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卵は本当にLDL-C値を上げるのか

 朝食の定番である卵は、コレステロール値を上昇させ、心臓病のリスクを高めると一般的に考えられている。しかし、卵に関する新たな研究で、1日に2個の卵と飽和脂肪酸の少ない食事を組み合わせて摂取した人では、悪玉コレステロールとも呼ばれるLDLコレステロール(LDL-C)値が低下し、心血管疾患の発症リスクが低下する可能性のあることが示された。その一方で、飽和脂肪酸はLDL-C値を上げる傾向があることも判明した。南オーストラリア大学のJonathan Buckley氏らによるこの研究結果は、「The American Journal of Clinical Nutrition」7月号で報告された。 Buckley氏は、「われわれは、固ゆで卵のような厳格なエビデンスをもって、謙虚な卵の名誉を守ったと言えるだろう。朝食の中で心臓の健康に悪影響を与える可能性が高いのは、卵ではなくベーコンやソーセージなのだ」と話している。 卵は、コレステロールを多く含む一方で飽和脂肪酸の含有量は少ないという点でユニークな食品だとBuckley氏は話す。同氏は、「それにもかかわらず、そのコレステロール値の高さから、健康的な食生活における卵の位置付けについて疑問を抱く人が多い」と指摘する。米クリーブランド・クリニックによると、LDL-C値が100mg/dLを超えると心臓病のリスクがあり、160mg/dL以上になると「高リスク」とされる。LDL-Cが高くなると、動脈内にプラークが形成されやすくなり、心筋梗塞や脳卒中の原因となる。 今回の研究でBuckley氏らは、LDL-C値が3.5mmol/L(135.35mg/dL)未満の成人61人(平均年齢39±12歳)を対象にランダム化クロスオーバー試験を実施し、食事由来のコレステロールおよび飽和脂肪酸がLDL-C値に与える影響を検討した。対象者は、5週間ずつ以下の3種類の食事法を実践した。すなわち、コレステロールは多め(600mg/日、卵2個/日を含む)、飽和脂肪酸は少なめ(エネルギー比率6%)に摂取する群(卵摂取群)、卵は摂取せずコレステロールは少なめ(300mg/日)、飽和脂肪酸は多め(エネルギー比率12%)に摂取する群(卵なし群)、コレステロールも(600mg/日、卵1個/週を含む)飽和脂肪酸(エネルギー比率12%)も多めに摂取する群(対照群)である。48人が3種類の食事法の全てを完了した。各食事法の完了後に血液サンプルを採取し、それぞれの食事法がLDL-Cに与える影響を調べた。 その結果、卵摂取群では対照群と比較してLDL-C値が有意に低いことが示された(103.6±3.1mg/dL対109.3±3.1mg/dL、P=0.002)。これに対し、卵なし群(107.7±3.1mg/dL)と対照群との差は統計学的に有意ではなかった(P=0.52)。一方、全ての食事法において、飽和脂肪酸の摂取量はLDL-C値と有意に正の相関を示したのに対し、食事性コレステロールの摂取量とLDL-C値との間に有意な関連は認められなかった。 研究グループは、「これまで、西洋式の食事に典型的な高コレステロール・高飽和脂肪酸の食事の影響を、高コレステロール・低飽和脂肪酸の食事や低コレステロール・高飽和脂肪酸の食事の影響と直接比較した研究は存在しなかった」と指摘する。Buckley氏は、「この研究では、コレステロールと飽和脂肪酸の影響を分けて調べ、飽和脂肪酸の少ない食事の一部として卵を摂取した場合には、LDL-C値を上昇させないことを示した。LDL-C値上昇の真の原因は飽和脂肪酸なのだ」と述べている。

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高齢てんかん患者では睡眠不足が全死亡リスクを押し上げる

 睡眠不足が健康に悪影響を及ぼすとするエビデンスの蓄積とともに近年、睡眠衛生は公衆衛生上の主要な課題の一つとなっている。しかし、睡眠不足がてんかん患者に与える長期的な影響は明らかでない。米ウォールデン大学のSrikanta Banerjee氏らは、米国国民健康面接調査(NHIS)と死亡統計データをリンクさせ、高齢てんかん患者の睡眠不足が全死亡リスクに及ぼす影響を検討。結果の詳細が「Healthcare」に4月23日掲載された。 2008~2018年のNHISに参加し、2019年末までの死亡記録を追跡し得た65歳以上の高齢者、1万7,319人を解析対象とした。このうち245人が、医療専門家からてんかんと言われた経験があり、てんかんを有する人(PWE)と定義された。 PWE群と非PWE群を比較すると、性別の分布(全体の39.2%が男性)や高血圧・糖尿病の割合は有意差がなかった。ただし年齢はPWE群の方が若年で(73.3±0.48対74.6±0.08歳)、現喫煙者・元喫煙者、肥満、慢性腎臓病(CKD)、心血管疾患(CVD)が多く、貧困世帯の割合が高いなどの有意差が見られた。睡眠時間については6時間未満、6~8時間、8時間以上に分類した場合、その分布に有意差はなかった。なお、以降の解析では睡眠時間7時間未満を睡眠不足と定義している。 平均4.8年の追跡期間中の死亡率は全体で37.3%、PWE群では46.5%、非PWE群は37.2%だった。非PWEかつ睡眠不足なし群を基準とする交絡因子未調整モデルの解析では、PWEかつ睡眠不足あり群の全死亡リスクが有意に高かった(ハザード比〔HR〕1.92〔95%信頼区間1.09~3.36〕)。 交絡因子(年齢、性別、人種/民族、飲酒・喫煙状況、教育歴、貧困、肥満、高血圧、糖尿病、CKD、CVDなど)を調整した解析でも、PWEかつ睡眠不足あり群はやはり全死亡リスクが有意に高かった(HR1.94〔同1.19~3.15〕)。それに対して、PWEで睡眠不足なし群は有意なリスク上昇が認められなかった(HR1.00〔同0.78~1.30〕)。 Banerjee氏らは、「てんかんと睡眠不足が並存する場合、予後が有意に悪化する可能性のあることが明らかになった。てんかん患者の生活の質(QOL)向上と生命予後改善のため、睡眠対策が重要と言える。臨床医は脳波検査に睡眠検査を加えたスクリーニングを積極的に行うべきではないか」と述べている。

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硬膜外カテーテル、13%で位置ずれ? 経験豊富な医師でも注意が必要

 硬膜外麻酔時のカテーテル挿入には、高い技量と経験が要求される。しかし、今回、熟練の麻酔科によるカテーテル挿入でも、その先端が適切な位置に届いていないとする研究結果が報告された。カテーテル先端の位置異常が見られた症例では、担当麻酔科の経験年数が有意に長かったという。研究は富山大学医学部麻酔科学講座の松尾光浩氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に6月26日掲載された。 硬膜外麻酔は高度な技術を要し、経験豊富な麻酔科医でも約3割の症例で鎮痛が不十分となる。成功率向上の鍵となるのがカテーテル先端の正確な挿入位置だが、その実際の到達部位を客観的に評価した報告は乏しい。本研究では、術後CT画像を用いてカテーテル先端の位置不良の頻度を明らかにするとともに、術者や患者の特性との関連を後ろ向きに検討した。 解析対象は、2005年1月1日~2022年12月31日までの間に、富山大学附属病院にて硬膜外麻酔を伴う全身麻酔が施行された1万1,559人とした。これらの患者のうち、手術当日を含む術後5日以内に胸部CTまたは腹部CTが撮影された患者を特定した。術後CT画像より、カテーテル先端が黄色靭帯を貫通していなかった場合を「位置異常」と定義した。群間比較にはχ2検定とMann-Whitney U検定を用い、カテーテル位置異常を従属変数、麻酔科医の卒後年数を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。 最終的な解析対象は、術後の胸部または腹部CT画像で硬膜外カテーテルの挿入が確認された189人であった。患者の年齢中央値は71歳(範囲:15~89歳)、女性は全体の41%を占めた。すべての患者において、硬膜外カテーテルは左側臥位で傍正中アプローチにより挿入され、主な挿入部位は胸椎中部(48%)および胸椎下部(49%)であった。挿入を担当した医師の卒後経験年数の中央値は5.7年(2.0~35.4年)であった。 硬膜外カテーテルの位置異常は24人で認められた(12.7%、95%信頼区間〔CI〕8.3~18.3)。これらの症例では、カテーテルの先端は椎骨(椎弓:9、肋横突起:2、棘突起:1)、浅層軟部組織(脊柱起立筋内:5、皮下:4)、深層軟部組織(椎間孔内:2、背側胸膜下腔:1)に確認された。 正常なカテーテル位置群と位置異常群での特性の違いを調べたところ、患者の年齢やBMI、挿入部位による相違は認められなかったが、位置異常群の麻酔科医は卒後の経験年数が有意に長かった(中央値5.6年 vs. 10.1年、P=0.010)。ロジスティック回帰分析を用いて、カテーテルの位置異常と経験年数の相関を解析した結果、カテーテルの位置異常の発生率は麻酔科医の経験年数の増加に伴い有意に増加することが示された(卒後1年あたりのオッズ比1.08、95%CI 1.02~1.15)。 本研究について著者らは、「術後CTで確認された硬膜外カテーテル先端の位置不良は全体の約13%に認められた。挿入を担当した麻酔科医の卒後年数が長いほど位置異常のリスクが高くなる傾向があり、経験豊富な医師であっても適切な挿入位置の確認が重要である」と述べている。 なお、経験年数の増加に伴い、カテーテルの位置異常の発生率が上昇する理由としては、1)経験に伴う不注意や過信による一次的な位置異常、2)経験を積んだ麻酔科医が皮膚へのカテーテル固定に十分な注意を払わなくなり、結果として患者の体動により生じる二次的な位置異常、の2つの可能性が指摘されている。

