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市中肺炎、ステロイドを検討すべき患者は?

 市中肺炎(CAP)は、過剰な炎症反応が死亡と関連することから、ステロイドの併用が有効である可能性が指摘されている。そこで、複数の無作為化比較試験(RCT)やシステマティックレビュー・メタ解析が実施されているが、ステロイドの併用による死亡率への影響については議論が続いている。そのような背景から、オランダ・エラスムス大学医療センターのJim M. Smit氏らの研究グループは、CAPによる入院患者を対象としたRCTの個別患者データ(IPD)を用いたメタ解析を実施し、ステロイドの併用の30日死亡率への影響を評価した。その結果、ステロイドの併用により30日死亡率が低下し、とくにCRP高値の患者集団で有用である可能性が示された。本研究結果は、Lancet Respiratory Medicine誌オンライン版2025年1月29日号に掲載された。 CAPにより入院した患者を対象に、ステロイド併用の有用性を検討した8つのRCTを抽出した。これらのRCTのIPDを用いてメタ解析を実施した。主要評価項目は30日死亡率とし、抗菌薬にステロイドを併用した群(ステロイド群)と抗菌薬にプラセボを併用した群(プラセボ群)を比較した。CRPや肺炎重症度(PSI)スコアなどによる治療効果の異質性も検討した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、8つのRCTの対象患者3,224例であった。・30日死亡率は、ステロイド群6.6%(106/1,618例)、プラセボ群8.7%(140/1,606例)であり、ステロイド群が有意に低かった(オッズ比[OR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.56~0.94)。・CRP 204mg/L以下の集団における30日死亡率は、ステロイド群13.0%(46/355例)、プラセボ群13.2%(49/370例)であり、両群間に差はみられなかった(OR:0.98、95%CI:0.63~1.50)。・CRP 204mg/L超の集団における30日死亡率は、ステロイド群6.1%(20/329例)、プラセボ群13.0%(39/301例)であり、ステロイド群が低かった(OR:0.43、95%CI:0.25~0.76)。・PSIスコア(クラスI~III vs.クラスIV/V)による治療効果の差はみられなかった。・ステロイド群では、高血糖の発現(OR:2.50、95%CI:1.63~3.83、p<0.0001)、再入院(OR:1.95、95%CI:1.24~3.07、p=0.0038)が多かった。 本研究結果について、著者らは「CAPによる入院患者において、CRP高値の場合はステロイドの併用を考慮すべきであることが示唆された」と考察した。

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家族に糖尿病患者がいるといない家族と比べ20倍の発症リスク/新潟大

 2型糖尿病の発症に家族歴が関係していることが知られているが、その発症や有病リスクはどのくらいになるのだろうか。この疑問に新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学分野の池田 和泉氏らの研究グループは、健康診断データ約4万例を解析し、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症の有病率および発症率を解析した。その結果、糖尿病有病リスクは、家族に糖尿病がまったくいない人の約20倍という結果が示された。この結果は、Mayo Clinic Proceedings誌オンライン版2025年1月29日号に掲載された。家族歴は糖尿病、脂質異常症、高血圧の発症に関連 研究グループは、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症の既往の家族歴(両親、兄弟姉妹、祖父母)と、同一集団におけるそれらの有病率および発症率との関連を検討するために1997年1月1日~2007年12月31日までに健康診断を受診した4万1,361例のデータを解析し、同一コホートにおけるロジスティック回帰分析およびCox回帰分析の結果を検討した。 主な結果は以下のとおり。・解析の結果、3疾患とも家族に既往者がいるほど有病率が増加し、とくに2型糖尿病は、罹患した親族の数が3人以上である場合のオッズ比(OR)が12.00(95%信頼区間[CI]:7.82~18.41)だった。・家族歴がない場合と比較し、3世代にわたる家族歴で既往がある場合のORは20.43(95%CI:11.0~37.8)だった。・家族歴を「両親、兄弟姉妹、祖父母」から「両親と兄弟姉妹」または「両親のみ」に再定義しても、各疾患のORに有意な変化はなかった。・家族歴で既往がありBMIが30以上の人では、家族歴がなくBMIが18.5~24.9の人と比較して、高血圧の有病率が19倍高かった。・縦断的研究において、家族歴は2型糖尿病(ハザード比[HR]:2.40、95%CI:1.93~2.98)、高血圧(HR:1.43、95%CI:1.26~1.62)、脂質異常症(HR:1.41、95%CI:1.08~1.83)の発症に強く影響した。 研究グループでは、以上の結果から「これらの疾患の家族歴の聴取は、高リスク群の同定に有用だった。また、2型糖尿病については、家族歴の既往の影響が最も強く、罹患家族の重複によってリスクが顕著に上昇した。家族歴が早期発見と予防に役立つことを示唆している」と述べている。

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混合性うつ病の精神運動興奮に対するトラゾドンIVの有効性

 精神運動興奮は、混合性うつ病の困難な症状であり、多くの場合、臨床アウトカムを悪化させ、治療を複雑化させる。イタリア・シエナ大学のPietro Carmellini氏らは、混合性うつ病患者を対象に、トラゾドン静脈内投与(IV)の有効性および忍容性を評価するため、レトロスペクティブ研究を実施した。International Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2025年1月13日号の報告。 対象は、混合性うつ病入院患者97例。症状重症度は、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)、ヤング躁病評価尺度(YMRS)、ハミルトン不安評価尺度(HAM-A)、7項目一般化不安障害質問票(GAD-7)、臨床全般印象度-重症度(CGI-S)を用いて評価した。 主な内容は以下のとおり。・治療初期において、興奮、不安、易怒性の有意な低減が観察された。・相関分析では、トラゾドンIVの投与量とMADRS(r=−0.23、p<0.05)、GAD-7の項目5(r=−0.27、p<0.001)、CGI-S(r=−0.22、p<0.05)のスコア改善との間に有意な負の相関が認められた。・治療期間においても、GAD-7の項目5(r=−0.29、p<0.001)、CGI-S(r=−0.27、p<0.001)のスコア改善と負の相関が認められ、これは治療期間が長くなると効果が低減する可能性を示している。・回帰分析では、投与量ではなく治療期間がGAD-7の項目5およびCGI-Sのスコア改善に有意な影響を及ぼすことが示唆された。・トラゾドンは、忍容性が良好であり、軽度の副作用が11.3%の患者でみられた。 著者らは「混合性うつ病の興奮および関連症状の低減に対するトラゾドンIV治療、とくに初期段階での治療が有効であることを示唆しており、併せて治療期間を最適化することの重要性が示された。今後の研究において、個別化された投与戦略や長期アウトカムを調査する必要がある」としている。

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移植不適応/移植延期の新規診断多発性骨髄腫、D-VRdがVRdより深い持続的なMRD反応(CEPHEUS)

 移植不適応の新規診断多発性骨髄腫(NDMM)患者または初期治療として移植予定のない(移植延期)患者を対象に、ダラツムマブ皮下投与+ボルテゾミブ+レナリドミド+ デキサメタゾン(D-VRd)をボルテゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン(VRd)と比較した無作為化第III相CEPHEUS試験において、D-VRdがより深い持続的な微小残存病変(MRD)反応をもたらすことが示された。米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのSaad Z. Usmani氏らがNature Medicine誌オンライン版2025年2月5日号に報告した。 本試験では、移植不適応または移植延期となったNDMM患者395例を、D-VRdを 8サイクル投与後D-Rdを進行するまで投与する群(D-VRd群)とVRdを8サイクル投与後Rdを進行するまで投与する群(VRd群)に無作為に割り付けた。主要評価項目は、次世代シークエンシングによる全MRD陰性率(閾値10-5)、主な副次的評価項目は、完全奏効(CR)以上の割合、無増悪生存期間、MRD陰性持続率(閾値10-5)であった。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値58.7ヵ月で、MRD陰性率はD-VRd群が60.9%、VRd群が39.4%であった(オッズ比:2.37、95%信頼区間[CI]:1.58~3.55、p<0.0001)。・CR以上の割合(81.2% vs.61.6%、p<0.0001)およびMRD陰性持続率(12ヵ月以上、48.7% vs.26.3%、p<0.0001)は、D-VRd群がVRd群より有意に高かった。・進行または死亡のリスクは、D-VRd群がVRd群より43%低かった(ハザード比:0.57、95%CI:0.41~0.79、p=0.0005)。・有害事象はダラツムマブおよびVRdの既知の安全性プロファイルと同様であった。 著者らは「本研究は、移植不適応または移植延期NDMMに対する新たな標準治療として4剤併用D-VRd療法を支持するもの」としている。

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緊急開腹術時の感染予防、局所陰圧閉鎖療法vs.ドレッシング/JAMA

 緊急開腹術を受けた成人患者の手術部位感染(SSI)の予防において、閉鎖創への外科医が選択した被覆材(ドレッシング)の使用と比較して局所陰圧閉鎖療法(iNPWT)(PICO 7、Smith & Nephew製)は、効果を改善せず、術後の入院期間や創傷関連合併症による再入院などにも差はないことが、オーストラリア・ニューカッスル大学のKristy Atherton氏らSUNRRISE Trial Study Groupが実施した「SUNRRISE試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年1月27日号に掲載された。2ヵ国の実践的な無作為化第III相試験 SUNRRISE試験は、皮膚の1次閉鎖を伴う緊急開腹術を受けた患者のSSI発生の予防におけるiNPWTの有効性の評価を目的とする、医師主導型の評価者をマスクした実践的な無作為化第III相試験であり、2018年12月~2021年5月に、英国の22の病院とオーストラリアの12病院で参加者を募集した(英国国立衛生研究所[NIHR]などの助成を受けた)。 英国は年齢16歳以上、オーストラリアは18歳以上で、受診した施設で5cm以上の切開を伴う緊急開腹術を受け、腹壁筋膜と皮膚の1次閉鎖を行った患者を対象とした。これらの患者を、iNPWTを受ける群、または外科医が選択した創傷被覆材を用いる群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは術後30日(手術日を0日目とした)までのSSIとし、無作為割り付けの情報をマスクされた評価者が、米国疾病予防管理センター(CDC)の基準を用いて評価した。per-protocol解析やサブグループ解析でも差はない 840例(英国536例、オーストラリア304例、平均年齢63.8歳[範囲:18.8~95.3]、女性52%)を登録した。無作為化後に同意の撤回などで52例が脱落し、残りの788例が主解析の対象となった(両群394例ずつ)。 術後30日までにSSIを発症した患者は、iNPWT群が394例中112例(28.4%)、外科医選択被覆材群は394例中108例(27.4%)であり、両群間に有意な差を認めなかった(相対リスク[RR]:1.03[95%信頼区間[CI]:0.83~1.28]、p=0.78)。 この所見は、per-protocol解析(RR:1.00[95%CI:0.80~1.25]、p=0.98)を含む事前に規定された種々の感度分析でも強固にみられ、汚染の程度、ストーマの有無、BMI、皮膚の前処置などのサブグループでも一致して認めた。 また、7つの副次アウトカムのうち、術後の入院期間、SF-12で評価した生活の質など6項目には両群間に有意な差はなかった。唯一、7日目の時点での手術部位の疼痛がiNPWT群で良好(p=0.01)だったが、差は小さく臨床的意義は不明だった。安全性の副次アウトカムである創傷関連合併症による再入院および術後30日以内の創傷合併症にも差はなかった。重篤または特異的な有害事象の頻度は同程度 496件の重篤な有害事象が報告され(iNPWT群237件、外科医選択被覆材群259件)、iNPWT群で411例中158例(38%)、外科医選択被覆材群で410例中165例(40%)に発生した(複数の重篤な有害事象の発症した患者を含む)。 腸管皮膚瘻(iNPWT群0/411例、外科医選択被覆材群1/410例)および皮膚有害反応(iNPWT群5/411例、外科医選択被覆材群2/410例)などの特異的な有害事象の頻度は両群間で同程度であった。術後30日以内の死亡率は3%で、iNPWT群で10例(2.4%)、外科医選択被覆材群では14例(3.4%)であった。 著者は、「本研究の知見は、緊急開腹術を受けた成人患者におけるSSIの抑制を目的としたiNPWTのルーチンの使用を支持しない」「この試験は、外科研修医(レジデント)が救急患者の特定、同意取得、無作為化を行うことで、従来は参加者の確保が困難であった緊急性の高い疾患の臨床試験への患者確保が可能であることを実証した」「これらの結果が、緊急開腹術を受ける集団全体に一般化できるか否かを検討することが重要だが、本試験は比較的健康状態が良好な患者を登録した可能性がある」としている。

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中等~重度の認知症、通常ケアvs.緩和ケア/JAMA

 中等度~重度の認知症患者には緩和ケアによる介入が必要とされる。米国・Regenstrief InstituteのGreg A. Sachs氏らは、IN-PEACE試験において、地域在住の中等度~重度の認知症患者とその介護者では、通常のケアと比較して緩和ケアを統合した認知症ケアの管理プログラムは、24ヵ月間を通して患者の神経精神症状を緩和せず、介護者の抑うつ状態や苦痛も改善しないことを示した。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年1月29日号で報告された。インディアナ州中部地域の無作為化臨床試験 IN-PEACE試験は、中等度~重度の認知症患者とその介護者における、緩和ケアを統合した認知症ケアの管理プログラムの有用性を評価する無作為化臨床試験であり、2019年3月~2020年12月に米国インディアナ州中部の2つの施設で参加者を登録した(米国国立老化研究所[NIA]の助成を受けた)。 電子健康記録(EHR)をスクリーニングして年齢65歳以上の中等度~重度の認知症患者を特定し、介護者が認知症の病期を含む適格性を確認した。介護者は年齢18歳以上で、患者の日常生活の支援を行う中心的な人物とした。患者と介護者を1組として、緩和ケア群または通常ケア群に無作為に割り付けた。 介入は、研修を受けた看護師またはソーシャルワーカーからの毎月の電話、および介護者による患者の神経精神症状、介護者自身の苦痛、緩和ケアの問題(たとえば、アドバンス・ケア・プランニング、症状、ホスピスなど)の管理を支援するエビデンスに基づくプロトコールで構成された。通常ケア群では、介護者は認知症に関するリソースとなる情報を受け取り、患者は臨床医による通常のケアを受けた。 主要アウトカムは、Neuropsychiatric Inventory Questionnaire(NPI-Q)の重症度スコア(0~36点、高点数ほど患者の症状が悪化していることを示す)とした。副次アウトカムは、患者のSymptom Management in End-of-Life Dementia(SM-EOLD)スコア(0~45点、高点数ほど9つの症状のコントロールが良好であることを示す)、介護者の抑うつ(Patient Health Questionnaire-8:PHQ-8)スコア(0~24点、高点数ほど抑うつ症状が多いことを示す)、介護者の苦痛(NPI-Q distress)スコア(0~60点、高点数ほど苦痛が大きいことを示す)、および救急診療部受診と入院の複合イベントであった。NPI-Q重症度スコアの経時的な変化率に差はない 患者(平均年齢83.6歳、女性67.7%)と介護者(60.5歳、81.1%)の201組を登録した。緩和ケア群が99組、通常ケア群が102組であった。患者の96%がFunctional Assessment Staging Tool(FAST)のステージが6または7(中等度~重度の認知症)であり、患者と介護者の40%以上がアフリカ系アメリカ人だった。試験期間中に3組が脱落し、83例の患者が死亡した。 NPI-Q重症度スコアの平均値は、ベースラインにおいて緩和ケア群9.92点、通常ケア群9.41点、24ヵ月後はそれぞれ9.15点および9.39点であり(24ヵ月時の群間差:-0.24[95%信頼区間[CI]:-2.33~1.84])、ベースラインからの経時的な変化率に群間差を認めなかった(群と時間の交互作用のp=0.87)。救急診療部受診と入院の複合イベントは緩和ケア群で良好 24ヵ月時の患者のSM-EOLDスコア(群間差:1.74[95%CI:-1.03~4.50])、介護者のPHQ-8スコア(-0.05[-1.46~1.36])、介護者のNPI-Q distressスコア(-0.87[-3.83~2.10])については、いずれも両群間に有意な差はなかった。一方、救急診療部受診と入院の複合イベントは、緩和ケア群で少なかった(1例当たりの平均イベント数:緩和ケア群1.06 vs.通常ケア群2.37、群間差:-1.31[95%CI:-1.93~-0.69]、相対リスク:0.45[95%CI:0.31~0.65])。 著者は、「救急診療部受診や入院の減少は大幅な費用削減につながる可能性があるが、これは本試験の目的ではなく、今後、さらに評価を進める必要があるだろう」「患者および介護者の症状や苦痛に関するアウトカムがいずれも改善しなかったことは予期せぬ所見であったが、主な原因としてベースライン時の症状および苦痛の負荷が比較的低かったために、これらの結果が改善される範囲が限定された可能性がある」としている。

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自己免疫性皮膚疾患は心臓病のリスク増加につながる

 一部の皮膚疾患患者は心臓病の早期スクリーニングを受ける必要があるかもしれない。米テキサス大学サウスウェスタン医療センター皮膚科のHenry Chen氏らの最新の研究によると、免疫システムが自己を攻撃する自己免疫性皮膚疾患患者では動脈硬化を発症するリスクが対象群と比べて72%増加することが、明らかになった。同氏らによる研究結果は、「JAMA Dermatology」に12月4日掲載された。 全身性エリテマトーデス(SLE)は全身に炎症を引き起こし、皮膚、関節、臓器に損傷を与える疾患である。米疾病対策センター(CDC)の報告によれば、米国にはSLE患者が約20万4,000人存在し、そのうちの少なくとも80%が皮膚症状を発症している。一方、皮膚のみに症状が現れることもあり、この病態は皮膚エリテマトーデス(CLE)と診断される。これまでに、SLEや乾癬のような自己免疫疾患の患者では、アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の発症リスクが高まることが報告されている。しかし、CLE患者では、メタボリックシンドロームやがんのリスクが高まることは報告されてはいるものの、ASCVDのリスクについてはこれまで検証されてこなかった。 この研究では、IBM MarketScan Commercial Claims and Encounters Databaseの2018年から2020年までの保険請求データが後ろ向きに解析された。具体的には、CLE患者群8,138人、SLE患者群2万4,675人、乾癬患者群19万2,577人を無病対照群8万1,380人と比較し、ASCVDの有病率および発症リスクを検証した。無病対照群はSLE、CLE、乾癬を発症していない人と定義し、年齢、性別、保険の種類などをCLE患者群とマッチングさせた。ASCVDは冠動脈疾患、心筋梗塞または脳血管障害の既往と定義。ASCVDの有病率と発症リスクの比較には、多変量ロジスティック回帰分析とCox比例ハザードモデルが用いられた。 多変量ロジスティック回帰分析によるASCVDの有病率は、無病対照群と比較してCLE患者群で72%(オッズ比1.72、95%信頼区間1.45~2.02)、SLE患者群で141%(同2.41、2.14~2.70)有意に高くなっていた(いずれもP<0.001)。 Cox比例ハザードモデルによるASCVDの発症リスクは、無病対照群と比較してSLE患者群(ハザード比2.23、95%信頼区間2.05~2.43)、CLE患者群(同1.32、1.13~1.55)で、有意な増加が認められた(いずれもP<0.001)。一方、乾癬患者群(同1.06、0.99~1.13)では統計学的有意性は認められなかった。 これらの結果を受けて研究グループは、「SLEやCLEはASCVDのリスク増加と関連しており、これらの患者の担当医には、適切なスクリーニング検査の実施と専門医への紹介が求められる可能性がある。また担当医は、心臓によい生活習慣(健康的な食事、適度な運動、喫煙の見直しなど)の重要性について患者にアドバイスを行う必要があるのではないか」と述べている。また、「これらの患者には、血圧とコレステロールの定期的なモニタリング、迅速な治療が必要になるかもしれない。喫煙を始めとしたASCVDのリスク因子についても今後の検証が必要である」と付言している。

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高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)のヒト感染(解説:寺田教彦氏)

 本報告では、2024年3月から10月に米国で確認された高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)のヒト感染例46症例の特徴が記されている。概要は「鳥インフルエンザA(H5N1)、ヒト感染例の特徴/NEJM」に記載のとおりである。 高病原性鳥インフルエンザ(Highly pathogenic avian influenza:HPAI)ウイルスA(H5N1)は、香港における生鳥市場を介したヒト感染例が1997年に報告されて以降、渡り鳥により世界中に広がり、世界24ヵ国で900例以上の報告がある。かつては、HPAIV(H5N1)はヒトや哺乳類には感染しにくく、ヒトヒト感染はまれだが、ヒトの感染例では重症化することがあり、死亡率も高い(約50%)と考えられていた。しかし、2003年ごろから哺乳類の感染事例が報告され、2024年3月下旬に米国の酪農場でヤギや乳牛で感染事例が報告されて以降は、米国内の複数州から乳牛の感染事例の報告が相次いでいた。 本ケースシリーズは、米国内において乳牛のHPAIV(H5N1)の報告がされた3月から10月にかけての感染リスクや臨床症状・経過や採取検体とその陽性率等のデータがまとめられている。 まず、今回のケースシリーズでは、ヒトヒト感染を確認した症例はなく、今のところHPAIV(H5N1)のヒトヒト感染のリスクは低そうである。 次に、検出された遺伝子型を確認する。遺伝子型の違いによるウイルス性状の違いは現時点で判明していないが、過去の報告では、野鳥や家禽に関連するHPAIV(H5N1)の遺伝子型はほとんどがD1.1で、牛に関連するHPAIV(H5N1)の遺伝子型はB3.13が多かった。今回の報告では、遺伝子型が調査されたうち、ほとんどがB3.13で家禽に曝露した4例のみがD1.1だった。 臨床像では93%が結膜炎を呈し、発熱は49%、気道症状(咳嗽、咽頭痛、息切れ)は36%でみられた。重症度は、入院を要した患者(曝露源不明)が1例のみで、死亡例はなく、過去の報告よりも軽症患者が多い印象だった。 検体は結膜から採取された症例が多く(45例中41例)、結膜スワブの陽性率は高かった(結膜炎報告例の90%が陽性)。 さて、本報告を読んで気になったことの1つに重症度がある。本ケースシリーズでは、HPAIV(H5N1)の入院例は1例のみで死亡者はおらず、HPAIV(H5N1)が軽症化しているかのように思われた。しかし、本報告と同日にNEJMで報告されたカナダにおける鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)は重症例であり(Jassem AN, et al. N Engl J Med. 2024 Dec 31. [Epub ahead of print])、HPAIV(H5N1)が軽症化したと考えるのは早計かもしれない。 考えられることの1つとして、今回の報告では、HPAIV(H5N1)に罹患した動物に曝露したヒトを10日間モニタリングしており、軽微な症状の症例も診断することができたために重症度が低下したようにみえた可能性が考えられる。本報告で入院した患者とカナダの重症化した患者の共通点は、感染経路不明である。過去にHPAIV(H5N1)に罹患した患者でも、重症化しなかったためにHPAIV(H5N1)の検査までは行われずに過去の報告では見逃されていた患者が存在したのかもしれない。 あるいは、遺伝子型の違いも考えられるかもしれない。カナダから報告された症例の遺伝子型は、D1.1だったが、今回のケースシリーズの遺伝子型の多くはB3.13だった。他に考えられることとしては、本報告では、ほとんどが発症後早期に診断され、オセルタミビルの投与がされていたことがある。感染経路不明の場合には、診断の遅れなどにより、抗ウイルス薬投与開始までの時間がかかるため、速やかな抗ウイルス薬投与が予後改善に関与していた可能性は残る。 本報告から、2024年に米国で確認されたHPAIV(H5N1)の特徴を知ることはできたが、HPAIV(H5N1)の経過や重症度、感染リスクを十分把握したとはいえず、今後も動向を監視する必要があるだろう。 最後に本邦におけるHPAIV(H5N1)の状況を振り返る。 HPAIV(H5N1)は、感染症法に基づく医師の届出の2類感染症に指定されているが、幸いにも国内でのヒト発症例の報告はない(国立感染症研究所「高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)感染事例に関するリスクアセスメントと対応」)。ただし、国内でも鳥類でのHPAIV(H5N1)の検出事例は継続して報告されており、本邦でも引き続き動物を含めて発生動向を監視する必要があるだろう。 また、本邦におけるHPAIV(H5N1)の届出基準では検査材料に結膜拭い液は含まれていない。HPAIV(H5N1)と結膜炎の関係性は、米国の乳牛曝露例でも報告(Uyeki TM, et al. N Engl J Med. 2024;390:2028-2029.)されていたが、本ケースシリーズからも、結膜炎を呈する割合は高く、それらの患者で結膜スワブの陽性率は高かった。今後は、HPAIV(H5N1)疑いの患者で、結膜炎を呈する場合は、本邦でも角結膜拭い液の検査が検討されるようになるかもしれない。

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表皮剥離創【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第23回

今回は、皮膚脆弱性がある患者に生じやすい表皮剥離創についてです。高齢者や免疫抑制薬を使用している患者では、皮膚粗鬆症(dermatoporosis)と表現される皮膚の脆弱性が生じます1)。紫斑が出やすく、皮膚と皮下組織の接合が弱くて軽微な外傷でも皮膚だけ「ずるむけた」ような状態になります。この創に対する処置を知らないと縫合しようとしてしまいますが、縫合は不適です。そうならないためにも症例を提示して処置を紹介します。<症例>82歳、男性主訴左前腕の皮がめくれた既往歴高血圧、認知症、糖尿病施設入所中の患者。施設職員が朝、患者の右前腕に剥離創があることに気付き往診を依頼。図1 表皮剥離創(イメージ)慣れた看護師さんがいたら自力でテープ固定ができることもありますが、対応できない施設だと一般外来に連れてきて対応に困ることがあります。かくいう私も、若いころ初めてこのような傷を診たときに縫合しようとしてしまいました。上司より「剥離した皮膚が弱くて、縫合すると割けてしまう。こういう傷はテープで寄せるんだよ」と教わりました。順を追って確認しましょう。(1)傷の確認まず剥離創かどうかを判断します。傷口をめくってみると脂肪織が見えることもあり、その場合はステリテープでは皮下に死腔ができてしまうため、吸収糸で縫合したほうがよい可能性もあります。その後、キシロカインゼリーなどで鎮痛して洗浄しましょう。(2)剥離した皮膚の確認剥離した皮膚がすべて残っていれば、通常はきれいに創がふさがるはずです。しかしながら、欠損している可能性もあります。その場合は、可能な限り元に近い状態に伸ばし広げます。(3)皮膚が反転していないか確認剥離した皮膚が内側に入り込んだままステリテープで固定しようとする症例を見かけることがあります。このまま固定すると、皮膚が入り込んでいる部位は接着しにくくなります。必ず元の位置に戻しましょう。(4)テープ固定傷口に対して垂直になるようにテープを貼って固定します(図2)。図2 テープで固定(5)被覆このような傷は浸出液が出るため、頻回な被覆の交換が必要になります。私は、ワセリンとガーゼで処置しています。湿潤環境を保つとともに、テープがガーゼに引っ付かないようにするためです。ガーゼは可能であれば毎日交換し、最長でも3日に1回は交換するよう指導しています。(6)その後のフォロー自宅でガーゼの交換が可能であれば、基本的にフォローは必要ありません。テープは1週間程度で粘着力が落ちて取れます。私は10日経っても取れない場合は、患者自身で取ってもよいと指導しています。今回は、表皮剥離創の処置について紹介しました。表皮剥離創は、とくに高齢者や免疫抑制薬を使用している患者にみられる皮膚の脆弱性が原因で発生します。軽微な外傷でも皮膚が剥がれることがあり、剥離した皮膚を元の位置に戻してテープで固定することが推奨されています。適切な処置を行えば、比較的簡単に治癒しますので、ぜひ実施してください。1)Kaya G, et al. Dermatology. 2007;215:284-294.

