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AIチャットボットに看護師と同等の効果?不安・抑うつの軽減効果を検証【論文から学ぶ看護の新常識】第13回

AIチャットボットに看護師と同等の効果?不安・抑うつの軽減効果を検証Chen Chen氏らの研究で、香港市民向けに開発したAIチャットボットと従来の看護師ホットライン(電話相談)の効果が比較され、不安や抑うつの軽減において両者が同等の効果を持つ可能性が示された。JMIR Human Factors誌2025年3月号に掲載された。AIチャットボットと看護師ホットラインの不安・抑うつ軽減効果の比較:パイロットランダム化比較試験研究チームは、地域住民向けのAIチャットボットを開発し、香港市民の不安および抑うつの軽減において、AIチャットボットと従来の看護師ホットラインの効果を比較することを目的に、パイロットランダム化比較試験(RCT)を実施した。試験の実施期間は2022年10月から2023年3月であった。対象は香港市民124名で、AIチャットボット群と看護師ホットライン群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。最終的に、AIチャットボット群では62名、看護師ホットライン群では41名が介入前後の調査に参加した。参加者は、介入前後にGAD-7(全般性不安障害尺度)、PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)、および満足度アンケートを含む質問票に回答した。分析には、独立標本および対応のあるt検定(両側検定)ならびにカイ2乗検定を用いて、不安と抑うつレベルの変化を評価した。主な結果は以下の通り。AIチャットボット群:介入前の抑うつスコアは平均5.13(標準偏差[SD]:4.623)であったのに対し、介入後は平均3.68(SD:4.397)と統計的に有意な低下が認められた(p=0.008)。同様に、不安スコアも介入前は平均4.74(SD:4.742)、介入後は平均3.40(SD:3.748)となり、こちらも統計的に有意な低下が認められた(p=0.005)。看護師ホットライン群:抑うつ(p=0.28)および不安(p=0.63)スコアにおいて、介入前後のスコア差に有意差は認められなかった。両群の比較:介入前における両群間の抑うつ(p=0.76)および不安スコア(p=0.71)にも統計的に有意差はなかった。介入後のスコアは、AIチャットボット群の方がわずかに低かったものの、有意な差は認められなかった(すべてのp値>0.05)。抑うつ(p=0.38)および不安(p=0.19)における介入前後スコアの変化量(差分)を両群間で比較した結果においても、有意な差は認められなかった。両群間におけるサービス満足度にも有意差は認められなかった(p=0.32)。AIチャットボットは、従来の看護師ホットラインと同等に不安や抑うつを軽減する効果があることが示された。さらに、AIチャットボットは短期的な不安や抑うつの軽減に有効である可能性が示された。今回の研究では、AIチャットボットが従来の看護師ホットラインと同程度の効果を持つ可能性を示唆しており、とくに短期的な不安軽減においてはAIチャットボットが優れている可能性も示唆されました。これは、メンタルヘルスサポートの選択肢を広げる上で興味深い結果と言えるでしょう。一方で、看護師による電話相談には、AIでは対応が難しい個別の状況に応じたきめ細やかな対応や、より複雑な相談への対応力が期待されます。本文中でも触れられていますが、AIチャットボットは診断や長期的な治療戦略を提供するものではなく、あくまで初期的な情報提供や一時的な感情のサポートを目的としたツールと考えられます。この点から、将来、看護師の専門性はより複雑なメンタルサポートを行うことにシフトしていく可能性があります。今回の研究はパイロット試験(本格的なRCTを行う前に実施する小規模なRCT)であり、対象者も限られています。今後より大規模な研究によって、AIチャットボットと看護師によるサポートが、それぞれどのような場面で最も有効なのか、また、両者をどのように連携させていくのが望ましいのかが、さらに明らかになることが期待されます。論文はこちらChen C, et al. JMIR Hum Factors. 2025;12:e65785.

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ピロリ除菌後の胃がんリスクを予測するバイオマーカー~日本の前向き研究

 Helicobacter pylori(H. pylori)除菌後においても0.5~1.2%の人に原発性胃がんが発生する可能性がある。このような高リスクの集団を識別する新たなバイオマーカーとして、非悪性組織におけるepimutationの蓄積レベル(epimutation負荷)ががんリスクと関連していることが複数の横断的研究で報告されているが、前向き研究でリスク予測におけるDNAメチル化マーカーの有用性は確認されていない。今回、星薬科大学の山田 晴美氏らの研究により、epimutation負荷のDNAメチル化マーカーであるRIMS1がH. pylori除菌後の健康人における原発性胃がんリスクを正確に予測可能であることが示された。Gut誌オンライン版2025年4月15日号に掲載。 本研究では、H. pylori除菌後の健康人でopen typeの萎縮性胃炎を有する人を前向きに募集し、胃前庭部と胃体部の生検検体でマーカー遺伝子であるRIMS1のDNAメチル化レベルを測定した。主要評価項目は胃がん発生率で、主要な目的はメチル化レベルの最高四分位と最低四分位におけるハザード比の比較であった。副次的な目的は、2年に1回の内視鏡検診より年1回の検診から利益を得られる可能性のある人を特定するためにRIMS1メチル化レベルのカットオフ値の決定であった。メチル化レベルのカットオフ値は、NNS(number needed to screen)に対応する推定1年胃がん発生確率とした。 主な結果は以下のとおり。・1,624人の参加者が1回以上の内視鏡検査を受け、追跡期間中央値4.05年で27人に原発性胃がんが発生した。・RIMS1メチル化レベルの最高四分位群では10万人年当たり972.8人と、最低四分位群の127.1人年よりも発生率が高かった。・Cox回帰分析の結果、単変量ハザード比(HR)は7.7(95%信頼区間[CI]:1.8~33.7)、年齢・性別調整HRは5.7(同:1.3~25.5)であった。・超高リスク集団を特定するためのメチル化レベルのカットオフ値は、NNS1,000の場合は25.7%(年齢・性別調整HR:3.6、95%CI:1.7~7.7、p<0.001)であった。  本結果から、著者らは「DNAメチル化マーカーは、H. pylori除菌後に胃がん検診を免除できる人を特定できる可能性がある」とし、一方で「DNAメチル化マーカーによって特定された超高リスク集団は、現行のガイドラインのように2年に1回ではなく、毎年胃がん検診を受ける必要がある」としている。

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治療抵抗性うつ病に対する第2世代抗精神病薬増強療法〜ネットワークメタ解析