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2025年12月期第2四半期 決算説明

2025年12月期第2四半期業績について:代表取締役社長 藤井勝博※IRページは こちら からお戻りいただけます※タイトルを選ぶとお好きなチャプターからご覧いただけます。※タイトルを選ぶとお好きなチャプターからご覧いただけます。※IRページは こちら からお戻りいただけます.banAdGroup{display:none;}.bottomNotice{display:none;}

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鼻水が止まりません…【漢方カンファレンス2】第3回

鼻水が止まりません…以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】20代後半女性主訴水様性鼻汁既往気管支喘息(小児期)、アレルギー性鼻炎病歴3日前、帰宅途中に雨に濡れた。翌朝、寒気がして咽頭痛と水様性鼻汁が出現。市販の感冒薬を飲んで様子をみたが、37.5℃の発熱、さらに翌日には咳嗽も出現したため受診した。水様性鼻汁が止まらずに困っている。現症身長169cm、体重56kg。体温37.4℃、血圧108/70mmHg、脈拍70回/分 整、SpO2 98%、咽頭発赤なし、扁桃肥大なし、白苔なし、頸部リンパ節腫脹なし、呼吸音異常なし。経過受診時「???」エキス2包を外来で内服。15分後水様性鼻汁が軽減「???」エキス3包 分3で処方。(解答は本ページ下部をチェック!)(帰宅して安静にし、2〜3時間おきに内服するように指導)翌日帰宅後、2回目を内服して布団に入った。悪寒がなくなり体が温かくなり解熱した。2日後咽頭痛と咳嗽が改善した。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 悪寒がありますか? 体熱感がありますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 普段は寒がりです。 少し寒気があって上着を1枚羽織っています。 体熱感はありません。 横になりたいほどの倦怠感はありません。 のどは渇きますか? いま、飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを飲みたいですか? のどは渇きません。 温かい飲み物が飲みたいです。 <鼻汁の性状> 鼻水はどのような性状ですか? 色はついていますか? 無色で水のようにタラッと垂れてきます。 <ほかの随伴症状> のどの痛みは強いですか? 体の節々が痛みますか? 汗をかいていますか? 口の苦味や食欲低下はありませんか? 咳はひどいですか? 痰は絡みますか? のどは少し痛いくらいです。 体の痛みはありません。 汗は少しかいています。 口の苦味はなく、食欲もあります。 咳はそこまでひどくありません。 痰は絡みません。 普段から冷え症でむくみやすいですか? 冷え症で夕方に足がむくみます。 【診察】顔色はやや蒼白。脈診は、やや浮で、反発力は中程度、幅の細い脈であった。舌は淡紅色で腫大と歯痕があり、湿潤した白苔が少量、腹診では腹力は中等度より軟弱で、心窩部に振水音あり。胸脇苦満(きょうきょうくまん)は認めなかった。触診では、皮膚はわずかに湿潤傾向、四肢の冷感はなし。カンファレンス 今回は風邪の症例ですね。風邪の治療は漢方治療の基本ですからしっかり押さえておきましょう。 感冒(風邪)では、咳、鼻、のどの症状が同程度に現れるのが典型です。本症例でも咳嗽と咽頭痛もありますが、水様性鼻汁が目立つことから、鼻型の風邪(急性鼻炎)といえそうです。 風邪の漢方治療では、発症直後で悪寒のある太陽病(たいようびょう)、その後、生体内に病邪が侵入した少陽病(しょうようびょう)として治療するのでした。 よく覚えていますね。一般的には太陽病は発症2~3日で、それ以降は少陽病に移行することが多いです。 本症例は発症3日目ですからどちらか判断は難しいですね。 そうだね。脈が浮で自覚症状として寒気があるから太陽病でいいだろう。診断では、悪寒の有無に加えて、脈診で脈が浮であることが大事なポイントだ(太陽病については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 本症例は、脈はやや浮、上着を羽織りたくなるような寒気があるということで太陽病と診断できそうです。 そうですね。さらに問診で少陽病の特徴である口の苦味や食欲低下がないこと、そして診察で舌の厚い舌苔や腹部の胸脇苦満がないことを確認して、少陽病を除外していますね。少陽病の特徴も覚えておきましょう。 太陽病ということは漢方診療のポイント(1)の「陰陽(いんよう)」は陽証ということになりますか? 今回は、寒がり、温かい飲み物を好む、顔面蒼白とあまり熱が主体の陽証とは考えにくいですね。太陽病の葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)では、悪寒と同時かその後に、熱を示唆する所見、顔面紅潮や強い咽頭痛など熱があるのでしたよね? いいところに気付いたね。今回は太陽病だけど、陽証らしくないというのがポイントだよ。では質問だけど、陰証の風邪によく用いる漢方薬を覚えているかい? えっと… 麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)です。麻黄附子細辛湯は全身に冷えと強い倦怠感がある陰証、少陰病(しょういんびょう)に用います。麻黄附子細辛湯の風邪は、水様性鼻汁、チクチクとした咽頭痛、倦怠感といった症状が特徴で、脈が沈でした。さらに風邪のひき始めが少陰病から始まる場合を「直中少陰(じきちゅうのしょういん)」(直(ただ)ちに少陰に中(あ)たる)とよびます。漢方カンファレンス第5回「風邪で冷えてきつい…」で学びました。 しっかり復習しておきます。本症例では「横になりたいほどの倦怠感がありますか?」と問診し、さらに四肢の冷えを触診で確認しています。本症例ではどちらも該当せず少陰病ではないようです。やはり陽証・太陽病らしいですね。 脈がやや浮ということから太陽病と診断できるけれど、脈診は初学者には難しいこと、麻黄附子細辛湯でも例外的に脈が浮いている場合があるからね1)。必ず全身倦怠感の程度と触診などで冷えの有無を確認して、少陰病の麻黄附子細辛湯の風邪でないか、常に考える必要があるね。 漢方診療のポイント(2)である「虚実」はどうでしょう? 脈は強弱中間、触診で汗をかいているようなので、虚証でしょうか? そうですね。ただし、脈の力は強弱中間と弱ではなく、発汗の程度も軽度なので虚実間としましょう。太陽病・虚証では発汗が自他覚的にも明らかなことが多いです。陰陽・六病位・虚実の判定まできました。漢方診療のポイント(3)気血水の異常に移りましょう。 水様性鼻汁は水毒ですね。 下肢が浮腫みやすいことや腹診の振水音も水毒です。本症例は、太陽病だけど熱はあまり目立たず、水毒があるといえますね。まとめてみましょう。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?悪寒がある。横になりたいほどの倦怠感はない、脈がやや浮温かい飲み物を好む、顔面蒼白(陽証:太陽病、熱よりも冷えが目立つ)(2)虚実はどうか脈:強弱中間、軽度の発汗傾向→虚実中間(3)気血水の異常を考える水様性鼻汁、下肢浮腫、振水音→水毒(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む水様性鼻汁、振水音解答・解説【解答】本症例は太陽病・虚実間証で、水毒がある場合に用いる小青竜湯(しょうせいりゅうとう)で治療しました。【解説】小青竜湯は太陽病・虚実間に分類されますが、特殊な位置付けです。太陽病で陽証といいながらも、体内に冷え(寒)がある病態に用いられます。ちょっと冷えがあって水っぽいイメージです。そのため小青竜湯は、太陽病でありながらその病態の一部は太陰病にまたがっているとも解説されています。構成生薬は、葛根湯や麻黄湯などと同様に発汗作用のある麻黄(まおう)と桂皮(けいひ)が含まれることは共通ですが、熱薬である乾姜(かんきょう)、細辛(さいしん)に加え、利水作用や鎮咳作用のある半夏(はんげ)・五味子(ごみし)を含みます。そのためあまり熱感が目立たない水様性鼻汁を伴う風邪やアレルギー性鼻炎によい適応です。日頃からむくみやすい、振水音があるなどの水毒の傾向をもつ人が風邪をひいたり、寒さにあたって鼻汁が出たりする場合に、小青竜湯の適応となることが多いようです。なお、小青竜湯は、通年性アレルギー性鼻炎に対する小青竜湯の効果を示した二重盲検RCT2)が存在し、『鼻アレルギー診療ガイドライン 2024年版』にも掲載されている漢方薬です。ほかの太陽病の漢方薬と趣が異なるため悪寒のある急性期に限定せず、より幅広い時期に用いることができます。今回のポイント「太陽病」の解説風邪のひき始めのように、悪寒に加え、脈が浮である時期を太陽病(陽の始まりという意味)といいます。太陽病の病位は表(ひょう:体表)で闘病反応が起こっている時期で、葛根湯や麻黄湯などの発汗作用のある漢方薬で治療します。太陽病は図(太陽病のチェックリスト)の順に診断、虚実の判定、漢方薬の選択を行います。診断には、悪寒の有無に加えて、脈診で脈が浮であることが大事なポイントです。橈骨動脈を橈骨茎状突起の高さに第2~4指をそろえて触知します。軽く置いたときに表在性に触れることができれば浮(ふ:浮いている)と表現します。指を沈めていって初めてはっきり触れてくれば沈(ちん:沈んでいる)になります。発症からの時期(多くは2~3日以内)も参考にして診断します。次に虚実の判定を行います。脈を押しこんで全体から受ける反発力をみて脈の「強弱」の判定をします。少しの力でペシャンとつぶれて触れなくなるような脈は「弱」、反発力が充実していれば「強」と診断します。さらに太陽病の虚実の判定には、汗の有無を参考にします。悪寒があるにもかかわらず皮膚のしまりがなくて、発汗している状態は闘病反応が弱い(虚)、汗がなく皮膚がサラッと乾いている場合は闘病反応が強い(実)と判定します。また虚実の判定には咽頭痛などの上気道炎症状の強さも参考になります。最後に、漢方薬ごとの特異的徴候として、項(うなじ)のこわばり(葛根湯)、多関節痛(麻黄湯)、水様性鼻汁(アレルギー性鼻炎)などを確認して処方を決定します(図)。太陽病は漢方薬をクリアカットに選択できるため、しっかりマスターしてください。今回の鑑別処方水様性鼻汁は冷えと水毒と考えますが、膿性鼻汁では炎症(熱)が強い病態と考えて治療します。葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)は太陽病の葛根湯に川芎(せんきゅう)と辛夷(しんい)が加わった処方で、頭痛や項のこわばりに加えて、鼻閉・前頭部の圧迫感が目立つ場合に適応になります。太陽病ですから副鼻腔炎の急性期がよい適応です。越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)は、アレルギーによる粘膜の炎症や浮腫(漢方医学的には熱と水毒)を改善させる効果があり、鼻閉が強い場合や目や鼻のかゆみを訴える場合にも有効です。葛根湯加川芎辛夷、越婢加朮湯とも麻黄が含まれるため、内服期間が長くなる場合は胃もたれ、不眠、動悸などの副作用の出現に注意する必要があります。辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)は石膏(せっこう)・黄芩(おうごん)・知母(ちも)といった清熱作用のある生薬が含まれ、炎症(熱)の強い急性期の副鼻腔炎で、副鼻腔に熱感を感じる場合によい適応です。荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)は中耳炎・副鼻腔炎・ニキビなど頭頸部に炎症を繰り返しやすい体質で、慢性化した副鼻腔炎に用います。皮膚が浅黒く乾燥傾向のある場合がよい適応になります。参考文献1)藤平健, 中村謙介 編著. 傷寒論演習 緑書房. 1997;577-584.2)馬場駿吉 ほか. 耳鼻臨床. 1995;88:389-405.

