未治療多発性骨髄腫の新しい治療選択肢:パラダイムシフトは起こるか

提供元:ケアネット

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公開日:2025/04/10

 

未治療多発性骨髄腫の患者さんへの新しい選択肢

 2025年3月27日、サノフィは未治療の多発性骨髄腫の治療薬として、ボルテゾミブ、レナリドミド、デキサメタゾンによるVRd療法にイサツキシマブ(商品名:サークリサ®)を追加する4剤併用療法の適応追加承認を取得したCD38受容体を標的としたイサツキシマブに関するメディアセミナーを開催した。

 今回のセミナーでは、イサツキシマブの適応拡大の意義や新たな治療戦略について、芹澤 憲太郎氏(近畿大学 医学部 血液・膠原病内科)と鈴木 憲史氏(日本赤十字社医療センター アミロイドーシスセンター)が解説した。

サークリサ®が挑む多発性骨髄腫の治癒への挑戦

 多発性骨髄腫の好発年齢の中央値は67歳と高齢者に多く発症する疾患であり、罹患率は年々上昇している。一方、治療の進歩に伴い、2006年以降死亡率は横ばいで推移している。とくに、近年は再発・難治の状態に使用できる新薬が多く登場しており、劇的な進歩を遂げている。

 さらに、最近では多発性骨髄腫の治療戦略はPFSの延長だけではなく、微小残存病変/測定可能残存病変(MRD)を陰性化し、長期生存を目指すことが主流となっている。そして、多発性骨髄腫は再発を重ねるごとに奏効期間が短縮するため、初発時により深く、長く奏効する治療が必要とされていた。

 イサツキシマブは再発・難治性の患者さんを対象としたIKEMA試験で現行治療法の中で最もMRD陰性化率が高く、CD8+T細胞の活性化や制御性T細胞の抑制効果が報告されており、次治療が必要な場合もその効果を高める可能性が考えられる。そのため、イサツキシマブをより早い段階で使用することがより治療成績を向上させることに寄与するのではないか、と芹澤氏は語った。

 イサツキシマブ、ボルテゾミブ、レナリドミド、デキサメタゾンによる治療(IsaVRd療法)の意義としては、サブクローンの駆逐が見込めるだけでなく、イサツキシマブのアポトーシス誘導とボルテゾミブ、レナリドミドのROS産生による細胞傷害の相乗作用が期待できるため、より深く、長い奏効が期待できるレジメンであると考えられる。

 今後の治療戦略としては、IsaVRd療法を最初に行うことで、移植適応ではより移植への到達度を高め、移植非適応ではFunctional Cureを目指した治療を考えられる、として芹澤氏は鈴木氏にバトンを渡した。

サークリサ®による新たな治療戦略~IsaVRdでFunctional Cureを目指す~

 多発性骨髄腫はこれまで完治できない疾患であったが、新しい治療選択肢が増えた今、MRD陰性が維持できており、無治療でも病態を抑えられている状態、Functional Cureが目指せるパラダイムシフトが起こっている、と鈴木氏は冒頭で語った。

 そのために、これからの多発性骨髄腫治療で重要なのは初期治療から再発をさせない治療戦略である。つまり、良好な予後を得るために必要なのはMRD陰性を維持できる治療が必要だ、ということだ。

 実際に移植非適応の患者さんを対象にしたIMROZ試験では下記のような結果が示された。

・主要評価項目であるPFSはIsaVRd群で中央値未到達、60ヵ月時点のPFSは63.2%
・副次評価項目のsCR+CRの割合はIsaVRd群で74.7%・安全性プロファイルはVRd療法と同様であった

 今後は年齢でなくnon-frailかFrailで治療を選択し、FrailでなければIsaVRd療法でMRD陰性化とFunctional Cureを目指すという治療戦略が考えられる。

 鈴木氏は「多発性骨髄腫の治療は新時代を迎え、今後は治癒や予防を考えられるようになるのではないか。『早く行きたければ1人で行け、遠くにいきたければみんなで行け』という言葉の通り、医療従事者、製薬メーカー、患者さん、みんながより幸せになれる時代が来たと感じている」として講演を締めくくった。

(ケアネット)