うつ病の既往歴がある人はネガティブ情報にとらわれがち

寛解しても再発することが多い大うつ病性障害(以下、うつ病)の既往歴を持つ人では、うつ病の既往歴のない人に比べて、ネガティブな情報を処理する時間が長い一方で、ポジティブな情報を処理する時間が短い傾向があり、それがうつ病の再発リスクにつながっている可能性のあることが示唆された。米メリーランド大学ボルチモアカウンティ校心理学分野のLira Yoon氏らによるこの研究結果は、「Journal of Psychopathology and Clinical Science」に8月21日掲載された。
Yoon氏は、「われわれは、うつ病患者がネガティブな情報をどう処理するかだけでなく、ポジティブな情報をどう処理するかも検討すべきではないかということに気が付いた。ネガティブな感情や気分の落ち込みの持続との関わりにおいては、もしかするとポジティブな情報の方が重要なのかもしれない」と述べている。
今回の研究でYoon氏らは、44件の研究を対象にメタアナリシスを実施し、うつ病の既往歴のある人がネガティブ情報とポジティブ情報の処理にどれだけの時間を費やすのかを、健常者との比較で検討した。これらの研究では、例えば、幸福や悲嘆、または無感情の表情を浮かべた人の顔や、ポジティブ、ネガティブ、または中立的な単語を刺激として参加者に提示し、それに対する応答時間が調査されていた。解析対象者の総計は、うつ病の既往歴のある2,081人と、既往歴のない健常者2,285人であった。
その結果、健常者はうつ病の既往歴がある人よりも、提示された刺激に対して、その内容がポジティブかネガティブか、あるいは中立的かに関わらず、より迅速に反応する傾向のあることが明らかになった。これに対して、うつ病の既往歴がある人は健常者に比べて、ポジティブな刺激よりもネガティブな刺激の処理に費やす時間の方が長いことが確認された。さらに、両群間で、ネガティブな刺激と中立的な刺激、およびポジティブな刺激と中立的な刺激の処理に費やされる時間に有意な差は認められなかった。
Yoon氏は、「ストレスになることが生じ、それに動揺するのは人間の自然な反応だ。しかし、何か作業をしている間はその問題を脇に置いてその作業に集中できる人がいる一方で、その問題が気に掛かって作業に集中できなくなる人もいる。われわれの研究が示しているのは、うつ病の既往歴がある人は、たとえうつ病が寛解していても、現在取り組んでいることとは無関係なネガティブ情報から距離を置くことが、無関係なポジティブ情報から距離を置くよりも困難だということだ」と述べる。そして、「うつ病の既往がある人では、そのようなネガティブ思考に支配されて、今やるべきことができなくなっている可能性がある。その状態がさらにネガティブな感情を増幅させ、再びストレスのかかるような出来事が生じると、うつ病を再発させてしまうのかもしれない」との見方を示す。
うつ病とは、2週間以上続く抑うつと日常生活における興味や喜びの喪失と定義される。米国国立精神衛生研究所によると、2021年には、米国人口の約8%に当たる約2100万人の成人が、この定義を満たすうつ病を1回以上発症したという。
では、うつ病の再発はどうすれば防げるのだろうか。うつ病の最も効果的な治療法は、認知行動療法(CBT)に代表される心理療法と薬物療法である。米ノースウェル・ヘルスの精神科医であるGeorge Alvarado氏によると、主なCBTの一つは、認知再構成法だという。これは、否定的な思考パターンや信念を特定し、それをより健全で現実的なものに変容させることを目指すものだ。同氏はさらに、抑うつの改善には、仕事、人間関係、ライフスタイルを変えることも有益だと話し、質の良い睡眠、運動、健康的な食事の重要性を強調している。
Yoon氏は、「CBTのような既存の治療法に加えて、うつ病の既往歴のある人が、無関係な情報から距離を置くのを助けるトレーニングプログラムを開発することも可能かもしれない」と話す。同氏は、「人によって反応する治療アプローチは異なるため、ツールの選択肢が増えるのは良いことだ」と述べる。そして、「まだ道半ばだが、CBTやマインドフルネスのような既存のツールは、無関係な情報、特にネガティブな情報を自分の中で切り離すのに役立つ可能性がある」との考えを示している。
[2023年8月23日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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