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豚由来の腎臓で健康に暮らす米国人女性

 遺伝子編集された豚からの腎臓移植を受けて、新たな人生を歩み始めた米国人の女性が、新しい臓器とともに1カ月以上健康に暮らしていることが報告された。 この女性はアラバマ州在住のTowana Looneyさん、53歳。Looneyさん自身の腎臓が後に腎不全まで進行する過程は、彼女の母親への“贈り物”から始まった。1999年、彼女は病気の母親のために、自分の腎臓の一つを提供したのだ。彼女の移植治療を行った米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン校の医師によると、Looneyさんはその後の妊娠時に血圧が急に高くなり、残っていた腎臓も機能不全に陥ったという。 2016年後半に、Looneyさんは透析療法を受ける必要が生じ、数カ月後には腎臓移植待機リストに名前が加えられた。しかし彼女の場合、免疫によってドナーの臓器に対する拒絶反応が強く現れる可能性が高いと予測されたために、より適した臓器が提供される機会を長く待たなければならなかった。 残された時間は少なくなっていった。なぜなら、透析療法開始後の8年間で、透析に利用可能な重要な血管が、徐々に失われていったからだ。最終的に米食品医薬品局(FDA)の「拡大アクセスプログラム」により、彼女に対する治療として、豚の腎臓を移植するという「異種移植」が許可された。FDAの拡大アクセスプログラムは、ほかに治療法がない重篤な患者に対して、いまだ実験的な段階にある治療を行おうとする際に、人道的な理由で特別にこれを許可するもの。 Looneyさんに移植された豚の腎臓には、ヒトへの移植に適したものにするために、10カ所の遺伝子編集が行われた。このような異種移植はまだ始まったばかりの治療法だが、医師らによると、移植から1カ月が経過した現在、Looneyさんの健康状態は良好だという。「これは本当にありがたいことだ。もう一度、人生のチャンスを与えられたように感じる。また旅行をして、家族や孫たちとともに、今まで以上に充実した時間を過ごせるようになることを待ちきれない」と彼女は語っている。 Looneyさんのケースは、遺伝子編集された豚の腎臓がヒトに移植された世界で3番目のケースであり、豚の臓器を移植され現在も生存している唯一のケースでもある。彼女はまた、10カ所の遺伝子編集が施された豚の腎臓を移植され、その臓器が人間の体内で正常に機能している唯一の人物でもある。 困難な移植手術を指揮したNYUランゴン校のRobert Montgomery氏は、「Looneyさんは、われわれが2021年に最初に異種移植の手術を行って以来、積み上げてきた進歩の集大成だ。彼女は腎不全に苦しむ人々にとって希望の光である。治療に関わった全ての医師、研究者、看護師、管理者、周術期ケアチームは、この成果にとても興奮している。Looneyさんの命を支えるために彼らが行ってきたことを、私はこの上なく誇りに感じている」と話している。 Looneyさんの腎臓移植を受けるまでの道のりは、彼女の故郷であるアラバマ州から始まった。彼女は当時、アラバマ大学バーミンガム校に勤務していた先進的な移植外科医、Jayme Locke氏の治療を受けることになった。彼女にFDAの拡大アクセスプログラムが適用されるように働きかけたのもLocke氏だ。そして同氏の研究により、遺伝子編集された豚の臓器が実際にLooneyさんの体内で適切に機能することが確認され、プログラム申請が承認されることになった。Montgomery氏はLocke氏の指導的立場にあり、2人のパートナーシップがこのプロセスの推進に役立った。 NYUランゴンヘルスのニュースリリースによると、現在、全米で約10万4,000人が臓器移植の待機リストに登録されており、そのうち9万400人以上は腎臓の移植を待っているという。多くの腎不全患者にとって、状況は明るいものとは言えない。現在、米国には80万8,000人以上の腎不全患者がいるが、2023年に新しい腎臓を移植されたのは、わずか2万7,000人だった。

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小児の喘息のエンドタイプを特定できる新たな検査法を開発

 新しい迅速かつ簡便な鼻腔スワブ検査により、小児の喘息の背後にある特定の免疫システムや病態に関する要因(エンドタイプ)を特定できる可能性のあることが、新たな研究で示された。研究グループは、この非侵襲的アプローチは、臨床医がより正確に薬を処方するのに役立つだけでなく、これまで正確に診断することが困難で、研究の進んでいないタイプの喘息に対するより良い治療法の開発につながる可能性があると見ている。米ピッツバーグ医療センター(UPMC)小児病院呼吸器科部長で上級研究員のJuan Celedon氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に1月2日掲載された。 Celedon氏は、「喘息は、エンドタイプによって関与している免疫細胞や治療方法が異なる多様な疾患である。そのため、エンドタイプの正確な診断がより良い治療法への第1歩となる」と述べている。 喘息は小児期に最も頻発する慢性疾患であり、米国立衛生研究所の統計によると、米国では10人に1人の小児が喘息に罹患している。喘息は通常、気道に炎症を引き起こす免疫細胞に基づきいくつかのエンドタイプに分類される。主なエンドタイプは、Tヘルパー2(T2)細胞が関与する免疫反応が亢進し、T2サイトカイン(インターロイキン〔IL〕-4、IL-5、IL-13)の産生と免疫グロブリンE(IgE)の分泌、および気道中の好酸球増加を特徴とする「T2-high」、好中球による気道の炎症とIL-17およびIL-22の血清レベル上昇を特徴とする「T17-high」、および好酸球性または好中球性の気道炎症を欠き、病態の解明が進んでいない「T2-low/T17-low」などである。 研究グループによると、喘息のエンドタイプを正確に診断するには、小児に麻酔を施して肺組織のサンプルを採取し、その遺伝子解析を行う必要があるという。しかし、この処置は極めて侵襲的であるため、軽症の喘息の小児には適応されない。そのため医師は血液、肺機能、その他のアレルギーの検査の結果に基づいて喘息のエンドタイプを推測しているのが現状だとCeledon氏は説明する。同氏は、「これらの検査により、小児の喘息のエンドタイプがT2-highであるか否かを推測することはできるが、100%正確とは言えない。また、T17-highかT2-low/T17-lowかについては、臨床マーカーがないため分からない。この格差が、喘息エンドタイプ診断の精度を向上させるためのより良いアプローチを開発する動機となった」と話す。 今回の研究では、小児459人の鼻上皮細胞のサンプルを用いて、トランスクリプトーム解析により、T2経路に関連する3つの遺伝子とT17経路に関連する5つの遺伝子の転写プロファイルを調査した。研究グループによると、これらのサンプルは、喘息の罹患率が高く、喘息で死亡リスクも高いプエルトリコ人とアフリカ系米国人の小児に焦点を当てた米国の3件の研究から採取されたものであったという。 その結果、この鼻腔スワブを用いた解析により、小児の喘息の特定のエンドタイプを正確に特定できることが明らかになった。全体で、参加者の23~29%がT2-high、35~47%がT17-high、30~38%がT2-low/T17-lowの喘息であった。 Celedon氏らによると、重度のT2-highの喘息の治療には、強力な新クラスの生物学的製剤を利用できるが、それ以外のエンドタイプの喘息に対して有効な治療薬はないという。Celedon氏は、「T2-highの喘息に対する治療法が改善されたのは、より優れたマーカーがこのエンドタイプの研究を推進したおかげでもある。今後は、この簡便な検査により他のエンドタイプの喘息を検出できるようになるため、T17-high、およびT2-low/T17-lowの喘息に対する生物学的製剤の開発にも着手できるだろう」と話している。

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歩くのが速いと自認している肥満者、代謝性疾患が少ない

 肥満者において、主観的歩行速度が代謝性疾患のリスクと関連のあることを示唆するデータが報告された。同志社大学大学院スポーツ健康科学研究科の山本結子氏、石井好二郎氏らが行った横断的解析の結果であり、詳細は「Scientific Reports」に11月15日掲載された。 歩行速度は、体温、脈拍、呼吸、血圧、酸素飽和度に続く“第6のバイタルサイン”と呼ばれ、死亡リスクと関連のあることが知られている。しかし、歩行速度を客観的に把握するにはスペースと時間が必要とされる。よって健診などでは、「あなたの歩く速度は同世代の同性と比べて速い方ですか?」という質問の答えを主観的歩行速度として評価することが多い。この主観的歩行速度も代謝性疾患リスクと関連のあることが報告されているが、疾患ハイリスク集団である肥満者での知見は限られている。これらを背景として山本氏らは健診受診者データを用いて、肥満者の主観的歩行速度が代謝性疾患の罹患状況と関連しているかを検討した。 解析対象は2011~2022年の武田病院健診センターにおける人間ドック受診者のうち、肥満または腹部肥満に該当し、データ欠落がない人。関連性を評価した代謝性疾患は、高血圧、糖尿病、脂質異常症の三つで、いずれも健診時データが診断基準を満たす場合、または治療薬が処方されている場合に「疾患あり」と判定した。解析に際しては、年齢、性別、喫煙・飲酒・運動習慣の影響を統計学的に調整した。 まず、肥満(BMI25以上)については、該当者が8,578人(平均年齢53.7±8.6歳、男性63.0%)であり、45.3%が「歩行速度が速い」と回答していた。主観的歩行速度が速い群では、糖尿病が有意に少なかった(リスク比〔RR〕0.71〔95%信頼区間0.64~0.79〕)。高血圧と脂質異常症に関しては、リスク比が1未満だったが信頼区間が1をまたいでいた。なお、年齢と性別のみを調整因子とするモデルでの解析では、脂質異常症もRR0.97(同0.94~1.00)と有意に少なかった。ただし高血圧に関しては、このモデルでも非有意だった。 次に、腹部肥満(ウエスト周囲長が男性85cm以上、女性90cm以上)の該当者は9,626人(54.8±8.9歳、男性79.8%)であり、47.9%が「歩行速度が速い」と回答していた。主観的歩行速度が速い群では、高血圧(RR0.94〔0.90~0.97〕)、糖尿病(RR0.72〔0.65~0.79〕)、脂質異常症(RR0.97〔0.94~0.99〕)と、評価した全ての代謝性疾患が少なかった。 続いて、肥満および腹部肥満の定義を満たす6,742人(54.0±8.6歳、男性74.0%)で検討。この集団における主観的歩行速度が速い群(45.1%)も、腹部肥満者での解析結果と同様に、高血圧(RR0.95〔0.92~0.99〕)、糖尿病(RR0.71〔0.64~0.79〕)、脂質異常症(RR0.97〔0.94~1.00〕)という3疾患全てが少なかった。 著者らは、解析対象が人間ドック受診者であり健康リテラシーが高いと考えられ、かつ単一施設のデータであること、および横断的解析であることなどを解釈上の留意点として挙げた上で、「肥満者においても主観的な歩行速度が速い場合に、代謝性疾患のリスクが低い可能性が示された」と結論付けている。なお、BMI25以上のみの群では主観的歩行速度と高血圧リスクとの関連が非有意であったことの理由について、「血圧管理には歩行速度だけでなく、毎日の歩数が重要なことを示唆する報告がある」との考察が付け加えられている。

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敗血症が疑われる入院患者に対するバイオマーカーガイド下の抗菌薬投与期間(解説:寺田教彦氏)

 本研究は、敗血症が疑われる重篤な入院成人患者に対して連日血液検査を行い、バイオマーカー(プロカルシトニン[PCT]またはC反応性タンパク質[CRP])のモニタリングプロトコールに基づいた抗菌薬中止に関する助言を臨床医が受けた際の、標準治療と比較した有効性(総抗菌薬投与期間)と安全性(全死因死亡率)を評価している。 本論文の筆者は、ジャーナル四天王「敗血症疑い患者の抗菌薬の期間短縮、PCTガイド下vs.CRPガイド下/JAMA」にもあるように、有効性(無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間)はDaily PCTガイド下プロトコール群(以下PCT群)で認め(期間短縮)、Daily CRPガイド下プロトコール群(以下CRP群)では有意差なし。安全性(無作為化から28日までの全死因死亡)はPCT群で非劣性だが、CRP群では非劣性の確証は得られなかった、と結論付けている。 本研究を評価するに当たって、まず、ガイド下とは具体的にどのような手順だったのかを確認する。 本文のInterventionによると、試験患者らは、無作為化後、敗血症に対する抗菌薬の中止あるいは退院まで毎日血液を採取された。そして、患者の治療医師らは、以下のような抗菌薬中止に関する書面助言を毎日受け取っていた(Supplement3のeTable1参照)。(1)PCT群:PCT<0.25μg/Lの場合は、強く抗菌薬中止を支持する(STRONGLY SUPPORTS)。PCTがベースラインから80%以上低下、あるいは0.25μg/L≦PCT≦0.50μg/Lの場合は、抗菌薬中止を支持する(SUPPORTS)。それ以外の場合は、標準療法を支持する。(2)CRP群:CRP<25mg/Lの場合は、強く抗菌薬中止を支持する(STRONGLY SUPPORTS)。CRPがベースラインから50%以上低下した場合は、抗菌薬中止を支持する(SUPPORTS)。それ以外の場合は、標準療法を支持する。(3)標準治療群:常に標準療法を支持する。 次に、上記のプロトコールにより、書面助言で抗菌薬中止の推奨や強い推奨をされた頻度を確認する。 無作為化から抗菌薬を最初に中止あるいは強く中止の書面助言を受け取るまでの期間は、eTable29によると、PCT群が中止の推奨を受け取るまでの時間は平均3.7日、SDは1.9日、件数は502件だった。強く中止の推奨を受け取るまでの時間は平均3.5日、SDは3.8日、件数は248件だった。CRP群では中止の推奨を受け取るまでの時間は平均3.7日、SDは2.3日、件数は519件だった。強く中止の推奨を受け取るまでの時間は平均5.1日、SDは4.0日、件数は139件だった。 敗血症期間の抗菌薬総投与期間は、PCT群では平均7.0日、SDは5.7日で、CRP群では平均7.4日、SDは6.0日だった。 それぞれの治療群で受け取った書面助言の割合は、Supplement3のeFigure6とeTable30に示され、以下のような結果である。PCT群は、1日目の書面助言で約10%程度が強く中止の助言を受けており、その後も10%以上程度は強く中止の助言を受けていそうなグラフだが、CRP群は強く中止の助言は多くはなされず、中止の助言の割合が高かった。このグラフは、上記のPCT群とCRP群の中止や強く中止の推奨の件数と一致する情報と考えられた。 以上のことを参考に、本研究で得られたアウトカムについて考えてみる。今回のアウトカムは抗菌薬総投与期間だが、バイオマーカー結果は臨床医に抗菌薬中止に関する書面助言を与えたのみで、最終的に抗菌薬の投与中止を判断したのは臨床医だった。臨床医は、抗菌薬中止の書面助言が、PCTに基づく推奨かCRPに基づく推奨かはわからなかったため、書面助言結果を科学的な判断材料には用いづらかったのではないかと思う。 本研究での、PCTやCRPに基づく抗菌薬の中止助言の役割は、科学的な知見を臨床医に与えることで抗菌薬を中止したというよりも、単に臨床医に抗菌薬終了のプレッシャーをかけたのではないだろうか。そして、PCTはCRPよりも強く中止を推奨する助言の割合が高かったので、抗菌薬投与期間が短縮されたのではないかと予測する。 本研究結果からわかったこととして、「この研究に参加した医療機関では、PCTガイドにより全死因死亡率を上げることなく、0.88日の抗菌薬投与期間短縮を示した」は事実ではあるが、臨床医の判断基準は所属施設や国により異なる可能性があり、他の医療機関や本邦でも当てはめることができるかは疑問である。また、本研究では連日の採血と生化学検査を必要とするが、本研究で示されたメリットが、連日の血液検査およびPCT/CRP評価による医療従事者(採血者、検査技師)や患者の肉体的・金銭的負担の割に合うかを考える必要もあるだろう。 本研究ではPCTの比較対象としてCRPが用いられた。CRPガイドでは「抗菌薬投与期間の短縮なしで、全死因死亡の非劣性の確証が得られなかった」ことは、PCTが優れていると考えるよりも、CRPの結果をうのみにする診療は避けるべきであることを示唆しているのだろう。 抗菌薬投与期間について、バイオマーカーを利用して患者ごとに適切な治療期間を判断するという試みには興味をそそられるが、現時点では、感染症の治療期間は患者背景や感染臓器、原因微生物のすべてを考慮して決定するのがよいと考える(「抗微生物薬適正使用の手引き 第三版」)。

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第245回 レプリコンワクチンを求め上京した知人、その理由と副反応の状況は?

前回も触れた新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対する次世代mRNAワクチンのコスタイベだが、インターネット上でネガティブな情報が氾濫する一方、逆にこのワクチンを接種したいと希望する一般人もいる。もっとも現在のコスタイベは1バイアルが16回接種分であり、接種前調整で生理食塩水10mLに溶解して6時間以内に使い切らねばならない。つまり医療機関側がこのワクチンを使おうとすると、あらかじめ16人という大人数を集めておかねばならないのだ。これは大規模医療機関でも至難の業である。実は私も次の接種ではこれを選択しようと思っており、コスタイベの接種希望者をほぼ常時募集しているある医療機関を知っている。しかし、インターネット隆盛のこの時代でも一般人がこのワクチン選択をするならば、多くは“接種可能な医療機関探し”という入口で壁にぶち当たるのが常である。とりわけコスタイベの場合、昨秋からスタートした定期接種から対象ワクチンに加わったばかりで、1バイアル16回接種分を棚上げしても、医療機関の多くは使い慣れたファイザー製やモデルナ製を選択しがちである。さらに前回でも触れたように、このワクチンに対する懐疑派の人たちがこのワクチンを接種しようとする医療機関に嫌がらせを行ってしまうため、余計に医療機関側は奥手になってしまうだろう。実は秋冬接種が始まった昨年10月、私はある人から「コスタイベを接種したいが、医療機関が見つからず難渋している」と相談を受けた。実はこの方は、以前に本連載で取り上げた、仙台市内からさいたま市まで新幹線代をかけて新型コロナワクチンを接種しに行った大学教員のA氏だ。A氏は結局、私が知っていたコスタイベ接種可能な医療機関で無事接種を終えた。ということで、再びA氏に接種に至る経緯から、接種終了後までの話を聞いてみた。SNS炎上をきっかけにコスタイベを希望まず、A氏は以前の本連載で紹介したように2024年6月に任意接種で新型コロナワクチンを接種。この時から「半年に1度くらいの頻度で接種できれば」と漠然と考えていたという。そうした中で10月初旬、“コスタイベは比較的長期間、高い抗体価が持続する”というLancet Infectious Diseases誌に公表された論文1)を目にした。畑違いではあるが、英語論文を読み慣れているA氏は、それならばコスタイベを接種しようと思い立った。「実はコスタイベに興味を持ったきっかけは、むしろ懐疑的な人たちがSNS上で騒いでいたことがきっかけなんですよ。彼らが『効果が長い間残る』と書いていて、自分の場合は新型コロナワクチンを定期的に受けたいと思っていたので、効果が長く続くなら逆にありがたいと思ったんです。そこで医師や研究者の方の発信を辿って、割と簡単に(前述の)論文1)にたどり着いたというわけです。その意味では懐疑的な人たちの情報発信は私にとっては、逆効果でしたね(笑)」A氏は早速ネット上で接種可能な医療機関を検索。コスタイベ接種希望者を募っていた都内のクリニックをみつけ、仮予約をした。仮予約とは、16人の接種希望者が集まり次第実施の最終決定ということである。当時をA氏は次のように振り返る。「反対派の嫌がらせを避けるため、接種希望者同士でまるで違法薬物の裏取引のように、ネットで隠語や非公開のダイレクトメッセージで接種の情報をやりとりしているのが稀有な経験でした」実際、定期接種の開始当時、私もX(旧Twitter)などを見ていたが、新型コロナワクチンの接種情報を積極的に発信しているインフルエンサー的なアカウントでは、明らかにコスタイベを指すと思われる「あれ」という用語が盛んに使われていた。しかし、ここで災難が起こった。まさに前回の連載でも触れたようにコスタイベ接種を公言したこのクリニックに嫌がらせが殺到し始めたのだ。このため、A氏の仮予約翌日にクリニック側のホームページはコスタイベ接種の予約受付中止を宣言。同時に接種そのものを中止することを示唆するお知らせを掲載し、コスタイベ接種の試みは半ばふりだしに戻ってしまった。対応施設の検索から接種まで2週間しかし、ここからA氏は本領を発揮。新たなコスタイベの接種可能な医療機関を見つけるべく、仙台市の新型コロナウイルスワクチン定期接種登録医療機関に片っ端から問い合わせの電話を入れたという。「最初は仙台市役所にコンタクトを取りましたが、すでに仙台市新型コロナウイルスワクチン接種専用コールセンターは廃止されたので、仙台市総合コールセンター『杜の都おしえてコール』に電話をしました。ですが、定期接種登録医療機関が掲載されていることは教えてもらえましたが、個別医療機関で採用しているワクチンの種類はわかりませんとのことでした」結果的に休診日などで不通も含め約200件に連絡したが、コスタイベの取り扱いは皆無だった。ちなみにこの約200件の発信履歴は、取材時にA氏に見せてもらっている。「医療機関の受付がコスタイベという商品名を知らないことも多く、コスタイベという単語を聞き取ってもらえないことも当たり前でした。結局、『そちらで接種できるコロナワクチンの種類はなんですか』と聞くのが一番早いとわかりましたが、多くはファイザーかモデルナ、時に第一三共や武田薬品のワクチンが打てる医療機関はありましたが、コスタイベを接種できる医療機関はありませんでした」最終的に、私が教えた医療機関に仮予約し、状況確認の連絡をしたところ「このペースなら多分ほぼ確実に16人の枠は埋まるでしょう」と言われ、最終的に10月16日にこの医療機関へ16人の接種希望者が集まったことから、最終意志確認の電話連絡を経て正式予約となり、10月22日に接種となった。10月22日、A氏は新幹線で上京。当該医療機関には午後1時半ごろに窓口に顔を出した。目の前には複数の診察室があり、A氏がしばらくして入るよう指示を受けたのは、そのうちただ1つ担当医の名札が下げられていない診察室だった。診察室に入ると、担当医からワクチン接種前の問診を受け、A氏が「これを打ちたくて仙台から来ました」と話を振ると、担当医からは「住所を見て、あれ?って思いました」と返答された。副反応、他剤と比べると?接種後の副反応について、A氏は最初に接種したモデルナ製ワクチンでは、「翌日に38.5℃の発熱なのにつらくない」という不思議な体験をし、以後はファイザー製を選択して強い副反応はほとんど経験してこなかったそうだが、今回のコスタイベではどうだったのか? あくまで個人的な感想として次のように語った。「翌日に1時間弱、寒気を感じたのと、接種部位が数日間、少しズキズキした程度で終わりました」前回の任意接種よりは接種医療機関探しは楽だったものの、「今回はコスタイベを選ぼうとしたことで自ら苦労してしまった」と苦笑いするA氏。前回の接種のきっかけとなった新型コロナ感染後の後遺症とみられる咳喘息は、今は小康状態。そして以前は年1回、風邪を引いた直後に使用する程度だった吸入薬は、現在も毎日1回の使用を続けている。参考1)Oda Y, et al. Lancet Infect Dis. 2024;24:e729-e731.

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MCI温故知新:「知情意」のほころび【外来で役立つ!認知症Topics】第25回

MCIとは「軽度の認知症」か?認知症の臨床現場における「あるある誤解」の一つに「MCIとは軽度の認知症か?」があるもしれない。確かにMCI(Mild Cognitive Impairment)とは「軽度認知障害」と訳されているから、その字面からしてそう思われても仕方がない。またMCIになるとMRI画像に海馬萎縮が現れてアルツハイマー病の診断がなされると思っている人も少なくない。実際には、この時期の海馬は多くの場合は萎縮しておらず、局所脳血流(rCBF)はむしろ増加していることもあるのだが。早期診断への壁:受診の遅れと心理的バイアス近年MCIが注目される最大の理由は、抗アミロイドβ抗体薬を皮切りに、今後の承認が期待される疾患修飾薬(Disease Modifying Drugs)のターゲットがこれだからだろう。ところがこうした治療適齢期に医療機関を受診する人が少ないのである。これに関して、最初の認知症の気付きから医療機関受診までに平均で4年を要するというLancet誌のレビューがある1)。経験的には、本人、家族共に、診断されるのが怖いのはわかる。心理学用語で「確証バイアス」と言われるように、人は自分に都合の良い情報を集める性癖がある。たとえば、「年を取ればこんなもの」「家系に認知症はいない」「かかりつけ医が『あなたはうつだから、大丈夫』と言った」などである。逆にネガティビティバイアスといって悪いイメージが強く残っていると恐怖が強すぎて、他のプラスの情報をすっかり忘れ去ることもある。悪いイメージとは、たとえば、頭部外傷や大腿骨頸部骨折、また重症肺炎などの合併症が重なり急速に死に至ったアルツハイマー病の患者さんといった、特別に不運なケースを身近に経験したような場合である。つまりアルツハイマー病と診断された時、そうした極端な例が心を占めて、一般的なアルツハイマー病の経過を説明しても耳を貸さない人もいる。さて新薬の恩恵にあずかるには、MCIの時期に的確にそれに気付かなくてはならない。以下に述べるように、MCIと診断される頃には、実は行動や感情面でも変化が表れているのだが、MCIとは記憶の障害であり、それはMMSEや長谷川式の記憶項目などの失点として現れると思い込んでいる人が多い。MCIの概念の歴史的変遷MCIというとRonald C. Petersen氏らの定義2)有名だが、実はこの用語は彼のオリジナルではない。というのは、このMCIという術語を用いて複数の学者がそれぞれに異なる定義をしているのである。歴史的にみて、このMCIの始まりは、1991年にBarry Reisberg氏らがアルツハイマー病のステージ判定のために彼らが開発したFAST尺度でStage3を意味する表現としてMCIを用いたことにある3)。次に、Michael Zaudig氏らが現在も抗アルツハイマー病薬の効果判定でもよく使われるClinical Dementia Rating(CDR):0.5に相当するとされる別のMCIを提唱した4)。この2つは行動などを含めて生活機能全般に注目して認知症の前駆期を捉えようとしている。一方で、現在最も注目されているMCIは1996年にPetersen氏らによって定義されたものだが、これは記憶障害に重点の置かれた診断基準であった。行動・感情面の評価が重要にこのようなMCIの概念の歴史からもわかるように、認知症の前駆・初期症状は記憶などの認知機能障害ばかりではない。たとえば近年では、道具的ADL(Instrumental Activities of Daily Living:IADL)の失敗が始まる時期はMCI期に重なるという指摘がある。具体的には料理、掃除、移動、洗濯、金銭管理などであり、日常生活動作(ADL)よりも複雑で神経心理学的能力が求められるものである。それだけに認知機能の衰退が始まるとIADLの障害は露呈しやすいのも納得できる。そこで「IADL障害は認知症発症に先立つのでMCIの診断でこれを考慮すべき」とまとめられている5)。また、客観的に観察される日常的な行動面での変化も病初期から認められやすい。認知症の前駆期やMCI期にみられる特有の行動症状として、近年ではMild Behavioral Impairment(MBI)の概念やその定義が提唱され、多くの質問項目も作成されている6)。その内容は、意欲低下、情緒不安定、衝動の制御困難、社会的に不適切な言動、知覚・思考の異常という5つのカテゴリーになっている。自身の臨床の場を思い出してみると、何でも面倒臭くなって長年の習慣が廃れる高齢者は枚挙にいとまない。また些細なことで怒り炸裂の「怒りん坊」になる人はとくに男性で多い。そうした方々に見られる言動を仔細に思い出してみると、確かにこの5つのカテゴリーのすべてに該当する何らかの問題がありそうだとも思えてくる。ところで、人の精神活動を「知情意」とまとめる言葉がある。MCI に関して言えば、この3つの中で「知」ばかりが重んじられていたのだが、最初期のMCIの概念やMBIの考え方に代表されるように、実は「情意」の異常も初期から見られるということだ。さて、これからの認知症の治療におけるキーワードであるMCI。多くの人々にこれに気付いてもらうためには、認知機能のみならずIADL、客観的な行動、そして情意という点にも心を向けていただけるような医療的な指導が必要になると思う。参考1)Liang CS, et al. Mortality rates in Alzheimer's disease and non-Alzheimer's dementias: a systematic review and meta-analysis. Lancet Healthy Longev. 2021;2:e479-e488.2)Petersen RC, et al. Mild cognitive impairment: clinical characterization and outcome. Arch Neurol. 1999;56:303-308.3)Reisberg B, et al. Clinical Stages of Alzheimer’s disease. In:de Leon MJ, editor. The Encyclopedia of Visual Medicine Series, An atlas of Alzheimer’s disease. Pearl River (NY):Parthenon;1999.p.11-20.4)Zaudig M. A new systematic method of measurement and diagnosis of "mild cognitive impairment" and dementia according to ICD-10 and DSM-III-R criteria. Int Psychogeriatr. 1992;4 Suppl 2:203-219.5)Nygard L. Instrumental activities of daily living: a stepping-stone towards Alzheimer's disease diagnosis in subjects with mild cognitive impairment? Acta Neurol Scand Suppl. 2003;179:42-46.6)Ismail Z, et al. The Mild Behavioral Impairment Checklist (MBI-C): A Rating Scale for Neuropsychiatric Symptoms in Pre-Dementia Populations. J Alzheimers Dis. 2017;56:929-938.

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delirium(せん妄)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第18回

言葉の由来「せん妄」は英語で“delirium”といいます。この言葉はラテン語の“delirare”(正気を失う、錯乱する)に由来し、さらに分解すると、“de”(外れる、離れる)と“lira”(畝、耕した後の土の列)という2つの部分に分けられます。この組み合わせは「耕作の畝から外れる」、つまり「道を外れる」という比喩的な意味を持ち、混乱や錯乱を意味します。“delirium”という言葉は16世紀ごろに「病気や発熱中に一時的に心が乱れる状態」を指す用語として初めて使用されました。その後、1640年代には「激しい興奮や狂乱」を意味する形で使われるようになりました。現代の医学では、せん妄は急性で変動性の意識変容を指し、高齢者や重病患者にとくに多くみられます。せん妄の特徴には、注意力の低下、意識の変容、支離滅裂な思考などがあり、これらが急性に現れ、時間と共に変動するのも特徴です。この状態は可逆的である場合が多いものの、患者や家族への心理的負担は非常に大きく、予防、早期発見と適切な対応が重要です。併せて覚えよう! 周辺単語変動fluctuation注意力低下inattention見当識障害disorientation幻視visual hallucination支離滅裂な思考disorganized thinkingこの病気、英語で説明できますか?Delirium is an acute and often sudden change in mental state, characterized by confusion, inattention, and altered level of consciousness, often occurring in older adults or during severe illness. It is usually reversible with proper management.講師紹介

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アルコール飲み放題が飲酒問題に及ぼす影響はどの程度か

 国立国際医療研究センターの若林 真美氏らは、レストランやバーでのアルコール飲み放題と問題のあるアルコール消費パターンとの関連を調査した。BMJ Open誌2024年12月3日号の報告。 COVID-19パンデミック中の2022年2月の日本における社会と新型タバコに関するインターネット調査研究プロジェクト(JASTIS研究)のデータを用いて、横断的研究を実施した。問題のあるアルコール消費パターンは、アルコール使用障害スクリーニング(AUDIT)で特定した。飲酒対象者1万9,585人(男性の割合:55%、平均年齢:48.3歳)をAUDITスコアに基づき、問題のない飲酒(AUDITスコア:0〜7)、問題のある飲酒(同:8以上)、危険な飲酒(同:8〜14)、アルコール依存症疑い(同:15以上)の4つに分類した。AUDITの設問3で2以上のスコアの場合、過度な飲酒と判断される。説明変数は、COVID-19パンデミック中の過去12ヵ月間(2021年2月〜2022年2月)における定額制のアルコール飲み放題の利用歴とした。定額制飲み放題の利用と問題のある飲酒または過度な飲酒、危険な飲酒またはアルコール依存症疑いとの関連を分析した。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19パンデミック中に定額制のアルコール飲み放題を利用した人は、利用していない人と比較し、問題のある飲酒(多変量バイナリーロジスティック回帰による調整オッズ比:4.64、95%信頼区間[CI]:4.24〜5.07)および過度な飲酒(同:3.65、95%CI:3.33〜4.00)である可能性が高かった。・定額制のアルコール飲み放題を利用した人は、危険な飲酒(多項ロジスティック回帰による調整相対リスク比:3.40、95%CI:3.06〜3.77)およびアルコール依存症疑い(同:8.58、95%CI:7.51〜9.80)との関連が認められた。 著者らは「全体として、定額制のアルコール飲み放題は、危険な飲酒やアルコール依存症疑いを含む、過度な飲酒や問題のある飲酒と関連していることが明らかとなった」と結論付けている。

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CKDを有する高血圧患者にも厳格降圧は有益?

 SPRINT試験で認められた厳格降圧(収縮期血圧目標:120mmHg未満)および標準降圧(同:140mmHg未満)のリスク・ベネフィットが、慢性腎臓病(CKD)を有するSPRINT試験適格の高血圧患者にも適用できるかどうかを調査した結果、SPRINT試験と同様に厳格降圧による予後改善効果は認められたものの、重篤な有害事象も多かったことを、米国・スタンフォード大学のManjula Kurella Tamura氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2025年1月7日号掲載の報告。 SPRINT試験において、糖尿病または脳卒中の既往がなく、心血管イベントリスクが高い高血圧患者では、厳格降圧のほうが標準降圧よりも死亡や心血管イベントなどのリスクが低減した。その一方で、急性腎障害などの特定の有害事象が増加したことや、進行したCKD患者では厳格降圧による心血管系へのメリットが減弱する可能性があることも示唆されている。そこで研究グループは、SPRINT試験の結果が、実臨床におけるCKDを有する高血圧患者にも適用可能かどうかを評価するために試験を実施した。 2019年1月1日~12月31日に米国退役軍人保健局(VHA)とカイザーパーマネンテ南カリフォルニア病院(KPSC)の電子健康記録データベースから、CKDを有し、かつSPRINT試験の適格基準を満たす高血圧患者を抽出して、SPRINT試験のベースラインの共変量データ、治療データおよびアウトカムデータと、VHAとKPSC集団の共変量データを組み合わせ、治療効果を推定した。分析は2023年5月~2024年10月に実施された。主なアウトカムは、4年時点での主要な心血管イベント、全死因死亡、認知障害、CKD進行、有害事象などであった。 主な結果は以下のとおり。・VHAからは8万5,938例(平均年齢:75.7[SD 10.0]歳、男性:95.0%)、KPSCからは1万3,983例(77.4[9.6]歳、38.4%)が抽出された。SPRINT試験の参加者9,361例(67.9[9.4]歳、64.4%)と比較すると、年齢が高く、心血管疾患の有病率が低く、アルブミン尿を有する割合が高く、スタチンの使用量が多かった。・厳格降圧および標準降圧と主要な心血管イベント、全死因死亡、有害事象との関連は、SPRINT試験からVHAおよびKPSC集団の両方に適用可能であった。・厳格降圧群は、標準降圧群と比較して、4年時点での主要な心血管イベントの絶対リスクがVHA集団で5.1%、KPSC集団で3.0%低かった。・全死因死亡の絶対リスクは、厳格降圧群のほうがVHA集団で2.8%、KPSC集団で2.3%低かった。・重篤な有害事象のリスクは、厳格降圧群のほうがVHA集団で1.3%、KPSC集団で3.1%高かった。・VHA集団においてのみ厳格降圧による腎臓関連アウトカムとeGFRの50%超低下のリスク低減が認められたが、信頼区間が広く、メリットがない可能性も考えられた。 これらの結果より、研究グループは「SPRINT試験で観察された厳格降圧および標準降圧のリスク・ベネフィットは、臨床におけるCKDを有するSPRINT試験適格の高血圧患者にも適用可能であった。厳格降圧を実施する利点が示されたものの、有害事象のリスクは増大したことから、高血圧治療の決定では患者の希望を考慮することの重要性が強調された」とまとめた。

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鳥インフルエンザA(H5N1)、ヒト感染例の特徴/NEJM

 米国疾病予防管理センター(CDC)のShikha Garg氏らは、米国で2024年3月~10月に確認された高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)のヒト感染症例46例の特徴について報告した。1例を除き、感染動物への曝露により短期間の軽度の症状を呈し、ほとんどの患者は迅速な抗ウイルス治療を受け、ヒトからヒトへのA(H5N1)ウイルスの伝播は認められなかったという。NEJM誌オンライン版2024年12月31日号掲載の報告。米国での46例について調査報告 米国の州および地域の公衆衛生当局は、A(H5N1)ウイルスの感染疑いまたは感染が確認された動物(家禽、乳牛)に、職業上曝露した人々を曝露後10日間モニタリングし、症状のある人から検体を採取してCDCのヒトインフルエンザリアルタイムRT-PCR診断パネルインフルエンザA(H5)亜型アッセイを用いてA(H5N1)ウイルスが検出された人を特定した。感染が確認された患者に対し、標準化された新型インフルエンザ症例報告書を用いて調査が行われた。 2024年3月28日~10月31日に、6州でA(H5N1)のヒト感染症例が18歳以上の成人において46例確認された。このうち、感染家禽への曝露が20例、感染牛への曝露が25例で、1例は動物または症状のある人への曝露が特定できなかった。 この1例は、複数の基礎疾患を有しており非呼吸器症状で救急外来を受診・入院し、インフルエンザA陽性であったためオセルタミビルによる治療を受け3日後に退院したが、定期サーベイランスにより州公衆衛生研究所にてA(H5N1)感染が検出された。感染動物への曝露症例は全例が殺処分作業従事者、症状は軽度 動物曝露45例の年齢の中央値は34歳で、全例、感染動物の殺処分作業に従事しており、感染患者同士の直接接触は確認されなかった。 全例が軽症で、入院や死亡は報告されなかった。最も多い症状は結膜炎(42例、93%)で、次いで発熱22例(49%)、呼吸器症状16例(36%)の順であった。15例(33%)は結膜炎のみであった。症状発症日のデータがあり症状が消失した16例において、症状持続期間中央値は4日(範囲:1~8)であった。 ほとんどの患者(39例、87%)はオセルタミビルを投与され、データ入手できた患者において、症状発現から投与開始までの期間中央値は2日(範囲:0~8)、投与期間中央値は5日(範囲:3~10)であった。 動物曝露患者の家庭内接触者97例において、新たな感染症例は確認されなかった。 なお、最も多く使用されていた個人防護具(PPE)の種類は、手袋(71%)、保護メガネ(60%)、フェイスマスク(47%)であった。

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切除不能HCC、TACEにレンバチニブ+ペムブロリズマブ併用でPFS改善(LEAP-012)/Lancet

