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われわれの直感はあまり正しくない(解説:今中和人氏)-1301

 手術も終わりに近づくころ、何だか麻酔科の先生がせわしない。聞けば酸素化が悪いとかで、レントゲンを撮ったら見事に真っ白。「抜管どうする?」と、その場に微妙な空気が流れて…なんていうシナリオは、誰しも経験がおありだろう。とはいえ、しっかり換気し過ぎて気胸になったら、それこそ一大事。そんなわけで、周術期呼吸管理については数多くの先行研究があるが、術式や体格をはじめ多くの患者要因があるうえ、呼吸管理と言っても気道内圧、呼気終末圧(PEEP)、1回換気量、リクルートメントなどさまざまな要因が入り乱れて、一筋縄ではいかない。 本研究は、オーストラリアの単一施設における成人の全身麻酔手術患者1,206例の、術中1回換気量に関する無作為化試験である。年齢63歳、男性が6割で、開胸術、開心術、開頭術は除外され、主に腹部手術と整形外科手術の患者が対象で、手術時間中央値は180分台であった。対象を2群に分け、PEEP 5cmH2O維持とリクルートメントの回避は統一し、吸気酸素濃度・呼吸回数は任意として、predicted body weight(PBW:いわゆる標準体重とは異なる)を基に、1回換気量を少量群は6mL/kg PBW、標準群は10mL/kg PBWと設定した、と書いてもイメージできないので具体的に記すと、実体重は82kg台、PBWは63kg台で、1回換気量の中央値は少量群395mL、標準群は620mLだった。 動脈血ガスサンプリングは麻酔導入後15分、覚醒・抜管前15分、手術室退室後15分の3回チェックし、7日以内の諸種肺合併症を1次エンドポイントに、入院中の死亡、肺合併症をはじめとする臨床事象を2次エンドポイントと定義して比較した。結果は、麻酔中の気道内圧などの生理学的パラメーターと血ガス(PaCO2など)に、換気量の差に基づく当然の有意差があったが、抜管後はデータも臨床経過も何ら差がなく、両群とも無気肺が24%台、胸水11%台、肺炎3%台の発生で、気道攣縮と気胸は1%未満なので、どちらの換気量も同等でほぼ安全と結論された。なお、腹腔鏡手術の患者(少量群158例、標準群170例)に限定すると、ボーダーライン程度の有意差で肺合併症はむしろ標準換気群に多い、という結果になったが、納得に足る根拠は示されていない。 上述の術式では、仮に気胸や無気肺が起きていても目に見えないので、今回のような研究が成立する。一方、胸骨正中切開下の開心術では換気状態の不良は左も右もマルわかりで、明白な気胸でも無気肺でも介入しないというプロトコルには無理がある。肺の動きが悪いと見るや、大半の外科医は麻酔科医に、手術の進捗を妨げない範囲でばっちり換気するよう、また結構な圧をかけたリクルートメントもお願いするのではなかろうか。有益に違いないと信じ、時には内胸動脈グラフトを神経質なほどガードしながらでもやってもらっている。開心術では脱気目的でガンガン加圧したりもするので、結果的に多くの開心術では本研究の標準群よりはるかに盛大な呼吸のはずだが、術後無気肺の頻度などは似たようなものであろう。 「人工心肺下の手術だと呼吸を止めるから、きっとその間に気道が閉塞してしまうのだ。じゃあ心停止中もPEEP 8cmH2Oかけて弱く換気も続け、人工心肺前後もPEEPを高く維持して、リクルートメントも定期的にやれば、きっと肺合併症が減るだろう」というコンセプトに基づく、フランスの5つの大学病院における無作為化試験(PROVECS試験)1)では、ほぼ何も便益がなかった。もちろん、この呼吸設定は手術の進捗をかなり妨げるから、よほどのメリットがない限り、心臓外科医には耐え難い。 「いやいや、手術室では大丈夫でも、翌日になると無気肺になっている症例が多いから、術後早期の呼吸管理こそが重要だ。予防的に陽圧をかけて気道を開存させておくと、きっとよいだろう」というわけで、諸々の非侵襲的陽圧呼吸補助も考慮されるが、開心術後の陽圧呼吸補助に関する無作為化試験10本のメタ解析2)では肺合併症、それも無気肺の予防効果さえ意外にイマイチで、有用性が証明されなかった。術後早期の陽圧換気も、少なくとも大いに期待できるほど「霊験あらたか」ではなさそうである。 また、PEEPやリクルートメントの実施自体は、心臓外科手術に限らず広く支持されているが、それをどの程度行うかについてはかなり温度差があり、高めのPEEPや気合の入ったリクルートメントなんて昇圧剤のニーズを増やすだけだ、という手厳しい意見もある。そもそもリクルートメントの手法にも、流儀とでも言うべきことがいろいろあるそうで、どうもずいぶん深遠なうえ、圧による損傷のリスクも考えると、「何せしっかりやればよい」という話では済まないようである。 総じて、周術期の呼吸管理について、われわれの直感はあまり正しくない、のかもしれない。

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COVID-19、集団免疫への依存は「科学的根拠のない危険な誤り」/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を巡っては、いまだ世界規模で収束へのめどが立たないなか、Lancet誌オンライン版2020年10月14日号において欧米の専門家80人が連名でCORRESPONDENCEを発表。重症化しにくい若年者などの感染・伝播による集団免疫を期待する考えは「科学的根拠のない危険な誤り」であるとし、現段階ではCOVID-19の感染制御こそが社会や経済を守る最善策であると訴えている。集団免疫支持者の考えは科学的根拠による裏付けがないWHOの報告によると、SARS-CoV-2は世界中でこれまでに3,500万人以上が感染し、100万人超の死亡が確認されている。国や地域によっては、第2波の感染拡大を受けて再び非常事態宣言を出すなど、差し迫った事態に直面している。今回発表された書簡では、こうした状況下において、集団免疫への新たな関心が生まれていると指摘。集団免疫支持者は、若年者など低リスク集団における感染獲得によって集団免疫の発達につながり、最終的には基礎疾患を有する人や高齢者などを保護することになると示唆しているという。 しかし、専門家らは集団免疫支持者の考えは「科学的根拠による裏付けのない危険な誤り」であり、「COVID-19への自然感染による免疫に依存するパンデミック管理戦略には欠陥がある」と断じている。その理由として、若年者らへの感染拡大により、全人口に対する罹患・死亡リスクが生じること、労働力全体への影響、急性期およびかかりつけ医療機関をひっ迫させることなどを挙げている。さらに、現段階ではSARS-CoV-2自然感染後の抗体の持続期間は不明である点も指摘している。 一方で、日本をはじめ、ベトナムやニュージーランドを例に挙げ、「強力な公衆衛生対応により感染が制御され、生活をほぼ正常に戻すことができることを示している」とし、「安全で効果的なワクチンと治療法に今後数ヵ月以内に到達するまでは、COVID-19の感染制御が社会と経済を保護するための最良の方法である」と述べ、科学的根拠に基づいた行動を求めている。

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レムデシビル、COVID-19入院患者の回復期間を5日以上短縮/NEJM

 米国・国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のJohn H. Beigel氏らは、「ACTT-1試験」において、レムデシビルはプラセボに比べ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の回復までの期間を有意に短縮することを示し、NEJM誌オンライン版2020年10月8日号で報告した(10月9日に更新)。COVID-19の治療では、いくつかの既存の薬剤の評価が行われているが、有効性が確認された抗ウイルス薬はないという。10ヵ国1,062例のプラセボ対照無作為化試験 研究グループは、COVID-19入院患者の治療におけるレムデシビルの臨床的な安全性と有効性を評価する目的で、日本を含む10ヵ国が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験を行った(米国NIAIDなどの助成による)。 2020年2月21~4月19日の期間に、COVID-19感染が確定され、下気道感染症の証拠がある成人の入院患者1,062例が登録され、レムデシビル(541例)またはプラセボ(521例)を投与する群に無作為に割り付けられた。レムデシビルは、1日目に負荷投与量200mgを静脈内投与され、2日目から10日目または退院か死亡まで維持投与量として100mgを1日1回投与された。 主要アウトカムは、登録から28日以内における回復までの期間とした。回復は、退院または入院の理由が感染管理のみ、あるいはその他の非医学的事由の場合と定義された。回復までの期間中央値:10日vs.15日 全体の患者の平均年齢は58.9±15.0歳で、64.4%が男性であった。79.8%が北米、15.3%が欧州、4.9%がアジアの患者であった。登録時に、ほとんどの患者が1つ(25.9%)または2つ以上(54.5%)の併存疾患を有しており、高血圧が50.2%と最も多く、肥満が44.8%、2型糖尿病が30.3%であった。症状発現から無作為割り付けまでの期間中央値は9日(IQR:6~12)で、957例(90.1%)が重症COVID-19感染患者だった。 回復までの期間中央値は、レムデシビル群が10日(95%信頼区間[CI]:9~11)、プラセボ群は15日(13~18)であり、レムデシビル群で有意に短かった(回復の率比:1.29、1.12~1.49、log-rank検定のp<0.001)。重症例における回復までの期間中央値は、レムデシビル群が11日、プラセボ群は18日であった(1.31、1.12~1.52)。また、ベースライン時に機械的換気または体外式膜型人工肺(ECMO)を導入されていた患者の回復の率比は0.98(0.70~1.36)だった。 8つのカテゴリーから成る順序尺度による比例オッズモデルを用いた解析では、15日の時点で臨床的改善が達成される確率は、レムデシビル群がプラセボ群よりも高かった(実際の疾患重症度で補正後のオッズ比[OR]:1.5、95%CI:1.2~1.9)。 Kaplan-Meier法による推定死亡率は、15日時がレムデシビル群6.7%、プラセボ群11.9%(ハザード比[HR]:0.55、95%CI:0.36~0.83)、29日時はそれぞれ11.4%および15.2%(0.73、0.52~1.03)であった。 重篤な有害事象は、レムデシビル群が532例中131例(24.6%)、プラセボ群は516例中163例(31.6%)で報告された。治療関連死は認められなかった。全体で頻度の高い非重篤な有害事象として、糸球体濾過量低下、ヘモグロビン低下、リンパ球数低下、呼吸不全、貧血などがみられ、発生率は両群でほぼ同等であった。 著者は、「米国食品医薬品局(FDA)は、レムデシビルの初期結果を考慮して、2020年5月1日、COVID-19感染が疑われる、または確定した成人および小児の入院患者において、レムデシビルの緊急時使用許可(EUA)を発出(8月28日に修正)したが、レムデシビルを使用しても死亡率は高いことから、抗ウイルス薬単独では十分な効果は得られないと考えられる」と指摘し、「患者アウトカムを改善するには、さまざまな薬剤との併用療法が必要であり、現在、レムデシビルと免疫調節薬(例:JAK阻害薬バリシチニブ[ACTT-2試験]、インターフェロンβ-1a[ACTT-3試験])との併用が検討されている」としている。