 治療抵抗性うつ病の成人患者に対する抗うつ薬と併用した第2世代抗精神病薬(SGA)増強療法のレジメンの根底にある「time window」効果をフォローアップ期間で調整しながら調査するため、中国・大連医科大学のBinru Bai氏らは、ネットワークメタ解析を実施した。BMC Psychiatry誌2025年4月5日号の報告。 Embase、PubMed、Scopus、Cochrane Library、Google Scholars、Clinicaltrials.govを含むデータベースより、2024年5月15日までに公表されたランダム化比較試験を検索した。主要エンドポイントは、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)スコアとした。副次的エンドポイントはMADRS反応率、3次エンドポイントは臨床全般印象度(CGI-S)およびMADRS寛解率とした。標準平均差(SMD)およびハザード比(HR)は、それぞれ二値変数および連続変数との比較について、ベイジアンネットワークメタ回帰(NMR)により算出した。 主な結果は以下のとおり。・NMRには、24種類の増強薬を用いた23件(1万679例)の研究を含めた。・抗うつ薬治療と比較し、主要エンドポイントで有意な効果が得られた増強療法は、次のとおりであった(SMD:−0.28〜−0.114)。 ●アリピプラゾール 3〜12mg/日 ●ブレクスピプラゾール 1〜3mg/日 ●cariprazine 1.5〜3mg/日 ●オランザピン 6〜12mg/日+fluoxetine 25〜50mg/日併用 ●クエチアピンXR・エフェクトサイズは同等であり、フォローアップ期間を調整した後、クエチアピンXRを除き、主要エンドポイントの結果は同様であった(SMD:−0.10、95%信頼区間:−0.212〜−0.014)。・time windowが認められた薬剤は、次のとおりであった。 ●ブレクスピプラゾール 3mg/日:7.22週 ●cariprazine 1〜2mg/日:2.97週 ●cariprazine 2〜4.5mg/日:2.81週 ●cariprazine 3mg/日:7.16週 ●オランザピン 6〜12mg/日:4.11週 ●クエチアピン 150〜300mg/日:3.89週・MADRS反応率では、ブレクスピプラゾール3mg/日およびリスペリドン0.5〜3mg/日が他の薬剤よりも明らかに優れていた(HR:1.748〜2.301)。・抗うつ薬治療と比較し、CGI-S(SMD:−0.438〜−0.126)およびMADRS寛解率(HR:0.477〜3.326)において顕著な有効性を示した増強療法は、次のとおりであった。【CGI-S】 ●アリピプラゾール 2〜20mg/日 ●ブレクスピプラゾール 2〜3mg/日 ●cariprazine 3mg/日 ●オランザピン 6〜12mg/日+fluoxetine 25〜50mg/日併用 ●リスペリドン 0.5〜3mg/日【MADRS寛解率】 ●アリピプラゾール 2〜20mg/日 ●ブレクスピプラゾール 3mg/日 ●cariprazine 3mg/日 ●リスペリドン 0.5〜3mg/日 著者らは「各エンドポイントと対応するtime windowを総合的に考慮すると、特定のSGAは、治療抵抗性うつ病に対する抗うつ薬の補助療法として有用であり、とくにアリピプラゾールは、他の薬剤よりも有効性および忍容性が良好であることが示唆された」と結論付けている。

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炭水化物を減らすと2型糖尿病患者の予後が改善/順天堂大

 2型糖尿病患者では、心血管イベントや死亡のリスクが高いことが知られている。今回、2型糖尿病患者における食事の栄養素と予後との関連性を調査した結果、炭水化物の摂取割合が高いほど心血管イベントや死亡のリスクが増大し、炭水化物を減らして動物性のタンパク質や脂質の摂取を増加させるとそれらのリスクが低減することが、順天堂大学の三田 智也氏らによって明らかになった。Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism誌オンライン版2025年3月21日号掲載の報告。 炭水化物制限は2型糖尿病患者の血糖コントロールに有用である可能性が報告されている。しかし、炭水化物の摂取割合が心血管イベントや死亡リスクに与える影響や、炭水化物の摂取量を減らしてタンパク質や脂質を増やすことによる影響など、依然として不明な点は多い。そこで研究グループは、2型糖尿病患者を対象に、食事の栄養素を含むさまざまな生活習慣と心血管イベントや死亡リスクとの関連性を、最大10年間にわたって前向きに調査した。 対象は、順天堂大学医学部附属順天堂医院などの医療機関に通院中で、心血管イベントの既往がない2型糖尿病患者731例であった。試験開始時、2年後、5年後に食事、身体活動量、睡眠時間、睡眠の質、生活リズムなどのさまざまな生活習慣を質問紙を用いて聴取し、各生活習慣スコアの平均値を算出した。多変量Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、各生活習慣と主要アウトカム(心血管イベントまたは全死因死亡)との関係性を解析した。 主な結果は以下のとおり。・参加者の平均年齢は57.8±8.6歳、男性が62.9%、平均BMIは24.6±4.1kg/m2であった。・平均追跡期間は7.5±2.4年で、55例(7.5%)で主要アウトカムが発生した。・炭水化物の摂取割合が高いほど主要アウトカムのリスクが高かった(ハザード比:1.06、95%信頼区間:1.02~1.10、p=0.005)。・炭水化物摂取量を減らし、動物性のタンパク質や脂質を増やすほど、主要アウトカムのリスクが低かった。・飽和脂肪酸の摂取割合が高いと主要アウトカムのリスクが低かった。 研究グループは、「これらのデータは2型糖尿病患者において食事の栄養素を考慮する必要性を強調するものである」とまとめた。

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デルゴシチニブ クリーム、重症慢性手湿疹に有効/Lancet

 重症の慢性手湿疹の治療において、デルゴシチニブ クリーム (外用汎ヤヌスキナーゼ[JAK]阻害薬)はalitretinoin経口投与と比較して、24週間にわたり優れた有効性と良好な安全性プロファイルを示すことが、スペイン・Universitat Pompeu Fabra大学のAna Maria Gimenez-Arnau氏らtrial investigatorsが実施した「DELTA FORCE試験」で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年4月16日号で報告された。欧米10ヵ国の第III相無作為化実薬対照比較試験 DELTA FORCE試験は、重症慢性手湿疹の治療において、全身療法薬として欧米で唯一承認されている経口alitretinoinとの比較におけるデルゴシチニブ クリームの有効性と安全性の評価を目的とする第III相評価者盲検無作為化実薬対照比較試験であり、2022年6月~2023年12月に北米と欧州の10ヵ国102施設で参加者の無作為化を行った(LEO Pharmaの助成を受けた)。 年齢18歳以上の重症慢性手湿疹(Investigator’s 's Global Assessment for Chronic Hand Eczema[IGA-CHE]スコア[0~4点]が4点)の患者513例(年齢中央値45.0歳[四分位範囲:33.0~56.0]、女性65%)を対象とし、デルゴシチニブ クリーム(20mg/g、1日2回)を塗布する群(254例)、またはalitretinoin(30mg、1日1回)を経口投与する群(259例)に1対1の割合で無作為に割り付け、最長で24週間投与した。 主要エンドポイントは、手湿疹重症度指数(HECSI)スコア(範囲:0~360点、6つの臨床徴候[各0~3点]、5つの部位[各0~4点])のベースラインから12週までの変化量とした。主な副次エンドポイントもすべて有意に良好  デルゴシチニブ クリーム群の250例とalitretinoin群の253例を最大の解析対象集団(FAS)とし、ベースラインのHECSIデータが得られなかったそれぞれ1例および3例を主解析から除外した。曝露期間平均値は、それぞれ149.7日および119.8日だった。 HECSIスコアのベースラインから12週までの変化量の最小二乗平均値は、alitretinoin群が-51.5(SE 3.4)点であったのに対し、デルゴシチニブ クリーム群は-67.6(3.4)点と改善効果が有意に優れた(群間差:-16.1点[95%信頼区間[CI]:-23.3~-8.9]、p<0.0001)。 また、7項目の主な副次エンドポイントはいずれも、デルゴシチニブ クリーム群で有意に良好であった(12週時のHECSI-90[HECSIの90%以上の改善、p=0.0027]、12週時のIGA-CHEに基づく治療成功[スコアが0または1点で、ベースラインから2点以上の改善、p=0.0041]、12週時の手湿疹症状日誌[HESD]のそう痒の変化量[p=0.0051]、12週時のHESDの疼痛の変化量[p=0.018]、24週時のHECSI-90のAUC[p=0.0010]、24週時の皮膚科疾患生活の質指数[DLQI]のスコア低下のAUC[p<0.0001]、24週時のHECSIスコアの変化量[p<0.0001])。試験薬関連・投与中止に至った有害事象が少ない 有害事象は、alitretinoin群で247例中188例(76%)に認めたのに比べ、デルゴシチニブ クリーム群では253例中125例(49%)と少なかった(率比:0.39[95%CI:0.34~0.45]、リスク群間差:-26.7%[95%CI:-34.5~-18.3])。 最も頻度の高い有害事象は、頭痛(デルゴシチニブ クリーム群4%vs.alitretinoin群32%、率比:0.14[95%CI:0.09~0.23]、リスク群間差:-28.4%[95%CI:-34.8~-22.1])、鼻咽頭炎(12%vs.14%、0.71[0.46~1.09]、-1.9%[-7.8~4.0])、悪心(<1%vs.6%、0.06[0.01~0.43]、-5.3%[-8.9~-2.4])であった。 重篤な有害事象の頻度に両群で差はなく(デルゴシチニブ クリーム群2%vs.alitretinoin群5%、率比:0.36[95%CI:0.13~1.02]、リスク群間差:-2.9%[95%CI:-6.5~0.4])、死亡例の報告はなかった。また、試験薬関連の有害事象(probablyまたはpossibly)(9%vs.54%、0.08[0.06~0.12]、-44.8%[-51.6~-37.2])および試験薬の恒久的な投与中止に至った有害事象(1%vs.10%、0.08[0.03~0.22]、-8.9%[-13.4~-5.1])はalitretinoin群で多かった。 著者は、「デルゴシチニブ クリームは、コルチコステロイド外用薬や全身療法の長期使用に伴う安全性の懸念なしに、効果的な疾患コントロールをもたらす非ステロイド外用薬の選択肢を提供する可能性がある」としている。