 切除不能な転移のない肝細胞がん(HCC)患者において、肝動脈化学塞栓療法(TACE)とレンバチニブ+ペムブロリズマブの併用療法は、TACE単独療法と比較し無増悪生存期間(PFS)を有意に延長した。全生存期間(OS)については、OS率の数値的な改善は示されたが、より長期の追跡調査が必要だとしている。近畿大学医学部の工藤 正俊氏らLEAP-012 investigatorsが、33の国または地域から137施設が参加した第III相無作為化二重盲検試験「LEAP-012試験」の初回中間解析の結果を報告した。TACEは切除不能な転移のないHCCの標準治療であるが、TACEとマルチキナーゼ阻害薬の併用を評価した以前の研究では、臨床結果に有意な改善は示されなかった。Lancet誌オンライン版2025年1月8日号掲載の報告。TACE+レンバチニブ+ペムブロリズマブ併用療法vs.TACE+プラセボを比較 LEAP-012試験は、18歳以上、切除不能/転移のないHCCでTACEの適応となる腫瘍を有し、ECOG PSが0または1、Child-Pugh分類Aの患者を対象とした。 研究グループは適格患者を研究施設、α-フェトプロテイン値、ECOG PS、アルブミン-ビリルビン(ALBI)グレードおよび腫瘍量で層別化し、TACE+レンバチニブ(体重60kg以上:12mg、体重60kg未満:8mg、1日1回経口投与)+ペムブロリズマブ(400mgを6週ごとに静脈内投与、最長2年間)群、またはTACE+プラセボ(経口および静脈内投与)群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、RECIST v1.1に基づく盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS(有意水準片側p=0.025)、およびITT集団におけるOS(有意水準片側p=0.0012)とした。安全性は、試験治療を少なくとも1回受けた全患者(as-treated集団)で評価した。PFS、併用群14.6ヵ月vs.プラセボ群10.0ヵ月 2020年5月22日~2023年1月11日の期間に、847例がスクリーニングされ、そのうち480例(57%)が無作為に割り付けられた(レンバチニブ+ペムブロリズマブ併用群237例、プラセボ群243例、ITT集団)。 年齢中央値は66歳(四分位範囲[IQR]:58~73)で、女性82例(17%)、男性398例(83%)、白人98例(20%)、アジア人347例(72%)、黒人/アフリカ系米国人4例(1%)、アメリカインディアン/アラスカ先住民5例(1%)であった。 データカットオフ時点(2024年1月30日、追跡期間中央値25.6ヵ月[IQR:19.5~32.4])において、PFS中央値はレンバチニブ+ペムブロリズマブ併用群14.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:12.6~16.7、イベント数132件[死亡20件、増悪112件])、プラセボ群10.0ヵ月(8.1~12.2、154件[8件、146件])、ハザード比(HR)は0.66(95%CI:0.51~0.84、片側p=0.0002)であった。 データカットオフ時点で、レンバチニブ+ペムブロリズマブ併用群の237例中69例(29%)、プラセボ群の243例中82例(34%)が死亡しており、24ヵ月OS率はレンバチニブ+ペムブロリズマブ併用群75%(95%CI:68~80)、プラセボ群69%(62~74)であった(HR:0.80、95%CI:0.57~1.11、片側p=0.087)。 Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)は、レンバチニブ+ペムブロリズマブ併用群で169/237例(71%)、プラセボ群で76/241例(32%)に発現し、主な事象は高血圧(それぞれ57例[24%]、18例[7%])および血小板数減少(27例[11%]、15例[6%])であった。TRAEによる死亡は、レンバチニブ+ペムブロリズマブ併用群で4例(2%)(肝不全、消化管出血、筋炎、免疫性肝炎が各1例)、プラセボ群で1例(<1%)(脳幹出血)が報告された。

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甲状腺疾患と円形脱毛症の間に遺伝的関連がある可能性

 甲状腺機能低下症、慢性甲状腺炎(橋本病)、亜急性甲状腺炎と円形脱毛症(AA)の間には有意な関連性があることを示す研究結果が、「Skin Research & Technology」に9月27日掲載された。 Heping Hospital Affiliated to Changzhi Medical College(中国)のYue Zhao氏らは、2標本のメンデルランダム化解析を用いた研究で、AAと甲状腺疾患の潜在的な因果関係を検証した。甲状腺機能低下症、橋本病、甲状腺機能亢進症、亜急性甲状腺炎、バセドウ病が曝露因子として選択され、AAが結果変数とされた。データはゲノムワイド関連解析(GWAS)から取得された。 解析の結果、甲状腺機能低下症(逆分散加重オッズ比1.40)、橋本病(同1.39)、亜急性甲状腺炎(同0.73)について、AAが統計的に有意な遺伝的予測を示すことが示された。多面性のエビデンスは見られなかった。関連の安定性と頑健性は、leave-one-outテストを使用して実証された。 著者らは、「私たちの研究結果は、甲状腺機能低下症、橋本病、亜急性甲状腺炎が、AAとの間に有意な関連性があることを示しており、内分泌の健康状態と皮膚病理の複雑な相互作用に関する新たな視点を示唆している。これらの発見は、甲状腺疾患とAAの発症機序との関係を示す新たなエビデンスを提供するだけでなく、特にAAの潜在的な治療法を探る上で、将来の研究に新たな方向性を示している」と述べている。

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若年者の健康問題、自閉症がトップ10にランクイン

 2021年の世界での自閉スペクトラム症(以下、自閉症)の患者数は約6200万人に上ったことが、新たな研究で明らかにされた。米ワシントン大学健康指標評価研究所のDamian Santomauro氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Psychiatry」に12月19日掲載された。 この研究は、世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study;GBD)2021に基づき、自閉症の有病率と健康負担(障害調整生存年〔DALY〕)の最新の世界的な推定値を提示したもの。有病率の推定では、受動的な患者の発見に依存した研究を除外し、新たなシステマティックレビューに基づきデータを更新した。また、障害による重み付けの推定方法も修正された。最終的に、33カ国における自閉症の有病率に関する105件の研究データが統合された。 解析の結果、2021年には世界で約6180万人の人が自閉症であると推定された。これは、127人に1人が自閉症であることを意味するという。世界の年齢調整有病率(10万人当たり)は788.3人で、男性では1,064.7人、女性では508.1人と推定された。自閉症による健康負担は1150万DALYsと推定された。これは、10万人当たり147.6DALYs(年齢調整済)に相当する。地理的枠組み別に見ると、年齢調整済DALY率は、東南アジア・東アジア・オセアニアで10万人当たり126.5DALYsと最も低く、高所得地域で204.1DALYsと最も高かった。またDALY率は年齢とともに減少する傾向が見られ、5歳未満の子どもでは10万人当たり169.2DALYs、20歳未満では163.4DALYs、20歳以上では137.7DALYsと推定された。ただし、こうした健康負担は生涯を通じて認められた。さらに、20歳未満の若年者では、自閉症が非致死的な健康負担のトップ10にランクインすることも確認された。 研究グループは、「これらの数字は、人生の早い段階で自閉症を診断し、生涯を通じて役立つ治療を受けられるようにすることがいかに重要であるかを示している」と述べている。また、「自閉症の子どもや若者のニーズだけでなく、研究やサービス提供の対象として考慮されないことが多い成人のニーズにも対処することが不可欠だ」としている。 ただし、本研究で推定された自閉症の有病率は、米疾病対策センター(CDC)の推定(36人に1人)よりはるかに高い。この点について研究グループは、「この高い有病率は、臨床および教育記録の症例ノートのレビューにより個人が自閉症の診断基準を満たしている可能性が高いかどうかを判断したものであり、集団診断調査で行われるような自閉症の臨床的評価により判断されたものではない。そのため、自閉症の有病率は過大評価されている可能性がある」と述べている。 研究グループは、「世界的な自閉症の健康負担に対処するには、早期発見プログラムへのリソースを優先させる必要がある。特に、ケア、介護者のサポート、および自閉症者の生涯にわたり変化するニーズに合わせたサービスへのアクセスが限られている成人や低・中所得国の人を対象に、診断ツールを改善することが重要だ」とワシントン大学のニュースリリースで結論付けている。

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自分時間、回復効果が高い過ごし方は?

 「Me Time(ミータイム;自分のための時間)」の過ごし方として、森の奥深くを1人でハイキングするのと喫茶店でカフェラテを飲みながら読書するのとでは、どちらの方がより回復効果が高いだろうか? その答えは意外なことに、周囲に人がいる環境でコーヒーと良書を片手に自分自身と向き合うのがベストであることを示唆する研究結果が明らかになった。完全に1人きりになって過ごす張り詰めた体験は、社会的つながりをある程度維持した状態で過ごすMe Timeほど、その人のウェルビーイングに良い影響をもたらすわけではないことが示されたという。米オレゴン州立大学コミュニケーション学分野のMorgan Quinn Ross氏と米オハイオ州立大学コミュニケーション学分野のScott Campbell氏によるこの研究の詳細は、「PLOS One」に12月5日掲載された。 Ross氏はオレゴン州立大学のニュースリリースの中で、「完全に1人きりにはならない方が、エネルギーを回復し、他者とのつながりを維持しやすいことが分かった」と述べ、「ほぼいつでもクリック一つで社会とつながることができる今の世の中では、社会的相互作用とさまざまなタイプの孤独とのバランスの取り方を知っておく必要がある」と付け加えている。 Ross氏らはこの研究で、888人(平均年齢61.9歳、男性359人)を対象にメンタルヘルスや、1人きりになるときと他者と関わるときの嗜好について調査を行った。具体的には、その人のMe Timeが人やテクノロジーによって妨げられ、1人の時間がより社会的性質を帯びる条件を調べた。その結果、携帯電話でゲームをしたり、1人で映画を見に行ったりするような、完全に1人きりにはならない過ごし方は、砂漠での孤独なドライブや人里離れた山小屋での執筆活動よりも利点のあることが明らかになった。 Ross氏らは、「Communicate Bond Belongと呼ばれる一般的な理論では、Me Timeは一種のトレードオフであると考えられてきた」と述べている。すなわち、この理論によると、他者との関係性は社会的相互作用によって築かれるが、それには社会的エネルギー、つまりその人が社会的相互作用に使う能力が消耗される。反対に、1人きりで過ごすと社会的エネルギーは回復するが、その代償として関係性が失われる。 しかし、今回の研究ではそれほど単純ではないことが示された。Ross氏は、「われわれの研究では、1人きりでいることが、実は社会的相互作用と表裏の関係にあるわけではないことが示唆された」と話す。同氏は、「強い社会的相互作用は他者とのつながりをもたらすが、エネルギーを消耗する。一方、強い孤独はエネルギーと他者とのつながりの両方を失わせる。1人きりでいることは、社会的相互作用で使われるエネルギーを回復させる単純な方法として機能するわけではないようだ」との見方を示している。 興味深いことに、こうした結果は外交的な人と内向的な人の両方に当てはまることが分かったという。ただし、完全に1人きりになることがエネルギーの回復やつながりの維持に役立つと考える人にとっては、社会とのつながりにどれだけエネルギーを注いでいるかにかかわらず、完全な孤独が有益となる場合もある。 Ross氏は、「もしあなたが、孤独に対して肯定的な考えを持っている、つまり、孤独になることはエネルギー回復の手段であり、人々とはその後でもつながることができると分かっているのであれば、孤独を選択することは、おそらくあなたの心の状態を良くするだろう。しかし、人と話したくないという理由から社会的相互作用に対して否定的な考えを持ち、孤独になることを選ぶと、おそらく心の状態が悪化するだろう」と結論付けている。

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3年ぶりのオンライン英会話【Dr. 中島の 新・徒然草】(563)

五百六十三の段 3年ぶりのオンライン英会話ここのところ、異常な寒さが続いています。表示される摂氏○度というのはそんなに低くないのですが。天気予報には実際の気温のほかに体感温度も示されます。それによれば、体感気温は実際の気温よりもかなり低く出ていました。やっぱり!さて、私にとって永遠の課題である英語です。久しぶりにオンライン英会話をやってみようと思って調べたら、最後のレッスンが2022年1月。一応休会手続きはしていたものの、実に3年間もの空白が!やはり生身の人間相手に場数を踏むことも大切ですね。そう思って再開しました。時々やってくる外国人患者さんの外来診療を想定してのレッスンです。今回の講師は60代の女性。中島「そちらが患者役で私が医師役ということで、ロールプレイをしてくれませんか?」講師「お医者さんといっても専門がいろいろあるんでしょう?」中島「私は脳外科ですが、主訴は何でもいいですよ」講師「難しいなあ」中島「良かったらご自身の健康問題の相談に乗りましょうか」講師「私、悪いところがいっぱいあるから」ということで、始まったのが講師自身の糖尿病の相談でした。薬をもらって飲んでいるのだそうです。でも、ご自分のHbA1cの数値なんかはまったく知らないようでした。中島「検査をしたら必ずHbA1cの値をチェックしてください」講師「わかったわ」中島「糖尿病を放置したらどうなるかご存じですか?」講師「知らなーい」中島「失明したり腎臓を悪くしたりして透析になってしまいますよ」講師「そうなの!」中島「週2回とか3回とか病院に行くことになりますから」講師「そうなったら旅行に行けないじゃない!」もはや英語のレッスンというよりも健康相談ですね。講師「何か食べてはいけない物とか、注意することある?」中島「ジュースばっかり飲むとか、ドカ食いするとかはやめたほうがいいですね」講師「フィリピンは果物が美味しいのよ。だからついたくさん食べてしまうんだけど」中島「マンゴーでもバナナでも、1口ずつ味わって食べましょう」講師「わかったわ。ほかに何かある?」中島「夕食を摂ったあと、まだもう少し欲しいと思うことがありますよね」講師「あるある!」中島「そんな時は10分だけ待ちましょう。そうしたら食べること自体に興味がなくなりますから」講師「そうなの?」中島「満腹になっても、そのことを脳が感じ取るまで少し時間がかかるんですよ」これをどう英語で表現したものか?後でChatGPTに聞いてみました。There is a time gap between your stomach being full and feeling full.うまいなあ!というわけで、60代の講師の場合は多くの健康問題を抱えている分、若い講師よりも診察ロールプレイには向いていたというお話です。目標としては、1回のレッスンで新しい英語の知識を最低3つ得る、というところにしたいと思います。読者の皆さんの参考になれば幸いです。最後に1句厳寒の 英語の授業は 糖尿病

