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電話相談って困るんだけど…【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第9回

電話相談って困るんだけど…Point受診時期、受診可能な施設、搬送手段が明確になるような相談をしよう。相手の現状理解や、今後どう行動するかを確認する丁寧な対応を心がけよう。電話相談で診断をつけず、病態から予想されうる疾患の徴候を伝えて、再相談・受診の目安をわかりやすく伝えよう。症例その日の深夜帯は忙しく、立て続けに心筋梗塞やクモ膜下出血が搬送され、当直帯のスタッフは処置につきっきりだった。そんな時、2歳男児の母親から受診相談の電話がかかってきた。その日の午後に近医を受診し、嘔吐、下痢、腹痛で受診し胃腸炎と診断されたが、まだ、痛がっているので救急外来に受診したい旨の電話だった。母親によると前日に男児の4歳の姉も胃腸炎と診断され、姉は元気になったが、兄は痛がって寝つけないため心配だとの相談だった。当直医は処置に追われていることもあり、すでに診断されて内服薬もあるのだから大丈夫だろうと、やや早口で「胃腸炎でしたら、様子をみてもらえば大丈夫です」とだけ告げて電話を切った。翌日に小児科を受診し、腸重積と診断されそのまま入院となった。男児の両親から、「すぐに入院が必要な状態だったのに前日の電話対応はなんだ」と怒りのクレームを受けることになった。おさえておきたい基本のアプローチ昨今、電話救急医療相談(救急安心センター事業#7119)は全国的に広まりつつあり、日本国民の79%をカバーしている1)。一方で、多くの地域ではサービスが利用できず、またかかりつけ医に直接電話で相談する患者もいるだろう。夜中の電話相談は、なかなか難しいものだ。診察なしに、患者本人や家族からの情報だけで適切な判断を求められる、「これは何かの罠だろうか? あー、早く偉い人がAIとか進歩させて患者相談が全自動になって、この原稿もお役御免にならないかなー」と流れ星に願いをかけてみるも、もうしばらくは電話相談と付き合っていかなければならなさそうだ。そもそも、電話相談で大事なポイントは何だろうか? 相談相手が適切な受診行動をとることが最重要だ。(1)受診時期、(2)受診可能な施設、(3)搬送手段が相手に伝わるようにしよう。まず、受診時期については、病態の緊急度が相関する。今すぐに治療が必要な病態で、急いで救急外来を受診すべき状態か、今すぐの受診は必要ないが2、3日以降にかかりつけ医を受診して診察・治療が必要な状態か、かかりつけ医の次の予約外来の診察で間に合うのか、われわれの判断で患者の受診行動が大きく変わり、患者の転帰が変わることもある。前医の診断を鵜呑みにして判断すると、痛い目にあうのが電話相談の大きな落とし穴だ。実際に診察しないと、はっきりしたことは言えないとしっかり電話越しに伝える必要がある。夜中だと電話を受ける側も楽な疾患に飛びつきやすく、バイアスに陥りやすいものだ。受診可能な医療機関については、その地域ごとのルールを参照してほしい。とくに精神科、小児科、歯科については特別なルールがあることが多いだろう。かかりつけ医での対応なのか、対応する専用の施設があるのか、輪番病院での対応なのか。また、休日や夜間帯によっても、対応施設が変わるので、そこも考慮してほしい。搬送手段についても病態に応じたアドバイスが必要だ。酸素投与やルート確保も必要で救急車による搬送が考慮される病態、公共交通機関で受診が可能な病態、病態は緊急ではなくともADLの低下などで歩行不可能な高齢者で民間の介護タクシーなどの手段が必要な病態などが考えられる。病態に応じた搬送手段を提案しよう。上記を考慮に入れた電話相談のポイントを表に示す。表 電話相談のポイント画像を拡大する落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「電話対応で心配いらない旨を伝えたのですが、もう一度電話がかかってきて、別のスタッフにまた同じ相談をしていました賢明な読者は、普段の病状説明では紙に病名や対応を大きな文字でわかりやすく書き、ときに図示して工夫されていることだろう。一方、電話相談では音声でのコミュニケーションに限られる(今後オンライン診療やWeb会議システムで相談が置き換わるようであれば変わるかもしれないが)。普段は文字で書けば通じる言葉でも、音声だと一気に難易度アップ! まして、難聴の高齢者からの電話相談ではなおさらだ。ちゃんとこちらの伝えたい意図が伝わっているかを確認するうえで、現在の状態をどう理解したのか、これからどう行動するのかを相手から言ってもらって(復唱してもらって)、相談の終わりに確認しよう。これで不要な受診や電話が減って、平和な夜が過ごせること請け合いだ。Point電話相談は音声伝達であるため、相手の理解、どう行動するかを確認しよう話を聞いたら、前医で診断、処方があって外来でのフォロー予定も入っていたので、そのまま経過をみるように伝えました前医で診断を受け処方をされ外来でのフォローの予定が決まっていても、何か様子が変わったところがあったり、別の症状が出現したりで、心配になり電話をかけてきたのだろう。その心配な点を聞かずに、ただ経過を見なさいでは、相談者も納得がいかないだろう。相手の不安な点、ニーズを丁寧に聞き取ると、実は見逃してはいけない疾患が隠れていたなんてこともあるだろう(いや、これが結構あるんだよ。今回の症例でも腹痛がメインになる「胃腸炎」なんて誤診もいいところ!)。前医の診断をそもそも電話で聞いただけで信じてはいけない。診察なしに診断なんてできないと、明確に電話相談者に伝えるべきである。でもつっけんどんに冷たくあしらうのではダメ。共感的声色をもって対応しよう。落とし穴にはまらないよう、カスタマーセンターのスタッフになったつもりで聞いてみよう。日中、自分の病院にかかっている場合は、日中見逃されていた可能性もあり、ハイリスクと考えて受診してもらうほうが無難なんだよ。Point相手の不安に思う点を丁寧に聴取して、解消に努め、必要があれば再受診を促そう前医の診断は疑ってかかれ!不眠の訴えで電話があったので、翌日受診をお勧めしたのですが、自殺企図で救急搬送されました不眠の訴えの裏に、うつ病などの希死念慮を伴う精神疾患が存在することもある。緊急性のある精神疾患が隠れていないか確認して、場合によっては精神科救急への受診を勧めることも必要になる。また精神疾患があっても、生命を脅かすのは器質的疾患や外因によるものだから、精神疾患で片づけてしまってはいけない。Pointメンタルヘルスの電話相談にも緊急性のある疾患を考慮して適切に受診を促す電話で小児の母親から「嘔吐と下痢と腹痛があって周囲に流行もある」と聞いたので感染性胃腸炎と診断し、伝えましたあくまで電話相談では、現在の病態が受診すべきどうかを判断して、受診時期や施設、搬送手段についてアドバイスすることが求められる。限られた情報での診断は難しいし危険である。疑われる疾患やありうる疾患と徴候などを伝え、どうなったら再相談、受診したほうがよいのかを丁寧にアドバイスしよう。そのうえで、実際に診察しない電話だけでは診断はなかなかわからないものなので、適切なアドバイスができなくてすみませんと伝えよう。「どうせ電話でなんて診断がわかるわけがないんだから、心配ならきちんと受診しなさいよ!」なんて高圧的な態度で対応するのはダメチンだよ。また、高齢者や小児の家族からの相談は自分でうまく症状が伝えられないことが多く、訴えが聴取しにくい。高齢者では急にいつもと様子が違う状態になったならば、感染症などの背景疾患からせん妄になっていることも考えられるため、高齢者の受診の閾値は下げるべきだ。高齢者では、症状をマスクする解熱鎮痛薬、循環作動薬、抗凝固薬、抗血小板薬、抗がん薬やステロイドなどの免疫抑制薬を定期内服していることも多い。カルテなどの情報がなければ、内服の丁寧な聴取も病態判断に重要だ。また、小児では予備能が低く血行動態が破綻しやすいため、重症になるまでの時間が成人よりも急激であることが多い。症状が持続しているならば受診を勧めよう。親にとって、子供は自分の命に代えても大事な宝物なのだから。Point電話相談だけで診断はつけられない。予想される疾患や再相談や受診の目安を伝えようワンポイントレッスン電話相談の小ネタ〜これであなたも電話相談したくなる!?電話相談では、どんな相談が多い?スウェーデンの80歳以上の高齢者の電話医療相談の研究では、全体の17%が薬剤関連で、自分の入院に関連した情報(既往歴や内服などの情報照会)、尿路関連、腹痛といった相談が続く2)。薬剤関連が多いのは高齢者という特性が大きく関連しているだろうが、皆さんの実感とも近いだろうか。電話相談で不要な診察はどのくらい減らせる?デンマークの研究では、電話相談による介入で不適切な頻回受診が16%減らせるとの報告がある3)。また、英国の電話相談サービス“NHS111”にかかってきた救急外来受診相談にgeneral practitionerが介入することで、73%が救急外来受診以外の方針(1次医療機関や軽傷対応施設の受診:45.2%、経過観察など:27.8%)となったことが報告された4)。適切な電話相談で相当数の不要不急の診察が減らせそうだ。電話相談だけで済ませることになっても有害事象は起こっていない?電話相談を行っている地域と行っていない地域とで比較した報告によると、有害事象や死亡の転帰をたどった率はそれぞれ、0.001%、0.2〜0.5%だった3)。適切な電話相談が行われれば、相談者に有害な転帰をたどる可能性はきわめて低いといえる。 電話相談による医療コストは減らせる?これだけ不要な診察を減らして有害事象も起こさない電話相談なら、医療費削減にもよいのでないかと思うだろう。しかし、現在のところ英国の研究によれば、議論の余地があるところだ。救急医療コストの29%を減らしたとする一方、そのうちの75%は電話相談サービスの運営コストで相殺される。今後AIなどの発達によって相談サービスのコストが削減できると結果は変わってくるだろう。電話相談で患者の救急医療の満足度は変わる? 認識は変わる?電話相談によって大幅なコストダウンは見込めないが、患者満足度はどうだろうか?イギリスの電話相談サービス“NHS 111”のあるエリアとないエリアで比較して、救急外来を受診した患者の満足度や救急医療に対する認識に変化があるか調査したが、救急医療への満足度、認識に変化はないとの報告だった5)。こちらも相談サービスの質向上によって改善しうるだろう。勉強するための推奨文献 Ismail SA, et al. Br J Gen Pract. 2013;63:e813-820. Knowles E, et al. BMJ Open. 2016;6:e011846. 石川秀樹 ほか. 日本臨牀. 2016;74:p.303-313. 参考 1) 総務省消防庁HP. 救急安心センター事業(#7119)関連情報 2) Dahlgren K, et al. Scand J Prim Health Care. 2017;35:98-104. 3) Ismail SA, et al. Br J Gen Pract. 2013;63:e813-820. 4) Anderson A, Roland M. BMJ Open. 2015;5:e009444. 5) Knowles E, et al. BMJ Open. 2016;6:e011846. 執筆