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コントロール不良高血圧、lorundrostatが有望/NEJM

 コントロール不良の高血圧の治療において、プラセボと比較してアルドステロン合成酵素阻害薬lorundrostatは、24時間平均収縮期血圧を有意に低下させ、安全性プロファイルは許容範囲内と考えられることが、米国・Cleveland Clinic FoundationのLuke J. Laffin氏らが実施した「Advance-HTN試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年4月23日号に掲載された。米国の第IIb相無作為化プラセボ対照比較試験 Advance-HTN試験は、コントロール不良または治療抵抗性の高血圧の治療におけるlorundrostatの有効性と安全性の評価を目的とする第IIb相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2023年3月~2024年10月に米国の103施設で参加者のスクリーニングを行った(Mineralys Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢18歳以上、2~5種類の安定用量の降圧薬による治療を受けており、診察室血圧が収縮期140~180mmHgで拡張期65~110mmHg、または収縮期血圧を問わず拡張期血圧90~110mmHgの患者に対し、それまでの降圧薬の投与を中止して標準化された降圧薬レジメンを3週間投与した。 その後、コントロール不良(24時間自由行動下平均収縮期血圧130~180mmHg、平均拡張期血圧>80mmHg)の患者を、lorundrostat 50mgを1日1回、12週間投与する群(安定用量群)、lorundrostat 50mgを4週間投与し、診察室収縮期血圧が130mmHg以上の場合は100mgに増量して8週間投与する群(用量調節群)、またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、24時間平均収縮期血圧のベースラインから12週目までの変化量とした。2群とも主要エンドポイントが有意に改善 285例(平均年齢60歳、男性60%、黒人53%)を登録し、安定用量群に94例、用量調節群に96例、プラセボ群に95例を割り付けた。262例が無作為化から4週時の血圧測定を、241例が12週時の血圧測定を完了した。 無作為化から12週の時点における24時間平均収縮期血圧の最小二乗平均変化量は、安定用量群で-15.4mmHg、用量調節群で-13.9mmHg、プラセボ群で-7.4mmHgであった。プラセボで補正後の血圧変化量は、安定用量群で-7.9mmHg(97.5%信頼区間[CI]:-13.3~-2.6、p=0.001)、用量調節群で-6.5mmHg(97.5%CI:-11.8~-1.2、p=0.006)といずれも有意な改善を認めた。 2つのlorundrostat群を合わせた188例における、ベースラインから4週目までの24時間平均収縮期血圧のプラセボで補正後の変化量は-5.3mmHg(95%CI:-8.4~-2.3、p<0.001)であり、有意に良好だった。試験薬関連の重篤な有害事象は3例 重篤な有害事象は、安定用量群で6例(6%)、用量調節群で8例(8%)、プラセボ群で2例(2%)に発現した。試験薬に関連した重篤な有害事象は、それぞれ2例(2%)、1例(1%)、0例であった。用量調節群の1例が動脈硬化で死亡したが、試験薬との関連はないと判定された。 カリウム値が6.0mmol/Lを超えた患者は、安定用量群で5例(5%)、用量調節群で7例(7%)であり、プラセボ群には認めなかった。用量の調節を要する推算糸球体濾過量(eGFR)の低下は、それぞれ3例(3%)、7例(7%)、3例(3%)にみられた。 著者は、「観察された有効性は、アルドステロンが高血圧の病因において重要な役割を果たしているという考え方をより強固なものにする」「スクリーニングを受けた患者の大部分が標準化された降圧薬レジメンにより血圧コントロールを達成したため、無作為化の対象とならなかった。おそらく、コントロール不良の治療抵抗性高血圧が確認された患者のみが無作為化を受けることができたという事実が、黒人の参加者の割合が高かったことに寄与したと考えられる」としている。

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聴覚障害は心不全リスクの上昇と関連

 聴覚障害は、心臓の健康問題の前兆となる可能性があるようだ。新たな研究で、聴覚障害は心不全リスクの上昇と関連しており、両者の関連には、精神的苦痛が媒介因子として影響している可能性が示唆された。南方医科大学(中国)のXianhui Qin氏らによるこの研究結果は、「Heart」に4月8日掲載された。 Qin氏らは、長期健康研究プロジェクトであるUKバイオバンクのデータを用いて、研究参加時には心不全のなかった16万4,431人(平均年齢56.7歳、女性54.6%)を対象に、聴力と心不全発症との関連を検討した。媒介分析により、社会的孤立、精神的苦痛、および、神経症的傾向の影響についても評価された。参加者の聴力は、雑音下でDigit Triplets Testを用いて測定し、語音聴取閾値(SRT)として定量的に評価された。SRTは、聴力検査で用いられる指標の一種で、語音を50%の確率で間違わずに聞き取れる信号対雑音比(SNR)を示す。補聴器を使用していない参加者の聴力は、正常(SRT<−5.5dB)、不十分(SRT≧−5.5dB、SRT≦−3.5dB)、低い(SRT>−3.5dB)に分類した。 中央値で11.7年に及ぶ追跡期間中に4,449人(2.7%)が心不全を発症していた。解析の結果、SRTが1標準偏差上昇するごとに心不全リスクは5%上昇し(調整ハザード比〔aHR〕1.05、95%信頼区間1.02〜1.08)、SRTの上昇に伴い心不全リスクの高まることが明らかになった。また、聴力が正常な参加者と比較した心不全のaHRは、聴力が不十分な人で1.15、聴力が低い参加者で1.28、補聴器を使用している参加者で1.26と、それぞれ有意に高かった。 研究グループは、「補聴器を使用している参加者と聴力が低い参加者の両方で、心不全の発症リスクが同様に有意に増加していたことは注目に値する。これは、補聴器が聴覚機能を改善できる一方で、心不全リスクの一因となる根本的な血管の問題に対処できていない可能性があることを示唆している」との見方を示している。 媒介分析からは、聴力と心不全発症リスクの関連のうち16.9%は精神的苦痛の影響によるものと考えられることが示唆された。社会的孤立と神経症的傾向の媒介効果はそれぞれ3.0%と3.1%だった。研究グループによると、精神的苦痛は「闘争・逃走」反応に関わるホルモン反応を引き起こし、動脈硬化を加速させ、心臓にさらなる負担をかける可能性があるという。 一方で、心臓の健康は、聴力と直接的に関連している可能性も考えられるという。Qin氏らは、「蝸牛には毛細血管が豊富に分布しており、内耳の代謝要求も高いため、これらの部位は局所的な循環器系の問題だけでなく、全身の血管障害に対してより敏感になっている可能性がある。したがって、聴覚障害は血管の健康状態を反映し、心不全を含む心血管疾患の早期かつ敏感な予測因子として機能する可能性がある」との見方を示している。 本研究の結論として研究グループは、「本研究結果は、聴力検査をより広範な心血管リスク評価の枠組みに組み入れることの重要性を浮き彫りにしている。また、聴覚障害がある人に対する心理的介入の強化が、心不全リスクを抑制する鍵となる可能性があることも示唆している」と述べている。

