バリシチニブ、円形脱毛症の毛髪再生に有効か/NEJM

円形脱毛症は、頭髪、眉毛、睫毛の急速な脱毛を特徴とする自己免疫疾患であるが、治療法は限定的である。米国・イェール大学医学大学院のBrett King氏らは、重症円形脱毛症の治療におけるヤヌスキナーゼ(JAK)1とJAK2の阻害薬バリシチニブの有用性を検討し、本薬はプラセボと比較して、36週時に臨床的に意義のある毛髪再生を達成した患者の割合が高く、安全性も劣らないことを「BRAVE-AA試験」で示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年3月26日号で報告された。
10ヵ国169施設の2つのプラセボ対照無作為化試験
本研究は、日本を含む10ヵ国169施設が参加した2つの二重盲検プラセボ対照無作為化試験(BRAVE-AA1試験、BRAVE-AA2試験)である(Incyteのライセンスの下でEli Lillyの助成を受けた)。この試験では、BRAVE-AA1試験の第III相部分(参加者登録期間:2019年3月~2020年6月)とBRAVE-AA2試験(同:2019年7月~2020年5月)のデータが用いられた。
対象は、年齢18~60歳の男性と18~70歳の女性で、Severity of Alopecia Tool(SALT)のスコア(0[頭髪の脱毛なし]~100[頭髪の完全脱毛]点)が50点以上の患者であった。
被験者は、バリシチニブ4mg、同2mg、プラセボを、1日1回、経口投与する群に、3対2対2の割合で無作為に割り付けられた。
主要アウトカムは、36週の時点におけるSALTスコア20点以下(意義のある治療アウトカム)の達成であった。
より長期の試験が必要
1,200例が解析に含まれた。内訳は、BRAVE-AA1試験が654例(バリシチニブ4mg群281例、同2mg群184例、プラセボ群189例)、BRAVE-AA2試験は546例(234例、156例、156例)であった。円形脱毛症の平均(±SD)罹患期間は、BRAVE-AA1試験が3.6±3.9年、BRAVE-AA2試験は4.3±4.9年だった。全体の53.2%が超重症(SALTスコア95~100点)の円形脱毛症で、90.6%が少なくとも1回の円形脱毛症の治療歴を有していた。また、主要および副次アウトカムのデータには、約10~15%の欠測が認められたため、多重代入法による解析が行われた。
36週時のSALT 20点以下の達成割合は、BRAVE-AA1試験ではバリシチニブ4mg群が38.8%、同2mg群が22.8%、プラセボ群は6.2%で、BRAVE-AA2試験では、それぞれ35.9%、19.4%、3.3%であった。
BRAVE-AA1試験では、バリシチニブ4mg群とプラセボ群の差は32.6ポイント(95%信頼区間[CI]:25.6~39.5)、バリシチニブ2mg群とプラセボ群の差は16.6ポイント(9.5~23.8)であり(プラセボ群との比較で2つの用量ともp<0.001)、BRAVE-AA2試験では、それぞれ32.6ポイント(25.6~39.6)および16.1ポイント(9.1~23.2)であった(プラセボ群との比較で2つの用量ともp<0.001)。
10項目の主な副次アウトカムは、全般的にバリシチニブ4mg群ではプラセボ群よりも良好であった(BRAVE-AA1試験は10項目すべて、BRAVE-AA2試験は7項目で有意差あり)が、同2mg群ではとくにBRAVE-AA2試験でプラセボ群との差がない項目が多かった(BRAVE-AA1試験は8項目、BRAVE-AA2試験は1項目で有意差あり)。
治療期間中に発現または悪化した有害事象は、BRAVE-AA1試験ではバリシチニブ4mg群59.6%、同2mg群50.8%、プラセボ群51.3%に認められ、BRAVE-AA2試験ではそれぞれ66.1%、68.4%、63.0%でみられた。重篤な有害事象は、BRAVE-AA1試験でバリシチニブ4mg群2.1%、同2mg群2.2%、プラセボ群1.6%、BRAVE-AA2試験ではそれぞれ3.4%、2.6%、1.9%で発現した。死亡例はなかった。
プラセボ群に比べバリシチニブ群で頻度の高い有害事象として、ざ瘡(BRAVE-AA1試験:バリシチニブ4mg群5.7%、同2mg群5.5%、プラセボ群0.5%、BRAVE-AA2試験:4.7%、5.8%、1.9%)、クレアチンキナーゼ値上昇(5.7%、1.6%、1.6% / 3.0%、0%、1.3%)、LDLコレステロール値≧130mg/dL(27.7%、20.5%、14.4% / 30.3%、24.8%、17.7%)、HDLコレステロール値≧60mg/dL(41.7%、42.3%、13.5% / 43.0%、35.6%、13.3%)が認められた。
著者は、「円形脱毛症に対するバリシチニブの安全性と有効性を確立するには、より長期の試験が必要である。本試験は、有害事象の長期的な観察が求められたため継続試験が進行中であり、最長で200週まで盲検下に継続する予定である」としている。
(医学ライター 菅野 守)
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