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「2024年のOncology注目トピックス」(肺がん編)【肺がんインタビュー】第106回

第106回 「2024年のOncology注目トピックス」(肺がん編)近年の肺がん薬物治療は、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に加え、抗体薬物複合体や二重特異性T細胞誘導抗体(BiTE抗体)をはじめとした二重特異性抗体などの新規薬剤の開発、さらにこれらを駆使した薬物治療の進歩は目覚ましく、より多くの肺がん患者が治癒/長期生存を目指せる時代となってきた。2024年は多くのpractice changingな臨床試験が学会/論文発表され、本邦における「肺診療ガイドライン2024年版」でも数多くの新規治療が推奨されている。本稿では、これらの中でも現在/将来の実臨床に直結し得る報告について整理し概説する。[目次]1.TNM分類の改訂2.早期NSCLC(EGFR/ALK陰性の場合)2-1.II~IIIB期NSCLCに対する術前・術後のペムブロリズマブ(KEYNOTE-671試験)2-2.II~IIIB期NSCLCに対する術前・術後のニボルマブ療法(CheckMate 77T試験)2-3.2025年以降の切除可能NSCLC(EGFR/ALK陰性例)に対する周術期治療の展望2-4.IB~IIIA期完全切除後ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対する術後アレクチニブ単剤療法(ALINA試験)3.切除不能III期NSCLC3-1.切除不能III期EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対するCRT後のオシメルチニブ(LAURA試験)4.進行期EGFR遺伝子変異陽性NSCLC4-1.未治療進行期EGFR遺伝子変異NSCLCに対するアミバンタマブ+lazertinib併用療法(MARIPOSA試験)4-2.オシメルチニブ耐性後のEGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対するアミバンタマブ+化学療法±lazertinib(MARIPOSA-2試験)5.進行期ALK融合遺伝子陽性NSCLC5-1.未治療進行期ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対するロルラチニブ単剤療法(CROWN試験)6.進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLC6-1.進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対するレポトレクチニブ単剤療法(TRIDENT-1試験)6-2.進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対するtaletrectinib単剤療法(TRUST-I試験)7.小細胞肺がん(SCLC)7-1.限局期SCLC(LS-SCLC)に対する同時CRT後のデュルバルマブ(ADRIATIC試験)1.TNM分類の改訂肺がんのTNM分類は、国際対がん連合(UICC)/米国がん合同委員会(AJCC)によって7年おきに改訂されており、第8版は2017年から施行されていた。2023年の世界肺学会(WCLC)で第9版のTNM分類が発表され、2024年にJournal of Thoracic Oncology誌に報告されている(Rami-Porta R, et al. J Thorac Oncol. 2024;19:1007-1027. )。本邦においても2024年12月末に「肺取扱い規約 第9版」が発刊となっており、2025年1月より発効されている。T/N/M各因子の主な変更点は以下のとおり。T因子変更なしN因子N2(同側縦隔かつ/または気管分岐下リンパ節への転移)がN2aとN2bに細分化N2a:単一のリンパ節stationへの転移、N2b:複数のリンパ節stationへの転移M因子M1c(胸腔外の1臓器または多臓器への多発遠隔転移)がM1c1とM1c2に細分化M1c1:胸腔外の1臓器への多発転移、M1c2:胸腔外の多臓器への多発転移これらの分類変更に伴い、病期分類も改訂(図1)がなされている。これにより、第8版と第9版でステージングが異なる可能性がある(図2)ため、注意されたい。図1 肺がんTNM分類の第9版のステージングの概要画像を拡大する(筆者作成)図2 肺がんTNM分類の第8版と第9版の相違点画像を拡大する(筆者作成)周術期治療のさまざまな治療開発が進む中で、第9版では、より切除可能性を意識した分類であると言える。ただし、欧州がん研究治療機構肺がんグループ(EORTC-LCG)によるIII期非小細胞肺がん(NSCLC)の切除可能性に関するサーベイ(図3)では、回答者によって切除可能性の考えが異なるサブセットもあり(例:multi-station N2(N2b)のIII期症例)、個々の症例ごとに多職種チーム(Multidisciplinary team)で協議することが求められる。図3 III期NSCLCにおけるTNMサブセットと切除可能性評価に関するサーベイ概要画像を拡大する(Houda I, et al. Lung Cancer. 2024;199:108061. より筆者作成)2.早期NSCLC(EGFR/ALK陰性の場合)2-1. II~IIIB期NSCLCに対する術前・術後のペムブロリズマブ(KEYNOTE-671試験)II~IIIB期(第8版)の切除可能なNSCLC患者に対して、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブの術前化学療法への上乗せと術後の単独追加投与(最大1年間)による有効性および安全性を検証した二重盲検プラセボ対照第III相ランダム化比較試験であるKEYNOTE-671試験の中間解析(追跡期間中央値25.2ヵ月)において、無イベント生存期間(EFS)の有意な延長(ハザード比[HR]:0.58、95%信頼区間[CI]:0.46~0.72、p<0.001、中央値:未到達vs.17.0ヵ月)が認められたことが2023年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表され、New England Journal of Medicine誌に同時報告された(Wakelee H, et al. N Engl J Med. 2023;389:491-503. )。この試験の主要評価項目はEFSと全生存期間(OS)のco-primaryとなっており、片側α=0.025をEFS、OS、病理学的著効(mPR)、病理学的完全奏効(pCR)に分割し、厳密に制御されたデザインである(EFS:α=0.01、OS:α=0.0148、mPR:α=0.0001、pCR:α=0.0001)。2024年にはLancet誌にフォローアップ期間を延長(追跡期間中央値36.6ヵ月)したアップデート報告がなされ(Spicer JD, et al. Lancet. 2024;404:1240-1252. )、ペムブロリズマブ群におけるOSの有意な延長が示された(HR:0.72、95%CI:0.56~0.93、中央値:未到達vs.52.4ヵ月、p=0.00517)。なお、サブグループ解析では、PD-L1発現が高い患者やステージがより進行した患者でEFSのリスク軽減が認められている。また、治療関連有害事象は両群間で差は認められなかった(重篤な有害事象の頻度:17.7% vs.14.3%)。また、2024年12月のESMO Immuno-Oncology Congress(ESMO-IO)で報告された4年フォローアップデータ(追跡期間中央値:41.1ヵ月)においても、OS延長の傾向は維持されている(HR:0.73、95%CI:0.58~0.92)。KEYNOTE-671試験の結果から、2023年10月に米国食品医薬品局(FDA)の承認が得られ、本邦では2024年8月に国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得している。「肺診療ガイドライン2024年版」では、臨床病期II~IIIB期(第9版、N3を除く)に対して、術前にプラチナ製剤併用療法とペムブロリズマブを併用し、術後にペムブロリズマブの追加を行う治療が弱く推奨されている(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B)。2-2. II~IIIB期NSCLCに対する術前・術後のニボルマブ療法(CheckMate 77T試験)II~IIIB期(第8版)の切除可能なNSCLC患者に対して、抗PD-1抗体であるニボルマブの術前化学療法への上乗せと術後の単独追加投与(最大1年間)による有効性および安全性を検証した二重盲検プラセボ対照第III相ランダム化比較試験であるCheckMate 77T試験の中間解析(追跡期間中央値25.4ヵ月)において、EFSの有意な延長(HR:0.58、97.36%CI:0.42~0.81、p<0.001、中央値:未到達vs.18.4ヵ月)が認められたことが2023年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で発表され、New England Journal of Medicine誌に2024年に報告された(Cascone T, et al. N Engl J Med. 2024;390:1756-1769. )。副次評価項目であるpCR/mPR割合もニボルマブ群で向上が認められた(ニボルマブ群 vs.化学療法群:pCR 25.3% vs.4.7%[オッズ比:6.64、95%CI:3.40~12.97]、mPR 35.4% vs.12.1%[オッズ比:4.01、95%CI:2.48~6.49])。前述のKEYNOTE-671試験と同様に、PD-L1発現が高い患者やステージがより進行した患者でEFSのリスク軽減が認められた。これらの試験結果から、2024年10月にFDAの承認が得られている(本邦では2025年1月時点で未承認)。2024年のESMOでは、追跡期間中央値33.3ヵ月のアップデート報告が発表(ESMO2024、LBA50)され、引き続きEFSのベネフィットが示されている(HR:0.59、95%CI:0.45~0.79、中央値:40.1ヵ月 vs.17.0ヵ月)。また、2024年のWCLCでは、ニボルマブの術後投与の必要性を検討するために術前投与(CheckMate 816試験)と、術前・術後投与(CheckMate 77T試験)を両試験の患者背景を傾向スコアによる重み付け解析で調整することにより比較した研究が報告された(WCLC 2024、PL02.08)。CheckMate 77T群の患者では1回以上の術後ニボルマブを投与された患者のみが対象となっており、術後ニボルマブ投与が何らかの理由で困難であった患者は潜在的に除外されている点(CheckMate 77T群で有利な患者選択になっている可能性)には注意が必要であるが、周術期ニボルマブは術前のみのニボルマブに対して手術時点からのEFSを改善し(重み付けありのHR:0.61、95%CI:0.39~0.97)、とくにPD-L1陰性例や、non-pCR例で術後ニボルマブ投与の意義がある可能性が示唆されている。2-3. 2025年以降の切除可能NSCLC(EGFR/ALK陰性例)に対する周術期治療の展望2025年1月現在、NSCLCに対するICIを用いた周術期治療として、本邦ではCheckMate 816レジメン(術前ニボルマブ)、KEYNOTE-671レジメン(周術期ペムブロリズマブ)、IMpower010レジメン(術後アテゾリズマブ)が選択可能である(図4)。術前治療を行うレジメンにおいても、CheckMate 816レジメンとKEYNOTE-671レジメンでは術後治療の有無のみだけでなく、プラチナ製剤の種類や術前治療のサイクル数など細かな違いがあり(表1)、国内の各施設において、内科・外科双方で周術期の治療戦略方針を議論しておく必要があるだろう。また、EGFR遺伝子変異陽性例やALK融合遺伝子陽性例でもICIを用いた周術期治療が有効かどうか、PD-L1発現や術後のpCR/mPRステータス別の治療戦略など争点は未だ多く残っており、さらなるエビデンスの蓄積が求められる。さらに、IIIA-N2期のNSCLCを切除可能として周術期治療を行うか、切除不能として化学放射線療法(CRT)を行うかの判断は非常に難しい。2013~14年の国内のIIIA-N2期のNSCLCに対する治療実態調査(Horinouchi H, et al. Lung Cancer. 2024;199:108027. )では、周術期化学療法が行われたのは約25%であり、約59%はCRTが選択された。CRTが選択された患者で切除不能とされた主要な理由は、転移リンパ節数が多いことであり(71%)、周術期ICI戦略の登場によってこの勢力図が今後どのように変化していくか注視したい。図4 主要な周術期治療戦略の概略図画像を拡大する(筆者作成)表1 主要な術前ICIの臨床試験の患者背景の違い画像を拡大する(筆者作成)2-4. IB~IIIA期完全切除後ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対する術後アレクチニブ単剤療法(ALINA試験)完全切除後のALK融合遺伝子を有するIB~IIIA期(第7版)NSCLCに対して、術後補助療法としてアレクチニブ(1,200mg/日を2年間内服)とプラチナ併用療法を比較したALINA試験の結果が2023年のESMOで発表され、2024年にNew England Journal of Medicine誌に報告された(Wu YL, et al. N Engl J Med. 2024;390:1265-1276. )。試験の注意点として、アレクチニブの用量が国内の進行期の承認用量(600mg/日)よりも多いことが挙げられる。主要評価項目である無病生存期間(DFS)は、II~IIIA期、IB~IIIA期の順に階層的に検証され、それぞれ有意な延長が示された(II~IIIA期のHR:0.24、95%CI:0.13~0.45、p<0.0001、IB~IIIA期のHR:0.24、95%CI:0.13~0.43、p<0.0001)。また、脳転移再発を含む中枢神経系イベントのDFSの延長も示されている(HR:0.22、95%CI:0.08~0.58)。ALINA試験の結果から、2024年4月にFDA承認が得られ、本邦では2024年8月に国内適応追加承認を取得している。また、「肺診療ガイドライン2024年版」では、ALK融合遺伝子陽性の術後病理病期II~IIIB期(第9版)完全切除例に対して、従来の術後補助療法(プラチナ併用療法)の代わりとしてアレクチニブによる治療を行うよう弱く推奨されている(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B)。今後は術後の時点でALK(およびEGFR)のステータスを確認することが求められる。3.切除不能III期NSCLC3-1. 