急性期脳梗塞の血栓溶解療法、発症後9時間まで有効?/NEJM

救済可能な脳組織を有する急性期脳梗塞患者の治療において、発症後4.5~9時間または脳梗塞の症状を呈して起床した場合のアルテプラーゼ投与による血栓溶解療法は、プラセボと比較して神経障害がない/軽度(修正Rankinスケールスコアが0/1)の患者の割合が有意に高いことが、オーストラリア・メルボルン大学のHenry Ma氏らが行ったEXTEND試験で示された。研究の成果は、NEJM誌2019年5月9日号に掲載された。急性期脳梗塞に対する静脈内血栓溶解療法の開始時期は、一般に発症後4.5時間以内に限られる。一方、画像所見で、脳組織の虚血がみられるが梗塞は認めない患者では、治療が可能な時間を延長できる可能性が示唆されている。
低灌流だが救済可能な脳領域を有する患者が対象
本研究は、研究者主導の多施設共同無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2010年8月~2018年6月の期間に、オーストラリア16施設、ニュージーランド1施設、台湾10施設、フィンランド1施設で患者登録が行われた(オーストラリア国立保健医療研究審議会などの助成による)。対象は、18歳以上、登録前の身体機能が修正Rankinスケールスコア(0[症状なし]~6点[死亡])<2点、脳卒中の重症度はNIH脳卒中スケール(NIHSS、0~42点、点数が高いほど重症度が高い)4~26点であり、自動解析灌流画像で低灌流だが救済可能な脳の領域が認められる脳梗塞患者であった。
被験者は、脳梗塞発症後4.5~9時間、または起床時に脳梗塞の症状がみられる場合(睡眠の中央時間から9時間以内)に、アルテプラーゼ(0.9mg/kg体重[最大90mg]、静脈内投与)群、またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。
主要アウトカムは、90日時の修正Rankinスケールスコアが0または1であることとした。主要アウトカムのリスク比は、ベースラインの年齢と臨床的重症度で補正した。
予定された310例のうち225例が登録された時点で、先行する試験(WAKE-UP試験)により肯定的な結果が報告され、均衡が失われたため、2018年6月6日に本試験は中止された。
症候性脳出血の頻度は血栓溶解療法のほうが高い
225例のうち、113例(平均年齢73.7±11.7歳、男性52.2%)が血栓溶解療法であるアルテプラーゼ群に、112例(71.0±12.7歳、58.9%)はプラセボ群に割り付けられた。初回臨床評価時のNIHSSスコア中央値は、アルテプラーゼ群が12.0点(IQR:8.0~17.0)、プラセボ群は10.0点(6.0~16.5)だった。脳梗塞発症から無作為化までの時間は、全体の25%が治療可能時間の後期(発症後>6.0~9.0時間)で、10%が早期(発症後>4.5~6.0時間)であり、残りの65%は発症時間が不明で起床時に症状がみられた患者であった。
主要アウトカムは、血栓溶解療法のアルテプラーゼ群が40例(35.4%)で達成され、プラセボ群の33例(29.5%)に比べ有意に良好であった(補正後リスク比:1.44、95%信頼区間[CI]:1.01~2.06、p=0.04)。補正前リスク比に有意差はなかった(1.2、0.82~1.76、p=0.35)。
副次アウトカムである修正Rankinスケールのスコア分布の順序尺度に関する分析では、90日時の身体機能の改善(修正Rankinスケールスコアで1点以上の改善)において両群間に有意な差はみられなかった(共通オッズ比:1.55、95%CI:0.96~2.49)。24時間時の再灌流や再疎通、早期の主要な神経学的改善(NIHSSスコアが8点以上低下または0/1点)は、アルテプラーゼ群のほうが良好だった。
症候性脳出血は、血栓溶解療法のアルテプラーゼ群で7例(6.2%)に認められ、プラセボ群の1例(0.9%)に比べ多かった(補正後リスク比:7.22、95%CI:0.97~53.5、p=0.05)。
著者は、「本試験は早期に終了となり、副次アウトカムの身体機能の改善に関して両群間の有意差を示すことができなかったため、限定的な結論にとどまる。この治療可能時間における血栓溶解療法については、さらなる試験が求められる」としている。
(医学ライター 菅野 守)
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血栓溶解療法は睡眠中の発症例では何時間以内まで有効か?(解説:内山真一郎氏)-1063
コメンテーター : 内山 真一郎( うちやま しんいちろう ) 氏
国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授 山王メディカルセンター脳血管センター長
J-CLEAR評議員