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医療従事者におけるベンゾジアゼピン使用が仕事のパフォーマンスに及ぼす影響

 不眠症や不安症の治療によく用いられるベンゾジアゼピン(BZD)は、スペインでの使用が増加しており、濫用や依存のリスクに対する懸念が高まっている。スペイン・Miguel de Cervantes European UniversityのCarlos Roncero氏らは、医療従事者におけるBZDおよびその他の向精神薬の使用状況を調査し、その使用率、関連因子、そしてCOVID-19パンデミック後のメンタルヘルス問題との関連性を評価した。Journal of Clinical Medicine誌オンライン版2025年6月16日号の報告。 Salamanca University Healthcare Complex(CAUSA)の医療従事者1,121人を対象に、2023年3月〜2024年1月に匿名オンライン調査を実施した。完全解答が得られた685人のデータを分析した。不眠症、不安症、うつ病の評価には、不眠症重症度質問票(ISI)および患者健康アンケート(PHQ-4)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・回答者のうち、睡眠薬を使用していると解答した割合は23.8%、そのうち27.8%は処方箋なしと回答した。・さらに、うつ病または不安症の治療薬を使用していた人の割合は14.7%、処方箋なしと回答したのは、わずか0.6%であった。・睡眠薬の使用と関連していた因子は、高齢、不眠症、不安症、うつ病、心理療法または精神科治療、COVID-19の後遺症、睡眠障害の診断であった。・夜勤は、男性では睡眠薬の使用増加と関連が認められたが、女性では認められなかった。・これらの薬剤の使用は、QOL低下や仕事のパフォーマンス低下との関連が認められた。 著者らは「BZDの使用、とくに自己判断での使用は、医療従事者の間で広くみられており、一般集団よりも高かった。これらの結果は、向精神薬の使用に対処し、不眠症に対する他の薬理学的および非薬理学的な代替療法の促進、脆弱集団に対するメンタルヘルス支援の強化などターゲットを明確にした介入の必要性を浮き彫りにしている」と結論付けている。

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抗うつ薬中止後の離脱症状発生率とうつ病再発への影響

 抗うつ薬中止後にみられる離脱症状の発生率やその性質は依然としてよくわかっていない。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのMichail Kalfas氏らは、抗うつ薬の服用を中止した患者において、標準化された尺度(Discontinuation-Emergent Signs and Symptoms[DESS]など)を用いた離脱症状の有無およびそれぞれの離脱症状の発生率を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2025年7月9日号の報告。 2023年11月7日までに公表された研究をEmbase、PsycINFO、Ovid MEDLINE、Cochrane Libraryの各データベースよりシステマティックに検索した。対象研究は、抗うつ薬中止後に、標準化された尺度を用いて離脱症状を報告したランダム化臨床試験(RCT)、それぞれの離脱症状(有害事象など)を報告したRCTとした。抽出したデータは、2人のレビューアーによるクロスチェックを行った。11件のRCTより未発表のデータも追加で対象に含めた。抗うつ薬中止患者、抗うつ薬継続患者、プラセボ中止患者との標準化平均差(SMD)を算出するために、ランダム効果メタ解析を実施した。プラセボと比較したそれぞれの離脱症状の発生率を評価するため、割合およびオッズ比(OR)のメタ解析を行った。異なる抗うつ薬の比較は、サブグループ解析として実施した。データ解析は、2024年9〜12月に行った。主要アウトカムは、標準化された尺度または標準化されていない尺度を用いて測定した抗うつ薬中止に伴う離脱症状の発生率とその性質とした。 主な結果は以下のとおり。・50研究(1万7,828例、女性の割合:66.9%、平均年齢:44歳)のうち、49研究をメタ解析に含めた。・フォローアップ期間は、1日〜52週間。・DESSのメタ解析では、抗うつ薬中止患者は、プラセボまたは抗うつ薬継続患者と比較し、1週間後の離脱症状の増加が認められた(SMD:0.31、95%信頼区間[CI]:0.23〜0.39、11研究、3,915例)。・エフェクトサイズは、DESSにおける1症状増加に相当した。・抗うつ薬中止は、プラセボ中止と比較し、浮動性めまい(OR:5.52、95%CI:3.81〜8.01)、悪心(OR:3.16、95%CI:2.01〜4.96)、回転性めまい(OR:6.40、95%CI:1.20〜34.19)、神経過敏(OR:3.15、95%CI:1.29〜7.64)のオッズ増加と関連していた。・最も多く認められた離脱症状は、浮動性めまいであった(リスク差:6.24%)。・離脱症状の測定は、うつ病患者(5研究)で測定されたにもかかわらず、抑うつ症状との関連は認められなかった。 著者らは「抗うつ薬中止後1週間目における離脱症状の平均数は、臨床的に意義のある離脱症候群の閾値を下回っていることが示唆された。気分症状の悪化は、抗うつ薬中止と関連していなかったことから、中止後の抑うつ症状の再燃は、うつ病の再発を示唆する可能性がある」と結論付けている。