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発熱外来設置の注意点と補助金を整理/日本医師会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と季節性インフルエンザの同時流行に備え、厚生労働省では発熱外来設置の医療機関に対して補助金による支援事業を実施する。しかしその仕組みが非常に複雑であり、日本医師会では10月14日、定例記者会見で発熱外来設置の考え方と厚生労働省の補助金の概要について事例を交えて解説した。発熱外来診療体制確保支援補助金の注意点 厚生労働省は9月15日、インフルエンザ流行期における発熱外来診療体制確保支援補助金の交付について、通知1)を発出した。発熱患者の診療を担う医療機関は、厚生労働省に申請書を提出し、各都道府県から「診療・検査医療機関(仮称)」の指定を受ける2)。 中川 俊男会長は、医療機関側が診療を行うかどうかを検討する際の考え方、厚生労働省の補助金支給と「診療・検査医療機関」指定を受ける際の注意点について、以下のように解説した。 各医療機関においては、まず(1)発熱患者の診療を担うかどうか、(2)インフルエンザの検査、(3)新型コロナウイルスの検査についてどのように対応するか、下記の点を踏まえて検討いただきたい。ただし、(1)(2)(3)すべてが求められるわけではなく、それぞれ可能な内容を選択して協力をお願いしたい:・動線を分離するほか、1日のうちあらかじめ時間を設定し(時間的動線分離)発熱患者の受入れをすることも可能・動線を分離し、発熱患者等専用の診察室を設ける場合は、プレハブ・簡易テント・駐車場等で診療する場合を含む・従来通り臨床診断に基づく抗インフルエンザ薬の処方が可能・感染リスクの低減を図るため、1)インフルエンザ抗原検査の検体として、鼻かみ液が利用可能なキットを選択すること、2)新型コロナ抗原迅速検査の検体として鼻腔(鼻前庭)ぬぐい液の自己採取(発症2日から9日)によることも可能(厚生労働省による採取方法の動画制作中)・発熱したかかりつけ患者のみに対応することの表明も可能・「診療・検査医療機関」に指定されたことの公表は、医療機関から希望のあった場合であって、かつ都道府県と地域医師会との協議と合意の上で行う・公表の有無により後述の補助金支給額に差異は生じない・発熱患者に対応する日にち・時間設定により、診療日・診療時間の変更届の提出は必要ない 検討の結果、発熱患者に対する時間的・空間的動線分離が可能な時間帯を設定することができると判断した場合、自院の検査に対する対応を決めた上で、その内容に沿って「診療・検査医療機関(仮称)」として地域医師会等を通じて手を挙げ、都道府県による指定を受ける形となる。 なお、別の診察室などを設ける方法(空間的分離)がとれず、時間で区切る(時間的分離)場合には、感染防止の観点から、その時間には、原則発熱患者のみ診察する。そのため、かかりつけの患者等に対しては、院内掲示や文書等により、あらかじめ一般外来の時間および発熱外来時間を案内する。発熱外来の開設時間・実際の患者数に応じて、補助金は設定されている 発熱外来診療体制確保支援補助金は、受け入れ体制を整備し厚生労働省の「診療・検査医療機関」指定を受けたにもかかわらず、想定した人数が受診しなかった場合のセーフティーネットとして設定され、受診者が想定を上回れば、その収入は診療報酬でまかなわれるとの考えに基づく:・発熱外来時間帯中の実際の患者数分は、診療報酬を算定できる。・発熱外来時間の長さに応じて、1時間2.9人~7時間20人まで、時間ごとの補助上限患者数(基準発熱患者数)が定められている(参考資料3)6ページ)。・実際の患者数が基準発熱患者数未満だった場合に、「(基準発熱患者数-実際の患者数)×13,447円」が補助される。・1ヵ月間1人も受診者が見られなかった場合には、補助額が1/2に減額される。・通常の診療日・診療時間以外に発熱外来時間を別に設定した場合も、診療日や診療時間の変更届出の必要はない。発熱外来の補助金は時間的分離と空間的分離、医師の数でどう変わる? 釜萢 敏常任理事は「今回の補助金は空床確保の考え方と同じ位置付け」とし、発熱外来診療体制確保支援補助金は複雑な仕組みだが、理解と利用が広まることで、各地域での発熱患者への対応が十分なものとなることに期待感を示した。一般的な内科で考えられるケースとしていくつかのパターンを例示し、補助の仕組みについて解説した。[例1]これまで1日7時間診療していたうち、5時間をこれまで同様に診療する一般外来時間とし、2時間を発熱外来時間とした場合:・2時間の間に実際に発熱患者を2名診療 2時間分の発熱外来収入「発熱患者2人の診療報酬+2時間の基準発熱患者(5.7人)からの差し引き3.7人分の補助金=80,734円(診療報酬は一例として算出。詳細は参考資料3))」+5時間分の一般外来収入・2時間の間に発熱患者は0名(受診なし) 2時間分の発熱外来収入「2時間の基準発熱患者5.7人分の補助金=76,648円」+5時間分の一般外来収入・2時間の間に発熱患者は0名、発熱以外の一般外来患者を2名診療 発熱外来2時間の間にやむを得ずかかりつけの一般外来の患者2人が受診した場合、診察は可能だが、この場合も2時間分の基準発熱患者5.7人から2人を差し引いた3.7人分の補助になる。 2時間分の発熱外来収入「発熱外来で診た一般患者2人の診療報酬+基準発熱患者からの差し引き3.7人分の補助金=59,534円」+5時間分の一般外来収入[例2]医師1人の診療所で、1日7時間、一般外来と発熱外来を別々の診察室にして同一の医師が診療する(空間的分離)場合:・発熱外来の発熱患者10名、別の診察室の一般外来患者10名 7時間分の発熱外来収入「発熱患者10人の診療報酬+7時間の基準発熱患者数(20人)から発熱患者数(10人)+一般外来患者数(10人×1/2=5人)を差し引いた5人分(20-[10+5])の補助金=222,135円」+7時間分の一般外来収入※補助金算出において一般外来患者数は×1/2とする[例3]医師2人の診療所で、1日7時間、1人が診察室Aで発熱外来のみ、もう1人が診察室Bで一般外来のみ診察する場合:・発熱外来の発熱患者0名 7時間分の発熱外来収入「7時間の基準発熱患者20人分の補助金=268,940円」+7時間分の一般外来収入※医師1人に対して独立してカウントされ、診察室Bの一般外来患者数にかかわらず、診察室Aでの患者数に応じて補助金が算出される※なお、発熱患者を担当する診察室Aの医師が、診察室Bの医師不在時に診察室Bで一般外来を行った場合は、例2と同じ取扱いになる

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ロピナビル・リトナビルはCOVID-19死亡リスクを下げない/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院した患者において、ロピナビル・リトナビルによる治療は28日死亡率、在院日数、侵襲的人工呼吸器または死亡のリスクを低下しないことが、無作為化非盲検プラットフォーム試験「RECOVERY試験」の結果、明らかとなった。英国・オックスフォード大学のPeter W. Horby氏ら「RECOVERY試験」共同研究グループが報告した。ロピナビル・リトナビルは、in vitro活性、前臨床試験および観察研究に基づいてCOVID-19の治療として確立されていたが、今回の結果を受けて著者は、「COVID-19入院患者の治療として、ロピナビル・リトナビルの使用は支持されない」とまとめている。Lancet誌オンライン版2020年10月5日号掲載の報告。通常治療単独群とロピナビル・リトナビル併用群で28日死亡率などを比較 RECOVERY試験は、COVID-19入院患者を対象にさまざまな治療と通常治療を比較する試験で、英国の176施設にて進行中である。同意が得られた適格患者を、通常の標準治療群、通常治療+ロピナビル(400mg)・リトナビル(100mg)または他の治療(ヒドロキシクロロキン、デキサメタゾンまたはアジスロマイシン)群のいずれかに、ウェブシステムを用いて無作為に割り付け(非層別)、10日間または退院まで経口投与した。割り付けは、通常治療群対実薬群を2対1(実薬群が2群の場合は、2対1対1)の割合とした。 主要評価項目は28日全死亡率で、無作為に割り付けられた全患者を対象とするintention-to-treat解析を実施した。両群で28日死亡率、生存退院までの期間、28日以内の生存退院率に有意差なし 2020年3月19日~6月29日の期間で、ロピナビル・リトナビル群に1,616例、通常治療群に3,424例が割り付けられた。 28日以内にロピナビル・リトナビル群で374例(23%)、通常治療群で767例(22%)が死亡した(率比:1.03、95%信頼区間[CI]:0.91~1.17、p=0.60)。事前に規定されたサブグループ解析でも、すべてのグループで同様の結果であった。 生存退院までの期間(両群とも中央値は11日間、四分位範囲:5~>28)、および28日以内の生存退院率(率比:0.98、95%CI:0.91~1.05、p=0.53)も、両群で有意差はなかった。入院時に侵襲的人工呼吸器を使用していない患者における、侵襲的人工呼吸器装着または死亡した患者の割合も、両群間に有意差は認められなかった(リスク比:1.09、95%CI:0.99~1.02、p=0.092)。 なお、著者は、非重篤の有害事象や治療中止の理由に関する詳細な情報は収集されていないこと、経口投与が困難な挿管患者がわずかながら登録されていたことなどを研究の限界として挙げている。

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HER2+進行乳がんへのT-DXd、第I相/第II相試験の併合解析と日本人解析/日本乳癌学会

 抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、DS-8201)のFirst-in-human第I相試験であるJ101試験および非盲検国際多施設共同第II相試験であるDESTINY-Breast01試験において、承認用量で投与されたHER2陽性乳がん患者での併合解析と日本人集団におけるサブセット解析を行った結果、奏効率(ORR)は全体で58.3%、日本人集団で64.7%と日本人で高い一方、血液毒性の頻度が日本人で高い傾向であったことが示された。島根大学医学部附属病院 先端がん治療センターの田村 研治氏が第28回日本乳癌学会学術総会で発表した。 第I相J101試験でのORRは59.5%(95%CI:49.7~68.7)、第II相DESTINY-Breast01試験では60.9%(同:53.4~68.0)と高い値が報告されている。今回、これらの試験において、HER2陽性進行乳がん(T-DM1に抵抗性あるいは耐容不可)で承認用量(5.4 mg/kg、3週ごと)を投与された患者の併合解析を行い、さらに日本人集団におけるサブセット解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・併合解析の対象患者は235例(第I相:51例、第II相:184例)、年齢中央値は56.0(範囲:28~96)歳、人種はアジア人と白人がほぼ半数ずつであった。・前治療レジメン数の中央値は6コース(範囲:2~27)で、そのうち69.8%にペルツズマブの前治療歴があった。データカットオフ(第I相:2019年2月1日、第II相:2019年3月21日)時点で120例(51.3%)が治療継続中で、投与期間中央値は7.4ヵ月(範囲:0.7~30.4)であった。・中央判定によるORRは、全体で58.3%(95% CI:51.7~64.7)であり、DOR中央値は16.9ヵ月(同:9.5~NE)、CRは4.3%、無増悪生存期間中央値は13.9ヵ月(同:10.9~NE)であった。・日本人(51例)のサブセット解析では、ORRは64.7%(95% CI:50.1~77.6)、CRは5.9%であった。・治療下で発現した有害事象(TEAE)は日本人で100%、全体で99.6%にみられた。日本人では薬剤関連の中止・中断例が多く、肺炎が4例、間質性肺疾患(ILD)が3例にみられた。・主な有害事象を日本人と全体で比較すると、日本人で好中球減少症(全Grade:60.8%)、貧血(同:58.8%)が高い傾向がみられたが、多くはGrade2以下でマネジメント可能であった。・ILDは、全体では9.4%(22例)に発症し、2.1%(5例)が死亡した。日本人では発症が19.6%(10例)と頻度は高かったが、Grade3以上はいなかった。 田村氏は、「T-DXdはHER2陽性乳がんにおいて高い治療効果がある一方で、ILDなどの有害事象については重要なリスクと理解し、注意深いモニタリングと適切な治療が必要」と述べた。

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新型コロナウイルス、皮膚表面での生存期間はインフルの5倍

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を巡っては、空気中や物質表面上での生存期間がこれまでの研究で明らかになっているが、ヒトの皮膚表面における生存期間は不明であった。今回、京都府立医科大学の廣瀬 亮平氏ら研究チームが、法医解剖献体から採取した皮膚上におけるウイルスの安定性を検証したところ、SARS-CoV-2は皮膚表面上で9時間程度生存し、1.8時間程度で不活化されるインフルエンザウイルスに比べ大幅に生存時間が長いことがわかった。本研究をまとめた論文は、Clinical Infectious Diseases誌2020年10月3日号に掲載された。新型コロナウイルスの生存期間は9.04時間とインフルより有意に長かった 本研究では、十分に解明されていないSARS-CoV-2の危険性に鑑み、生体皮膚の代替として法医解剖献体から採取した皮膚を用いた病原体安定性評価モデルを構築。モデルの再現性を確認するため、比較的危険性の低いインフルエンザA型ウイルス(IAV:PR8株)を被験者の皮膚と皮膚モデルそれぞれの表面上において、安定性を評価・比較したところ、皮膚上のIAVはいずれも60分程度で完全に不活化され、各経過時間におけるモデル皮膚表面上で生存するウイルス量は、被験者皮膚上で生存するウイルス量とおおむね一致していた。 この再現性を基に、SARS-CoV-2の安定性を皮膚モデルで検証したところ、新型コロナウイルスの生存期間はIAVよりも有意に長かった(9.04時間、95%信頼区間[CI]:7.96~10.2時間vs. 1.82時間、95%CI:1.65~2.00時間)。また、本研究では皮膚上のSARS-CoV-2とIAVに対する80%エタノールの消毒効果についても検証。その結果、15秒間のエタノール暴露によって、皮膚上のいずれのウイルスも完全に不活化することが確認された。 著者らは、本研究によりヒト皮膚上でインフルエンザウイルスに比べ大幅に生存時間が長いという新型コロナウイルスの特性が明らかになったと同時に、エタノール消毒薬を使用した手指衛生は、本来9時間程度続く新型コロナウイルスの接触伝播のリスクを速やかに低下させることが可能で、感染制御上きわめて効果的であることが示されたと述べている。

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重症COVID-19の心停止、高齢なほど転帰不良/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症患者の院内心停止の発生は、とくに高齢者で頻度が高く、心肺蘇生(CPR)後の生存率は不良であることを、米国・ミシガン大学のSalim S. Hayek氏らが、米国68病院のICUに入室した5,000例超のCOVID-19重症患者を対象に行ったコホート試験で明らかにした。院内心停止を呈したCOVID-19重症患者は転帰不良であるとの事例報告により、同患者集団へのCPRは無益ではないかとの議論が持ち上がっている。このため研究グループは速やかにデータを集める必要があるとして本検討を行った。BMJ誌2020年9月30日号掲載の報告。18歳以上の重症患者5,019例についてコホート試験 研究グループは、地理的に多様な米国68病院のICUで、COVID-19が検査で確認された18歳以上の重症患者5,019例を対象に、多施設共同コホート試験を行った。 主要アウトカムは、ICUへの入室14日以内の院内心停止発生率と院内死亡率だった。CPR後の生存退院率、45歳未満21%、80歳以上2.9% COVID-19重症患者5,019例において、院内心停止の発生率は14.0%(701例)で、そのうちCPRが施行されたのは57.1%(400例)だった。 院内心停止発生患者は非発生患者と比べて、高齢(平均年齢63歳[標準偏差:14]vs.非発生患者60歳[15])で、併存疾患が多く、どちらかというとICU病床数が少ない病院に入院していた。 CPR施行患者は非施行患者と比べて、年齢が若かった(平均年齢は61歳[標準偏差:14] vs.67歳[14])。心肺蘇生時に最も多かった心リズムは、無脈性電気活動(PEA)が49.8%、心静止が23.8%だった。 CPR施行患者のうち、生存退院した患者は12.0%(48例)で、退院時の神経学的状態が正常または軽度障害だった割合は7.0%(28例)だった。 CPR施行患者の生存退院率は年齢により異なり、45歳未満では21.2%(11/52例)だったのに対し、80歳以上では2.9%(1/34例)だった。

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糖尿病併存のCOVID-19治療、入院時のシタグリプチン投与が有用

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を巡っては、高血圧症や糖尿病などの併存疾患を有する患者で転帰不良となることがこれまでの研究で明らかになっており、併存疾患に応じた治療を模索する必要がある。イタリア・パヴィア大学のSebastiano Bruno Solerte氏らは、COVID-19治療のために入院した2型糖尿病患者を対象に、標準治療(インスリンなど)にDPP-4阻害薬シタグリプチンを追加したケースと、標準治療のみのコントロールを比較する多施設後ろ向きケースコントロール研究を行った。その結果、シタグリプチン追加群で死亡率の低下と臨床転帰の改善がみられた。Diabetes Care誌オンライン版2020年9月2日号に掲載。 本研究では、2020年3月1日~4月30日、北イタリアの複数の医療機関においてCOVID-19治療のために入院した、連続した2型糖尿病患者338例について、標準治療にシタグリプチンを追加した169例(シタグリプチン追加群)を、年齢・性別をマッチさせた169例(標準治療群)と比較した。主要評価項目は退院、死亡、臨床転帰の改善(7段階の評価スケールで、2ポイント以上の増加と定義)とした。 その結果、シタグリプチン追加群では、標準治療群に比べ死亡率の低下(18% vs.37%、ハザード比:0.44、95%信頼区間:0.29~0.66、p=0.0001)、臨床転帰の改善(60% vs.38%、p=0.0001)および退院者数の増加(120例 vs.89例、p=0.0008)がみられた。 著者らは、本研究で入院時のシタグリプチン治療が死亡率低下および臨床転帰の改善に寄与することが示されたが、進行中のランダム化プラセボ対照試験においてさらなる検証が必要であるとしている。

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内科医も知っておきたい小児感染症の特殊性/日本感染症学会

 2020年8月に現地とオンラインのハイブリッド方式で開催された日本感染症学会学術講演会において、名古屋大学医学部附属病院の手塚 宜行氏(中央感染制御部)が「内科医も知っておきたい小児感染症の特殊性」とのテーマで発表を行った。 手塚氏によると、小児感染症が成人と異なる事項は、以下の4点に集約される。1)年齢(月齢)によってかかる病気が変わる2)ウイルス感染症が多い 3)検体採取が困難なケースが多い4)病勢の進行が速い さらに小児感染症を診るときのチェックリストとして使う「R(A)IMS」という概念を紹介。これは以下の4つの視点から診療するという考え方だ。・R(Risk):基礎疾患の有無・I(Infected organ):感染臓器・M(Microbiology):原因微生物・S(Severity):重症度年齢月齢による違いは非常に大きい 小児感染症のリスク判断基準において、基礎疾患の有無が重要となるのは成人と同様だが、小児特有なのが月齢年齢差による違いだ。例として1998~2007年の米国コホート研究による細菌性髄膜炎の起炎菌についての研究では、新生児ではGBS(B群溶血性連鎖球菌)が多いが、1~3カ月児では腸内細菌科細菌が増え、3カ月~3歳児では肺炎球菌の割合が高くなり、3歳~10歳児以上では大半が肺炎球菌になるなど、年齢に応じて起炎菌の発生頻度が劇的に変化することを紹介した。また、「1年に2回以上肺炎にかかる」「気管支拡張症を発症する」など10のワーニングサインにあてはまるときは、原発性免疫不全症が隠れている可能性があるため、注意して診察する必要がある。本人からの病歴聴取が困難なケースも 感染臓器については、病歴聴取と身体診察から推定する流れは成人と変わらないものの、本人から病歴聴取できないことが多い点、家族や保育園からの感染が多くSick contactの把握が非常に重要となる点が成人と異なり、母子手帳から予防接種歴や育児環境情報を把握することが肝要とした。身体診察においても本人が症状を訴えられないことが多いため、保護者の協力を得ることが大切となり、小児に特徴的な部位である大泉門・小泉門などから重要な所見が得られることも多いという。 さらに、小児で見つけにくい感染臓器としては、尿路感染症、固形臓器の膿瘍(急性巣状性細菌性腎炎など)、関節炎・骨髄炎(とくに乳児)、髄膜炎・脳膿瘍(とくに新生児・乳児)、副鼻腔炎、潜在性菌血症などがあり、こうした疾患は兆候から見つけることは難しく、「見つけに行く」姿勢で診察することが重要とした。中でも潜在性菌血症は成人ではほぼ見られないが、結合型ワクチン導入前は、生後3~36カ月の小児における局所的異常のない原因不明の39度以上の発熱がある症例の約3~5%に認められており、無治療の場合は髄膜炎に至る可能性もある。ワクチン導入後の症例数は減っているものの、可能性は頭に入れておくべきという。ウイルス由来が大半だが、注意すべき細菌も 小児疾患はウイルス由来が多いが、日本がほかの先進国に比べてワクチン導入が遅れるという、いわゆる「ワクチンギャップ」は解消されつつあり、多くの小児感染症がワクチンによって感染・重症化予防できることが実証されつつある。小児感染症で注意すべき細菌は多くはないが、肺炎球菌とインフルエンザ菌は成人と比べて想定頻度が極めて高く、百日咳菌は新生児・乳児において重症化し、致死的な場合もあるので注意が必要だという。一方、クロストリディオイデス・ディフィシル菌は、小児の場合には保菌しても発症しないことが多く、多くの場合検査も不要だ。重症化はバイタルサインよりも「見た目」重視で 重症度に関しては、小児のバイタルサインは月齢年齢での変化が大きく、正常値の幅も大きいため、外観や皮膚の色、呼吸といった「見た目」を重視すべきという。 手塚氏は「感染症診療の原則である『感染臓器・原因微生物・抗菌薬をセットで考える』ことは小児でも成人でも同じ。あとはここで紹介した小児特有の事項さえ抑えておけば、内科の先生でも問題なく診察できるはず」とまとめた。