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TAVI後の脳卒中リスクを低減する目的でのルーチンでの脳塞栓保護デバイスの使用は推奨されない(解説:加藤貴雄氏)

 BHF PROTECT-TAVI試験は、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)における脳塞栓保護(CEP)デバイスの有効性を検証した英国での7,600例規模の大規模無作為化比較試験である(Kharbanda RK, et al. N Engl J Med. 2025;392:2403-2412)。CEPデバイス(Sentinel)の使用群と非使用群において、TAVI後72時間以内または退院までの脳卒中発症率に有意な差はなかった。この結果は、先行研究である北米・欧州・オーストラリアを中心に約3,000例で行われた、PROTECTED TAVR試験の結果と一致しており(Kapadia SR, et al. N Engl J Med. 2022;387:1253-1263)、TAVI後の脳卒中リスクを低減する目的でのルーチンでの使用は推奨されない結果であった。安全性に差はなかった。 本邦では「脳塞栓保護システムの適正使用に係る指針」が経カテーテル的心臓弁治療関連学会協議会から昨年出され、画像検査所見から、「大動脈弁の著しい石灰化又は上行弓部大動脈のアテローム病変によりTAVR時の脳塞栓症のリスクが高いと思われる患者」、または、既往歴から、「末梢血管疾患の既往・慢性腎臓病(透析含む)の既往・脳卒中の既往」があること、が適応評価に考慮されるべき項目として挙げられている。フィルターが留置される部分、すなわち左総頸動脈または腕頭動脈のいずれかに70%を超える狭窄や拡張・解離のない患者に用いることも重要である。高リスク患者に適正に用いることが重要で、高リスク患者に対象を絞った臨床試験も必要と思われる。

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急性腎盂腎炎、治療推奨は7日間?【Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー】第9回

Q9 急性腎盂腎炎、治療推奨は7日間?急性腎盂腎炎の標準的治療期間は10~14日とされますが、外来診療において単純性であれば治療開始後数日で解熱することが多く、抗菌薬を2週間も継続する必要はないのではと思われる症例が多々あります。実際1週間で治療終了しても再燃しない方がほとんどですが、いかがお考えでしょうか?

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なぜ今、「AI×医療英語」なのか?【タイパ時代のAI英語革命】第1回

