高齢者に対する薬剤治療においては、ポリファーマシーや処方漏れなどの問題点が指摘されている。イスラエルの研究グループによる長期前向きコホート研究によると、高齢者の80%以上が不適切な処方を受けており、不適切な薬剤を処方された群では死亡リスクが上昇した一方で、必要な薬剤の処方漏れも死亡リスクの上昇と関連していたという。本研究の結果はJournal of the American Geriatrics Society誌オンライン版2025年8月11日号に掲載された。
研究者らは、イスラエルの縦断前向きコホート研究の第3回追跡調査(1999~2007年)で収集されたデータを使用し、地域に住む高齢者1,210例(平均年齢72.9歳、女性53%)を対象に、不適切処方と長期死亡率との関連性を評価した。不適切な処方には「不要あるいは有害になり得る薬剤の処方(Potentially Inappropriate Medications:PIM)」と「必要処方の省略(Prescribing Omissions:PPO)」が含まれており、それらの識別には米国の2023年版Beers基準と欧州のSTOPP/START基準(v3)が用いられた。死亡は診断コードで特定され、主要アウトカムは全死亡率と非がん死亡率だった。参加者は死亡または2022年3月まで追跡され、追跡期間の中央値は13年だった。
主な結果は以下のとおり。
・参加者の81.2%が1件以上の不適切な処方を受けており、PIMはBeers基準で52.6%、STOPP基準で45.0%、PPOは59.3%だった。
・PIMが2件以上の場合、Beers基準では全死亡リスクが1.3倍(HR:1.31、95%CI:1.04~1.69)、STOPP基準では1.25倍(HR:1.25、95%CI:1.00~1.55)増加した。PIMが2件以上の場合、非がん死亡リスクの増加とも関連した(両基準とも1.4倍)。
・PPOが1件の場合、非がん死亡リスクは1.3倍になった。PPOが2件以上の場合、全死亡リスクは1.8倍、非がん死亡リスクは2倍となった。男性ではより強い関連性が認められた(相互作用p=0.012)。
著者らは「薬剤の過剰処方と必要な薬剤の不足の両方が、高齢者の死亡リスクを著しく増加させていた。これは定期的な薬剤処方見直しの必要性、性別に応じた薬剤ガイドラインの確立、処方問題の特定と是正のためのシステム改善の重要性を示している」としている。
(ケアネット 杉崎 真名)