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第26回 新型コロナ入院、対象を高齢、基礎疾患のある患者らに限定

<先週の動き>1.新型コロナ入院、対象を高齢、基礎疾患のある患者らに限定2.財政制度等審議会、高齢者の患者負担など見直しを急ぐ3.新公立病院改革ガイドライン発表延期、ただし進捗の点検・評価は必要4.安倍政権の未来投資会議を廃止、新たに成長戦略会議が発足5.健康食品会社が嘘の体験談で薬機法違反、広告会社・広告主ともに摘発1.新型コロナ入院、対象を高齢、基礎疾患のある患者らに限定菅内閣は10月9日に、新型コロナウイルス感染者のうち、入院対象者を原則65歳以上の高齢者や基礎疾患のある人らに絞る法令改正について閣議決定を行った。今回の改正では、感染症法が定める「指定感染症」の位置付けに変更はなかった。これまでは新型コロナの感染者全員が入院対象だったが、インフルエンザ流行を前に医療機関の負担を減らし、重症者治療に重点を置くための施策。24日に施行となる。(参考)新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令の一部を改正する政令(案)等について(概要)(厚生労働省健康局結核感染症課)2.財政制度等審議会、高齢者の患者負担など見直しを急ぐ8日に開催された財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会において、今後の医療や子育てに関して議論を行った。この中でわが国の社会保障の現状について、OECD加盟国と比較して、受益(給付)と負担のバランスが不均衡の「中福祉、低負担」の状況が指摘された。2022年度以降、団塊世代が75歳を超えると、社会保障関係費が急増することが予想できる。これを念頭に、社会保障制度の持続可能性を確保するための改革が急務とされ、現在の年齢が上がるほど患者負担割合が低く、保険給付範囲が広がる構造を含め、患者負担のあり方を見直していく必要があるとした。今後、11月のまとめる建議に向けてさらに議論を行うが、患者負担の増加については国民の関心も高く、医療機関や医師会などとの調整が必要になる見込み。(参考)財政制度等審議会財政制度分科会(令和2年10月8日開催)資料:社会保障について(1)(総論、医療、子ども・子育て、雇用)(財務省)3.新公立病院改革ガイドライン発表延期、ただし進捗の点検・評価は必要総務省は、5日に通知「新公立病院改革ガイドラインの取扱いについて」を各都道府県や指定都市などに向けて発出した。本年の7月までに示すとされていた新ガイドラインは発表を延期するが、今年度は「公立病院改革ガイドライン」の最終年度であることから、新改革プランの進捗状況について点検・評価を求める内容となっている。また、不採算地区の公立病院への財政措置については、地域医療構想の推進に向け、過疎地など経営条件の厳しい地域において、二次救急や災害時などの拠点となる中核的な公立病院の機能を維持する目的で、新たに特別交付税措置を講ずるなどの見直しを行うこととなった。今後の新型コロナ拡大に伴う景気・財政悪化を考えると、リスト外の病院に対してもより一層の健全な病院経営を求められることとなり、地方自治体や医療従事者への影響は避けられない。(参考)新公立病院改革ガイドラインの取扱いについて(通知)(総務省自治財政局準公営企業室長)4.安倍政権の未来投資会議を廃止、新たに成長戦略会議が発足安倍政権が2016年に内閣府に設置し、医療・介護を含むさまざまな分野について検討を重ねてきた未来投資会議が廃止され、菅政権では新たに成長戦略会議として立ち上げることを、9日の閣議後に西村 康稔経済再生担当相が明らかにした。未来投資会議が担っていた機能は縮小される。議長に加藤官房長官、副議長に西村経済再生相と梶山経済産業相がそれぞれ就任し、今後は、経済財政諮問会議が国の経済財政政策をリードし、それに沿った形で成長戦略会議が具体化を検討することとなる。(参考)未来投資会議を廃止 「成長戦略会議」に衣替え―政府(時事ドットコム)5.健康食品会社が嘘の体験談で薬機法違反、広告会社・広告主ともに摘発大阪府警は、嘘の体験談を用いて健康食品の効果をうたった広告・販売を行ったとして、広告会社と広告主の健康食品販売会社「ステラ漢方」を7月に摘発した。今年の3月上旬まで開設されていた商品サイトには「医者が絶句するほどの脂肪肝だった私が1ヵ月で正常値まで下げた『最強健康法』とは?」といった目を引く内容のほか、肝機能の数値改善など効能効果の表記がされていた。商品は健康食品会社ホームページのリンクから購入できる仕組み。なお、同社は2014年にも根拠のない宣伝をしたとして、消費者庁から景品表示法の規定に基づく措置命令を受けている。今後、悪質な広告についてはさらに規制強化が進むだろう。(参考)記事広告が薬機法違反…大阪府警、広告代理店ら6人を逮捕(通販通信)脂肪肝が1ヵ月で……。嘘の体験談で宣伝、広告主を摘発(日本経済新聞)

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COVID-19は素早く見つけて包囲し対処/日本感染症学会

 第94回日本感染症学会総会・学術講演会(会長:館田 一博氏[東邦大学医学部 教授])が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下、8月19日~21日の期日でインターネット配信との併用で東京にて開催された。 今回のテーマは、「感染症学の新時代を切り拓く-“探求する心”を誇りとして-」。学術集会では、特別講演に大隅 良典氏(東京工業大学)、満屋 裕明氏(国立国際医療研究センター)などの講演のほか、招請講演として学会の国際化がさらに前進することを期待し欧米の著名な感染症、ワクチンの専門家が講演者に迎えられた。基調・教育講演でも学際的な交流の活性化を目的にさまざまな臨床領域の講師が登壇した。 本稿では、尾身 茂氏(独立行政法人地域医療機能推進機構 理事長)の基調講演の概要をお届けする。 尾身氏は、現在政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」のメンバーとして、わが国のCOVID-19対策の政策立案の一翼を担っており、講演では「withコロナの時代に私達がどう考え、どう行動すればよいか」をテーマに、第一波後の社会、生活の変遷と今後の展望について語った。感染拡大の要因は「3密、大声の会話、不十分な対策」 はじめに、「3月末~4月の爆発的感染拡大および医療崩壊を辛くも回避できたのは、緊急事態宣言前後の市民の協力、医療関係者および保健所関係者の多大な努力の成果」と述べ、これまでの総括を語った。 緊急事態宣言解除後の感染拡大の主な原因は、「東京の接待を伴う飲食店の利用者などから家庭、病院、職場などで広がったと考えられ、その共通する要因として『3密』、『大声の会話』、『不十分な感染対策』が指摘され、これらは3月の流行時にわかっていたことであり、あらためて確認された」と説明した。感染対策は「後の先(ごのせん)」で抑える 次にこれまでの経過でわかったことを振り返り、「クラスターが発生しても早急に対応できた場合は早く収束できること」、「マスクの着用など対策をすれば街歩きなどでの感染リスクは極めて低いと考えられること(ただしゼロではない)」、「高齢者やとくに基礎疾患のある人は感染すると重症化しやすいこと」、「治療の手順が確立されつつあること」の4点を挙げた。 そして、尾身氏は「COVID-19に対する不安にどう対処するか」という課題に対し、私案としつつ「COVID-19の感染リスクをゼロにすることが難しい以上、先述の感染リスクを避ける行動をした上で、もしクラスターがみつかっても、それを怖がるのではなく、『クラスターが制御できること=安心』と考える意識改革が必要」と提言した。また、感染者への「差別」についても触れ、「社会的に排除すれば、かえって感染症の実態を見え難くさせ、対策を後手に回らせてしまう可能性がある」と警鐘を鳴らした。そこで、COVID-19の拡大に先手を打つには、感染者を排除するのではなく、「感染が起こった事例を教訓として、その教訓を広く社会で共有し、次の感染に備えるということが求められる」と述べた。また、尾身氏は、剣道用語の「後の先」という言葉を使い、感染対策としては「相手をコントロールして、動かせて、抑えることが重要」と強調した。すなわち、常時緊張を強いられる100%の予防やリスクゼロの社会を目指すのではなく、「起こった事例から学び、次の発生やクラスターを抑えるような気構えや仕組みを社会で共有することで、安心感を醸成することができる」と説明した。国は医療機関、保健機関へ支援の充実を 緊急事態宣言発出前後、宣言解除から現在まで医療機関および保健所の負荷が、感染対策上の重要課題と尾身氏は指摘するとともに、今後も全国的に収束と新たなクラスター発生を繰り返すと予想を示した。 また、最後に私案として国へのお願いとして、(1)迅速な医療機関、保健所への効率的かつ効果的な人的、財政的支援(2)接待をともなう業種・地域に対して、都道府県などと協力し、検査体制を含めサポートする仕組みの早急な確立の2点を示し、講演を終えた。

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COVID-19、ECMO導入患者の院内死亡率は?/Lancet

 体外式膜型人工肺(ECMO)を導入された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者では、装着から90日後の推定死亡率、および入院中の患者を除く最終的に死亡または退院となった患者の死亡率はいずれも40%未満であり、これは世界の多施設のデータであることから、COVID-19患者で一般化が可能な推定値と考えられることが、米国・ミシガン大学のRyan P. Barbaro氏らExtracorporeal Life Support Organization(ELSO)の検討で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年9月25日号に掲載された。いくつかの大規模な医療組織では、COVID-19関連の急性低酸素性呼吸不全患者に対してECMOによる補助が推奨されている。一方、COVID-19患者でのECMO使用に関する初期の報告では、きわめて高い死亡率が示されているが、COVID-19患者におけるECMO使用に関する大規模な国際的コホート研究は行われていなかった。36ヵ国213施設のECMO導入患者を解析 研究グループは、ELSOレジストリのデータを用いて、2020年1月16日~5月1日の期間に36ヵ国213施設でECMOが導入された年齢16歳以上のCOVID-19確定例の疫学、入院経過、アウトカムの特徴を解析した(特定の研究助成は受けていない)。 COVID-19の診断は、臨床検査で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の存在が確認された場合と定義された。フォローアップのデータは、2020年8月3日まで更新された。 主要アウトカムは、ECMO開始から90日の時点でのtime-to-event解析による院内死亡とした。多変量Coxモデルを用いて、患者因子と病院因子が院内死亡率と関連するかを評価した。ECMO導入から90日の院内死亡率は37.4% ECMOを導入されたCOVID-19患者1,035例のデータが解析に含まれた。年齢中央値は49歳(IQR:41~57)、BMI中央値は31(IQR:27~37)で、74%が男性であった。 724例(70%)がECMO導入前に1つ以上の併存疾患を有し、819例(79%)が急性呼吸促迫症候群(ARDS)、301例(29%)が急性腎障害、50例(5%)が急性心不全、22例(2%)が心筋炎を有していた。 1,035例のうち、67例(6%)が入院を継続しており、311例(30%)が退院して自宅または急性期リハビリテーション施設へ、101例(10%)が長期急性期治療(long-term acute care)施設または詳細不明の場所へ、176例(17%)が他院へ移り、380例(37%)が院内で死亡した。 ECMO導入から90日の院内死亡の推定累積発生率は37.4%(95%信頼区間[CI]:34.4~40.4)であった。また、入院中の67例を除く、最終的に院内死亡または退院した968例の死亡率は39%(380例)だった。 一時的な循環補助(静脈-動脈ECMO)の使用は、院内死亡率の上昇と独立の関連が認められた(ハザード比[HR]:1.89、95%CI:1.20~2.97)。また、呼吸補助(静脈-静脈ECMO)を受け、ARDSと診断された患者の90日院内死亡率は38.0%であった。 著者は、「世界の200ヵ所以上の施設でECMOを導入されたCOVID-19患者の検討により、ECMO導入患者における一般化可能な推定死亡率がもたらされた。これらの知見は、難治性のCOVID-19関連呼吸不全患者では、経験豊かな施設においてはECMOの使用を考慮すべきとの、これまでの推奨を支持するものである」としている。