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C型肝炎のフォローアップ【日常診療アップグレード】第23回

C型肝炎のフォローアップ問題65歳男性。C型肝炎による肝硬変のため通院中である。6ヵ月前に患者はC型肝炎感染と診断され、抗ウイルス療法を受けてウイルスは除去されている。1ヵ月前の超音波検査では肝臓に小さな結節が認められたが、腫瘤はなかった。身体診察ではバイタルサインも含め異常はない。6ヵ月ごとにα-フェトプロテイン(AFP)の測定と腹部造影CT検査を行うこととした。

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第253回 米国バイオテックの遺伝子編集ブタ腎臓の2例目移植が成功

多くのニュースで取り上げられた米国のマサチューセッツ総合病院での世界初のブタ腎臓のヒトへの移植成功からおよそ1年が過ぎ、同病院で2例目のその試みが主執刀医の河合 達郎氏らの手によって先月1月25日に無事完了しました1,2)。昨春2024年3月の最初の移植も河合氏らに手によるものでした3)。移植されたのは、河合氏が勤めるマサチューセッツ総合病院があるボストンの隣のケンブリッジを拠点とするバイオテクノロジー企業eGenesis社が開発している遺伝子編集ブタ腎臓です。EGEN-2784と呼ばれるそのブタ腎臓はよりヒトに順応するようにし、感染の害が及ばないようするための69のCRISPR-Cas9遺伝子編集を経ています。具体的には、主要な3つの糖鎖抗原が省かれており、7つのヒト遺伝子(TNFAIP3、HMOX1、CD47、CD46、CD55、THBD、EPCR)を盛んに発現し、ブタ内在性レトロウイルスが働けないように不活性化されています。EGEN-2784はヒトへの最初の移植例となった62歳の末期腎疾患患者Rick Slayman氏の体内ですぐに機能し始め、11.8mg/dLだった血漿クレアチニン濃度が移植後6日目までに2.2mg/dLに下がりました。Slayman氏は透析が不要になるほどに回復しました4)。しかし腎機能維持にもかかわらず、Slayman氏は移植から2ヵ月ほど(52日目)で呼吸困難に陥って急逝しました。持病の糖尿病や虚血性心筋症によって生じたとされる冠動脈疾患を伴う心肥大、左室線維化、後壁梗塞が剖検で見受けられました。移植腎臓の拒絶反応や血栓性微小血管症の所見は認められませんでした。移植したブタ腎臓のレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)障害に起因しうる血液量(intravascular volume)の頻繁な変動がSlayman氏の不整脈リスクを高めた可能性はありますが、同氏はどうやら重度の虚血性心筋症と関連するリズム障害で突然心臓死(SCD)したようです。Slayman氏は生きるために移植を必要とする数千もの人々が希望を持てることを願ってEGEN-2784の移植を決めました5)。Slayman氏の遺志が引き継がれることを願う同氏の家族の期待を背に、河合氏らは66歳の男性Tim Andrews氏への2例目となるEGEN-2784移植手術を先月1月25日に無事終えました。2月7日のマサチューセッツ総合病院の発表によると、移植した腎臓は見込みどおり機能しており、Andrews氏は手術の1週間後の2月1日には早くも退院して透析いらずの生活を送っています1,2)。日本での開発も進むほかでもない日本のバイオテクノロジー企業のポル・メド・テックがeGenesis社と提携しており、昨年2月にはEGEN-2784の遺伝子編集技術を利用した移植医療用のブタを日本で生産できたことが発表されています6)。その9ヵ月ほど後の11月24日には、そうして作られた遺伝子改変ブタ腎臓のサルへの移植が実施されました7)。ことはさらに進み、先週5日にポル・メド・テックは実用化に向けた取り組みのための資金5億1千万円を調達したことを発表しています。ポル・メド・テックの遺伝子改変ブタ生産力は今のところ1年間あたり50頭です。2年後には1年間に数百頭生産できるようにし、移植実施医療機関への円滑な臓器の供給を目指します8)。参考1)Massachusetts General Hospital Performs Second Groundbreaking Xenotransplant of Genetically-Edited Pig Kidney into Living Recipient / Massachusetts General Hospital 2)eGenesis Announces Second Patient Successfully Transplanted with Genetically Engineered Porcine Kidney / BUSINESS WIRE3)World’s First Genetically-Edited Pig Kidney Transplant into Living Recipient Performed at Massachusetts General Hospital / Massachusetts General Hospital 4)Kawai T, et al. N Engl J Med.2025 Feb 7. [Epub ahead of print] 5)An Update on Mr. Rick Slayman, World’s First Recipient of a Genetically-Modified Pig Kidney / Massachusetts General Hospital6)eGenesis and PorMedTec Announce Successful Production of Genetically Engineered Porcine Donors in Japan / BUSINESS WIRE7)霊長類への遺伝子改変ブタ腎臓移植試験の実施について / PorMedTec8)第三者割当増資による資金調達実施のお知らせ / PorMedTec

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日本における片頭痛治療パターン、急性期治療薬の過剰処方の可能性

 長岡技術科学大学の勝木 将人氏らは、日本における18歳以上の成人片頭痛患者に対する治療パターンを明らかにするため、メディカルビッグデータREZULTのデータベースを用いて、検討を行った。Cureus誌2024年12月18日号の報告。 REZULTデータベースの従業員ベースのレセプトデータを用いて、次の2つの要素について検討を行った。1つ目の要素(研究1)は、2020年に片頭痛と診断された患者における急性期治療薬の過剰処方率を評価するための横断的分析として実施した。過剰処方の定義は、トリプタンとNSAIDs、複数の薬剤の併用が90日以内に30錠以上または同一期間におけるNSAIDs単独で45錠以上とした。2つ目の要素(研究2)は、2010年7月〜2022年4月、初回片頭痛診断から2年以上にわたり患者フォローアップを行った縦断的分析として実施した。処方された錠数は、90日ごとに記録した。 主な結果は以下のとおり。・研究1では、2020年に評価された330万705例のうち、6万6,428例(2.01%)が片頭痛と診断された。・このうち、急性期治療薬が処方されていた患者は4万1,209例であった。・過剰処方は、NSAIDs単独群で9,280例(22.52%)、トリプタン併用群で2,118例(5.14%)に観察された。・さらに、6,412例(15.56%)において予防治療が行われていた。・研究2では、2年超のフォローアップを実施した684万618例のうち、29万6,164例(4.33%)に片頭痛の持続が認められた。・過剰処方率は、NSAIDs単独群で23.20%(6万8,704例)、トリプタン併用群で3.97%(1万1,755例)であり、1回以上の予防治療薬処方率は16.51%(4万8,886例)であった。・治療パターンは、地域の貧困指数、頭痛専門医の分布など社会経済的因子の影響が認められた。 著者らは「日本における片頭痛の実臨床データの評価により、予防薬処方の不十分、急性期治療薬の過剰処方が中程度〜高頻度に確認された」と結論付けている。

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ストレスを抱えた外科医が手術した患者には合併症が少ない?

