COVID-19の実効再生産数は公衆衛生介入で抑制か/JAMA

提供元:ケアネット

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公開日:2020/04/28

 

 中国・湖北省武漢市のCOVID-19集団発生(outbreak)では、都市封鎖(city lockdown)や社会的距離(social distancing)、自宅隔離、集約化された検疫・治療、医療資源の拡充など一連の多面的な公衆衛生的介入により、初発の確定症例や実効再生産数(2次感染の指標)が経時的に抑制されたことが、中国・華中科技大学のAn Pan氏らの調査で示された。COVID-19の世界的な大流行(pandemic)では、さまざまな公衆衛生的介入が行われているが、これによって集団発生状況が改善されたか明確ではないという。JAMA誌オンライン版2020年4月10日号掲載の報告。

3万例以上で、公衆衛生的介入が及ぼした影響を評価

 研究グループは、武漢市のCOVID-19集団発生において、公衆衛生的介入と疫学的特徴の関連を評価する目的で、5つの時期に分けたコホート研究を実施した(中国・主要大学基礎研究基金などの助成による)。

 市の法定伝染病報告システムを使用し、2019年12月8日~2020年3月8日に、検査によりCOVID-19と確定された3万2,583例のデータを抽出した。データには、患者の年齢、性別、居住地区、職業、発病日(患者の自己申告による発熱、咳、その他の呼吸器症状が発現した日)、確定日(生体試料からSARS-CoV-2を検出した日)、重症度(軽度、中等度、重度、重篤)などが含まれた。

 COVID-19の確定は、鼻腔および咽頭のスワブ検体を用い、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)または次世代シークエンシング法でSARS-CoV-2ウイルス陽性の場合と定義した。

 公衆衛生的介入(防疫線、交通規制、社会的距離、自宅隔離、集約化検疫、全例症状調査など)が、新型コロナウイルスの感染に及ぼした影響を評価した。

イベントや介入で5つの時期に分類、2次感染の指標も評価

 春運期間の開始(2020年1月10日)、武漢市防疫線の開始(1月23日)、4つのカテゴリー(確定症例、推定症例、発熱・呼吸器症状患者、濃厚接触者)に分けて集約化された治療・検疫戦略の開始(2月2日)、全例症状調査の開始(2月17日)を起点として、以下の5つの時期に分類し、年齢別、性別、市内地区別の新型コロナウイルスの感染率を算出した。

 I期(初期の非強力介入期、2019年12月8日~2020年1月9日、33日間、確定症例数550例)、II期(春節による大移動期、1月10日~22日、13日間、5,091例)、III期(都市封鎖/交通規制/自宅検疫期、1月23日~2月1日、10日間、1万3,880例)、IV期(集約化検疫・治療/医療資源拡充期、2月2日~16日、15日間、9,972例)、V期(集約化検疫/全例症状調査期、2月17日~3月8日、21日間、3,090例)。

 また、各時期のSARS-CoV-2の実効再生産数(2次感染の指標。集団のある時刻における、典型的な初発患者が生み出した2次感染者数の平均値)も推算した。

発症から確定までの期間は徐々に短縮

 3万2,583例の年齢中央値は56.7歳(範囲:0~103、四分位範囲:43.4~66.8)、女性が1万6,817例(51.6%)で、40~79歳が2万4,203例(74.3%)であった。

 多くの患者は1月20日~2月6日の期間に発症し、2月1日にこの日だけの感染者数の急上昇が認められた。発症から確定までの期間は、初期には実質的な遅延が認められたが、この遅延は経時的に短縮した(I~V期の発症から確定までの期間中央値の推移:26、15、10、6、3日)。

 集団発生は、武漢市の都市部で始まり、5つの時期を通じて郊外および農村部へと徐々に拡大した。確定症例の割合は、地区によって大きく異なり、感染率は都市部が最も高かった。

III期にピーク、医療従事者感染率はPPE普及後に低下

 1日の確定症例数の割合は、I期の100万人当たり2.0件(95%信頼区間[CI]:1.8~2.1)から、II期には45.9件(44.6~47.1)へと上昇し、III期には162.6件(159.9~165.3)とピークに達したが、その後、IV期には77.9件(76.3~79.4)、V期には17.2件(16.6~17.8)へと低下した。また、全期を通じて、女性の感染率がわずかに高かった(100万人当たり43.7件/日vs.39.4件/日)。

 一方、医療従事者の確定症例(1,496例)の割合は4.6%であった(I期3.8%、II期8.7%、III期5.5%、IV期3.0%、V期1.8%)。全期を通じて、100万人当たりの1日の確定症例の割合は、医療従事者が130.5件(95%CI:123.9~137.2)と、一般人口の41.5件(41.0~41.9)に比べて高かった。医療従事者の感染率はIII期にピーク(617.4件[576.3~658.4]/日/100万人)に達したが、包括的な個人用保護具(PPE)が広く使用可能となったIV期(159.5件[141.4~177.6])およびV期(21.8件[16.1~27.4])には低下した。

 20歳以上では、1日の確定症例の割合はIII期にピークに達し、それ以降は低下したのに対し、小児や青少年(20歳未満)はその後も増加し続け、とくに1歳未満の増加が顕著であった。1歳未満の1日の確定症例の割合は100万人当たり7.9件(5.8~10.0)で、20歳未満の他の年齢層は2.0~5.4件だった。

高齢者ほど重症化リスク高い、実効再生産数は介入後低下

 重症度別の解析では、重度/重篤症例の割合は、I期の53.1%から、II期35.1%、III期23.5%、IV期15.9%、V期10.3%へと低下した(I期との比較でいずれも有意差あり)。

 また、重症化のリスクは年齢が高くなるに従って増加した。20~39歳の重度/重篤症例の割合12.1%と比較して、80歳以上は41.3%(リスク比[RR]:3.61、95%CI:3.31~3.95)、60~79歳は29.6%(2.33、2.16~2.52)、40~59歳は17.4%(1.41、1.30~1.53)であったのに対し、20歳未満は4.1%(0.47、0.31~0.70)であった(いずれもp<0.001)。

 一方、実効再生産数は、1月26日以前は3.0以上で著しく上下動し、1月24日にピーク値の3.82に達し、以降は下降に転じた。2月6日には1.0未満に低下し、3月1日以降は0.3未満に抑制された。

 著者は、「これらの知見は、COVID-19の世界的な大流行との闘いにおいて、他の国や地域の公衆衛生上の施策に有益な情報をもたらす可能性がある」としている。

(医学ライター 菅野 守)