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うつ病の維持期治療:患者さんの視点から/日本うつ病学会

維持療法にも目を向けて 2025年、うつ病診療ガイドラインが改訂され、うつ病の維持期治療について新しく取り上げられることになった。寛解の後、どのように治療を継続するか、あるいは治療を終了するのかは非常に重要である。 2025年7月11日、第22回日本うつ病学会総会共催シンポジウムにて「うつ病の維持期治療~患者さんの声とともにリカバリーの課題について考える~」と題したセッションが開催され、うつ病の経験を持つ林 晋吾氏が患者さん本人の視点から講演を行った。うつ病患者の回復と家族の視点~残遺症状とEmotional Bluntingの理解~ 林氏は2010年にまずパニック障害を発症し、その後うつ病を発症した。現在は寛解状態にあり、うつ病などの精神疾患を持つ患者さんの家族向けのコミュニティサイトの運営を行っている。当事者としての経験と家族支援を通して見えた維持期における課題として、残遺症状とEmotional Blunting、そして患者家族を含めた環境整備を挙げた。 林氏は寛解後も残遺症状である倦怠感や気分の落ち込み、集中力の低下を感じており、自己否定が強まり、人に相談できない状態に陥ることがあると述べた。また、Emotional Bluntingの影響についても自身の経験をもとにどのような状況になるかを説明した。 Emotional Bluntingとは感情の麻痺や平坦化、無関心、感情的な反応が低下している状態を指し、ポジティブな感情もネガティブな感情も感じにくくなる。Emotional Bluntingによって他人だけでなく自分自身へも関心が持てなくなり、結果として社会との繋がりを避けるようになり、自分自身を矮小な存在と感じてしまうことがあった、と林氏自身の経験を語った。 さらに患者家族の支援を通した活動から、Emotional Bluntingは本人だけでなく、患者家族にも影響を与ることがわかった。感情の麻痺や平坦化、無関心、反応の低下により、患者家族が戸惑いや無力感、悲しみ、患者との距離感などを感じることがあるという。必要とされるサポートとは これらのことから、林氏は2つの観点からサポートの必要性を指摘する。 1つ目は医療者からの情報提供である。患者さん自身、そして患者家族も「この状態は病気の一部である」と理解することで戸惑いは軽減される。そのため、パンフレットなどを活用した情報提供によって理解を支えることが望ましい。 2つ目は患者さんが安心して話せる環境づくりである。「以前興味があったことに関心が持てないことはありませんか?」など、感情の変化に気づけるような問いかけがあると、患者さんも話しやすくなる。つまり、何かおかしいと感じたときに伝えられる環境を作ることが重要である。 うつ病の維持期に見られる残遺症状やEmotional Bluntingは患者さん本人だけでなく、家族にも大きな影響を与える。そのため、これらの症状に対する理解と支援のためには、正確な情報提供と安心して話せる場の整備が欠かせない、と自らの経験を通して維持期の治療で注目すべき点について林氏は語った。

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統合失調症患者の認知機能改善に対するメトホルミンのメカニズム

 認知機能低下は、統合失調症の長期予後に悪影響を及ぼす病態であるが、効果的な臨床治療戦略は依然として限られている。トリカルボン酸(TCA)回路の破綻と海馬における脳機能異常が認知機能低下の根底にある可能性が示唆されているが、これらの本質的な因果関係は十分に解明されていない。とくに、ビグアナイド系糖尿病薬であるメトホルミンは、統合失調症患者のさまざまな認知機能領域を改善することが示されており、TCA回路を調節する可能性がある。中国・The Second Xiangya Hospital of Central South UniversityのJingda Cai氏らは、以前、研究において、メトホルミン追加投与が統合失調症患者の認知機能を改善することを報告した。本研究では、認知機能改善とTCA回路代謝物および脳機能との関連を調査した。BMC Medicine誌2025年7月1日号の報告。 対象は、同様の状態にある統合失調症患者58例。メトホルミン1,500mgを24週間追加投与したメトホルミン群と対照群に割り付けた。液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)法を用いて統合失調症患者の血中における主要なTCA回路代謝物の濃度を検出し、MRIスキャンを実施した。臨床症状の評価には陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)、認知機能の評価にはMATRICSコンセンサス認知機能評価バッテリー(MCCB)中国語版を用いた。 主な結果は以下のとおり。・メトホルミン投与24週間後、TCA回路におけるアップストリームの乳酸(24週目:−80.81μg/mL[−96.85〜−64.77])、ピルビン酸(24週目:−17.51μg/mL[−20.52〜−14.49])レベルが低下した。一方、他の7つのダウンストリームの代謝物レベルは上昇した(各々、p<0.001)。・左海馬尾部と右内腹側後頭葉皮質(12週目の群間差:−0.334)、右海馬尾部と右中前頭回(24週目の群間差:0.284)との間の機能的連結性は両群間で有意な差が認められた(p<0.001)。・メトホルミンによる認知機能(ワーキングメモリー/言語学習)および海馬機能連結性(右海馬尾部と右中前頭回)の改善は、TCA回路代謝物の変化と関連していた。 本研究の限界として、サンプル数やフォローアップ期間が不十分な点、メカニズムの詳細は検討が不十分な点が挙げられる。 著者らは「統合失調症患者に対するメトホルミン追加投与は、エネルギー代謝を調節することで、認知機能を改善する可能性が示唆された」と結論付けている。

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アリピプラゾールLAIの長期結果〜10年間ミラーイメージ研究

