意識不明の脳損傷患者、EEGとMRIで「隠れた意識」が明らかに?

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/09/14

 

 意識不明のように見える急性脳損傷患者の中には、言葉による指示に反応して脳の活動が検知できる一方で、実際に行動を起こす兆候は認められない状態の患者が存在する。この状態は、「認知と運動の解離(cognitive motor dissociation;CMD)」と呼ばれ、機能的な回復との関連が示唆されているが、その詳細は明らかになっていない。こうした中、米コロンビア大学神経学教授のJan Claassen氏らによる研究で、MRI検査と脳波検査(EEG)のデータ解析により、CMD患者と非CMD患者での脳の構造や機能の違いが明らかにされた。米国立衛生研究所(NIH)とダナ財団から助成金を受けて実施されたこの研究は、「Brain」に8月14日掲載された。

 CMDは、頭部外傷、脳出血、心停止により脳に損傷を受けた患者の約15〜25%に生じる。過去の研究でClaassen氏らは、EEGで検出可能な微弱な脳波が、無反応の脳損傷患者の「隠れた意識」と最終的な回復を強く予測することを明らかにしていた。しかし、脳の中で具体的にどの経路が障害を受けてCMDに至るのかについては明らかになっていない。

 この点を明らかにするために、Claassen氏らは、脳損傷により意識不明に陥った患者107人を対象に、CMDについて検討した。まず、「手を開いたり結んだりし続けてください」などの指示を患者に出し、その指示に対する患者の脳の活動(脳波)を測定した。このようなEEGにより、21人の患者がCMD状態にあることを突き止めた。次に、MRI検査により全患者の脳の構造的な変化を分析し、CMD患者と非CMD患者(86人)の病変パターンの特定を試みた。

 その結果、非CMD患者では、脳幹の覚醒に関わる経路、特に中脳に損傷が認められたのに対し、CMD患者では、この経路が損傷を受けていないことが明らかになった。また、非CMD患者の中には、言葉の理解に関与する左視床と呼ばれる部位に損傷のある患者が見つかり、これが言葉の理解を困難にしていることが示唆された。こうした結果から、CMD患者は、口頭の指示を聞いてその内容を理解することはできても、指示通りに体を動かすことはできない可能性がうかがわれた。

 研究論文の共著者である同大学のQi Shen氏は、「われわれが開発したバイクラスタリング解析と呼ばれる手法を用いて、CMD患者に共通して認められる、非CMD患者とは対照的な脳損傷のパターンを特定することができた」と述べている。研究グループは、「この研究で得られた結果は、隠れた意識のある脳損傷患者を医師がより迅速に特定し、どの患者がリハビリテーションによって回復する可能性が高いのかをより的確に予測するのに役立つだろう」との見方を同大学のリリースで示している。

 ただし、このアプローチを実臨床で用いるには、さらなる研究が必要である。それでもClaassen氏は、「われわれの研究は、広く利用可能なMRIにより脳の構造を調べることで、隠れた意識の検出が可能であることを示している。このことは、CMDの検出を臨床現場での使用に一歩近付ける」と述べている。同氏はさらに、「EEGを用いて隠れた意識を検出するためのリソースや訓練されたスタッフが、クリティカルケアユニットであればどこにでも備わっているというわけではない。そのため、より一般的に使われているMRIが、さらなるスクリーニングや診断が必要な患者を特定するための有用な手段となる可能性がある」と付け加えている。

[2023年8月16日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら