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INDEX2026年麻疹発生状況もう一つのセキュリティーホールと解決策2026年麻疹発生状況年明けからわずか2ヵ月弱だが、現在の麻疹の発生動向を見ると、何とも不気味である。国立健康危機管理研究機構が公表する感染症発生動向調査週報(IDWR)1)の2026年第6週(2月2~8日)までの速報ベースの累計報告数は32例。昨年の同週での累計が3例だったことを考えれば、年初からかなりのハイペースである。第1週から第6週を見ると以下のような推移になり、第5週を境に感染報告数が跳ね上がっている。画像を拡大する累計報告数を都道府県別で見ると、東京都が6例、栃木県、新潟県、大阪府が各4例、埼玉県、千葉県が各3例、神奈川県、岩手県が各2例、北海道、茨城県、愛知県、京都府が各1例。現状は首都圏、東海圏、近畿圏という人口密集地域での報告が主である。本連載でもすでに取り上げているが、昨年の麻疹発生状況もかなりのものだった。2025年最後の第52週(12月22~28日)までの速報ベースの累計報告数は265例で、2024年の同週(12月23~29日)の45例と比較して約6倍まで増加していた。さらに、日本の麻疹土着株の遺伝子型D5は長きにわたって検出事例はなく、それがゆえに日本は2015年、世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局から麻疹排除国として認定されている。現在の麻疹感染報告はいわば輸入例であり、ウイルスの遺伝子型からも、その多くが東南アジア・南アジア方面を起源とするものと推定されている。実際、米国・ボストン小児病院が開発・運営する世界の感染症発生情報を可視化したサイト「HealthMap」2)を参照すると、現状、東南アジアや南アジアでは麻疹がかなり流行していることがわかる。だからこそ、前回、この地域からの技能実習や特定技能での来日者やその雇用主へのワクチン接種の積極的勧奨、そのための接種費用の一部助成などの施策を考えてもよいのではないかと私個人は提案したのであった。もう一つのセキュリティーホールと解決策この考えに今も変更はないが、最近、もっと重要な視点が抜け落ちていると気付き始めた。それは日本人でのワクチン接種の推進である。前回も紹介したように、令和6年度(2024年4月1日~2025年3月31日)のワクチン定期接種対象者の接種率は、第1期が92.7%、第2期が91.0%であり、麻疹の集団免疫獲得に必要なワクチン接種率95%以上にはやや及ばない。ここは従来どおり、国や各自治体による地味な啓発の継続が必要である。だが、麻疹に関してはここにセキュリティーホールがあることを私自身はすっかり忘れていた。それは現在の麻疹のワクチン接種が2回体制になったのは、2006年からである。ご存じのように1回接種では、約5%の人では十分な免疫を獲得できず、また、経年での抗体価低下を補うブースター効果を期待して、このような措置へと変更された。日本で麻疹ワクチンの定期接種が始まったのは1978年で、約30年間は1回接種で済まされていた。当然ながらこの世代には、免疫獲得が不十分な人もかなり抗体価が低下した人もいるはずだ。その意味では、国がかつて風疹ワクチンの接種対象ではなかった中高年男性に対して抗体価検査の無料クーポン配布とその結果に応じた無償接種の機会を提供したことは記憶に新しい。この事業は2024年度で終了したが、改めて麻疹ワクチンの1回接種世代を対象に似たような事業を行ってもよいのではないだろうか?ちなみにざっくり対象人口を計算すると、約1億人と推計される。一般に麻疹の抗体価検査は3,000円前後であるので、この全員が抗体検査を受ければ、予算規模は約3,000億円。そのうち3割程度が接種対象だったと仮定した場合、約8,000円と言われるMRワクチンの接種費用を掛け合わせて約2,400億円。総額5,400億円の計算になる。もちろん大変な規模の支出にはなるが、その後の経済効果まで考えれば、赤字国債を発行しても元が取れるのではないだろうか? いっそこのケースでは、あの“悪名高き”肺炎球菌ワクチンや帯状疱疹ワクチンのように、各年度で対象者を絞った実施でもよいかもしれない。これならば単年度の予算規模は抑えられる。健康安全保障をキーワードに予防医療を強く訴える高市政権にとっても悪い政策ではないと思うのだが。ついでに言うならば、現在、麻疹報告数が多く、大きな予算規模を抱える東京都あたりが先鞭をつけて始めてもよいかもしれない。それこそ東京都お得意の「東京アプリ」を使って、対象者が抗体検査を受けたら〇ポイントを付与する、といった仕組みだ。麻疹に関してWHOは2026年1月26日にイギリス、スペイン、オーストリア、アルメニア、アゼルバイジャン、ウズベキスタンが排除国認定を喪失したことを発表したばかり。日本が同じ轍を踏んでほしくはない。参考1)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:感染症発生動向調査週報2)HealthMap