切除不能III期EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対するCRT後のオシメルチニブ(LAURA試験)切除不能なEGFR遺伝子変異陽性III期NSCLCでCRT終了後に病勢進行のない患者に対するオシメルチニブ地固め療法の有効性および安全性を検証した二重盲検プラセボ対照第III相ランダム化比較試験であるLAURA試験の主解析およびOSに関する第1回中間解析の結果が2024年のASCOで発表され、同年New England Journal of Medicine誌に報告された(Lu S, et al. N Engl J Med. 2024;391:585-597. )。試験デザインでは、オシメルチニブを永続内服する必要があった点に留意が必要である。主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)はオシメルチニブ群で有意に延長し(HR:0.16、95%CI:0.10~0.24、p<0.001、中央値:39.1ヵ月vs.5.6ヵ月)、オシメルチニブ群で脳転移や肺転移などの遠隔転移再発が少ないことが示された(脳転移:8% vs.29%、肺転移:6% vs.29%)。OSは未成熟(成熟度20%)であり、プラセボ群では約8割が再発後にオシメルチニブの投与を受けており、今後のOSでも有意な延長が確認されるかどうかは長期フォローアップデータが待たれる。有害事象面では、放射線肺臓炎はオシメルチニブ群で数値的に多い(48% vs.38%)ものの、ほとんどがGrade2以下であった。なお、本試験には日本人が30例登録されており、日本人サブセットデータが2024年の日本肺学会で報告され、日本人サブセットにおいてもLAURA試験の全体集団の結果と一致したことが報告されている。また、日本人では肺障害が懸念されるものの、Grade3以上の放射線肺臓炎の頻度はわずか(4%、30例中1例のみ)であった。LAURA試験の結果から、2024年9月にFDA承認されており、本邦では2025年1月時点で未承認であるが、2024年7月に国内承認申請済みであり、そう遠くない未来には本邦でも使用可能な戦略になることが期待される。4.進行期EGFR遺伝子変異陽性NSCLC4-1. 未治療進行期EGFR遺伝子変異NSCLCに対するアミバンタマブ+lazertinib併用療法(MARIPOSA試験)未治療のEGFR遺伝子変異(exon19欠失変異あるいはL858R変異)陽性NSCLCに対する、アミバンタマブ(EGFRとMETの二重特異性抗体)とlazertinibの併用療法の有効性・安全性をオシメルチニブ単剤(およびlazertinib単剤)と比較した国際無作為化第III相試験であるMARIPOSA試験の第1回中間解析結果が2023年のESMOで発表され、2024年にNew England Journal of Medicine誌に報告された(Cho BC, et al. N Engl J Med. 2024;391:1486-1498. )。アミバンタマブ+lazertinib群でオシメルチニブ群と比較して有意なPFSの延長が示された(HR:0.70、95%CI:0.58~0.85、p<0.001、中央値:23.7ヵ月vs.16.6ヵ月)。2024年のASCOでは高リスクの患者背景(肝転移、脳転移、TP53変異陽性など)を持つサブグループでもアミバンタマブ+lazertinibのPFSベネフィットがあることが示され、論文化されている(Felip E, et al. Ann Oncol. 2024;35:805-816. )。OSについては未だ未成熟ではあるものの、同年のWCLCでアップデート報告(追跡期間中央値:31.1ヵ月)(WCLC 2024、OA02.03)が発表され、アミバンタマブ+lazertinib群のOS中央値は未到達、HRは0.77(95%CI:0.61~0.96、p=0.019)とアミバンタマブ+lazertinib群でこれまで絶対的な標準治療であったオシメルチニブ単剤療法を上回る可能性が示唆されている。2025年1月には、OSが統計学的有意かつ臨床的に意義のある延長を示したとのプレスリリースが出ており、2025年内の報告が期待される。もっとも、アミバンタマブを用いることで皮膚毒性や浮腫、インフュージョンリアクションや静脈血栓症など配慮すべき有害事象は増えるため、リスクベネフィットを踏まえた治療選択や、適切な毒性管理が求められる。この試験結果から、2024年8月にFDA承認が得られており、本邦では2024年4月に承認申請中である。4-2. オシメルチニブ耐性後のEGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対するアミバンタマブ+化学療法±lazertinib(MARIPOSA-2試験)アミバンタマブを用いた治療戦略は既治療例でも検討されており、オシメルチニブ耐性後のEGFR遺伝子変異(exon19欠失変異あるいはL858R変異)陽性NSCLCに対するアミバンタマブ+プラチナ併用療法±lazertinibの有効性・安全性を化学療法(カルボプラチン+ペメトレキセド)と比較した無作為化オープンラベル第III相試験であるMARIPOSA-2試験の第1回中間解析結果が2023年のESMOで発表され、2024年にAnnals of Oncology誌に報告されている(Passaro A, et al. Ann Oncol. 2024;35:77-90. )。主要評価項目であるPFSは、アミバンタマブ+化学療法およびアミバンタマブ+化学療法+lazertinibにより、化学療法のみと比較して有意に延長したことが示された(HRはそれぞれ0.48、0.44、共にp<0.001、中央値はそれぞれ6.3、8.3、4.2ヵ月)。2024年のESMOでは第2回中間解析結果が発表され、追跡期間中央値18.1ヵ月時点におけるOS中央値は、統計学的な有意差は認めなかったものの、アミバンタマブ+化学療法群で化学療法群よりも延長する傾向にあった(HR:0.73、95%CI:0.54~0.99、p=0.039、中央値:17.7ヵ月vs.15.3ヵ月)。この試験結果から、2024年9月にFDAの承認(アミバンタマブ+化学療法のみ)が得られており、本邦では2024年5月に承認申請中である。5.進行期ALK融合遺伝子陽性NSCLC5-1. 未治療進行期ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対するロルラチニブ単剤療法(CROWN試験)PS0~1の未治療進行期ALK融合遺伝子陽性NSCLCを対象として、ロルラチニブ単剤療法とクリゾチニブ単剤療法を比較した国際共同非盲検ランダム化第III相試験であるCROWN試験において、ロルラチニブによって主要評価項目であるPFSの有意な延長が2020年に示されていた(HR:0.28、95%CI:0.19~0.41、p<0.001、中央値:未到達vs.9.3ヵ月)(Shaw AT, et al. N Engl J Med. 2020;383:2018-2029. )。2024年に報告された同試験の長期フォローアップ報告(観察期間中央値60.2ヵ月)でも、PFS中央値は未到達であった(Solomon BJ, et al. J Clin Oncol. 2024;42:3400-3409. )。5年時点での中枢神経イベントフリー割合はロルラチニブでクリゾチニブよりも著明に高く(92% vs.21%)、高い頭蓋内制御効果が確認された。一方、ロルラチニブによる認知機能障害や気分障害などの中枢神経関連有害事象(全Gradeで約40%)に対しては慎重なマネジメントが求められる。この試験結果から、「肺診療ガイドライン2024年版」では、2023年から推奨度が変更となり、PS0~1のALK融合遺伝子陽性、進行NSCLCの1次治療として、ロルラチニブ単剤療法を行うよう強く推奨されている(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:B)。(※アレクチニブは推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:A、ブリグチニブは推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B)6.進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLC6-1. 進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対するレポトレクチニブ単剤療法(TRIDENT-1試験)ROS1融合遺伝子陽性のNSCLCを含む進行固形がん患者を対象に、ROS1-TKIであるレポトレクチニブの有効性と安全性を評価した第I/II相試験であるTRIDENT-1試験の結果は、2023年のWCLCで初回報告され(WCLC 2023、OA03.06)、2024年にNew England Journal of Medicine誌に報告された(Drilon A, et al. N Engl J Med. 2024;390:118-131. )。ROS1-TKI未治療例が71例、既治療例が56例登録され、レポトレクチニブ単剤治療(1日1回160mgを14日間内服後、1回160mgを1日2回内服)により、主要評価項目であるORRは未治療例で79%、既治療例で38%、PFS中央値は未治療例で35.7ヵ月、既治療例で9.0ヵ月であったと報告された。また、この薬剤は分子量が小さいことから、ATP結合部位へ正確かつ強力に結合することができ、クリゾチニブなど従来のROS1-TKIの耐性変異として問題となるG2032R変異を有する患者においても59%に奏効が認められた。ただし、主な治療関連有害事象として、めまい(58%)など中枢神経系の有害事象には注意が必要である(治療関連有害事象による中止は3%)。この試験の結果から、2024年6月にFDA承認が得られ、本邦では2024年9月に国内製造販売承認を取得している。また、「肺診療ガイドライン2024年版」では、ROS1融合遺伝子陽性、進行NSCLCの1次治療として、レポトレクチニブを含むROS1-TKI単剤療法を行うよう強く推奨されている(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:C)(※ROS1-TKIの薬剤の推奨度は同列)。6-2. 進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対するtaletrectinib単剤療法(TRUST-I試験)2024年のASCOでは、新規ROS1チロシンキナーゼ阻害薬であるtaletrectinib単剤療法の有効性、安全性を検証した単群第II相のTRUST-I試験の結果が報告(ASCO 2024、#8520)され、Journal of Clinical Oncology誌に同時掲載されている(Li W, et al. J Clin Oncol. 2024;42:2660-2670. )。ROS1-TKI未治療症例において奏効割合91%、頭蓋内奏効割合88%、PFS中央値23.5ヵ月と良好な成績を示した。クリゾチニブ既治療症例においても、奏効割合52%、頭蓋内奏効割合73%と良好な結果であった。主な有害事象はAST上昇(76%)や下痢(70%)であり、高い中枢神経移行性を持つ一方で、前述のレポトレクチニブと異なり中枢神経系の有害事象が比較的少ないことが特徴である。taletrectinibが神経栄養因子受容体(TRK)よりもROS1に対して酵素的選択性を示すことが起因していると考えられる。なお、TRUST-I試験は中国国内の単群試験であったが、国際共同単群第II相試験であるTRUST-II試験でも同様の結果が再現されたことが2024年のWCLCで報告されている(WCLC 2024、MA06.03)。これらの試験結果から、taletrectinibはFDAの優先審査対象となり現在審査中である。表2 主なROS1-TKIの治療成績、有害事象のまとめ画像を拡大する(筆者作成)7.小細胞肺がん(SCLC)7-1. 限局期SCLC(LS-SCLC)に対する同時CRT後のデュルバルマブ(ADRIATIC試験)I~III期の切除不能LS-SCLCに対する同時CRT後に病勢進行のない患者に対するデュルバルマブ地固め療法(最大2年間)の有効性および安全性を検証した二重盲検プラセボ対照第III相ランダム化比較試験であるADRIATIC試験の第1回中間解析の結果が2024年のASCOで発表され、同年New England Journal of Medicine誌に報告された(Cheng Y, et al. N Engl J Med. 2024;391:1313-1327. )(デュルバルマブ群の他、デュルバルマブ+トレメリムマブ群も存在するが、現時点で盲検化されている)。デュルバルマブ群はプラセボ群より有意にOS、PFS(co-primary endpoints)を延長した(OSのHR:0.73、98.321%CI:0.54~0.98、p=0.01、中央値:55.9ヵ月vs.33.4ヵ月、PFSのHR:0.76、97.195%CI:0.59~0.98、p=0.02、中央値:16.6ヵ月vs.9.2ヵ月)。肺臓炎/放射線肺臓炎はデュルバルマブ群で38.2%、プラセボ群で30.2%(Grade3/4はそれぞれ3.1%、2.6%)に発現し、免疫関連有害事象は全Gradeでそれぞれ32.1%と10.2%であった(Grade3/4はそれぞれ5.3%、1.4%)。本試験では同時CRT時の放射線照射の回数は1日1回と1日2回のいずれも許容されていた。本試験では1日1回照射を受けた患者の方が多く(約7割)、国によっては放射線照射を外来で行うことが主流であることが一因と考えられる。2024年のESMOで照射回数によるサブグループ解析結果が報告されており(ESMO 2024、LBA81)、いずれの照射回数においてもデュルバルマブ群でOS、PFSを改善することが確認されているが、1日2回照射の方がデュルバルマブ群、プラセボ群双方においてOS、PFSの絶対値が長いことも示されている。また、本試験には日本人が50例登録されており、日本人サブセットデータが2024年の日本肺学会で報告され、同時CRT後のデュルバルマブ地固め療法は日本人集団においても臨床的に意義のあるOSの改善が示されている。ADRIATIC試験の結果から、2024年12月にFDAで承認された。本邦では2025年1月時点で未承認であるが、LAURA試験レジメンと同時に国内承認申請済みであり、今後の承認が期待される。おわりに2024年に学会/論文発表された臨床試験のうち、国内ガイドラインで推奨された治療、および今後推奨が予想される治療を中心に解説した。2024年は切除可能な早期から進行期までさまざまな病期の肺がんにおける新知見が報告された印象的な1年であったと言える。本稿では詳しく取り上げなかったが、その他にも2024年に国内で新規承認されたレジメンは多く、表3にまとめた。2025年以降も肺がんの治療の進歩がさらに加速していくことを期待したい。表3 2024年に国内承認された、あるいは2025年内に承認が予想されるレジメン画像を拡大する(筆者作成)【2024年の学会レポート・速報】

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いざお見合いへ!オンラインvs.対面【アラサー女医の婚活カルテ】第6回