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アルツハイマー病の父親を持つ人はタウの蓄積リスクが高い?

 アルツハイマー病(AD)の父親を持つ人は、自身にもADに関連する脳の変化が生じる可能性があるようだ。新たな研究で、ADの父親を持つ人ではADの母親を持つ人に比べて、脳内でのタウと呼ばれるタンパク質の拡散がより広範囲であることが確認された。脳内のタウのもつれは進行したADの特徴の一つである。マギル大学(カナダ)のSylvia Villeneuve氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に4月9日掲載された。 研究グループによると、過去の研究では、女性の性別や母親のAD歴がADリスクの上昇と関連することが示唆されているが、性別やADを発症した親の性別とADのバイオマーカーとの関連は明らかになっていない。 Villeneuve氏らの研究は、ADの家族歴があるものの試験開始時に本人の認知機能には問題のなかった243人(平均年齢68.3歳、女性69.4%)を対象に行われた。ADの家族歴があるとは、両親または父親か母親のいずれか、あるいは2人以上のきょうだいにADがある場合と定義した。試験参加者は、研究開始時にPETやMRIによる脳画像検査と認知機能検査を受けた。その後、242人が平均で6.72年にわたる追跡調査を受けた。 追跡期間中に71人が軽度認知障害(MCI)を発症していた。ADの父親を持つ人は、ADの母親を持つ人に比べて脳内のタウの拡散がより広範であり、脳内アミロイドβ(Aβ)とタウの関連が強い傾向が認められた。Villeneuve氏は、「われわれはADの母親を持つ人の方がより大きな脳の変化が見られるとの仮説を立てていたため、ADの父親を持つ人の方が、脳内のタウの拡散に対してより脆弱であることが示されたのは意外だった」と話す。 一方で、本研究では、女性は男性に比べて脳内のタウ蓄積量が多く、またAβとタウとの関連がより強いことも示された。この研究の付随論評の著者の1人で、ルンド大学(スウェーデン)臨床記憶研究ユニットのLyduine Collij氏は、「このことは、女性であることが、後期のタウ蓄積により強く関連していることを示唆している。これは、ADを発症した女性では、認知機能障害が始まってから認知機能が低下するペースがより速いことを示した先行研究の結果とも一致している」と指摘している。 Villeneuve氏は、「このような脆弱性について解明を進めることは、AD予防に向けた個別化介入の考案にも役立つ可能性がある」と述べている。

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ロボットの遠隔操作による顕微授精で初の赤ちゃんが誕生

 世界で初めてロボットの遠隔操作による顕微授精(ICSI)で赤ちゃんが誕生したことを、グアダラハラ大学(メキシコ)のGerardo Mendizabal-Ruiz氏らが報告した。ICSIは体外受精(IVF)の一種であり、卵子の細胞内に1匹の精子を直接注入して受精させる。この研究の詳細は、「Reproductive Biomedicine Online」に4月9日掲載された。 研究グループによると、この赤ちゃんは男の子で、メキシコのグアダラハラ在住の40歳の女性から生まれた。この女性は、以前IVFを試みたが得られた成熟卵は一つだけであり、胚の形成には至らなかった。その後、完全に自動化されたデジタル制御バージョンのICSIにより妊娠し、出産した。この自動化システムが、精子を選択して注入の準備を行い、卵子に注入するまでのプロセスは、グアダラハラから2,300マイル(約3,700km)離れたニューヨークにいる遠隔オペレーターが監視したという。 通常のICSIでは、高い技術を持った技師(胚培養士)が手作業で1匹の精子を卵子に直接注入する。受精が成功して受精卵が得られれば、母体に移植される。このプロセスには緻密性を要する23のステップが含まれており、技師の技量により結果に差が出てくる可能性があると研究グループは述べている。 このプロセスを改善するためにMendizabal-Ruiz氏らは、これらのステップをAI制御または遠隔オペレーターによるデジタル制御のもとで実行する、自動化されたワークステーションを作った。Mendizabal-Ruiz氏は、「AIを用いることで、システムは自律的に精子を選び、精子の尾部中央をレーザーで固定して動きを止め、注入の準備を整える。この迅速かつ精密なプロセスは、人間の能力を超える精度で実行される」と説明している。 今回の研究では、自動化されたICSIシステムによって5個の卵子で受精が試みられた一方、3個の卵子で人間の技師による標準的な方法によるICSIが行われた。卵子は23歳のドナーから提供された。受精には、後に新生児の母となった女性の43歳のパートナーが提供した精子が使われた。 その結果、自動化システムによって精子が注入された5個の卵子のうち4個(80%)が受精に至った。一方、標準的な方法でICSIを行った3個の卵子は全て受精に至った。その後、自動化システムによって得られた最も質の高い胚を女性に移植したところ、妊娠を経て健康な赤ちゃんを出産したという。 この自動化システムを作り、今回の臨床試験の資金提供を行ったConceivable Life Sciences社の胚培養士であるJacques Cohen氏は、「このシステムは、精度や効率性を高め、確実に一貫した結果をもたらすことが期待できる画期的なソリューションだ」とニュースリリースの中で述べている。 なお、研究グループによると自動化システムによる受精に要した時間は卵子1個当たり平均約10分であり、通常の手作業によるICSIと比べてわずかに長かったという。Mendizabal-Ruiz氏は、「自動化されたプロセスがさらに改良されれば、処置に要する時間は大幅に短縮されるだろう」と話している。 研究グループは今後、より多くの症例を対象とした臨床試験でその性能を検証し、システムの有効性を確認する予定である。

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2型糖尿病患者においてもインスリン自動投与システム AIDは有効である(解説:住谷哲氏)