 統合失調症などの精神疾患では、再発が頻繁に発生する。長時間作用型注射剤抗精神病薬(LAI)は、入院予防や服薬アドヒアランス、患者アウトカムの改善に有効であるにもかかわらず、依然として十分に活用されているとはいえない。さらに、新規製剤や縦断的研究によるエビデンスは、一般的に長期投与されているにもかかわらず、限られたままである。このようなデータ不足を解消するため、英国・West London NHS TrustのJoshua Barnett氏らは、長時間作用型製剤として入手可能な唯一の第3世代抗精神病薬アリピプラゾールLAIの月1回投与の長期的な有効性および受容性を評価するため10年間のミラーイメージ研究を実施した。Schizophrenia誌2025年6月23日号の報告。 実用的かつ独立した10年間のミラーイメージ研究は、英国ロンドンの大規模都市部メンタルヘルスサービスにおいて実施した。アリピプラゾールLAI投与を開始した成人患者を対象に、5年間の入院率および治療継続率を評価した。治療開始前後5年間の入院頻度と期間、治療中止率およびその理由は電子記録によって記録された。治療完了群と治療中止群、統合失調症患者と非統合失調症患者でのアウトカムの違いを比較する解析を別途実施した。 主な内容は以下のとおり。・本研究には、合計135例(統合失調症患者:63%、非統合失調症患者:37%)が含まれた。・5年後の治療中止率は47%(1年目:23.7%、2年目:13.6%、3年目:7.9%、4年目:7.3%、5年目:5.3%)であった。・5年間のアリピプラゾールLAI治療を完了した患者は53%であり、治療開始前の5年間と比較し、平均入院回数が88.5%減少(1.57回から0.18回へ減少、p<0.001)、平均入院日数が90%減少した(103日から10日へ減少、p<0.0001)。・入院回数中央値は1回から0回、入院日数中央値は68日から0日に減少した(各々、p<0.001)。・対照的に、治療中止群(47%)はアウトカム不良であり、5年間の入院回数の減少率は29.9%であった。・治療中止の主な理由は、コンプライアンス不良、効果不十分であり、忍容性によるものはほとんどなかった。・他のLAIからアリピプラゾールLAIへの切り替え以外で、治療継続を予測する主な臨床的および人口統計学的因子は認められなかった。・アウトカムは、診断にかかわらず一貫していた。・潜在的な交絡因子として、厳格な適格基準による多くの患者の除外、研究期間中の医療政策の変更などが挙げられる。 著者らは「本研究は、アリピプラゾールLAIによる5年間の治療における入院および治療継続を評価した初めての研究である。アリピプラゾールLAIの使用は、入院回数の大幅な減少と関連しており、治療完了群の85%は再入院の必要がなかったのに対し、治療中止群では30%にとどまった。これらの実臨床における知見は、アリピプラゾールLAIの長期的な価値を裏付けており、臨床意思決定におけるLAI導入の障壁を解消するうえで役立つ可能性がある」としている。

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抗精神病薬の早期処方選択が5年後の体重増加に及ぼす影響

 英国・マンチェスター大学のAdrian Heald氏らは、精神疾患1年目における抗精神病薬による治療が、その後5年間の体重増加に及ぼす影響を分析した。Neurology and Therapy誌2025年8月号の報告。 対象は、精神症、統合失調症、統合失調感情障害、妄想性障害、情動精神症と初めて診断された患者1万7,570例。5年間の体重変化を調査し、診断1年目に処方された抗精神病薬との関連を30年にわたり評価した。 主な結果は以下のとおり。・初回抗精神病薬処方時の年齢は、大半が20〜59歳(65%)であった。・ベースライン時の平均BMIは、男女共に同様であった。・BMIの大幅な増加が認められた。とくに肥満患者(BMI:30kg/m2以上)では、体重カテゴリーの変化が最も大きく、女性では30〜43%、男性では26〜39%に増加した。一方、対象患者の42%では、体重の有意な増加は認められなかった。・ペルフェナジン、フルフェナジン、amisulprideを処方された患者は正常BMIを維持する可能性が最も高く、アリピプラゾール、クエチアピン、オランザピン、リスペリドンを処方された患者は、最初の1年間で正常BMIから体重増加、過体重(BMI:25.0〜29.9 kg/m2)、肥満(BMI:30.0kg/m2以上)に移行する可能性が最も高かった。・定型抗精神病薬であるthioridazine、クロルプロマジン、flupenthixol、trifluoperazine、ハロペリドールは、BMIカテゴリーの変化の可能性が中程度であると評価された。・多変量回帰分析では、体重増加と関連する因子は、若年、女性、1年目に処方された抗精神病薬数、アリピプラゾール併用(75%併用処方または第2/第3選択薬としての使用を含む)オランザピン併用、thioridazine併用(各々、p<0.001)、リスペリドン併用、クエチアピン併用(各々、p<0.05)であった。・体重増加7%以上の多変量ロジスティック回帰分析では、特定の薬剤は類似しており、薬剤のオッズ比はクエチアピンの1.09(95%信頼区間[CI]:1.00〜1.21)からthioridazineの1.45(95%CI:1.20〜1.74)の範囲であった。 著者らは「診断1年目に複数の抗精神病薬を処方された患者および若年女性では、体重増加リスクが高かった。一部の定型抗精神病薬は、非定型抗精神病薬と同程度の体重増加との関連が認められた。なお、40%以上で体重増加は認められなかった」と結論付けた。

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青年期統合失調症患者に対するブレクスピプラゾールの長期安全性

 米国・Evolution Research GroupのSarah D. Atkinson氏らは、青年期統合失調症の維持療法として非定型抗精神病薬ブレクスピプラゾールを使用した際の長期的な安全性および忍容性を評価するため、24ヵ月多施設共同単群オープンラベル試験を実施し、その中間解析結果を報告した。JAACAP Open誌2024年5月27日号の報告。 対象は、13〜17歳の統合失調症患者。経口ブレクスピプラゾール1〜4mg/日(可変用量)を投与した。主要エンドポイントは、治療関連有害事象(TEAE)、重症度別TEAE、重篤なTEAE、治療中止に至った有害事象の発現率とした。 主な結果は以下のとおり。・中間解析時点での症例数は169例。そのうち114例(67.5%)が治療継続中、24ヵ月の試験完了が23例(13.6%)、試験中止は32例(18.9%)であった。・試験中止の主な理由は、患者自身による離脱。・試験参加者の平均年齢は15.6歳、女性の割合は52.7%、白人の割合は79.9%。・全体として、治療を受けた167例中95例(56.9%)において、1つ以上のTEAEが報告された。最も報告が多かったTEAEは、傾眠(10.2%)、頭痛(9.0%)、体重増加(9.0%)、鼻咽頭炎(6.6%)であった。・ほとんどのTEAEの重症度は、軽度〜中等度であった。・自然成長を考慮したうえで、臨床的に意味のある体重増加は33例(19.8%)でみられた。・重篤なTEAEは5例(精神病性障害:2例、非致死的自殺企図:1例、毛巣洞:1例、精神運動性多動:1例)で報告されたが、いずれも試験期間中に回復した。・有害事象のため治療を中止した患者は2例であり、1例は重篤な非致死的自殺企図によるものであり、もう1例は下垂体機能亢進症および体重増加によるものであったが、いずれも退院時には安定していると判断された。 著者らは「青年期統合失調症に対するブレクスピプラゾール維持療法の安全性プロファイルは、成人患者の場合とおおむね同様であった。青年期患者では、体重増加を注意深くモニタリングし、正常な成長に伴う体重増加と比較する必要がある」と結論付けている。

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老年期気分障害における多様なタウ病理がPET/剖検で明らかに

 老年期気分障害は、神経変性認知症の前駆症状の可能性がある。しかし、うつ病や双極症を含む老年期気分障害の神経病理学的基盤は依然としてよくわかっていない。国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の黒瀬 心氏らは、老年期気分障害患者におけるアルツハイマー病(AD)および非ADタウ病態の関与について調査した。Alzheimer's & Dementia誌2025年6月号の報告。 対象は、老年期気分障害患者52例および年齢、性別をマッチさせた健康対照者47例。18F-florzolotauおよび11C-Pittsburgh compound Bを用いたtau/Aβ PET検査を実施した。さらに、さまざまな神経変性疾患を含む208例の剖検例における臨床病理学的相関解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・老年期気分障害患者は、健康対照者よりもtau PETおよびAβ PETで陽性となる可能性が高かった。・PETの結果は、剖検結果により裏付けられ、老年期躁病またはうつ病患者は、そうでない患者よりも多様なタウオパチーを有する可能性が高かった。 著者らは「本試験におけるPETおよび剖検結果は、ADおよび非ADタウ病態が一部の神経病理学的基盤となっている可能性を示唆している」としている。

