胎児が母体に残す細胞が母親の将来の妊娠を支える可能性

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/10/13

 

 妊娠中の母親の体内では、母体と胎児との間で細胞が交換され、双方の組織に互いの細胞がわずかに定着することが、近年の研究で示されている。この現象は、マイクロキメリズムと呼ばれる。マイクロキメリズムは、妊娠中の母親の免疫系が、本質的には異物である胎児を攻撃しないように調節する一因と見なされているが、その全体像はいまだ明らかになっていない。こうした中、米シンシナティ小児病院医療センターのSing Sing Way氏らによるマウスを用いた研究で、この現象が考えられている以上に長期にわたって影響を及ぼし、母体の次の妊娠の成功に寄与する可能性が示唆された。この研究の詳細は、「Science」に9月21日掲載された。

 今回の結果は、実験用マウスを用いて得られたものであるが、Way氏は、「マウスで観察された母子間のマイクロキメリズムがヒトでも見られることを示した研究報告はある」と説明し、今回の結果がヒトにも該当する可能性があることを強調する。同氏はまた、「『母体が胎児を拒絶しないようにするにはどうすればよいのか』という生殖にまつわる課題を抱えているのは、マウスに限らずどの種も同じだ」と話す。

 今回の研究では、二つの興味深い現象を結び付ける結果が得られた。一つは、少数の胎児の細胞が子宮を離れて母体のさまざまな組織に定着するマイクロキメリズムである(同様に、母親の細胞も胎児の中に移動して定着する)。しかし、そのようにして母体の組織に定着した胎児の細胞が、その後、どのような働きをするのかは完全には解明されていない。

 もう一つの現象は、Way氏らが2012年に「Nature」に報告したもので、正常な妊娠を経験した後の母親の体内には、同じ両親による次の胎児を認識し、免疫系の反応を抑える役割を果たす保護的な(protective)T細胞が、その後何年にもわたって供給され続けることが示された。ただ、そのメカニズムは不明だった。例えば、感染症において免疫系がその力を発揮するには、メモリーT細胞が病原体に低レベルでさらされる必要のあることが多い。

 それらに対する答えを示したのが、今回の研究だ。Way氏の説明によると、最初の妊娠で母親マウスの体内に移行したマウス胎児の細胞が、少数ながらも妊娠後の母体の心臓、肝臓、腸、子宮やその他の組織に定着し、それらが将来の同胞のために「友好的な」免疫環境を維持する役割を果たしていることが示されたという。同氏は、「きょうだい愛のように思うかもしれないが、見方によっては、自分の遺伝子を増殖させようとする、やや利己的だが自然な衝動でもある」と語る。

 さらにこの研究では、新たに妊娠した母親マウスでは、母体に残っていた年長のきょうだいマウスの細胞が新たな胎児マウスの細胞に完全に置き換わってしまうものの、それぞれの妊娠から得られた有益なT細胞はわずかに残存し続け、次の妊娠時に活性化されることも示された。

 Way氏は、「前回の妊娠が将来の妊娠アウトカムにどのように影響するのか、言い換えれば、母体が自分の子どもをどのように記憶しているのかを調べることにより、われわれの研究結果は妊娠の仕組みの理解に新たな広がりをもたらした」と話す。そして、「得られた知見は、人間の妊娠合併症に見られるパターンと一致する。合併症は初回の妊娠では起こりやすいが、正常妊娠を経験した人では次の妊娠で合併症が生じるリスクが低下する。これとは対照的に、妊娠高血圧腎症、早産、死産などの合併症に見舞われた人では、次の妊娠での合併症の発症リスクが平均より高くなる」と話す。

 Way氏はさらに、この研究により、「もし母親の免疫系が健康な妊娠を"記憶"しているとすれば、合併症を起こすような妊娠の記憶も保持しているのだろうか」という重要な疑問が提起されたとの見方を示す。そして、「もしこの疑問が解明されれば、妊娠合併症の再発を予防する方法につながる可能性がある」と話している。

[2023年9月21日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら