男性の勃起障害(ED)の患者は、約1,130万例と推定されていたが、近年の調査ではそれ以上の患者数と推定されている。また、若者の草食化が昨今言われているなかで「性欲低下」や「射精障害」を訴える人が多いことも、さまざまな調査でわかってきた。そこで、2018年に上梓された『ED診療ガイドライン 第3版』を拡大し、今回『男性性機能障害診療ガイドライン 2025年版』が発刊された。
本稿では、ガイドラインの作成委員長である辻村 晃氏(順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科 教授)にガイドライン作成の経緯や内容、ガイドラインの活用などについて聞いた。
早漏へのドラッグ・ラグ問題を提起
--今ガイドラインの領域拡大の狙いについて
男性の泌尿器科診療における性機能領域ではEDを主訴とする患者が圧倒的に多かった。そこで、2008年に『ED診療ガイドライン』が発刊され、2012、18年と第3版まで改訂された。そして、第4版を制作するかどうかという議論のなかで、2024年に『男性不妊症診療ガイドライン』(日本泌尿器科学会編、日本生殖医学会後援)が発刊され、少子化が進む現在、男性不妊症の原因として極めて増加している性機能障害の注目度が高まっていた。その一方で、日本性機能学会は、臨床研究促進委員会がシルデナフィル(商品名:バイアグラ)が発売された1998年から25年経った2023年、男性性機能障害の現状を明確にするため、6,000人超に全国調査を実施した。調査の結果、「性欲低下」や「射精の問題」で悩んでいる方や治療を希望する方がかなり多いことが判明した。こうした経緯から第4版とはせずに、さらに疾患領域を広く「男性性機能障害」と捉えて、今回のガイドラインを制作した。
--ガイドラインの読み方:CQ、BQ、FQの使い分け
男性の性機能障害に関する研究論文やエビデンスは、他の疾患領域と比較して少ないものの、そのなかからエビデンスの比較的多い内容をクリニカルクエスション(CQ)、一般的な知識として共有しておくべき内容をバックグラウンドクエスション(BQ)とし、ここまでは教科書的な内容とした。そして、現時点では標準的ではなく、推奨を議論する段階ではないものの、最新情報として理解しておくべき内容をフューチャークエスション(FQ)として解説している。また、臨床的な知見のCQでは、エビデンスレベルと推奨グレードを入れているが、BQとFQは解説にとどめている。とくにFQは、今はまだわが国では臨床で応用するようなレベルではないが、たとえば海外で発表されたことや近い将来起こり得ることを特徴としている。そのほか、目次には推奨グレードとエビデンスレベルを記載することで、一目でわかるように表記も工夫している。
--新項目(射精障害、性欲低下など)の具体的な内容について
「射精障害」について触れると、射精障害が世界的に非常に問題となっている。それは、「早漏か遅漏か」ということになる。「早漏」に関しては、世界的に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や三環系抗うつ薬の薬物治療が全世界でなされている一方で、それらの薬剤はわが国では保険適用になっていないため、早漏への薬物治療の選択肢がわれわれにはないのが現状。先述した臨床研究促進委員会の2023年のアンケート調査で「早漏が気になるか」「早漏の治療が気になる」「早漏に対する治療意欲があるか」などを聞いたが、早漏に対する治療意欲がかなり高い結果だった。回答者の約25%が早漏を自覚し、そのうち半分以上が治療を希望していた。ただ、そうした状況にもかかわらず治療選択肢がないのが今日のわが国の現状であり、本ガイドラインで示唆するとともに、今後さまざまなジャーナルなどでこの問題を提起していく。
「性欲低下」については、先に紹介した『男性不妊症診療ガイドライン』を制作したときの調べで、1997年に性機能障害が原因で不妊になっている方が約3%いた。その後、2015年の調査では4倍以上に急増し、約13%であった。同じく若年男性で「性機能障害のために子供ができない」と訴える方が、この20年ぐらいで増えた。その1つの原因にEDもあるが、配偶者や恋人などに対する性的な欲求をまったく感じないとか、性欲が低下しているというようなことも明確になってきた。こうした性欲低下の最大の原因としては、ウェブ社会における性的な動画の過剰な接触であり、動画や仮想現実のなかで十分になってしまっていることがある。これは将来のさらなる少子化の原因ともなり得ることであり、治療をしなければいけないということで今回追加を行った。
--非専門医の活用法や今後の展望について
非専門の医師には、BQのところをとにかく最初に読んでいただき、性機能障害の基礎知識を付けてもらいたい。そのうえで、目の前の患者にどう診療していくのかは、CQを読んで対応していただきたい。
次回のガイドライン改訂は、5年後ぐらいをめどと考えている。その一方で、わが国は性機能分野の研究が諸外国と比較し、だいぶ遅れている。世界では、普通に行われている治療内容がわが国では保険適用になっていないなどのドラッグ・ラグがある。同様にMinds診療ガイドラインに準拠した作成を行いたいが、エビデンスレベル、エビデンスを持ったジャーナルなどが非常に少なく、今回は近い形で制作を行った。これからの5年で新しい治療薬、治療法の登場も期待されるので、5年後をめどに学会などでよく検討し、改訂することになる。
【目次】
第I章 性欲低下
第II章 ED
第III章 射精障害
第IV章 ペロニー病
第V章 持続勃起症
索引
【CQなどの項目総数】
CQ:24項目
BQ:19項目
FQ:9項目
(ケアネット 稲川 進)