 インスリン自動投与システムautomated insulin delivery(AID)の有効性は1型糖尿病患者においては確立されている1)。AIDにはいくつかの種類があるが、本試験で使用されたのはTandem Diabetes CareのControl-IQ+である。Control-IQ+は、基礎インスリン分泌に加えて高血糖時の補正インスリンcorrection bolusも自動化した新しいclosed-loop systemである。本試験は、すでに米国食品医薬品局(FDA)から1型糖尿病患者に対して承認されているControl-IQ+の、2型糖尿病患者への承認を目指しての臨床試験と思われる。 試験参加者をインスリン頻回注射療法MDIにDexcom G6を併用する群(対照群)とControl-IQ+にDexcom G6を併用する群(AID群)に振り分けて、試験開始13週後のHbA1cを主要評価項目とした。結果は、主要評価項目のHbA1cは対照群で8.1%から7.7%に低下したのに対し、AID群では8.2%から7.3%に低下した。さらに副次評価項目のTIRは対照群で51%から52%に上昇したのに対し、AID群では48%から64%に上昇した。両指標ともにAID群で対照群に比較して有意な改善を認め、AIDは2型糖尿病患者においてもMDIに比較して血糖コントロールの改善に有効であることが示された。 FDAはInsuletのAIDであるOmnipod 5をSECURE-T2D試験2)の結果に基づいて、2型糖尿病患者への使用をすでに承認している。Control-IQ+も本年2月に2型糖尿病患者に対して承認された。2型糖尿病患者に対するAIDが普及するのも時間の問題である。しかしインスリン分泌が保たれている2型糖尿病患者において、AIDを用いてHbA1cをわずかに低下させることが患者の予後を改善するかは、筆者には少々疑問である。2型糖尿病患者におけるAIDの使用については、医療資源の観点も含めた議論が必要であると思われる。

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転倒防止はお口の健康から(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者最近、何もないところでつまずいたりして…。それに、歯の調子も良くなくて…。医師 それは心配ですね。歯の本数が少なくなると、転倒しやすいことがわかっていますからね。患者 えっ、そうなんですか。医師 はい。歯の本数が20本以上の人に比べると、19本以下の人は転倒するリスクが2.5倍にもなるそうですよ。画 いわみせいじ患者 本当ですか! けど、どうして歯がないと転びやすいんですか?(怪訝な顔)医師 その理由の1つは頭のバランスです。(身振り手振りを加えながら)患者 頭のバランス?医師 そうです。人間の頭はほかの動物と比べても大きいのですが、ものを食べる筋肉(咀嚼筋)や歯(歯根膜)から脳に向かう神経伝達で、頭部のバランスをとっています。ところが、歯がなくなったり、入れ歯をつけずに、咬み合わせが悪いと、それらがうまくできなって転倒しやすくなるんです。それに…。患者 なるほど。それに?医師 それに、かみ合わせが悪いと、力が入りにくくなって、転びそうになったときに何かにつかまることができなかったり、踏ん張ることができずに、転倒しやすくなるんです。患者 なるほど。歯は本当に大事なんですね。(納得した顔)ポイントお口の健康と転倒予防が関連することをわかりやすく説明します。Copyright© 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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尋常性ざ瘡の短時間接触療法薬「ベピオウォッシュゲル5%」【最新!DI情報】第38回

尋常性ざ瘡の短時間接触療法薬「ベピオウォッシュゲル5%」今回は、尋常性ざ瘡治療薬「過酸化ベンゾイル(商品名:ベピオウォッシュゲル5%、製造販売元:マルホ)」を紹介します。本剤は、わが国初の尋常性ざ瘡の短時間接触療法薬であり、外用薬の患部への接触を短時間にすることで、副作用を軽減しながら治療効果を発揮することが期待されています。<効能・効果>尋常性ざ瘡の適応で、2025年3月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>1日1回、洗顔後、患部に適量を塗布し、5~10分後に洗い流します。<安全性>副作用として、紅斑(5%以上)、皮膚剥脱(鱗屑・落屑)、刺激感、そう痒、皮膚炎、接触皮膚炎(アレルギー性接触皮膚炎を含む)、びらん、皮脂欠乏性湿疹、AST増加(いずれも5%未満)、乾燥、湿疹、蕁麻疹、間擦疹、乾皮症、脂腺機能亢進、腫脹、ピリピリ感、灼熱感、汗疹、違和感、皮脂欠乏症、ほてり、浮腫、丘疹、疼痛、水疱、口角炎、眼瞼炎、白血球数減少、白血球数増加、血小板数増加、血中ビリルビン増加、ALT増加、血中コレステロール減少、血中尿素減少、呼吸困難感(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、にきび(尋常性ざ瘡)を治療する塗り薬です。2.にきびの原因菌(アクネ菌など)が増えるのを抑え、にきびの原因となる毛穴のつまりを改善します。3.1日1回、洗顔後、患部に塗布し、5~10分後に洗い流してください。眼、口唇、その他の粘膜や傷口は避けてください。4.この薬には漂白作用があるので、髪や衣料などに付着しないように注意してください。5.この薬を使用中は、強い日光に当たるのをなるべく避けるようにしてください。6.過敏反応や強い皮膚刺激症状が現れたときは使用を中止し、医師または薬剤師に相談してください。<ここがポイント!>尋常性ざ瘡は、一般的に「にきび」として知られる炎症性疾患です。好発部位は顔面や胸背部などの脂漏部位で、思春期以降に発生しやすく、病因にはホルモンバランスの乱れ、皮脂の過剰産生、角化異常、Cutibacterium acnes(C. acnes)などの細菌の増殖が複雑に関与しています。過酸化ベンゾイルは強力な酸化作用を持ち、尋常性ざ瘡の原因菌であるC. acnesなどの細菌に対する抗菌作用と、閉塞した毛漏斗部での角層剥離作用を有しています。国内では2.5%のゲルおよびローション製剤が販売されていますが、1日1回洗顔後に患部に塗布する必要があり、刺激やかぶれなどの副作用に加え、衣類に対する脱色作用に注意が必要です。本剤は、国内初の短時間接触療法(Short contact therapy)用ゲル製剤であり、既承認医薬品のゲル製剤(商品名:ベピオゲル2.5%)の新用量医薬品として開発されました。本剤は過酸化ベンゾイルを5%含有しており、外用薬の患部への接触を短時間にすることで副作用を軽減しながら治療効果を発揮します。商品名に「ウォッシュ」とあるように、1日1回、洗顔後に患部に塗布したのち、5~10分後に洗い流すという用法が特徴です。本剤は、高濃度の主薬成分を含む製剤を塗布部位から手早く除去できるように、洗浄力の高いアニオン性界面活性剤2種類を配合しています。顔面に尋常性ざ瘡を有する患者を対象とした第III相プラセボ対照試験(M605110-05試験)において、主要評価項目である治療開始12週後のベースラインからの総皮疹数の減少率(最小二乗平均値)は、本剤群55.90%(両側95%信頼区間:49.89~61.90)であり、プラセボ群の43.85%(38.06~49.64)と比較して統計学的に有意な差が認められました。この結果により、プラセボ群に対する本剤群の優越性が検証されました。

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マロリーワイス症候群へのPPI【日常診療アップグレード】第29回

マロリーワイス症候群へのPPI問題53歳男性が吐血を主訴に来院した。上部内視鏡検査では食道胃接合部近くの粘膜に縦走する裂傷を認め、マロリーワイス症候群と診断された。2週間のプロトンポンプ阻害薬(PPI)による治療を受け退院した。その後、4週間PPI内服を続け経過観察のため外来を受診した。身体所見に問題はないためPPIを中止した。

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マリバビルの重要なポイント【1分間で学べる感染症】第25回

