HIV-1感染症の治療において、1日1回1錠で完結する単一の配合錠(STR)の登場は、服薬アドヒアランスと臨床アウトカムを劇的に改善させた。しかし、長期治療や多剤耐性の患者、副作用や薬物相互作用の問題のある患者の中には、既存のSTRを使用できず、依然として1日に複数の薬剤を服用する複雑な多剤併用療法を受けざるを得ない例が少なくない。英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校のChloe Orkin氏らは「ARTISTRY-1試験」において、高い耐性障壁を持つインテグラーゼ阻害薬(INSTI)ビクテグラビルと、新規作用機序を有するカプシド阻害薬レナカパビルを組み合わせた新しいSTRは、これらの患者の新たな治療選択肢として期待できることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2026年2月25日号で報告された。
新規STR切り替えと継続投与を比較
ARTISTRY-1試験は、複雑な多剤併用療法を受けているHIV-1感染者における、新たなSTRへの切り替え効果の評価を目的に、日本を含む15ヵ国と地域の90施設で実施した非盲検無作為化実薬対照非劣性第III相試験(Gilead Sciencesの助成を受けた)。
年齢18歳以上で、血漿中のHIV-1 RNA量が<50コピー/mLの状態が少なくとも6ヵ月間持続し、既存のSTRの抗レトロウイルス薬への耐性、不耐性、禁忌のため少なくとも6ヵ月間の複雑な多剤併用療法を受けているHIV感染者を対象とした。
被験者を、経口STR(ビクテグラビル75mg・レナカパビル50mg配合錠)の1日1回投与に切り替える群(371例)、または複雑な多剤併用療法を継続投与する群(186例)に無作為に割り付けた。
主要アウトカムは、48週の時点におけるHIV-1 RNA量≧50コピー/mLの患者の割合であった。
2つ以上の合併症54%、治療期間28年、耐性81%
2024年1~9月に参加者557例(年齢中央値60歳[範囲:22~84]、年齢55歳以上427例[77%]、女性100例[18%])を登録した。
ベースラインにおいて、377例(68%)が脂質異常症、280例(50%)が高血圧、133例(24%)が高血糖/糖尿病、78例(14%)が慢性腎臓病であり、298例(54%)がこれらの合併症のうち2つ以上を有していた。
HIV治療期間中央値は28年(四分位範囲[IQR]:22~32)、複雑な多剤併用療法の1日の抗レトロウイルス薬数の中央値は3剤(範囲:2~11)で、218例(39%)が1日2回の抗レトロウイルス薬の投与を受けていた。
複雑な多剤併用療法を受ける理由は、薬剤耐性(450例[81%])が最も多く、次いで現時点で使用可能なSTRの成分に対する不耐性(128例[23%])、STRが禁忌(33例[6%])の順であった。
HIV-1 RNA量≧50は非劣性、治療満足度が改善
48週の時点におけるHIV-1 RNA量≧50コピー/mLの患者は、新規STR切り替え群が3例(1%)、継続群は2例(1%)であった(群間差:-0.3%[95.002%信頼区間[CI]:-2.3~1.8])。非劣性マージン(両側95.002%CIの上限値<4%)を満たしたため、新規STR切り替え群の継続群に対する非劣性が示された。
CD4細胞数のベースラインから48週までの変化の中央値は、新規STR切り替え群が+18/μL(IQR:-72~98)、継続群は-12/μL(-82~93)であり(変化の群間差:+19.0、95%CI:-11.6~49.5)、両群間に有意な差を認めなかった(p=0.22)。
HIV治療満足度質問票(HIVTSQ)の平均総スコアは、ベースラインから48週までに新規STR切り替え群で+7(SD 10.6)の改善を達成したのに対し、継続群では変化を認めなかった(0[SD 9.6])。
有害事象の頻度は同程度
有害事象の頻度は両群で同程度であった(新規STR切り替え群82%、継続群84%)。上気道感染症(9%、13%)、鼻咽頭炎(7%、9%)、下痢(6%、6%)、頭痛(8%、2%)の頻度が高かった。Grade3以上の有害事象(14%、14%)、および重篤な有害事象(14%、12%)の頻度にも両群間で差はなかった。
新規STR切り替え群で、試験薬関連のGrade3以上の有害事象が2例(1%)、試験薬関連の重篤な有害事象が1例(<1%)で発現した。試験薬の投与中止の原因となった有害事象は、新規STR切り替え群で6例(2%)、継続群で1例(1%)にみられた。新規STR切り替え群で5例が死亡したが、これらの中に試験薬関連死はなかった。
至適な長期治療選択肢の可能性
著者は、「これらの知見は、抗レトロウイルス薬耐性などの理由により既存のSTRの恩恵を受けられず、複雑な多剤併用療法によりウイルス学的抑制を維持しているHIV-1感染者(とくに、併存疾患を有し、多剤併用のリスクが高い高齢患者)において、新規の至適な長期治療の選択肢としてのビクテグラビル・レナカパビルの使用を支持するものである」としている。
また、「年齢中央値は60歳と、これまでにHIV治療の登録プログラムに登録された研究対象集団としては史上最高齢であった。抗レトロウイルス療法の進歩によりHIV感染者の平均余命がほぼ正常の水準に達し、医療資源が豊富な国ではほとんどの患者が50歳以上となっている現状を踏まえると、これはとくに重要な点である」と考察を加えている。
(医学ライター 菅野 守)