再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症(SPMS)患者において、tolebrutinibによる治療はプラセボと比較し障害進行のリスクが低いことを、米国・クリーブランドクリニックのRobert J. Fox氏らHERCULES Trial Groupが、第III相二重盲検プラセボ対照試験「HERCULES試験」の結果で報告した。多発性硬化症(MS)では、経過中に徐々に神経学的症状の進行が生じることがあり、これは障害蓄積(disability accrual)と呼ばれている。現在のMSに対する疾患修飾療法は、再発とは関係のない障害蓄積に対する効果は限られており、その原因の一部は中枢神経系内での慢性、治療抵抗性の神経炎症にあると考えられている。tolebrutinibは、中枢移行性の高い経口ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬で、末梢および中枢神経系の両方の骨髄細胞(ミクログリアを含む)とB細胞を標的としている。これまで、再発を伴わないSPMSに対して承認された治療法はなかった。NEJM誌オンライン版2025年4月8日号掲載の報告。
6ヵ月以上持続する障害進行をtolebrutinibとプラセボで比較
研究グループは、過去24ヵ月間に臨床的な再発がなく、過去12ヵ月間に神経学的症状進行の所見がみられ、総合障害度評価尺度(EDSS)(範囲:0~10.0、スコアが高いほど障害度合いが大きい)が3.0~6.5の18~60歳の再発を伴わないSPMS患者を、tolebrutinib群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、1日1回60mgを経口投与した。
主要エンドポイントは、6ヵ月以上持続する障害進行(EDSSスコアがベースラインから1.0以上増加[ベースラインスコアが5.0以下の場合]または0.5以上増加[ベースラインスコアが5.0超の場合]と定義)で、ITT解析を行った。
tolebrutinib群で障害進行のリスクが低い
2020年10月23日~2023年1月12日に、計1,131例が無作為化された(tolebrutinib群754例、プラセボ群377例)。
追跡期間中央値133週間において、6ヵ月以上持続する障害進行が確認された患者の割合は、tolebrutinib群で22.6%、プラセボ群で30.7%であり、tolebrutinib群で有意に低かった(ハザード比:0.69、95%信頼区間:0.55~0.88、p=0.003)。
重篤な有害事象は、tolebrutinib群で15.0%、プラセボ群で10.4%に発現した。主なものは、tolebrutinib群ではCOVID-19肺炎、多発性硬化症の再発、COVID-19、肺炎、プラセボ群では肺炎と尿路性敗血症であった。死亡率は両群で同程度であった。
また、tolebrutinib群で4.0%、プラセボ群で1.6%の患者で、ALT値の正常範囲上限の3倍を超える上昇が認められた。
(医学ライター 吉尾 幸恵)