 手術を受けるときには、執刀医をチェックしてみてほしい。ストレスを感じている様子が見られるのであれば、それは、手術を受ける人にとって良いサインである可能性のあることが、新たな研究から明らかになった。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJake Awtry氏らによるこの研究では、生理的なストレスレベルが高い外科医が執刀した患者の方が、手術に関連する主要な合併症を発症しにくいことが示されたという。詳細は、「JAMA Surgery」に1月15日掲載された。 この研究結果についてAwtry氏らは、「経験豊富な外科医のストレスは患者のアウトカムに関連していることを示した結果であり、外科治療の改善に向けた今後の取り組みにおいて注目されるべきものかもしれない」と結論付けている。 この研究でAwtry氏らは、フランスのリヨンにある4つの大学病院で2020年11月から2021年12月にかけて行われた793件の手術を調べた。これらの手術は、消化器外科、整形外科、婦人科、泌尿器科、心臓外科、胸部外科、内分泌外科の7つの専門領域の14の外科部門で実施されたものだった。手術を執刀したのは38人の外科指導医(平均年齢46歳、男性78.9%)で、そのうちの57.9%が教授または准教授であった。外科医は手術中の心拍数の変化を追跡するためのデバイスを装着して手術を実施した。この心拍数のデータから、交感神経の活動(ストレス時や緊張時に活発化)と副交感神経の活動(リラックス時に活発化)のバランスを、低周波数(LF)と高周波数(HF)の比(LF:HF比)で定量化した。 その結果、手術開始から5分の間にLF:HF比が増加、すなわちストレス増大の兆候が認められた場合には、患者が主要な合併症を起こす可能性が有意に低下することが示された(調整オッズ比0.63、95%信頼区間0.41〜0.98、P=0.04)。ただし、死亡リスクの低下(同0.18、0.03〜1.03、P=0.05)や集中治療室(ICU)での滞在期間短縮(同0.34、0.11〜1.01、P=0.05)との関連は統計学的に有意ではなかった。 これらの結果は、外科医のストレスが手術時間の延長や巧緻性の低下、潜在的に有害な事象に関連することを示した過去の研究結果とは相反するものだ。Awtry氏らは、「過度のストレスや認知的負荷は外科手術の成績に悪影響を及ぼす可能性があるが、必要なレベルの経験や対応力がある外科医の場合、適度なストレスがより良い成績をもたらす可能性がある」と結論付けている。 英エディンバラ大学行動科学部長のSteven Yule氏らは、付随論評の中で、エリートアスリートはプレッシャーの下でも集中し、成功することができるが、優秀な外科医にも同様の特徴があるようだとの見方を示している。同氏らは、「この研究結果は、要求度の高い職務ではストレスは有害であるという従来の見方を覆すものであり、適度なストレスはパフォーマンスを向上させるという数十年にわたるスポーツ心理学の研究結果に極めて近いものだ」と述べている。 さらにYule氏らは、外科医が目の前の手術に集中するためには、試合前にロッカールームで実践されているようなストレス管理法が有効な可能性があるとの見方を示し、「このようなプロスポーツのパフォーマンス向上テクニックを手術室でも応用することで、これまでにないレベルでのアウトカムの向上が期待でき、強靭な外科文化の醸成につながる可能性がある」と述べている。

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COVID-19は筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群リスクを高める

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の発症リスクを高めるようだ。新型コロナウイルス感染者は、ME/CFSを発症するリスクが5倍近く高くなることが、新たな研究で示された。研究グループは、このことからME/CFSの新規症例がパンデミック前の15倍に増加している理由を説明できる可能性があるとの見方を示している。米ベイトマンホーンセンターのSuzanne Vernon氏らによるこの研究結果は、「Journal of General Internal Medicine」に1月13日掲載された。Vernon氏らは、「われわれの研究結果は、新型コロナウイルス感染後にME/CFSの発症率と発症リスクが大幅に増加することのエビデンスとなるものだ」と結論付けている。 米疾病対策センター(CDC)によると、ME/CFSの患者は慢性的な倦怠感に悩まされており、用事を済ませる、学校行事に参加する、仕事をこなす、シャワーを浴びるなどの日常的な活動を行った後には倦怠感が増幅するという。また、睡眠障害やめまい、記憶や思考能力の低下などの症状に悩まされることもある。これらの症状の多くは、COVID-19罹患後症状(long COVID)にも見られることから、研究グループは、両者の間に関連性があるのではないかと考えた。研究グループによると、EBウイルス(エプスタイン・バーウイルス)やロスリバーウイルスのようなウイルスによる感染症罹患者の11%も、ME/CFSの診断基準を満たすという。 今回の研究は、COVID-19の健康への長期的な影響に関するプロジェクトRECOVER(Researching COVID to Enhance Recovery)の一環として、RECOVERの成人を対象とした縦断観察研究RECOVER-Adultのデータを用い、新型コロナウイルス感染者1万1,785人と非感染者1,439人を対象に、ME/CFSの罹患率と有病率を調査した。対象者は、新型コロナウイルス感染後のME/CFSの有無に基づき、ME/CFSの診断基準を満たす者、診断基準を満たさないがME/CFS様の症状がある者、ME/CFSの症状を報告しない者の3群に分類された。 新型コロナウイルス感染者のうち、531人(4.5%)がME/CFSの診断基準を満たし、4,692人(39.8%)がME/CFS様の症状を持ち、6,562人(55.7%)はME/CFSの症状を有していなかった。非感染者では、それぞれ9人(0.6%)、232人(16.1%)、1,198人(83.3%)であった。ME/CFSの100人年当たりの罹患率は新型コロナウイルス感染者で2.66件(95%信頼区間2.63〜2.70)であったのに対し、非感染者では0.93件(同0.91〜10.95)であった。ハザード比(HR)は4.93(同3.62〜6.71)であり、新型コロナウイルス感染がME/CFSの発生リスクを大幅に増加させることが示された。新型コロナウイルス感染者において最もよく報告されたME/CFSの症状は労作後の倦怠感で、全感染者の24.0%(2,830人)に認められた。さらに、新型コロナウイルス感染後にME/CFSの診断基準を満たした参加者の大多数(88.7%、471/531人)は、RECOVER研究で定義されるlong COVIDの基準も満たしていた。 研究グループは、「さらなる研究で、一部の新型コロナウイルス感染者が他の患者よりも感染後にME/CFSを発症しやすい理由を解明する必要がある」と結論付けている。

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糖尿病治療薬のメトホルミンに皮膚がん予防効果

 糖尿病治療で処方される頻度の高い、メトホルミンという経口血糖降下薬に、皮膚がんの発症予防効果があることを示唆するデータが報告された。米ブラウン大学のTiffany Libby氏らの研究の結果であり、詳細は「Journal of Drugs in Dermatology」に11月26日掲載された。皮膚がんの中で最も一般的な、基底細胞がん(BCC)と扁平上皮がん(SCC)という非黒色腫(メラノーマ)皮膚がんの発症リスクが有意に低下する可能性があるという。Libby氏は、「われわれの研究結果はメトホルミンが、これら非メラノーマ皮膚がんに対する予防薬となり得ることを示すエビデンスと言える」と述べている。 メトホルミンが非メラノーマ皮膚がんの発症を抑制するのではないかとする研究結果は、本研究以前にも報告されていたが、それらの研究は、がんの種類別の解析がなされていない、人種/民族の差が考慮されていないなどの限界点があり、不明点が多く残されていた。Libby氏は、米国立衛生研究所(NIH)が疾患の個別化治療を確立するために行っている「All of Us研究」のデータベースを用いて、メトホルミンの非メラノーマ皮膚がんリスクに対する影響を検討した。 All of Us研究のデータベースには、BCC患者8,047人、SCC患者4,111人が含まれていた。この患者群と、年齢、性別、人種/民族がマッチする対照群を1対4の割合(BCCに対して3万2,188人、SCCに対して1万6,444人)で設定し、メトホルミン処方の有無を比較した。なお、BCCまたはSCCの診断の2年以上前にメトホルミンが1回以上処方されていたケースを「処方あり」と定義した。 メトホルミンの処方率は、BCC群は6.45%、SCC群が9.00%であったのに対して、BCCの対照群は13.08%、SCCの対照群は13.23%だった。単変量解析により、メトホルミンの処方はBCC(オッズ比〔OR〕0.46〔95%信頼区間0.42~0.50〕)、SCC(OR0.65〔同0.58~0.73〕)が少ないことと有意に関連しており、交絡因子を調整した多変量解析でもその関連が有意だった(BCCはOR0.33〔0.29~0.36〕、SCCはOR0.45〔0.40~0.51〕)。ただし、人種/民族別に解析すると、アフリカ系米国人はSCCに関する単変量解析の結果が非有意だった(OR0.61〔0.28~1.22〕)。 研究チームによると、メトホルミンはがん細胞へのエネルギーや栄養素の供給を抑えるように働き、がんの成長や増殖能力を阻害する可能性があるという。また、がん細胞に対する免疫反応を高めたり、炎症を軽減したり、皮膚がんに新たな血管が伸びるのを防ぐようにも働くと考えられるとのことだ。著者らは、「われわれの研究結果に基づけば、メトホルミンによるがん予防の可能性を検討するために、さらなる研究を行うべきではないか」と結論付けている。 米国がん協会(ACS)によると、米国内で毎年、約540万件のBCCまたはSCCが診断されており、そのうち約8割をBCCが占めるという。ただし、非メラノーマ皮膚がんに分類されるこれらの皮膚がんは、一般的に死亡リスクは高くない。ACSのデータでは、非メラノーマ皮膚がんによる死亡者数は年間2,000~8,000人の範囲にとどまっている。

