医療提供者の不足と文化的に適合したケアの欠如が、世界中で多文化集団への精神保健サービスの提供の妨げになっているとされる。米国・マサチューセッツ総合病院のMargarita Alegria氏らは、人種/民族的、言語的に少数派の集団における抑うつや不安への地域社会の対処能力の構築を目指す心理教育的介入(Strong Minds-Strong Communities[SM-SC]と呼ばれる)の有効性を評価するために、6ヵ月間の研究者主導型多施設共同無作為化臨床試験「SM-SC試験」を実施。SM-SCによる文化的に適合した介入が黒人、ラテン系、アジア系の住民に抑うつ、不安症状の改善をもたらすことが示唆され、これによって地域社会の対処能力を構築することで、精神保健ケアの不足を補う選択肢の提供が可能であることが示されたという。研究の成果は、Lancet誌2025年8月23日号に掲載された。
2州の37ヵ所で参加者を募集
本研究では、2019年9月~2023年3月に米国の2州(マサチューセッツ州とノースカロライナ州)の20の地域共同体を基盤とする組織と17の診療施設で参加者を募集した(米国国立精神衛生研究所[NIMH]の助成を受けた)。
年齢18歳以上の英語、スペイン語、標準中国語、広東語の話者で、「精神保健分野のコンピューター適応型テスト(CAT-MH)」を用いた評価で中等度から重度の抑うつまたは不安の症状を呈する患者を対象とした。被験者を、文化的背景を踏まえ、適切な言語の使用が可能で臨床的な指導を受けた地域保健師によるSM-SCを受ける群、または通常ケア(対照)を受ける群に無作為に割り付けた。
SM-SCは、エビデンスに基づく文化的な個別化介入で、認知行動療法(CBT)、マインドフルネス訓練、健康的な習慣に関する心理教育、動機付けのための面接、心地良いい活動(pleasant activity)や支持的関係(supportive relationship)を通じた行動の活性化などのアプローチで構成される。通常ケアでは、参加者に米国国立衛生研究所(NIH)が作成した不安と抑うつに関する小冊子が配布された。
有効性の主要アウトカムは、ITT集団における次の3項目のベースラインから6ヵ月後(介入終了時)および12ヵ月後までの変化量とした。(1)自己報告による抑うつ・不安症状(Hopkins Symptom Checklist-25[HSCL-25]のスコア[1~4点、高点数ほど抑うつ・不安症状が悪化]で評価)。(2)機能水準(WHO障害評価スケジュール2.0[WHODAS 2.0]のスコア[12~60点、高点数ほど機能が低下]で評価)。(3)ケアの質に関する認識(Perceptions of Care Outpatient Survey[PoC-OP]のGlobal Evaluation of Careドメインのスコア[0~100点、高点数ほどケアの質が高いと認識]で評価)。
6ヵ月時に3項目とも改善
1,044例を登録し、524例をSM-SC群、520例を通常ケア群に割り付けた。全体の平均年齢は42.6(SD 13.3)歳で、女性875例(83.8%)、男性165例(15.8%)、その他4例(0.4%)であった。人種別では、ラテン系654例(62.6%)、非ラテン系黒人149例(14.3%)、非ラテン系アジア人137例(13.1%)、非ラテン系白人92例(8.8%)であり、704例(67.4%)が外国生まれだった。
ベースラインから6ヵ月後までに、HSCL-25スコアは通常ケア群で0.24低下したのに対し、SM-SC群では0.44の低下と抑うつ・不安症状が有意に改善した(群間差:0.20[95%信頼区間[CI]:0.14~0.26]、標準化効果量[Cohen’s d]:0.39[95%CI:0.27~0.52])。
また、機能水準(WHODAS 2.0スコア低下の群間差:2.39[95%CI:1.38~3.40]、標準化効果量[Cohen’s d]:0.28[95%CI:0.16~0.39])およびケアの質の認識(PoC-OPスコア上昇の群間差:8.75[5.87~11.63]、標準化効果量[Cohen’s d]:0.47[0.31~0.62])についてもSM-SC群で有意な改善を示し、とくに後者における効果が顕著に高かった。
12ヵ月後も有意差を保持
介入終了後、介入の効果は減衰した(標準化効果量が約30%低下)が、ベースラインから12ヵ月(介入終了後6ヵ月)の時点で3項目とも通常ケア群との比較で有意差を保持しており(標準化効果量[Cohen’s d]:抑うつ・不安症状0.28[95%CI:0.16~0.40]、機能水準0.21[0.08~0.33]、ケアの質の認識0.33[0.16~0.50])、SM-SCの有効性が示された。
著者は、「今後の研究では、このモデルへの投資が、実臨床や保健システム上のさまざまな課題にどのように対処できるかを検討する必要がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)