アストラゼネカは5月13日、「胃がん疾患啓発セミナー」を開催した。セミナーでは木下 敬弘氏( 国立がん研究センター東病院 胃外科科長)が「胃がん治療の現在地と今後の課題」と題した講演を行った。
――日本における胃がんの疫学では、がん種別にみた罹患数では全体3位、死亡数では4位を占め、依然として主要ながん種である。世界的にも東アジアで発生頻度が高く、日本、中国、韓国が罹患の多い地域に含まれる。近年の治療の発達に伴い、胃がんの5年相対生存率は約65~67%まで伸びており、「不治の病」ではなくなりつつある。しかし、StageIVの5年相対生存率は6.6%にとどまり、早期発見・早期治療の重要性が裏付けられている。
胃がんの大きなリスク要因がヘリコバクター・ピロリ菌感染だが、ここ10年ほどでピロリ菌感染検査、除菌治療が普及し、感染率は急速に低下している。一方、除菌後も胃がんリスクは残り、定期的な内視鏡フォローが必要であることはさらに周知すべきだろう。また、ピロリ菌感染は胃酸分泌低下を引き起こす場合があるが、感染率低下に伴い、胃酸過多となり胃食道逆流症(GERD)を発症するケースがある。GERDがリスク因子の1つとされる食道胃接合部がんの罹患数も増加しており、こうした除菌普及に伴う新たな問題に対応することも必要だ。
日本の胃がん治療は、これまでD2郭清を伴う高精度手術と、術後補助化学療法を組み合わせた治療戦略が中心だった。切除できたように見えても、再発リスクを下げるためには薬物療法を組み合わせる必要があり、術後化学療法は目に見えない微小残存病変を制御するために役立つ。
一方で、画像上切除可能であっても、診断時点ですでに微小転移を伴っている症例も少なくない。とくにスキルス胃がんや高度リンパ節転移症例など、再発高リスク群では手術先行のみでは限界があるケースも多い。こうした場合は、術前に化学療法を行い、腫瘍縮小後に手術を行う術前化学療法が欧米を中心に発展してきた。術前化学療法は、腫瘍縮小によるR0切除率向上、微小転移の早期制御、さらには機能温存の可能性向上などが利点だ。さらに症例によっては術後にも化学療法を行い、周術期全体で再発を抑え込む方向へと、治療戦略は進化を続けている。
さらに、切除不能のStageIV症例に対しても、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の進歩によって、薬物療法後にコンバージョン手術へ到達する症例が増加している。一方で、実際に切除まで到達できるのは10~20%程度であり、依然として進行胃がん克服には課題が残る。ここでは新たな薬剤や治療戦略の開発に期待したい。
私が専門とする外科領域では、低侵襲化と機能温存の流れが加速している。国内では腹腔鏡手術やロボット支援手術が急速に普及し、精緻な郭清や再建が可能となり、機能温存との両立が進んでいる。ロボット手術にAI機能を搭載する技術も急速に発達し、手術ガイドなどが実臨床で使われるようになっている。日本の外科手術の手技レベルは非常に高く、日本人外科医の手術手技をAIに学習させ、術中ナビゲーションとして活用する研究も進んでいる。ただし、手術の低侵襲化が進んでも、胃全摘後には15~20%程度の体重減少がみられ、ダンピング症状や逆流症状など術後QOLへの影響は依然として大きい。根治性を担保しながらいかに術後生活を維持するかが重要となる。この方面では、私の施設では胃切除後の患者向けのメニューを開発して施設内レストランで提供するなど、多職種が協力してサポートにあたっている。
ほかのがんで進むゲノム検査やバイオマーカーを使った個別化医療は、胃がんにおいてもすでに日常診療になっており、今後は予防、早期発見とあわせ、患者ごとの腫瘍特性に応じた治療法、術式選択、薬剤選択がますます重要になってくる。
(ケアネット 杉崎 真名)