医療英語の必要性が高まる理由近年、医療現場で英語力の必要性がますます高まっています。なぜ、急速に医療英語が医療従事者にとって、より不可欠になっているのでしょうか。1)多様化する患者への対応が必須に日本では在留外国人が370万人、訪日外国人が3,700万人を超え、医療機関が外国人患者に対応する機会が急増しています。とくに救急外来では限られた時間内に英語での的確な対応が求められ、医療スタッフ全員が基本的な医療英会話を身に付けておくことが重要です。2)国内勤務でも、医師のキャリア構築に必須海外での研修や国際学会への参加が増えるなかで、より医療英語が求められるようになっています。学会のオンライン化や英語での発表の機会も増え、英語力がアカデミックキャリアに直結する時代となりました。また、論文の影響力を示すIF(Impact Factor)という数字を比較しても、日本国内のトップジャーナルが10程度であるのに対し、権威ある英語の医学誌、たとえばThe Lancetでは現在98となっており、10倍以上の差があり、国際的な発信力を持つためにも英語力が不可欠です。留学や海外病院勤務といったキャリアを考えていなくとも、医師としてのキャリアを築くに当たって、英語力が必須の時代なのです。3)新しい医療情報のキャッチアップ現代医学の知見の多くは、英語で書かれた論文やガイドラインを通じて提供されています。たとえば、新しい治療法や薬剤の情報は、まず英語圏の医学誌やメディアに掲載され、そこから日本の学会やメディアで日本語化され、ゆくゆくは臨床適応へと広がっていくのですが、どうしてもタイムラグが生まれます。世界の医療の最新の情報をいち早く把握するには、翻訳機能が発展している今でも英語で直接受信する力が必要です。4)医療安全、公衆衛生の確保に必須医療英語は医療安全と公衆衛生とも深く関わります。わかりやすいものだと、英語で記された薬剤情報を医療スタッフの誰かが誤って解釈すれば、投薬ミスや医療事故につながります。公衆衛生の面で考えれば、世界の行き来が簡単になったことが災いとなり、COVID-19が発生した時は瞬く間に世界に広がりました。症状、感染者数、治療法、ワクチンに関する情報はすべて英語発信が最初で、正しいものから誤ったものまで、大量の英語による情報が世界中に拡散されたことは記憶に新しいのではないでしょうか。その際に英語による情報を早く的確に吟味したうえで対応する力が国や医療者全体に求められます。こうした点からも、医療を行ううえで英語との関わりはますます強まっています。AIが切り開く、新しい学習環境医療において英語が大切であることをお伝えしましたが、医療英語は専門用語が多く、一般の英語とは異なる語彙力が求められます。これまでは、参考書を読み込む、英会話スクールに通う、海外の論文を地道に読む、という方法が主流でした。しかし、これらの方法には大きな課題が存在します。それは時間的制約です。多忙な医療現場で働きながらまとまった学習時間を確保するのは難しい、という声を多く耳にします。加えて、学習内容が自分の必要な専門領域に直結していないような場合には、モチベーションの維持も困難です。また、独学ではフィードバックが得られにくく、自分の理解や発音が正しいかどうかを確認する手段も限られていました。そこでAIの登場です。AIは、医療英語と英語学習をつないでくれる最大・最強のツールです。生成AIといわれているものの中でもChatGPTのような大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)は、人間のように自然な文章や会話を生成する能力を持っています。これにより、従来では不可能だった学習支援やコミュニケーション支援が現実のものとなりました。生成AIの最大の強みは、学習者一人ひとりのニーズに合わせて柔軟に対応し、かつ迅速にフィードバックができる点です。また、今後の回で詳しく述べていきますが、生成AIは単なる語学習得の域を超え、医療英語をマスターせずとも、実践的かつ効率的に英語を使いこなす手段としても非常に有効です。生成AIは医療英語の強力な研鑽ツールとなるとともに、たとえ英語が不得手であっても、その力を借りながら積極的に世界とつながるツールともなります。生成AIを使いこなすことで、今後の医師生活において大きな強みとなるでしょう。生成AIを単なる道具としてではなく、共に歩むパートナーとして活用する具体的な方法を、今後の連載で皆さんに紹介したいと思います。生成AIの注意点1 AI Hallucination今後生成AIのさまざまなツールや使い方を述べるに当たって、注意しなければならないことがあります。1つ目はAI Hallucination(ハルシネーション)と呼ばれるものです。いわゆるAIによる“幻覚”ですね。生成AIは今までのデータからパターンを推測することで回答を導き出すので、すべてが事実に基づいているとは限りません。医療の観点で一番起こりやすいものとしては、「論文引用」が挙げられます。たとえば論文を書いていて、引用文献を見つけたいときに生成AIに該当する論文名とリンクを貼ってもらいます。しかし、回答にある論文のタイトルを調べても出てこなかった、リンクに飛んでも論文自体が存在しなかった、なんてことはよく聞く話です。AIとパートナーになりながら最大限に効率を上げることは大事ですが、あくまでもリーダーは「あなた」です。とくに世間に発表したり論文化したりする際に、生成AIが出した答えを丸のみにするのは非常に危険ですので、必ず事実に基づいたものなのか、別のリソースも使いながら、自分の目で最終確認をしてください。生成AIの注意点2 Stochastic Generation2つ目の注意点とはStochastic Generation(ストキャスティックジェネレーション)と呼ばれるものです。まだ日本語で訳されることがあまりないので、いったん「確率的生成」とでもしておきましょう。これは生成AIの強みでもあるのですが、弱点にもなりえます。確率的生成は、AIが文章を生成する際に、次に出現する単語や語句を確率分布に基づいてランダムに選択する手法です。この仕組みは、AIに自然で人間らしい言語生成を可能にする一方で、毎回異なる出力がなされるという不確実性をもたらします。具体的なリスクは、「ニュアンスが変わってしまう」ということです。患者説明用の文書を生成する際を想定すると、「副作用がまれに起こります」と書かれることもあれば、「副作用はほとんどありません」と書かれることもある、というイメージです。ほかの例としては、患者への説明時に「異常な組織の増殖が確認され、さらなる検査が必要です」というのと「あなたには腫瘍があり、がんの可能性があります」というのでは、どちらも一見同じようなことを伝えてはいますが、相手への伝わり方は大きく異なります。このような認識の齟齬が起こりえると知ったうえで、最終的にはAIの使用者が確認し、責任を持つ必要があります。AIを使用する際にはぜひこれらの注意点を十分に理解し、リスク回避策を取ってください。次回は、早速生成AIに関して深く触れていきます!

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第276回 レカネマブ15%薬価下げ報道で改めて考える 「認知症を薬で治す」は正しいの?(後編)

