抗凝固薬選択のためのリスク予測モデルを開発/BMJ

無作為化試験でダビガトランまたはワルファリン治療を受ける人の血栓塞栓症の推定発生率は、ルーチンケアを受ける人で観察された発生率と近接しており、一方、重大出血の発生率は、過小に評価していることが、米国ハーバード・メディカル・スクールのShirley V Wang氏らが2万1,934例のデータを解析し、報告した。心房細動患者における血栓塞栓症や重大出血のリスクについては、CHADS2やHAS-BLEDという確立されたリスクスコアがあり、ベースラインでのリスク推定、および抗凝固薬治療の導入ガイドとして用いられている。しかし、これらのスコアでは、抗凝固薬の選択肢は不明である。一方で、最近の無作為化試験により、ダビガトランまたはワルファリン治療下での血栓塞栓症および重大出血の推定リスクが示されており、研究グループは、それらのデータを統合解析することで、新たなリスクモデルの開発を試みた。BMJ誌オンライン版2016年5月24日号掲載の報告。
心房細動を呈した2万1,934例のデータを解析
研究グループは、無作為化試験からのイベント発生率を層別化し、観察データから開発したモデルのイベント予測率と比較すること、また同モデルが、ルーチンケアの一部としてダビガトランまたはワルファリンを受ける患者の血栓塞栓症および重大出血の発生を正確に捕捉できるかを評価した。検討はUnited Healthのデータ(2009年10月~2013年6月)と、米国の民間医療費支払データベースを活用して、新規導入コホート研究法を用いて行われた。被験者は、心房細動を呈した2万1,934例で、ダビガトラン(用量150mgのみ)またはワルファリン治療をルーチンケアの一部として受けた。
主要評価項目は、血栓塞栓症または重大出血の年間予測発生率で、無作為化試験からの推定値に基づくもの、ルーチンケア患者群で開発したモデルに基づくもの、およびベースラインリスクスコア(CHADS2、CHA2DS2-VASc、HAS-BLED)に基づくものとした。血栓塞栓症は、虚血性または脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)、肺塞栓症、深部静脈血栓症、全身性塞栓症などの複合アウトカムで評価した。重大出血は、入院中の脳出血発生コード、泌尿器等の重大出血とした。
無作為化試験データでは重大出血を過小評価か
ダビガトラン新規導入患者は6,516例(30%)、ワルファリン新規導入患者は1万5,418例(70%)であった。年間イベント発生率は、100患者当たり血栓塞栓症が1.7例、重大出血は4.6例であった。血栓塞栓症について、無作為化試験からの推定値の検定結果は、予測ベースモデルの検定結果と類似していた。しかし、重大出血については、試験からの推定値は、ルーチンケア患者における出血発生率を一環して過小に見積もることを示すものであった。出血率についての過小評価は、とくにHAS-BLEDスコア高値でワルファリンを導入した場合に認められた。この場合、過小評価は、最大100人年当たり4.0件まで認められた。
Harrell's c指数で評価した、ダビガトランおよびワルファリン導入による血栓塞栓症または重大出血に関する識別能は、無作為化試験をベースにした予測では0.59、0.66、交差確認されたモデルベースの予測では0.52、0.70であった。
原著論文はこちら
Wang SV, et al. BMJ. 2016;353:i2607.
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岐阜市民病院第一内科部長
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東海大学医学部内科学系循環器内科学 教授
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