アラサー内科医のこん野かつ美です☆前回は、結婚相談所(以下、相談所)での婚活の事前準備についてご紹介しました。今回は、実際のお見合いでの経験をシェアしたいと思います。「長期戦」となったマイ婚活プロフィールページを見て、双方が「会ってみたい」と思えば、いよいよ次のステップ、すなわち「お見合い」に進みます。大手の「連盟」(連盟については第3回参照)であるIBJが発行した「2023年度版 成婚白書」を見てみましょう。「年齢別『お見合い数』比較」では、成婚に至った女性のお見合い数(中央値)は、25~29歳の場合は9.0回、30~34歳の場合は11.0回だったそうです1)。では、私自身のお見合い回数はどうだったか…というと、なんと自分自身も驚きの「31回」でした!婚活の「活動期間」としても、成婚に至った女性の「在籍日数」(中央値)が25~29歳が205.0日、30~34歳が252.0日であるのに対し、「約1年半」でしたから、同年代に比べて長めだったことがわかります。われながら、よく頑張ったものです。ちまたの婚活マニュアルや、SNS上の「婚活アドバイザー」たちは、短期間での成婚を推奨する傾向があるようです。年齢が上がれば上がるほど成婚しづらくなるため、「とにかく誰かと結婚すること」を最優先に考えるのであれば、私の活動は褒められたものではないでしょう。しかし、前回にも触れたように、私は結婚相手に求める条件が比較的多く、「とにかく結婚したい」というよりは「結婚はあくまで人生の通過点。子どもは欲しいけれど、合わない相手と無理して結婚するよりは、独身のままのほうが良い」と思っていました。また、相手を医師に限定せずに活動しており、相手よりも私のほうが高年収である場合、「合わない相手と結婚して、その後離婚したら、財産分与で多額のお金を支払う羽目になる」という懸念も、頭の片隅にありました(笑)。そのため、夫と出会うまで、結果的に長期戦の婚活をすることになりました。「オンラインお見合い」は使いよう婚活業界では、2020年、日本結婚相手紹介サービス協議会がコロナ禍を考慮して「『オンライン』で出来ることは、『オンライン』で実施しましょう」との声明2)を出したことで、多くの連盟・相談所でオンラインお見合いが活発化しました。私も、活動開始当初はオンラインお見合いを多く活用していました。私なりに、オンラインお見合いと、対面のお見合いとを比較してみます。オンラインのメリットオンラインお見合いのメリットその1は、「感染の心配がない」ことです。職業柄、コロナに感染したら欠勤などで周りに迷惑を掛けてしまいますし、患者さんを感染させてしまったともなれば大問題ですから、オンラインお見合いの仕組みがあって助かりました。メリットその2は、「移動の手間・交通費やお茶代がかからない」ことです。オンコールがない休日に、30分程度の短いインターバルを置いて、同じ日に複数件のお見合いを組んだこともありました(精神的に疲れるのであまりお勧めはしませんが……)。メリットその3は、「遠方の人とも会える」ことです。前回触れたように、私にとって「将来的に同じ県内で生活できること」が結婚相手に求める条件の1つだったため、基本的には遠方在住の方とお会いすることはあまりありませんでしたが、ありがたいことに「成婚すればこん野さんの職場近くに移住してもよい」と言ってくれる方が時々いて、何度かお見合いしました。一番遠かったのは、なんとシンガポール在住の方でした!(ご縁はありませんでしたが…)。オンラインお見合いのデメリット一方、私が思うオンラインお見合いの最大のデメリットは、対面で会うときに比べて「お相手の雰囲気がわかりづらい」ことです。オンラインお見合いは、対面のお見合いに比べて、次のステップである「仮交際」に進む確率が高い、という記事3)を読みましたが、おそらくオンラインお見合いでは、完全に「なし」と判定したお相手以外は、いったん「交際希望」を出す場合が多いのではないかと思います。私の場合も、オンラインお見合いで「あり」か「なし」かの判断に迷ったら、取りあえず仮交際に進んでみて、仮交際のデート1回目で判断する場合が多かったです。結果として、直接会うよりも時間が取られることが多いと感じます。デメリットその2は、「回線トラブルが起こりうる」ことでした。一度、お相手が予定時刻を30分過ぎてもお見合いのオンラインミーティングに入室してこなかったことがありました。後日、回線トラブルだったので日程の再設定をとの依頼が来ましたが、トラブル時の対応力もその方の一面だと思ったので、お断りしました。デメリットその3は、「追加料金が発生しうる」ことでした。お相手の相談所のシステム次第では、オンラインお見合いの場合、1回当たり数千円の追加料金が徴収されることがあったようで、お見合い後にお断りする際、申し訳ない気持ちになりました。上記のようなメリット、デメリットを踏まえ、オンラインお見合いと対面でのお見合いを使い分けると良いと思います。おまけ~オンラインお見合いのコツ余談ですが、オンラインお見合いの際は、画面に映る印象がとても大切ですから、服装やメイクだけではなく、部屋の調光やインテリアにも気を配ると良いようです。私は、顔を明るく照らしてくれる、いわゆる「女優ライト」を活用していました。学会のWeb発表などでも使えるので、なかなか良い買い物でした。いかがでしたか?今回は、筆者自身のお見合い回数や、オンラインお見合いと対面でのお見合いの比較について書きました。次回も引き続き、お見合いでの体験談をお届けしたいと思います。お楽しみに。参考1)成婚白書/IBJ1)新型コロナウイルス感染症拡大防止に向けた結婚相手紹介サービス業界ガイドライン/JMIC 1)「オンラインお見合い」で約半数が仮交際へ。IBJ日本結婚相談所連盟、自宅での婚活を支援。/IBJ

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サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2024)レポート