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悪夢は早期死亡リスクを高める

 悪夢に関しては、「死ぬほど怖い」という表現が当てはまる可能性があるようだ。悪夢を頻繁に見る人は生物学的年齢が進んでおり、早死にするリスクが約3倍高まることが、新たな研究で明らかにされた。この研究結果は、英インペリアル・カレッジ・ロンドン(UCL)の神経科学者であるAbidemi Otaiku氏により、欧州神経学会(EAN 2025、6月21〜24日、フィンランド・ヘルシンキ)で発表された。 Otaiku氏は、「睡眠中の脳は夢と現実を区別することができない。それゆえ、悪夢を見て目が覚めたときにはたいていの場合、汗をかいて息を切らし、心臓がドキドキしている。これは、闘争・逃走反応が引き起こされているからだ。このストレス反応は、起きている間に経験するどんなことよりも激しい場合がある」と同氏は話す。 この研究では、4つのコホート研究(26〜74歳の4,196人が対象)のデータを用いて、悪夢を見る頻度と早期死亡(75歳未満での死亡)および生物学的年齢との関連が検討された。悪夢の頻度は、対象者が試験開始時に自己報告していた。対象者の生物学的年齢は、3種類のエピジェネティッククロック(DunedinPACE、GrimAge、PhenoAge)を組み合わせた指標により、研究開始時に評価された。エピジェネティッククロックは、DNAのメチル化パターンに基づいて生物学的年齢を推定する指標である。 18年間の追跡期間中に227件の早期死亡が発生していた。解析からは、悪夢を見る頻度が高いほど早期死亡のリスクが有意に高くなることが示された。試験開始時に悪夢を見ないと報告した群と比較して、悪夢を週に1回以上見ると報告した群では早期死亡リスクが約3倍高かった(調整ハザード比2.73、P<0.001)。また、悪夢を見る頻度が高い群では、生物学的加齢が加速していることも明らかになった。さらに、媒介分析からは、生物学的加齢の加速は悪夢の頻度と早期死亡との関連の39%を媒介していることも示された。 Otaiku氏は、「悪夢は、細胞の老化の加速に密接に関連するストレスホルモンであるコルチゾールレベルの長期にわたる上昇につながる。頻繁に悪夢を見る人にとって、この蓄積されたストレスは、老化プロセスに重大な影響を及ぼす可能性がある」と指摘している。さらに同氏は、「悪夢は睡眠の質と睡眠時間を阻害し、睡眠中に体内で行われる細胞レベルの回復・修復プロセスに不可欠な機能を阻害する。慢性的なストレスと睡眠障害の相乗効果は細胞と体の老化を加速させる可能性が高い」と指摘している。 一方でOtaiku氏は、「良いニュースとしては、悪夢は予防と治療が可能であるということだ。怖い映像を避ける、睡眠衛生を保つ、ストレスを管理する、不安やうつ病の治療を受けるなどの対策が、悪夢の予防に効果的だ」と話す。また、生活習慣を変えても悪夢を見続ける人は、睡眠専門家に頼ることも検討すべきだと助言している。同氏は、「悪夢は珍しいものではなく、また、予防可能であることを考えると、公衆衛生上の懸念としてもっと真剣に受け止められるべきだ」との見解を示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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脳卒中後の慢性期失語症、C7神経切離術+集中的言語療法が言語機能改善/BMJ

 脳卒中後の慢性期失語症において、第7頸神経(C7)の神経切離術+3週間の集中的言語療法(SLT)は3週間のSLT単独と比較して、6ヵ月間の試験期間中、言語機能がより大きく改善し、重篤な有害事象および長期にわたる煩わしさを伴う症状や機能喪失は報告されなかった。中国・復旦大学のJuntao Feng氏らが、多施設共同評価者盲検無作為化試験の結果を報告した。脳卒中後の慢性期失語症の治療は困難で、SLTが主な治療法だが有効性の改善が求められている。また、SLTをベースとした付加的かつ持続的効果をもたらす新たな治療技術は提案されていなかった。BMJ誌2025年6月25日号掲載の報告。集中的言語療法単独と比較した無作為化試験を中国4施設で実施 脳卒中後の慢性期失語症患者におけるC7神経切離術+SLTとSLT単独を比較した試験は、中国大陸の4施設で、左半球の脳卒中後1年以上失語症を有する40~65歳を対象に行われた。 被験者は、右側C7神経切離術+SLT群(併用治療群)またはSLT単独群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けられ、治療施設による層別化も行われた。併用治療群では、右側C7神経切離術の1週間後に3週間のSLTが開始された。対照群では1週間の待機後に3週間のSLTが開始された。 主要アウトカムは、ベースラインから治療終了(無作為化後1ヵ月)時点の60項目Boston Naming Test(BNT)スコア(範囲:0~60、高スコアほど語想起機能が良好であることを示す)の変化であった。 副次アウトカムは、Western Aphasia Battery(WAB)を用いて算出した失語症指数(AQ)に基づく失語症重症度の変化、脳卒中後のQOLとうつ病に関する患者報告アウトカムなどであった。1ヵ月時点のBNTスコアの平均変化、併用治療群11.16 vs.対照群2.72 2022年7月25日~2023年7月31日に、脳卒中後失語症と診断された1,086例のうち322例が適格性のスクリーニングを受け、50例の適格患者が併用治療群と対照群に無作為化された(各群25例)。 50例の神経損傷から試験組み入れまでの期間中央値は、併用治療群28.8ヵ月(四分位範囲:21.2~45.0)、対照群25.3ヵ月(17.7~37.6)。中国版WABの分類基準に基づき、45例が非流暢性失語症(Broca失語症37例を含む)、5例が流暢性失語症であった。50例のうち42例が上肢の痙性麻痺を有し平均痙性度は1度(軽度痙性)であった。 ベースラインから1ヵ月時点までのBNTスコアの平均変化は、併用治療群11.16ポイント、対照群2.72ポイントであった(群間差:8.51ポイント[95%信頼区間[CI]:5.31~11.71]、p<0.001)。BNTスコアの群間差は、6ヵ月時点でも安定して維持されていた(群間差:8.26ポイント[95%CI:4.16~12.35]、p<0.001)。 AQも併用治療群が対照群と比較して有意に改善した(1ヵ月時点の群間差:7.06ポイント[95%CI:4.41~9.72]、p<0.001)。また、患者報告に基づく日常生活動作(ADL、バーセルインデックスで評価、1ヵ月時点の群間差:4.12[95%CI:0.23~8.00]、p=0.04)、脳卒中後うつ(6ヵ月時点の群間差:-1.28[95%CI:-2.01~-0.54]、p=0.001)も同様であった。 治療に関連した重篤な有害事象は報告されなかった。

