝学的異常」の4因子を用いたリスク分類である。 高松氏は、「CRAB症状出現前に治療を開始したほうが副作用を軽減でき、より安全に治療できる可能性が高くなると考えられるため、早期の進行が予測される患者には、早期に治療介入することは妥当な方法ではないか。ただし、高リスク患者を精度高く抽出する方法を見つけることが今後の課題」とまとめて、講演を終えた。SMM治療におけるShared Decision Makingの重要性 鈴木氏は、症状がないときに治療を開始することについて、副作用と効果、通院回数を考慮し、開始を待つ患者もいるが、IMWG 2020モデルの高リスク患者の多発性骨髄腫への2年進展率が72.5%であると伝えると治療を希望する患者が多いと述べ、治療に際しては、治療選択肢とエビデンス、メリットとデメリットについて患者・家族と共通の理解を持ち、十分に話し合って決めていく「Shared Decision Making(SDM)」が重要であることを強調した。ダラツムマブによる進展抑制効果~第III相AQUILA試験 鈴木氏は、SMM治療におけるダラツムマブの承認の根拠となった国際共同第III相AQUILA試験の結果を紹介した。同試験は高リスクSMM 390例を対象に、ダラツムマブ単独投与(皮下投与、サイクル1~2:週1回、サイクル3~6:2週に1回、サイクル7~:4週に1回)群と経過観察群を比較したものである。高リスクの基準は(1)血清M蛋白30g/L以上、(2)IgA型、(3)IgA、IgM、IgGのうち2種類のuninvolved Ig減少を伴う免疫不全、(4)involved/uninvolved血清遊離軽鎖比が8以上100未満、(5)クローナルな骨髄形質細胞が50%超かつ60%未満で測定可能病変を有する、のうち1つ以上満たす場合としている。この条件について、鈴木氏は「免疫不全の有無をみているのが注目すべき点」と指摘した。 主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)において、ダラツムマブ群は有意な延長を示した(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.36~0.67、p<0.0001)。また、CRAB症状出現を疾患進行(PD)イベントとしたときのPFSも明らかに差が認められた(HR:0.29、95%CI:0.16~0.52)。有害事象は、ダラツムマブ群で肺炎(3.6%)、COVID-19(1.6%)など、経過観察群で敗血症や発熱などが認められた。 日本人集団の5年PFS解析では、ダラツムマブ群が63.1%、経過観察群で40.8%であった(HR:0.25、95%CI:0.10~0.65)。全体集団より日本人集団のほうでHRが小さいことについて、鈴木氏は「体重の違いや患者の治療に対する真面目さもあるのだろう」と考察している。 最後に鈴木氏は、「多発性骨髄腫に対する新薬が次々と開発され、初発例に使用可能になり、MRD陰性も達成し治癒も期待されるようになってきた。さらに機能的治癒だけではなく、発症を遅らせ、場合によっては予防も期待されるようになるまで進んできた」と治療の進歩を振り返り、「If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.」(早く行きたければひとりで行け、遠くへ行きたければみんなで行け)という、協力とチームワークの重要性を説くアフリカのことわざを紹介し、「医師、患者、製薬業界の連携によりここまで来れた」と結んだ。

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