NHKニュース「熱中症疑いで死亡 エアコン使用せずが3分の2以上」と報道こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連休は、お施餓鬼のため愛知県の実家に帰省しました。93歳で1人暮らしの父親は、世の中の多くの老人の例に漏れず、外気温は40度近くなのにエアコンの設定温度を大して下げず、家の中でじっとしていました。エアコンが効き過ぎると足が冷え、暑さよりそちらのほうが耐えられないのだそうです(閉塞性動脈硬化症かもしれません)。ちなみに、8月4日のNHKニュースは、「東京23区56人熱中症疑いで死亡 エアコン使用せずが3分の2以上」と報道していました。同ニュースによれば、「東京都監察医務院がことし6月16日から先月末にかけて東京23区で亡くなった原因を調べた人のうち、熱中症の疑いがあるのは、速報値で56人でした。年代別では70代が26人と最も多く、次いで80代が16人、(中略)場所別では、全体のおよそ96%にあたる54人が屋内で亡くなっていて、このうちエアコンがあったものの使っていなかったケースが38人で、全体の3分の2以上に上りました」とのことです。父親には「冷え性を取るか、熱中症で死ぬかの2択」と脅してから帰京したのですが、運転免許の返納に加え、エアコンの積極使用も高齢者の生活習慣変容における難題の1つだなと実感した次第です。さて前回は、7月9日に開催された中央社会保険医療協議会・総会でレカネマブの費用対効果に関する評価結果が提出され、薬価が引き下げられる見込みになったことについて書きました。市場規模が大きいか著しく単価が高い医薬品・医用機器などを対象に、費用対効果評価専門組織が分析し薬価等が調整される費用対効果評価制度が適用された結果で、専門組織である国立保健医療科学院の保健医療経済評価研究センター(C2H)が、現在の3分の1程度の薬価が妥当とする評価結果を公表、今後、中医協のさらなる議論を経て、薬価が下げられることになったのです。そして、中医協・総会は8月6日、レカネマブ(商品名:レケンビ点滴静注)の薬価を現在の200mg・4万5,777円から3万8,910円へ、500mg・11万4,443円から9万7,277円へと、それぞれ15%引き下げることを了承しました。新薬価の適用は11月1日となります。「日本承認後に待ち受ける2つの高いハードル」のうち1つは低くなるが……レカネマブの薬価引き下げは、日本の医療現場にどんな影響を及ぼすのでしょうか。単純に考えれば、年間約300万円と高額だった薬剤費が最大15%引き下げられれば、自己負担がネックだった患者の治療継続に向けてのハードルが下がるでしょう。また、薬剤費の高さから投与をためらっていた医療機関にも、より多くの患者に使用しようという機運が生まれることになります。しかし、そうは簡単に市場が拡大していくとは思えません。レカネマブについては米国正式承認直後の2023年7月、本連載の「第169回 深刻なドラッグ・ラグ問題が起こるかも?アルツハイマー病治療薬・レカネマブ、米国正式承認のインパクト」で、「日本承認後に待ち受ける2つの高いハードル」について次のように指摘しました。「一つは検査体制です。使用にはAβ病理所見の確認が必要で、そのためのPET検査または脳脊髄液検査を行わなければなりません。ARIAなどの副作用のチェックにも定期的なMRI検査が必要なため、処方できる医療機関は当面は相当限られそうです。もう一つは薬価です。米国で年間約370万円の薬価が付いたということは、日本の薬価も年間300万円前後になると予想されます。国内の認知症患者数は2025年には約730万人になると推定されており、アルツハイマー病の早期患者とMCI患者に限っても、レカネマブの対象になる患者は相当な数になると考えられます。根本治療薬ではなく、単に進行を遅らせるだけの薬剤に年間300万円も使う必要があるのか……。医療財政の面からも使用に関して何らかの制約が出てくる可能性もあります」。アルツハイマー病の患者全体の中でレカネマブを処方されているのは1%程度?少なくとも薬価については今回15%下げとなる見通しで、このハードルは少しは下がりますが、一つめの「検査体制」という高いハードルはそのままです。2023年9月に日本で正式承認されたレカネマブは、同年12月20日から保険適用で処方が開始されました。2025年現在、国内でレカネマブを投与できる医療機関は600ヵ所以上に拡大しています。しかし、2024年度末時点で処方されたのは約7,000人、2025年5月末時点で約9,000人と推計されています。エーザイの当初の販売予測によれば、日本国内でのピークは年間投与患者数3万2,000人程度とされており、これは想定される適応患者(アルツハイマー病による軽度認知障害~軽度認知症)の約2~3%にあたります。現状、1万人以下ということは、アルツハイマー病の患者全体の中でレカネマブを処方されているのは1%程度(もしくは以下)ということになります。これまで2つのハードルが存在していたにもかかわらず、「レカネマブを使わせろ!」という患者や家族からの強い要望が聞こえてこなかったのは、「進行を遅らせる」という効果が患者や家族にとって見えづらく、「すごく効く」という評判も広がりにくかったからかもしれません。そして、「使ってほしい」という患者や家族からの強い要望がなければ、医療機関側も煩雑で人手も時間もかかる検査をしてまでレカネマブを使おう、とはなりません。認知症の高齢者を雇用する愛知県岡崎市の沖縄そば店というわけで、「進行を遅らせる」というレカネマブをはじめとする抗アミロイドβ抗体薬は、これからも市場拡大に関して苦戦するかもしれません。そんなことを考えていたら、中央社会保険医療協議会・総会の翌週、7月15日放送のNHKの「クローズアップ現代」で、面白い話題を取り上げていました。「認知症新時代 広がる“自分らしく”働く場」と題されたこの回の「クローズアップ現代」は、認知症の高齢者を雇用する愛知県岡崎市の沖縄そば店、認知症の高齢者に介護サービスの一環で”働く場”を提供する千葉県船橋市のコーヒーチェーン店などが紹介されていました。政府は、認知症になっても希望を持って生きられる社会を実現するという「新しい認知症観」に立った取り組みを推進するための基本計画を2024年12月に閣議決定しています。その最新の取り組みが同番組では紹介されていました。とくに興味深かったのは、介護事業所を経営する介護福祉士が開いた沖縄そば店です。働いているのは3人の認知症の高齢女性で、ランチタイムの3時間、接客や配膳、洗い物などを担当し、時給は1,080円です。接客のマニュアルはなく、店は従業員が認知症であることを隠していませんでした。注文を忘れたり、箸やコップの数を間違えたりすることは多々ありますが、開店して6年余り、大きなトラブルは起きていないそうです。「『やりたいようにやってもらう』というのがいちばんのポイント」と店長この店の店長は、長年認知症の介護に携わってきた経験から、当事者がどうすれば生き生きと暮らせるのかを模索、「認知症になったら何もできなくなる」というイメージを払拭するためにこの店を開いたとのことです。認知症の人を雇う秘訣として、「先回りをして何か援助をしちゃうよりは、とりあえず自分のできることをやってもらって、『やりたいようにやってもらう』というのがいちばんのポイント」と店長が話していたのが印象的でした。認知症の人に安心できる適切な環境を提供し、やりがい、働きがいを感じてもらうことでBPSD(認知症における精神症状や行動上の問題)も軽減され、家族の負担も軽減される、とはよく知られたことですが、番組はまさにその実践の場のレポートとなっていました。番組ではその他に、認知症のある人にも暮らしやすい町を目指す福岡市のさまざまな取り組みも紹介されました。スタジオには認知症の当事者、認知症の人の社会参加に詳しい専門家(堀田 聰子・慶應義塾大学大学院教授)が呼ばれており、医師はいませんでした。認知症の予防には多因子介入プログラム番組で堀田氏は「認知症はそもそも機能が低下したらではなくて、暮らしにくさが出てきた状態なので、脳の機能が低下しても困らない町、社会環境を作っていけばいいわけなんです」と語っていました。認知症を病気とは捉えず、あくまでも老化、エイジングと考えて、そうした人たちが生活しやすいよう環境を整えていくほうが、1人の患者に何百万円もかかる薬を飲ませるだけよりも、よほど効果と意味があることではないでしょうか。また、認知症の予防にしても、MCI(軽度認知障害)の人に薬を飲ませるだけよりも、フィンランドのFINGER研究や日本のJ-MINT研究などで証明されている、生活習慣病の管理、運動指導、栄養指導、認知トレーニングなどを含む多因子介入プログラムを積極的に展開していくほうがより効果的かつ経済的で、認知症予備軍の人の生活の充実にもつながるでしょう。「アミロイドカスケード仮説」に基づいて認知症の薬剤は続々開発中アルツハイマー病に対する抗Aβ抗体薬の承認はその後も続き、2024年7月には米イーライリリー・アンド・カンパニーのドナネマブが米国で正式承認を取得、9月には日本でも正式承認されています。最近ではアルツハイマー病の発症には、Aβ蓄積に続いて起こるタウの異常リン酸化こそが神経細胞障害や神経変性の大きな要因とも考えられるようになっており、抗タウ抗体の薬剤開発も進められています。世界はまだ「アミロイドカスケード仮説」に基づいて認知症の薬剤を続々開発しているわけですが、「クローズアップ現代」が映し出した笑顔で接客するおばあさんたちを観て、「認知症を薬で治す」は本当に正しいのだろうか、と改めて考えてしまった次第です。

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「たった一人」のNPが現場を変える!日本の循環器病院における成果【論文から学ぶ看護の新常識】第26回

「たった一人」のNPが現場を変える!日本の循環器病院における成果国内の循環器病院で行われた調査で、たった一人のナースプラクティショナー(NP:診療看護師)の介入が、入院期間の短縮や医療費の削減といった、具体的な成果に繋がったことが報告された。鈴木 美穂氏らの研究で、Journal of the American Association of Nurse Practitioners誌2024年11月1日号に掲載された。日本の循環器病院におけるナースプラクティショナー雇用前後の医療アウトカムの比較:後ろ向きカルテ調査研究チームは、日本の循環器病院において、NPを雇用する前(2019年)と後(2021年)の医療アウトカムを比較することを目的に、後ろ向きカルテ調査を実施した。A病院(心臓手術部門にNP1名)で心臓手術を受けた患者114例と、B病院(ペースメーカーデバイス部門にNP1名)でペースメーカー植込み/交換術を受けた患者381例を分析した。NPは外科的手術の補助および術後管理を提供した。主な結果は以下の通り。A病院NP雇用後は、雇用前と比較して、以下の項目で中央値が有意に短縮した。入院期間:16.0日(95%信頼区間[CI]:13.0~22.5)vs. 19.0日(95%CI:17.0~25.0)、p=0.02気管挿管期間:1.0日(95%CI:0.0~1.0)vs. 1.0日(95%CI:1.0~1.0)、p=0.01B病院NP雇用後は雇用前と比較して、診療報酬が有意に低く、処置時間の中央値も有意に短縮した。診療報酬:138万8,711.5円vs. 162万5,532.0円、p論文はこちらSuzuki M, et al. J Am Assoc Nurse Pract. 2024;36(11):629-636

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降圧薬の種類と心血管リスク、ARB vs.CCB vs.利尿薬vs.β遮断薬