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自己免疫疾患は気分障害リスクを高める

 関節リウマチ、炎症性腸疾患(IBD)、乾癬などの自己免疫疾患の罹患者は、一般集団に比べてうつ病、不安症(不安障害)、双極症(双極性障害)などの気分(感情)障害の発症リスクが約2倍高いことが、新たな研究で明らかになった。このようなリスク上昇は、男性よりも女性で顕著であることも示されたという。英エディンバラ大学臨床脳科学センターのArish Mudra Rakshasa-Loots氏らによるこの研究結果は、「BMJ Mental Health」に6月10日掲載された。 Rakshasa-Loots氏らはこの研究で、慢性炎症は抑うつ障害や不安症などの精神疾患の発症と関連していることを踏まえ、慢性炎症状態に置かれている自己免疫疾患患者では、精神的な健康問題を抱える割合が高いのではないかと考えた。この仮説を検証するために同氏らは、英国で新たに実施された大規模な健康調査(Our Future Health)に参加した18歳以上の成人156万3,155人のデータを解析した。この研究への参加にあたり、参加者は自身の身体的および精神的健康の履歴を報告していた。自己免疫疾患として、関節リウマチ、バセドウ病、IBD、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、乾癬の6つを対象としたところ、該当者は3万7,808人であった。 その結果、自己免疫疾患を有する人では、一般集団と比較して生涯に気分障害(うつ病、不安症、双極症)の診断歴を有する割合が有意に高いことが明らかになった(28.8%対17.9%、P<0.001)。気分障害の種類別に検討しても、結果は同様であった。また、自己免疫疾患を有する人では、現在抑うつ症状を有している(PHQ-9スコア≧10)割合が18.6%(一般集団10.5%)、現在不安症状を有している(GAD-7スコア≧8)割合が19.9%(同12.9%)であり、いずれも有意に高かった。 さらに、ロジスティック回帰モデルを用いた解析の結果、自己免疫疾患を有する人では一般集団と比べて気分障害を発症する可能性が有意に高く、オッズ比は1.86(95%信頼区間:1.82〜1.90)であった。この結果は、年齢、性別、気分障害の家族歴などの関連因子で調整後も維持された(オッズ比1.48、P<0.001)。 研究グループは、「これらの結果は、慢性炎症への曝露が気分障害のより大きなリスクと関連している可能性があるという仮説を裏付けている」と結論付けている。 さらに本研究では、性別ごとに気分障害の有病率を比較した結果、同じ身体疾患を有する場合でも、女性の方が男性よりも一貫して有病率が高いことも示された。具体的には、免疫疾患を有する人における生涯の気分障害の有病率は女性31.6%、男性20.7%、免疫疾患のない人では女性21.9%、男性12.7%であった。 研究グループは、「理論的には、性ホルモン、染色体因子、抗体の違いにより、これらの性差を部分的に説明できる可能性がある」と述べている。また研究グループは、うつ病の女性は血流中の炎症性化学物質のレベルが高い傾向にあることを指摘し、「これにより、女性では自己免疫疾患の有病率が高くなるとともに、免疫反応がメンタルヘルスに及ぼす影響も強まる可能性がある。こうした複合的な要因により、本研究で観察された女性での気分障害の有病率の高さが説明できる可能性がある」と述べている。 以上の結果を踏まえ研究グループは、「自己免疫疾患と診断された患者、特に女性患者に対する臨床ケアに定期的な精神疾患のスクリーニングを組み込むことで、気分障害の早期発見と、患者に合わせた精神保健介入の提供が可能になるかもしれない」と提言している。また、慢性的な痛み、疲労、睡眠障害、社会的孤立など、自己免疫疾患に関連する他の問題が気分障害のリスクに寄与しているかどうかを特定するために、さらなる研究を行う必要があると付け加えている。

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双極症とうつ病における白質変化の共通点と相違点

 双極症とうつ病の鑑別診断は、症状の重複のため依然として困難である。 米国・ピッツバーグ大学のAnna Manelis氏らは、双極症とうつ病における線維特異的な白質の差異を、fixel-based analysis(FBA)を用いて解析し、FBA指標が将来のスペクトラム気分症状を予測するかを調査した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2025年6月4日号の報告。 18〜45歳の双極症、うつ病、健康対照者163例を対象に、拡散強調MRIを実施した。主要な白質線維束における線維密度(FD)、線維断面積(FC)、線維密度断面積(FDC)を、FBAを用いて評価した。縦断的フォローアップ調査により、FBA指標が6ヵ月間のスペクトラムうつ病および軽躁病の症状軌跡を予測できるかを評価した。 主な結果は以下のとおり。・双極症とうつ病の直接比較において、双極症患者はうつ病患者よりも、右上縦束、鉤状束、左視床後頭葉経路におけるFDが低かった。・うつ病患者は双極症患者よりも左弓状筋膜のFDが低かった。・双極症およびうつ病患者は、健康対照者と比較し、脳梁体後頭葉、左線条体後頭葉、視放線経路におけるFDが低かった。・これらの経路におけるFDは、将来のスペクトラム症状の重症度を予測した。・探索的解析では、FD、薬物使用、マリファナ曝露との関連が明らかとなった。 著者らは「双極症とうつ病患者における明確かつ重複する白質変化が明らかとなった。さらに、重要な神経伝達物質であるFDは、将来の症状経過を予測する因子となりうる可能性があり、気分障害の予後予測のバイオマーカーとしてFDの臨床的有用性を裏付けるものである。治療や疾患進行が白質の微細構造に及ぼす影響を明らかにするためにも、さらなる縦断的研究が求められる」と結論付けている。

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トーキングセラピーが脳卒中後の抑うつや不安を改善

 脳卒中後の抑うつや不安に苦しむ患者に対し、会話を中心にした心理療法であるトーキングセラピーが有効であることが、新たな研究で示された。英国で国民保健サービス(NHS)が無料で提供している不安と抑うつのためのトーキングセラピー(Talking Therapies for anxiety and depression;TTad)を受けた脳卒中経験者の71.3%が抑うつや不安の症状の大幅な改善を経験し、約半数は脳卒中後の気分障害から完全に回復したことが示された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)精神保健リサーチフェローのJae Won Suh氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Mental Health」に6月5日掲載された。 Suh氏は、「脳卒中経験者がトーキングセラピーを始めるタイミングが早ければ早いほど、より良いアウトカムにつながることも分かった。脳卒中後の患者の診療に当たっている総合診療医(GP)などの臨床医は、患者の抑うつや不安の症状のスクリーニングを行い、できるだけ早く心理療法を紹介することが重要だ」とUCLのニュースリリースで述べている。 Suh氏らによると、脳卒中経験者の3人中1人が抑うつ症状を抱え、4人中1人以上が不安を抱えていると推定されている。また、脳卒中経験者は、一般人口と比べて脳卒中後1年以内にうつ病を発症するリスクが約2倍、不安症を発症するリスクが約4倍高いと報告されている。 Suh氏らは今回の研究で、2012~2019年にNHSのTTadを利用した193万9,007人のデータを調査した。その中には7,597人(0.4%)の脳卒中経験者が含まれていた。TTadは、気分障害に悩む住民に向けて、1対1、またはグループで行われる認知行動療法(CBT)やカウンセリングを、対面またはオンラインで無料提供するNHSのサービスである。参加者の抑うつや不安は、PHQ-9(Patient Health Questionnaire 9)やGAD-7(Generalized Anxiety Disorder-7)などの妥当性が確認されている質問票で評価された。 その結果、トーキングセラピーを受けた脳卒中経験者の71.3%(5,403人)で、抑うつや不安の症状の大幅な改善が認められた。また、49.2%(3,723人)は、症状が明確に改善し、抑うつおよび不安のスコアが診断閾値を下回って治療を完了する「信頼できる回復」を達成したことが確認された。さらに、機能障害(仕事や家庭の管理、社会的つながりの維持、余暇活動が困難になる状態)についても中等度の改善が確認された。このほか、脳卒中の発症後1年以上が経過してからトーキングセラピーを始めた場合、発症から6カ月以内に始めた場合と比べて回復の可能性が20%低下することも明らかになった。 論文の共著者の一人であるUCL老年学および臨床心理学教授のJoshua Stott氏は、「脳卒中未経験者と比較して、脳卒中経験者ではアウトカムが不良な傾向にある。このことは、精神保健の臨床医が認知障害や感覚障害、複雑な身体上の健康問題を抱えている人など、慢性疾患を有する患者に対応するためのさらなる訓練を受けることの重要性を示している」とニュースリリースの中で指摘。その上で、「このような訓練への投資は、何千人もの患者の精神的および身体的な健康アウトカムの向上をもたらすだろう」と付け加えている。

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うつ病の認知機能に対するセロトニン5-HT1A受容体パーシャルアゴニストの影響

 統合失調症に対するセロトニン5-HT1A受容体パーシャルアゴニスト(5-HT1A-PA)補助療法は、注意力/処理速度の改善と関連していることが報告されている。また、5-HT1A受容体は、気分障害の病態生理においても重要な役割を果たしていることが示唆されている。さらに、5-HT1A受容体への刺激が抗うつ効果を増強することを示す説得力のあるエビデンスも報告されている。国立精神・神経医療研究センターの山田 理沙氏らは、気分障害患者の認知機能改善に対する5-HT1A-PA補助療法の有効性を評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューを実施した。Neuropsychopharmacology Reports誌2025年6月号の報告。 1987〜2024年1月に公表された研究をPubMed、Cochrane Library、Web of Scienceデータベースより検索した。選択基準は、RCT、ヒトを対象、精神疾患(統合失調症/統合失調感情障害を除く)患者を対象、認知機能への影響を評価、英語論文とした。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングした80件の研究のうち、3件が選択基準を満たした。・血管性うつ病対象が2件、うつ病対象が1件。・うつ病において、buspironeとメラトニンの併用療法は、buspirone単独またはプラセボと比較し、主観的な認知機能の改善に有効であった。・血管性うつ病における実行機能および言語流暢性の改善に対し、エスシタロプラムとタンドスピロン併用療法は、エスシタロプラム単独よりも有効であった。 著者らは「気分障害患者の認知機能に対して潜在的により強力な効果の可能性を検討するためにも、新規5-HT1A-PAを用いたさらなる研究が求められる」としている。

36.

週1回のカプセル剤が統合失調症の服薬スケジュールを簡略化

 週1回のみの服用で胃の中から徐々に薬を放出する新しいタイプのカプセル剤によって、統合失調症患者の服薬スケジュールを大幅に簡略化できる可能性が新たな研究で明らかになった。この新たに開発された長時間作用型経口リスペリドンは、患者の体内のリスペリドン濃度を一定に保ち、毎日服用する従来の治療と同程度の症状コントロールをもたらすことが臨床試験で示されたという。製薬企業のLyndra Therapeutics社の資金提供を受けて米マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学准教授のGiovanni Traverso氏らが実施したこの研究の詳細は、「The Lancet Psychiatry」7月号に掲載された。 Traverso氏は、「われわれは、1日1回飲む必要があった薬を、週1回飲むだけで済むように作り変えた。この技術はさまざまな薬剤に応用可能だ」とMITのニュースリリースの中で述べている。 今回報告された最終段階の臨床試験の結果は、Traverso氏の研究室が10年以上かけて取り組んできた研究の成果だ。試験で使用されたカプセル剤は、マルチビタミンほどの大きさである。飲み込むと、胃の中でカプセル剤の6本のアームが星形に広がって胃の出口を通過できない大きさになり、そのまま胃の中で漂いながらアームから約1週間かけて徐々に薬を放出する。アームは溶解性で、最終的には分離して消化管を通過して排出される。Traverso氏の研究室は2016年、この星形の薬剤送達デバイスの開発について報告している。 試験では、米国内の5施設の統合失調症または統合失調感情障害を有する患者83人(平均年齢49.3歳、男性75%)を対象に、2種類の用量の長時間作用型経口リスペリドン「LYN-005」の有用性を検証した。リスペリドンは統合失調症の治療薬として広く使用されており、Traverso氏らによると、多くの患者が即放性のリスペリドンを1日1回服用しているという。試験参加者は、試験開始1週目は即放性リスペリドン(2mgまたは6mg)を1日1回服用する導入期間を経た後、LYN-005を週1回、計5回服用した。初回のLYN-005投与週のみ、半用量の即放性リスペリドンも併用した。試験を完遂したのは47人だった。 44人を対象に薬物動態を解析した結果、LYN-005の全用量において活性成分の持続放出が確認された。LYN-005と即放性リスペリドンの血中濃度指標における幾何平均比は、1週目の最小血中濃度(Cmin)で1.02、5週目では、Cminで1.04、最大血中濃度(Cmax)で0.84、平均血中濃度(Cavg)で1.03であり、いずれも事前に設定した薬物動体評価の基準を満たした。副作用に関しては、一部の患者に短期的な軽度の胃酸逆流や便秘が見られたが、全体的には少なく、重篤な治療関連有害事象の発生は1件だった。 こうした結果を受けてTraverso氏は、「この臨床試験では、カプセル剤が予測された薬物血中濃度を達成したことと、多くの統合失調症患者で症状をコントロールできることが確認された」としている。また、論文の筆頭著者である米ニューヨーク医科大学精神医学・行動科学臨床教授のLeslie Citrome氏は、「慢性疾患を抱える人の治療を阻む最大の問題の一つが、薬が継続的に服用されないことだ。それによって症状が悪化し、統合失調症の場合、再発や入院につながる可能性がある。薬を週に1回だけ経口摂取するという選択肢は、注射製剤よりも経口薬を好む多くの患者にとって服薬アドヒアランスの維持を助ける重要な選択肢になる」とニュースリリースの中でコメントしている。 Traverso氏らは、米食品医薬品局(FDA)に対するこのリスペリドンの投与アプローチの承認申請に先立ち、より大規模な第3相臨床試験の実施を予定している。また、避妊薬など他の薬剤の投与にもこのデバイスを用いる初期段階の臨床試験も開始予定としている。