画像を拡大するTake home messageマリバビルは難治性サイトメガロウイルス(CMV)感染症に対する新規抗ウイルス薬。使用に関する重要なポイントを押さえよう。マリバビル(maribavir)は、これまでの治療で反応しない難治性サイトメガロウイルス(CMV)感染症に対して登場した新しい経口抗ウイルス薬です。臓器移植や造血幹細胞移植後の免疫抑制下の患者において、マリバビルはその治療選択肢の1つとして注目されています。1)適応造血幹細胞移植を含む臓器移植を受けた患者において、既存の抗CMV療法に難治性を示すCMV感染症が適応となります。具体的には、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ホスカルネットなどに効果が乏しい、あるいは副作用により継続困難な状態を指します。2)作用機序UL97遺伝子は、CMVがコードするウイルス特有のプロテインキナーゼ(タンパク質リン酸化酵素)を産生します。マリバビルはこのUL97プロテインキナーゼを特異的に阻害することで抗ウイルス効果を発揮します。これまでの抗ウイルス薬(DNAポリメラーゼ阻害)とは異なる作用点を持ちます。また、重要な点としては、ガンシクロビル、バルガンシクロビルとは拮抗関係にあるため、併用は避ける必要があります。3)用量通常400mgを1日2回経口投与します。4)腎機能調整腎機能による用量調整は原則不要です。ただし、透析患者における有効性や安全性は十分に検証されていないことには留意が必要です。5)副作用味覚異常(37%)が最も多く報告されており、患者への十分な説明が必要です。その他、嘔気(21%)、下痢(19%)などの消化器症状がみられることがあります。一方、ガンシクロビル、バルガンシクロビルにおいて問題となる骨髄抑制、ホスカルネットで問題となる腎機能障害がいずれも少ないのは、マリバビルの優れた点だといえます。6)注意点マリバビルはCYP3A4を介した薬物相互作用に注意が必要です。とくにタクロリムス(タクロリムスの血中濃度上昇)や、リファンピシン(マリバビルの血中濃度低下)などとの併用時はモニタリングを行うことが推奨されます。また、マリバビルの耐性獲得にも注意が必要です。7)ほかのウイルスに対する活性マリバビルは、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ホスカルネットとは異なり、単純ヘルペスウイルス(HSV)や水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)には効果がありません。したがって、マリバビルに切り替える際には、HSV、VZVに対する予防的抗ウイルス薬の内服を追加する必要があるかどうかを、ケースごとに検討しなければなりません。まとめマリバビルは、難治性CMV感染症に対する新しい選択肢として、作用機序、副作用の面で従来の抗CMV薬剤と異なる特徴を有します。薬物相互作用や耐性獲得の懸念はあるものの、これまでのCMV治療の追加の一手として今後期待されていることから、皆さんもマリバビルに関する知識を深めましょう。1)Avery RK, et al. Clin Infect Dis. 2022;75:690-701.

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第265回 家庭用洗濯機の病原菌除染は不十分かもしれない

家庭用洗濯機の病原菌除染は不十分かもしれない医療者が自宅で仕事着(ユニフォーム)を洗うことは、抗菌薬耐性感染症を院内で知らずに広めてしまっているかもしれません1,2)。米国や英国の医療者が自宅で仕事着を洗うことはよくあることです。英国の医療者をSARS-CoV-2感染症(COVID-19)流行の最中に調べたところ、ほとんどが看護師で占められる1,277人のうち、実に86%(1,099人)が家庭の洗濯機で仕事着を洗っていました3)。そんな英国では、政府の保健部門NHSが医療者の仕事着を確実に除染して感染が同居人にうつらないようにするための事細かな手段を2020年に示しています4)。たとえば、他の洗濯物と分けて洗うこと、できるだけ熱いお湯で洗うこと、洗濯量が多すぎないようにすること、洗濯機を定期的に洗浄することが推奨されています。とはいえ家庭用洗濯機はNHSが推奨する水温基準を満たして稼働しているかどうかが確認されることなく使われます。それに長く使った場合の性能もよくわかりませんし、使われる洗剤もまちまちで、水の硬度も洗濯性能に影響を及ぼしうることが知られています。そこで英国の大学(De Montfort University)の研究チームは、医療者の仕事着が家庭での洗濯でどれだけ除染できるかを病原性細菌(フェシウム菌)の減少を指標にしていくつかの条件を設定して調べてみました。試した6台の家庭用洗濯機のうち4台は60℃の熱水での標準コース(full-length cycle)でフェシウム菌を十分に減らせました。一方、お急ぎコース(rapid cycle)だと3台の洗濯機は規定水準の60±4℃に達しておらず、フェシウム菌を十分に減らせませんでした。さらに6台の洗濯機を加えた12台の洗濯機からの検体を調べたところ、解析に十分なDNA濃度が得られた8台からの検体に病原性となりうる細菌が見つかりました。抗菌薬抵抗性と関連する遺伝子も検出されました。また、家庭用の洗濯洗剤に細菌が抵抗性を獲得し、それが仇となって抗菌薬耐性も増やしうることも示されました。それらの結果を受けて、害が生じないようにするために医療者の仕事着の自宅での洗濯方針の手直しが必要だと著者は言っています。たとえば、バイオフィルムの蓄積や微生物の混入を減らす定期的な洗浄や抗菌作用がある洗剤の医療者への配給や提示が必要かもしれません。しかし、自宅での洗濯方針を示したところで家庭用洗濯機が除染に必要な水温に達していない恐れがあります。今回の研究でも60℃前後に達するとされているのにそうはならない場合がありました。実際、家庭での洗濯物を発端とする感染流行が発生しています。ゴードニア細菌(Gordonia bronchialis)が定着していた家庭用洗濯機で汚染された手術衣が原因らしい術後感染の3例が2012年に報告されています5)。2019年の報告では、母親の衣類の洗濯用に準備された小児病院の家庭用洗濯機で図らずも洗濯された新生児の帽子や靴下を介して、多剤耐性のクレブシエラ オキシトカが新生児や乳児にうつったとされています6)。できれば医療者任せの洗濯をやめ、適切に管理されて運用される専門の洗濯設備を各職場が準備するか、専門の洗濯会社を利用することで抗菌薬耐性病原体の広がりを防いで患者の安全性を改善できそうです。 参考 1) Cayrou C, et al. PLoS One. 2025;20:e0321467. 2) Home washing machines fail to remove important pathogens from textiles / Eurekalert 3) Owen L, et al. Am J Infect Control. 2022;50:525-535. 4) Uniforms and workwear: guidance for NHS employers / NHS 5) Wright SN, et al. Infect Control Hosp Epidemiol. 2012;33:1238-1241. 6) Schmithausen AE, et al. Appl Environ Microbiol. 2019;85:e01435-19.

