薬剤耐性菌は世界的に深刻な脅威となっている。対策の1つとして注目されているのが、細菌に感染して溶菌させるウイルス(バクテリオファージ、以下ファージ)だ。国立健康危機管理研究機構(JIHS)/国立感染症研究所の千原 康太郎氏、氣駕 恒太朗氏らは、ファージが細菌の防御システムを回避して原因菌を破壊する仕組みを明らかにした。その詳細をJIHS開催の記者ブリーフィングで紹介している。
薬剤耐性菌対策に期待されるファージ療法
薬剤耐性菌による感染症は全世界で急速に増加している。2025~50年における薬剤耐性菌を直接原因とする累積死者数は3,900万人以上、関連死者数は1億6,900万人以上に上ると推定される
1)。
ファージは細菌に対して高い特異性を持って感染し、内部で増殖することで溶菌する。ファージ療法の研究は抗菌薬以外の新たな治療として進んでいる。欧州の多施設後ろ向き観察研究では、標準治療抵抗性の感染症100例に対して、臨床的改善77%、除菌率61%という成績が報告されている
2)。
一方で、細菌は多様な防御システムでファージの感染を強力に阻止する。ファージはピンポイントで細菌を狙う。そのため、有効なファージを選ぶには、さまざまな原因菌の防御機構をファージがどのように突破するかを分子レベルで理解することが不可欠である。
細菌の防御システムを乗り越えるファージの機能
同研究チームは大腸菌T6ファージに注目し、細菌の防御機能の回避メカニズムを調査した。実験ではファージの防御システムであるSeptuを有する大腸菌に感染できるT6ファージの株を分離してゲノムを解析している
※。
※Septuが存在しているため通常ファージは感染できないが、その中から感染したファージを抽出して解析。
SeptuはチロシンtRNA(tRNA-Tyr)を切断してファージの増殖を妨げる。解析の結果、Septuを回避するT6ファージはtRNA-Tyrを含む遺伝子領域が増幅していることが明らかになった。言い換えれば、防御機能で減少したtRNA-Tyrを補うことで、ファージ感染を成立させていることになる。
ファージが細菌の防御機能を突破するためには、DNA切断酵素SegBが重要であることも明らかになった。SegBは前出のSeptu以外の防御システム(OLD、ToxIN)に対しても、それぞれに対応した関連遺伝子領域を増幅させる。すなわち、SegBはそれぞれの防御システムに対応し、乗り越えているのだ。
防御システムの回避機構が明らかになったことで、細菌とファージのマッチングが実現しやすくなっていくであろう。この研究は「抗菌薬の使用削減、薬剤耐性菌の克服につながる成果」と氣駕氏は結んだ。
この研究結果はNature Communications誌2026年4月20日号(オンライン版)に掲載されている。
(ケアネット 細田 雅之)