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適切な感染症管理が認知症のリスクを下げる

 認知症は本人だけでなく介護者にも深刻な苦痛をもたらす疾患であり、世界での認知症による経済的損失は推定1兆ドル(1ドル155円換算で約155兆円)を超えるという。しかし、現在のところ、認知症に対する治療は対症療法のみであり、根本療法の開発が待たれる。そんな中、英ケンブリッジ大学医学部精神科のBenjamin Underwood氏らの最新の研究で、感染症の予防や治療が認知症を予防する重要な手段となり得ることが示唆された。 Underwood氏によると、「過去の認知症患者に関する報告を解析した結果、ワクチン、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬の使用は、いずれも認知症リスクの低下と関連していることが判明した」という。この研究結果は、同氏を筆頭著者として、「Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」に1月21日掲載された。 認知症の治療薬開発には各製薬企業が注力しているものの、根本的な治療につながる薬剤は誕生していない。このような背景から、認知症以外の疾患に使用されている既存の薬剤を、認知症治療薬に転用する研究が注目を集めている。この方法の場合、薬剤投与時の安全性がすでに確認されているので、臨床試験のプロセスが大幅に短縮される可能性がある。 Underwood氏らは、1億3000万人以上の個人、100万症例以上の症例を含む14の研究を対象としたシステマティックレビューを行い、他の疾患で使用される薬剤の認知症治療薬への転用可能性について検討を行った。 文献検索には、MEDLINE、Embase、PsycINFOのデータベースを用いた。包括条件は、成人における処方薬の使用と標準化された基準に基づいて診断された全原因認知症、およびそのサブタイプの発症との関連を検討した文献とした。また、認知症の発症に関連する薬剤(降圧薬、抗精神病薬、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬など)と認知症リスクとの関連を調べている文献は除外した。 検索の結果、4,194件の文献がヒットし、2人の査読者の独立したスクリーニングにより、最終的に14件の文献が抽出された。対象の文献で薬剤と認知症リスクとの関連を調べた結果、ワクチン、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬が認知症リスクの低減に関連していることが明らかになった。一方、糖尿病治療薬、ビタミン剤・サプリメント、抗精神病薬は認知症リスクの増加と関連していた。また、降圧薬と抗うつ薬については、結果に一貫性がなく、発症リスクとの関連について明確に結論付けられなかった。 Underwood氏は、「認知症の原因として、ウイルスや細菌による感染症が原因であるという仮説が提唱されており、それは今回得られたデータからも裏付けられている。これらの膨大なデータセットを統合することで、どの薬剤を最初に試すべきかを判断するための重要な証拠が得られる。これにより、認知症の新しい治療法を見つけ出し、患者への提供プロセスを加速できることを期待する」と述べた。 また、ケンブリッジ大学と共同で研究を主導した英エクセター大学のIlianna Lourida氏は、ケンブリッジ大学のプレスリリースの中で、「特定の薬剤が認知症リスクの変化と関連しているからといって、それが必ずしも認知症を引き起こす、あるいは実際に認知症に効くということを意味するわけではない。全ての薬にはベネフィットとリスクがあることを念頭に置くことが重要である」と付け加えている。

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運動による記憶力向上は少なくとも8週間続く

 運動することで記憶力が向上し、運動しない場合との有意差は少なくとも8週間維持されるとする研究結果が報告された。北海道教育大学岩見沢校スポーツ文化専攻の森田憲輝氏らが、学生対象クロスオーバー試験で明らかにしたもので、詳細は「Journal of Science and Medicine in Sport」に11月4日掲載された。 記憶は、数秒から数十秒ほど保持される短期記憶と、数時間から場合によっては生涯にわたって保持される長期記憶に分類される。後者の長期記憶の中でも、本人が意識的に思い出すことができ、言葉などで表現することのできる記憶は「陳述記憶」と呼ばれ、この陳述記憶がより長期間保持されるほど、学業や就業において有利になると考えられている。 これまでの研究で、運動に陳述記憶の保持効果があることが示されているが、その効果の持続時間は、最長で1週間と報告されている。ただし、検証が十分行われていないだけで、実際には効果がそれよりも長期間維持される可能性もある。これを背景として森田氏らは、追跡期間11カ月に及ぶ研究を実施した。 研究デザインは、15個の単語を覚える前に自転車エルゴメーターを使い中強度(心拍数が最大値の50%になる強度)で20分間の負荷を加える条件と、安静状態で覚えるという条件(対照条件)を、試行順序をランダム化した上で参加者全員に課すというクロスオーバー法。単語を覚える作業の終了直後、24時間後、4週間後、6週間後、8週間後、および11カ月後に、単語をいくつ覚えているかをテストした。研究参加者は同大学から募集された51人で、追跡期間中の脱落者を除き44人(平均年齢19.7±0.8歳、男性29人)が解析対象とされた(11カ月時点ではさらに3人が脱落)。 記憶作業終了直後のテストでは、運動条件で覚えていた単語が12.9±1.9個、対照条件では12.7±2.3個で有意差はなかった。また、24時間後にも両条件ともに約83%の単語を記憶しており、有意差はなかった。それ以降は時間の経過とともに記憶している単語の数が少なくなっていき、4週間後は運動条件の方が覚えている単語が多いという有意水準未満の差(P=0.14)が観察された。そして6週間後には、覚えている単語の数に1.52個(95%信頼区間0.43~2.61)、8週間後には1.17個(同0.11~2.22)の有意な差が生じていて、いずれも運動条件の方が多かった。しかし11カ月後には再び有意差がなくなっていた。 著者らは、本研究の対象が認知機能正常の若年者のみであり、得られた結果をそのまま一般人口に外挿できるわけではないことなどを留意点として挙げた上で、「1回の運動で記憶維持効果が少なくとも8週間維持されることが示された。この結果は、運動が長期記憶を強化する効果的な介入法であり、学業や職業上のパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があることを示唆している。ただし、1年近く経過した時点では有意差が見られなかったことから、時間の経過に伴う効果の変動を理解するための研究が必要とされる」と総括している。 なお、運動が記憶力を向上させるメカニズムについては「いまだ詳細が不明」としつつ、先行研究に基づく考察として、「運動によってドーパミンなどの神経伝達物質や脳由来神経栄養因子の産生が増加することが関与しているのではないか」と述べられている。

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犬を強く愛している飼い主ほど健康になれる?

 犬と暮らす人の中でも、犬への愛着が強い人ほど身体活動量が高くなっていることが明らかになった。国立環境研究所の谷口優氏と東京都健康長寿医療センター研究所の池内朋子氏による論文が、「PLOS One」に11月27日掲載された。同氏らは、「犬と暮らすことで得られる健康効果を説明する要因として、犬への愛着の強さが鍵を握っているのではないか」と述べている。 近年、犬の飼い主は健康状態が良好な人が多いとする研究結果が複数報告されてきている。谷口氏らも既に、犬と暮らす高齢者は身体機能が高いことや、フレイル(虚弱)や死亡に至るリスクが低いことを報告している。また、犬と暮らす高齢者の中でも、散歩などの運動習慣がある人において認知症の発症リスクが低くなることも報告している。しかし、なぜ犬と暮らす人の中で、運動習慣に差が生じるのかについては不明であった。 今回の研究は、一般社団法人ペットフード協会が2023年に実施したインターネット調査のデータを用いて行われた。この調査には日本各地に居住している20~79歳の犬猫飼育者1,683人が回答。このうち犬を飼っている1,041人を解析対象とした。 対象者の主な特徴は、平均年齢が52.5歳、女性57.5%、既婚者71.1%、戸建ての持ち家居住者70.0%、独居者10.4%で、平均年収は500~600万円であった。また犬の散歩の頻度は、1日2回以上が25.1%、1日1回から2回が3.8%、週3回から7回が45.8%、週3回未満が25.3%だった。国際標準化身体活動質問票で評価した中高強度身体活動量の平均値は、41.4METs時/週であった。 飼い犬への愛情の強さの評価には、既存の質問票(the CENSHARE Pet Attachment Survey)を用いた。この質問票は、「ペットとの遊びや運動に時間を使うか?」、「ペットはあなたの気分の変化に気づくか?」、「ペットを家族だと思うか?」などの六つの質問から成り、最大スコア24点で回答を評価し、点数が高いほど愛着が強いと判定する。本研究の対象者の平均値は18.8点だった。 犬への愛着の強さと散歩の頻度および身体活動量との関連性について、重要な交絡因子(年齢、性別、婚姻状況、同居家族、収入、自宅の形態)の影響を統計学的に調整した結果、犬への愛着が強いほど散歩の頻度が高いことが明らかになった(B=0.04、P<0.01)。そして、犬への愛着が強いほど、中高強度身体活動量が高いことも認められた(B=1.43、P<0.01)。 著者らは本研究を、「犬に対する愛着の強さと身体活動量の関連を明らかにした初の研究」と位置づけている。研究の限界点として、横断研究であるため愛着と身体活動量の因果関係は不明であることなどを考察した上で、「犬への愛着の強さが、日々の世話を通じて飼い主の運動習慣につながり、その結果、飼い主に健康障害が発生するリスクが低下すると考える」と総括。他方、「単に犬と暮らすだけでは、健康上のメリットを得られない可能性があることも示された」と付け加えている。

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ATTR心アミロイドーシス患者においてCRISPR-Cas9を用いた生体内遺伝子編集治療であるnex-zは単回投与にて血清TTR値を持続的に減少させた(解説:原田和昌氏)

