高齢者に対する「潜在的に不適切な薬剤」、とくにベンゾジアゼピン系薬剤や抗コリン薬の処方は、転倒や入院のリスクを約30%増加させることが知られている。臨床ガイドラインは、これらの薬剤の使用制限を推奨しているが、多忙な診療現場における時間の制約や、患者の希望、現状維持バイアスなどが障壁となり、減薬(deprescribing)による処方の適正化は容易ではないという。米国・ブリガム&ウィメンズ病院・ハーバード大学のJulie C. Lauffenburger氏らは「NUDGE-EHR-2試験」において、行動科学の知見に基づく電子健康記録(EHR)への介入ツール(ナッジ[nudge]と呼ばれる医師への通知システム)が、高齢患者における不適切な処方の削減にきわめて有効であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年1月29日号で報告された。
201人のプライマリケア医(PCP)が参加した3群無作為化優越性試験
NUDGE-EHR-2試験は、米国ボストン市のマサチューセッツ総合病院で実施した実践的な3群並行無作為化優越性試験(米国国立老化研究所[NIA]の助成を受けた)。201人のプライマリケア医(PCP)を、2022年11月、3つの群にクラスター無作為化した。
対象は、無作為化されたPCPの患者で、年齢65歳以上、2022年11月10日~2024年3月15日にPCPを受診し、過去180日間に1種類以上のベンゾジアゼピン系薬剤または非ベンゾジアゼピン系鎮静催眠薬、あるいは2種類以上の抗コリン薬の処方を受けた患者であった。
PCPは、介入を受けず通常ケアを行う群または次の2つのEHR介入を受ける群に割り付けられた。
(1)事前コミットメント介入群:初回診察時にEHRメッセージを受信し、患者と投薬のリスクや減薬(薬剤の漸減・中止)について話し合いを開始するよう要請された。2回目およびそれ以降の診察時には、患者に不適切な可能性のある薬剤の減薬を促すよう要請するEHRメッセージをリマインダーとして受信した。
(2)ブースター介入群:初回診察時にEHRメッセージを受信し、患者に減薬を促すよう要請された。PCPは、4週間後にリマインダーを送信するよう設定することができ、これを設定したPCPは受信箱でリマインダーを受け取った。
主要アウトカムは、初回診察時から追跡期間終了時までに行われた1種類以上の減薬とした。減薬は、EHRデータを用いて患者レベルで評価した医師の主導による薬剤の中止または漸減と定義した。
減薬率の改善、事前コミットメント介入群40%、ブースター介入群26%
1,146例(平均年齢73.6[SD 6.4]歳、女性799例[69.7%]、平均追跡期間289.9[SD 141.0]日)が解析に含まれた。PCPは平均5.7(SD 4.7)例の患者を診察した。平均受診回数は、事前コミットメント介入群が2.6(SD 2.2)回、ブースター介入群が2.3(SD 1.6)回、通常ケア群が2.2(SD 1.6)回だった。
373例(32.5%)で、少なくとも1種類の薬剤の減薬が達成された。内訳は、事前コミットメント介入群が145例(36.8%)、ブースター介入群が122例(34.3%)、通常ケア群が106例(26.8%)であった。
通常ケア群と比較して、減薬の割合は事前コミットメント介入群で40%高く(相対リスク[RR]:1.40、95%信頼区間[CI]:1.14~1.73、絶対群間差:10.4%)、ブースター介入群で26%高かった(RR:1.26、95%CI:1.01~1.57、絶対群間差:6.5%)。
有害事象報告システムを通じた重篤な有害事象の報告はなかった。手動によるEHRレビューに基づく死亡の報告は、事前コミットメント介入群で1.4%、ブースター介入群で3.9%、通常ケア群で1.8%であった。
累積投与量が減少しなかった原因は
主要アウトカムの結果とは異なり、通常ケアと比較して2つの介入法は、ベンゾジアゼピン系薬剤、非ベンゾジアゼピン系鎮静催眠薬、強力な抗コリン作用を有する薬剤の、処方された累積投与量を有意に減少させなかった。
この原因として、著者は、症例数がもっと多ければ差を検出できた可能性とともに、一部の医師が、介入の通知を受けて、ベンゾジアゼピン系薬剤および非ベンゾジアゼピン系鎮静催眠薬を、抗コリン薬に代替した可能性があること、1つの薬剤クラスの使用を減らす一方で別の薬剤クラスを増やした可能性があると指摘している。
(医学ライター 菅野 守)