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第27回 実体験から望む、リアルな「アンサング・シンデレラ」

10月1日に発表された人気女優の石原さとみの結婚というニュースはSNS上で見る限り、多くの男性を悲嘆・落胆に追いやったようだ。この直前、石原さとみは病院薬剤師を描いたドラマ「アンサング・シンデレラ」で主役の病院薬剤師・葵 みどりを演じている。このドラマに関しては、そのストーリーが「ナンセンスだ」など批判的な指摘もあったが、その一部には、薬剤師以外の医療従事者による薬剤師業務に対する無理解・無知さがあったことにはやや驚いた。一方、薬剤師が一部のシーンに対して「『薬剤師あるある』だ」という声も多かった。私はリアルタイムで見ることができず、今頃録画したものを見始めているが、そのなかで患者・家族の立場でダブってしまった、というかトラウマが蘇った瞬間があった。苦い薬と母子の葛藤を薬剤師が緩和それは第2話で出てくるマイコプラズマ感染で受診した男の子とシングルマザーの母親の物語だ。男の子に処方された去痰薬と抗菌薬の顆粒を飲ませようとする母親。しかし、息子は「苦い」といって拒否する。母親は苦心してオレンジジュースに顆粒を混ぜ、「これでもう苦くない」と言って息子に渡したものの、それを飲んだ息子はやはり「苦い」と言ってコップを放り投げ、「ママ、嘘ついた」とまで言い張る。母親は医師に処方変更を希望するが、医師から「もう少し頑張ってみてください」と言われ、思わず「頑張っていないですか?」と漏らしてしまう。そんな母親に服薬指導をするのが、葵 みどり。葵は母親自身に抗菌薬顆粒の甘さの中に苦みが残る味を実際に味見させたうえで、オレンジジュースに混ぜて渡す。それを口にして「うわっ、苦い」と漏らす母親。葵は「○○は酸性のものと混ぜるとコーティング(甘み)が剥がれて強い苦みが出てしまうんです」と説明する。葵が母親に勧めるのがチョコレートアイスに混ぜる方法。口にした母親は「チョコの味しかしない」と驚く。この○○という薬は実在する。私は最初に男の子が薬を口にして「苦い」と言った瞬間にほぼ推測がついた。そして葵による服薬指導のシーンで明らかにされた○○の名称を聞いて、やっぱりと思った。答えは、クラリスロマイシンのドライシロップだ。処方薬は看病する人にも少なからず影響実は私自身も娘で似た経験があったのだ。それはある部分ではドラマで描かれたものより過酷だった。うちの家庭は共働きの夫婦と娘の3人家族。夫婦互いの実家は東京から新幹線で2時間弱は離れている。娘が熱を出した時、頼れる親族は身近にいない。さらに夫婦の役割で言えば、妻は電車で40分離れた職場、私は自宅から自転車で10分以内のアパートを事務所にしている。娘が保育園で発熱したといえば必然的に駆け付け、自宅療養の担当となるのは私だった。もっとも自営業で出来高仕事の私はその分だけ仕事で割を食う。小児医療費の助成も相まって、どうしても娘を連れて医療機関に駆け込んでしまう。よく抗インフルエンザ薬のタミフルは適切に服用しても発熱期間を半日から1日しか短縮する効果がないとネガティブな評価を受ける。しかし、治療を受ける側ではなく看病する側から見た場合、私のような立場の者にとっては、その半日から1日早く業務に復帰できることは周囲の人が考える以上にありがたい。そういう人は少なくないはずだ。そんなこんなで娘が発熱した場合は即座に受診することがほとんどだった。多くは「風邪だと思われます」との診断。娘のかかりつけ医の処方は、去痰薬と鎮咳薬、頓服用の解熱薬にとどまることが多く、抗菌薬を処方された記憶はほとんどない。単なる抗菌薬と侮っていたら…ところが娘が3歳になった年の2月、発熱でかかりつけ医に駆け込むと、いつものように「風邪でしょう」と診断した医師が珍しく「念のため抗菌薬を出しておきます」と言って処方したのが、クラリスロマイシンのドライシロップだった。早速、自宅で服用させるものの、このクラリスロマイシンだけは口にした瞬間に「オェー」と言いながら、吐き出した。驚きはしたものの、私はそれ以上服用させることはしなかった。「所詮、風邪に抗菌薬は無駄」と思っていたからだ。翌日娘は解熱するものの、翌々日は微熱を出した。3日後には再び解熱したが、この間、乾いた咳が続き、4日目の日曜日、突如38度まで熱が上昇し、自治体の休日診療所に駆け込んだ。休日診療所の医師は一般的には半ば「儀礼的」とも思われがちな聴診を、私の目にも普通ではないとわかるほど何度も繰り返した。聴診器をようやく外した医師からこう告げられた。「お父さん、今すぐ○○大学病院に向かえますか? こちらからも連絡を入れます。娘さんは肺炎を起こしている可能性が高いです」休日診療所を出て大学病院に向かうタクシーの中で突如、娘は嘔吐をした。慌てる私に運転手さんは「お気になさらず。とにかく病院へ急ぎます」と冷静だった。大学病院に到着して受付すると、娘はすぐにX線写真撮影をすることになり、看護師が衣服の表面についた吐瀉物を拭いてくれた。私もトイレに駆け込み、吐瀉物がついたジャケットとシャツを洗おうとしたが、濡れたまま持ち帰る手段が思い浮かばず、思い切ってごみ箱に捨てることにした。待合室は暖房が入っているため、とくに寒さは感じなかったが、やはり2月にTシャツ一枚の姿は周囲から見れば異様だったろう。20分ほど待っただろうか。呼ばれて診察室に入ると、医師の目の前のPCに映し出された娘のものと思われる胸部X線写真が目に入った。ちなみに私自身は20代前半にエジプトのカイロを旅行中に右肺の半分弱、左肺の約4分の1がX線写真で白く映るほどの肺炎にかかり、現地で2週間も入院した経験がある。また、職業柄、学術書や論文に掲載されている肺炎のX線写真も目にしている。この時、PCに映し出されていた右肺の下部が白くなっていたX線写真は私でも肺炎だとわかった。医師からも娘が肺炎を起こし、経過や咳の状況などを見ると、マイコプラズマ肺炎と思われ、クラリスロマイシンを処方すると説明された。娘がクラリスロマイシンの味を嫌って服用拒否してしまうことを伝えたが、医師からはこう告げられた。「とにかく頑張って飲ませてみてください。どうしても飲まないというならば、入院して点滴するしかありません」大学病院の門前薬局でクラリスロマイシンを受け取った際にも娘が服用拒否してしまうことを伝えると、薬剤師からチョコ味の服薬ゼリーがお勧めだと教えられた。しかし、この薬局ではあいにくチョコ味のゼリーの在庫がなく、あるのはストロベリー味のみ。それを取り敢えず購入した時に、薬剤師から「ここで1回分飲んでいきます?」と提案された。薬包紙を切った段階で娘は口を開けている。ゼリーを使わなくても飲めるのかもと思い、口にドライシロップをいれると眉間にしわを寄せながら、水で飲み干した。ああ、案外すんなりいけるかもと思ったが、実際にはそうはならなかった。片手にクラリスロマイシンの父vs.愛娘、地獄の戦い翌朝から保育園をお休みし、私が自宅療養に付き合うことなった。妻が出勤後に娘に朝食をとらせ、服薬させようとしたが昨日から一転して娘は拒否し始めた。私は「このままだと入院になるし、最悪肺炎で死ぬ人もいるよ」と告げるが、娘は頑として拒否。ストロベリー味の服薬ゼリーがあることを思い出し、それに混ぜて口にさせるがそれも吐き出した。「えっ?」と思い、自分で口にしてみたが確かに苦みが残っている。さて困った。私はリビングのテレビをつけ、「お父さんはお買い物に行ってくるから、好きな番組見ていいよ」と娘に告げると、街に飛び出し、保険調剤薬局、ドラッグストアを片っ端から訪ね、チョコ味の服薬ゼリーを探した。7軒目でようやく見つけ、購入して帰宅。テレビの前でうたた寝していた娘を起こして、今度はチョコ味のゼリーでクラリスロマイシンを飲ませようとしたが、娘の一言でとん挫した。「チョコは苦いから嫌い」私もハッとした。確かに過去に保育園からの連絡帳に「おやつの時に出したチョコを苦いと言って食べなかった」という旨の記載があったことを思い出したのだ。仕方なく、私は再び外に出て、自宅から一番近い保険調剤薬局で事情を説明した。すると、「バニラアイスや牛乳に混ぜると良いとは言われています」とのこと。コンビニでバニラアイスと牛乳を買って帰り、試したのだがそれでも「苦い」と言われ吐き出された。もはや万事休す。前医からの残薬分があったとはいえ、味の実験をしているだけの量の余裕はない。私は服薬用の水を入れたコップを用意し、薬包紙を破って自分の手の平にドライシロップ全量を出して軽く握ると、左手で娘をヘッドロックし、そのまま右手の親指から中指までの3本の指で娘の口をこじ開けながら手を傾け、口内にドライシロップを突っ込んだ。さらに泣きわめく娘を尻目に、左の手の平で娘の口を押え、右手を伸ばしてコップをつかんで顔の近くまで持って行き、左の手の平を離した際に嘔吐気味に開けた口にコップの端を当て水を注ぎこみ、再び左の手の平で口を封じた。「苦しいけど、ゴックンしてね、ゴックン」と言いながら。もはや虐待じみているが、仕方がない。娘は既に肺炎を起こしているのだ。1日2回の服用のうち、朝は妻の出勤後、夕刻は妻の帰宅前・夕食前にこの格闘が続いた。あえて妻がいない時間にしたのは、打つ手なしとは言え娘が苦しむ姿は見せたくなかったからだ。もっともその後も何もしていなかったわけではない。時間があるごとに近隣の保険調剤薬局やドラッグストアをまわり、状況を伝えて相談はした。その数はチョコ味の服薬ゼリーを探した時を超えて11軒。しかし、ストロベリー味のゼリーもダメ、チョコ味のゼリーもダメ、牛乳もダメ、バニラアイスもダメという私の説明後に返ってくるのは決まって「大抵そのどれかでいけるんですがね」というもの。新たな案は1つも出てこず、不思議なくらい同情すらされなかった。結局、娘は大学病院の初診から3日目の受診で肺炎の改善が確認され、7日目の受診で「まあもう大丈夫でしょう」と医師から告げられた。その間、強制服薬を続け、毎回娘の服は私の手の平から一部こぼれ落ちたドライシロップまみれになり、顔や服は飛び散った水で濡れていた。クラリスロマイシンの服用が終了となった7日目の受診後に私は娘に「いっぱいがんばったからハンバーグ食べに行こうか?」と提案した。大学病院の近くにハンバーグがおいしいと評判の老舗レストランがあることを知っていたからだ。娘が久しぶりに満面の笑みを浮かべたことを今でも覚えている。私も娘も、もうあの強制服薬で苦しむことはない。晴れ晴れとした気持ちでそのレストランに入ってテーブルに座り、私がメニューに手を伸ばして、「さあ何を食べようね」と言いかけた瞬間、娘が「お薬はもういや」と金切り声を挙げて、テーブルの片隅にあったものを払い落とした。食塩のボトルだった。あの強制服薬の影響で白っぽく見える粉が薬に見えたらしい。その後、2ヵ月ほど白い粉末に対する拒否反応が続いた。結局このときから9ヵ月後、娘は再びクラリスロマイシンのドライシロップを服用する羽目になる。しかし、観念したのか、この時以降は自ら口を開き、ドライシロップを受け入れるようになった。もっとも飲み始めから飲み下し後数分間はひたすら「まじゅい(不味い)」と文句を言い続けていたが。医療者「あるある」で終わらせてほしくないたぶんこのクラリスロマイシンの話題は医師、薬剤師双方にとって「あるある」的な話なのだろう。テレビドラマはどうしても典型例しか描けないが、その「あるある」にはクラリスロマイシンの事例で私が経験したような典型パターンで解決できないケースもある。そしてそうしたケースは、ほかにも山のようにあるだろう。しかし、過去にも言及したが、生活習慣指導も含め、日常的に医療に接していると医療従事者による添付文書の棒読みのような対処のなんと多いことか。今、丹念にあの時の事を振り返っても思うのが、別にドラマの中のようにエレガントに解決されなくともある意味仕方がない、ただ共感してくれるだけでもいいから「葵 みどり」が現れていたらと、ふと思う。昨今、一部の医薬分業バッシングにあるように薬剤師を取り巻く周囲の目はやや厳しい。そして「かかりつけ薬剤師・薬局」「健康サポート薬局」など行政による矢継ぎ早な提案が続いている。今回、改めてこうした検討が行われた時の資料を読み返してみた。そして思うのだ。そこに求められている薬剤師像はまさに「葵 みどり」ではないかと。薬剤師の中にもあのドラマを部分部分で「ナンセンス」と突っ込みを入れてみていた人もいるだろうし、繰り返しになるが「あるある」で見ていた人もいるだろう。だが、私にはもはや薬剤師はその「ナンセンス」「あるある」を超えるべき時期、もっと一歩踏み込んだ存在になるべき時期が来ているように思えてならない。