 血圧が良好にコントロールされている高齢高血圧患者において、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)およびカルシウム拮抗薬(CCB)の長期使用は、サイアザイド系利尿薬やβ遮断薬と比較して、心血管イベントの複合アウトカムに対してより大きなベネフィットをもたらす可能性が示唆された。中国・北京協和医学院のXinyi Peng氏らは、STEP試験の事後解析として、ARB、CCB、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬という4つの降圧薬クラスに焦点を当て、それらの長期投与と心血管リスクの関連について評価した。BMC Medicine誌2025年7月1日号掲載の報告より。 本研究は、脳卒中の既往のない60~80歳の中国人高血圧患者を対象としたSTEP試験のデータを用いて実施された。追跡不能となった234例および無作為化後に血圧記録が得られなかった20例を除外し、最終的に8,257例が解析対象となった。各降圧薬クラスについて、相対的曝露期間(薬剤投与期間/イベント発生までの期間)を算出した。 主要アウトカムは、脳卒中の初回発症、急性冠症候群(ACS)、急性非代償性心不全、冠動脈血行再建術、心房細動、心血管死の複合とされた。副次アウトカムは、これら主要アウトカムの各構成要素であった。各アウトカムに対するハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は、Cox回帰分析により算出した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値3.34年において、主要アウトカム解析の結果、ARBまたはCCBへの相対的曝露期間が長いほど、心血管複合リスクが有意に低下することが明らかになった。・ARBへの相対的曝露期間が1単位増加するごとに、主要アウトカムのリスクは45%低下した(HR:0.55、95%CI:0.43~0.70)。CCBへの曝露においてはリスクが30%低下した(HR:0.70、95%CI:0.54~0.92)。・利尿薬は中間的な結果を示した(HR:1.02、95%CI:0.66~1.56)。・一方で、β遮断薬の相対的曝露期間が長いほど、主要アウトカムのリスクは有意に上昇した(HR:2.20、95%CI:1.81~2.68)。・副次アウトカムに関しては、ARBおよびCCBの相対的曝露期間が長いほど、全死亡および心血管死のリスクが有意に低下していた。さらにARBの相対的曝露期間の長さは、脳卒中、ACS、主要心血管イベント(MACE)のリスク低下と関連していた。・相対的曝露期間の1単位増加当たりのHRは、主要アウトカム、MACE、脳卒中のいずれにおいても、ARBがCCBより一貫して低く(いずれもp<0.05)、より大きなベネフィットを示した。 著者らは、「本事後解析の結果は、ARBおよびCCBの長期投与が、利尿薬およびβ遮断薬と比較して、高齢の高血圧患者における複数の心血管イベントについて良好な予後と関連する可能性を示唆した。さらに、ARBはCCBよりも大きな心血管ベネフィットをもたらすことが推察された」とまとめている。一方、β遮断薬の長期投与が心血管リスクの上昇と関連を示したことについては、医学的適応による選択バイアスを反映している可能性があるとしている。

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オランザピンの制吐薬としての普及率は?ガイドライン発刊後の状況を聞く

 『制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂第3版』が発刊され、約2年が経過しようとしている。改訂による大きな変更点の一つは、“高度催吐性リスク抗がん薬に対するオランザピン5mgの使用を強く推奨する“ことであったが、今現在での医師や医療者への改訂点の普及率はどの程度だろうか。前回の取材に応じた青儀 健二郎氏(四国がんセンター乳腺外科 臨床研究推進部長)が、日本治療学会のWebアンケート調査「初回調査結果報告書」とケアネットがCareNet.com医師会員を対象に行ったアンケート「ガイドライン発刊から6ヵ月が経過した現在の制吐薬の使用状況について」を踏まえ、実臨床での実態や適正使用の普及に対する課題を語った。 なお、日本治療学会は『制吐薬適正使用ガイドライン』普及率に関するWebアンケート調査(第2回)』を現在実施しており、医師・看護師・薬剤師の方々からのアンケート回答を募集している(回答期間は2025年8月22日まで)。発刊6ヵ月後にはオランザピン処方の意義浸透か ガイドライン発刊直前に行われた日本治療学会による初回調査は、制吐療法の情報均てん化などの検討を考慮するため、論文等で公表されているエビデンスと実診療の乖離(Evidence-Practice Gap:EPG)の程度、職種、診療科、所属施設ごとの結果を解析した。その調査とケアネットが独自で行った調査を比較し、青儀氏は「乳がん治療での制吐薬処方に関し、われわれの初回調査ではFECでの4剤の処方率は16.8%だった。ガイドライン発刊から半年後の(CareNet.com)調査では、90%以上(該当レジメンを使用する全員に処方している:44%、患者背景を考慮して処方している:50%)であることが明らかとなり、オランザピンを推奨する意義が結果となってみられた印象」と話した。全体的にオランザピン処方の際に患者背景を考慮して処方していると回答した割合が多かった理由について、同氏は「糖尿病や耐糖能異常に加え、ふらつきのリスクを有する、睡眠薬を服用中の患者に処方しづいからではないか」とコメントした。患者の吐き気への不安と医師の処方不安、優先順位を間違えてはいけない オランザピンが向精神薬の位置付けで使用される薬剤であることが処方を慎重にさせる要因と考えられるが、実際に処方医が感じる不安は「糖尿病に禁忌」「耐糖能異常」に対してであることが今回の調査から明らかになった。これについて同氏は、「すでに制吐薬としてステロイドを処方している患者はステロイドによる耐糖能異常リスクを有している。また、オランザピンが推奨される以前より化学療法中の耐糖能異常に対するフォロー不足は問題視されていたので、このフォロー体制をしっかり構築したうえで、オランザピン投与を行ってほしい」とコメント。「オランザピンの制吐薬としての有用性の理解が進めばこの問題はクリアできるのではないか」と有害事象の発生を観察、コントロールしながら使用する価値について説明した。ただし、禁忌とされる糖尿病患者への対応については、従来の3剤併用療法を行うことがガイドラインに示されている(CQ1「高度催吐性リスク抗がん薬の悪心・嘔吐予防として、3剤併用療法[5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+デキサメタゾン]へのオランザピンの追加・併用は推奨されるか?」参照)。 また、実臨床で多く経験する傾眠への具体的な対応策として、「推奨は5mgではあるが、今後、各施設での使用経験や研究などを基に日本人に適切な投与量を決定していきたい。たとえば、当院ではオランザピン5mgを処方する際、調節できるように2.5mg×2錠で処方している。薬剤師と相談し、副作用を回避しつつ制吐に対する効果が得られるのであれば、2.5mgで処方している」と述べた。適切な制吐薬治療の普及に必要なツール 学会側の調査項目の1つである患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:PRO)の利用状況や頻度については、「PROについてはまだまだ開発途上。臨床研究などでPROを活用して有害事象を拾い上げることについては広がりつつある。さまざまなPROが出てきていることからも、今後の臨床研究に欠かせないツールになっていくことは間違いないだろう。患者の情報が一つひとつアップデートされて入ってくることが重要なポイント」と述べた。その一方で、PROには紙媒体のものとネット環境が必要なものがあるが、後者はセキュリティー問題やコスト面の影響がある。「紙媒体での評価にも十分な有用性が示されている。当院ではICI投与患者の免疫関連副作用(immune-related Adverse Events:irAE)に関する評価ツールを導入しているが、ネット導入のハードルが高いことから紙媒体で実施している」と述べ、「現状、PROが限られた施設や学会でしか利用されていないため、抗がん剤全般での利用を広めていくことが次の課題」と説明し、まずは紙媒体で評価を進めていくことを推奨した。 最後に同氏は「制吐療法については、単に処方薬を増やすことが良いとは考えていない。次回の改訂までに綿密な使い分けができるようなエビデンスが出てくるのではないか」と締めくくった。<日本治療学会アンケート概要>調査内容:発刊直前と発刊1年後に同じ項目のアンケートを実施することで、ガイドラインによる診療動向の変化を調査実施期間:2023年10月2~18日調査方法:インターネット対象:日本治療学会ほか、各学会(日本臨床腫瘍学会、日本サイコオンコロジー学会、日本がんサポーティブケア学会、日本放射線腫瘍学会、日本医療薬学会、日本がん看護学会)所属の1,276人《CareNet.comアンケート概要》調査内容:ガイドライン発刊から6ヵ月経過時点の制吐薬の使用状況について実施期間:2024年5月23~29日調査方法:インターネット対象:20床以上の施設に所属するケアネット会員医師206人(乳腺外科:50人、血液内科:50人、呼吸器科:52人、消化器科:36人、外科:18人)

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錐体外路症状の早期発生は予後不良の予測因子か

 抗精神病薬未治療または短期間の治療(準未治療)しかされていない初回エピソード統合失調症患者では、錐体外路症状(EPS)が主な病態として発現する可能性がある。スペイン・Universidad ComplutenseのJoaquin Galvan氏らは、未治療および準未治療の初回エピソード統合失調スペクトラム症におけるEPSの有病率、ベースラインにおける人口統計学的および臨床的相関、フォローアップ期間中の臨床アウトカムとの関連を解析した。European Neuropsychopharmacology誌オンライン版2025年7月12日号の報告。 OPTiMiSE第1相試験のデータ(対象:481例、年齢範囲:18〜40歳)を解析した。・EPSの定義は、スカンジナビア精神薬理学会の臨床試験委員会(UKU)の神経学的副作用サブスケールスコア1以上とした。ベースラインEPSの有無で層別化し、人口統計学的、臨床的、機能的指標で比較した。ベースラインEPSとフォローアップ時の臨床アウトカムとの関連を分析するため、ロジスティック回帰モデルおよび線形回帰モデルを用いた。 主な内容は以下のとおり。・ベースラインにおけるEPS有病率は30%、男性よりも女性で多くみられた。・抗精神病薬未治療群と準未治療群との間に差は認められなかった。・EPSを有する患者は、ベースライン時に抑うつ症状および自殺傾向がより多くみられた。・完全調整モデルでは、ベースライン時のEPSとフォローアップ時の抑うつ症状、陽性症状、陰性症状、総合精神病理症状の重症度、自殺傾向の増加、ウェルビーイングの低下、機能性低下との関連が示唆された。 著者らは「本結果は、EPSは統合失調症の主要な所見であることを支持するものであり、早期(抗精神病薬未治療または準未治療)のEPS発現は、臨床予後がより不良なサブグループを表している可能性が示唆された。EPSは、アウトカム不良の早期マーカーとして機能し、初回エピソード統合失調スペクトラム症に対する標的介入の指針となる可能性がある」とまとめている。