レポーター紹介San Antonio Breast Cancer Symposium 2024が12月10〜13日の間、ハイブリッド開催されました。100ヵ国を超える国々から計1万1,000人以上の参加者があり、乳がん治療の最適化、予防・早期発見、薬剤開発、トランスレーショナルリサーチ、バイオロジー等多岐にわたる視点から多くの発表が行われました。今年は、今後の診療に影響を与える興味深い結果も多く報告されました。話題となったいくつかの演題をピックアップして今後の展望を考えてみたいと思います。全身治療EMBER3試験(ER+/HER2-進行乳がん):NEJM掲載1)アロマターゼ阻害薬単剤またはCDK4/6阻害薬との併用による治療中もしくは治療後に病勢進行が認められたER+/HER2-進行乳がん患者において、経口SERDであるimlunestrant単剤治療およびアベマシクリブとの併用治療の有用性を検討したランダム化比較第III相試験です。対象患者874例が、imlunestrant群、標準内分泌療法群(エキセメスタンまたはフルベストラント)、imlunestrant+アベマシクリブ群に、1対1対1の割合で無作為化されました。前治療として1/3が術後治療のみの治療歴、2/3が進行乳がんに対して1ライン治療後、55.5%に内臓転移があり、59.8%がCDK4/6阻害薬による治療歴を有していました。ESR1変異陽性患者は32~42%、PI3K経路変異は約40%にみられました。主要評価項目は、治験医師評価による無増悪生存期間(PFS)で、ESR1変異陽性患者および全集団においてimlunestrant群と標準内分泌療法群を比較し、また全集団においてimlunestrant+アベマシクリブ群とimlunestrant群の比較が行われました。本試験の結果、ESR1変異陽性患者256例において、PFS中央値はimlunestrant群5.5ヵ月vs. 標準内分泌療法群3.8ヵ月、ハザード比(HR):0.62(95%信頼区間[CI]:0.46~0.82、p<0.001)とimlunestrant群で38%のPFS改善がみられました。全集団(Imlunestrant群と標準内分泌療法群の計661例)では、PFS中央値はimlunestrant群5.6ヵ月vs.標準内分泌療法群5.5ヵ月、HR:0.87(95%CI:0.72~1.04、p=0.12)と統計学的有意差を認めませんでした。imlunestrant+アベマシクリブ群とimlunestrant群の計426例におけるPFS中央値は、それぞれ9.4ヵ月vs.5.5ヵ月、HR:0.57(95%CI:0.44~0.73、p<0.001)とimlunestrant+アベマシクリブ群で43%のPFS改善を認めました。PFSのサブグループ解析の結果は、ESR1変異有無、PI3K経路変異有無、CDK4/6阻害薬による治療歴の有無にかかわらずimlunestrant+アベマシクリブ群で良好でした。同じSERDでもフルベストラント(筋注)とimlunestrant(経口)でなぜ効果が違うのでしょうか? ESR1変異細胞株を用いたin vitroの実験ではフルベストラントとimlunestrantの効果は変わらないことが知られています2)。この違いは投与経路によるbioavailabilityの差によるものと考えられており、臨床上効果の差はEMERALD試験、SERENA-2試験、aceIERA試験、ELAINE 1試験でも同様の傾向がみられます。本試験では2次治療でのimlunestrant±アベマシクリブの有効性を示したものですが、全生存期間(OS)の結果がimmatureであること、imlunestrant+アベマシクリブ群の40%がCDK4/6阻害薬の初回投与であること等を考慮すると慎重な解釈が必要です。経口SERDへのスイッチのタイミング、CDK4/6阻害薬・PI3K経路阻害薬のシークエンス、ESR1/PIK3CA dual mutation carrierの治療戦略構築は今後の課題といえるでしょう。PATINA試験(HR+/HER2+転移乳がん)抗HER2療法(トラスツズマブ±ペルツズマブ)+タキサンによる導入療法後に病勢進行がみられないHR+/HER2+転移乳がん患者における維持療法として抗HER2療法+内分泌療法へのパルボシクリブ追加の有用性を検討したランダム化比較第III相試験です。本試験は、サイクリンD1-CDK4の活性化が抗HER2療法の耐性に関与しており、CDK4/6阻害薬と抗HER2療法の相乗効果が前臨床モデルで認められた3)という背景をもとにデザインされています。6~8サイクルの抗HER2療法(トラスツズマブ±ペルツズマブ)+タキサン導入療法後に病勢進行がなかった対象患者518例が、トラスツズマブ±ペルツズマブ+内分泌療法+パルボシクリブ(パルボシクリブ追加群)とトラスツズマブ±ペルツズマブ+内分泌療法(抗HER2療法+内分泌療法群)に1対1に無作為化されました。患者特性として97%がペルツズマブを投与され、71%が周術期治療で抗HER2療法の治療歴を有し、導入療法の全奏効率(ORR)は69%でした。主要評価項目は治験医師評価によるPFSでした。本試験の結果、PFS中央値は、パルボシクリブ追加群44.3ヵ月vs.抗HER2療法+内分泌療法群29.1ヵ月(HR:0.74、95%CI:0.58~0.94、p=0.0074)で、パルボシクリブ追加群における有意なPFS改善がみられました。PFSのサブグループ解析では、ペルツズマブ投与や周術期治療としての抗HER2療法歴の有無、導入療法への反応や内分泌療法の種類によらず、パルボシクリブ追加群で良好でした。本試験に日本は参加していませんが、導入療法後のPFSが15.2ヵ月延長した点において、世界的にはpractice changingである結果です。本試験で注目されたのは、まずコントロール群である抗HER2療法+内分泌療法群のPFS中央値が29.1ヵ月とCLEOPATRA試験に比べ、非常に良好である点です(CLEOPATRA試験のPFS中央値18.7ヵ月)。本試験のデザインの特徴として導入療法後に病勢進行がない患者を組み入れ対象としており、この時点で早期PD症例(CLEOPATRA試験では20~25%が早期PD)が除外され、比較的予後良好症例に絞られています。また維持療法中の内分泌療法がCLEOPATRA試験では許容されておらず、本試験は対象をHR+/HER2+に絞り、内分泌療法が全例に行われた点も良好なPFSに寄与していると考えられます。またパルボシクリブ追加群ではPFS中央値が44.3ヵ月と大きく延長し、HR+/HER2+転移乳がんにおけるCDK4/6阻害薬追加の有用性が示されましたが、副次評価項目のOSはimmatureですので最終解析が待たれます。今後はHR+/HER2+転移乳がんで導入療法の化学療法を省略できるのか、導入療法がADC製剤となった場合の維持療法、その他の標的治療(PI3K阻害薬、SERDs、PARP阻害薬等)の併用等が議論の焦点となるでしょう。また、どのサブタイプにもいえることですが、治療レスポンスガイド、分子バイオマーカーによる症例選択により、治療の最適化を図るのは非常に重要なポイントとなります。ZEST試験(早期乳がん)トリプルネガティブ乳がん(TNBC)または腫瘍組織のBRCA病的バリアント(tBRCAm)を有するHR+/HER2-乳がん患者(StageI~III)を対象に標準治療終了後、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)検査を2~3ヵ月ごとに行い、ctDNA陽性かつ画像的再発が検出されていない患者に対するPARP阻害薬ニラパリブの有効性を検討するランダム化比較第III相試験です。初めての血中の微小転移(MRD)を標的とした大規模第III相試験ということで注目を集めましたが、本試験は残念ながら無作為化に必要な十分な症例数が得られず早期終了しました。早期終了に至った経緯ですが、標準治療終了後、ctDNAサーベイランスに登録された症例1,901例のうち、147例(8%)がctDNA陽性となり、73例(ctDNA陽性症例の50%)が画像的再発を認め組み入れ対象外となりました。最終的にニラパリブ群およびプラセボ群への無作為化に進んだ症例は40例(2%)とごくわずかとなったためです。少数での解析にはなりますが、ctDNA陽性症例の中でTNBCが92%、tBRCAmを有するHR+/HER2-乳がんが8%、Stage IIIが54%でした。TNBCでctDNA陽性となった症例の約60%が標準治療終了後から6ヵ月以内にctDNA陽性となっており、かなり早い段階からMRDが検出されると同時に約半数に画像的再発を認めました。解釈には注意を要しますが、無再発生存期間(RFS)中央値は、ニラパリブ群11.4ヵ月vs.プラセボ群5.4ヵ月(HR:0.66、95%CI:0.32~1.36)でした。本試験からはMRDに基づいた治療介入の有用性は示されませんでしたが、今後の試験デザインを組むうえで多くのヒントを残した試験といえます。今後は、よりハイリスク症例を組み入れる等の対象の選定、TNBCにおいてはより早期(術前化学療法直後)からのMRD評価、より感度の高いMRD検出法の確立等の課題が挙げられ、MRDを標的とした術後のより個別化された治療戦略構築が望まれます。局所治療INSEMA試験:NEJM掲載4)乳房温存療法を受ける予定の浸潤性乳がん患者で、腫瘍径≦5cmのcT1/2、かつ臨床的リンパ節転移陰性(cN0)の患者に対する、腋窩手術省略とセンチネルリンパ節生検の前向きランダム化比較試験(非劣性試験)です。対象患者5,154例が無作為化を受け、4,858例がper-protocol解析集団となりました。腋窩手術省略群とセンチネルリンパ節生検群に1対4で割り付けられました(腋窩手術省略群962例、センチネルリンパ節生検群3,896例)。主要評価項目は無浸潤疾患生存期間(iDFS)で腋窩手術省略群のセンチネルリンパ節生検群に対する非劣性マージンは、5年iDFS率が85%以上で、浸潤性疾患または死亡のHRの95%CIの上限が1.271未満と規定されました。患者特性は50歳未満の患者は10.8%と少なく、cT≦2cmの症例が90%、96%がGrade1/2、95%がHR+/HER2-乳がんでした。また、センチネルリンパ節生検群では3.4%に微小転移、11.3%に1~3個の転移、0.2%に4個以上の転移を認めました。本試験の結果、観察期間中央値73.6ヵ月、per-protocol集団における5年iDFS率は腋窩手術省略群91.9% vs.センチネルリンパ節生検群91.7%、HR:0.91(95%CI:0.73~1.14)であり、腋窩手術省略群のセンチネルリンパ節生検群に対する非劣性が証明されました。主要評価項目のイベント(浸潤性疾患の発症または再発、あるいは死亡)は525例(10.8%)に発生しました。腋窩手術省略群とセンチネルリンパ節生検群の間で、遠隔転移再発率に差はなく(2.7% vs.2.7%)、腋窩再発発生率は腋窩手術省略群で若干高いという結果でした(1.0% vs.0.3%)。副次評価項目の5年OS率は腋窩手術省略群98.2% vs.センチネルリンパ節生検群96.9%、HR:0.69(95%CI:0.46~1.02)と良好な結果でした。安全性については、腋窩手術省略群はセンチネルリンパ節生検群と比較して、リンパ浮腫の発現率が低く、上肢可動域が大きく、上肢や肩の動きに伴う痛みが少ないという結果でした。表:SOUND試験とINSEMA試験の比較画像を拡大する乳房温存療法におけるcN0症例の腋窩手術省略の可能性を検討したSOUND試験、INSEMA試験の結果から、閉経後(50歳以上)、cT≦2cm、HR+/HER2-、Grade1~2といった限られた対象で腋窩手術省略は検討可能であることが示唆されました。一方、閉経前、TNBC、HER2陽性乳がん、小葉がん、cT2 以上、Grade3については試験に組み入れられた症例数が少なくデータが不十分であること、腋窩のstagingが術後治療選択に関わることを踏まえるとセンチネルリンパ節生検を行うことが妥当であると考えられます。SUPREMO試験乳房全切除術を行った「中間リスク」浸潤性乳がん(pT1/2N1M0、pT3N0M0、pT2N0M0かつGrade3±リンパ管侵襲あり)の乳房全切除後放射線照射(PMRT、胸壁照射のみ)の有用性を検討する前向きランダム化比較試験です。EBCTCGのメタアナリシス(1964~1986)では腋窩リンパ節転移1~3個陽性でPMRTにより領域リンパ節再発率、乳がん死亡率を減少させることが報告されています6)。この解析はアロマターゼ阻害薬、抗HER2療法やタキサンが普及する前の解析であり、現在の周術期薬物療法の各再発率低減への寄与が高まる中、放射線療法の相対的な意義が低下している可能性があります。一方でPMRTを安全に省略できる条件については一定の見解はなく、今回のSUPREMO試験(2006~2013)は現代の周術期薬物療法が行われた浸潤性乳がんにおけるPMRTの有用性を改めて検証した試験となります。対象患者1,679例が胸壁照射なし群と胸壁照射あり群に、1対1の割合で無作為化されました。患者特性としてpN0が25%、腋窩リンパ節転移1個陽性が40%、腋窩リンパ節転移陽性症例には腋窩郭清(8個以上腋窩リンパ節を摘出)が行われました。本試験の結果、10年OS、無病生存期間(DFS)、MDFSに関してはPMRT(胸壁照射のみ)の有用性は認めませんでした。胸壁再発に関しては腋窩リンパ節転移1~3個陽性でPMRT(胸壁照射のみ)の有用性がわずかながら示されました(HR:0.30、95%CI:0.11~0.82、p=0.01)。局所再発率に関しては腋窩リンパ節転移1~3個陽性でPMRT(胸壁照射のみ)の有用性がわずかながら示されました(HR:0.51、95%CI:0.27~0.96、p=0.03)。本試験の結果からpT2N0M0かつGrade3±リンパ管侵襲ありの症例に対するPMRT(胸壁照射のみ)の有用性は10年の観察期間内では証明されませんでした。pT3N0M0症例は11例しか含まれておらずPMRT(胸壁照射のみ)の有用性については不明です。さらに腋窩リンパ節転移1~3個陽性症例でのPMRT(胸壁照射のみ)による絶対的リスク低減効果はわずかであり、多遺伝子解析を含めた腫瘍の生物学的リスク、リンパ節転移個数等を加味し、症例選択のうえPMRTの省略を検討できる可能性があります。また近年、腋窩リンパ節に対する縮小手術のデータが蓄積されてきているため、腋窩手術と放射線治療間でのバランスも検討が必要であり、過不足のない周術期治療戦略を練る必要があります。最後に本学会に参加して、多くの演者が“One size does not fits all.”とコメントしていたのが印象的です。早期乳がんに関しては局所療法のde-escalationが進む中、腫瘍のバイオロジー・リスクに応じた全身治療の最適化(de-escalation/escalation)が検討されており、治療選択肢も増えて混沌としてきています。転移・再発乳がんに関しては治療のラインに伴い経時的に変化しうる腫瘍の性質をいかに捉え、病勢をコントロールするかさまざまな薬剤の組み合わせ、シークエンスを含めたエビデンスの構築が必要です。安全に周術期治療、転移・再発治療の最適化を行うためにも、乳がんのバイオロジーの理解、多職種連携により包括的に患者の病態を捉え、治療を行っていく必要性があると考えられます。参考1)Jhaveri KL, et al. N Engl J Med. 2024 Dec 11. [Epub ahead of print]2)Bhagwat SV, et al. Cancer Res. 2024 Dec 9. [Epub ahead of print]3)Goel S, et al. Cancer Cell. 2016;29:255-269.4)Reimer T, et al. N Engl J Med. 2024 Dec 12. [Epub ahead of print]5)Gentilini OD, et al. JAMA Oncol. 2023 Nov 01;9:1557-1564.6)EBCTCG (Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group) . Lancet. 2014;383:2127-2135.

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第130回 年始、「肺炎」大暴れ

歴史的流行ご存じのとおり、今年のインフルエンザ感染者数は想像を超えるレベルに達しています。抗インフルエンザ薬が出荷調整を強いられています。2025年第1週になってようやく報告数が減りましたが、年末年始で正しい統計が取れているかどうかはよくわからないです1)。とりあえず、このままピークアウトしてくれると助かるところです。ただ、不気味なのは、数は多くないものの新型コロナウイルスが暗躍していることです。「当院かかりつけの患者さまで、39度の発熱で来られました」というコールを、この2週間で何度受けたことか。そんなとき、まず頭に浮かぶのはインフルエンザ。しかし、同時に新型コロナの検査もすると、意外にも新型コロナが陽性になることがあります。症状だけでは、もはや判別が難しいという現実を痛感しています。さらに、「左右両肺に肺炎があるので紹介させていただきます」といった紹介状を持って来院する患者さんも急増中です。胸部CTを撮影してみると、細気管支炎パターンが見られ、「これはマイコプラズマか?」と疑って迅速検査をしても陰性。代わりに肺炎球菌尿中抗原が陽性、さらに血液培養からも肺炎球菌が検出されるケースがありました。ダマシか!この年末年始の呼吸器臨床を端的に表すと、「肺炎大暴れ」です。インフルエンザも過去こんなに肺炎の頻度は高くなかったのに、感染中も感染後も肺炎を起こす事例が多いです。新型コロナも相変わらず器質化肺炎みたいなのをよく起こす。そして、そのほかの肺炎も多い。細菌性肺炎や膿胸も多い。もともと冬はこういった呼吸器感染症が多かったとは思います。だがしかし、いかんせん度が過ぎておる。ワシャこんな呼吸器臨床を約20年経験した記憶がないぞ。「感染症の波」は、いったい何が理由なのか?この異常事態の背景には、何があるのでしょうか。コロナ禍で国全体が感染対策に力を入れていた時期と比べると、確かに感染対策は甘めではあります。交絡要因が多いので、これによって感染症が増えているか判然としませんが、感染対策の緩和と感染症の流行には一定の相関がみられているのは確かです。長期間にわたってウイルス曝露が減り、免疫防御機能が低下するという「免疫負債説」を耳にしていましたが、新型コロナ流行から4年が経過し、むしろ「免疫窃盗」されているという考え方が主流でしょうか。感染症免疫は神々の住まう領域であり、言及するとフルボッコの懸念があるため、この議論はやめておきます。昨年のように二峰性の流行曲線になる可能性はありつつも、インフルエンザはさすがにピークアウトすると予想されます。しかし、新型コロナもマイコプラズマも含めて、呼吸器感染症に関してはまだ予断を許しません。今シーズンは新型コロナのワクチン接種率が低いことも懸念材料です。自己負担額が高いため、接種を見送る人が増えました。当院の職員も、接種率がかなり落ちました。いずれ混合ワクチンとなり、安価となればインフルエンザと同時に接種していく時代が来るかもしれません。ちなみに、年末年始に「中国でヒトメタニューモウイルスが流行している」という報道がありましたが、冬季に流行しやすいウイルスで、それほど肺炎合併例も多くなく、世界保健機関(WHO)も「異常な感染拡大はない、過度に恐れる必要はない」とコメントしています2)。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(2025年1月14日)2)WHO:Trends of acute respiratory infection, including human metapneumovirus, in the Northern Hemisphere(2025 Jan 25)

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日本人男性のNa/K比、全死亡・NAD早期死亡・がん死亡と関連

 ナトリウム(Na)は、食塩そのものや高塩分食品の高血圧による心血管系疾患(CVD)や消化管がんへの影響を介して、非感染性疾患(NCD)リスクを高めると考えられている。 また、CVDの相対リスクはNa摂取量単独よりもNa摂取量/カリウム(K)摂取量(Na/K比)と密接に関連していると報告されているが、これらがNCDによる早期死亡リスクに及ぼす影響を調べた研究はほとんどない。今回、奈良女子大学の高地 リベカ氏らが前向きコホート研究であるJPHC研究で検討した結果、Na摂取量とNa/K比の両方が、中年男性における全死亡およびNCDによる早期死亡リスク上昇と関連し、さらにNa/K比はがん死亡とも関連していることが示された。The Journal of Nutrition誌オンライン版2024年12月27日号に掲載。 本研究では、1995~98年に11地域で45~74歳の男女8万3,048人を対象に食物摂取頻度調査票を実施した。2018年末までの158万7,901人年の追跡期間中、全死亡1万7,727人、NCD早期死亡3,555人が同定された。 主な結果は以下のとおり。・男性において、Na摂取量の多さは全死亡およびNCD早期死亡のリスク上昇と有意に関連していたが、全NCD死亡とは関連していなかった。最低五分位に対する最高五分位の多変量ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)は以下のとおり。 - 全死亡のHR:1.11(95%CI:1.03~1.20、傾向のp<0.01) - NCD早期死亡のHR:1.25(95%CI:1.06~1.47、傾向のp<0.01) ・Na/K比におけるHRは以下のとおりで、がん死亡との関連を含め男性のほうが関連が強かった。 - 全死亡のHR:1.19(95%CI:1.11~1.27、傾向のp<0.01) - NCD早期死亡のHR:1.27(95%CI:1.10~1.46、傾向のp<0.01) - がん死亡のHR:1.18(95%CI:1.07~1.31、傾向のp=0.02)

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