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新型コロナ、米国成人の抗体陽性率は約9%/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの第1波の期間中に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への抗体を獲得していた米国成人集団は10%に満たず、抗体保有者で診断を受けていたのも10%未満であった。米国・スタンフォード大学のShuchi Anand氏らが、米国の透析患者を対象としてSARS-CoV-2抗体陽性率を検証した横断研究の結果を報告した。米国の透析患者の多くが毎月定期的に検査を受けており、実用的で偏りなく繰り返しSARS-CoV-2血清陽性率を評価することが容易であった。検討では、4つの層別(年齢、性別、地域、人種/民族)の推定値も算出し、それらの結果を踏まえて著者は、「SARS-CoV-2の伝播を抑える公衆衛生の取り組みは、とくに人種/民族的マイノリティーと人口密度の高いコミュニティーを対象とする必要がある」と述べている。Lancet誌オンライン版2020年9月25日号掲載の報告。透析患者約2万8,000例の毎月の定期検査から血清陽性率を推定 研究グループは、米国の透析施設約1,300施設の検体が集まる中央検査機関の協力を得て、2020年7月に透析を受けた成人患者から無作為に抽出された残存血漿2万8,503検体について、スパイクタンパク質の受容体結合ドメインに対する全抗体を化学発光法により検出した(感度100%、特異度99.8%)。 匿名化された電子カルテから年齢、性別、人種/民族に関するデータおよび居住地と施設の郵便番号を抽出し、患者レベルのデータを人口10万人当たりの累積症例数・1日症例数・死亡数、鼻腔スワブ検査陽性率と関連付けた。さらに、米国の全透析集団(全米透析集団)および成人集団(全米成人集団)に基づいて推定有病率を標準化し、事前に設定した4つの層別(年齢、性別、地域、人種/民族)の推定値を示した。民族/人種的マイノリティーや人口密度の高い地域の住民で陽性率が上昇 抽出母集団の「年齢・性別・人種/民族の分布」は、全米透析集団と類似していた一方で、全米成人集団と比較すると、「高齢者」「男性」「黒人およびヒスパニック系が多い地域に住む人」の割合が高かった。 SARS-CoV-2血清陽性率は、抽出母集団で8.0%(95%信頼区間[CI]:7.7~8.4)であり、全米透析集団に標準化した場合は8.3%(8.0~8.6)、全米成人集団に標準化した場合は9.3%(8.8~9.9)であった。全米透析集団に標準化した場合、血清陽性率は西部の3.5%(95%CI:3.1~3.9)から北東部の27.2%(25.9~28.5)の範囲にわたっていた。 人口10万人当たりの血清陽性率と症例数を比較すると、血清陽性者でCOVID-19と診断されていたのは9.2%(95%CI:8.7~9.8)であった。SARS-CoV-2感染の他の評価項目と比較すると、人口10万人当たりの死亡数と最も相関していたのは血清陽性率であった(Spearmanのp=0.77)。 血清陽性のオッズ比(OR)は、非ヒスパニック系白人が多い地域の居住者と比較し、非ヒスパニック系黒人(OR:3.9、95%CI:3.4~4.6)ならびにヒスパニック系が多い地域の居住者(2.3、1.9~2.6)で上昇し、人口密度が最低五分位の地域の居住者と比較して最高五分位の地域の居住者で上昇した(10.3、8.7~12.2)。 2020年3月初旬の移動制限で出勤を5%以上減少した郡は、5%未満の郡と比較し、2020年7月の血清陽性ORが低下した(OR:0.4、95%CI:0.3~0.5)。