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クロザピンの米国添付文書、30年の時を経て改訂されるか〜世界中の専門家の意見

 クロザピンは、1989年より米国において使用が再開された抗精神病薬であり、米国の添付文書は、時代遅れとなっていることが指摘されている。米国・ Wayne State UniversityのJose de Leon氏らは、クロザピンの添付文書改訂案を作成するため、文献の包括的レビューを実施した。Journal of Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2025年4月9日号の報告。 パートIでは、407件の関連論文に基づき基礎薬理学(クリアランス、薬物動態および薬力学、モニタリングツール)に焦点を当て検討した。パートIIでは、WHOのグローバル医薬品安全性監視データベースより、2023年1月15日までに米国より報告されたデータを用いて、臨床的側面および医薬品安全性監視に焦点を当て、致死的な臨床アウトカムおよび5つの警告(そのうちの4つはクロザピン特有で、重度の好中球減少、発作、起立性調節障害、心筋炎であり、1つはすべての抗精神病薬に関連する認知症高齢者への使用)に関して検討した。 主な結果は以下のとおり。・パートIでは、次の9つの主要な問題点が特定された。(1)in vivo試験において、クロザピンの代謝はCYP1A2に依存していることが示唆された(2)CYP2D6の影響が小さいことから、CYP2D6低代謝患者におけるクロザピンの減量に関する記載を削除する必要がある(3)非毒性濃度において、CYP3A4は代謝に関与しておらず、強力なCYP3A4阻害薬は臨床的に関連する影響を及ぼさない(4)最新のエビデンスに基づき、いくつかの薬物相互作用に関する知見を更新する必要がある(5)全身性炎症は、クロザピン代謝を低下させ、クロザピン中毒リスクを高める可能性がある(6)肥満は、クロザピン代謝を低下させる可能性がある(7)アジア系およびアメリカ先住民族の患者では、クロザピンを減量する必要がある(8)プロスペクティブ研究が利用可能になるまで、個別化用量設定およびC反応性タンパク質モニタリングを検討すべきである(9)米国では、夜間単回投与の頻度が高いため、半減期に関する項を修正する必要がある・パートIIでは、米国におけるクロザピンに関する報告件数は最も多く、5万6,003件の報告および9,587件の関連致死的アウトカムが報告されていた。・クロザピンに関する4つの警告は、534件の死亡例と関連していた(重度の好中球減少218件、発作131件、起立性調節障害125件、心筋炎36件、心筋症24件、僧帽弁逸脱症0件)。・警告以外では、肺炎で674件、感染の兆候である白血球数増加で596件の死亡例と関連していた。・重複を考慮すると、肺炎と白血球数増加は900件の死亡例、つまり9,587件の死亡例のうち9.4%を占めることが明らかとなった。・米国FDAは、重度の好中球減少に注目しているが、これは死亡例の218件(2.3%)にしかすぎなかった。一方、米国のクロザピン治療患者で報告された死亡例の97.7%は、別の原因によるものであった。 著者らは「これらの結果は、44の国と地域、124人の米国以外のクロザピン専門家からの支持を得られた。とくに、クロザピン治療患者の将来の死亡リスクを抑制するためにも、感染症による致死的アウトカムに焦点を当てるべきである。米国におけるクロザピンの添付文書改訂は、世界中の添付文書に改訂につながる可能性がある」と結論付けている。

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バロキサビル、家庭内のインフルエンザ感染予防効果は?/NEJM

 インフルエンザ発症者へのバロキサビルの単回経口投与は、プラセボと比較し家庭内接触者へのインフルエンザウイルスの伝播を有意に抑制したことが示された。米国・University of Michigan School of Public HealthのArnold S. Monto氏らが、世界15ヵ国で実施された国際共同第IIIb相試験「CENTERSTONE試験」の結果を報告した。バロキサビルはインフルエンザウイルスの排出を速やかに減少させることから、ウイルス伝播を抑制する可能性が示唆されていた。ノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビルなど)による治療では、接触者への伝播を予防するという十分なエビデンスは示されていなかった。NEJM誌2025年4月24日号掲載の報告。初発患者にバロキサビルまたはプラセボを投与、家庭内接触者への伝播予防効果を評価 研究グループは2019年10月~2024年4月に、インフルエンザのPCR検査または抗原検査が陽性、新型コロナウイルスの同検査が陰性で、症状発現後48時間以内にスクリーニングを受け、1人以上の家庭内接触者がいる5~64歳の患者(指標患者)を、バロキサビル群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、無作為化後2時間以内にそれぞれ単回経口投与した。 主要エンドポイントは、無作為化後5日目までの指標患者から家庭内接触者へのインフルエンザウイルスの伝播(家庭内接触者のインフルエンザPCR検査が陽性、かつウイルスの型と亜型が指標患者と一致することで判定)、第1副次エンドポイントは、臨床症状を認めた5日目までのインフルエンザウイルスの伝播であった。家庭内接触者の補正後感染率はバロキサビル群9.5%、プラセボ群13.4% 指標患者1,457例、家庭内接触者2,681例が登録され、指標患者はバロキサビル群に726例、プラセボ群に731例が割り当てられた。 無作為化後5日目までの家庭内接触者へのインフルエンザウイルス伝播の補正後発生率は、バロキサビル群9.5%、プラセボ群13.4%であった。補正後オッズ比(OR)は0.68(95.38%信頼区間[CI]:0.50~0.93、p=0.01)であり、補正後相対リスクは29%(95.38%CI:12~45)低下した。 無作為化後5日目までの臨床症状を認めたインフルエンザウイルスの伝播の補正後発生率は、バロキサビル群5.8%、プラセボ群7.6%であった。補正後ORは0.75(95.38%CI:0.50~1.12、p=0.16)であり、両群間に有意差は認められなかった。 有害事象の発現割合は、バロキサビル群4.6%(33例)、プラセボ群7.0%(51例)で、ほとんどの有害事象はGrade1または2であった。これらのうち、バロキサビル群4例、プラセボ群6例が、治験薬と関連があると判定された。 追跡期間中に、指標患者のバロキサビル群でバロキサビルを投与されシークエンス解析のためのベースライン前とベースライン後の検体があった208例のうち、15例(7.2%、95%CI:4.1~11.6)に薬剤耐性ウイルスの出現が認められたが、家庭内接触者では認められなかった。

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不必要な画像検査は温室効果ガス排出量増加の一因に

 最近の健康ブームに乗って、全身MRI検査やCT検査にお金をかけようとしている人はいないだろうか? もしそうであるなら、その行動が気候変動を加速させる一因になり得ると認識すべきことが、新たな研究で示された。メディケア受給者が受けた分だけでも、不必要な画像検査によって排出された温室効果ガスの二酸化炭素換算量(CO2e)は人口7万2,000人の町の電力消費により排出される年間の温室効果ガス排出量に相当する129.2キロトン(kT)に達することが明らかになった。米レーヘイ・ホスピタル&メディカル・センターのGregory Cavanagh氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American College of Radiology」に3月28日掲載された。 論文の共著者の1人である米ハーヴィー・L・ニーマン医療政策研究所のElizabeth Rula氏は、「われわれの解析から、不必要な画像検査のオーダーを減らすことで、カーボンフットプリントを大幅に削減できる可能性のあることが明らかになった」と同研究所のニュースリリースの中で述べている。カーボンフットプリントとは、製品やサービスが製造・使用・廃棄・リサイクルされる過程で排出される温室効果ガスの量をCO2eで表したものをいう。 この研究では、2017年から2021年の間に約3000万人のメディケア受給者に対して実施された画像検査(MRI検査、CT検査、X線検査、超音波検査)のデータが解析された。先行研究では、メディケア受給者の患者にオーダーされた画像検査のうち、不必要な検査が占める割合は26%にも達すると推定されていた。研究グループはこのデータを用いて、不必要な画像検査と、それに関連する温室効果ガス排出量を調べた。温室効果ガス排出量はCO2eとして数値化した。 その結果、対象とされた5年間に患者が受けた全種類の画像検査から排出された1年当たりのCO2eの平均は、MRI検査で8.1~136kT、CT検査で25~178kT、X線検査で7.1~46kT、超音波検査で2.7~23kTと推定された。 また、全種類の画像検査に占める不必要な検査の割合は4〜26%と推定された。これらの不必要な検査による年間のCO2eは平均3.55〜129.2kTであり、特にMRI検査とCT検査によるCO2eが多いことも示された(MRI検査:0.621〜33.8kT、CT検査:1.24〜64.8kT)。なお、3.55~129.2kTのCO2eは、それぞれ人口2,000人と7万2,000人の町での1年間の電力使用により排出される温室効果ガスの量に近いという。 Cavanagh氏は、「最大推定値は、画像検査間の待機モードの状態、あるいは次の検査までの稼働段階にある状態のときに必要とされるエネルギーも考慮したものだった」と同ニュースリリースの中で述べている。 一方、共著者の1人で米ミシガン大学アナーバー校臨床分野のJulia Schoen氏は、「画像検査の実施件数は、全体的には過去10年間で持続的に増加していることに加え、気候変動に関連する曝露やイベントによりさらに増加する見込みがある。これらを考慮すると、今後も温室効果ガスの排出量は増え続ける可能性が高い」と同ニュースリリースの中で述べている。 研究グループは、不必要な画像検査を減らすことは地球を守ることにつながると結論付けている。Rula氏は、「今回の研究結果から、不必要な画像検査の利用を減らすべき重要な理由が新たに加わった。不必要な画像検査の削減は、患者のリスクやコスト、医療システムのコストの抑制に加え、放射線科における人手不足の一因となっている大量の画像検査の実施件数を減らすことにもつながる」と述べている。