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乳児期の保湿剤使用でアトピー性皮膚炎の発症率低下、非高リスク集団ほど

 リスクに基づく選別を行っていない乳児集団における、アトピー性皮膚炎の1次予防を目的とした保湿剤(emollient)による介入を評価した研究はほとんどない。今回、リスクに基づく選別のない米国の代表的な乳児集団において、生後9週未満から毎日保湿剤を全身に塗布することで、生後24ヵ月時点におけるアトピー性皮膚炎の累積発症率が低下することが示された。米国・Oregon Health & Science UniversityのEric L Simpson氏らによるJAMA Dermatology誌オンライン版2025年7月23日号掲載の報告。 研究者らは、米国の4州におけるプライマリケア診療ネットワーク(practice-based research networks)に属する25の小児科・家庭医診療所から、1,247組の乳児と保護者を対象に、プラグマティック無作為化分散型臨床試験を実施した。参加者の募集は2018年7月~2021年2月に行い、追跡調査は2023年2月までに完了した。 乳児と保護者のペアは、1)生後9週目未満までに毎日の全身への保湿剤塗布を開始した保湿剤使用群、あるいは2)保湿剤の塗布を控える対照群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、生後24ヵ月までに患者の診療記録に記載された医師診断によるアトピー性皮膚炎の発症。参加者は3ヵ月ごとに電子アンケートに回答し、有害事象の報告やアトピー性皮膚炎診断の有無を研究チームに通知した。訓練を受けた研究コーディネーターが、参加者の診療記録から情報を抽出した。 主な結果は以下のとおり。・1,247人の乳児のうち、553人(44.3%)が女児で、無作為化時の平均(SD)日齢は23.9日(16.3)であった。・24ヵ月時点でのアトピー性皮膚炎の累積発症率(SE)は、保湿剤使用群で36.1%(2.1)、対照群で43.0%(2.1)であり、相対リスク(RR)は0.84(95%信頼区間[CI]:0.73~0.97、p=0.02)であった。また、アトピー性皮膚炎の非高リスク集団では、より高い効果がみられた(RR:0.75、95%CI:0.60~0.90、p=0.01)。・また、家庭内に犬がいる場合には保護効果が有意に増強された(RR:0.68、95%CI:0.50~0.90、p=0.01)。・皮膚に関連する有害事象の発生率に群間差は認められなかった。

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ファイザー・ビオンテック、LP.8.1対応コロナワクチンの承認取得

 ファイザーおよびビオンテックは8月8日付のプレスリリースにて、オミクロン株JN.1系統の変異株であるLP.8.1に対応した新型コロナウイルスワクチンについて、8月7日に厚生労働省より製造販売承認を取得したことを発表した。承認されたのは「コミナティ筋注シリンジ12歳以上用」「コミナティRTU筋注5~11歳用1人用」「コミナティ筋注6ヵ月~4歳用3人用」の3製品。これらのワクチンは2025~26年秋冬シーズンで使用される予定。 今回の承認は、両社が開発した新型コロナワクチンの安全性と有効性を示した臨床、非臨床およびリアルワールドデータを含むさまざまなエビデンスに基づいている。申請データには、品質に係るデータに加え、LP.8.1対応ワクチンが、XFG、NB.1.8.1、LF.7、および現在流行している他の変異株に対し、昨年度のJN.1対応ワクチンより優れた免疫反応を示した非臨床試験データなどが含まれている。 また、ワクチンの抗原株の変更と合わせて、以下の承認事項も変更された。・有効期間の延長:冷蔵(2~8℃)において8ヵ月から12ヵ月へ延長・包装単位の追加:1シリンジ包装に加え、5シリンジ包装を追加

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冠動脈疾患への抗血栓療法、アウトカムに性差はあるか/BMJ

 冠動脈疾患の女性患者は、心血管リスクが男性患者に比べて高いにもかかわらず、いわゆる抗血栓療法への反応の違いを理由に、薬物療法やインターベンションを受ける機会が男性患者より少ないという。ジェンダーに基づくアウトカムに関する無作為化試験のデータは十分でないため、心血管治療における男女間の格差が今後も広がる可能性が指摘されている。イタリア・University of Naples Federico IIのRaffaele Piccolo氏らは、冠動脈疾患に対する抗血栓療法において、全死因死亡や心筋梗塞の発生、大出血のリスクに性差はないことを示した。研究の成果は、BMJ誌2025年7月29日号で報告された。有効性と安全性の性差の存在をメタ解析で評価 研究グループは、冠動脈疾患を有する患者における抗血栓療法(抗血小板薬、抗凝固薬)の有効性と安全性に性差が存在するかを評価する目的で系統的レビューとメタ解析を行った(イタリア教育省の助成を受けた)。 2025年4月の時点で、医学関連データベースに登録された文献を検索した。冠動脈疾患患者において抗血栓療法の比較を行い、性別に基づくアウトカム(虚血イベント、大出血イベントなど)の記述がある無作為化対照比較試験を対象とした。 主要アウトカムは、全死因死亡、心筋梗塞、大出血(BARC基準のタイプ3または5)とした。抗血栓療法のレジメンを、高強度と低強度に分類(未分画ヘパリン±GP IIb/IIIa阻害薬vs.bivalirudin、抗凝固薬vs.プラセボ、静注P2Y12受容体阻害薬vs.クロピドグレル、長期DAPT vs.短期DAPTなど)して解析した。死亡、心筋梗塞に性別関連の異質性はない 1999~2025年に33件の試験に登録された27万4,433例を解析の対象とした。13万1,014例(52.4%)が高強度、11万9,189例(47.6%)が低強度の抗血栓療法に割り付けられた。7万2,601例が女性で、33試験の女性の比率中央値は25%(四分位範囲[IQR]:22~30.7)であった。全体の年齢中央値は64.5歳(IQR:62~67)だった。 22試験の参加者18万7,580例のうち6,018例が死亡した(高強度群3,064例、低強度群2,954例)。男性患者では、低強度群に比べ高強度群で全死因死亡のリスクがわずかに低かった(ハザード比[HR]:0.94[95%信頼区間[CI]:0.88~1.00]、p=0.05)が、女性患者ではこのような差はなかった(0.99[0.90~1.09]、p=0.90)。全体として、死亡の発生に関して性別に関連した異質性は認めなかった(交互作用のHR:1.06[95%CI:0.94~1.19]、pinteraction=0.33、I2=0.00%、pheterogeneity=0.76)。 心筋梗塞は、21試験の17万2,504例で7,558件発生した。男性患者では、低強度群に比べ高強度群で心筋梗塞のリスクが低く(HR:0.85[95%CI:0.80~0.90]、p<0.001)、女性患者でも有意に低かった(0.89[0.82~0.97]、p=0.01)。全体として、心筋梗塞の発生に関して性別に関連した異質性はみられなかった(交互作用のHR:1.05[95%CI:0.95~1.17]、pinteraction=0.36、I2=14.05%、pheterogeneity=0.28)。性別に依拠しない選択を 大出血は、28試験の24万4,179例で4,003件発現した(高強度群2,384件、低強度群1,619件)。男性患者では、低強度群に比べ高強度群で大出血のリスクが高く(HR:1.48[95%CI:1.37~1.60]、p<0.001)、女性患者でも有意に高かった(1.47[1.30~1.66]、p<0.001)。全体として、大出血のリスクに関して性別に関連した異質性はなかった(交互作用のHR:0.99[0.86~1.15]、pinteraction=0.93、I2=33.56%、pheterogeneity=0.05)。 著者は、「これらのデータは、虚血保護効果と出血リスクの程度は男女間でほぼ同じであると示唆している」「本研究の知見は、冠動脈疾患患者における抗血栓療法の選択は性別に依拠して行うべきではないとの考え方を裏付けるものである」「女性患者における抗血栓療法戦略の最適化に向けたさらなる研究の必要性が浮き彫りとなった」としている。

