低侵襲血腫除去+血栓溶解、脳内出血の予後を改善するか/Lancet

30mL以上の脳内出血の治療において、MISTIEと呼ばれる画像ガイド下経カテーテル血腫除去術後に血栓溶解療法を行うアプローチは、標準治療と比較して1年後の機能的アウトカムを改善しないことが、米国・ジョンズ・ホプキンス大学のDaniel F. Hanley氏らが行ったMISTIE III試験で示された。研究の成果は、Lancet誌2019年3月9日号に掲載された。テント上脳出血による急性脳卒中は、合併症や死亡のリスクが高い。本症への開頭術による血腫除去は有益でないことが、大規模な無作為化試験で示されている。
約500例対象に試験、1年後のmRSスコアを評価
研究グループは、低侵襲性の経カテーテル血腫除去術後に血栓溶解療法を行うアプローチ(MISTIE)の、脳内出血患者の機能的アウトカムの改善効果を検証する目的で、非盲検エンドポイント盲検無作為化対照比較第III相試験を行った(米国国立神経疾患・脳卒中研究所とGenentech社の助成による)。対象は、年齢18歳以上の非外傷性テント上脳内出血(30mL以上)の患者であった。被験者は、血腫の大きさ15mL以下を目標に画像ガイド下MISTIEを施行する群、または標準治療群に無作為に割り付けられた。MISTIEの血栓溶解療法は、アルテプラーゼ1.0mgを8時間ごとに最大9回投与することとした。
主要アウトカムは良好な機能的アウトカムとし、365日時の修正Rankinスケール(mRS)のスコアが0~3と定義され(事前に規定されたベースラインの共変量で補正)、修正intention to treat(mITT)解析が行われた。
2013年12月~2017年8月の期間に、北米、欧州、オーストラリア、アジアの78施設で506例が登録され、499例(MISTIE群:250例、標準治療群:249例)がmITT解析に含まれた。
365日mRS 0~3達成率:45% vs.41%
ベースラインの全体の年齢中央値は62歳(IQR:52~71)、61%が男性であった。血腫の部位は、大脳基底核が307例(62%)、lobar regionが192例(38%)で、脳内の血腫量は41.8mL(IQR:30.8~54.5)であり、グラスゴー昏睡尺度(GCS)スコアは10(8~13)、NIH脳卒中尺度(NIHSS)は19(15~23)だった。mITT解析による365日時のmRS 0~3の達成率は、MISTIE群が45%、標準治療群は41%と、両群間に有意な差を認めなかった(補正リスク差:4%、95%信頼区間[CI]:-4~12、p=0.33)。
7日時の死亡率は、MISTIE群が1%(2/255例)、標準治療群は4%(10/251例)であり(p=0.02)、30日時はそれぞれ9%(24例)、15%(37例)であった(p=0.07)。
症候性脳出血(MISTIE群2% vs.標準治療群1%、p=0.33)および脳細菌感染(1% vs.0%、p=0.16)の発生はいずれも同等であったが、無症候性脳出血はMISTIE群で有意に多かった(32% vs.8%、p<0.0001)。また、30日時までに1件以上の重篤な有害事象が発現した患者は、それぞれ30%(76例)、33%(84例)であり、件数は126件、142件と、有意な差がみられた(p=0.012)。
著者は、「これらの知見は、血腫量15mL以下の達成に、より重点を置いたうえで、MISTIE技術のさらなる検討を求めるものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)
[ 最新ニュース ]

中等症~重症クローン病、ウステキヌマブvs.アダリムマブ/Lancet(2022/06/27)

6~17歳におけるAZ製ワクチンの安全性と免疫原性/Lancet(2022/06/27)

日本人双極性障害外来患者の3年間の臨床アウトカムに影響を及ぼす要因~MUSUBI研究(2022/06/27)

脊髄性筋萎縮症、治療の進歩と新生児スクリーニング(2022/06/27)

抗体陽性率95%でもオミクロン株流行/JAMA(2022/06/27)

転移尿路上皮がんに対するカボザンチニブとアテゾリズマブの併用療法は有用である可能性(COSMIC 021)/ASCO 2022(2022/06/27)

2剤以上のTKI治療歴のある慢性期CML、asciminibの96週時点における効果(ASCEMBL)/ASCO2022(2022/06/27)

オメガ3脂肪酸がニキビに効く?(2022/06/27)
[ あわせて読みたい ]
Dr.林の笑劇的救急問答14<上巻>(2019/03/15)
【GET!ザ・トレンド】脳神経細胞再生を現実にする(5)(2019/01/08)
Dr.須藤のやり直し酸塩基平衡 (2018/12/15)
【GET!ザ・トレンド】脳神経細胞再生を現実にする(4)(2018/08/15)
長門流 総合内科専門医試験MUST!2018 Vol.3(2018/08/07)
第4回 特別編 覚えておきたい熱中症の基本事項【救急診療の基礎知識】(2018/07/25)
指導医が語る心得のような本【Dr.倉原の“俺の本棚”】第5回(2018/05/15)
Dr.林の笑劇的救急問答13<下巻>(2018/02/07)
Dr.志賀のパーフェクト!基本手技 (2018/01/07)
Dr.林の笑劇的救急問答13<上巻>(2017/10/07)
専門家はこう見る
血栓溶解を用いた低侵襲脳内血腫除去術の有効性と安全性(MISTIE-III)/Lancet(解説:中川原譲二氏)-1031
コメンテーター : 中川原 譲二( なかがわら じょうじ ) 氏
梅田脳・脊髄・神経クリニック 脳神経外科
J-CLEAR評議員