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バーチャル救急診療サービス、AIの提案が医師を上回ることも

 シダーズ・サイナイ・コネクト(Cedars-Sinai Connect)は、自宅などから24時間いつでも医療専門家にアクセスできる、AI(人工知能)を活用したバーチャル救急診療サービスおよびプライマリケアサービスである。このような環境で診察を受けた患者に対し、医師とAIのどちらが正確な診断やより良い治療方針を提案できるのだろうか。新たな研究によると、医師とAIモデルにはそれぞれ異なる強みがあり、救急医療における一般的な訴えに関しては、AIの提案の方が人間の医師の提案よりも優れていたという。テルアビブ大学(イスラエル)経済学准教授のDan Zeltzer氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に4月4日掲載された。 シダーズ・サイナイ・コネクトでは、AIが構造化されたチャットで患者の問診を行い、十分な信頼度(AIが自身の予測について、どの程度正しいと確信しているかを数値化したもの)が得られた場合のみ、診断と治療に関する提案(処方箋、検査、紹介状)を提示する。研究グループによると、このAIは、医師が一生のうちに目にする量をはるかに超える量の高品質なリアルワールドデータを用いてトレーニングされたという。 今回の研究は、2024年6月12日から7月14日の間に、呼吸器・泌尿器・膣・目・歯の症状が現れていた成人患者に対して、AIが十分な信頼度を持って診断や治療の提案を行い、医師が実際に管理し、完全な医療記録が残っていた461件の診療を対象にしたもの。診断と治療方針に関して、AIによる最初の提案と医師による最終的な提案が一致していなかった全ての症例と一致していた症例について、家庭医療、内科、救急医療分野でそれぞれ少なくとも10年の経験を持つ4人の熟練した医師が「最適」「妥当」「不十分」「有害な可能性」の4段階で評価した。 その結果、262件の診療(56.8%)で、AIと医師の提案が一致していたことが明らかになった。重み付けされた461件の診療に対する評価で「最適」とされたのは、AIによる提案では77.1%であったのに対し、医師による提案では67.1%にとどまっていた。また、AIと医師の提案の質についての評価では、AIの方が優れていると評価されたのは20.8%に上ったのに対し、医師の方が優れていると評価されたのは11.3%にとどまっていた。残りの67.9%は同等の質と評価された。 こうした結果となった理由について研究グループは、「AIは診療ガイドラインに厳密に従うように設計されており、医師が見逃す可能性のある些細なことや医療記録のメモを拾うことができるためかもしれない」と考察している。 米Cedars-Sinai Division of Informaticsの共同ディレクターで本研究の上席著者であるJoshua Pevnick氏によると、AIは、例えば尿路感染症など救急医療現場でよく遭遇する訴えに対する初期の診断・治療方針については、人間の医師よりも高い評価を得ていた。一方、医師は、患者からより完全な病歴を聞き出し、それに応じて治療方針を適切に調整する傾向が認められたという。 こうしたことを踏まえて研究グループは、「人間の医師の指導下で責任を持ってAIを導入すれば、即座にセカンドオピニオンが提供されるようになるため、患者のケアを改善できる可能性がある」と結論付けている。

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昼夜を通して続く熱波は心疾患による死亡リスクを高める

 日中も夜間も高気温が続く熱波の間には、心疾患による死亡者数が増えることが新たな研究から明らかになった。特に、夜になっても暑さが和らぐことのない複合熱波と呼ばれる熱波での心疾患による死亡リスクは、日中の気温だけが大幅に上昇した場合よりもはるかに高かったという。復旦大学(中国)公共衛生学院教授のRenjie Chen氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American College of Cardiology」に4月8日掲載された。 Chen氏らは今回、2013年から2019年に中国本土で発生した2390万2,254件の心疾患による死亡データを解析し、気温との関係を調べた。熱波を、昼間のみの熱波、夜間のみの熱波、および昼夜を通して続く複合熱波に分類し、熱波による超過積算温度(excess cumulative temperatures in heatwaves;ECT-HW)と呼ばれる新しい指標を用いて死亡率を推定するとともに、従来の熱波指標を用いて推定した死亡率と比較した。ECT-HWは、熱波の有無だけを示す従来の指標とは異なり、熱波の強度(温度の上昇幅)、持続期間、および季節内での発生時期といった詳細な特性を捉えることが可能だという。 その結果、複合熱波の場合、心疾患による死亡リスクはECT-HWの全範囲において一貫して増加し、明確な閾値は確認されなかった。死亡のオッズ比は、複合熱波下では1.86と推定されたのに対し、夜間のみの熱波下では1.16、日中のみの熱波下では1.19と推定された。さらに、複合熱波下では、特に突然の心停止、心筋梗塞、心不全による死亡が多いことも示された。 ECT-HWと従来の指標のそれぞれを用いて熱波による心疾患の超過死亡数を推定したところ、複合熱波では、ECT-HWに基づく推定で4万1,869件(心疾患による死亡全体の1.75%)、従来の指標に基づく推定では2万7,036件、夜間のみの熱波ではそれぞれ9,092件(同0.38%)と2,871件、昼間のみの熱波ではそれぞれ9,809件(同0.41%)と4,785件であり、ECT-HWに基づく推定値の方が高いことが示された。 こうした解析結果は、都市部での冷却シェルターの整備や家庭での空調コントロールの改善など、持続的な暑さから人々を守るための取り組みの強化が必要であることを示していると研究グループは述べている。 Chen氏は、「気候変動によって複合熱波の頻度と強度が高まりつつあることを踏まえると、この研究結果は、リスクにさらされている人を守るための特定の疾患に応じた予防戦略と公衆衛生ガイドラインの改訂の必要性を明確に示したものだと言える」と指摘している。 研究グループは次の段階として、さまざまな気候変動のシナリオのもとで、熱波に関連した心疾患により死亡する可能性が高い人がどの程度いるのかを予測する予定だとしている。

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