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免疫不全状態の皮膚扁平上皮がん患者、β-HPVが発がんに直接関与か/NEJM

 米国国立衛生研究所(NIH)・国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のPeiying Ye氏らの研究チームは、ZAP70遺伝子に病的な変異を認め、β-ヒトパピローマウイルス(β-HPV)のゲノム組み込みを伴い、再発を繰り返す切除不能な浸潤性皮膚扁平上皮がん(SCC)を含む、良性および悪性のHPV関連疾患を呈する34歳の女性患者について報告した。本研究はNIHの助成を受けて行われ、NEJM誌2025年7月31日号に掲載された。ZAP70変異による免疫不全と、β-HPV19のゲノム組み込みを伴う 皮膚SCCは、皮膚がんの中で最も一般的なもので、主に紫外線による体細胞DNA変異が原因で、がん遺伝子の活性化と腫瘍抑制遺伝子の機能不全が引き起こされて発生する。β-HPVはこれまで、皮膚SCCの維持に不可欠ではなく、初期段階における単なる促進因子として間接的な役割を果たすと考えられてきた。 本症例(34歳、女性)は、クリプトコッカス髄膜炎と神経眼科的病変の既往歴があり、皮膚および粘膜のHPV関連疾患が進行性に悪化し、口腔コンジローマ、びまん性の疣状病変を認め、日光曝露皮膚表面の、生検で確認された43ヵ所の病変または部位に、多発性再発性皮膚SCCを呈していた。 また、T細胞受容体(TCR)のシグナル伝達に必須のアダプター分子であるZAP70に、生殖細胞系列の病原性の遺伝子変異がみられ、これに起因するTCRシグナル伝達の欠損による免疫不全状態を確認した。さらに、この浸潤性で切除不能な高リスクの皮膚SCCは、β-HPV19のゲノム組み込みを伴っていた。基盤にあるTCRシグナル伝達欠損のため根治的治療に抵抗性を示したため、遠隔転移がないことを確認したうえで、統合的な管理計画を立案した。HLA半合致造血幹細胞移植でTCRシグナル伝達の完全性が回復 治療は、セツキシマブ+5-フルオロウラシル+シスプラチン併用療法に続き、皮膚SCCの予防としてカペシタビン+ニコチンアミドを投与し、根本的な免疫不全の治療としてHLA半合致造血幹細胞移植(HCT)を行った。この治療過程において臨床的な合併症は発生しなかった。 HCTによりTCRシグナル伝達の完全性が回復し、すべてのHPV関連皮膚疾患が安定的に解消した。この良好な状態は、最新のフォローアップの時点(HCT後35ヵ月)まで維持されていた。 これらの知見により、T細胞の適応免疫応答が不完全な免疫不全状態においては、β-HPVは単なる補助的な因子ではなく、皮膚の発がんに直接関与していることが示唆された。 著者は、「本研究は、腫瘍の維持におけるβ-HPVの関与を直接的に証明した。HCTによるTCRの機能回復が進行性SCCの根治をもたらした例はきわめてまれである」「今後、β-HPV関連SCC患者に対する免疫療法の検討と共に、TCRシグナル解析によるSCCの進行リスクの評価や、HPV特異的T細胞応答を標的とした治療戦略の開発が進むと考えられる」としている。

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ワクチンがないチクングニア熱の診療

ワクチンがないチクングニア熱の症状と治療●原因と感染経路チクングニア熱とは、チクングニアウイルスを持った蚊(ネッタイシマカ・ヒトスジシマカ)に刺されることで生じる感染症。病源体は、図のチクングニアウイルス(Chikungunya virus)。チクングニアウイルスを持っている蚊に刺されることによって感染が成立し、ヒトからヒトに直接感染することはない。●症状蚊に刺されてから3~12日の潜伏期後、「発熱」「発しん」「関節痛」などが出現。急性症状が軽快した後も、数週間~数年にわたり、リウマチに似た関節痛や腫脹、圧痛が続くことがある。●治療症状に応じた対症療法が行われ、関節痛・関節炎の程度に応じて解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)が使用される。現在有効なワクチンはない。●予防のポイントチクングニア熱の流行する地域(たとえばセネガル、インドネシア、タイ、べトナム、中国など)に渡航する際、蚊に刺されないような衣服の着用や虫除けなどの工夫が重要。国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト チクングニア熱より引用(2025年8月6日閲覧)https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/chikungunya/010/chikungunya-intro.htmlCopyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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「運」も実力のうち? 先生の人生を変える資産形成、その秘訣を解き明かす【医師のためのお金の話】第95回

世の中で成功を収めるには、「運」が不可欠だと感じています。どれほど努力を重ねても、運に見放されては大きな成功をつかむことは難しいでしょう。では、どのようにすれば「運」を味方につけることができるのでしょうか。巷には、スピリチュアルなものから論理的なものまで、幸運を引き寄せるためのさまざまな方法論が紹介されています。そして、怪しげな物品販売からセミナーまで多種多彩なモノで溢れています。何だか気持ち悪いですね。しかし、ここで言う「運が良い」というのは、宝くじに当たるといった一時的な幸運や、その日のちょっとした良い出来事を指すのではありません。私が考える「運の良さ」とは、人生を大きく変えるような変化を捉える幸運のことです。そして、資産形成においても、運の良さは必須です。えっ、資産形成なんて努力を積み重ねるものじゃないの? という声もあるかもしれませんね。しかし、私の30年近い資産形成の経験では、転機になった多くの出来事は「運」の要素が強かったと思います。たしかに、私は運の良い人間ではありますが、その運の良さは決して偶然だけで片付けられるものではありません。ここでは、資産形成で成功するための「運」をどのようにつかむかという具体的な方法論を考えてみましょう。資産形成における「運」をつかむ3つの条件資産形成において「運が良い」と評される人は、次の3つの条件を満たしています。1.タネ銭(資産の元手)がある2.チャンスに気付ける3.即断即決してチャンスをつかめる1.前提条件:まず「タネ銭」を用意するまず、大前提として「タネ銭」、つまり投資の元手となる資金があることは必須です。何も持たない状態では、たとえ目の前に絶好のチャンスが訪れても、ただ指をくわえて見ているしかありません。たとえば、非常に魅力的な不動産物件情報が出たとします。それを購入できるのは、頭金を用意できる人、すなわちタネ銭のある人なのです。いくら幸運が舞い降りても、それを受け止める土台がなければ何も始まりません。2.チャンスを見極める「気付く力」次に、「チャンスに気付く能力」も非常に重要です。たとえば、株式市場が暴落している局面でも、それを危機と捉えるか、それとも大きなチャンスと捉えるかで行動は大きく異なります。もちろん、株価が暴落するのには何らかの理由がありますが、それが企業の本質的な価値を損なう原因でないのであれば、その時点での投資はまさにチャンスをつかむことにほかなりません。このような状況が本当にチャンスなのかどうかを見極める力がなければ、何もできずに終わってしまうでしょう。この「チャンスに気付ける能力」は、成功への道を切り開くうえで不可欠です。3.躊躇しない即断即決の実行力そして最後に、「チャンスを思い切ってつかむこと」もまた重要です。タネ銭もあり、それがチャンスだとわかっていても、実際に行動を起こさなければ意味がありません。このチャンスをつかみ取るには、一種の瞬発力が必要です。もちろん、それに伴う勇気も欠かせません。この「瞬発力」と「勇気」がなければ、最終的にチャンスをものにすることはできないのです。たとえば、直近で言えば2020年3月のコロナショック。あの状況で勇気をもって飛び込んだ人は大成功したことでしょう。成功への道は、決して不可能ではない成功へとつながるチャンスをつかむための3つの要素(タネ銭、気付く力、即断即決の実行力)を挙げました。これらすべてを兼ね備えるのは意外と難しいと感じられたかもしれません。しかし、決して不可能な話ではありません。世の中に成功者が少ないのは、これらの3つの要素をすべて持ち合わせている人が少ないことの裏返しとも言えます。しかし、事前にこの事実がわかっていれば、それぞれの能力を持つための対策を講じることも可能です。単に待っているだけでは、チャンスが訪れることはありません。成功するためには、それなりの下準備が必要です。次は、あなたがチャンスをつかむ番かもしれません。この3つの条件を意識して、ご自身の「運」を引き寄せてみてはいかがでしょうか。

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