 ATTRアミロイドーシスは、トランスサイレチン(TTR)がアミロイド線維として各種組織に沈着することで引き起こされる疾患であり、非遺伝性で加齢に伴うATTRwtアミロイドーシスと遺伝子異常に由来するATTRvアミロイドーシスに分けられる。ATTR心アミロイドーシス(ATTR-CM)は心筋症や心不全が進行し、診断後は中央値2~6年で死に至る。治療薬としてTTR安定化薬のタファミジスが承認されており、siRNA静脈注射剤のパチシラン(3週に1回)は患者のQOLを維持し、皮下注射製剤のブトリシラン(3ヵ月に1回)は全死亡を低下させたことから、適応追加承認を申請中である。しかし、これらの治療でも長期間かけて疾患は徐々に進行する。 より完全なTTRのノックダウンを期待して、CRISPR-Cas9による生体内遺伝子編集治療が考案された。これは、肝臓に集積するようデザインされた脂質ナノ粒子、TTRに対するシングルガイドRNA(crRNA-tracrRNAキメラ)、化膿性レンサ球菌のCas9 mRNAからなる。動物実験でnex-z(NTLA-2001)は1回の静脈内投与にて血清TTR値を95%以上低下させ、効果は持続的であった。 英国のFontana氏らはATTR-CM患者に固定用量のnex-zを1回静脈注射し、安全性と薬力学、血清TTR値を評価する第I相オープンラベル試験を行った。副次エンドポイントはNT-proBNP値、高感度心筋トロポニンT値、6分間歩行距離、NYHA心機能分類の変化であった。心不全既往または併存のATTR-CM患者36例を対象とし、追跡期間は18ヵ月であった。NYHA III群が50%、ATTRv心アミロイドーシスが31%であった。血清TTR値は急速に低下し28日で89%、12ヵ月で90%減少した。有害事象は34件で、注入反応5例、AST上昇が2例、重篤な有害事象14例(39%)はすべてATTR-CMの症状であった。副次エンドポイントのNT-proBNP値、高感度心筋トロポニンT値に変化なく、6分間歩行距離は12ヵ月で5m延長したが有意ではなかった。92%の患者のNYHA心機能分類が改善ないしは変化なしであった。 CRISPR-Cas9システムを用いることで、容易にノックアウトやノックインといったゲノム編集を行うことができるようになった。本試験のnex-zはATTR-CMに対する生体内遺伝子編集治療であるが、すでにβサラセミア、鎌状赤血球症に対する遺伝子編集治療も試みられている。ATTR-CMのトランスサイレチンはほとんど肝臓で作られているためあまり問題にならないが、類似した他の配列を切断してしまうオフターゲット効果などへの懸念や、応用範囲が広いだけに倫理的な問題も想定されるため、今後の動向に注視する必要がある。

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第229回 高額療養費制度の自己負担の引き上げ案、政府が修正を検討/政府

