双極症は、躁状態とうつ状態のエピソードを繰り返すことを特徴とする重篤な精神疾患である。双極症の重要な側面の1つが「フェーズ・スイッチング」である。これは、気分状態が急速に切り替わる現象だが、その神経生物学的な機序についてはいまだ十分に解明されていない。近年、神経画像技術、とくに拡散テンソル画像(DTI)やトラクトグラフィの進歩により、気分の変動に伴う白質の構造的変化に関する知見が得られるようになった。イタリア・ミラノ大学のGiuseppe Delvecchio氏らは、躁およびうつ状態の患者およびフェーズ・スイッチングの過程にある双極症患者を対象に、白質の変化を調査する統合的な拡散神経画像研究を実施した。Bipolar Disorders誌2026年8月号の報告。
双極症I型患者32例(躁状態14例、うつ状態18例)および健康対照者20例を対象に、DTI解析を含むMRI撮影を行った。白質の完全性(integrity)については、Tract-Based Spatial Statistics(TBSS)およびトラクトグラフィを用いて評価し、拡散異方性の差異を検討した。
主な結果は以下のとおり。
・躁状態の双極症患者は、健康対照者およびうつ状態の双極症患者と比較し、脳梁、内包前脚、視床投射線維において有意な拡散異方性の低下が認められた。
・トラクトグラフィ解析では、前頭葉・辺縁系経路および後頭葉・頭頂葉経路において局所的な拡散異方性の変化が認められ、構造的結合性の障害が示唆された。
・フェーズ・スイッチングは、右上縦束III(SLF III)における拡散異方性の低下と関連しており、同部位が気分不安定性の神経バイオマーカーとなりうる可能性が示唆された。
著者らは「双極症、とくに躁状態において広範な白質異常が存在しており、フェーズ・スイッチングに関連する神経生物学的な特徴が示唆された。このような変化を理解することは、双極症の早期発見、ターゲットを絞った介入、個別化された治療アプローチの向上に寄与する可能性がある」としている。
(鷹野 敦夫)