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統合失調症における中枢コリン作動系の変化

 統合失調症では、コリン作動系のさまざまな変化がみられることが報告されているが、これらのエビデンスのシステマティックレビューおよびサマライズは行われていなかった。カナダ・オタワ大学のZacharie Saint-Georges氏らは、統合失調症およびまたは統合失調感情障害における中枢コリン作動系に関するイメージング研究および剖検研究についてのシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Molecular Psychiatry誌2025年7月号の報告。 統合失調症およびまたは統合失調感情障害患者と対照集団を比較した横断的ケースコントロール研究をEmbase、Medlineより検索した。バイアスリスクの評価には、ケースコントロール研究の品質評価のためのNIH/NHLBIツールを用いた。本研究は、PRISMA2020ガイドラインに準拠し実施した。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニング対象研究3,259件のうち、適格基準を満たした61件の研究をシステマティックレビューに含めた(イメージング研究:8件、剖検研究:53件)。・これらの研究の約74%において、統合失調症およびまたは統合失調感情障害における中枢コリン作動系の変化が報告されていた。・統合失調症におけるムスカリン性受容体またはニコチン性受容体レベルのいずれかの減少が最も多く報告されていた。・3件のメタ解析を実施し、線条体(g=−0.809、3件、108例)、海馬(g=−0.872、4件、84例)、前頭帯状皮質(g=−0.438、4件、295例)におけるM1/M4ムスカリン性受容体の減少が示唆された。・イメージング研究の6件で臨床症状の重症度と関連が報告されており、認知機能障害との関連が4件で報告されていた。 著者らは「イメージング研究および剖検研究の両方で、統合失調症患者におけるムスカリン受容体およびニコチン受容体の広範な低下が明らかとなった。メタ解析では、線条体、海馬、前頭帯状皮質におけるM1/M4ムスカリン受容体の低下による大〜中程度の影響が認められた」と結論付けている。

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双極性うつ病に対する抗うつ薬使用と躁転リスク

 双極性うつ病治療における抗うつ薬の使用は、気分極性の転換を引き起こす可能性が懸念され、依然として議論の的となっている。中国・首都医科大学のLei Feng氏らは、双極性うつ病患者に対する抗うつ薬使用と軽躁/躁転リスクとの関連を検証するため、リアルワールドにおける多国籍観察研究を実施した。Health Data Science誌2025年6月3日号の報告。 2013年1月〜2017年12月の4つの電子医療記録データベース(IQVIA Disease Analyzer Germany、IQVIA Disease Analyzer France、IQVIA US Hospital Charge Data Master、北京安定医院)と1つの行政請求データベース(IQVIA US Open Claims)より得られた双極性うつ病患者の治療パターンに関するデータを収集し、分析した。抗うつ薬を投与された患者(AD群)と投与されなかった患者(非AD群)における双極性うつ病の初回診断日から730日後の軽躁/躁転リスクの発生率を比較し、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、5つのデータベースより抽出された12万2,843例。・双極性うつ病に対し抗うつ薬を投与された患者の割合は60.6%。・双極性うつ病の初回診断日における平均年齢の範囲は37.50±15.72〜52.10±16.22歳。・傾向スコアマッチングにより潜在的交絡因子で調整した後、AD群の躁転リスクは、非AD群と比較し、有意な差は認められなかった(HR:1.04、95%CI:0.96〜1.13、p=0.989)。・また、躁病治療薬の投与の有無に関わらず、差は認められなかった(HR:0.69、95%CI:0.38〜1.25、p=0.535)。 著者らは「双極性うつ病のマネジメントにおいて、抗うつ薬が実臨床で広く使用されていたが、抗うつ薬使用は、躁転リスクと関連していなかった。そのため、抗うつ薬は双極性うつ病の治療選択肢の1つとして考えられる」と結論付けている。

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日本人うつ病におけるブレクスピプラゾールの費用対効果

 うつ病患者の約半数は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)で十分な治療反応が得られていない。このような患者では、ブレクスピプラゾール補助療法が治療候補となりうる。大塚製薬のYilong Zhang氏らは、日本におけるSSRI/SNRI治療抵抗性うつ病患者に対するブレクスピプラゾール補助療法の費用対効果を検証した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2025年5月27日号の報告。 日本の公的医療保険制度の観点から、SSRI/SNRI治療抵抗性うつ病患者を対象に、SSRI/SNRIの補助療法としてブレクスピプラゾールまたはプラセボを併用した際の費用対効果を分析した。追加の解析では、ブレクスピプラゾール投与開始時期を、8週目(早期追加)および14週目(後期追加)に追加した場合の比較も行った。ブレクスピプラゾールの臨床試験に参加した患者コホートより、合計67週間にわたりフォローアップ調査を行った。 主な結果は以下のとおり。・ブレクスピプラゾールの早期追加群は、プラセボ群または後期追加群と比較し、費用対効果が良好であった(支払い意思額[WTP]閾値:500万円/QALY)。・ブレクスピプラゾールの早期追加群は、プラセボ群と比較し、増分費用15万5,762円、0.037QALYの延長が認められ、増分費用対効果比(ICER)は430万円/QALYであった。・ブレクスピプラゾールの早期追加群は、後期追加群と比較し、総費用3,663円、0.008QALYの延長が認められ、ICERは46万円/QALY相当であった。・本研究の限界として、モデリングの対象範囲が試験期間に限定されていたため、ブレクスピプラゾールの長期的なベネフィットが考慮されていない点、早期追加群と後期追加群との比較におけるQALYの増加に関する不確実性が挙げられる。 著者らは「SSRI/SNRI治療抵抗性のうつ病患者に対するブレクスピプラゾールは、とくに早期実施した場合、費用対効果の高い補助療法であることが確認された」と結論付けている。

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抗精神病薬による統合失調症患者の死亡リスクを比較

 抗精神病薬は、統合失調症の主要な治療薬であるが、過剰な死亡リスクと関連している。しかし、各抗精神病薬やレジメンに関連する死亡リスクの違いは、明らかになっていない。香港大学のCatherine Zhiqian Fang氏らは、抗精神病薬単剤治療または抗精神病薬レジメンに関連する死亡リスクを比較するため、集団ベースのコホート研究を実施した。European Neuropsychopharmacology誌2025年7月号掲載の報告。 時変共変量として、抗精神病薬曝露を用いたCox回帰分析を実施し、すべての原因による死亡、自然死、不自然な死亡のリスクを調査した。対照治療として、抗精神病薬単剤治療ではペルフェナジン、抗精神病薬レジメンでは第1世代抗精神病薬(FGA)による治療を用いた。 主な内容は以下のとおり。・全体的なコホートには、4万1,695例が含まれた。・抗精神病薬単剤治療では、ペルフェナジンと比較し、クロザピンは死亡リスクが最も低かった。【すべての原因による死亡リスク】調整済みハザード比(aHR):0.41、95%信頼区間(CI):0.33〜0.52【自然死リスク】aHR:0.52、95%CI:0.40〜0.69【不自然な死亡リスク】aHR:0.16、95%CI:0.09〜0.27・パリペリドンとリスペリドンの2つの長時間作用型注射剤(LAI)では、パリペリドンLAIの死亡リスクがより低かった。【すべての原因による死亡リスク】aHR:0.51、95%CI:0.36〜0.72【自然死リスク】aHR:0.55、95%CI:0.37〜0.83・オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、アリピプラゾール、amisulprideは、ベルフェナジンと比較し、死亡リスクが低かった。・抗精神病薬レジメン分析では、クロザピンまたはLAI抗精神病薬を含む多剤併用レジメンは、FGA経口単剤療法と比較し、死亡リスクの低下が認められた。・FGA-LAI単剤療法、各抗精神病薬の多剤併用療法、クロザピンを含まない経口抗精神病薬の多剤併用療法は、すべての原因による死亡リスクおよび自然死リスクの上昇との関連が認められた。・インシデントコホート(1万3,283例)においても、おおむね一貫した結果が認められた。 著者らは「各抗精神病薬およびレジメンにより、死亡リスクは異なっている。クロザピンおよびLAI抗精神病薬が超過死亡リスクの軽減において重要な役割を果たしていることが確認された。本研究結果は、統合失調症患者の精神的および身体的アウトカムを最適化するために、クロザピンおよびLAI抗精神病薬への早期アクセスを確保することの重要性を示唆している」としている。

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