<先週の動き>1.高額療養費制度の自己負担の引き上げ案、政府が修正を検討/政府2.医療存続のためJA県厚生連に19億円支援、経営改革が課題/新潟県3.東京女子医大元理事長を再逮捕 不正支出1.7億円、還流の疑い/警視庁4.若手医師の過労死、甲南医療センターの院長ら不起訴処分に/神戸地検5.維新の会、医療費4兆円削減と社保料6万円減を提案/国会6.28億円の診療報酬不正請求発覚、訪問看護で虚偽記録横行/サンウェルズ1.高額療養費制度の自己負担の引き上げ案、政府が修正を検討/政府政府は、高額な医療費の自己負担を軽減する「高額療養費制度」の見直し案について、修正を検討している。政府案では、2025年8月から3段階に分けて自己負担の上限額を引き上げる方針だったが、長期治療を必要とするがん患者などから「受診抑制につながる」との懸念が相次ぎ、負担軽減に向け、見直し案の修正が求められていた。高額療養費制度は、医療費が一定額を超えた場合に、患者の自己負担額に上限を設ける仕組み。政府の見直し案では、70歳未満の年収約370~770万円の層で、1ヵ月の自己負担限度額が現行の8万100円から最終的に13万8,600円に引き上げられる予定だった。さらに、12ヵ月以内に3回以上限度額を超えた場合、4回目以降は負担を軽減する「多数回該当」制度についても、上限額が4万4,400円から7万6,800円に引き上げられることになっていた。この見直し案に対し、全国がん患者団体連合会などの患者団体が強く反発し、12ヵ月以内に6回以上限度額を超えた場合、7回目以降の負担を現行水準に据え置く案を提案。政府はこれを参考に、長期治療を受ける患者の負担増を抑える方向で修正を検討している。また、患者団体からの意見聴取が行われなかったことも問題視され、国会では見直し案の凍結や再検討を求める声が上がった。これを受け、石破 茂首相は「患者の理解を得ることが必要」とし、福岡 資麿厚生労働大臣が患者団体との意見交換を行う方針を示した。野党側も見直し案に強く反対し、立憲民主党は高額療養費の負担引き上げを凍結する修正案を国会に提出予定。新型コロナウイルスワクチンの基金や予備費を財源に充当できると主張している。一方、政府は「制度の持続可能性を確保するために負担増は必要」との立場を維持しており、今後の調整が注目される。全国保険医団体連合会の調査では、がん患者の約半数が自己負担増による「治療の中断」を検討し、6割以上が「治療回数の削減を余儀なくされる」と回答。生活面では、8割以上が「食費や生活費を削る」とし、子供の教育への影響も懸念されている。政府は今後、長期治療を受ける患者の負担軽減を含めた修正案をまとめるが、財源確保の問題もあり、与野党の調整は難航する可能性が高い。高額療養費制度の持続性と患者負担のバランスをどう取るか、引き続き議論が続く見通し。参考1)「治療諦めろというのか」子育て中のがん患者 高額療養費見直し案に(毎日新聞)2)高額療養費引き上げ凍結を 立民、財源はコロナ基金(日経新聞)3)高額療養費の負担増なぜ見直し? 政府・与党、患者に配慮(同)4)高額療養費、負担引き上げで「治療断念」検討も がん患者ら調査(朝日新聞)5)子どもを持つがん患者さんに高額療養費アンケート 記者会見で中間報告(保団連)2.医療存続のためJA県厚生連に19億円支援、経営改革が課題/新潟県新潟県内で11病院を運営するJA県厚生連が経営危機に直面し、2025年度中にも運転資金が枯渇する恐れがあることを受け、県と病院所在の6市が総額19億円の財政支援を行う方針を決定した。6日に県庁で開かれた会合で、新潟県は国の交付金を活用しながら10億円程度を負担し、6市は約9億円を拠出することを表明。これにより、当面の資金不足は回避される見込みとなった。県厚生連は、人口減少に伴う患者数の減少が影響し、2023年度決算で35億9,000万円の赤字を計上。2024年度は職員の賞与削減など緊急対策を実施しているが、12月時点で45億6,000万円の赤字が見込まれている。病院運営に必要な運転資金は月額90億円に上るため、早急な財政支援が求められていた。会合では、県の花角 英世知事が「持続可能な経営には抜本的な改革が必要」と述べ、病院再編を含めた地域医療の効率化を求めた。6市を代表して糸魚川市の米田 徹市長は、「県として3ヵ年の財政支援を継続して欲しい」と要望し、国に対しても診療報酬制度の見直しを求める姿勢を示した。県厚生連の塚田 芳久理事長は「さらなる経営改革を進め、県民に安心できる医療を提供しながら安定経営の確保に努める」と表明。年度内に2025年度から3年間の経営計画を策定し、経営改善を図る方針という。しかし、長期的な経営安定には根本的な改革と継続的な財政支援が不可欠であり、今後の動向が注目されている。参考1)県厚生連へ19億円支援 県と6市方針 病院運営危機受け(読売新聞)2)JA県厚生連に19億円 25年度分 県と6市が支援表明(毎日新聞)3)新潟県、病院経営危機のJA県厚生連への支援を10億円規模で調整 2025年度の運転資金枯渇は回避できる見通し(新潟日報)3.東京女子医大元理事長を再逮捕 不正支出1.7億円、還流の疑い/警視庁東京女子医科大学の建設工事を巡る背任事件で、警視庁は3日、元理事長の岩本 絹子容疑者(78)を再逮捕した。岩本容疑者は2020年から翌年にかけて、足立区に新設された大学付属病院「足立医療センター」の建設工事に関連し、「建築アドバイザー報酬」名目で約1億7,000万円を大学から1級建築士の男性に支払わせ、損害を与えた疑いが持たれている。うち約5,000万円が岩本容疑者に還流されていたとみられる。岩本容疑者は1月、新校舎建設を巡る背任容疑で逮捕されていた。警視庁の調べによると、同様の手口で1億1,700万円の不正支出が行われ、そのうち約3,700万円が還流されたとされる。これにより、架空の「建築アドバイザー報酬」による大学の損害は総額3億円超に上る可能性がある。捜査関係者によると、建築士の男性は大学から受け取った資金の一部について元女子医大職員を通じて岩本容疑者に現金で渡していた。元職員の女性は岩本容疑者の直轄部署に所属しており、容疑者の指示の下、資金移動を担っていたとみられる。大学側が承認した建設に関係する稟議書によると、建築士への支払いは施工費(約264億円)の0.7%に相当し、理事会で承認されていた。しかし、実際には業務実態が乏しく、大学関係者からは「理事会での異議申し立てが困難な状況だった」との証言も出ている。さらに、内部文書の解析から、理事長自らが申請者兼承認者となっていたことも判明し、不正の組織的な側面が浮かび上がっている。警視庁は、還流資金がブランド品購入など私的な用途に充てられた可能性もあるとみており、資金の流れや関係者の役割について捜査を進めている。岩本容疑者の認否は明らかにされていないが、背任の疑いは一層強まっている。参考1)本日2/3(月)元理事長の再逮捕について(女子医大)2)東京女子医大元理事長、背任容疑で再逮捕…業務実態ない男性への報酬で1・7億円の損害与えた疑い(読売新聞)3)東京女子医大の女帝再逮捕 内部文書で明らかになった“デタラメやりたい放題”の仕組み「女子医大には元理事長の手足となって動いた人間たちがたくさんいる」(文春オンライン)4.若手医師の過労死、甲南医療センターの院長ら不起訴処分に/神戸地検2022年に神戸市の甲南医療センターで勤務していた専攻医・高島 晨伍さん(当時26歳)が長時間労働を苦に自殺した問題で、神戸地検は4日、労働基準法違反の疑いで書類送検されていた病院運営法人「甲南会」と院長ら2人を不起訴処分とした。検察は不起訴の理由を明らかにしていない。西宮労働基準監督署の調査では、高島さんの亡くなる直前の1ヵ月間の時間外労働が113時間を超えていたと認定されていた。高島さんの母は「非常に残念。この結果が若手医師の労働環境改善を阻むものであってはならない」とコメント。病院側は「事実に基づく捜査を経ての判断」と述べるにとどまった。この問題は、医師の働き方改革とも密接に関係し、2024年4月から医師の時間外労働に上限規制が導入され、基本的には年間960時間(月80時間)が上限とされた。しかし、研修医や特定の医療機関では、最大で年間1,860時間(月155時間)までの時間外労働が認められており、現場の実態との乖離が指摘されている。また、医療現場では「自己研鑽」として学会準備や研究活動が労働時間に含まれず、事実上の無償労働が横行しているとの批判もある。厚生労働省の通達では「上司の指示がある場合は労働」とされるが、実際には上司の関与が曖昧なケースも多く、勤務時間の過少申告につながる恐れがあると指摘されている。さらに、病院側は「宿日直許可制度」を利用し、夜間の長時間勤務を労働時間に含めない運用を行っている。この制度の適用件数は2020年の144件から2023年には5,000件を超え、病院経営の抜け道として使われているのが実情である。若手医師の過重労働は、医療の安全性や医師不足の深刻化にも影響を及ぼす。すでに「地域医療の維持よりも働きやすさを求め、美容医療などに転職する若手医師が増えている」との指摘もあり、医療界全体のモラルハザードが懸念さている。医師の長時間労働は、単なる労働問題ではなく、患者の安全にも直結する。自己犠牲を前提とした医療制度の見直しが急務となっている。参考1)甲南医療センター若手医師の過労自死 労基法違反疑いの院長ら不起訴処分 神戸地検(神戸新聞)2)若手医師の過労死、労基法違反疑いの病院運営法人や院長ら不起訴 神戸地検、理由明かさず(産経新聞)3)医師不足に拍車をかける「偽りの働き方改革」(東洋経済オンライン)5.維新の会、医療費4兆円削減と社保料6万円減を提案/国会日本維新の会は2月7日、政府の2025年度予算案への賛成条件として、医療費の年間約4兆円削減と国民1人当たりの社会保険料を約6万円引き下げる改革案を提示した。これにより、高校授業料無償化と並び、社会保障制度の見直しを求める構え。自民・公明両党は慎重な対応をみせており、今後の協議の行方が注目されている。維新の青柳 仁士政調会長は、自民・公明両党の政調会長との会談で、医療費削減策として「市販薬と類似する医薬品(OTC類似薬)の保険適用除外」「医療費窓口負担の見直し」「高額療養費の自己負担限度額の判定基準再検討」などを提案。さらに、社会保険加入が義務付けられる「年収106万円・130万円の壁」問題への対応も要請した。維新は、これらの改革を2025年度から実施すれば、年間4兆円の医療費削減が可能であり、国民の社会保険料負担を1人当たり年間6万円減らせると主張している。とくに、OTC類似薬の保険適用除外については、湿布や風邪薬など、処方薬として購入すれば1~3割の自己負担で済むが、全額自己負担とすることで約3,450億円の医療費削減が見込まれると試算。さらに、窓口負担割合の見直しでは、所得に加え、預貯金や株式などの金融資産を考慮する仕組みを導入し、資産の多い高齢者の負担を増やすことを提案した。また、電子カルテと個人の健康情報を統合する「パーソナル・ヘルス・レコード(PHR)」の普及促進も掲げ、医療コストの効率化を狙う。一方、維新は医療費削減策だけでなく、社会保険料負担軽減のための年収の壁問題にも言及。現在、51人以上の企業に勤めるパート労働者は年収106万円を超えると社会保険加入が義務付けられ、130万円を超えると企業規模に関係なく加入が求められる。この制度が労働時間の抑制を生み、人手不足を助長しているとの指摘もあり、維新は政府に対策を求めた。自民党は、まずは高校授業料無償化の議論を優先し、維新の予算案への賛成を取り付けたい考えだが、維新は「高校無償化と社会保険料引き下げの両方が必要条件」と主張し、交渉は難航する可能性がある。自民・公明両党は改革案の具体的な影響を精査するとして回答を留保しており、維新の提案が実現するかは不透明だ。政府は社会保障費の増大に対応するため、医薬品の公定価格(薬価)引き下げによる財源捻出を続けている。しかし、薬価改定による削減効果は限界に達しつつあり、新たな医療費抑制策が求められる状況。維新の提案がこの課題にどう影響を与えるのか、今後の国会審議に注目が集まる。参考1)維新が医療費4兆円削減、社会保険料は6万円引き下げ提案 新年度予算案賛成の条件に(産経新聞)2)「市販品類似薬を保険外に」維新、社保改革で具体案 自公に提案、予算賛成の条件(日経新聞)3)高額療養費の「自己負担の上限引き上げ」見直しへ…政府・与党、がん患者らに反発広がり(読売新聞)4)少数与党国会、厚労省提出法案の「熟議」を注視(MEDIFAX)6.28億円の診療報酬不正請求発覚 訪問看護で虚偽記録横行/サンウェルズパーキンソン病専門の有料老人ホーム「PDハウス」を運営する東証プライム上場のサンウェルズ(金沢市)が、全国のほぼ全施設で診療報酬の不正請求を行っていたことが、7日に公表された特別調査委員会の報告書で明らかになった。調査の結果、不正請求額は総額28億4,700万円に上ると試算されている。報告書によると、サンウェルズは全国14都道府県で約40ヵ所の「PDハウス」を運営。訪問看護事業において、実際には数分しか訪問していないにもかかわらず、30分間訪問したと虚偽の記録を作成し、診療報酬を請求するなどの不正が横行していた。また、実際には1人で訪問しているにもかかわらず、2人で訪問したと装い、加算報酬を請求するケースも確認された。さらに、特定の入居者に対し、必要がないにもかかわらず毎日3回の訪問を行い、過剰な請求を行っていたことも判明。現場の職員の間では「訪問回数を減らせばペナルティーが科される」という認識が広まり、不正が慣例化していた可能性が高い。経営陣はこうした問題について複数回の内部通報を受けていたものの、実態把握に動かなかったとされる。サンウェルズは当初、不正の疑惑を全面否定していたが、昨年9月の報道を受けて特別調査委員会を設置。今回の調査結果を受け、「多大なご迷惑をおかけし、深くお詫び申し上げます。再発防止策を速やかに策定し、信頼回復に努める」と謝罪のコメントを発表した。一方で、同社の経営陣にはインサイダー取引の疑惑も浮上している。昨年7月、サンウェルズは不正の指摘を受けながらも、東証プライム市場へ移行し、野村證券を主幹事とする株式の売り出しを実施。社長の苗代 亮達氏は個人で34億円の売却益を得ていた。市場関係者からは「不正を認識したまま株式を売却した可能性がある」として、金融商品取引法違反の疑いも指摘されている。今回の不正請求問題は、サンウェルズだけでなく、業界全体にも波紋を広げる可能性がある。ホスピス型老人ホームの需要が高まる中で、制度の見直しや行政のチェック体制の強化が求められている。参考1)特別調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ(サンウェルズ社)2)約28億4,700万円の不正請求と調査委が試算…金沢市に本社の「サンウェルズ」の訪問看護事業めぐり(石川テレビ)3)老人ホームのサンウェルズ、ほぼ全施設で不正請求 調査委が報告書(毎日新聞)4)ほぼ全施設で不正請求 PDハウス運営サンウェルズ 調査委報告書 過剰訪問看護で28億円(中日新聞)5)東証プライム上場サンウェルズが老人ホームほぼ全てで介護報酬不正請求!社長の「インサイダー取引」疑惑に発展か(ダイヤモンドオンライン)

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