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ESMO2020レポート 肺がん

レポーター紹介今年はCOVID-19の影響で、ASCOをはじめ多くの学会がvirtual meeting開催となり、ESMO2020も例にもれずvirtual meetingとして、2020年9月16日~21日に開催された。肺がん領域においては注目の演題が多数存在し、Presidential SymposiumにおいてはADAURA試験およびCROWN試験の報告がされた。日本人演者においては、先ほどのADAURA試験において坪井先生、@Be試験の瀬戸先生、WJOG8715L試験の戸井先生がOral Presentationに選出されている。重要な試験のフォローアップの報告を含め、いくつか注目の演題を紹介したい。ADAURA試験ASCO2020で大幅な無病生存期間(DFS)の改善を示したADAURA試験であるが、ESMO2020においては中枢神経系(CNS)を含む再発パターンについて国立がん研究センター東病院の坪井 正博先生によって報告された。ADAURA試験は、StageIB~IIIA期の切除可能な上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異(Del-19/L858R)を有する非小細胞肺がん(NSCLC)を対象に、術後補助療法として第三世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)オシメルチニブとプラセボを比較した第III相試験である。Stage(IB/II/IIIA)、EGFR遺伝子変異(Del-19/L858R)および人種(アジア人/非アジア人)によって層別化され、オシメルチニブ群およびプラセボ群には1:1で割付された。オシメルチニブの投与は3年間または再発まで行われた。今回の報告では、CNSを含む再発パターンについての内容であった。CNS転移再発はEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者において比較的高頻度に認められる遠隔転移の再発形式の1つであり、予後不良因子である。オシメルチニブは既存のEGFR-TKIに比べ血液脳関門通過性が高いことが報告されており、脳転移への効果が期待された。全体の再発割合はオシメルチニブ群において11%、プラセボ群において46%であり、そのうち遠隔転移再発はオシメルチニブ群で38%、プラセボ群で61%であった。主な再発部位は、オシメルチニブ群では肺が6%、リンパ節が3%、CNSが1%、プラセボ群では肺が18%、リンパ節が14%、続いてCNSが10%となっており、期待されていたとおりオシメルチニブ群におけるCNS再発は低かった。CNS DFS中央値は、プラセボ群の48.2ヵ月(95%CI:NC~NC)に対し、オシメルチニブ群では未到達(NR)(95%CI:39~NC)、ハザード比(HR)0.18(95%CI:0.10~0.33)、p<0.0001と有意な延長が示された。1年/2年/3年CNS DFS率はプラセボ群ではそれぞれ97%/85%/82%と低下傾向を示したのに対し、オシメルチニブ群では100%/98%/98%とほぼ低下は認めなかった。また、試験開始後18ヵ月時のCNS再発率はオシメルチニブ群で1%未満(95%CI:0.2~2.5%)、プラセボ群で9%(95%CI:5.9~12.5%)と、CNS再発率もオシメルチニブ群において低かった。今回の報告より、術後補助療法としてのオシメルチニブを投与することにより、局所および遠隔転移の再発リスクが減少することが示された。術後補助療法の再発予防としてオシメルチニブを使うべきか、術後再発としてオシメルチニブを使用すべきか、今後の全生存期間のさらなるフォローアップの報告が期待される。WJOG8715L試験現在初回治療でオシメルチニブを選択する機会も増えており、2次治療で使用する機会が少なくなってきたが、そもそものオシメルチニブの適応であるEGFR-TKI不応となったT790M陽性NSCLCに対して、オシメルチニブ・ベバシズマブ併用療法とオシメルチニブを比較した第II相試験がWJOG8715L試験である。未治療のEGFR遺伝子変異陽性NSCLCにおいてはエルロチニブ+VEGF阻害薬によりPFSの延長効果が示されており、今回の結果も期待された。主要評価項目はPFS、副次評価項目はORR、治療成功期間(TTF)、OS、安全性であり、当院の戸井 之裕先生によって発表された。PFSは、ベバシズマブ併用群が9.4ヵ月、単剤群が13.5ヵ月、HR 1.44(95%CI:1.00~2.08)、p=0.20でベバシズマブ併用群のほうがむしろ短い結果となった。前治療でVEGF阻害薬の治療歴有無別でのPFSの解析も行われており、VEGF(-)-オシメルチニブ(37例)13.7ヵ月、VEGF(+)-オシメルチニブ(4例)15.1ヵ月、VEGF(-)-ベバシズマブ併用(32例)11.1ヵ月、VEGF(+)-ベバシズマブ併用(8例)4.6ヵ月、とVEGF阻害薬の治療歴のある併用群の成績がとくに短かった。併用群で多く認められたGrade3以上の副作用は蛋白尿および高血圧であり、間質性肺炎は両群で10%程度に認められた。今回の報告では、残念ながらベバシズマブを併用することの意義は示せなかった。PFSが延びなかった理由として、VEGF阻害薬の治療歴のある症例に対する併用群の成績が良くなかったのが影響している可能性があるが、VEGF阻害薬の治療歴のない症例の比較においてもベバシズマブを上乗せする効果はみられていない。オシメルチニブとベバシズマブとの相性の問題か、EGFR-TKI既治療という腫瘍周囲環境がある程度整った状況によるものなのか、議論に尽きない結果となった。未治療EGFR遺伝子変異陽性肺がんを対象にオシメルチニブ・ベバシズマブ併用療法の有効性を検討するWJOG9717L試験、またオシメルチニブ・ラムシルマブ併用療法の有効性を検討するTORG1833試験がそれぞれ登録終了しており、それらの結果と合わせ、オシメルチニブにVEGF阻害薬を併用することの意義が結論付けられることとなるだろう。CROWN試験CROWN試験は未治療のALK転座陽性進行NSCLCを対象に、初回治療としてロルラチニブとクリゾチニブを比較した第III相試験である。EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対しオシメルチニブが初回治療として承認されたように、ALK転座陽性NSCLCに対しての初回治療になるかが期待される。本試験は多くの試験において脳転移症例が除外される中、治療済または症状のない未治療の脳転移を有する患者の登録が認められていた。しかしながら、クロスオーバーは認められていなかった。今回は中間解析の結果が報告された。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)はロルラチニブ群でNE(95%CI:NE~NE)、クリゾチニブ群で9.3ヵ月(95%CI:7.6~11.1)、HR 0.28(95%CI:0.19~0.41)、p<0.001と有意な延長が示された。1年PFS率はロルラチニブ群が78%(95%CI:70~84)、クリゾチニブ群が39%(95%CI:30~48)と大きな開きをみせている。PFSは、脳転移の有無も含めてすべてのサブグループで有意にロルラチニブ群が良かった。奏効率はロルラチニブ群で76%、クリゾチニブ群で58%であった。ロルラチニブは頭蓋内移行性が高く、今回の報告では脳転移に対する効果も検討されている。頭蓋内奏効率は、ベースラインで測定可能または測定不能な脳転移があった患者で、ロルラチニブ群(38例)が66%(95%CI:49~80)、クリゾチニブ群(40例)が20%(95%CI:9~36)とロルラチニブ群での高い奏効が示された。脳転移の増悪までの期間は、ロルラチニブ群(149例)がNE(95%CI:NE~NE)、クリゾチニブ群(147例)が16.6ヵ月(95%CI:11.1~NE)、HR 0.07(95%CI:0.03~0.17)、p<0.001で有意にロルラチニブ群が良かった。OSはインマチュアであり、両群ともに中央値はNEであった。副作用はロルラチニブ群において高脂血症、高TG血症、浮腫、体重減少、末梢神経障害を高頻度に認めている。中間解析の結果ではあるが、PFSは有意な改善が期待できる。ALK肺がんは現時点でも長期のOSが示されているが、ロルラチニブを初回に使うことによってさらなるOSの改善が期待できるのか、今後の報告が気になるところである。WJOG10718L/@Be試験@Be studyはEGFR/ALK/ROS1陰性、PD-L1強陽性(Daco 22C3)の未治療非扁平上皮非小細胞肺がんに対して、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法の有効性を検証する単群第II相試験である。免疫チェックポイント阻害薬に血管新生阻害薬を上乗せする試験は近年いくつか報告されており、本試験は肺がんにおいてベバシズマブを上乗せする初めての試験である。主要評価項目は奏効率(ORR)、副次的評価項目はPFS、DoR、OS、安全性であり、試験事務局である九州がんセンターの瀬戸 貴司先生により結果が報告された。登録された40例中、39例が適格であり、TPS 50~75%が13例(33.3%)、75~100%が26例(66.7%)であった。主要評価項目であるORRは64.1%(90%CI:49.69~76.83)と統計学的にメットしており、9割以上の症例において腫瘍縮小が認められた。PFSは15.9ヵ月(95%CI:5.65~15.93)、1年PFS率は54.9%(95%CI:35.65~70.60)であり、これまでのPD-L1強陽性に対する報告を上回る結果となり、今後が期待される。副作用は、23件/12例においてGrade3の副作用を認め、Grade4以上は認めなかった。副作用中止は2例に認め、硬化性胆管炎と脳症によるものだった。今後、PD-L1強陽性に対して免疫チェックポイント単剤(IMpower110 or KEYNOTE-024)か免疫チェックポイントに血管新生阻害薬を上乗せする(@Be)か、さらには殺細胞性抗がん剤も併用する(IMpower150)か、第III相試験が興味深いところである。KEYNOTE-024試験KEYNOTE-024試験は、PD-L1強陽性(TPS≧50%)の未治療進行NSCLCに対する初回治療におけるペムブロリズマブ単剤治療と化学療法(プラチナ併用療法)を比較した第III相試験である。化学療法群ではPDを認めた場合にペムブロリズマブ群へのクロスオーバーが認められていた。これまでPFS、OSにおいて有意な延長効果が示されてきたが、今回は5年フォローアップのデータの報告となった。2020年6月1日にデータカットオフされ、追跡期間中央値は59.9ヵ月であった。化学療法群のペムブロリズマブへのクロスオーバーは66.0%であった。OSはペムブロリズマブ群で26.3ヵ月(95%CI:18.3~40.4)、化学療法群で13.4ヵ月(95%CI:9.4~18.3ヵ月)、HR 0.62(95%CI:0.48~0.81)と既報と大きな変わりは認めなかった。3年OS率はペムブロリズマブ群で43.7%、化学療法群で19.8%、5年OS率はペムブロリズマブ群で31.9%、化学療法群で16.3%と、3年以上の症例ではtail-plateauの傾向もみられ、5年たった時点でも生存率は約2倍維持されている。化学療法群において高いクロスオーバーがあったにもかかわらず、ペムブロリズマブ群は5年OS率においても有意な延長効果が示され、初回治療で投与することは重要と考える。さらには、35サイクル(2年間)ペムブロリズマブを投与できた症例(39例)の奏効率は82%と高率であった。多くは治療早期に奏効が得られており、免疫チェックポイント阻害薬においても、縮小効果がある症例においては長期の治療効果が期待できることが示された。現在、PD-L1強陽性に対しては単剤で十分ではないかという議論がされるが、今回の長期フォローアップのデータはそれを裏付ける結果の1つであるといえる。PD-L1強陽性に対する単剤とコンビネーションの比較試験も進行中であり、その結果にも注目したい。CheckMate-9LA試験EGFR/ALK陰性の未治療進行NSCLCを対象に初回治療としてニボルマブ(Nivo)+イピリムマブ(Ipi)に化学療法2サイクルを併用するNivo+Ipi+化学療法群と化学療法群を比較する第III相試験である。ASCO2020において有効性が公表され、すでに米国・オーストラリア・シンガポール・カナダでは承認されており、日本でも承認間近と伺っている。今回は、アジア人サブグループの結果が報告された。9LA登録例のうち、アジア人は日本人患者(50例)と中国人患者(8例)であった。Nivo+Ipi+化学療法群が28例、化学療法群が30例であった。OSは、アジア人サブグループでも全集団と同様の傾向がみられ、Nivo+Ipi+化学療法群でNR(15.4ヵ月~NR)、化学療法群で13.3ヵ月(8.2ヵ月~NR)、HR 0.33(95%CI:0.14~0.80)と併用群で良好な結果が示された。組織型(Sq/non-Sq)、PD-L1発現(≧1%/<1%)でみた解析においても、少数ながらNivo+Ipi+化学療法群において改善傾向が認められた。気になる副作用であるが、アジア人における全体およびGrade3/4の頻度、そして副作用中止の頻度が高い傾向があるが、とくにアジア人集団で新たに認められたものはなかった。今回の報告でもあるように9LAレジメンは副作用が懸念点であり、今後実臨床においてどのように評価されていくのかが気になるところである。さいごに今回のESMO2020もvirtualではあったものの、肺がん領域においてはいくつもの重要な報告があった。日本においてはいくらかCOVID-19の蔓延が落ち着きつつあり、現地とwebのハイブリッド開催が行われるようにもなってきたが、世界的には落ち着いておらず国際学会に行くのはまだまだ先になるだろう。国際学会の刺激は現地でないと味わえないところもあり、一刻も早い現状の改善を期待している。

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Moderna社のコロナワクチン、高齢者に安全・有効か/NEJM

 米国・国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)とModerna(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)が共同で開発中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)mRNAワクチン「mRNA-1273」について、56歳以上の高齢者を対象にした第I相臨床試験の結果が明らかにされた。米国・エモリー大学のEvan J. Anderson氏らによる検討で、主な有害事象は軽度~中等度であり、2回接種後全例で中和抗体が検出。抗体結合・中和抗体力価は100μg用量群が25μg用量群よりも高値であることが示された。mRNA-1273については、すでに18~55歳を対象にした第I相臨床試験で安全性と被験者全例で中和抗体が検出されたことが報告されている。今回の結果を踏まえて著者は、「第III相臨床試験では100μg用量を用いることが支持された」と述べている。NEJM誌オンライン版2020年9月29日号掲載の報告。25μgまたは100μgを28日間隔で2回投与 研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の疾患発症と死亡の増加が高齢者で多く認められることから、高齢者でウイルス感染を予防するワクチン候補の検討が重要であるとして本試験を行った。 試験は第I相の用量漸増非盲検試験。検討したmRNA-1273は、健康な成人の安定化融合前SARS-CoV-2スパイクタンパク質(S-2P)をエンコードする。 試験は高齢者40例を包含するよう拡大され、また被験者は年齢群(56~70歳または71歳以上)で層別化された。全被験者は28日間隔で、25μgまたは100μgの2つの用量のワクチンを順次接種されるよう割り付けられた。抗S-2P GMT、100μg群は25μg群よりも高値 試験期間中の有害事象は、主に軽度~中等度で、疲労感、寒気、頭痛、筋肉痛、注射部位の痛みなどの頻度が高かった。こうした有害事象は用量依存に認められ、2回目の接種後に発生率が高かった。 結合抗体反応は、初回接種後に急激に増大した。25μg群では、57日までの抗S-2P幾何平均抗体価(GMT)が、56~70歳群で32万3,945、71歳以上で112万8,391だった。また、100μg群のGMTはそれぞれ、118万3,066と363万8,522だった。 2回目を接種後、複数の方法によって全被験者で血清中和抗体が検出された。 結合抗体反応や中和抗体反応は、すでに公表された18~55歳を対象に行った試験結果と類似しており、また、回復患者の血清を用いた血清療法を受けた対照群の同中央値を上回っていた。なおワクチンは、1型ヘルパーT細胞が関与する強力なCD4サイトカイン反応を誘発したことが認められた。

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第25回 公立病院事業934億円の赤字、前年度からさらに増加/総務省

<先週の動き>1.公立病院事業934億円の赤字、前年度からさらに増加/総務省2.医師の労働時間短縮、派遣医師の引き上げ防止など対策案が進む3.新型コロナワクチン接種、全国民に努力義務で無料実施へ4.2021年度予算編成、新型コロナ対策を含めた効率的な予算配分へ5.上手な医療のかかり方アワード、今年も開催/厚労省1.公立病院事業934億円の赤字、前年度からさらに増加/総務省総務省は、9月30日に発表した2019年度の地方公営企業決算の概要の中で、公立病院事業の赤字が934億円に上ることを明らかにした。地方公営企業など全体の総収支は7,472億円の黒字で、前年(2018年)度に比べ5,107億円(40.6%)減少しているものの、引き続き黒字であった。病院事業は、地方公営企業など全体の決算規模では5兆8,450億円と3割以上の規模を占めているが、赤字額は前年度840億円から934億円と増加が見られ、さらに累積欠損金の金額では1兆9,907億円と、過去5年にわたって増加していることが明らかとなり、経営の健全化が求められている。(参考)令和元年度地方公営企業決算の概要(総務省)2.医師の労働時間短縮、派遣医師の引き上げ防止など対策案が進む厚生労働省は、9月30日に開催された「医師の働き方改革の推進に関する検討会」において、医師の労働時間短縮などに関する大臣指針を策定した。2035年度末を目途に(B)水準(年間1,860時間)を解消するために、「すべての(B)水準対象医師が到達することを目指すべき時間外労働(休日労働を含む)の上限時間数の目標値」を3年ごとに設定して、医師の時間外労働短縮に取り組むことが提案され、了承された。また医師の副業・兼業問題では、大学病院・地域医療支援病院について、地域医療提供体制の確保の観点から、大学医局からの要請で医師を派遣するなど、派遣元が(A)水準を適用した場合、時間外・休日労働時間を(B)水準まで可能とすることで、派遣医師の引き上げを防止する方向性が了承された。今後、関連する法改正を行い、告示される見込み。(参考)副業・兼業を行う医師に関する地域医療総合確保暫定特例水準の適用について(厚労省)医師の労働時間短縮等に関する大臣指針について(同)第9回医師の働き方改革の推進に関する検討会 資料(同)3.新型コロナワクチン接種、全国民に努力義務で無料実施へ厚労省は2日に開催された「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会」において、新型コロナウイルスワクチンについて、接種を原則として努力義務とし、全国民を対象に無料で実施する方針を決めた。すでに9月8日の閣議決定にて、ワクチン購入の費用は国費で賄うことが承認されており、米ファイザーや英アストラゼネカとの間でワクチン供給について合意している。今月下旬に招集予定の臨時国会において、関連法案を提出し法案成立後、承認後の接種実施体制構築に取り組む。(参考)第17回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 資料(厚労省)4.2021年度予算編成、新型コロナ対策を含めた効率的な予算配分へ財務大臣の諮問機関「財政制度等審議会・財政制度分科会」が1日に開催され、2021年度政府予算の編成を開始した。9月30日に締め切られた国の来年度予算案の概算要求では、新型コロナ対策のため、各省庁からは予算額が不明のまま項目のみの事項要求が相次いだことを考慮し、より効率的な予算配分に取り組む方針を明らかにした。また麻生 太郎財務相は、現役世代が減少して高齢者が増えても、社会保障制度を借金なしに維持できるように見直す必要性を指摘した。(参考)財政制度分科会(令和2年10月1日開催)資料一覧(財務省)5.上手な医療のかかり方アワード、今年も開催/厚労省厚労省は、2019年度から医師・医療従事者の負担軽減や突然の病気や怪我への対応などを目的に、「上手な医療のかかり方プロジェクト」を推進・啓発している。今年も「いのちをまもり、医療をまもる」有用な取り組みを表彰し、全国で共有するために『第2回 上手な医療のかかり方アワード』を開催することとなった。去年はブラザー工業のような企業や健康保険組合のほか、飯塚病院や横須賀市立うわまち病院などが行った地域住民に対する取り組みが表彰されている。第2回アワードの応募は今年の11月30日(金)まで。(参考)第2回「上手な医療のかかり方アワード」開催(厚労省)上手な医療のかかり方.jp

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乳がんアジュバント、アベマシクリブ+内分泌療法が予後改善(monarchE)/ESMO2020

 再発高リスクのホルモン受容体陽性HER2陰性(HR+/HER2−)乳がんに対する術後療法としての、アベマシクリブと内分泌療法薬の併用は、内分泌療法薬単独よりも、有意に無浸潤疾患生存期間(iDFS)を延長することが示された。日本も参加した、この国際共同のオープンラベル第III相monarchE試験の結果は、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Virtual Congress 2020)で、英国・The Royal Marsden NHS Foundation TrustのStephen R. D. Johnson氏より発表され、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2020年9月20日号に同時掲載された。追跡期間中央値15.5ヵ月でのアベマシクリブの2年間投与が終了している症例が12.5%で、70%以上が投与中という状況での中間解析。monarchE試験でアベマシクリブ群の優位性を確認・対象:HR+/HER2−の初発乳がん、遠隔転移なし腋窩リンパ節転移陽性の症例(閉経状況問わず)、術前/術後の化学療法は許容・試験群:標準的内分泌療法+アベマシクリブ150mg×2/日投与。アベマシクリブは最長2年間投与(アベマシクリブ群:2,808例)・対照群:標準的な術後内分泌療法(タモキシフェン、アロマターゼ阻害薬、LH-RHアゴニストなど。薬剤は主治医選択)を5年間以上施行(ET群:2,829例)・評価項目:[主要評価項目]iDFS[副次評価項目]遠隔無転移生存期間(DRFS)、全生存期間(OS)、安全性、患者報告アウトカム、薬物動態 アベマシクリブと内分泌療法薬の併用を内分泌療法薬単独と比較したmonarchE試験の主な結果は以下のとおり。・選択された内分泌療法薬は、タモキシフェンが30%程度(うちLH-RHアゴニスト併用が7~8%)、アロマターゼ阻害薬が68%程度(うちLH-RHアゴニスト併用が14~15%)であった。・iDFSのハザード比(HR)は0.747(95%信頼区間[CI]:0.598~0.932)、p=0.0096でアベマシクリブ群が有意に予後を延長していた。2年iDFSは、アベマシクリブ群92.2%、ET群88.7%であった。事前に規定されたすべてのサブグループ解析でも、アベマシクリブ群で優位性が確認された。・DRFSのHRは0.717(95%CI:0.559~0.920)、p=0.0085でアベマシクリブ群が有意に予後を改善していた。2年DRFSは、アベマシクリブ群93.6%、ET群90.3%であった。・アベマシクリブ群では有害事象のため16.6%がアベマシクリブの投与を中止し、ET群での薬剤投与中止は0.8%だった(アベマシクリブ群での下痢による投与中止は4.8%)。・アベマシクリブ群で倦怠感、下痢、好中球減少、悪心などが多く発現し、関節痛やほてりはアベマシクリブ群で少なかったが、その安全性プロファイルは既報のものと齟齬はなかった。・間質性肺炎はアベマシクリブ群で2.7%、ET群で1.2%、発熱性好中球減少症はそれぞれ0.3%と0.1%未満に発現した。

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早期TN乳がんの術前療法、アテゾリズマブ+化療でpCR改善(IMpassion031)/Lancet

 早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対する術前補助療法として、アテゾリズマブ+化学療法(nab-パクリタキセル/ドキソルビシン/シクロホスファミド)の併用は、プラセボ+化学療法と比較して病理学的完全奏効(pCR)率を有意に改善し、忍容性は良好であることが明らかとなった。米国・ダナ・ファーバー/ブリガム&ウィメンズがんセンターのElizabeth A. Mittendorf氏らが、13ヵ国75施設で実施された国際共同無作為化二重盲検第III相試験「IMpassion031試験」の結果を報告した。早期TNBCに対する術前補助療法では、アントラサイクリン/シクロホスファミドやタキサンベースの化学療法が推奨されている。一方、PD-L1陽性の転移があるTNBC患者では、アテゾリズマブ+nab-パクリタキセル併用が無増悪生存期間や全生存期間の改善に有効であることが、IMpassion130試験で示されていた。Lancet誌オンライン版2020年9月20日号掲載の報告。化学療法へのアテゾリズマブ追加の有効性をプラセボと比較 IMpassion031試験の対象は、未治療で組織学的に確認されたStageII~IIIのTNBC患者(18歳以上)で、化学療法+アテゾリズマブ(840mg、2週間隔、静注)群または化学療法+プラセボ群に、ステージ(IIまたはIII)とPD-L1発現(<1%または≧1%)で層別化して1対1の割合で無作為に割り付けた。いずれも、nab-パクリタキセル(125mg/m2、毎週、静注)と併用投与を12週間行った後、ドキソルビシン(60mg/m2、2週間隔、静注)およびシクロホスファミド(600mg/m2、2週間隔、静注)との併用投与を8週間行い、手術を実施した。手術後は、アテゾリズマブ群ではアテゾリズマブ1,200mgを3週間隔(静注)で11回投与し、プラセボ群は経過観察を継続した。 主要評価項目は、無作為化された全患者(ITT集団)およびPD-L1陽性患者(PD-L1発現≧1%)におけるpCRとした。 2017年7月7日~2019年9月24日の期間に、333例が無作為に割り付けられた(アテゾリズマブ群165例、プラセボ群168例)。カットオフ日(2020年4月3日)時点で、追跡期間中央値はアテゾリズマブ群が20.6ヵ月(IQR:8.7~24.9)、プラセボ群が19.8ヵ月(IQR:8.1~24.5)であった。アテゾリズマブ+化学療法で、PD-L1発現状態にかかわらずpCR率が17%有意に増加 ITT集団におけるpCR率は、アテゾリズマブ群が58%(95/165例)(95%信頼区間[CI]:50~65%)、プラセボ群が41%(69/168例)(95%CI:34~49%)で、アテゾリズマブ群が有意に高かった(群間差:17%、95%CI:6~27、片側p=0.0044[有意水準p<0.0184])。 PD-L1陽性患者におけるpCR率は、アテゾリズマブ群が69%(53/77例)(95%CI:57~79%)、プラセボ群が49%(37/75例)(95%CI:38~61%)であった(群間差:20%、95%CI:4~35%、片側p=0.021[有意水準p<0.0184])。 術前補助療法期において、Grade3/4の有害事象は両群で差はなく、治療関連の重篤有害事象はアテゾリズマブ群37例(23%)、プラセボ群26例(16%)で認められた。両群で各1例、Grade5の有害事象である死亡(アテゾリズマブ群:交通事故、プラセボ群:肺炎、ともに治療とは関連しない)が報告された。

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